調査研究報告書 No.14
知的障害者の職業指導を支援する評価システムの開発に関する研究
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発行年月
1996年09月
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職業リハビリテーション活動による課題領域の体系図・ICFによる課題領域の体系図 該当項目
執筆者(執筆順)
執筆者 | 執筆箇所 |
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向後 礼子 (障害者職業総合センター 評価・相談研究部門 研究員) |
:第1章、第5章、第6章 第2節、第7章、資料 |
高田 明典 (早稲田大学理工学部 大学院生) | :第2章 |
東原 文子 (筑波大学心身障害学系 技官) | :第3章 |
山西 潤一 (富山大学教育学部 教授) | :第4章 |
越川 房子 (早稲田大学文学部 講師) | :第6章 第1節、第3節、第4節 |
(概要)
第1章では、知的障害者を対象とした、コンピュータを用いた評価システムの開発の必要性についてまとめると共に、評価と課題選択に関する視点についてまとめた。特に、評価に関する枠組みとして「スキルに関する知識の有無」と「スキル使用の適切さ」の観点から考察を試みた。なお、具体的な課題としては、「時間と金銭に関する知識の評価(第2章)」「服装と身だしなみに関する知識の評価(第3章)」「言語的なコミュニケーションに関する知識の評価(第4章)」「非言語的なコミュニケーションに関する評価(第5章)」の4課題を選択した。
また、コンピュータを利用したことによる長所、短所について検討し、課題作成にあたっての具体的な留意点についてまとめた。
第2章では、数概念の発達に困難のあるクライエントに関して、職場にどのような配慮を求めたらよいのかに関する示唆を得ること、また、今後どのような指導が望ましいのかについての示唆を得ることを目的に、「時間と金銭に関する知識の評価」が可能なシステムの開発を目指した結果についてまとめた。結論として、本システムにおける課題は、基本的に以下の各段階の能力に関して、どの段階でつまづいているのかを評価可能であることが示唆された。その段階とは、「具体的操作の段階:単に時計が読める、あるいは硬貨が選べるという段階」。「量的理解の段階:10分、30分という時間がどの程度の作業ができる長さなのか、あるいは10円、100円といった金額がどの程度の価値を持っているのかを理解している段階」。「一般的知識に関する理解の段階:実際の生活において、必要な種々の品物が大体どの程度の金額なのか、に関する知識を持っている段階、もしくはそれぞれの作業に一般的にどの程度の時間を要するかに関する知識を持っている段階」である。
第3章では、「服装や身だしなみに関する知識の評価」が可能なシステムの開発を目指し、その結果についてまとめた。ここでは、特定の職務にあった服装や身だしなみができないことが、知識の不足によるものなのか、知識があるにもかかわらず、あるいは知識を得た後も修正できないのか、について評価可能なシステムの作成を目指した。評価のポイントとしては、予備的な調査から、「安全」「衛生」「礼儀(周囲に不快感を与えない)」の3点を選択し、また、正しい服装や身だしなみを呈示することで、自発的な気づきが可能かどうかについても検討した。その結果、精神年齢4才程度で生活経験の少ないクライエントにおいても利用可能であることが示唆された。
第4章では、「言語的なコミュニケーションに関する知識の評価」が可能なシステムの開発を目指し、その結果についてまとめた。ここでは、日常的によく利用され、かつ比較的短期間で学習が可能と考えられる「挨拶」「謝罪」「感謝」の言葉に焦点をあて、それらを利用する疑似的な社会生活場面をコンピュータ上で呈示し、各場面に最も適切な言葉を選択するという課題が知的障害者に利用可能かどうかについて検討した。将来的には、個人の言語的なコミュニケーション能力について評価できるシステムの開発を目指しているが、現段階では、自分の参加していない状況を適切に理解することに困難のある知的障害者にとって、こうしたシステムが利用可能であるかどうかの検討にとどまった。その結果、本評価システムで用いた手続き、すなわち「疑似的な社会生活場面の動画像による呈示」及び「その状況をナレーションで説明すること」が有効であることが示された。
第5章では、「非言語的なコミュニケーションに関する評価」が可能なシステムの開発を目指し、その結果についてまとめた。具体的には、「幸福」「怒り」「悲しみ」「嫌悪」「軽蔑」「驚き」「恐れ」の7感情について、複数の健常者の評価が一致した表情写真とその表情に対応する言葉とを組み合わせるという課題が、知的障害者に適切な課題であるのか、そして得られた評価が個人の表情識別能力を反映したものであるのかについて検討した。また、システムとは別に、非言語的なコミュニケーションにおいて表情と同様に利用される音声についても、その識別能力に関して検討した。その結果、知的障害者では、表情においても音声においても快と不快の感情間の混同率が高いこと、またIQとの間に正の関連が認められることが示唆された。以上に加えて、訓練効果が認められたことから、表情識別等の非言語的コミュニケーションスキルに関する訓練プログラムの必要性が示唆された。
第6章では、知的障害者を対象とした訓練プログラムについて概観するとともに、非言語的なコミュニケーションに関する、特に表情に関する具体的な訓練プログラムの提案を行った。なお、訓練プログラムの作成に際しては、「非言語的コミュニケーションに関する評価」システム(第5章)との関連を考慮し、評価及び訓練に利用する刺激は評価システムと同様のものとした。また、訓練用の刺激の作成にあたっては、できるだけ日常場面に近いことに配慮し、写真(静止画)に加えてビデオ刺激(動画)の作成も行った。
本章で提案した訓練プログラムに関しては、今後、実際に実施することでその有効性を確認することが求められている。
第7章では、コンピュータを利用した本評価システムの共通の課題について、①検査が自動的に実行できるものであること。②静止画像・動画像等を多く用いるものであること。③課題での教示は、原則として音声による読み上げを伴うものであること。④回答の入力用の装置としてはマウスを用いるものであること。⑤検査結果が、自動的に処理され、個人毎にグラフ表示が可能なものであることの5点から検討した結果についてまとめた。また、評価後の訓練プログラム等の問題についてもまとめた。
目次
- 概要
- 第1章 研究のねらい
- 第2章 時間及び金銭に関する知識の評価
- 第3章 服装と身だしなみに関する知識の評価
- 第4章 言語的コミュニケーションに関する評価の試み
- 第5章 非言語的コミュニケーションに関する評価
- 第6章 非言語的コミュニケーションに関する訓練プログラム
- 第7章 今後の課題
- 資料 システムの利用にあたって
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