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-長期縦断調査によるキャリア形成の実際-

調査研究報告書 No.160
障害のある労働者の職業サイクルに関する調査研究(第6期)-第6回職業生活前期調査(平成30年度)・第6回職業生活後期調査(令和元年度)-

  • 発行年月

    2021年03月

  • キーワード

    パネル調査 長期縦断調査 キャリア形成 職業サイクル 労働条件 満足度 身体障害者 知的障害者 精神障害者 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 合理的配慮

  • 職業リハビリテーション活動による課題領域の体系図・ICFによる課題領域の体系図 該当項目

    就労の「質」の把握

    キャリア形成に関する状況等の把握

執筆者(執筆順)

執筆者 執筆箇所
高瀬 健一 (障害者職業総合センター 主任研究員) 概要、序文、第1章~第4章
大石 甲 (障害者職業総合センター 研究員) 概要、序文、第1章~第4章
田川 史朗 (障害者職業総合センター 研究協力員) 第1章~第4章
田中 あや (障害者職業総合センター 研究協力員) 第1章~第4章

研究の目的

障害者の安定した円滑な就業をすすめていくためには、障害者の職業サイクル(就職、就業継続、離職)の各局面における状況と課題を把握し、これに応じたきめ細かい雇用対策を進めていくことが不可欠です。このため、職業面や生活面について定期的に状況等を確認する長期縦断調査により、働く障害者の現状と課題を継続的に把握し、企業における雇用管理の改善や今後の施策展開のための基礎資料を得るため、2008年度から16年計画(計8回の調査)で本調査研究を行っています。本報告書は11年目・12年目(6回目)の調査結果を基に報告します。

活用のポイントと知見

本報告書は、長期縦断調査の中間報告としての集計結果及び現時点で検討された分析結果になります。行政機関をはじめとして、当事者団体、事業主団体及び事業主、就労支援機関等において活用いただけます。

本報告書の知見の抜粋として、雇用分野における差別禁止・合理的配慮の指針の把握状況について紹介いたします。2年前の第5期と今回の第6期を比較すると、就労中の者において「把握している」と回答した者は29%から30%へと微増していました。また、合理的配慮の取組の第1歩である話合いの機会があった者は、全体でみると第5期の約4割から第6期では5割を超えました。しかし、話合いの機会がまだない者が約2割いました。(図)

「職場で支障となっていることの確認や話合いの有無」についての回答を、第5期と第6期の間で回答内容の変化を比較しています。
回答項目「今までと同じように確認や話合いの機会があった」と回答項目「新たに確認や話合いの機会があった」を加えた割合は、全障害の回答者411人において、第5期は39%でしたが、第6期は52%となっています。同様に障害種類別の回答者の割合の変化は、以下のとおりです。
視覚障害44人は37%から50%、聴覚障害82人は52%から61%、肢体不自由79人は34%から57%、内部障害48人は18%から37%、知的障害114人は42%から48%、精神障害者44人は43%から57%となっています。
但し、知的障害者は、回答項目「よくわからない」が第5期第6期双方で約3割となっていますので留意が必要です。
図 職場で支障となっていることの確認や話合いの状況 第5期(前回)と第6期(今回)の回答内容の変化 ※この質問項目は第5期から追加しています

障害のある労働者の職業サイクルに関する調査研究における第6期のポイント

本調査研究は、16年にわたり、同一の調査対象者に対して、職業面や生活面の状況や意識等を定期的にアンケート調査する長期縦断調査です。

本調査研究報告書は、調査を開始して、11年目、12年目となる第6期の調査結果を中心に、以前の結果を加えて、障害種類別に約90項目を集計した図表は掲載しています。上記の知見に加えて、以下に一部抜粋して紹介いたします。

基本情報

第6期は、視覚障害105人、聴覚障害217人、肢体不自由231人、内部障害110人、知的障害270人、精神障害110人、計1,043人を対象に調査を実施しました。

回答者のうち正社員、パート等、派遣、自営、内職、就労継続支援A型事業所で働いている者の割合を就労率として計算しています。障害種類により就労率の違いはあるものの、全ての障害種類において就労率は75%以上でした。

就労者の就労形態等について、障害種類別にみると障害種類毎の違いがありました。正社員は、身体障害で5割前後であるのに対して、知的障害は20%、精神障害は15%でした。また、就労継続支援A型事業所の利用は、知的障害で最も多いですが、他の障害でも少数ではあるものの確認できました。自営については、視覚障害で21%でした。現在仕事をしていないと回答した者は、肢体不自由20%、精神障害20%、内部障害15%でした。

仕事の満足度

第6期は、第5期に引き続き仕事の満足度に着目して分析を実施しています。

①「仕事をする理由」と仕事の満足度との関係について分析しました。「仕事をする理由」は、「収入を得るため」「社会とのつながりをもつため」「社会の中で役割をはたすため」「自分自身の成長のため」「生きがいや楽しみのため」「生活のリズムを維持するため」「心身の健康のため」の7項目で確認しています。第5期と第6期の結果を使って分析したところ「社会の中で役割をはたすため」「生きがいや楽しみのため」を「仕事をする理由」として選択している者は仕事の満足度が高いことがわかりました。
②第5期の分析では「仕事満足度」に影響する要因は「職場へ障害のことを説明している」「配慮項目が少ない」「援助者が継続的にいる」「昇給がある」であることがわかりました。第6期では、この分析結果と新たに取り組んだヒアリング調査結果との関連を確認して考察しました。ヒアリング対象者は、20年以上同一企業に勤めている者から選定しました。3名(肢体不自由、知的障害、精神障害)のヒアリング調査結果から仕事の満足度は安定的であったり、一定の傾向があるというより「波」があること、その「波」のコントロールの背景には共通して、人とのつながり、ネットワークへの志向性がること可能性を推察しました。

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