調査研究報告書 No.178
「実行機能」の視点を用いた効果的なアセスメント及び支援に関する研究
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発行年月
2025年03月
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キーワード
実行機能 認知機能 実行機能のアセスメント 就労支援プログラムの分析 フォーカスグループ・インタビュー
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職業リハビリテーション活動による課題領域の体系図・ICFによる課題領域の体系図 該当項目
執筆者(執筆順)
執筆者 | 執筆箇所 |
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宮澤 史穂 (障害者職業総合センター 上席研究員) | 概要、第1章、第3章、第5章 |
渋谷 友紀 (障害者職業総合センター 上席研究員) | 第2章、第4章 |
三浦 卓 (元障害者職業総合センター 上席研究員) | 第3章 |
研究の目的
実行機能とは、ある目標を達成するために思考と行動を調整する認知機能のことです。実行機能に困難があると、職場においては仕事の手はずや段取りが悪い、時間内・期限内に仕事を終えられない、といった課題が生じることが想定されます。本調査研究は、実行機能に困難のある対象者への効果的なアセスメント方法及び効果的な支援(介入)のポイントについて、就労支援プログラムの分析及び支援者を対象とした調査を通して明らかにすることを目的としました。
概要
本調査研究では、作業管理支援の支援記録の分析、実行機能に困難のある対象者への支援実施状況等に関する調査、実行機能に困難のある対象者への支援に関するフォーカスグループ・インタビューの3つの分析及び調査を実施しました。本調査研究の結果は、対象者の行動をより正確に理解し、支援仮説を効率的に生成するためのツールの1つとなると考えられます。
活用のポイントと知見
・実行機能の概念に基づいた支援プログラムである作業管理支援の支援記録を分析し、作業管理支援をより効果的に実施するための視点を示しました。
・実行機能に困難のある対象者への支援に関する調査結果から、対象者像を3つの類型に分類し、その類型ごとにアセスメントや支援のポイントを具体的に示しました。
・対象者の行動をより正確に理解し、支援仮説を生成する際の参考としてご活用いただけます。

対象者像の類型化
実行機能に困難のある対象者に生じていた困難について選択を求めました。さらに、対象者に生じた困難項目間の選択の類似性を明らかにするためクラスター分析を実施したところ、実行機能の下位項目が「シフト、情緒のコントロール、セルフモニタ、抑制」と「タスクモニタ、開始、計画・組織化道具の整理、ワーキングメモリ」の2つのクラスターに分類されたことから、1つ目のクラスターを「行動・感情制御」、2つ目のクラスターを「認知制御」としました。さらに、この結果に基づき、対象者像を「行動・感情制御困難型」、「認知制御困難型」、「複合困難型」の3つの困難類型に分類しました。

複合的な作業場面で観察された実行機能の下位項目の特徴
複合的な作業課題を実施する対象者の様子を観察し、実行機能の概念に基づいてアセスメントを行う「作業管理支援」では、2回の作業管理課題を行います。本調査研究では、2回の作業管理課題実施において、対象者が実行機能に関連する行動ができていたかどうかを評価した結果について分析しました。
その結果、実行機能の下位項目である「抑制」、「シフト」、「開始」、「ワーキングメモリ」、「道具の整理」において、作業管理課題の1回目より2回目の方がポジティブな結果が多くなっていました。また、「情緒のコントロール」、「計画・組織化」、「タスクモニタ」、「セルフモニタ」では、上記の下位項目に比べ、ポジティブな結果が少なくなっていました。
このように全体の傾向はあるものの、一方で、対象者ごとにポジティブな結果を示す下位項目やネガティブな結果を示す下位項目は微妙に異なっていました。例えば、あるケースでは2回目の作業管理課題で「抑制」や「計画・組織化」ができていた割合が向上し、別のケースでは「抑制」、「開始」、「ワーキングメモリ」、「計画・組織化」、「タスクモニタ」ができていた割合が向上しました。
作業管理課題の結果は、より一般性が高い全体的な傾向と個別の傾向が混ざり合ったものとして表れたと考えられます。個別の傾向は一時的なものである可能性もありますが、特定の対象者に特有の傾向として職場での課題と関連している可能性もあり、その人の作業特性を考えたり、対応を考えたりする際の参考になるかもしれません。
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