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調査研究報告書 No.21
地域障害者職業センターの業務統計上”その他”に分類されている障害者の就業上の課題

  • 発行年月

    1997年12月

  • 職業リハビリテーション活動による課題領域の体系図・ICFによる課題領域の体系図 該当項目

    障害特性/課題の把握

執筆者(執筆順)

執筆者
小畑宣子 (障害者職業総合センター 統括研究員)
田谷勝夫 (障害者職業総合センター 主任研究員)
春名由一郎 (障害者職業総合センター 研究員)
梅永雄二 (障害者職業総合センター 研究員)
望月葉子 (障害者職業総合センター 研究員)
田中敦士 (障害者職業総合センター 研究員)
松為信雄 (障害者職業総合センター 主任研究員)

(概要)

1.研究目的

1987年「身体障害者雇用促進法」が「障害者の雇用の促進等に関する法律」に改正され、法律の対象は身体障害者からすべての障害者に拡大された。しかし、障害の種類によって「障害者の雇用の促進等に関する法律」に基づく各種施策の適用範囲が異なっている。身体障害者は、障害者雇用促進のための施策がすべて適用される。現在(平成9年10月現在)、身体障害者のみを対象とした法定雇用率が設定され、雇用義務はないが、精神薄弱者を実雇用率にカウントできることとされている。精神分裂病、そううつ病またはてんかんにかかっている者で症状が安定し就労可能な状態である者は、雇用義務の対象ではなく、実雇用率にカウントされていない。身体障害者、精神薄弱者、精神障害回復者等は障害者を雇用する事業主に対して支給される各種助成金制度の対象となっている。これら以外の障害者は、職業相談や職業指導等の職業リハビリテーションサービスの対象となっているが、雇用義務の対象ではなく実雇用率にカウントされず、適応訓練や納付金制度に基づく各種助成金制度が適用されていない(第1章第1表)。

地域障害者職業センターでは実務上業務の対象とする場合、身体障害者、精神薄弱者、精神障害者の区分のいずれにも該当しない者を“その他”に区分している。その構成をみると、障害の種類はきわめて多岐にわたり、しかも障害特性が一般に十分に理解されているものが多いとはいえない現状にある。また、職業に就く上での問題点や支援策等が必ずしも明らかにされているわけではなく、これらの者に対する職業リハビリテーションサービスに関する基礎的な資料の整備が急がれている。

そこで、本研究では、“その他”に分類されている地域障害者職業センター新規来所者について、障害の特徴と就業上の課題を把握し、職業リハビリテーションサービスのあり方や支援策等の検討を行うこととした。

2.研究方法

地域障害者職業センターの業務統計上“その他”に分類されている新規来所者を対象に、「障害の特徴」、「職業につく(あるいは定着する)上で出会う困難な点、問題点」、「どのような配慮、支援策があれば就職・定着を促進できる可能性が広がると考えられるか」、に限定して、指導記録や検査結果等をもとに、地域障害者職業センターから事例情報の収集(以下「事例情報調査」という。)を行った。

報告された障害区分に基づいて整理を行い、事例が少ない場合は各種文献やこれまでの研究成果を含めて考察を加えることとした。

3.研究結果のまとめ

「事例情報調査」の結果、障害区分別に明らかされた「職業につく(あるいは定着する)上で出会う困難な点、問題点」、「就職・定着促進のための配慮、支援策等」の主な点は、以下のとおりである。

高次脳機能障害は、脳出血や脳梗塞などの脳血管障害あるいは交通事故などによる頭部外傷等により脳の組織が一部破壊(脳損傷)されることにより生じ、記憶障害、注意障害、認知障害、記銘障害などの障害が含まれる。これらの障害は外見ではわかりにくく、能力低下がアンバランスであり、全体的な能力評価が困難な場合が多い。障害特性、指導方法、配慮事項などについて事業主の理解を深めることや本人の障害の受容が必要である。また、医療と職業リハビリテーションとの相互理解を深めていくための橋渡しが重要である。

