(ここから、本文です。)

調査研究報告書 No.13
障害の多様化等に対応する職業探索システム等の開発に関する研究—その1—

  • 発行年月

    1996年07月

  • 職業リハビリテーション活動による課題領域の体系図・ICFによる課題領域の体系図 該当項目

    職業情報の提供

執筆者(執筆順)

執筆者
池田 勗 (評価・相談研究担当統括研究員)

(概要)

本報告書は、「障書の多様化等に対応する職業探索システム等の開発に関する研究」(平成6年度から平成10年度までの5年計画)の2年次までの中間報告である。

1.研究の主旨

職業リハビリテーションサービスの実践をとりまく環境ではさまざまな変化が生じており、これらの変化に対応したサービスの向上を図ることが常に必要である。このような最近の変化として考慮すべき大きな要因としては、次の3つがあげられる。

① サービスの対象者には精神薄弱者、精神障害者、その他複雑な問題をかかえる人が増加する等の多様化が進んできていること。
② 職務内容や雇用環境にも著しい変化が隼じてきていること。  
③ 障害者雇用促進のための支援制度、支援技術も拡大してきていること。

一方、コンピュータの普及はめざましく、特にパーソナルコンピュータ(以下「パソコン」)の機能拡大・向上、、低価格化等の普及条件が進んできたため、コンピュータ操作が特別な人だけのものではなくなってきている。上記のような実践環墳の中で職業リハビリテーションサービスを展開する場合には、多くの情報を扱うことが必然となり、コンピュータがもつ、多情報の迅速・正確処理、情報の保存利用といった長所を十分に活用すべきである。

そこで、本研究では、障害者の職業能力及び職場への適応力に応じた職業及び職場環境を検索し、また、職業に関する種々の要因を検索して、障害者の職業選択、職業生活設計を援助するためにコンピュータを活用するシステム(本研究で目標とする「職業探索システム」)の構築をめざすこととした。

2.方法

(1)研究期間

平成6年度から、平成10年度までの5年間

(2)研究実施体制

本研究の実施は、障害者職業総合センターの評価・相談研究部門の研究員が核として担当するが、他部門の研究員の協力も得ながら実施することとし、また、外部専門家を含む研究委員会及び専門部会を設旧して、広く協力を得ながら実施することとした。

(3)研究実施の方法

研究の主旨及び研究実施に、当たって考慮する条件を踏まえ、本研究では多面的な検討が必要であるため、以下のような種々の方法、段階を組み合わせて行うこととした。

イ.研究全体の方法論、具体的課題の選定等については研究委員会として「障害者職業探索システム等開発委員会」を設置して検討し、システムの検討、職業情報の検討、利用方法の評価等、開発に必要な個々の具体的課題については専門部会を構成して検討・作業を行う。
ロ.関連する特定事項についての経験、知見を把握するために、専門家及び日本障害者雇用促進協会(以下「目障協」)の障害者職業カウンセラー(以下「職業カウンセラー」)からのヒアリングを行う。
ハ.既存システムの内容、構成、利用方法等について、文献調査及びシステム操作の調査を行う。
ニ.職業情報のデータベース化が必要となるが、そのための基礎情報については、職業調査に関する資料を参考にしながら職務調査票を作成して、企業調査を通じた職務情報の取得を行う。また、外部研究グループに委託して行う文献調査に基づく精神薄弱者の雇用事例もデータベースに活用する。
ホ.本システムのためのコンピュータソフトの開発については、全体構想のある程度の検討ができた段階で部分的な試作を行い、その試行検討を踏まえて全体ソフトの開発に進むこととし、研究終了時には、一連の機能をもって作動するシステムの1セットを完成させることを目指す。

3.文献にみる職業カウンセリング等でのコンピュータ利用

(1)一般の職業指導でのコンピュータ利用

一般の職業指導ではかなり早い時期からコンピュータ利用が試みられている。アメリカでは1960年代からキャリア・ガイダンスに利用されており、用途も、個人データの収集、処理だけでなく、データや情報を提示しながらの相談の実施、スタッフの訓練に利用する等のマンパワー開発への利用等もされている。最近は多数のパソコン用ソフトが市販されており、500種以上のソフトを紹介しているガイドブックが出版されている。

