災害の発生などが障害者の就業や生活に与えた影響-8期にわたる障害のある労働者の職業サイクルに関する調査研究より-
2026年02月

障害者職業総合センターでは8期16年にわたり、障害者の職業サイクル(職業人生における経験の全体)に関し調査を行いました。その間には、我が国の社会経済に大きな影響を与えた2011(平成23)年の東日本大震災や2020(令和2)年以降の新型コロナウイルスの感染拡大などもありました。 この調査では、このような状況が生じた際に、障害のある人の仕事や暮らしにどのような困難が生じたかを調べました。ここでは、生じた困難の内容や事業主にどのような備えが求められるかについてご紹介します。
はじめに
障害者の職業生活の全体像を明らかにするため、2008(平成20)年度から2023(令和5)年度の16年間にわたり、1,000人を超える障害のある労働者に対して同じ質問を複数回行う「パネル調査」を実施し、その職業人生を追跡する研究(障害のある労働者の職業サイクルに関する調査研究)を行いました。
この調査期間中には、仕事や生活に大きな影響を与えた「東日本大震災」や「新型コロナウイルス感染症拡大」などが発生しました。3期前期・後期(※)の調査では東日本大震災の影響を、7期後期、8期前期の調査では新型コロナウイルス感染症の影響を調査しました。本稿では、これらの出来事が調査対象の障害者の就業や生活に与えた影響について紹介します。
※登録した調査対象者を年齢によって分け、2008年度の調査開始時点で15歳以上40歳未満の対象者への調査を「職業生活前期調査(以下「前期調査」という。)」、40歳以上の概ね55歳までの対象者への調査を「職業生活後期調査(以下「後期調査」という。)」として、それぞれ隔年で実施しました。
1 東日本大震災の影響

上の図は東日本大震災の影響についての自由記述による回答を分類した結果になります。246人(3期前期の回答者140人、3期後期の回答者106人)から回答がありました。それぞれのキーワードに分類された回答が全回答数に占める割合を示しています。
この図を見ると、職場待機や帰宅困難、ライフラインの寸断に関して影響があったとの回答が多いことがわかります。また、回答内容をみると、聴覚障害者からは避難誘導や緊急警報が聞き取れず、給水や燃料等についても情報が不足していたことが、肢体不自由者からはエレベーターが止まり、階段を担いで下ろしてもらったことなど避難の難しさが述べられていました。後期調査の回答では停電や断水で人工透析の遅延や中断といった内部障害に関する困りごとも比較的多く見られました。心理的な内容としては、前期調査では「悲しみ等の感情の出現」についての回答が比較的多く、人生観・価値観の変化についても述べられていました。直接の仕事の変化としては、特に前期調査の回答で仕事が減った・離職したことに関する記述が比較的多かったです。その他、防災に関することやボランティア・募金等の被災地支援、原発に関することもありました。また、「特に影響はなかった」とする回答も一定数あり、影響の程度には個人差も見られました。
※東日本大震災の影響に関する自由記述
- 東日本大震災の影響に関する自由記述
(PDF/364.94KB)
2 新型コロナウイルス感染症拡大の影響

新型コロナウイルス感染症拡大の影響について368人(うち、7期後期調査170人、8期前期調査198人)から得られた回答を、先ほど紹介した東日本大震災と同様に分類した結果が上の図です。
比較的多かった回答は、日常生活や仕事への影響でした。具体的には、外出の自粛要請や感染対策の影響、外出機会の減少による運動不足、社会的交流の制限、生活リズムの乱れに直面した状況が述べられていました。日々の過ごし方の変化により、身体機能の低下や精神症状の悪化、基礎疾患がある者はワクチン接種を受けてもウイルス感染への不安が拭えないといった影響が見られました。コミュニケーションへの影響としては、特に聴覚障害のある人からマスクの着用により発語の口の形が読み取れず、口話ができなくなる意思疎通の支障が数多く述べられていました。仕事への影響としては、在宅勤務やオンライン業務の増加、職場環境の変化があり、労働時間や仕事量、収入の減少のほか、契約満了や体調悪化による退職、長期休業や自宅待機の発生なども挙げられていました。一方で、特別な対応の必要になったことなどにより、医療関係などの一部業種では業務量の増加や人員不足による負担の増加も見られました。
※新型コロナウイルス感染症拡大の影響に関する自由記述
- 新型コロナウイルス感染症拡大の影響に関する自由記述
(PDF/326.35KB)
おわりに
本調査結果から、大きな災害の発生などにより障害者の仕事や生活に大きな影響があることが明確になりました。このような緊急事態への対応として事業主には、安全と健康の確保、情報提供の強化、雇用の維持の3点への対応が重要です。また、支援機関は大規模災害時における障害者の職業生活上の支援ニーズに的確に対応できる準備、体制整備を平時から進めておくことが重要です。












