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調査研究報告書 No.50
知的障害者の就労の実現のための指導課題に関する研究

執筆者(執筆順)

執筆者
望月 葉子 (障害者職業総合センター 主任研究員)
向後 礼子 (職業能力開発総合大学校 講師)

(目的・方法)

知的障害者の就労に際して、支援する関係者(学校関係者・保護者・事業主)間の意見は一致していることが望ましい。平成6~9年度に実施した「知的障害者の職業適応のための課題の構造的把握に関する研究」では、この点についての検討を行い、就労の実現に際して重視する課題に関する関係者の意見は概ね共通していることを明らかにした。これは、調査対象事業所が学校紹介によるものであったために、知的障害者雇用に関し「成功経験を持っている」、「学校との信頼関係を築いている」など、障害者雇用に関して積極的・肯定的な事業所であったことと関連していると考えられる。

そこで本研究では、雇用経験のない事業所を対象に「就労の実現をめぐる意見と評価」に関する調査を実施し、知的障害の雇用に関わる課題について考察した。

(結果の概要)

第1章では、質問紙調査により知的障害者の雇用経験のない事業所の意見について検討し、その結果についてとりまとめた。「仕事の出来高」に関しては、企業規模や業種による差は認められず、「健常者の50%~59%」とした回答が最も多かった。これに対し、「不良品の発生率」に関しては、企業規模による差は認められなかったが業種によって回答傾向が異なっており、「製造業」の「不良品の発生率」に関する評価は他の業種と比較して厳しいものであった。また、今回調査の結果を1995年度調査の結果と比較検討するために、第2章では企業規模(56人以上300人まで)と業種(製造業)を限定して検討した。その結果、雇用経験のない事業所が就労時点で「必ずできなくてはならない」とする評価は雇用経験のある事業所よりも厳しかった。また、雇用経験の有無によって、どの程度「できなくてはならないか」あるいは「必要」かについての意見は異なるものの、どの順序で「できなくてはならないか」あるいは「必要」かについての両者の意見は、必ずしも不一致ばかりではなく、一致している領域や課題も少なくないことが明らかになった。さらに、第3章では養護学校高等部教員と雇用経験のない事業所の意見の違いに焦点をあててとりまとめた。意見の違いが生じた背景には、高等部教員が障害特性や教育訓練の目標を考慮したうえで回答しているのに対し、雇用経験のない事業所の場合は業務遂行の水準に照らして回答していた可能性が示唆された。

第4章では、知的障害者の雇用経験のない事業所が知的障害者を受け入れるにあたって、どのような点を困難と考えているのかに関する今回調査の自由記述の回答を分析した。第5章では、知的障害者の雇用可能性に関し、さらに詳しく検討するために実施した面接調査の結果をとりまとめた。ここでは、外部委託等の企業経営に関する動向と知的障害者雇用との関連に関する意見にも言及した。

目次

  • 概要
  • 序 知的障害者の就労の実現に関する関係者の意見をめぐる検討の到達点
  • 研究のねらい
  • 第1章 知的障害者を雇用した経験のない事業所の意見
  • 第2章 知的障害者の雇用経験の有無による意見の相違
  • 第3章 事業所と養護学校高等部教員の意見の比較
  • 第4章 雇用経験のない事業所の回答からみた雇用上の課題  -自由記述の分析-
  • 第5章 業務の外部化の潮流と知的障害者の雇用可能性
  • 資料
  • 調査票

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