わが国ではこれより若干遅れているが、学校における進路指導への利用の関心が向けられ、他方、一般の職業指導用としての職業ガイダンス・システムが雇用促進事業団の雇用促進センター(47所)で利用される体制にまでなっている。

(2)職業リハビリテーション・カウンセリングでのコンピュータ利用

障害者の職業問題への利用についても、やはりアメリカが早くから試みている様子で、1980年代初頭から広く使われるようになったという報告がある。外国文献データベースにも種々の利用の方法に関する報告が掲載されているが、専門雑誌での文献では、幅広い利用方法の紹介と同時に注意すべき事項も指摘されている。

わが国でも職業リハビリテーションへの利用に関する関心は高まってきているが、文献はまだ多くない。パソコンの個人的利用や施設内利用の例の紹介が主であるといえよう。また、大型電算機を利用した業務用ネットワークも構築されてきているが、一定組織内の使用に限定されたものである。

4.障害者職業カウンセラーからのヒアリング

(1)職業リハビリテーション・カウンセリングでのコンピュータ利用への期待等  この研究の実施に当たっては、職業リハビリテーション・カウンセリングでのコンピュータ利用について実務に携わっている人達がどのような期待感を持つか、それほどのような経験に基づくものか等を把握して参考とすることも重要であるため、日障協の職業カウンセラーでおおむね3年以上の業務経験のある21人から、グループヒアリングを行った。

参加者には、業務上でのコンピュータ利用に関して、①利用の経験、②ソフト開発の経験、③コンピュータ利用の期待、についてヒアリングで聴取したい旨をあらかじめ知らせておき、当日は、あらかじめ考えてきた事項に留まらずに自由な形で意見表出、質疑討論を行ってもらった。

参加者は、コンピュータ利用への関心があるという点で共通しているが、経験の面では深い人も浅い人も混じっており、中には、苦手意識を持っ人の意見も出さなければならないという問題意識で参加した人もあった。したがって、出された意見は必ずしも「堪能な人達だけ」からの意見ではなく、幅広い意見と受け取ってよいと考えられた。また、限られた人数の人達からではあるが、職業リハビリテーション・カウンセリング業務でのコンピュータ利用に関する期待と留意事項等について、さまざまな意見を聴取できた。

(2)精神薄弱者、精神障害者、「その他の障害者」の職場選択を考慮するときに重視する事項前述のコンピュータ利用に関するヒアリングを行った際に、地域障害者職業センター(以下「地域センター」)での業務経験を基にして、精神薄弱者、精神障害者、「その他の障害者」(注:地域センターでは、利用者の障害の種類の区分として、身体障害者、精神薄弱者、精神障害者、その他の障害者という4区分を用いている。)に分類される障害者のそれぞれについて、職場選択を考慮するときに重視する事項を聴取した。聴取された事項には、通例よく聞かれるもの、類似事項を別の角度あるいは別の表現で述べているもの等も含まれていた。また、これらは限られた場面の中で提示されたものであるため諸々の課題事項を網羅しているとはいえないが、現場の従事者の経験則として、本研究での職業面の調査、システム開発に当たって貴重な参考事項にすべきものであった。

5.システムの検討

(1)既存システムの構成内容

いままでに開発されている職業カウンセリング用のシステムは、それぞれの目的に応じたサブシステムを組み合わせて構成されているものが多い。本研究で開発をめざすシステムも、複数の構成要素をサブシステムとする複合機能を持ったものとすることが必要と考えられるが、検討のための参考として、既存システムがどのような構成内容で組み立てられているかを、文献及び操作実験を通じて調査した。

調査の対象にしたシステムは以下のものである。
日本労働研究機構(JIL)の「職業ガイダンス・システム」、労働省の「総合的雇用情報システム」、
Discover、DiscoverJr.、Choices、SYSTEM2000、VocationalImplication of PersonalityJr.(VIPJr.)。

(2)開発するシステムの検討

イ.全体的構想

既存のシステムの内容、職業カウンセラーから出された期待等を参考とし、また、現時点での諸背景条件を考慮し、本研究で目指すシステム開発の全体構想を以下のように設定した。

