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調査研究報告書 No.56
「学習障害」を主訴とする者の就労支援の課題に関する研究(その2)

執筆者(執筆順)

執筆者 執筆箇所
望月 葉子 (障害者職業総合センター 主任研究員) 概要、第1章、第2章、第4章、資料
向後 礼子 (職業能力開発総合大学校 福祉工学科講師(※)) 第3章、資料
(※)前 障害者職業総合センター研究員

(目的・方法)

一様に「学習障害」を主訴とする場合でも、青年期に至り、知的障害や精神障害などの特性が主たる支援の対象になるなど、様々な事例がある。そこで、青年期の特性によって「学習障害」を詳細に区分し、特性と職業的課題について分析したうえで、成人期の「学習障害」者の効果的な支援サービスのあり方を検討する際に必要とされる基礎資料を作成することを目的としている。

「学習障害」青年の職業適応上の問題点に焦点をあて、職業リハビリテーションの課題について検討を行った。具体的には、①職業評価並びに面接調査による事例の収集並びに解析、②学齢期から青年期に至る過程で現われる変化の様相の検討、③青年期における「学習障害」者の状態像の区分、を通して、移行支援の課題を整理した。

なお、ここでは“職業選択に際して、文部科学省の学習障害の定義とは異なる特性を検討することになった事例”という意味で「学習障害」主訴という表記を用いている。

(結果の概要)

問題の所在とその解明のための視点を整理するために、学習障害の定義をめぐる問題を整理し、事例に基づいて、「学習障害」を主訴とする青年の就労支援の課題を検討した。

障害者職業総合センターで実施した8年間の研究成果を通して出会った「学習障害」の事例の数々は、以下のような事実を明らかにした。

  • ① 「学習障害」児は、青年期に至る過程でその状態像を変えていく場合がある。
  • ② 青年期において、職業リハビリテーションのサービスを必要としない対象者群がいる一方で、知的障害や精神障害のために用意されたサービスを利用して就労準備をすることが必要となる対象者群がいる。
  • ③ 青年期に学習障害の状態像のみを有することにより、職業リハビリテーション・サービスを必要とする青年は極めて少ない。

したがって、職業リハビリテーションにおいては、学齢期に医学的診断や教育的判断によって学習障害とされた場合であっても、求職活動を行う時点で実施した職業評価を踏まえて障害特性を把握したうえでサービスの利用を勧めることを基本とすることになる。

「学習障害」青年の就労をめぐる中心的な問題は、こうした状態像の変化に対応する学校から職業への移行類型を複線化することが必要であるという点について、「学習障害」をめぐる関係者に共通理解が形成されていないことに起因する。移行類型の複線化とは、一般扱いで移行が可能な場合もあるが、職業リハビリテーションのサービスを利用する場合もあるということを意味する。このため、職業選択に際しては再評価が必要である。しかし、学習障害と診断された、もしくは学習障害として教育的対応を必要とすると判断された生徒の発達に即した指導内容として、移行類型の複線化の必要性は明記されていない。したがって、特別支援教育からの移行支援システムにおいて職業リハビリテーションとの連携をどのように構築するのかを検討することが急務である。

