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-特例措置に係る事業所の認識・意見と短時間で働く精神障害者の働き方-

調査研究報告書 No.161
精神障害者である短時間労働者の雇用に関する実態調査~雇用率算定方法の特例が適用される労働者を中心として~

  • 発行年月

    2022年03月

  • キーワード

    障害者雇用率制度 精神障害者 短時間労働 雇用率算定に係る特例措置

  • 職業リハビリテーション活動による課題領域の体系図・ICFによる課題領域の体系図 該当項目

    社会政策・制度に関する状況等の把握

執筆者(執筆順)

執筆者 執筆箇所
小池 磨美 (障害者職業総合センター 特別研究員) 概要、序文、第2章第4節・第5節、第3章、第4章第4節・第5節、第7章
渋谷 友紀 (障害者職業総合センター 研究員) 序文、第2章第1節~第3節・第5節、第4章第1節~第3節・第5節、第7章
國東 菜美野 (元障害者職業総合センター 研究員) 第1章、第5章、第6章、第7章

研究の目的

2018年4月に施行された「精神障害者である短時間労働者の算定方法に係る特例措置」の暫定措置期間終了後の取扱いに係る施策の企画立案に資するため、厚生労働省の要請を受けて実施しました。具体的には①精神障害者を雇用する企業の状況及び特例措置の適用状況、②特例措置が適用されている事業所(以下「特例適用事業所」という。)の精神障害者の雇用や特例措置に関する認識・意見、③特例適用事業所で働く精神障害者の雇用状況や働き方に関する考えなどを把握することを目的としています。

活用のポイントと知見

3つの目的に応じて主に以下のような知見が得られており、今後の施策検討において活用されることが考えられます。

  • 【目的①】(労働者数、産業が同様である場合)特例措置の適用企業は、それ以外の企業より雇用率を達成しやすかったことが示されています。
  • 【目的②】特例措置について、精神障害者の雇用管理に際してその活用を考慮した事業所では、考慮しなかった事業所に比べ、「同僚の理解の得られやすさ」や「特性に応じた配慮のしやすさ」のような、精神障害者への配慮等の行いやすさに関わる項目に「当てはまる」と回答する傾向があります。(下図参照)
  • 【目的③】特例適用事業所で働く精神障害者には、労働時間の希望について「フルタイム勤務への移行」と「短時間勤務のまま」という2つの志向性が示されました。
 特例措置が適用されている事業所に、特例措置の特徴として考えられる15項目について、「よく当てはまる」から「全く当てはまらない」の5段階で印象を尋ねた結果を示したグラフです。特例措置をあらかじめ知っていたか否か、精神障害者の雇用管理等に際し考慮したか否かの組合せで分けた4グループに分け、比較しています。
 棒グラフの縦軸は「平均順位」の軸です。特例措置が適用されている491件の事業所の回答を得点化して1から491までの順位をつけました(同順位はその平均値を採りました)。さらに、グループごとの平均を計算し、これを「平均順位」としています。なお、分析に当たって無回答は除外しました。
 棒グラフの横軸は、特例措置の印象項目を示しています。左から、「a 同僚の理解の得られやすさ」、「b 特性に応じた配慮のしやすさ」、「c 職務選定のしやすさ」、「d 障害者一般の雇用体制の作りやすさ」、「e 職場定着の促進」、「f 無理のない労働時間」、「g 定着の見通しの立てやすさ」、「i 本人の意欲向上」、「j 職務のミスマッチの減少」、「l 適用終了後の雇用継続の負担」となっています。
 各印象項目について、活用状況の4つのグループそれぞれの平均順位を棒グラフで示しています。活用状況のグループは、それぞれ「知っていて活用を考慮」、「知っていたが活用を考慮せず」、「知らなかったが情報提供があり考慮」、「たまたま要件を満たしていた」の4つです。結果は、すべての印象項目で「知っていて活用を考慮」と「知らなかったが情報提供があり考慮」で平均順位が大きくなっていました。つまり、考慮したグループで「当てはまる」と回答する傾向が見られたということで、このことから、特例措置の活用を考慮する事業所で、特例措置によって各種配慮が実施しやすくなると評価する傾向があると考えられます。
図 特例措置の活用状況カテゴリーごとの印象項目の平均順位 

本調査研究においては、3つの目的それぞれに応じた実態が把握されました。それらの3つ目的に共通する「特例措置の活用による影響」について得られた主な知見を(1)で述べます。

また併せて、本調査研究では特例措置の対象であるか否かに関わらず、精神障害者が「短時間労働(勤務)で働くこと」及び「短時間労働(勤務)からフルタイム勤務に移行すること」をどのように捉えているかも明らかになったことから、それらについて(2)、(3)で述べます。

(1)特例措置の活用の影響

ア 事業所の負担感とその軽減について

事業所質問紙調査(量的分析)においては、精神障害者の雇用管理に当たり特例措置を活用することを考慮した事業所は、比較的従業員規模が大きく、「雇入れ」の場面等で精神障害者を対象とした雇用管理を行うとともに、様々な支援制度を整備し、就労支援機関を利用する傾向が見られました。

