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海外資料紹介:ドイツの障害種別の就労支援のパンフレット

2024年03月

障害者職業総合センターでは、諸外国の職業リハビリテーション関連の情報を関連する研究テーマの中で継続的に収集・分析しています。そのうち、我が国でも参考にできる資料の概要を紹介し、原文と仮訳を掲載します。今回は、ドイツの障害種別のパンフレットを紹介します。

はじめに

諸外国における職業リハビリテーションや障害者就労支援について、従来、我が国とは制度やサービス、障害の定義等が異なるため、参考にしにくいものでした。ドイツは医学的な障害認定制度、障害者雇用率制度等、我が国の制度設計でのモデルの一つとなった国ですが、法制度やサービスだけの情報では具体的な支援の取組みは想像しにくいものです。今回紹介する障害種別の実践的情報では、多様な障害による働きづらさのある人たちの職業生活への参加を支えるために、様々な制度やサービス等がどのように機能しているのかについて、具体的に理解しやすく、我が国との比較もしやすくなっています。

このページで紹介するパンフレットの表紙の画像を並べて表示しています。

ドイツの障害種別の就労支援のパンフレット:REHADAT 知識シリーズ

今回紹介するパンフレットは、「REHADAT 知識シリーズ」として、障害者の職業参加に関する中央情報サービスであるREHADATが作成し公開しているものです。REHADATは、ケルンドイツ経済研究所のプロジェクトであり、ドイツ連邦労働社会省(BMAS)からの資金援助を受けています。

今回の紹介については、原典を示しウェブサイトへのリンクを明記することを条件に、REHADATの承認を得ています。最近では、「REHADAT知識シリーズ」は固定的なパンフレットからウェブアプリケーションとして情報更新等に対応しやすく、機械翻訳機能にも対応しやすい形に進化しています。

今回紹介する日本語の仮訳の対象には2021年時点で公開されていた情報も含まれています。最新情報や正確な情報については、REHADATのサイトを訪問し内容をご確認下さい。

REHADAT 知識シリーズのそれぞれの基本構成

「REHADAT 知識シリーズ」は、雇用主、影響を受ける従業員、同僚、そして、その仕事に携わるすべての専門家を読者として想定した、障害種別に応じた職業生活を形成する具体的な方法についての説明文章となっています。

国際生活機能分類(ICF)の考え方に沿って、障害・疾患別の共通構成として、病気や障害に関する基本的な知識だけでなく、個々の作業設計(補助具、技術作業補助具、建設手段、組織的手段、または個人的なサポートなど)の解決策、また障害・疾病のある人たちの実際の体験も詳しく紹介されています。

「REHADAT 知識シリーズ」(障害種別)の説明文書に共通する構成

 
目次 内容
前書き 障害や病気のある人の職業参加を実現する実践的な方法を示すという基本的な
方針とICFの考え方
はじめに  各障害や疾病の一般的状況、経験する困難や差別等、支援ニーズの概要。労働
の権利と支援制度の整備状況
病気と障害  各障害や疾病の基本的知識、機能障害や症状の程度、診断や治療、障害度の
認定等
職業生活への影響  支援機関やREHADAT 独自調査等による職業場面での影響、負荷のかかる状況、
労働場面での保護制度、支援ニーズ等
日常業務のための解決策    具体的な合理的配慮、雇用管理、障害マネジメント、職場環境の整備や労働条件、
業務プロセス、同僚等の支援、予防、事業所内編入マネジメント(BEM)、支援
機器・補助具、チェックリスト等
追加情報 関連情報、支援機関や関連団体、支援情報、文献等

REHADAT 知識シリーズの日本語仮訳

2024年3月現在、13の障害・疾病についての説明があり、このうち「長期コロナ感染症」を除き12の障害・疾病について日本語の仮訳を作成しました。我が国とは、障害の分類方法が異なっており、難病等の疾病の観点からのまとめもありますが、原典のままの順番で掲載しております。

1.てんかん ~神経細胞が過剰に働くとき

2.多発性硬化症 ~また、時々足が疼きます

3.失禁 ~このことは話してはいけないこと?

4.車いす利用 ~一日中、座っているだけ? 私はそうではない!

5.糖尿病 ~私はあまくない!

6.うつ病 ~抑うつの中でも、やる気はある!

7.視覚障害/全盲 ~異なる視点から物事を見る

8.自閉症 ~決まり文句ではなく、明確に話す

9.聴覚障害 ~耳を疑っちゃいますね!

10.嚢胞性線維症 ~息吹く余地がたっぷりある

11.炎症性リウマチ性疾患 ~私は仕事に燃えている

12.長期コロナ感染症 ~単なる風邪なのに

13.慢性炎症性腸疾患 ~腹の声(直感)を信じて

ドイツの職業リハビリテーション関連の制度・サービスについて

「REHADAT 知識シリーズ」中には、ドイツ特有の障害認定制度、障害者雇用支援制度・サービスについての言及が多くあり、それらがどのように実践場面で活用されるかが分かります。以下は、その一例です。

  • 障害認定制度:ドイツでは、様々な障害や疾病について、障害の程度が0(全く障害なし)から100(最重度)までで認定され、50以上が重度障害者として福祉制度や障害者雇用率制度の対象になります。障害度が50未満でも就労困難性が認められれば重度障害者とほぼ同等と認められ障害者雇用率制度の対象となることがあります。
  • 従業員支援:職場の上司や同僚による継続的な支援が必要な場合、事業主への助成金の対象になります。
  • 事業所内編入マネジメント(BEM):病気等で1年以内に6週間就労不能となった従業員が同意すれば、事業主は、症状の悪化や解雇を回避するように職場復帰等の専門支援も関わる取組を実施する必要があります。

これらについては、調査研究報告書等で調査結果をまとめております。