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調査研究報告書 No.29
精神障害者の社会適応訓練の効果と処遇帰結への予測

執筆者(執筆順)

執筆者
松為信雄 (障害者職業総合センター主任研究員)

(概要)

1.目的と方法

(1)目的

精神障害をもつ人の雇用・就労への支援に関する論議を、キャリア発達の視点からワークパーソナリティの評価と育成、職業的な自立への移行、そして社会的支えの関連に焦点をあてて、精神障害の人に関する幾つかの研究をまとめた。それらを踏まえて、障害をもつ人の職業的な自立に向けた支援の中でも、就労以前の過程から入職直後のごく短い職場適応の時期への支援の在り方に注目し、医療保健から職業リハビリテーション分野への移行を円滑に進めるために、社会復帰プログラムの参加者で職業準備訓練に入ることが望ましい人を事前に予測して選定するための手がかりを得ることを目的とした。

本研究は、そのために、以下のことに焦点を当てて行った。

第1に、訓練プログラムに参加する前のさまざまな属性条件が、精神症状、社会適応、職業能力などの各側面の評定尺度で捉えた個人特性にどのような影響を及ぼしているかを明らかにする。

医療・施設・学校・職業などの経歴、初診時の社会的な役割、家族関係、疾病受容と治療意欲、家族の疾病理解などの種々の属性条件が、複数の評定尺度の下位項目から明らかにされた対象者の個性に及ぼす影響を、同プログラムの開始時と終了時の双方について明らかにする。

第2に、訓練プログラムそのものの効果について明らかにする。評定尺度の下位項目で示される個人特性のどの側面にその効果が認められるかを特定するために、プログラムの開始時と終了時の双方の評定結果の変化の特徴を明らかにする。また、訓練開始前のさまざまな属性条件が、そうした評定変化で示される訓練効果のどの側面に影響を及ぼすかについても明らかにする。

第3に、訓練プログラムを終了後の処遇帰結を規定する要因について明らかにする。処遇帰結は、プログラム修了後の6カ月未満の時点で、①最低賃金を超えて一般雇用されたりパートタイム就労などに就いた「就労」、②各種の学校に就学したり家事を専業したりして家庭内復帰に致った「就学・家庭復帰」、③退所して在宅していたり入院あるいは死亡などに至った「在宅・その他」の3群をいう。こうした処遇帰結をもたらす要因を、前述のさまざまな属性条件、プログラムの開始時点や終了時点での評定結果で示される個人特性、さらに、プログラムの実施による訓練効果そのものなどの側面から特定する。

(2)方法と対象者

S県立精神保健総合センターの社会復帰部門で実施した訓練プログラムの参加者に限定して、訓練開始前の各種の属性条件の情報、訓練の開始時と終了時の2回にわたって繰り返して実施された各種の評定尺度の結果、プログラム終了後の6ヶ月未満の時点での処遇帰結の情報を収集した。

分析に用いた評定尺度は、次のとおりである。①精神症状の診断指標として「SANS(Schedule forthe Assessment of Negative Symptoms)」と「BPRS(Brief Psychiatric Rating Scale)」、②社会適応の指標として、村田(1985)の「精神障害者社会生活評価尺度(以下、MURATAという)」と、加藤他(1988)の「事例評価表(以下、KATO(事例評価)という)」「生活技能評価表(以下、KATO(生活技能評価)という」「労働能力評価表(以下、KATO(労働能力評価)という」、③職業能力の指標として「障害者用就職レディネス・チェックリスト(以下、ERCD(Employment ReadinessChecklist for the Disabled)という)。

対象となった精神障害のある人は、社会復帰部門の利用者の中から、1990年から1993年にかけて一連の訓練プログラムを終了した143名で、いずれも分裂病圏と診断され、精神科の受診歴がある。

2.本書の構成  本報告書は5部12章から構成されている。

第Ⅰ部は、第1章で目的と方法を、第2章で調査対象者の全体的な特徴をまとめた。

第Ⅱ部は、目的の第1に示した、社会復帰訓練プログラムに参加する以前の属性条件が、評定尺度で得られた個人特性に及ぼす影響をまとめた。評定尺度の種類ごとにまとめた第3~8章では、同プログラムの開始前と終了時の双方の評価結果に対して属性条件がどのような影響を及ぼすかを分析した。

