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資料シリーズ No.106
作業管理支援のアセスメントプロセスに関する調査研究

  • 発行年月

    2023年03月

  • キーワード

    実行機能 アセスメント 認知モデル 発達障害 模擬的職業場面

  • 職業リハビリテーション活動による課題領域の体系図・ICFによる課題領域の体系図 該当項目

    訓練/支援プログラムの効果検証

執筆者(執筆順)

執筆者 執筆箇所
宮澤 史穂 (障害者職業総合センター 研究員) 概要、第1章、第2章第2節
渋谷 友紀 (障害者職業総合センター 研究員) 第2章、第3章

研究の目的

「在職中又は休職中の発達障害者に対する作業管理支援」(以下「作業管理支援」という。)は、模擬的な職業場面において職業的な課題を実行機能の観点からアセスメントし、支援を行うプログラムです。本調査研究は作業管理支援を実施する支援者の認知プロセスに関するモデルを作成することを目的としました。具体的には、作業管理支援の支援記録を分析対象とし、実行機能のアセスメントの結果や、受講者の行動に関する記述について、量的及び質的な分析を行いました。

活用のポイントと知見

  • 作業管理支援において、作業管理上の課題をアセスメントする際の参考資料としてご活用いただけます。
  • 作業管理に課題のある者への支援を検討する際の参考資料としてご活用いただけます。

作業管理支援について

作業管理支援は、障害者職業総合センター職業センターが開発した支援プログラムであり、受講者の作業管理能力・作業管理上の課題について、実行機能の側面からアセスメントし、個々の特性に応じた対処法の検討を可能にすることを目的としています。作業管理支援には3つのフェイズがあり、段階的に受講者の作業管理能力を高めていくように構成されています。
 まずフェイズ1では、フェイズ2と3で実施する課題に慣れることや、手帳に予定を記入し、参照する行動習慣の形成等を目的としたトレーニングを実施します。
 次に、フェイズ2では、実践的な作業管理能力が求められる作業課題を実施し、受講者の作業管理能力に関するアセスメントを行い、その結果に基づく対処方法の検討を行います。
 最後に、フェイズ3では、フェイズ2と同様の課題を実施し、フェイズ2で検討した作業管理上の課題に関する対処方法の実践的活用、職場での活用に向けたトレーニングを実施します。フェイズ2と同様のアセスメントも実施しますが、支援者は課題の実施期間中に、対処方法を活用するタイミングや、より効果的な実施方法についての助言を行います。課題遂行中のアセスメントは、「行動観察シート」を利用して実施し、実行機能に関連した行動の評価や、行動観察の結果について記録を行います。
 実行機能に関連した行動の評価は、「抑制」、「シフト」、「情緒のコントロール」、「開始」、「ワーキングメモリ」、「計画・組織化」、「道具の整理」、「タスクモニタ」、「セルフモニタ」、「コミュニケーション」の10の観点から実施します。

実行機能の達成率の変化

本調査研究では、プログラムを開発する過程で実施された3つのケースについて分析を行いました。ここでは、シングルケースデザイン法の考え方に則り、対処方法・補完方法の導入による受講者の実行機能に関連した行動の評価がフェイズ2からフェイズ3にかけてどのように変化しているのかについて、検討を行いました。それぞれの行動の達成状況の評価を得点化したものを「達成率」として、実行機能ごと及びケースごとに変化を示しました(表1)。3ケースを併せてみると、傾向として、多くの実行機能で達成率の上昇がみられましたが、「タスクモニタ」では下降しました。

抑制は、全ケースにおいて達成率は上昇。シフトはケース3では下降。情緒のコントロールは、ケース1とケース3では達成率は上昇しているが、ケース2では下降。開始では、ケース1は達成率が100パーセントのまま横這い。ケース2では上昇しているが、ケース3では0パーセントのまま横這い。ワーキングメモリは、ケース1では100パーセントのまま横這い。ケース2とケース3では上昇であった。計画・組織化は、全ケース達成率は上昇。道具の整理は、全ケースで達成率が100パーセントの横這い。タスクモニタはケース1、ケース3は達成率が共に下降。上昇したのはケース2のみであった。セルフモニタは、ケース1とケース3共に達成率が上昇し、ケース2のみ100パーセントのまま横這いであった。そしてコミュニケーションはケース1とケース3共に達成率は上昇、ケース2のみ下降した。
表1 実行機能の達成率のフェイズ2からフェイズ3の変化

作業管理支援プロセスモデル(試作版)

作業管理支援は、「指示受け」、「作業予定・計画立案」、「作業実施」、「結果確認」、「報告・相談」の5つの作業工程から構成されています。本研究では、作業工程ごとにモデルを作成しました。ここでは、「指示受け」のモデルについて示し(図1)、見方について説明します。
 モデルは大きく以下の①から③の3つの部分に分けられます(図1の①~③と対応しています)。

① 実行機能関連行動

各作業工程において実行機能に関連した対象者の行動を時系列に沿って左から右に並べています。対象者の行動は実施される場合と実施されない場合があります。実施された状態を上段のオレンジ色のボックスに、実施されなかった状態を下段の青色のボックスに示しています。最上部の赤色の矢印型のボックスは、対象者がその行動をとる際に関連しうる実行機能を示しています。

② 未達成状態の例

ある行動が期待される場面において、それが実施されない状態を生じさせる原因は一つではなく、対象者の特性やその場の状況によって様々なものが考えられます。本モデルでは、これらを「未達成状態の例」とし、支援記録から読み取れた内容を中心として示しました。具体的には、支援記録(観察メモ)から抽出した例を青枠のボックスに黒文字で、それ以外で想定しうる例を青塗のボックスに白文字で示しました。

③ 対処・支援事項の例

ここでは、「未達成状態の例」で挙げられた項目に対応する対処事項や支援事項を「自己の行動」と「環境・他者との関係」に分けて示しました。モデルでは、支援記録(観察メモ)から抽出した例をオレンジ色枠のボックスに黒文字で、それ以外で想定しうる例をオレンジ色塗のボックスに白文字で示しました。
 また、同一の番号が振ってある「未達成状態の例」と「対処・支援事項の例」はそれぞれ対応するものであることを示しています。

モデルは大きく①実行機能関連行動、②未達成状態の例、③対処・支援事項の例に分けられる。①実行機能関連行動は、上段が期待される行動、下段には期待される行動がとれない場合が書かれている。指示受け場面で最初に期待される行動は「指示を聞く態勢をとる」である。できない場合は、「指示を聞く態勢をとらない」である。②未達成状態の例として、ひとつは、「注意を向けるまでに時間がかかる」、もうひとつは「目新しく、騒々しい環境があると集中できない」を挙げている。③対処・支援事項の例は、まず自己の行動として「妨害刺激の除去や軽減」をあげている。環境・他者との関係として「理由を確認し、必要な時間であれば配慮する」、「声掛けをする」、「妨害刺激の除去や軽減」をあげている。以降も作業を継続していくごとに支援者による指示出しと、それに応じた対象者の行動が繰り返されるモデルが示されている。
図1 「指示受け」のモデル図
※ 本書はダウンロード版のみであり、印刷物の配布は行っておりません。

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