(ここから、本文です。)
職場での障害者との情報共有 課題、配慮、工夫

調査研究報告書 No.179
職場における情報共有の課題に関する研究-オンラインコミュニケーションの広がりなど職場環境の変化を踏まえて-

執筆者(執筆順)

執筆者 執筆箇所
伊藤 丈人 (障害者職業総合センター 上席研究員) 概要、第1章、第3章、第4章
大石 甲 (障害者職業総合センター 上席研究員) 第2章(第3節の1、2を除く)
永登 大和 (障害者職業総合センター 研究協力員) 第2章第3節の1、2、巻末資料

研究の目的

職場での情報のやり取りについて、障害を起因とした課題に直面する障害者は少なくありません。本調査研究では、企業と障害者を対象としたアンケート調査及びヒアリング調査を実施することにより、職場での情報のやり取りについて障害者が直面している課題やそれらの解消のために職場で行われている配慮、障害者による工夫について明らかにすることを目的としました。

概要

調査の結果、①企業と障害者の間で情報共有の困難性に関する認識の傾向が一致している障害種別と相違がある障害種別があること、②業務指示を行う場面と、業務指示以外の情報共有を行う場面のそれぞれの状況と、対象となる障害者の特性の両方を考慮した配慮や工夫が行われていること、そして③多様なオンラインコミュニケーション手段の活用が障害者との情報のやり取りに好影響を与えている一方で、対面でのやり取りの有用性が認識されていることなどが明らかとなりました。

活用のポイントと知見

本調査研究では、障害者が働く職場での情報共有に関する課題や、それらを解消するための企業からの配慮や障害者の工夫について、具体的な事例を含めて取り上げています。障害者が働く職場の実態を知るための基礎資料として、また、企業が障害者への配慮について検討する際の参考資料として、ご活用いただけます。

障害種別に示した8つの折れ線グラフ。縦軸は回答割合で0%から75%まで25%刻み。横軸は困難の頻度に関する4段階の項目(頻繁にある、ときどきある、ほとんどない、まったくない)。各グラフは、障害者および当該障害種別の障害者を雇用する企業それぞれの困難の頻度に関する回答割合の類似、もしくは乖離具合を示すために2本の折れ線を重ねて配置している。業務指示の伝達や把握における困難について、8つの障害種別のうち、聴覚・言語障害および発達障害では、障害者と企業で認識に乖離が見られ、企業よりも障害者の方が困難を感じる状況が多かった。
以下、項目名「頻繁にある」の割合、「ときどきある」の割合、「ほとんどない」の割合、「まったくない」の割合の順に表記。
視覚障害:企業0.0%,21.9%,59.4%,18.8%
視覚障害:障害者10.3%,27.6%,34.5%,27.6%
聴覚・言語障害:企業6.4%,37.2%,47.4%,9.0%
聴覚・言語障害:障害者11.5%,62.3%,23.0%,3.3%
肢体不自由:企業0.4%,5.4%,28.6%,65.6%
肢体不自由:障害者4.7%,12.9%,35.7%,46.8%
内部障害:企業0.6%,3.0%,21.9%,74.6%
内部障害:障害者6.7%,7.4%,23.7%,62.2%
知的障害:企業,6.6%,44.4%,43.8%,5.3%
知的障害:障害者,8.9%,34.1%,36.6%,20.3%
精神障害:企業6.1%,36.2%,41.3%,16.4%
精神障害:障害者6.4%,36.2%,39.7%,17.7%
発達障害:企業2.6%,46.2%,48.7%,2.6%
発達障害:障害者12.7%,55.7%,25.3%,6.3%
難病(指定難病):企業 0.0%,11.5%,38.5%,50.0%
難病(指定難病):障害者,5.9%,20.6%,41.2%,32.4%
図 業務指示の伝達・把握に関する困難の頻度の認識

企業と障害者を対象とした調査

本調査研究の特徴の一つとして、企業と障害者の双方を調査対象としたことが挙げられます。そのため、情報共有の課題に関する双方の認識を比較することができました。例えば企業と障害者に対するアンケート調査では、図に示したように、業務指示に関する情報共有の困難の頻度について、企業と障害者の認識の傾向が一致している障害種別と、乖離がある障害種別があることが分かりました。乖離が大きかったのは聴覚・言語障害と発達障害であり、これらの障害種別では障害者の方が企業より困難を感じていることが伺われました。この結果を踏まえると、認識の相違が生じる可能性を考慮し、日ごろのコミュニケーションを充実させるなど、企業が障害者の困難に気づくよう努めることが望まれます。

また、企業と障害者の双方に対してアンケート調査とヒアリング調査を実施したため、職場からの配慮と障害者による工夫の両方を広く紹介し、整理することができました。代表的な配慮や工夫として次のようなものが行われていることが、アンケート調査とヒアリング調査によって明らかとなっています。

業務指示に当たっては、知的障害又は精神、発達障害といった認知機能に障害のある障害種別では、指示内容を簡潔に改める配慮や、複数の指示を区切って順番に伝えたり優先順位を明確にしたりする配慮を行うことで、認知的負荷を減らし、指示内容をその場で確認することも含めて、指示内容が正確に伝わるよう努めていることが示されました。また聴覚・言語障害や視覚障害といった感覚機能に障害のある障害種別では、本人の受け取りやすい媒体・方法で情報提供を行うことで、業務指示が間違いなく伝わるように配慮されていることが分かりました。

一方、障害者による工夫として、その場で質問したりメモを取ったりするなど、就労を巡り一般的に行われる工夫が見られたほか、聴覚・言語障害において聞こえ方に配慮したコミュニケーション手段の使用や、書面で指示をもらえるよう企業側へ依頼するなどの工夫が見られました。

さらに配慮や工夫は、業務指示以外の職場での情報のやり取りに関しても行われていることが分かりました。企業からの配慮としては、様々な連絡事項を障害者に周知していく取組と、業務以外の交流活動に障害者も受け入れていく取組がありました。連絡事項の周知については、視覚障害者にとっては動線や物の位置に関する情報が有用であることや、聴覚障害者に対して研修内容の情報保障が行われていることなどが、ヒアリングで把握されました。認知機能に障害のある障害者への、業務指示以外の情報共有に関する配慮としては、情報を整理したり、優先順位をつけたりすることを支援する取組が把握され、具体的には情報確認のリマインド、書類対応に関する進捗管理などの取組がヒアリングで聴取されました。

様々な行事への受け入れについては、自然な形で障害者を受け入れている様子を企業から聞き取れたほか、障害者からの声として、社内のイベントや行事に積極的に参加して他の社員や関係者と交流を深めることの楽しさ、充実感を聞き取ることができました。その一方、休憩中には雑談などはせず、一人で静かに過ごしたいとする声もあり、それを尊重しているとの企業側の指摘もありました。

このように本調査研究では、職場の情報共有について企業と障害者が行っている配慮や工夫を、できるだけ多く示しています。職場での情報のやり取りが円滑に行われることは、組織の生産性向上に不可欠なだけでなく、社員にとって働きやすく、風通しの良い職場づくりにも役立つと考えられます。本報告書が、障害者と周囲の方々が、共に生き生きと働ける職場を目指す際の一助となれば幸いです。

ダウンロード

サマリー

全文

冊子在庫

あり

関連する研究成果物