第Ⅲ部は、目的の第2に示した、社会復帰訓練プログラムによる訓練効果そのものをまとめた。第9章では、開始前と終了時の評定結果の差異について因子分析を行ない、訓練効果を特定した。第10章では、プログラム参加前の属性条件が、抽出された訓練効果にどのような影響を及ぼすかを分析した。

第Ⅳ部は、目的の第3に示した、社会復帰訓練プログラムを終了後の処遇帰結について、それを規定する個人特性をまとめた。第11章では、「就労」、「就学・家庭復帰」、「在宅・その他」の3群の処遇帰結を規定する条件を、同プログラム参加以前の属性条件、開始時の評定、終了時の評定、双方の評定変化などから分析した。

第Ⅴ部の第12章は、これらの各章の結果を総合的にまとめたうえで、若干の考察を加えた。それゆえ、この章をもとに本報告書の概要を示す。

3.属性条件の評定結果への影響

第1の目的である、さまざまな属性条件が各種の評価指標で捉えた個人特性に及ぼす影響については、次の知見が得られた。

(1)属性条件の全体的な効果

第3章から9章で、訓練開始前の種々の属性条件と各種の評定尺度の下位項目との関係を、①訓練プログラムの「開始時」の評定結果、②同プログラムの「終了時」の評定結果、③双方の「評定変化」の3種類について分析した。それらの結果を基に、属性条件との間で有意差を得た下位項目を、次の7群に分類した。第Ⅰ群は「開始時」「終了時」「評定変化」のいずれも有意差がある項目。第Ⅱ群は「開始時」と「終了時」の双方で、第Ⅲ群は「評定変化」だけで、第Ⅳ群は「開始時」だけで、第Ⅴ群は「終了時」と「評定変化」ので双方で、第Ⅵ群は「終了時」だけで、第Ⅶ群は「評定変化」だけで、有意差があった下位項目からなる。この7群に分類された下位項目数の全体的な傾向として、次のことが明らかになった。

第1に、評定結果に対する影響の強い属性条件は、「発病前後の就労合計月数」「発病後の就労月数」「訓練科目の利用期間」「疾病治療の意欲」「初診時の同居家族の有無」「初発時の年齢」「発病前後の就労状況」「発病後の就労経験」の順序だった。その反対に、影響の弱い属性条件は、「入院の合計回数」「初診時の社会的役割」「学校経歴」「施設利用の経験」「発病前の就労経験」の順序だった。

第2に、下位項目は第Ⅱ群、Ⅳ群、Ⅵ群で多数を占め、訓練プログラムの「開始時」と「終了時」のいずれかの評定結果、もしくはその双方の評定結果に対する属性条件の影響が強かった。

第3に、「発病前後の就労合計月数」「発病後の就労月数」「初発時の年齢」の条件は、「終了時」の評定結果に対する影響のほうが強かった。反対に、「疾病治療の意欲」「初診時の同居家族の有無」の条件は「開始時」の評定結果に対する影響のほうが強かった。

これらの結果は、社会復帰の訓練プログラムに参加する対象者の選定に際しては、対象者本人の属性条件を知っておくことが重要であることを示唆する。特に、指摘した条件は必要不可欠な情報とみなされる。

(2)医療経歴の評定結果への影響

  • ①「初発時の年令」が評定結果に及ぼす影響が最も強く、次いで「入院の合計月数」「入院の合計回数」の順序だった。また、「初発時の年令」は「終了時」に、「入院の合計月数」は「開始時」への影響が強かった。  
  • ②どの属性条件も、Ⅳ群(開始時)、Ⅵ群(終了時)、Ⅱ群(開始時+終了時)で有意差を示す項目が多かった。  
  • ③「初発時の年令」はⅥ群(終了時)で最も多いが、「入院の合計月数」ではⅣ群(開始時)で多かった。  
  • ④どの属性条件も、「SANS」や「BPRS」の有意差項目は少なく、「MURATA」「KATO(事例評価表)」「KATO(生活技能評価表)」「KATO(労働能力評価表)」はいずれもこれらの診断指標よりも著しく多かった。  
  • ⑤これらの社会適応の指標のいずれも「初発時の年齢」で最も多かった。また、「入院の合計回数」よりも「入院の合計月数」のほうが多かった。  
  • ⑥「ERCD」は「初発時の年齢」で最も多く、次いで、「入院の合計月数」「入院の合計回数」の順序となった。

