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-難病の医療・生活と就労の支援の連携の課題-

資料シリーズ No.79
保健医療機関における難病患者の就労支援の実態についての調査研究

執筆者(執筆順)

執筆者 執筆箇所
春名 由一郎 (障害者職業総合センター 主任研究員) 第1章~第3章
片岡 裕介 (障害者職業総合センター 研究協力員) 第2章第9節

活用のポイント

疾病性と障害性をあわせもつ難病の特性を踏まえ、難病患者が就職し就業を継続するために、医療と労働のより直接的で密接な連携のあり方について、わが国の難病関連の保健医療機関の実態調査の結果、及び、有識者の議論を踏まえて明らかにした。地域の就労支援関係機関と、職業生活と疾患管理の両立の支援に取り組む医療機関の双方の共通認識の形成、及び、今後の医療と就労支援の統合的な支援に向けた取組への活用を期待したい。

研究の目的と方法

医療の進歩により難病の慢性疾患化が進み、難病患者にとって、病気をもちながらの社会参加の促進が新たな重要課題となっており、労働分野でも支援体制の整備が急がれている。本研究は、難病のある人の就職・復職や職業生活の安定等のための医療機関等における取組の実態を把握するとともに、今後のハローワークや地域障害者職業センター等との連携のあり方を検討することを目的とし、国の難治性疾患に指定されている疾患の治療・医療・生活支援に取り組んでいる病院や診療所、保健所、難病相談・支援センター等において、当該疾患患者の職業生活と疾患管理の両立に関する相談や支援・治療の主担当者(3,332機関5,421部署)へのアンケート調査を実施し、全国の1,134機関1,339部署からの回答を得た(回収率は機関34.0%、部署24.7%)。

研究の結果得られた知見

本調査の結果、難病患者の就労支援について、保健医療分野においても、多くの未解決課題が認識されるようになっているが、支援体制については、関係機関・職種における役割分野や連携への共通認識が不足し、治療と仕事の両立支援のために医師の役割が大きい一方で医療ソーシャルワーカーや保健師の関わりが弱い傾向や、十分な支援体制のない難病相談・支援センターに支援困難事例が集中している状況等、様々な課題が明らかになった。

その調査を踏まえ、難病患者の就労支援においては、難病患者による治療と仕事の両立に向けた取組を保健医療と労働の両分野から効果的に支えることにより、深刻な就労問題に至ることを予防、早期発見・早期対応することが第一に重要であるとともに、医療・生活・就労の複合的な問題状況への多職種チーム支援体制の整備も必要であることを提言した。

  • 現状では、保健医療機関における難病患者の治療と仕事の両立支援ニーズへの対応は、医師等による患者への医学的助言に限られ、その後の問題解決は患者本人と職場の対応に委ねられている。その結果、治療と仕事の両立課題に対しては問題が深刻化するまで地域支援の対象にはなりにくく、悪循環によって深刻化した医療・生活・就労の複合的課題への対応が、難病相談・支援センターと就労支援機関の支援困難状況となっている。
  • 労働分野における難病就労支援への役割と保健医療分野の連携のあり方は、難病患者自身による治療と仕事の両立が特に困難となっている局面において、保健医療と労働の両分野の専門性が補完し合うものとすることが効果的である。そのような具体的な局面には、①無理なく能力を発揮できる仕事の検討、②職場の配慮の確保、③疾患自己管理と職場での対処スキル、④生活・人生の質向上への社会的支援の活用、がある。
  • 地域関係機関・職種の体制整備と人材開発については、治療と仕事の両立支援による就労問題の深刻化の予防のために、患者自身のへのセルフマネジメント力を高める自己学習ツールの整備と一体的に、それを支える保健医療と労働の支援・制度等の機能的な役割の共通認識と相互活用を促進することが第一に重要である。さらに、保健医療と労働の各機関・職種単独では対応が困難な医療・生活・就労の複合的支援ニーズに対応できる多職種チームの体制整備も必要である。

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