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-雇用されている障害者の合理的配慮、職務内容等の実態-

調査研究報告書 No.176
障害者の雇用の実態等に関する調査研究

執筆者(執筆順)

執筆者 執筆箇所
村久木 洋一 (元 障害者職業総合センター 上席研究員
現 国立吉備高原職業リハビリテーションセンター 主任障害者職業カウンセラー)
序章
渋谷 友紀 (障害者職業総合センター 上席研究員) 第1章~第3章
三浦 卓 (障害者職業総合センター 上席研究員) 第4章、第5章

研究の目的

 【目的1】事業所に雇用されている障害者の職場環境・労働条件、必要な合理的配慮、利用している支援機関等の実態について明らかにすることを目的としました。
 
 【目的2】就労支援機関が職務設定、職務創出・再設計等を検討する事業所に助言する際、及び事業所が自ら職務設定、職務創出・再設計を行う際の参考とするための事項を明らかにすることを目的としました。

活用のポイントと知見

<障害者の雇用の実態等に関する調査>

雇用されている障害者の障害種類別の詳細な実態調査の結果を掲載しており、雇用されている障害者の実態を踏まえた職業リハビリテーション施策や合理的配慮のあり方を検討するための基礎的資料として活用することができます。

<障害者の従事する職務に関する調査>

障害者を雇用する事業所へのアンケート調査結果に基づき、障害者の従事する具体的な職務内容を251の「課業等」に分類・整理して、産業別、障害種別等に集計を行っており、事業所や支援機関において、障害者の職務設定、職務創出・再設計について検討する際の参考として活用できます。

図 障害カテゴリーごとの「正社員」と「正社員以外」の割合
帯グラフ。視覚障害、聴覚言語機能、肢体不自由、内部障害、精神障害、発達障害、高次脳機能障害、難病、知的障害の障害カテゴリーごとに正社員と正社員以外の割合を示している。
図 障害カテゴリーごとの「正社員」と「正社員以外」の割合


表 障害者が従事する具体的な職務内容を分類・整理した「課業等」の上位30種
表 本調査研究で実施したアンケート調査から、障害者が従事する具体的な職務内容を「課業等」として分類・整理した結果のうち、上位30種類の「課業等」の名前、各「課業等」に対応する主な回答例、各「課業等」に対応する回答の件数。

1 障害者の雇用の実態等に関する調査

障害のある労働者に対するアンケート調査の結果、2つの点を確認しました。
 1つは、身体障害系の障害カテゴリーと精神障害系の障害カテゴリーでは、身体障害系の障害カテゴリーにおいて、正社員ないし正社員に近い働き方の者が相対的に多いことです。身体障害系と精神障害系は、合理的配慮の必要性においても差が見られ、精神障害系の障害カテゴリーにおいて、必要とする者が相対的に多いことが確認されました。その一方で、身体障害系の障害カテゴリーとした「聴覚言語機能」に障害のある労働者が、コミュニケーションを中心とした合理的配慮を必要としながらも、必ずしも十分な配慮を提供されていないなど、身体障害/精神障害という単純な二分法に収まらないケースが存在することが示唆されました。このことは、障害カテゴリーが持つステレオタイプなイメージに捕らわれず、個々の労働者に向き合うことの重要性をも示唆しているように思われます。
 もう1つは、障害のある労働者が、現在の事業所での業務の継続を希望する上では、労働者自身が必要とする合理的配慮の提供が効果的である可能性があるということです。障害のある労働者の中には、何らかの合理的配慮が必要と考えていても、どの程度の配慮を要求してよいかわからない、自分から配慮を求めることに気が引ける等の理由で言い出せないケースが4~5割程度存在しました。このことは、職場において、障害のある労働者の考えを聞いたり、相談したりする環境や機会を設けることの重要性を示唆していると考えられます。

2 障害者の従事する職務に関する調査

事業所の形態、主な事業内容、現在雇用している・もしくは過去に雇用していた障害者の障害種別、障害種別ごとの具体的な職務内容等を尋ねました。

(1)障害者が従事する具体的な職務内容を「課業等」に分類・整理した考え方

具体的な職務内容を読み取ることが困難であったものについては集計から除外した結果15,536件の回答を得ました。その回答の分類・整理に当たり、得られた回答は一人につき複数の職務内容からなると思われるケースが比較的多く、類似した回答であっても障害のある従業員が担当する責任の範囲は個別性が高いと思われたため、作業内容自体の比較に注力することとし、「課業」として分類・整理することが妥当ではないかと考えました。一方で、「看護師」、「医師」など職種名や資格名が記載されているケースなど従業員一人の職務内容を一つの回答で表現する等のケースも見受けられました。このため、本調査研究では、回答のあった障害者の従事する具体的な職務内容を「課業等」として分類・整理することとし、得られた回答を研究担当者複数名で251の「課業等」に分類・整理しました。

(2)障害者が従事する「課業等」のポイント

ア 障害者が従事する課業等

「データ入力」、「書類の整理・管理」、「事務」など、事務関係の課業等が多く見られました。また、事務関係以外では、「清掃」がとりわけ多く、「製造・加工・組立」も多く見られました。一方で、「教育」、「試験・検査・実験・解析」、「研究」など、専門的な知識や技術が求められる課業等が一定程度見られました。

イ 障害種別に見る課業等

いずれの障害種別でも、「データ入力」、「書類の整理・管理」、「事務」等の事務関係の課業等と「清掃」が多く見られました。

ウ 産業別に見る課業等

いずれの産業でも「データ入力」、「書類の整理・管理」、「事務」等が多く見られました。また、「清掃」もほとんどの産業で多く見られました。その他、「コピー・印刷」、「備品等物品管理」、「文書等発受」など、主な事業内容に関わらず事業所内で生じることが想定される課業等がほとんどの産業で上位30種に入っていました。

(3)調査結果の効果的な活用のポイント

件数の多い課業等は、「多くの事業所、部署、障害者で同様の例がある」と考えられ、モデルが多いことから、職務設定、職務創出・再設計に向けての参考になりうるものと思われます。さらに、産業別、障害種別それぞれの視点から分類・整理した課業等を参考にすることも一策です。
 なお、相反する提言となりますが、産業別や障害種別の枠を超えて、広く課業等を見ることで、先入観などからいったん自由になることでこれまで検討していなかった視点から新たな可能性を探ることも職務設定、職務創出・再設計の一助となり得ると考えます。職務設定、職務創出・再設計は障害のある各従業員の障害特性を踏まえて行われるべきものであり、その個別性に着目しつつそれぞれのストレングスや能力、経験を活かすことを念頭に置き、場合によっては横断的な視点で見ることも、今回の調査結果の効果的な活用法であると思われます。
 今回のアンケート調査結果から得られた障害者が従事する課業等を広く周知することを目的として、事業所の主な事業内容ごとに多かった課業等、障害者の障害種別で回答数が多かった課業等及び主な事業内容と障害種別で多かった課業等をクロス集計した結果を中心とした障害者が従事する課業等のデータブックを作成していますので、下記の「関連する研究成果物」よりご確認ください。

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