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調査研究報告書 No.65
精神障害者へのジョブコーチ支援の現状-職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援事業を対象とした調査結果-

執筆者(執筆順)

執筆者
堀 宏隆 ((障害者職業総合センター 研究員))

(目的・方法)

精神障害者へのジョブコーチ支援は、①地域障害者職業センター(以下「地域センター」という。)における「職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援事業」(以下「ジョブコーチ支援事業」という。)、②医療法人や社会福祉法人による就労支援サービス、③地方自治体の就労支援事業に大別されるが、本研究では、これらのうち特に支援事例数が多いと思われるジョブコーチ支援事業における精神障害のある利用者の課題、具体的な支援内容、時系列でみた支援内容の変化などの実態を把握することを目的とし、地域センターを対象とした調査(質問紙、訪問ヒアリング)を実施した。

(結果の概要)

5章からなる研究報告書の概要は、以下のとおりである。

第1章では、ジョブコーチ支援の経緯、精神障害者への適用状況に触れ、本報告書の目的と方法を述べた。

第2章では、平成14年度以降に地域センターのジョブコーチ支援事業を利用した精神障害者を対象に、支援対象者(「障害者」、「事業主」、「家族」)別の支援内容を明らかにするとともに、支援開始時期別の支援状況及びフォローアップの実施状況等に関し、知的障害者のデータと比較することを目的に行った調査の結果を記載した。

調査の結果、①障害者支援では「職務遂行」、「基本的労働習慣」、「不安、緊張感、ストレスの軽減」、「人間関係、職場内コミュニケーション」を中心に支援を実施していること、②事業主支援では、「障害に係る知識」、「職場の従業員の障害者との関わり方」、「職務遂行の指導」、「職務内容の設定」を中心に支援を行っていること、③家族支援では、「職業生活に必要な知識・家族での支援体制の確立」に多くの支援を当てていること等が各々明らかになった。

また、平成12年から同13年にかけて行われた「ジョブコーチによる人的支援パイロット事業(以下「パイロット事業」という。)における知的障害者のデータとの比較の結果、精神障害者の場合は①集中支援期から移行支援期にかけて、支援回数の減少する割合が低いこと、②事業終了後のフォローアップでは障害者職業カウンセラー(以下「職業カウンセラー」という。)や関係機関職員の関わる割合が高いこと等が明らかになった。

第3章においては、障害者支援に限定し、ジョブコーチ支援事業の実施期間別(「集中支援期」、「移行支援期」)の支援状況、ジョブコーチの種類(「協力機関型ジョブコーチ」、「配置型ジョブコーチ」)別の支援内容の違い等を分析することを目的に行った調査結果を記載した。

調査の結果、支援時期全てを通じて「不安、緊張感、ストレスの軽減」と「基本的労働習慣」についての支援が、「職務遂行」についての支援より上回って実施されていることが顕著な特徴であった。また、「不安、緊張感、ストレスの軽減」のための支援方法としては、「観察、状況把握」や「適宜行う聴き取り、相談」が最も使用されており、「基本的労働習慣」については「就労による身体的疲労」、「服薬・体調管理」、「生活リズム(食事、睡眠等)」に関する支援を行っていることも明らかになった。

一方、協力機関型ジョブコーチと配置型ジョブコーチについては、支援期全般で見ると大きな差異は見られず同様な支援を実施している状況にあったが、支援時期別に見ると、協力機関型ジョブコーチは「不安、緊張感、ストレスの軽減」と「職務遂行」に支援の重点を置いており、配置型ジョブコーチは「基本的労働習慣」を重視した支援を行っている傾向が窺えた。

第4章では、量的データには現れない実際の事例を通じた支援の現状を把握することを意図し、精神障害者を利用者とする施設で協力機関型ジョブコーチを活用した事例について、職業カウンセラーと協力機関型ジョブコーチの各々に、精神障害者に対するジョブコーチ支援を知的障害者に対するジョブコーチ支援と比較した特徴等を構造化面接を通じて聴取した。

その結果、精神障害者の場合は、ヒアリングした全ての職業カウンセラーが「病状(障害)の変化」に沿った支援が求められることを指摘し、集中支援期での職務遂行を中心とする適応の程度で、採否の予測等の目処を立てることが困難なことを指摘する者もいた。

また、ジョブコーチからのヒアリングでは、医療情報の収集の必要性の他、作業内容の教示を指示的には行わず、利用者からの働きかけを待ったり、場合によっては手の抜き方を教示することが重要であることが指摘された。

最後の第5章は、これら2回の質問紙等による調査、ヒアリングの結果についての考察をまとめた。第1節でジョブコーチ支援事業での精神障害者への支援の特徴、第2節で支援対象者(「障害者」、「事業主」、「家族」)別の具体的な支援方法、そしてこれらの考察を踏まえて第3節では、本研究の限界と今後の課題に言及した。

目次

  • 第1章 問題の所在と目的
    • 第1節 ジョブコーチ支援の経緯、精神障害者への適用状況
    • 第2節 問題の所在
    • 第3節 目的・方法・本書の構成
    • 第4節 ジョブコーチ支援事業の概要
    • 引用・参考文献
  • 第2章 支援対象(障害者、事業主、家族)別の特徴
    • 第1節 目的と方法
    • 第2節 調査結果
    • 第3節 まとめと考察
  • 第3章 支援時期、ジョブコーチの類型別の特徴
    • 第1節 目的と方法
    • 第2節 調査結果
    • 第3節 まとめ
    • 第4節 考察
  • 第4章 協力機関型ジョブコーチを活用した支援の特徴
    • 第1節 目的と方法
    • 第2節 調査結果
    • 第3節 まとめ
    • 第4節 考察
  • 第5章 総合考察
    • 第1節 ジョブコーチ支援事業での精神障害者への支援の特徴
    • 第2節 支援対象(障害者、事業主、家族)別の具体的な支援方法
    • 第3節 本研究の限界と今後の課題
    • 引用・参考文献
  • 付録① 第1次調査 調査票(「調査票1」「調査票2」「様式第2-1号 支援計画」「様式第2-2号 進捗状況報告」「様式2-4号 支援総合記録」)
  • 付録② 第1次調査 事例別支援内容の推移(「障害者支援」「事業主支援」「家族支援」)
  • 付録③ 第2次調査 調査票
  • 付録④ 第2次調査 支援領域別にみた支援実施状況の詳細
  • 付録⑤ 第2次調査 支援時期別ジョブコーチ類型からみた支援領域別の実施状況

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