また、事業所質問紙調査(質的分析)においては、精神障害者の雇用管理は、就労支援機関等の連携のもと、雇用している精神障害者に対して受入れ体制を整備し、個別性の高いサポートが行われていることがうかがえました。このような状況と、上述した特例措置を精神障害者の雇用管理に活用することを考慮した事業所像とは、重なり合うと推測され、特例措置を雇用管理に活用することを考慮した事業所については従業員規模が大きい事業所である傾向があることを踏まえると、従業員規模が小さく、ノウハウが不足している事業所が同じような対応を行うことは負担が大きいことが推測されます。

イ 特例措置終了後の雇用方針について

事業所質問紙調査(量的分析)において、特例措置を活用することを考慮した事業所は、考慮しなかった事業所に比較して、「特例措置の対象でなくなっても、現在雇用している者の雇用は続ける」(以下「雇用継続」といいます。)及び「特例措置であるか否かにかかわらず適性のあるものは雇いたい」(以下「適性のある者を雇用」といいます。)に慎重になる傾向が見られました。特例措置を活用することを考慮した事業所は、精神障害者の職場定着や様々な配慮についての実施しやすさに関わる項目に「当てはまる」という印象を抱く傾向が見られた事業所であり、実際に「雇入れ」等の場面で精神障害者を対象とした雇用管理を行うとともに、様々な支援制度を整備し、就労支援機関を利用する傾向が見られた事業所でもありました。特例措置の活用を考慮し、精神障害者に対して様々な対応を行っている事業所が特例措置終了後の雇用方針に関して「雇用継続」、「適性のある者を雇用」という方針には相対的に慎重になる傾向を示していることを念頭に置き、特例措置の暫定期間終了後の取扱いについて検討する必要があると考えられます。

(2)精神障害者が短時間労働(勤務)で働くこと

当事者インタビュー調査からは、調査に参加した短時間労働で働いている者が現在の職場を「働きやすい」と感じる要素として①自身の障害/病気に対する配慮がある、②人間関係が良好である、③職務内容などに自身の希望が反映されている、といった三点があることが明らかになりました。しかし、同じ職場での勤務継続については、働きやすさに加えて、職務内容に興味を持って働くことができているかどうかが影響していました。

当事者質問紙調査の量的分析においては、短時間勤務で働いている特例措置が適用されている精神障害者(以下「特例適用者」といいます。)が職務や労働時間、賃金の満足度、あるいは働きがいを感じるか否かは、現在の職場で働き続けたいと考えるか否かということと一定程度、関係が見られました。また、質的な分析においては、今の職場で働き続けたいと回答している者が「職務・やりがい」、「働きやすさ」、「人間関係」、「配慮・理解」といったキーワードで表される現在の職場環境を重要なことと捉えていることが見出されました。

いずれの調査結果においても、職務に対する肯定的な認識や配慮が得られる職場環境・人間関係が働き続けたいと考える理由として取り上げられていると考えられます。

(3)短時間労働(勤務)からフルタイム勤務へ移行すること

特例措置を利用している事業所にとって、特例適用者の週の所定労働時間については以下の2点から大きな焦点となっています。
 ①20時間以上が維持できない場合には、在職していても納付金の支払い対象になる。
 ②3年間の特例適用期間の間に30時間以上に延びないと、雇用率の低下につながる。

一部の事業所は、このような状況は精神障害の雇用の継続が難しくなり、当事者にとって不利益になると考えていました。しかしながら、制度上は、安定した労働時間の維持や労働時間の30時間以上への延長が見込めない場合には、納付金の支払いや雇用率の達成に影響があると言え、事業所にとっては負担感を感じるとともに、労働時間の安定や3年以内での労働時間の延長について重要な課題として認識していると考えられます。

当事者質問紙調査の結果では、フルタイム勤務への移行について、「体調・体力・疾病のため難しい」、「現状が望ましい」、「現状で仕方がない」等の意見を持ち、「現状ではフルタイム勤務への移行は難しい」又は「短時間勤務をこのまま続けたい」と回答している者が半数を超えていました。また、パネル調査においては、フルタイム勤務を希望しない調査参加者の多くがその理由として選んだのは、体調の悪化や体力に対する懸念に加えて、現在の短時間勤務という働き方が自分に合っているということでした。つまり、これらの調査参加者にとって、短時間勤務は体調や体力と職業生活とのバランスを取ることのできる働き方であると推測されます。

このように、短時間労働(勤務)をしている者については、フルタイム勤務への移行を想定できる者だけでなく、短時間労働(勤務)を続けたいあるいは続けざるを得ないと考えている者が存在するため、特例措置適用期間終了後の「労働時間の延長」を検討するにあたっては、30時間以上を希望する事業所とフルタイム勤務は難しい、あるいは望まない精神障害者との意見の相違について考慮する必要があると考えます。

 当機構において2022年3月に印刷した調査研究報告書№161において、集計結果等に誤りがありましたので、修正いたしました。
 修正内容は正誤表のとおりです。また、次の”ダウンロード”のPDFファイルは修正を反映したものです。

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