(3)施設・学校経歴の評定結果への影響

  • ①「施設利用の経験」よりも「施設利用の合計月数」のほうが評定結果に及ぼす影響は強かった。また、「学校経歴」は「開始時」の評定結果におよぼす影響が極めて強かった。  
  • ②「施設利用の経験」と「施設利用の合計月数」のいずれも、Ⅳ群(開始時)とⅥ群(終了時)で有意差が多かった。ただし、「学校経歴」ではⅣ群(開始時)に偏っていた。  
  • ③「施設利用の経験」「施設利用の月数」「学校経歴」のいずれも、評定結果におよぼす影響はあまり強くなかった。  
  • ④「施設利用の経験」は「BPRS」の有意差項目が最も多く、その他の社会適応や職業能力の指標の項目よりも高い比率だった。他方で、「施設利用の合計月数」や「学校経歴」では、社会適応や職業能力の指標のほうが高い比率だった。  
  • ⑤「KATO(事例評価)」と「KATO(労働能力評価)」は、「施設利用の経験」よりも「施設利用の合計月数」のほうが高い比率だった。  
  • ⑥この傾向は、「ERCD」でも同じだった。

(4)職業経歴の評定結果への影響

ア.発病前の就労と評定結果
  • ①発病前の「就労月数」のほうが「就労経験」よりも評定結果に及ぼす影響が強かった。また、「開始前」の評定結果に対しては「就労経験」の影響が強かった。
  • ②どの属性条件も、Ⅳ群(開始時)で最も多く、次いで、Ⅵ群(終了時)、Ⅱ群(開始時+終了時)が多かった。また、Ⅶ群(評定変化)にも有意差項目が含まれた。
  • ③どの属性条件も、「BPRS」でごく少数の有意差項目が含まれるが、「SANS」にはなかった。これに対して、「MURATA」「KATO(事例評価表)」「KATO(生活技能評価表)」「KATO(労働能力評価表)」はいずれも、これらの診断指標よりも多かった。
  • ④これらの社会適応のいずれの指標も「就労月数」のほうが「就労経験」よりも多く含まれた。またどの属性条件も「KATO(事例評価)」が最も多かった。
  • ⑤「ERCD」では「就労経験」のほうが「就労月数」よりもやや多かった。
イ.発病後の就労と評定結果
  • ①発病後の「就労月数」のほうが「就労経験」よりも下位項目への影響が強かった。また、「就労経験」は「開始時」に、「就労月数」は「終了時」の評定結果にそれぞれ影響が強かった。   
  • ②どの属性条件も、Ⅵ群(終了時)で最も多く、次いで、Ⅳ群(開始時)やⅡ群(開始時+終了時)が多かった。さらに、Ⅴ群(終了時+評定変化)、Ⅶ群(評定変化)、Ⅲ群(開始時+評定変化)にも含まれていた。 
  • ③どの属性条件も、「SANS」と「BPRS」で極めて多くの有意差項目が含まれた。また、「BPRS」は「就労月数」のほうが「就労経験」よりも多かった。   
  • ④どの属性条件も、「KATO(労働能力評価)」は最も多かった。次いで、「KATO(事例評価)」、「KATO(生活技能評価)」の順序で多かった。   
  • ⑤「ERCD」では「就労経験」のほうが「就労月数」よりも多かった。
ウ.発病前後の就労時期と評定結果
  • ①「就労経験」と「就労月数」の双方とも、発病後の就労のほうが発病前の就労よりも、評定結果におよぼす影響が強かった。また、発病前後のいずれの就労時期であっても、「就労月数」のほうが「就労経験」よりも影響が強かった。   
  • ②発病後の就労では、「就労経験」は「開始時」の、「就労月数」は「終了時」の評定にそれぞれ強い影響を及ぼした。発病前の就労では「就労経験」は「開始前」の評定に影響を及ぼした。   
