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-長期縦断調査によるキャリア形成の実際-

調査研究報告書 No.170
障害のある労働者の職業サイクルに関する調査研究(第7期) -第7回職業生活前期調査(令和2年度)・第7回職業生活後期調査(令和3年度)-

  • 発行年月

    2023年03月

  • キーワード

    パネル調査 長期縦断調査 キャリア形成 職業サイクル 労働条件 満足度 身体障害 知的障害 精神障害 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 合理的配慮 就労率

  • 職業リハビリテーション活動による課題領域の体系図・ICFによる課題領域の体系図 該当項目

    就労の「質」の把握

    キャリア形成に関する状況等の把握

執筆者(執筆順)

執筆者 執筆箇所
大石 甲 (障害者職業総合センター 研究員) 概要、第1章、第2章、第3章、第5章
野口 洋平 (障害者職業総合センター 主任研究員) 第4章
田川 史朗 (障害者職業総合センター 研究協力員) 調査結果の集計

研究の目的

本調査研究は、障害のある労働者の職業サイクルの現状と課題を把握し、企業における雇用管理の改善や障害者の円滑な就業の実現に関する今後の施策展開のための基礎資料を得ることを目的にしています。本報告書では第1期から第8期まで16年継続調査する研究活動のうち、第7期の結果を報告しています。

活用のポイントと知見

本報告書は、長期縦断調査の中間報告としての集計結果及び現時点で検討された分析結果になります。行政機関をはじめとして、当事者団体、事業主団体及び事業主、就労支援機関等においてご活用いただけます。

本調査研究では、第1期から第8期までの結果を取りまとめる際の参考として試行分析を実施しています。例えば、就労状況の変化を可視化するため、出生コホート別に就労状況の変化を集計しました。その結果、全体としては1960年代生(第7期に51歳から61歳)及びそれより若いコホートでは高い就労率を維持していましたが、1950年代生では第5期(57歳から67歳)以降に就労率が低下していました。また、障害種類別にみると違いがあることが分かりました。

1950年代から1980年代まで10年区分の出生コホート別に、第1期から第7期までの就労割合を示したグラフ。全障害計、視覚障害、聴覚障害、肢体不自由、内部障害、知的障害、精神障害についてそれぞれ掲載している。内容は「活用のポイントと知見」に掲載したとおり。
図 出生コホート別の就労状況

障害のある労働者の職業サイクルに関する調査研究における第7期のポイント

本調査研究は、16年にわたり、同一の調査対象者に対して、職業面や生活面の状況や意識等を定期的にアンケート調査する長期縦断調査です。

本調査研究報告書には、調査を開始して、13年目、14年目となる第7期の調査結果を中心に、以前の結果を加えて、障害種類別に約90項目を集計した図表を掲載しています。上記の知見に加えて、以下に調査結果を一部抜粋して紹介します。

1 基本情報

第7期は、視覚障害103人、聴覚障害208人、肢体不自由225人、内部障害107人、知的障害263人、精神障害103人、計1,009人を対象に調査をしました。このうち回収数は577人、回収率は57%でした。

回答者のうち正社員、パート等、派遣、自営、内職、就労継続支援A型事業所で働く者の割合を就労率とすると、障害種類により違いはありますが、就労率はどの障害種類でも70%以上でした。

就労形態等は、障害種類別にみると違いがありました。正社員比率は、第7期において身体障害で5割前後であるのに対して、知的障害と精神障害では17%でした。なお、第1期、第4期、第7期の正社員比率の推移を見ると、精神障害を除いてどの障害種類でも低下していました。精神障害では、第7期は第4期よりは上昇しているものの、第1期と比べると正社員比率は低下していました。就労継続支援A型は知的障害で最も多くなっていましたが他の障害種類でも少数ではあるものの確認できました。自営については第7期では視覚障害で21%と顕著でした。また、現在仕事をしていないと回答した者は、第7期では肢体不自由25%、精神障害16%で多くなっていました。

2 職場で支障となっていることの確認や話合いの機会

雇用分野における障害者に対する差別禁止と合理的配慮の提供に当たり、最初の取組である「職場で支障となっていることの確認や話合いの機会」については、合理的配慮の提供が義務化された第5期から追加した項目です。合理的配慮の取組の第1歩である話合いの機会があった(「今までと同じように確認や話合いの機会があった」と「新たに確認や話合いの機会があった」)者の割合は、回答者全体でみると、障害種類にかかわらず第5期から第7期まで増えており、第5期から第7期まですべて回答した者においても話合いの機会は増えていました。

第5期から第7期まですべて回答した就労者の、職場で支障となっていることの確認や話合いの機会について、障害種類別(視覚障害、聴覚障害、肢体不自由、内部障害、知的障害、精神障害、全障害計)に第5期、第6期、第7期の結果を集計した棒グラフ。掲載項目は、「今までと同じように確認や話合いの機会があった」「新たに確認や話合いの機会があった」「確認や話合いの機会はまだない」「よくわからない」「無回答」の5項目。結果の概要は本文に掲載のとおり。
図 第5期から第7期まですべて回答した者の、
職場で支障となっていることの確認や話合いの機会

3 試行分析から見えてきたこと

今調査期では、第1期から第7期までのデータを用いた試行的な通貫分析を実施し、今後、職業サイクル調査全体(第1期から第8期)のパネルデータを分析する際の参考に資することにしました。

試行分析では、「調査研究委員会における検討」及び「専門家ヒアリングによる論点整理」を基に整理した4つの分析の視点(注)に基づき、その視点の内容を踏まえた分析テーマを4つ設定して、パネルデータの特性を活かした集計及びグラフ化を実施しました。そのうち、視点①に基づく試行分析結果については、前述の「活用のポイントと知見」のとおり本パネルデータの特徴を踏まえて集計方法を工夫することで、調査対象者の変化の状況を示すことができました。

一方、4つの試行分析では、多数の調査期にすべて回答した同一対象者の変化を比較しようとしたり、多数の要因をひとつの集計表で取り上げようとすると、条件ごとの集計対象者数が減少して集計そのものが意味を成さない場合があることも確認されました。対象者の変化に着目するのか、全体の傾向に着目するのか、その目的を踏まえて集計方法を検討し選択する必要があると考えられました。

今調査期では4つの分析の視点のうちから、蓄積されたデータにより可視化できるテーマを4つ選定することで、一定の集計結果を示すことができましたが、今調査期で扱った分析テーマは障害者の職業生活のごく一部に過ぎません。本調査研究により取得している調査項目は限られている中で、本調査研究のデータにより分析の視点をどのように実証していけるかを踏まえ、引き続き幅広く分析テーマを検討していく必要があります。

(注)① 障害のある人の職業サイクルについて、調査対象の全体として共有できるものを分析する
② 環境要因が持つ意味を整理する
③ 生活全体の中の職業生活という視点で整理する
④ キャリア形成について考察する

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