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調査研究報告書 No.4
障害者労働市場の研究(1)

執筆者(執筆順)

執筆者
大曽根 寛 (愛知県立大学助教授)
下山昭夫 (淑徳大学助教授)
高田一夫 (一橋大学教授)
森 隆男 (中京学院大学助教授)
佐々木昌秀 (障害者職業総合センター 雇用開発研究担当 統括研究員)
工藤 正 (障害者職業総合センター 支援・雇用システム担当 主任研究員)
指田忠司 (障害者職業総合センター 支援システム担当 研究員)

我が国の障害者対策は、「国連・障害者の10年」以降の障害者対策の基本的方向を示した政府の『障害者対策に関する新長期計画-全員参加の社会づくりをめざして-』(93年3月、障害者対策推進本部)で、ライフステージの全ての段階において全人問的復権を目指す「リハビリテーション」の理念と障害者が障害をもたない者と同等に生活し、活動する社会を目指す「ノーマライゼーション」の理念の下、障害者対策に関する長期計画等に基づき、今後とも「完全参加と平等」の目標に向けて推進されることが確認されている。こうした基本的理念や目標の実現の方法についてはさまざまなアプローチが可能であろう。

障害者の定義にもよるが、障害者の数は全体からみると少なくマクロ的研究はなじまない、あるいは多様な障害特性に着目すると個人を重視した研究視点が有効であるなどの理由から、これまで社会全体と障害者の関係についての研究は積極的にとりあげられない傾向がみられた。しかし、「ノーマライゼーション」を基本とする社会システムを考察していくにはマクロ的研究視点は不可欠であろう。

われわれは、障害者を含む社会全体の労働力の需給調整システムという労働市場論の視点から、働く意思と能力のあるすべての障害者が労働市場に参加できるようにすること、障害者を含めた「完全雇用」を実現することこそが、高度な経済発展をとげた社会の「完全参加と平等」の基礎的条件であると考える。そのためには障害者の就業・雇用にとっての不利を是正する社会・職場環境の改善や職業リハビリテーションの積極的展開が、とりわけ重視されなければならない。

職業は、個人にとってみれば単に所得を稼ぐ手段ばかりでなく自己実現の機会でもあるので、障害者の就業機会の確保に対する不利をなくす就業・雇用支援制度は不可欠であり、こうした制度を組込んだ新しい労働市場モデルの構築が、職業生活における「ノーマライゼーション」の一層の具体化のためには必要である。

こうした社会科学の視点から本書では、「障害者就業動向研究会」での議論をふまえ、それぞれの専門分野の立場から、現在、障害者の雇用・就業問題で何が基本的問題となるか等を考察した論文を集録した。

まず、第1章では労働市場の分析枠組みについて、第2章では日本の障害者の就業実態の現状について述べている。つづく、第3章では障害者雇用の理論的枠組みの検討、第4章では企業における日本的雇用管理・慣行と障害者雇用との関係、第5章では労働力と非労働力の中間にある「福祉的就労」について述べている。最後の第6章及び第7章は外国研究で、フランスとアメリカの障害者雇用をとりあげ、日本との違いに配慮しながら述べている。

なお、本書は「就業動向研究会」の中間成果物であり、これからさらに議論を深め、その成果を『障害者労働市場の研究(2)』として刊行する予定である。

目次

  • 第1章 労働市場の概念と仕組み
  • 第2章 日本における障害者の就業
  • 第3章 障害者雇用の理論的課題
  • 第4章 雇用管理と障害者
  • 第5章 障害者の就労と社会福祉
  • 第6章 フランスにおける障害者就労の動向
  • 第7章 アメリカにおける職業生活障害者の就業

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