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ー就労支援の支援ノウハウや人材育成のポイントとはー

調査研究報告書 No.167
就労支援機関における人材育成と支援ノウハウ蓄積等の現状と課題に関する調査研究

執筆者(執筆順)

執筆者 執筆箇所
竹内 大祐 (障害者職業総合センター研究員) 概要、第1章、第2章、第4章
桒木 裕貴 (障害者職業総合センター研究員) 第2章(調査結果の集計・分析)
魏 燕 (障害者職業総合センター研究協力員) 第2章(調査結果の集計・分析)
春名 由一郎 (障害者職業総合センター副統括研究員) 第3章、第4章
堀 宏隆 (障害者職業総合センター研究員) 第3章

研究の目的

本調査研究は、①就労支援機関の支援ノウハウ蓄積状況や人材育成の取組の現状と課題を明らかにすること、②今後の研修等を行う際にポイントとすべき内容として、就労支援担当者が共通認識すべき内容(効果的支援ノウハウ)を整理すること、③就労支援担当者の人材育成における効果的な方法や重要なポイントを明らかにすることを目的としています。

活用のポイントと知見

  • 就労支援機関の支援実施状況、知識・スキル等の充足状況、人材育成の取組状況、支援課題、研修ニーズ等の実態を整理していますので、就労支援に係る研修等の実施内容を検討するための基礎的資料としてご活用いただけます。
  • 就労支援力向上に向けて効果的な人材育成の取組内容を分析し、支援ノウハウや事例の言語化・共有等の組織的取組の重要性を示しています。就労支援機関の今後の人材育成の方針を検討するための基礎的資料としてご活用いただけます。
  • 支援ノウハウの言語化・共有の試みとして、様々な支援実務者から公募があった事例を基に整理した効果的支援ノウハウを分かりやすくまとめた「様々な関係者による職業リハビリテーションの事例集」を巻末に掲載しています。ポイントを押さえた就労支援や支援のより効果的な実施に向けたアイデアの情報収集にご活用いただけます。
支援実務者の「多様な分野との連携・連絡の程度」の高さには、所属組織が「役割やノウハウの言語化・共有」の取組を行っていること(β=0.148)、「支援事例・記録の共有」の取組を行っていること(β=0.084)、支援実務者本人の「障害者就労支援の様々な理念・考え方への同意の程度」が高いこと(β=0.082)、「就労支援従事期間」が長いこと(β=0.070)が関連していることを示している。
図1 多分野との連携・連絡を促す要因(効果的な人材育成の取組内容)
  • 図1は、本調査研究の結果により支援成果向上に関連することが明らかになった支援実務者の「多様な分野との連携・連絡の程度」の高さに関連する要因を明らかにするために実施した重回帰分析(ステップワイズ法)の結果をまとめた図です。
  • 所属組織の組織的な人材育成の取組や支援実務者の研修受講経験、就労支援従事期間、就労支援の理念への同意の程度に関連する様々な変数を投入し、分析した結果、図の左側に示した要因の関連が明らかになりました。
  • 最も関連が大きかったのは、所属組織が「役割やノウハウの言語化・共有」の取組を行っていることでした。
様々な関係者による職業リハビリテーションの事例集のうちの1ページを紹介するイメージ図。タイトルは「就職前から、職務調整や職場環境整備を想定する支援が効果的」、サブタイトルは「個人の課題に焦点を当てすぎ、就労の可能性を狭くしていませんか?」と示されている。
図2 「様々な関係者による職業リハビリテーションの事例集」の例
  • 図2には、「様々な関係者による職業リハビリテーション事例集」全14項目のうちの1つを例として挙げています。事例集には、各項目のポイント・留意点や、実例が記載されています。

就労支援機関における人材育成と支援ノウハウ蓄積等の現状と課題に関する調査研究のポイント

1 就労支援機関の支援ノウハウ蓄積状況や人材育成の取組の現状と課題

多くの就労支援機関で多分野機関との連携体制のもと総合的で幅広い支援が行われていました。一方で、知識・経験・スキル等の普及状況については、項目により同じ機関種間でも、組織間でばらつきが見られました。下記の表に例として、就労移行支援事業又は就労定着支援事業を実施する機関の結果を示します。

人材育成の組織的取組については、特に支援ノウハウを言語化し共有する取組や組織目標を明確化する取組について、重要性が認識されているものの、実施が少ない傾向がありました。