  • ③双方の属性条件とも、発病後の就労のほうが発病前の就労よりも、Ⅵ群(終了時)の有意差項目の増大が著しく、かつ、Ⅱ群(開始時+終了時)の項目数もその傾向にあった。   
  • ④「SANS」と「BPRS」は、「就労経験」と「就労月数」の双方とも、発病前の就労での評定結果にほとんど影響しないが、発病後の就労には強い影響をおよぼした。発病後の就労の場合には、「BPRS」の評定は「就労月数」のほうが「就労経験」よりも強く影響された。   
  • ⑤「KATO(労働能力評価)」は発病後の 就労のほうが発病前の就労よりも「就労月数」と「就労経験」の双方で有意差項目が著しく増大した。また、「KATO(生活技能評価)」と「KATO(事例評価)」は、「就労月数」で発病後の就労のほうが発病前の就労よりも著しく増大した。   
  • ⑥「ERCD」は、「就労月」で発病後の就労のほうが発病前の就労よりも著しく項目が増大した。
エ.就労状況や期間と評定尺度
  • ①「就労月数合計」のほうが「就労状況」よりも評定結果に及ぼす影響が強かった。また、双方とも「開始時」と「終了時」の評定結果に影響を及ぼすが、特に「終了時」への影響が強かった。   
  • ②「就労状況」ではⅥ群(終了時)とⅣ群(開始時)に続いてⅡ群(開始時+終了時)が多かったが、「就労月数合計」ではⅡ群(開始時+終了時)で最も多かった。   
  • ③双方の条件とも、「SANS」と「BPRS」の多くの有意差項目が含まれ、また、「就労月数合計」のほうが「就労状況」よりも多かった。   
  • ④「MURATA」「KATO(事例評価表)」「KATO(生活技能評価表)」「KATO(労働能力評価表)」のいずれの指標も「就労月数合計」のほうが「就労状況経験」よりも著しく多かった。   
  • ⑤「ERCD」も「就労月数合計」のほうが「就労状況」よりも著しく多かった。

(5)社会的役割と家族同居の評定結果への影響

  • ①「社会的役割」は評定結果にあまり影響しないが、「家族同居の有無」は評定結果に強い影響があった。また、双方とも「開始時」の評定結果のほうに強い影響を及ぼした。   
  • ②「家族同居の有無」は「SANS」と「BPRS」に強い影響を及ぼし、社会適応の指標よりも多くの有意差項目が含まれた。社会適応の指標では、「KATO(事例評価)」が最も多く含まれた。

(6)障害受容・治療意欲・家族の理解の評定結果への影響

  • ①「疾病治療の意欲」が評定結果に及ぼす影響が最も強く、次いで、「疾病受容の態度」「家族の疾病理解」の順序で強かった。また、本人の「疾病受容の態度」と「疾病治療の意欲」は「開始時」に、家族の「疾病理解」は「終了時」の評定結果への影響が強かった。   
  • ②本人の「疾病受容の態度」と「疾病治療の意欲」はⅣ群(開始時)の有意差項目が多く、家族の「疾病理解」はⅥ群(終了時)で多かった。   
  • ③「BPRS」は「疾病治療の意欲」で最も多かった。だが、全体的には、いずれの属性条件も社会適応の指標よりは低い比率だった。   
  • ④「KATO(事例評価)」は「疾病受容の態度」や「家族の疾病理解」で最も多く、また、「疾病治療の意欲」は「KATO(生活技能評価)」への影響が最も強かった。
  • ⑤「ERCD」は、本人の「疾病治療の意欲」で最も多く、次いで、「疾病受容の態度」で多かった。

