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採用後に発達障害が把握された従業員の実態と就労継続のための支援や配慮

調査研究報告書 No.173
事業主が採用後に障害を把握した発達障害者の就労継続事例等に関する調査研究

執筆者(執筆順)

執筆者 執筆箇所
堂井 康宏 (障害者職業総合センター 統括研究員) 概要
安房 竜矢 (障害者職業総合センター 主任研究員) 概要、第1章、第3章、第4章
石原 まほろ (障害者職業総合センター 上席研究員) 第1章、第2章
佐藤 涼矢 (障害者職業総合センター 研究協力員) 第2章、巻末資料
伊藤 丈人 (障害者職業総合センター 上席研究員) 第3章、第4章
永登 大和 (障害者職業総合センター 研究協力員) 巻末資料

研究の目的

本調査研究は、事業主が採用後に発達障害であることを把握し、就労継続のために職場適応上の課題解決に取り組んだ事例を通して、発達障害であることが把握された従業員を雇用する事業主に対してどのような支援が必要であるかを明らかにすることを目的としました。

活用のポイントと知見

本報告書では、採用後に発達障害が把握された従業員に関する調査で明らかとなった、発達障害の診断・開示に至ったきかっけや経緯、職業生活上の課題と対応、支援機関の利用状況、発達障害を前提とした採用との差異、企業に対して必要な支援などについて整理するとともに、10企業の取組を事例として紹介しています。採用後に発達障害が把握された従業員の就労継続に取り組む際の参考としてご活用いただけます。

帯グラフ。縦軸は項目名、横軸は割合で0 %から100%まで10%刻み。帯は左から、全く問題がなかった、あまり問題がなかった、やや問題があった、とても問題があった、無回答の順。
以下、左から項目名、「全く問題がなかった」の割合、「あまり問題がなかった」の割合、「やや問題があった」の割合、「とても問題があった」の割合、「無回答」の割合の順に表記。
時間を守ることが難しかった(朝、遅刻する、昼に時間通り戻ってこられないなど) 39.9,25.2,17.6,9.3,8.0 
衛生面を整えることが難しかった(身体を清潔にするための入浴、洗顔、歯磨き、ひげそりなどが十分ではないなど) 53.0,28.1,8.6,1.9,8.3 
仕事をする上で適切な服装をすることが難しかった 55.9,24.6,8.9,1.6,8.9 
トイレのマナーを守ることが難しかった(使用後に流す、手を洗う・ふく、ドアを閉める、トイレットペーパーの使用など) 64.5,25.2,1.9,0.0,8.3 
本人が上司や同僚が言ったことなどをうまく理解できなかった 14.7,17.3,40.3,19.2,8.6 
本人が自分が言いたいことを相手にうまく伝えることができなかった(しゃべりすぎる、情報を伝えすぎる、不適切なことを言うなど) 12.5,21.7,40.9, 16.0,8.9 
本人が上司や同僚などの話をうまく聞くことができなかった(人の話を遮る、相手の表情を読めないなど) 16.6,22.0,38.0,14.4,8.9 
本人が職場の明文化されたルール・規則を守れなかった 30.7,31.6,19.2,9.3,9.3 
本人が職場の暗黙のルールや場の雰囲気、相手の感情をうまく理解できなかった 21.4,24.3,33.2,12.5,8.6 
こだわりが強く、興味や行動が限られた(一度決めたやり方や自分のやり方にこだわり、周囲に合わせられなかった) 22.0,29.4, 27.5,12.5,8.6 
興味のない仕事の質や効率が(極端に)低かった 19.5,30.7,28.8,12.1,8.9 
マルチタスクが苦手(複数の作業を並行して行うことが困難など)だった 9.6,14.4,37.1,30.7,8.3 
本人が不注意からミスをしてしまうことが多かった 11.8,21.7,36.1,21.7,8.6 
本人がやらなければならないことや指示内容を忘れてしまった 15.7,22.0,34.8,18.5,8.9 
注意の持続が短く、気が散ってしまった 21.4,27.8,29.7,11.8,9.3 
一つの物事や作業に過度に集中してしまった 19.8,35.5,27.8,7.7,9.3 
仕事の優先順位を付けられなかった 12.8,19.5,36.7,22.0,8.9 
締切に間に合わないことが多かった 19.2,34.2,28.8,8.3,9.6 
本人が感情的になりやすく、かんしゃくを起こした 39.9,27.2,14.7,8.9,9.3 
本人と上司や同僚との間で対人トラブルが生じた 27.5,29.1,22.0,12.8,8.6 
本人が文字の読み書きをうまくできなかった 50.8,31.3,6.7,1.9,9.3 
本人が計算をうまくできなかった 48.9,30.7,8.9,2.6,8.9 
本人の勤怠が乱れた 38.3,24.0,18.8,10.5,8.3
図1 職業生活上の問題
集合横棒グラフ。縦軸は項目名、横軸は割合で、0%から60%まで20%刻み。集合横棒の上段は、支援・配慮を行った割合、下段は特に問題を解消した割合。
「支援・配慮を行った」n=259  注1、「特に問題を解消した」n=233注2 
注1:nは支援や配慮の実施状況で1つ以上の項目について「支援や配慮を実施した」を選択した企業数
注2:nは支援や配慮の内容において2つ以上の項目を選択した企業数
以下、左から項目名、「支援配慮を行った」の割合、「特に問題を解消した」の割合の順に表記。
職場のルールや迷惑に感じていることを説明し、望ましい対応を伝えた 51.0,17.2
わかりやすい業務マニュアルの整備 24.3,9.0
業務指示や相談に関する担当者の配置  51.7,17.2
集中できるように物理的な環境面の配慮(ノイズキャンセリングヘッドホン、衝立、照明) 7.3,4.3
本人に適した職務内容に関する社内検討や支援機関への相談 45.9,20.6
障害特性上困難な業務(顧客対応や対面業務等)への配慮や工夫、職務内容の見直し 36.3,21.5
本人が遂行可能な職務の創出 44.4,28.8
業務指示方法の見直し 54.8,29.2
就業時間(労働時間・休憩時間、休暇など)に関する配慮 24.7,13.3
雇用形態の変更 15.4,11.2
本人のプライバシーに配慮した上で、周りの従業員に障害内容や必要な配慮等を説明 36.3,18.9
コミュニケーション方法の工夫 37.5,15.0
本人が所属する部署内での定期ミーティングの設定 14.7,4.7
テレワーク(在宅勤務等)の導入  1.9,1.3
上司へのサポートスタッフの配置 10.4,3.0
支援機関の利用(相談) 23.2,13.7
その他 5.4,1.3
特に実施していない 1.2,0.0 
無回答 0.0,11.6
図2 職業生活上の問題に対して実施した支援や配慮

