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-実行機能の概念を用いた支援の考え方-

調査研究報告書 No.178
「実行機能」の視点を用いた効果的なアセスメント及び支援に関する研究

執筆者(執筆順)

執筆者 執筆箇所
宮澤 史穂 (障害者職業総合センター 上席研究員) 概要、第1章、第3章、第5章
渋谷 友紀 (障害者職業総合センター 上席研究員) 第2章、第4章
三浦 卓 (元障害者職業総合センター 上席研究員) 第3章

研究の目的

実行機能とは、ある目標を達成するために思考と行動を調整する認知機能のことです。実行機能に困難があると、職場においては仕事の手はずや段取りが悪い、時間内・期限内に仕事を終えられない、といった課題が生じることが想定されます。本調査研究は、実行機能に困難のある対象者への効果的なアセスメント方法及び効果的な支援(介入)のポイントについて、就労支援プログラムの分析及び支援者を対象とした調査を通して明らかにすることを目的としました。

概要

本調査研究では、作業管理支援の支援記録の分析、実行機能に困難のある対象者への支援実施状況等に関する調査、実行機能に困難のある対象者への支援に関するフォーカスグループ・インタビューの3つの分析及び調査を実施しました。本調査研究の結果は、対象者の行動をより正確に理解し、支援仮説を効率的に生成するためのツールの1つとなると考えられます。

活用のポイントと知見

・実行機能の概念に基づいた支援プログラムである作業管理支援の支援記録を分析し、作業管理支援をより効果的に実施するための視点を示しました。
 ・実行機能に困難のある対象者への支援に関する調査結果から、対象者像を3つの類型に分類し、その類型ごとにアセスメントや支援のポイントを具体的に示しました。
 ・対象者の行動をより正確に理解し、支援仮説を生成する際の参考としてご活用いただけます。

3つのエピソード例について、①本人の特性、②支援者の対応として、a)本人への働きかけとb)環境への働きかけを説明している。
エピソード例1(行動・感情制御困難型)の①本人の特性は感情や行動の抑制・シフトに課題がある。
②支援者の対応のa)本人への働きかけは、「気づき(自己や自己の周囲の状況の理解)の促進」と、「気づきに対応する行動の獲得」。b)環境への働きかけは、「本人の状況を周囲が理解することを目指す」と「対応策についても、場合によっては本人を交え共有」
エピソード例2(認知制御困難型)の①本人の特性は「指示が覚えにくい」と「計画的な行動が苦手」
②支援者の対応のa)本人への働きかけは、「本人のスキル向上を目指す」と「抽象的な指示等を具体的な行動に落とし込む練習やツールの活用」。b)環境への働きかけは、「担当社員による声掛けやフィードバックを促す」と「指示出しなどに際し、補完手段の活用を促す」
エピソード例3(複合困難型)の①本人の特性は「課題の背景に認知機能の困難」と「社会人の基礎がない」。
①支援者の対応のa)本人への働きかけは、「適応的な行動の確立を目指し、淡々と根気強く接する」と「社会人教育(知識付与)が有効である場合も」。b)環境への働きかけは「目標とする行動や優先順位を明らかにする」
3つのエピソード例のまとめとして、エピソード例1~3は支援の当面の目標設定が異なることと、目指すところは、いずれも本人及び周囲の困り感の解消であることを挙げている。

対象者像の類型化

実行機能に困難のある対象者に生じていた困難について選択を求めました。さらに、対象者に生じた困難項目間の選択の類似性を明らかにするためクラスター分析を実施したところ、実行機能の下位項目が「シフト、情緒のコントロール、セルフモニタ、抑制」と「タスクモニタ、開始、計画・組織化道具の整理、ワーキングメモリ」の2つのクラスターに分類されたことから、1つ目のクラスターを「行動・感情制御」、2つ目のクラスターを「認知制御」としました。さらに、この結果に基づき、対象者像を「行動・感情制御困難型」、「認知制御困難型」、「複合困難型」の3つの困難類型に分類しました。

実行機能に困難のある対象者に生じていた困難について選択を求めた結果を横棒グラフで示している。割合は選択率が高い順に、「状況に応じて行動や考え方を柔軟に変えることができない(シフト)(56.2%)」、「感情的な反応を適切に調節することができない(情緒のコントロール)(56.2%)」、「自分の行動が他人に与える影響を認識することができない(セルフモニタ)(49.5%)」、「衝動をコントロールできない(抑制)(48.6%)」、「作業の実施中や終了後に、ミスがないか確認して評価することができない(タスクモニタ)(31.4%)」、「自発的に課題や活動を始めることができない(開始)(24.8%)」、「段階を踏んで作業を進めることができない(計画・組織化2)(23.8%)」、「作業を実施するための手順を事前に作成することができない(計画・組織2化2)(23.8%)」、「仕事場を整頓し、作業に必要な道具を管理することができない(道具の整理)(22.9%)」、「作業を完了するために、情報を記憶することができない(ワーキングメモリ)(22.9%)」、「目標を設定することができない(計画・組織化1)(19.0%)」、「その他(10.5%)」であった。

複合的な作業場面で観察された実行機能の下位項目の特徴

複合的な作業課題を実施する対象者の様子を観察し、実行機能の概念に基づいてアセスメントを行う「作業管理支援」では、2回の作業管理課題を行います。本調査研究では、2回の作業管理課題実施において、対象者が実行機能に関連する行動ができていたかどうかを評価した結果について分析しました。
その結果、実行機能の下位項目である「抑制」、「シフト」、「開始」、「ワーキングメモリ」、「道具の整理」において、作業管理課題の1回目より2回目の方がポジティブな結果が多くなっていました。また、「情緒のコントロール」、「計画・組織化」、「タスクモニタ」、「セルフモニタ」では、上記の下位項目に比べ、ポジティブな結果が少なくなっていました。
このように全体の傾向はあるものの、一方で、対象者ごとにポジティブな結果を示す下位項目やネガティブな結果を示す下位項目は微妙に異なっていました。例えば、あるケースでは2回目の作業管理課題で「抑制」や「計画・組織化」ができていた割合が向上し、別のケースでは「抑制」、「開始」、「ワーキングメモリ」、「計画・組織化」、「タスクモニタ」ができていた割合が向上しました。
作業管理課題の結果は、より一般性が高い全体的な傾向と個別の傾向が混ざり合ったものとして表れたと考えられます。個別の傾向は一時的なものである可能性もありますが、特定の対象者に特有の傾向として職場での課題と関連している可能性もあり、その人の作業特性を考えたり、対応を考えたりする際の参考になるかもしれません。

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