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-障害認定基準に含まれない心身機能の障害-

調査研究報告書 No.172
難病患者の就労困難性に関する調査研究

執筆者(執筆順)

執筆者 執筆箇所
春名 由一郎 (障害者職業総合センター 副統括研究員) 第1章、第2章
大竹 祐貴 (障害者職業総合センター 上席研究員) 第3章、巻末資料9
岩佐 美樹 (障害者職業総合センター 上席研究員) 第3章
野口 洋平 (障害者職業総合センター 主任研究員) 第4章、巻末資料9
中井 亜弓 (障害者職業総合センター 研究協力員) 巻末資料8

研究の目的

本調査研究では、難病患者の就労困難性について、基本的な障害概念の整理を踏まえ、固定した後遺症としての障害とは異なる、医療の進歩により生じた新たな障害、すなわち慢性疾患による生活上の困難としての障害として位置付けることにより、難病患者が実際に経験している就労困難性の原因となる障害認定基準に含まれない「その他の心身機能の障害」等や、企業・職場の理解・配慮や支援機関の支援の現状と課題について、難病患者、企業、支援機関、それぞれの視点からの調査により、総合的に明らかにすることを目的としました。

活用のポイントと知見

  • 本調査研究では、難病患者調査、事業所調査、支援機関調査を実施することにより、障害認定の対象にはなっていない難病の症状の崩れやすさや病状の進行のおそれ等が就労困難性の原因であることを明らかにし、治療と両立しながら各人の能力を発揮して活躍できる仕事に就き、職場の理解と配慮を得て働き続けるための職場や地域の専門支援の課題やニーズについて、明らかにしました。
  • 企業や支援機関において、難病患者の就労困難性と就労支援ニーズの理解にご活用いただけます。
本調査研究での、難病患者の就労困難性についての総合的な捉え方(研究仮説と研究方法)

難病患者の就労困難性(就職や就業継続の困難性)を国際生活機能分類(ICF)の枠組みで捉え、企業・職場の取組可能性や地域支援の実施可能性を含めた総合的な実態調査を踏まえた研究委員会での関係者の情報交換により、今後実行可能な難病患者の就労困難性の的確な把握と企業・職場と地域支援のあり方の検討を行った。

障害認定基準に含まれない「その他の心身機能の障害」等による難病患者の就労困難性

難病患者の「その他の心身機能の障害」等は、患者に対するアンケート調査の回答者の半数以上で社会生活での支障があり、障害者手帳を申請していない者でも、44%で社会生活にかなりの支障がでる程度の何らかの「その他の心身機能の障害」等があり、やや支障が出る程度以上の支障が76%で見られ、多様な就業局面における就労困難性と以下のような関係が認められた。

表 障害認定基準に含まれない「その他の心身機能の障害」等による難病患者の就労困難性	
「その他の心身機能の障害」等,就労困難状況の具体例
病状が進行するおそれ,病状の不確実性による将来不安があり、体調の不安定さ等の病状の悪化に伴い職務遂行や仕事の予定を組むことが困難になり、有給休暇が不足する状況の中で、治療をしながらの仕事の将来展望の悩みや社会的疎外感が高まる。
少しの無理で体調が崩れること,体調の崩れやすさは理解されにくく、支障が増すとフルタイム勤務や残業を負担と感じ、業務調整の困難や突発休の増加で離職のリスクが増加する。
全身的な疲れや体調変動,外見から分かりにくい倦怠感等があり、支障が増すと仕事に集中できる時間の制約、頻繁な通院や欠勤、職場の理解不足により、安定した就業が困難になる。
活力や集中力の低下,やる気がないと誤解されやすく職場の人間関係のストレスが高まり、支障の程度が増すとフルタイムの勤務や業務遂行の困難が増し、社会的疎外感が高まる。
身体の痛み,全身の関節痛や頭痛等による支障が増すと日常生活や仕事が困難になり、仕事やストレス等による悪化もあるが、病状の説明や理解を得るのが難しい。
免疫機能の低下,外出に支障が出ることや医療職での業務制限があり、支障が増すと風邪や感染症にかかりやすくなり、仕事の制限や欠勤が多くなり、仕事の継続が困難となる。
精神や心理面の症状(二次障害を含む),発達障害等が職務遂行能力や職場でのコミュニケーションに関係するだけでなく、職場のストレスや就職の困難等が精神面の悪化につながる。
定期的な通院の必要性,支障が増すと体調管理等のための就業制約や心理的負担が増加する。
服薬や治療の必要性,薬の副作用や体調変動、薬の調整の必要性等があるが、周囲には理解されにくく、支障が増すと就業の選択肢が制限され、就業継続が難しくなる。
運動協調障害や歩行機能障害,職務遂行等に影響し、重度では歩行や座位維持が困難となる。
皮膚の障害や容貌の変化,対人関係や顧客対応での周囲の差別的態度や無理解が問題となる。
医師による就業制限,症状に応じて就業制限が行われ、最重度では就労不可とされる。

難病患者、支援機関、事業所が適切・必要と考える難病就労支援の内容

難病患者への就労支援として、難病患者、支援機関、事業所が適切・必要と考える内容としては、治療と両立して活躍できる仕事の確保や働きやすい職場の理解と配慮、病状や障害の進行時の就業継続支援、専門的就労支援サービスの充実等が共通して多かった。他方で、企業の経済的負担の補償や雇用率制度等については、患者、支援機関、事業所の考えが異なっていた。

当該支援を難病患者の就労支援として適切・必要と考える回答者の割合を示しています。
図 難病患者、支援機関、事業所が考える難病就労支援として適切・必要な支援内容
(患者、支援機関、事業所の平均で多い順)

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