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-認知機能障害者に対するカウンセラーの支援手法の抽出・紹介-

資料シリーズ No.59
認知に障害のある障害者の自己理解促進のための支援技法に関する研究

執筆者(執筆順)

執筆者 執筆箇所
内田 典子 (障害者職業総合センター 研究員) 概要、第1章~第2章、第4章
中村 梨辺果 (障害者職業総合センター 研究員) 第2章~第3章、終章

活用のポイント

成果物「認知に障害のある人に対する相談補助シート」と共に、認知機能障害者の支援経験が少ない支援者を中心に、相談業務において、自らの支援方法や進捗状況の整理・確認に活用し、対象者の自己理解促進に資することを考えている。

研究の目的と方法

現在では、脳画像診断の発展等により、高次脳機能障害だけでなく、発達障害や精神障害においても、広く認知機能障害があると認識されているが、これまで障害者手帳上の障害ではなく、認知機能障害の観点から彼らの障害特性や就労支援における困難性を整理したことはなかった。今後、このような利用者を支援していくために、どのような支援が必要なのか、地域障害者職業センター(以下「地域センター」という。)を対象に、障害者職業カウンセラー(以下「カウンセラー」という。)が認識している“認知機能に障害のある利用者(以下「利用者」という。)”の実態、就労支援上の課題、支援方法について調査し、その就労支援技法について、整理・検討を進めることを目的とした。

本研究では、地域センターに対するアンケート調査及びヒアリング調査、認知や認知機能等に関する文献調査、就労支援を進めるためのツールの開発と試行を実施した。

研究の結果得られた知見

1 アンケート調査

3ヶ月間の新規利用者3,060名中約4割に認知機能障害があり、そのうち約7割が認知機能障害を重複していた。また、こうした利用者に対するカウンセラーの支援手法として、5領域(「現実検討のしやすさを助ける」「自己評価スキルの伸張を助ける」「自己対処の実行可能性を高める」「自己有用性の向上を図る」「支える仕組みを強化する」)23手法を抽出した。特に、「現実検討のしやすさを助ける」は、物事の捉え方に関するヒントやモデル等の“利用者がより良く認知を働かせること”を助ける「認知的スキルの支援」が含まれており、自己理解の基礎を形成する手法領域と考えられた。

2 ヒアリング調査

カウンセラーは、支援初期から“利用者自身が何をどう思っているかを捉える力”=「メタ認知能力」に関するスキルに強い関心を持っていた。利用者のメタ認知能力は、「認知的スキルの支援」の必要性と関連し、必要性の高い利用者ほど、カウンセラーは多くの留意事項に注意を配分することが求められるため、非常に複雑な支援を要していると考えられた。

1、2より、利用者に対するカウンセラーの支援技法とは、利用者の認知的スキルのアセスメントに基づき、上述5領域のどれに比重を置いて支援を展開するか等を見立て、手法を組み合わせていく技術と言え、カウンセラー自身にとっても認知的負荷の高いものであった。そこで、カウンセラーの認知的負荷軽減のために「認知に障害のある人に対する相談補助シート」を作成した。このシートは、試行を通じて「自身の支援の進捗整理に役立った」、「若いカウンセラーに対するスーパーバイズや研修でも使える可能性がある」等の評価が得られている。

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