調査結果より

本調査研究の第1の意義として、採用後に発達障害が把握された従業員に関する大規模調査を行えたことが挙げられます。発達障害者の職場における課題や継続雇用に向けて職場が講じるべき対応策についての知見は蓄積されつつあるものの、採用後に発達障害が把握された従業員に関する大規模調査は管見の限り見当たらない状況において、障害者雇用状況報告の対象企業に対して大規模調査を実施し、実態を一定程度明らかにすることができたことは、意義があったと考えています。 

第2に、アンケート調査においては、採用後に発達障害が把握された場合と発達障害があることを把握して採用した場合の差異について質問し、約半数の企業から差異があるとの回答を得、採用後に発達障害が把握された場合特有の課題を自由記述にて収集できたことは、本調査研究のテーマを掘り下げることの必要性を再確認するという意味においても、意義のあることであったと考えています。

第3に、アンケート調査を通じてヒアリング対象を抽出し、多様な事例を収集することに成功したことは、事例蓄積という文脈において意義のあることであったと考えています。事例を通して、採用後に発達障害が把握されても支援や配慮が提供されることで雇用が継続され、活躍している従業員がいることに対する理解が深まること、また、同様の従業員に対して支援や配慮を提供する際の一助となることを期待しています。

第4に、収集した事例には、支援機関からの支援を受けていたものと、特段支援は受けていなかったものがありましたが、支援を受けていなかった事例についても収集できたことは、採用後に発達障害が把握されるという状況において、企業と採用後に発達障害を把握した従業員の双方が直面する困難を浮き彫りにしました。「支援」という文脈において多様な事例を収集できたことは、今後、同種の事例に対して支援機関が果たし得る役割を検討することに寄与し得ると考えています。

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