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調査研究報告書 No.11
障害者の職場適応性を高めるための指導方法に関する研究—求職面接スキル訓練の効果的方法—

執筆者(執筆順)

執筆者 執筆箇所
島田 博祐 (障害者職業総合センター研究員) :序章・研究編第1章・マニュアル編第1,2章
向後 礼子 (障害者職業総合センター研究員) :研究編第2章
山本 淳一 (明星大学人文学部講師) :研究編第3章第1・3節、マニュアル編第3章第2節
渡部 匡隆 (愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所能力開発部研究員) :研究編第3章第2節、マニュアル編第3章第1節

(概要)

1 研究の目的

本研究は、主として知的障害者及び精神障害者に対して行う職業準備に関わりのある「社会的スキル訓練(Socialskillstraining、以下SSTという)」の一環として位置づけられる、求職面接スキル訓練を、より効果的に行う方法について検討することをねらいとして行ったものである。

職業リハビリテーションの分野において、適切な社会的スキルの習得は、就労及び雇用継続を成功させる条件として、作業能力の向上や労働生活習慣の形成等と並び重要なものである。求職面接スキルは社会的スキルの中で重要なものの一つであり、また、面接場面で要求される諸スキルには、「挨拶をする」、「お礼をいう」、「質問に答える」等、対人的コミュニケーションの基礎となる要素が多く含まれており、対人的側面に問題を抱える者が多い知的障害者や精神障害者にとって、このスキルの習得は、より高次の社会的スキルを身につけるための端緒となるように思われる。

本研究では、以下の事項を具体的な目的とした。

  • (1)職業リハビリテーションにおけるSSTのあり方に関して検討し、概念的整理を行う。
  • (2)求職面接スキル習得に有効な訓練技法について実証的検討を行うとともに、訓練で習得された下位スキル(「挨拶をする」等、面接場面に含まれる諸スキル)が、他場面で実行されるかといった場面般化の問題についても検討する。
  • (3)訓練研究全般の課題である「評価の信頼性」、「社会的妥当性」、「般化」の問題に閲し、理論的整理及び検討を行う。
  • (4)上記(2)の実証的研究を基礎に、臨床。訓練の現場で実用可能な「求職面接スキル訓練マニュアル」を作成する。

2 研究の方法及び期間

本研究の方法は、文献による検討、実証的検討及び理論的分析であり、その一環として、外部の専門家を含む「職場適応研究会」を設けて、訓練のデザインについて検討した。

実証的検討のための求職面接訓練は、障害者職業総合センターの職業センターにおいて、職業準備訓練生2グループ(16人、11人)を対象に、この研究用に作成した教育用ビデオ等を使用して、本研究の主担当者及び協力者1人(時に2人)がリードして行った。

研究期間は、平成4年度から平成6年度までの3年間である。

3 結果の概要

(1)職業リハビリテーション分野におけるSSTのあり方、概念整理

文献検討を通じた社会的スキルの諸定義を踏まえた上で、本研究では「応用行動分析」の理論に依拠した検討を行うこととし、本研究での社会的スキルの定義を「日常生活場面の中で、お互いの立場や権利を侵さずに円滑な人間関係を結び、かつ自らの目標を達成するのに必要とされる学習可能なスキル」ととらえることとした。

その上で、就労援助に関わる社会的スキルカリキュラムの代表例を参考としながら、職業リハビリテーション機関で実施すべきSSTについて検討し、求職面接訓練に関する実証的研究で採用する方法(訓練モデル、訓練課題、訓練技法、訓練形態等)を、ビデオフィードバック、モニタリング等を組み合わせて用いる小集団形式の訓練とすることにした。

(2)実証的研究

実証的研究では、障害者職業総合センターの職業準備訓練生を対象に、まず第一に、前記(1)の方法による訓練を行い、その経過及び結果について検討した。すなわち、訓練を、1グループ3~4人で週1回、面接場面を3場面(入室から着席まで、面接中の様子、終了指示から退室まで)に分け、教育用ビデオ観察…各自の実演-実演ビデオのモニタリングの組み合わせで行った。結果の記録については、2名の観察者(研究者)が訓練生の実演ビデオを基に、各場面に含まれる合計34の下位スキルの習得度を評定した(実験Ⅰ)。

この結果、対象者のほぼ全員(16名中14名)が訓練3回目までに習得すべきレベルに達したこと、般化場面におけるスキルの維持に閲し、ビデオフィードバックの効果が認められたこと、定型的な反応項目は般化しやすいが、非定型的で状況認知を要求する項目、質的習熟を要する項目は般化しにくいこと、障害別では知的障害者とそれ以外の者との明確な差は認められないこと、が判明した。

この結果を検討したところ、モニタリング用紙の効果的使用等に若干の問題があると考えられたため、訓練手続きを修正をしたうえで、別のグループの訓練生を対象とする訓練を行った(実験Ⅱ)。

その結果、スキル習得の初期段階において、また、理解力の低い知的障害者群において、ビデオフィードバックに加えてモニタリング用紙を併用すると、より訓練の効果を高めること、知的障害者群よりもその他の対象者群の方が、面接場面とは異なる状況においても習得した下位スキルを維持する傾向にあること、面接訓練を通じて習得された下位スキルは、状況の異なる般化場面においても利用可能である、といった結果が得られた。

以上の結果を分析したところ、面接訓練の技法としては、ロールプレイに加えビデオフィードバック及びモニタリングを導入すれば訓練効果を高めること、面接訓練を通じて習得された下位スキルは、状況の異なる般化場面でも利用可能であること、の示唆が得られた。

(3)訓練研究全般の課題である「評価の信頼性」、「社会的妥当性」、「般化」の問題職業準備のための社会的スキルの訓練プログラム作成に当たっては、「評価の信頼性」、「社会的妥当性」、「般化」の問題に関する考慮が重要であるが、応用行動分析の理論、先行研究等を参考に、制御変数、考慮事項等について整理、検討した。

(4)臨床・訓練の現場で実用可能な「求職面接スキル訓練マニュアル」実証的研究の結果を基に、ビデオモニタリングの手続きを用いた「求職面接スキル訓練マニュアル」を作成した。このマニュアルを作成するに当たっては、求職面接スキル訓練を行う場合に、必要な部分だけを読んでも実行可能なものとなるよう考慮し、訓練全般の進め方、具体的な教示や必要とされる注意点、本技法を用いた訓練への参加が困難な人への補助的指導法、用語解説、訓練で用いる諸用紙の様式が含まれている。なお、本技法で用いる教育用ビデオ「職業準備訓練生のための面接の受け方」も別に作成した。

目次

  • 概要
  • 序章 研究の目的と研究実施体制等
  • 第1部:研究編
    • 第1章 社会的スキルと求職面接スキル訓練研究
    • 第2章 研究の経過について
    • 第3章 訓練研究における今後の課題
  • 第2部:マニュアル編
    • 第1章 マニュアル編の構成と内容
    • 第2章 ビデオモニタリングの手続を用いた訓練方法
    • 第3章 訓練参加が困難なクライエントのためのオプショナルガイド
  • <巻末資料>

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