  • ① 大きな目標:障害者(主に精神薄弱者及び精神障害者を想定)の職業選択、職業生活設計を援助するカウンセリング業務を、効率的かつ自発性を誘導するように行うための補助的役割を果たすシステムであること。  
  • ② 具体的目標:職業に関する知識(職務の名称及び内容、必要とされる要件、特徴、就労環境等)を示し、理解を深め、自分の希望、特性と関係づけて就職に向けた将来計画を考えることを援助するシステムとすること。  
  • ③ 開発するシステムの構成要素:開発するシステムは、利用者向けのものと職業カウンセラー向けのものとの2種類を想定し、以下のようなそれぞれの構成要素を検討することとした。
  • a.一般用システム(利用者向け):システムの使用案内、職業情報提供システム(職務情報の利用、知的障害者雇用事例情報の利用、職業ハンドブック(CD版)の利用)、相談ニーズ把握システム(これについては今後さらに検討を要する)。  
  • b.職業カウンセラー用システム:システムの使用案内、職務検索システム(職務情報データベースから種々の条件による検索を行う、個人の条件を入力して職務の条件と対比的に表示する)、職業情報提供システム(知的障害者雇用事例情報の利用、職業ハンドブック(CD版)の利用)、地域内事業所検索システム(各地域センターで事例を入力し、地域に合った事業所の情報を検索する)、付加的な将来構想(可能な場合に付加を検討する)。
ロ.システムの一部試作

全体構想を踏まえ、システム全体の構成及び細部における留意点、構成要素となる各システムの関連性、操作性等を検討することを目的として、平成7年度にシステムの骨格部分及び一部のサブシステムについて試作的にソフト開発を行うこととした。試作サブシステムは、全体システムの中心で最も複雑であり、中心に位置づけられると考えられる職業カウンセラー用職務検索システムとし、併せて、その運用に必要な職務情報及び知的障害者雇用事例情報についてのデータベース化を行うこととした。

6.職業情報の検討

(1)本システムで利用する職業情報

このシステムで目標とするのは、職業リハビリテーション・カウンセリングの中で、多種の職業についての職務の特徴や要件について理解を深めることと、本人の希望、特性等と職業の諸条件とを照合・対比、検索して、本人と職業との関係について理解を深めることとを通じ、支援制度・支援技術等を勘案しながら必要な準備等を考える資料となる職業情報である。

そこで、本システムで利用する職業情報については、新たな情報収集による資料の活用を主とし、補足的に職業ハンドブックの改訂版の活用を図ることを基本に、以下の方針で進めることとした。

イ.調査実施により収集する職務情報

企業からの調査によりこのシステム用の職務情報を収集し、データベース化して用いる。

ロ.知的障害者雇用事例情報

本研究に資するため、外部研究グループに委託して行った精神薄弱者の就業職種拡大に関する文献調査によって収集された雇用事例を、データベース化(「知的障害者雇用事例情報」)して用いる。
これには、1981年から1994年の問の雑誌、報告書等142の文献から得た個人事例289、企業事例256、合計545事例が含まれている。各事例ごとに産業分類、職業分類、職務内容等の基本的情報、及び、職域拡大の要因を要約した情報が整理されている

ハ.JILの職業ハンドブック

一般的職業解説についての情報は、JILの職業ハンドブック改訂版を活用できるようにする。ハンドブックの改訂作業は平成8年度完成をめざしており、完成時には印刷物だけでなくCD化した情報が市販される予定であるので、当システムの中で連動的に利用できるようにする。

ニ.地域内事業所情報

具体的な就職可能性を検討するためには、事業所の受け入れ経験や体制等が非常に重要であるが、これについては、各地域でデータを蓄積して用いることが適切と考えられる。そのため、諸調査及びフォローアップ等で事業所状況を把握する際に重要とされる項目等を参考として、基本的、共通的な項目を設定し、これに項目追加が可能なフレームを用意することにする。

(2)職務調査

本システム用の職業情報の作成のためには調査による資料収集が必要であるため、予備調査を通じた検討を踏まえて企業に対する職務調査を実施し、1,236事業所からの回答を得た。
職務調査の実施に当たって考慮した主要な事項は、以下のとおりである。