目次

  • 概要
  • 第1章 青年期における「学習障害」主訴をとらえる視点
    • 第1節 「学習障害」の定義をめぐって
      • 1.文部省調査研究協力者会議「中間報告」から「報告」まで
      • 2.診断をめぐって
      • 3.医学用語と教育用語の間で
    • 第2節 学齢期におけるLDのとらえ方をめぐって
      • 1.LDをどうとらえるか・・・知的機能についての考え方
      • 2.LDをどうとらえるか・・・障害特性の範囲についての考え方
    • 第3節 主訴に含まれる障害特性とその出現率
      • 1.文部科学省の調査結果から
      • 2.その他の知見から
      • 3.発達障害という特性が示唆すること
    • 第4節 まとめ・・・定義と学齢期の研究的知見からとらえた青年期LDの像
  • 【文献】
  • 第2章 「学習障害」主訴の事例からみた職業選択をめぐる支援の課題・・・青年期における障害特性を記述するための視点
    • 第1節 療育手帳・知的障害判定によるサービスを検討した事例
      • 1.新規高卒就職を希望した事例
        • (1)周囲の期待を喚起しやすいAさんの事例:高等学校普通科を卒業して学校紹介で就職
        • (2)あくまでも頑張り続けたBさんの事例:中学校通常学級卒業、専修学校高等課程を終了して学校紹介で就職
        • (3)”できないのは配慮がないせい”と主張するCさんの事例:中学校通常学級卒業、専修学校高等課程を修了して学校紹介で就職
        • (4)”弱い立場の人の役に立つ仕事をしたい”と希望したDさんの事例:高等学校商業科を卒業して学校紹介の就職を希望するが不採用
      • 2.新規高卒就職をしなかった事例(その1)・・・高校中退並びに卒業後の進路未決定について
        • (1)安心できる居場所をどこにも見つけられなかったEさんの事例:高等学校普通科を中退
        • (2)就職のために保護者が中退をすすめたFさんの事例:通信制高等学校中退
        • (3)障害児学級に違和感の大きかったGさんの事例:高等学校生活科を卒業、進路先未決定
        • (4)通常学級に違和感の大きかったHさんの事例:定時制高等学校卒業、進路先未決定
      • 3.新規高卒就職をしなかった事例(その2)
        • (1)障害者に違和感をもって”自分探し”を続けるIさんの事例:高等学校職業科卒業後、専修学校一般課程修了
        • (2)療育手帳で就職した先輩”LD”青年をモデルにして先送りを中断したJさんの事例:専修学校高等課程・専修学校一般課程中退
        • (3)”やってみたい仕事”を探すKさんの事例:高等学校卒業・専修学校専門課程修了
      • 4.まとめ
    • 第2節 精神障害者保護福祉手帳によるサービスを検討した事例
      • 1.複数の診断を重ねることになった事例の検討
        • (1)他者の”高い”評価を求めたLさんの事例:就学機会を求めながらの職業準備
        • (2)他者の”やさしい”評価を求めたMさんの事例:高等学校普通科を卒業して学校紹介で就職
      • 2.まとめ
    • 第3節 職業リハビリテーションの利用対象外であった事例
      • 1.学習障害とは別の障害を診断されることになった事例の検討
        • (1)広汎性発達障害を診断されたNさんの事例(進学検討中)
        • (2)軽度脳性マヒによる運動能力障害と診断されたOさんの事例(求職中)
        • (3)神経症を診断されたPさんの事例(求職中)
        • (4)神経症を診断されたQさんの事例(休職後、現職復帰)
      • 2.まとめ
    • 第4節 事例が示唆すること・・・職業リハビリテーションの支援からとらえた「学習障害」青年の像
      • 1.親は障害をどうとらえてきたか
      • 2.本人は障害とどう向きあうか
      • 特別支援教育と職業リハビリテーションによる移行支援・・・関係者の理解を共有するうえでの課題
  • 【文献】
  • 第3章 青年期における再評価・・・青年期の職業評価の結果から
    • 第1節 職業リハビリテーション・サービスの利用を検討する「学習障害」青年の特性理解の考え方
      • 1.学齢期に指摘された特定領域の困難についての考え方
      • 2.対人関係の問題についての考え方
    • 第2節 特性理解のための評価と課題・・・職業リハビリテーション・サービスの利用の検討に際して求められる評価
      • 1.雇用対策上の障害者についての検討
      • 2.作業遂行に関する評価:作業速度と正確さをめぐって
      • 3.対人関係の評価
      • 4.青年期の再評価に有効と考えられるその他の検査
      • 5.検査を組み合わせる際の留意事項:検査バッテリーを組む前に
    • 第3節 青年期における再評価の実際・・・「学習障害」青年の特性評価の結果から
      • 1.作業遂行を評価する:一般職業適性検査と知能検査
      • 2.作業の正確さについて検討する:フロスティッグ視知覚発達検査/ベンダー・ゲシュタルト・テスト
      • 3.音声並びに表情から他者の感情を識別する:F&T感情識別検査
    • 第4節 個別事例の評価
      • 1.タイプⅠの事例から:一般職業適性検査と職業レディネステスト
      • 2.タイプⅡの事例から
      • 3.タイプⅢの事例から
        • (1)療育手帳を取得した事例:一般職業適性検査とF&T感情識別検査
        • (2)精神障害者保健福祉手帳の申請を検討している事例:一般職業適性検査と内田クレペリン精神検査
      • 4.一般職業適性検査の実施が困難な事例
    • 第5節 職業リハビリテーションの対象となる「学習障害」青年の再評価をめぐって・・・検査実施上の留意点と結果の伝達について
      • 1.検査の実施に関する留意事項
      • 2.検査結果の解釈並びに伝達に関する注意事項
      • 3.その他の留意事項:インフォームド・コンセントを含めて
    • 第6節 まとめ
      • 1.「学習障害」青年の特性理解と職業リハビリテーション・サービスの利用可能性
      • 2.青年期の再評価を実施する時期をめぐる課題
  • 【文献】
  • 第4章 結語
    • 第1節 「学校から職業への移行」をめぐって
      • 1.「学校から職業への移行」の類型について
      • 2.特別支援教育における移行の課題
      • 3.若年雇用対策をめぐって
    • 第2節 移行をめぐる最近の変化・・・新規高卒就職システムが対象者の範囲を拡大する可能性について
      • 1.移行の多様化・・・高校の職業紹介によらない就職の増加傾向について
      • 2.学校進路指導の機能
      • 3.若年雇用対策をめぐって
    • 第3節 職業リハビリテーションにおける「学習障害」をめぐって・・・特別支援教育が職業リハビリテーション・サービスを利用した移行を支える可能性について
      • 1.移行類型の複線化について
      • 2.学校在学中の職業評価について
      • 3.移行支援システムの構築について
      • 4.今後の課題
  • 【文献】
  • 資料1:検査について
  • 資料2:診断基準について

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