(7)訓練参加の動機主体・年齢・訓練期間の評定結果への影響

  • ①「訓練科目の利用期間」が評定結果に及ぼす影響が最も強く、次いで、「訓練参加の動機主体」「訓練参加の年令」の順序で強かった。「動機主体」は「終了時」で、「参加時の年令」は「開始時」の評定結果への影響が強かった。   
  • ②「動機主体」はⅥ群(終了時)の有意差項目が多いのに対して、「参加時の年令」はⅣ群(開始時)で多かった。なお、「利用期間」はⅥ群(終了時)が多い。
  • ③「SANS」と「BPRS」はいずれも、「動機主体」で最も多く、社会適応の指標よりも高い比率だった。「参加時の年令」や「利用期間」では、社会適応の指標のほうが多かった。
  • ④「KATO(事例評価表)」「KATO(生活技能評価表)」「KATO(労働能力評価表)」はいずれも「利用期間」が最も多く、次いで、「参加時の年令」「動機主体」の順序だった。なお、「MURATA」は、「動機主体」のほうが「参加時の年令」よりも多かった。
  • ⑤「ERCD」は、「利用期間」が最も多く、次いで、「動機主体」「参加時の年令」の順序だった。

4.訓練効果の特徴とその規定要因

第2の目的である社会復帰部門の訓練プログラムの訓練効果の検討は、社会復帰訓練プログラムの開始時と終了時の評定変化で有意差を示した54個の下位項目を用いて因子分析を行った。主因子法で抽出した因子を最少固有値を1.0の基準で選択して、次の5群に分類される11因子を選択した。

第1群は「人間関係の向上」に関するもので、第1因子「共同作業時の人間関係の維持の向上」が含まれた。第2群は「就業に向けた準備性の向上」に関するもので、第2因子「職場環境の多様な条件への適応の向上」、第5因子「就業への意欲の向上」、第8因子「仕事の社会・経済的な視点からの把握の向上」、第6因子「作業の持続性の向上」が含まれた。第3群は「地域社会での生活維持の向上」に関するもので、第10因子「家計を踏まえた生活の維持の向上」、第9因子「移動能力の向上」が含まれた。第4群は「精神症状に対する治療的効果」に関するもので、第3因子「場面認知に関する能力の向上」、第4因子「陰性症状を中心とした精神症状の抑制」が含まれた。第5群は第7因子「不安や緊張や罪業感の昂進」と第11因子「快感の消失と身体的愁訴の昂進」が含まれた。

これらの結果から、社会復帰施設の訓練プログラムは多面的な訓練効果をもたらしていることが明らかにされた。それは、「就業向けた準備性の向上」や「地域社会での生活維持の向上」に留まらず、「人間関係の向上」や「精神症状に対する治療的効果」にまで及んでいる。だが、他方で、プログラムの実施は、「不安や緊張や罪業感の昂進」と「快感の消失と身体的愁訴の昂進」なども生じる可能性のあることが示唆された。このことは実践家の経験的事実とも一致することから、社会復帰の訓練プログラムの実施に際して注意が求められるところであろう。

なお、それぞれの訓練効果ごとに、それを規定する属性条件についても一覧表としてまとめた。この結果は、訓練プログラムの対象者を選定する際の条件として活用できよう。

5.処遇帰結の規定要因の特徴

第3の目的である社会復帰部門の訓練プログラムを終了後の処遇帰結の規定要因については、第11章で検討した。処遇帰結の分類は、目的と方法のところで述べたとおりである。

(1)下位項目の分類

処遇帰結と各種の評定尺度の下位項目との関係を、

①訓練プログラムの「開始時」の評定結果、   
②同プログラムの「終了時」の評定結果、   
③双方の「評定変化」の3種類について分析した。

それらの結果を基に、処遇帰結との間で有意差を得た下位項目を、前述した第Ⅰ群から第Ⅶ群までの7群に分類した。その結果、第Ⅴ群とⅥ群にほとんどの下位項目が含まれ、終了時もしくは評定変化の結果が、処遇帰結を予測する有効な指標とみなされた。

