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調査研究報告書 No.28
欧米諸国における障害者の就業状態と雇用支援サービス

執筆者(執筆順)

執筆者
工藤 正 (障害者職業総合センター雇用開発研究部門主任研究員)
澤邊みさ子 (障害者職業総合センター雇用開発研究部門研究協力員)
依田隆男 (障害者職業総合センター企画部企画調整室第2係長)
引馬知子 (日本女子大学人間社会学部助手)
八島靖夫 (前日本障害者雇用促進協会・障害者職業総合センター担当理事)

(概要)

本研究では欧米諸国における障害者の就業状態と雇用支援サービス(職業リハビリテーション を含む)の現状分析をした。第Ⅰ部の序章では「課題・方法とこれまでの研究」、終章では第Ⅰ 部の全体の「まとめ」をしている。また、第Ⅱ部では、Neil Lunt and Patricia Thornton(1993) Employment policies for Disabled People:A review of legislation and services in fifteen coun- triesの一部分の抄訳を掲載した。以下は、第Ⅰ部のみの概要である。

第1章

政府の障害者統計が整備されているアメリカ、イギリス、カナダの3カ国、6つ の障害者統計をとりあげ、障害者定義・範囲を含む統計調査の方法とその統計調査から明らかと なる障害者労働市場の現状分析を試みた。とりあげた6つの統計調査の全てが全国規模の調査で あり、調査対象に非障害者(健常者)を含み、労働年齢期(調査によって若干異なるが15~64歳) における障害(者)の状態を非障害(者)のそれと比較検討することが可能な情報をつくってい るという特徴、共通点があった。統計調査で障害状態をどのように把握するか、活発な議論が行 われており、いろいろな工夫が試みられていた。こうした障害者統計は日本にはない。今回とり あげた統計調査について、障害定義・範囲などが日本と異なるからといって、批判することはあ たらない。障害者の労働力状態などの労働市場の基本概念から6つの障害者統計調査を分析した 結果、今回とりあげた3カ国は、条件付きではあるが、障害者の就業率は日本よりも低いと評価 してもよいだろう。

第2章

アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、スウェーデンの5カ国の障害者雇用支 援サービス(職業リハビリテーションや雇用拡大のサービス)についてまとめた。職業リハビリ テーション・サービスでは、国の役割が後退し、地域レベルの公的組織や営利・非営利団体など の民間部門の役割が増大していた。そして、その公的組織にはカウンセラーなどの専門家を配 置、サービス供給組織を含め地域の社会的資源と障害者のニーズとの調整機能が重要となってい た。訓練の実施では、民間部門の活用もみられた。障害者雇用拡大のサービスで、障害者の就業 機会の創出でもある「保護雇用」分野では「援助付き雇用」の導入がみられた。障害者雇用割当 制度を導入しているフランスやドイツでは、事業主が障害者雇用よりも納付金を選択するという 現実があった。しかし、労使の態度変容をもたらす「将来の雇用プログラムに関する労使協定の 締結・実行」(フランス)、「重度障害者代表委員制度」(ドイツ)があった。「障害者差別禁止法」 はアメリカ、イギリスで制定されているが、フランスとドイツ(1994年憲法改正)でも、法的明 文化がはかられ、スウェーデンでは労働市場における障害差別を禁止する法の導入が提案されて いた。アメリカの「雇用機会均等委員会(EEOC)」、スウェーデンの「障害者オンブズマン法」 (1994年)などの障害者の状態を監視する機関の制定、整備については、仕組みづくりという点 で、国の役割がこれから益々重要となってくるであろう。

第3章

ドイツに限定されるが、障害者専門の職業訓練施設2つと障害者福祉施設(障害 者作業所)2つの聴き取り調査の結果から、現場レベルにおけるサービスの提供やその成果、評 価について分析した。4つの施設とも、入所者には見習い工(養成工)から公的な資格試験に合 格して専門労働者とよばれる「熟練工」、さらに「マイスター」へとつながる技能の世界への参 加の機会が与えられていた。そして、訓練過程における作業の指導員は「マイスター」が受けもっ ていた。また、そこには技能の世界だけでなく、芸術の世界も含まれていた。障害者福祉施設は 長期間の生活の場であり、そこでの作業指導は一般企業における職場適応を目指したものではな く、個々人の技能や芸術性の向上に力点がおかれていた。そのこととも関連するが、一般雇用へ の移行は第一義的目標とはなっておらず、実際もきわめてまれであった。障害者福祉施設では、 多くの専門家のサポートを受けながら、技能や芸術性の向上を通じた就業(労働)生活の復帰、 向上が目指されていた。4つの事例の検討の結果、企業・職場組織への適応に主眼がおかれてい る日本の職業リハビリテーションと大きく異なることがわかった。日本において、重度障害者に 対して、適性探索の重視や技能向上を中心としたオーダーメイドの職業リハビリテーションを展 開するには、長期的視点からの専門家の対応などの見直しが必要となろう。