  • イ.検索対象とする職業情報ではできるだけ多くのデー夕量を確保することが重要であるため、短期間に大量データを得る方法として郵送調査によることにした。
ロ.職務調査を行う企業は、障害者が就労している企業を調査対象にする方法と、それに限定しない方法とが有り得るが、雇用している事業所に限定することは機会の広がりを追求できなくなるという問題が生じる。そこで、職域を広げるという観点に立って、調査対象企業は障害者雇用経験に無関係にできるだけ幅広く選定することとした。
ハ.精神薄弱者等の職業の適否を考える場合には、職務レベルの内容が詳しくわかる職業情報が有意義であり、課業レベルにまで細分することが望ましいが、調査票形式では把握が困難であろうと考えられるため、職務レベルでの調査を行う。さらに、予備調査の段階で企業の人にとっては「職務」という表現に違和感があるという反応があったため、最終の調査票では「職務」と「職種」を併記することとした。
ニ.調査職務をできるだけ幅広くするねらいで、回答してもらう職務は障害者が従事しているかどうかとは無関係に選択してもらうこととした。
ホ.産業分野については原則として全分野を対象とすることとし、年次を分けて分野を選択することにしたが、初年度には、障害者にとって従来からの最大の労働市場と思われる製造業を対象とし、2年次、3年次に今後の拡大が期待される第3次産業及び他の産業で必要なものについて実施することにした。
ヘ.企業規模に関しては、当初は平均的なものを考慮することが検討されたが、障害者が雇用される機会は中小企業に多いのが実態であるので、調査対象企業には中小企業も含めるよう考慮することとした。
ト.調査項目は、職務調査を行う場合の一般的項目と障害者との関係を対比できる項目との組み合わせが必要であろうと想定し、既存の調査項目及び職業カウンセラーからのヒアリングで出された障害者の職場選択を考慮するときに重視する事項等を参考に作成した。さらに、質問項目数をできるだけ少なくする、記述部分を少なくし選択肢方式を多くする、選択肢はできるだけ表現を平易にして、まぎれの少ない段階表現を示して質問する方式とすること等に努めた。 最終的な職務調査票の項目は、「事業所の基本事項」「職務内容」「職務の特徴」「職務遂行に必要な特質等」「身体動作」「環境条件」「付随質問」の7つの大項目で構成することになった。
チ.職業の内容理解のためには画像情報が有効であるので、少数であっても、別に画像を取り込むことを考慮する。

7.今後の課題

(1)システムの開発と利用方法の検討

システムの構成方針案の作成と部分的試作段階まで到達したが、今後は、試作したシステムの操作実験を通じた検討を踏まえ、全体を構成する複数のシステムの開発へと進めることが課題となっている。

システム開発には何回かの修正を要すると予想しなければならないが、データベースの蓄積、有効な利用方法の確立と平行した検討が必要である。

また、職業リハビリテーション・カウンセリングの各過程での活用、本人の条件及び関心等との対比・照合手段、画面構成の方法等、利用方法の確立に向けた検討が今後の課題となる。さらに、構成要素の検討段階までに留まっている職業情報や地域内事業所情報の利用方法、方針の段階では将来の検討課題としているシステムの構成要素についても検討する作業が残されている。

(2)職務情報の蓄積と分析

職務情報の収集は、初年次には製造業に関して行ったが、2年次、3年次には予定通りに第3次産業からの情報収集を行うこととする。ただし、最終的には、業種の広がり、職務について必須のものが不足していないかの検討を経て、情報収集の付加が必要であるかの検討が必要となろう。また、画像資料等の補足資料の収集についても引き続き蓄積が必要である。

収集した職務情報報は、基本的には、それぞれの属性を検索対象として内容や特徴の理解、本人の諸条件件との対照等に伏するが、前述のように各職務の特徴に応じた職業分類をし、本人条件との対比に供する等のための分析が必要である。また、回収した調査票で空欄の多いものの活用方法、類似内容と思われるが違った名称の職務名等の処理、活用方法、さらには、付加情報としての障害者の従業状況での活用方法についても検討が必要である。

目次

  • 概要
  • 第1章 研究の枠組みと文献調査
  • 第2章 障害者職業カウンセラーからのグループヒアリング
  • 第3章 システム構成に関する検討
  • 第4章 職業情報に関する検討
  • 文献
  • 資料

ダウンロード

分割

冊子在庫

あり

関連する研究成果物