(2)処遇帰結を規定する要因

処遇帰結を規定する要因の総合的な特徴を明らかにするために、上記の7群に分類された下位項目に処遇帰結と有意差のあった属性条件を加えた、合計124個の変数を用いて因子分析を行った。主因子法で抽出した因子を寄与率2.0%以上の基準で選択した結果、次の5群に分類される12因子を選択した。

第1は訓練終了時の「総合的な視点」に関するもので、第1因子「作業遂行に関わる総合的な能力」が含まれる。第2は訓練開始時の「就労経験の条件と精神症状」に関するもので、第4因子「訓練開始前の就労経験の多さ」と第9因子「訓練開始時の精神症状の程度」が含まれる。第3は訓練自体の成果としての「訓練による作業遂行能力面の学習成果の向上」に関するもので、第2因子「作業遂行の理解と水準の学習」、第11因子「作業時の対人関係の学習」が含まれる。第4は訓練自体の成果のみならず訓練終了時の「職業生活リズムと就労動機づけ面の学習成果の向上と到達程度」に関するもので、第7因子「作業遂行の生活リズムの学習と形成」と第8因子「就労への動機づけの学習と形成」が含まれる。第5は訓練終了時の「作業関連・精神症状・病識と服薬などの到達程度」に関するもので、第5因子「作業の持続性の向上」、第10因子「仕事に対する金銭的報酬への関心」、第3因子「陰性症状を中心とした精神症状の軽減」、第6因子「陽性症状を中心とした精神症状の昂進」、第12因子「病識と服薬の遵守性の向上」が含まれる。

これらの結果から、社会復帰施設の訓練プログラムを終了した人の処遇を規定する要因は多面的であることが明らかにされた。それは、訓練の開始時における「就労経験の条件と精神症状」、終了時における「総合的な所見」や「作業関連・精神症状・病識と服薬などの到達程度」、訓練自体の効果としての「作業遂行能力面の学習成果の向上」、そして、訓練効果と終了時の双方に係る「職業生活リズムと就労動機づけ面の学習成果の向上と到達程度」などの領域に分類される。

これは、終了時の評定結果ばかりでなく、訓練実施中の評定変化や開始時の評定結果からも処遇帰結の予測が可能であることを示唆し、それらを一覧表にまとめた。この結果は、訓練プログラムの対象者の処遇決定に際して活用できよう。

6.評価指標の活用と構成

目的の最後は、社会適応能力と就業可能性の評価に活用するための適切な指標を選択することにあった。その結果、本研究の分析に用いた7種類の評価尺度のどれか1つを特定することは適切でなく、むしろ、これらの各種の評価尺度の下位項目を選択して、あらたな指標を構成することが望ましいと結論される。

その理由は、第1に、属性条件が訓練プログラムの開始時や終了時さらには双方の評定変化に対しての規定要因となっていること、第2に、訓練プログラムの訓練効果を規定する要因の中には、社会適応や職業能力の評価尺度にふくまれる下位項目のほかに、精神症状の診断指標の下位項目も含まれること、第3に、同様に、処遇帰結を規定する要因の中にも、社会適応や職業能力の評価尺度にふくまれる下位項目のほかに、精神症状の診断指標の下位項目も含まれること、などである。

それゆえ、社会適応能力と就業可能性の評価に活用するための適切な指標は、これらの各種の評価尺度の下位項目を選択的に抽出した、あらたな指標を構成することが望ましい。

目次

  • 第Ⅰ部
    • 第1章 目的と方法
    • 第2章 対象者の属性条件
  • 第Ⅱ部
    • 第3章 精神症状尺度の規定要因
    • 第4章 MURATAの規定要因
    • 第5章 KATO(事例評価表)の規定要因
    • 第6章 KATO(生活技能評価表)の規定要因
    • 第7章 KATO(労働能力評価表)の規定要因
    • 第8章 職業準備尺度の規定要因
  • 第Ⅲ部
    • 第9章 訓練成績の変化とその規定要因
    • 第10章 訓練効果の特徴とその規定要因
  • 第Ⅳ部
    • 第11章 処遇帰結の規定要因
  • 第Ⅴ部
    • 第12章 まとめ
  • 付表 下位項目を規定する属性条件
  • 付録 評価尺度

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