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自己理解をどのように捉え、支援するか

調査研究報告書 No.162
高次脳機能障害者の障害理解と職業リハビリテーション支援に関する研究ー自己理解の適切な捉え方と支援のあり方ー

執筆者(執筆順)

執筆者 執筆箇所
竹内 大祐 (障害者職業総合センター 研究員) 概要、第1章、第2章第3節、第3章~第5章
小野 年弘 (障害者職業総合センター 研究協力員) 第2章第1節~第2節、第4章第1節~第2節

研究の目的

職業リハビリテーション従事者が高次脳機能障害者の支援で用いている「自己理解」の捉え方や支援の実態及び医療等領域における「障害理解」に関する知見や動向について整理した上で、高次脳機能障害者の「自己理解」と職業リハビリテーション支援の望ましいあり方及び残る課題を明らかにすることを目的としています。

活用のポイントと知見

職業リハビリテーションにおいて、高次脳機能障害者の「自己理解」をどのように捉え、どのようなことに留意して支援を行う必要があるのか、グループインタビューや文献調査の結果を基に整理していますので、支援を行う際の指針として活用いただけます。

巻末資料として、高次脳機能障害者の「自己理解」をアセスメントする視点及び支援を選択する際の視点を分かりやすくまとめた『高次脳機能障害者の「自己理解」の性質を踏まえた支援ポイント』を掲載しています。

「自己理解」の多様な側面を考慮したアセスメントをすること、「自己理解」に影響を与える要因の考慮をすることと合わせて、「自己理解」の支援の目的を十分に検討することが、「自己理解」を捉えるための視点であることを示している。
図 「自己理解」を捉えるための視点
※『高次脳機能障害者の「自己理解」の性質を踏まえた支援ポイント』に示した『「自己理解」を捉えるための視点』の要点を図示したものです。



表 「自己理解」の支援を行う際に、前提として持っておくべき考え方・取組方
考え方・取組方の内容 具体例(グループインタビューより)
信頼関係、協働関係の構築
  • ・気持ちに寄り添った支援により信頼関係を構築する
  • ・問題や目標に向けて一緒に考える姿勢をもつ
支援対象者の目標達成に向けた支援
  • ・パフォーマンスの向上や社会参加を目標にする
  • ・ターゲット行動の解決に目を向けた支援をする
残存能力や「できるようになったこと」に焦点
  • ・補完手段の活用によりできるようになったことが分かるようフィードバックする
  • ・就職(復職)先に「できていること」「こうすればできる」を伝える
多角的な視点でアプローチ
  • ・家族、医療機関、同じ障害のある仲間など支援対象者にとって重要な他者との関りを通じて「自己理解」を深められるように、社会資源等を活用する
長期的な視点をもち支援体制を整える
  • ・「自己理解」の支援は長期的に見ることが必要との認識をもち、支援機関との連携を図る
支援内容や活動の記録を見える化して共有
  • ・相談内容は紙面に書いて共有。次回相談時に、書いた内容を一緒に確認してから相談を始める
※『高次脳機能障害者の「自己理解」の性質を踏まえた支援ポイント』に示した表の一部です。


高次脳機能障害者の障害理解と職業リハビリテーション支援に関する研究のポイント

障害者職業カウンセラーを対象としたグループインタビューや、国内外の文献を調査した結果を基に、高次脳機能障害者の「自己理解」の捉え方と支援のあり方をまとめました。まとめた内容の要旨は次のとおりです。

(1)「自己理解」を捉えるための視点

「自己理解」という概念には、「自己の(障害)特性についての知識」、「特性が及ぼす影響についての知識」、「課題(職務)についての知識」、「セルフモニタリング」、「課題の理解とパフォーマンスの予測」等の多様な側面があるため、それぞれの側面をアセスメントする視点が必要です。また、「自己理解」は生物・心理・社会環境的要因といった様々な影響を受けて変化することを考慮して捉える必要があります。このような「自己理解」の性質を理解した上で、「自己理解」の支援の目的(「補完手段習得のため」、「現実的な就職(復職)先検討のため」、「障害の開示や、開示内容の検討のため」等)を十分に検討し、目的に合った支援を選択する必要があります。

(2)支援方法の選択

「自己理解」の支援を行う際には、前提として「信頼関係、協働関係の構築」、「支援対象者の目標達成に向けた支援」、「残存能力やできるようになったことに焦点」といった考え方を持ち、「多角的な視点でアプローチ(例:家族、医療機関、仲間等の重要な他者との関わりを通じて理解を深められるように社会資源等を活用)」、「長期的な視点をもち支援体制を整える」、「支援内容や活動の記録を見える化して共有」といった取組を行う必要があります。

また、「自己理解」を深めるための方法として効果的なフィードバック方法やトレーニングの手法が先行研究により提案されていますが、支援対象者の認知機能の低下による限界や場面が変わると般化しにくいという支援効果の限界等があることや、「障害理解」の深化が心理的ストレス増大につながる可能性を考慮する必要があります。

「自己理解」の深化自体に焦点をあてることの限界やリスクが考えられる場合や、心理・社会的要因の影響が大きいと考えられる場合(変化を認識する又はフィードバックを受ける機会が少なかった場合を除く)には、習慣形成に重点をおいたアプローチ、心理的側面を考慮したアプローチ、補完手段習得等への動機を高めるアプローチ、環境・周囲のネットワークへのアプローチ等の「自己理解」の深化以外に焦点をあてた支援の選択が望まれます。

令和4年度地方研究発表会資料

【テーマ】

高次脳機能障害者の障害理解と職業リハビリテーション支援に関する研究

※発表資料は、研修に参加された方向けの補助資料として作成したものです。
※本資料のご利用にあたっては、研究企画部企画調整室へご連絡いただくとともに引用元の明記をお願いいたします。

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