難病は、現在の医学レベルでは治療に限界があり完治が望めないため疾病が慢性化しているものである。半数以上の難病では、自己管理、通院・治療の保障、就労条件の制限などの疾病管理上の必要条件が整えば、就労の可能性が示されており、可能な限り、疾病管理と社会参加を平行して進めることが適当と考えられる。実際に職業に従事するにあたっては、様々な機能障害の低下と、職務要件との関係で、職業選択の制限が生じる。配慮事項・支援策については現行制度上の内部障害者と共通しているが、難病特有の支援策として、医療との連携を維持しながらの雇用創出、医療管理と雇用管理との連携を容易にするための対策、職業能力についての情報提供サービスが必要である。

一般的病気については疾病の治療可能性により、難病のように治療と社会復帰を平行して進めるべきものと、まず、治療を進め、疾病が固定してから社会復帰に向かうべきものを区別する必要がある。職業につく上での配慮事項は、難病と共通するところが多い。

自閉症は、精神発達遅滞と重複しているものが多くIQ値の低い者は療育手帳の取得が可能である。しかし、高機能自閉症(知的レベルの高い自閉症)は療育手帳の取得ができず、事業主に対する各種の助成制度の適用がないので、企業から敬遠される恐れがある。就職・定着促進のための配慮事項としては、対人関係のトラブルが起きないようにすること、事業主や同僚に自閉症についての正しい理解を得ること、できるだけ一定の作業環境を整備することがあげられる。しかし、高機能自閉症の例は、職業リハビリテーションの現場ではまだ少なく、今後事例を蓄積しさらに観察を要する。

学習障害は、現状では、定義と診断基準について医療、教育、臨床など関係者に合意がないまま使われている用語である。したがって、「学習障害」を主訴とする者という取り扱いとなる。これまでに職業リハビリテーションのサービスを利用して入職を希望する事例の多くは、青年期に至り精神薄弱の判定の対象となっており、そうでない対象者の検討については、事例の蓄積が課題となっている。こうしたことから、現時点では精神薄弱に用意されたサービスを適用することが的確な措置であることが多い。彼らの特性については、職務遂行能力が低い、作業態度が形成されていない、手順の理解が遅い、場面が変わると対応できない、等があげられている。また、就業上の中心的な課題として、障害を受容できないという問題があげられる場合が多い。まずは、定義と診断基準に関する議論を進めることが課題となっており、その上で雇用対策上特別なサービスが用意された障害カテゴリーに新たに位置づけるかどうか検討することになろう。

精神薄弱との境界域は、状態像として、日常生活上の支障がみられないことは共通するが、職業上の問題点としては、作業が遅い、習熟性が低い、忍耐力や集中力が欠ける、人間関係の構築が苦手である、等多様な様相を呈する。「精神薄弱」との延長上の問題として捉えるのか、あるいは精神、行動面から解釈すれば良いのかについて意見の分かれるところである。職業リハビリテーションにおけるかれらの処遇を決定するためには、より多くの事例を収集し、状態像や支援策の詳細な記録からの分析と検討が必要である。

精神障害周辺層の問題点としては、医療機関から送られてきた書類のなかには、社会的偏見などへの配慮もあって、必ずしも厳密な診断基準に沿った診断名がつけられていないものがみられることである。医療機関と密接な情報交換を行うことにより、職業リハビリテーション活動を進めていくことが重要である。

各障害に共通する事項として、就業の可能性を広げるためには、事業主の障害に対する正しい理解、職場適応訓練の適用、採用時の事業主の負担を軽減させるための人的支援や助成金の支給対象とすることが必要であるとする障害者職業カウンセラーの記述が多くみられた。

次に各障害区分に共通する今後の研究課題として、第1には、障害の受容と社会的偏見に関すること、第2には職業リハビリテーションサービスの内容や支援方法に関すること、第3には、職業上の障害の判定に関すること、第4には地域障害者職業センターを利用していない障害者のなかで“その他”に分類されているような障害をもつ人々の実態を含めた全体像を把握すること、があげられる。

今後とも、障害の多様化が進むことが予想されるなかで、望ましい職業リハビリテーションサービスの内容や提供のあり方を追求していくためには、なお一層の事例の蓄積とともに、障害者職業カウンセラー、事業主、研究部門間の日常的な情報交換が重要と思われる。また、労働行政、職業リハビリテーション、企業、医療・福祉・教育関係者など各分野の方々との連携を図ることが不可欠である。

目次

  • 第1章 研究目的および方法
  • 第2章 障害の特徴と就業上の課題
  • 第3章 まとめと今後の課題
  • 付属資料
  • 参考資料

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