-すべての人の健康、生活、仕事を総合的に支える専門的支援の動向-
調査研究報告書 No.169
諸外国の職業リハビリテーション制度・サービスの動向に関する調査研究
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発行年月
2023年03月
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キーワード
人権モデル・人権アプローチ インクルーシブ(包摂的)な雇用 福祉と雇用の連携 障害予防と総合的リハビリテーション ダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包摂)
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職業リハビリテーション活動による課題領域の体系図・ICFによる課題領域の体系図 該当項目
執筆者(執筆順)
執筆者 |
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春名 由一郎 (障害者職業総合センター副統括研究員) |
研究の目的
本調査研究は、障害者権利条約の要請による、多様な障害種類・程度の障害者の就労支援ニーズを捉え、障害者と企業の両面からの仕事の意義を実現し、職業生活を社会全体の多分野連携で支えていく、諸外国の職業リハビリテーションの新しい動向から、我が国の参考になる取組等を明らかにすることを目的としました。
活用のポイントと知見
- 本報告書では、諸外国における職業リハビリテーションの取組や関連制度等を、我が国との共通課題へのヒントとなる、新たな問題の解決のための総合的な取組に焦点を当ててまとめています。
- 障害の人権モデル、ダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包摂)、障害予防と一体的な総合的リハビリテーションなど、今後の職業リハビリテーションで重要な考え方や実践をまとめています。
- 就労困難性による障害認定や重度判定、障害者手帳のない障害者への就労支援や障害開示の支援、雇用と福祉の連携強化、障害者雇用の量だけでない質の向上、地域関係機関の効果的連携、障害者就労支援の人材育成等、我が国とも共通する課題への諸外国の取組を知ることができます。
障害の捉え方の発展による取組 | 仕事の捉え方の発展による取組 | 支援の捉え方の発展による取組 |
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本調査研究では、障害者権利条約の要請により、諸外国における障害・仕事・支援、それぞれの多様な捉え方が総合的に発展している諸外国の職業リハビリテーションの新しい動向をまとめています。これまで障害者就労支援の制度・サービスをリードしてきた諸外国における合理的配慮や専門的支援における経験の蓄積と、障害者権利条約による高い要請と国際的情報共有の機運が相まって、職業リハビリテーションの普遍的な専門知識及びそれを前提とした制度・サービスが多く発展しており、その多くが我が国にも参考にできるものであることを明らかにしています。
1 障害の捉え方の違いと総合化
諸外国において、個人の多様な障害と環境・社会の複雑な相互作用による職業場面での障害についての理解が進み、本人が開示しにくいものを含め広範囲の差別や支援ニーズが明確になるとともに、効果的支援の専門知識の蓄積も進みました。現在では、総合的な障害の理解により、人権の主体である多様な障害者の支援ニーズを的確に把握し職業での活躍を実現する専門知識や専門的支援の質の向上こそが、問題の本質と捉えられるようになっています。
(1)障害者の職業能力と支援ニーズの総合的な認識の普及
個人と環境の相互作用による障害に関する理解において、諸外国における、合理的配慮や専門的支援の経験により、職業場面での障害はそれらにより解消可能であることの科学的根拠の蓄積が進んでいます。しかし、未だに「障害者は働けない、負担」、「働けているなら障害者でなく、支援は必要ない」等の無理解が多く、障害者の職業能力と支援ニーズの総合的な認識の普及が重要になっています。
(2)幅広い障害者の就労支援ニーズの把握と支援
諸外国での多様な障害者の就労支援ニーズへの対応の経験から、精神疾患や慢性疾患による障害を含め、外見から分かりにくい障害により就労支援ニーズを有しながら合理的配慮や支援の対象となっていない人が多いことが明らかになり、そのような幅広い障害者の把握と支援における企業と専門的支援の役割が重要になっています。
(3)個人と環境の相互作用の知識に基づく人権アプローチ
多様な障害者への効果的な支援の科学的根拠が蓄積され、技術革新が進展する中、個人の障害により就労可能性が影響されるという考え方自体が問題であり、障害者権利条約の人権モデルに沿った「個別の職業目標や強みに応じた就労支援の質の向上」こそが総合的な障害の捉え方の中心課題となっています。
2 仕事の捉え方の違いと総合化
全ての障害者の労働と雇用の権利が認められるとともに、多様な人が能力を発揮して働きやすい職場づくりは企業経営の重要課題となっています。諸外国の職業リハビリテーションは、それらに呼応して、多様な障害や慢性疾患のある者が人材として活躍できるための、企業経営や職業づくりを含む、障害者と事業主の雇用関係づくりの総合的な専門的支援に発展しています。
(1)誰もが能力を発揮できる職場づくり
障害者にとっての職業の意義だけでなく、企業にとっての障害者を含む多様な人材を活かす経営や雇用管理の意義がますます意識されるようになり、包摂的な企業文化や職場づくりを経営や業務プロセスとして整備する企業の取組と公的な支援の相乗作用が重要となっています。
(2)すべての障害者の意義ある就業の選択肢の拡大
従来一般就業が最も困難と考えられてきた障害者でも、一般就業でのやりがいのある人間らしい仕事を可能とする、仕事内容や職場環境整備、地域の継続的支援体制等の専門知識・ノウハウの蓄積が進んでいます。
(3)障害者と企業を結ぶ包摂的な労働力開発
幅広い障害者が企業経営に資する人材として活躍できる、障害者と企業の双方に益となるディーセント・ワークの実現のため、地域の障害者人材を企業の人材ニーズに結び付ける職業紹介や、障害者の生産性の発揮を促進する事業主支援等の職業リハビリテーションの専門的支援が重要となっています。
3 支援の捉え方の違いと総合化
障害者の一般就業への就労可能性を抜本的に拡大できる職業リハビリテーションの高度に総合的な専門性が明確になるにつれ、障害者福祉の変革だけでなく、多様な障害や慢性疾患のある人を含む国民一般の健康、生活、仕事の質を向上させるための総合的リハビリテーションの重要性や役割が明確になってきています。地域支援体制の整備、幅広い分野の専門職の再教育・訓練や継続的な人材育成が国・地域・現場レベルで取り組まれています。
(1)職業リハビリテーションの専門性の確立と人材育成
職業リハビリテーションが多様な関係者や専門分野が関わる総合的な取組である一方、中核的な専門性として、従来一般就業が困難とされてきた障害者の労働と就業の権利を実現できる専門知識とノウハウがアメリカで明確にされ、その具体的な内容と能力基準を基に専門職研修や資格認定、継続学習の機会が整備されています。
(2)障害者が働くことを前提とした制度・サービス変革
障害者が保護の対象と考えられ就労支援ノウハウも乏しかった時代に構築された医療・福祉・教育等の関係分野の制度・サービスについて、多様な障害や慢性疾患のある人の能力を発揮した社会参加の促進の成果を上げられるものへの国・地方・現場レベルでの再構築が目指されています。
(3)個別支援ニーズに対応できる多職種連携に向けて
従来、特に一般就業が困難とされてきた障害者の職業生活を可能にするための個別的で多様な支援ニーズに、多分野の専門機関・専門職が総合的に対応できる多職種ケースマネジメントを可能とする体制整備が多様に取り組まれています。
当機構において2023年3月に印刷した調査研究報告書№169において、一部表記に新たに誤りがありましたので、修正いたしました。
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