1各障害者の生活・人生の支援ニーズに様々な工夫をして対応しようとする資質・能力、該当者は全くいない0.5%、該当者は少ない13.9%、半数程度が該当28.9%、該当者は多い38.5%、ほぼ全員が該当18.2%、有効回答数1240
2他者の気持ちを正しく理解したり、物事をわかりやすく説明したりできる資質、能力、該当者は全くいない0.2%、該当者は少ない9.4%、半数程度が該当26.4%、該当者は多い45.8%、ほぼ全員が該当18.2%、有効回答数1243
3様々な仕事をうまく整理、組織立てて、手際よく、抜かりなく業務を遂行できる資質・能力、該当者は全くいない1%、該当者は少ない13.5%、半数程度が該当35.5%、該当者は多い36.8%、ほぼ全員が該当13.2%、有効回答数1240
4先行きが見えない状況や多様な意見がある状況でも精神的に安定して対処できる資質・能力、該当者は全くいない0.6%、該当者は少ない15.6%、半数程度が該当35.4%、該当者は多い34.9%、ほぼ全員が該当13.5%、有効回答数1238
5様々な関連制度やサービスを個別支援ニーズに合わせて活用できる知識とスキル、該当者は全くいない0.9%、該当者は少ない24.6%、半数程度が該当35%、該当者は多い30%、ほぼ全員が該当9.5%、有効回答数1236
6障害者各人が活躍できる仕事や職場の調整や開発ができる知識とスキル、該当者は全くいない1.1%、該当者は少ない22.8%、半数程度が該当37.4%、該当者は多い28.2%、ほぼ全員が該当10.4%、有効回答数1235
7企業の人材採用・育成や雇用管理・経営のニーズに対応した就労支援ができる知識とスキル、該当者は全くいない3.8%、該当者は少ない32.3%、半数程度が該当34.7%、該当者は多い22.7%、ほぼ全員が該当6.5%、有効回答数1233
8最新の就労支援手法や支援機器等、関連情報を収集して効果的に活用できる知識とスキル、該当者は全くいない4.8%、該当者は少ない36.6%、半数程度が該当31.4%、該当者は多い21.6%、ほぼ全員が該当5.6%、有効回答数1228
9様々な関係分野の支援者等と効果的に連携して就労支援ができる知識とスキル、該当者は全くいない2%、該当者は少ない27.4%、半数程度が該当33.1%、該当者は多い28.2%、ほぼ全員が該当9.2%、有効回答数1234
表 資質・能力・スキルを有する就労支援担当者の充足状況
(就労移行支援事業又は就労定着支援事業を実施する機関の結果)

2 就労支援担当者が共通認識すべき効果的な支援ノウハウ

分析の結果、就労支援の効果的支援ノウハウとは、就労支援プロセスの全体的な知識・経験を持ち、就職前から職場定着後のフォローアップにかけての総合的で幅広い支援を、多分野機関と連携を取りつつ行い、障害者や企業のニーズに応じた最新の支援を行うスキル等であると結論付けられました。加えて、企業・事業主に関する(労働契約、経営、雇用管理等の)知識・経験を持つこと、合理的配慮やインクルーシブな雇用といった障害者の権利等の実現に向けて取り組むことが重要であることが明らかになりました。

また、本調査研究では、従来、インフォーマルに会得することが多いと考えられた「効果的支援ノウハウ」を明確に言語化し共有することを目的に、様々な支援実務者から「効果的支援ノウハウ」に係る事例を公募し、その内容を整理・要約した上で、デルファイ法を用いた意見集約・取りまとめを行っています。このような過程を経て整理した「効果的支援ノウハウ」の内容については、「様々な関係者による職業リハビリテーションの事例集」として調査研究報告書の巻末にまとめました。下記より、該当箇所をダウンロードできます。

3 就労支援担当者の人材育成における効果的な方法や重要なポイント

効果的に人材育成を行うには、研修の受講に加えて、組織的な人材育成の取組が重要でした。組織的な人材育成の取組の中でも、「役割やノウハウの言語化・共有」「支援事例・記録の共有」の取組は、各機関・支援実務者の効果的支援の実施や効果的支援ノウハウの充足に効果があることが明らかになりました。

例えば、上に示した図1は、支援成果の向上に関連があることが示された支援実務者の「多様な分野との連携・連絡の程度」の高さに関連する要因として最も効果が大きいのは、所属組織が「役割やノウハウの言語化・共有」の取組を行っていること、次いで「支援事例・記録の共有」の取組を行っていることであることを示した結果です。

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