第4章

EU(欧州連合)レベルの障害者雇用政策についてとりまとめた。障害者雇用政 策は、1980年代から、EU/EC法を基本的軸としながらEUが加盟国に対して行う命令や勧告、憲 章、決議などによって展開してきているが、現在、障害者雇用に関して、障害者のみを特に対象 として拘束力をもつEUレベルの法律はない。EUレベルで具体的な行動計画(アクション・プロ グラム)をたて、実行されているのがEUプログラムで、命令や勧告等の実行が加盟国政府に任 されているのとは異なり、この行動計画の実施責任はEUにある。障害者雇用と関連する行動計 画は、ヘリオス(Helios)プログラムで、「障害者の社会的統合促進のための第1次行動計画」、 「障害者のための第2次行動計画:ヘリオスⅠ」、「障害者のための第3次行動計画:ヘリオス Ⅱ」の3つがあり、1983~96年まで3期、約14年にわたり一貫性を持って進められてきた。この ヘリオス以外にも欧州社会基金によるプログラムの一環として、障害者には限定されないが、労 働市場への参入に困難を伴う特定のグループを対象に、雇用の促進を目指す「ホライズン(Hori- zon)・プログラム(1994年~1999年)」がある。これは、特に障害者雇用と関連が深く、ヘリオ スとの関係強化の必要性も指摘されていた。1997年に欧州閣僚理事会で「障害のある人々の機会 均等に係わる決議」採択され、これからのEU障害者政策の基本枠組みとなっている。

第5章

1997年2月、ポーランドのワルシャワにおいて、情報交換を主目的としてILO (国際労働機関)およびポーランドの全国障害者リハビリテーション基金の共催により開催され た「障害者リハビリテーション基金の政策と運営に関する国際会議」への参加で収集した資料・ 情報をまとめたものである。「リハビリテーション基金」とは、障害者雇用割当制度(雇用率制 度)の実施のもとで事業主から徴収される納付金の収入を源資として設置運営される基金制度を 指しており、日本についていえば、日本障害者雇用促進協会が法律に基づき納付金関係業務とし て行っている事業、すなわち身体障害者雇用納付金の徴収ならびに雇用調整金、報奨金および助 成金の支給の事業がこれに該当する。本章は3つの部分から構成されており、その1つは、障害 者雇用割当・納付金制度に関するILOの認識についてである。2つは、開催国であったポーラン ドの障害者雇用対策の歴史的経緯と現状についてである。3つは、会議に先立ってILOに提出さ れた参加各国の障害者リハビリテーション基金の政策と運営に関する各国の調査回答を、イギリ スのヨーク大学社会政策研究チームが整理・編集した一覧表である。その対象国は日本を含め、 ドイツ、フランス、ポーランド、ハンガリー、オーストリーの6カ国である。そして、その一覧 表を総括した表によると、基金支出の使途先別割合は国によってばらつきが大きく、ポーランド は「保護的ワークショップ」、フランスは「障害者」、日本は「会社」が多いという結果となって いる。

目次

  • 第Ⅰ部 序章課題・方法とこれまでの研究
    • 第1章 障害者の就業状態
    • 第2章 障害者雇用支援サービス
    • 第3章 ドイツの職業リハビリテーション施設
    • 第4章 EUにおける障害者雇用の発展と行動計画の成果
    • 付論  ヘリオスⅡのプロジェクト15の事例
    • 第5章 障害者リハビリテーション基金の政策と運営の概要—ヨーロッパを中心に—
    • 終章  まとめ
  • 第Ⅱ部 15カ国の障害者雇用政策に関するヨーク大学の国際比較調査研究の概要(抄訳)
    • 概要
    • はじめに
    • 序章
    • 第1章 アメリカ、カナダ、オーストラリア
    • 第2章 ドイツ、フランス
    • 第3章 デンマーク、スウェーデン、オランダ
    • 第4章 その他の諸国
    • 終章  結論

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