加齢と障害による職業能力の変化をどう把握するか
2026年07月

調査研究報告書No.186「中高年齢障害者の雇用継続支援及びキャリア形成支援に関する研究」(以下「本研究」という。)では、健康状態や体力、家庭環境の変化といった経年的変化により「これまでできていたことが難しくなる」という経験をした障害のある労働者に対して、事業所がどのように対応しているのかを整理しました。 また、企業が参考にできる実践例をまとめた事例集『取組事例から学ぶ「中高年齢障害者の雇用継続・キャリア形成支援」のポイント』も公開しています。 ここでは、これらの成果を踏まえ、加齢と障害による職業能力の変化をどのように把握するかについて、海外の研究も参考にしながら整理します。
加齢と障害による職業能力の低下
海外の研究では、特に知的障害のある人において、加齢による自身の変化に気づきにくいことが指摘されています。 その結果として、以下のような問題が生じ、適応が困難になるケースがあるとされています。
- 医療機関の受診が遅れる
- 加齢による変化が「問題行動」と誤解される
- 上記の結果として不適切な支援や治療が行われる
つまり、「加齢による変化」と「自分の状態への気づきにくさ(メタ認知の困難)」の組み合わせが、職場での困りごとに発展する可能性があります。
このことから、本人の自覚だけに頼るのではなく、変化を客観的に把握できる仕組みを整えることが重要であるといえます。
WADADという概念とそのアセスメント
Jordán de Urríesら(2022)は加齢と障害の相互作用によって生じる職業能力の低下をWork Ability Decline through Aging and Disability(WADAD)という概念で整理し、知的障害および発達障害のある労働者を対象にWADADを評価するためのアセスメントツールを開発しました。
このツールに含まれる評価項目は、後続の研究(Jordán de Urríesら, 2026)により整理され、以下の6つの側面から構成されることが示されています。
| 側面 | 具体例 |
|---|---|
| 身体的健康 | 疲れやすさ、身体負荷の高い作業が難しくなる |
| 精神的健康 | 意欲の低下、気分の落ち込み |
| 認知機能 | 問題解決や新しい作業の習得が難しくなる |
| 自律性 | 指示や支援への依存が高まる |
| 社会・行動的機能 | 変化への適応が難しくなる、環境の変化への抵抗 |
| 職務適合性 | 作業ペースの調整が難しい、複数作業や計画的な作業遂行が困難になる |
Jordán de Urríesらが知的障害のある労働者にこのアセスメントツールによる評価を行ったところ、著しい低下が認められた項目の多くが「職務適合性」に関するものであったことが報告されています。そして、「職務適合性」は加齢による職業能力の低下が現れやすい領域であると同時に、機能低下の予防や軽減に向けた介入の機会が最も多い側面であることが指摘されています。
以上を踏まえると、「能力の低下を本人の問題として捉える」のではなく、「職務との適合性として捉え、アセスメントの結果を踏まえ適合性を調整し直す」視点が重要であることがわかります。
機能低下への早期の対応のカギは「相談しやすい職場風土の醸成」
メタ認知に支障がない人の場合、自身の加齢による機能低下に気づき、職場の上司や同僚等に相談することで、周囲から必要なサポートが得られることが期待できます。
本研究の調査結果では、回答者の約半数が機能低下を経験しており、そのうち約3割が職場の上司や同僚、産業医、看護師、保健師などに相談していたことがわかりました。
そして、職場に相談していた人と相談していなかった人を比較してみると、相談していた人の方が「一緒に働く上司や同僚に、本人の状況を説明し、サポートするよう理解を求めた」「仕事の内容について本人と定期的に相談・面接した」「仕事に取り組みやすい環境、設備を整えた」といった職場からの対応を受けやすいことが示されました。

「中高年齢障害者の雇用継続支援及びキャリア形成支援に関する研究」調査研究報告書No.186(2026年3月)より引用
まとめ
以上を踏まえると、メタ認知が難しい人については、アセスメントによる能力の発揮状況の見える化により、職務とのマッチングを見直すきっかけにつなげることが重要であることがわかります。アセスメントの結果は、機能低下を本人に突きつけるためのものではなく、本人の強みを活かせる職務の調整やパフォーマンス向上・維持につながる職場環境の整備のための材料として活用することが望まれます。
一方、本人が機能低下の兆候を認識できたとしても、そのことを職場の上司や同僚とできるだけ早期に共有できなければ、職場の円滑な対応につながりません。雇用主は本人が機能低下の状況を安心して職場に共有できるような「心理的安全性の高い」職場風土を築くことが求められます。
本研究では、このような相談しやすい職場環境について「職場のソーシャル・キャピタル」という概念をとおして分析を行っています。「職場のソーシャル・キャピタル」とは、同僚間および異なる階層や組織にまたがる個人間に存在する「信頼」や「互恵性」ならびにネットワーク上の相互作用に関わる職場の資源(Tsounisら,2023)のことです。
収集した雇用管理事例から「職場のソーシャル・キャピタル」が高い職場環境の特徴をまとめています。冒頭で紹介した事例集とともに、職場のソーシャル・キャピタルを醸成するためのヒントとしてご活用ください。
引用文献
- Jordán de Urríes, F. B.ら(2022)「Assessment of work ability decline in workers with intellectual and developmental disabilities」Journal of Vocational Rehabilitation, 57(2), 187-195. https://doi.org/10.3233/JVR-221209
- Jordán de Urríes, F. B. ら(2026)「Work Ability Decline Through Aging and Disability in Workers with Intellectual Disabilities: Validation of the PROLAB Tool」Journal of Vocational Rehabilitation, 64(1), https://doi.org/10.1177/10522263251394332
- Tsounis, A.ら (2023)「Workplace social capital: Redefining and measuring the construct」 Social Indicators Research, 165(2), 555-583.https://doi.org/10.1007/s11205-022-03028-y












