(ここから、本文です。)
-見直される農業、注目される障害者雇用の可能性-

調査研究報告書 No.102
農業分野の特性を活かした障害者の職域拡大に向けて

  • 発行年月

    2011年03月

  • キーワード

    農業の活性化 農業の独自性と職業リハビリテーション 6次産業化

  • 職業リハビリテーション活動による課題領域の体系図・ICFによる課題領域の体系図 該当項目

    障害者雇用の状況等の把握

執筆者(執筆順)

執筆者 執筆箇所
佐渡 賢一 (障害者職業総合センター 統括研究員) 第1章、第2章第2節、
第6章、第7章、資料
河村 恵子 (障害者職業総合センター 研究員) 第2章第1節、
第3章~第5章、資料

活用のポイント

障害者を雇用し、安定的な経営を進めている農業事業所の事例調査を踏まえ、さまざまな制約を軽減、回避するための要件や工夫、作業を容易にするためになされている配慮や工夫を示している。さらに、農業分野での障害者雇用を後押しする周辺領域での取り組み、農業の技術革新等、産業としての広がりの現状にも触れている。職業リハビリテーションの観点から農業分野での障害者就業を検討するための資料として活用してもらいたい。

研究の目的と方法

農業の季節性や小規模性等は、障害者の雇用促進にとって制約になる部分が多く、これまで職業リハビリテーション分野において注目されることは多くはなかった。そうした中、農業分野の特性を踏まえつつその就業の場としての可能性を探るため、実現に向けての課題とその解決策について明らかにすることを目的として本研究を実施した。具体的には、農業分野における障害者雇用に関する先行研究および関連する分野にかかる文献調査をはじめ、事業所、自治体、教育機関、職業訓練機関等への訪問を中心とした聴き取り調査等を通して、障害者雇用の先進的な事例、自治体等における推進・支援策の実態の把握を行った。

なお、本研究は独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構農村工学研究所が取り組む農業分野における障害者就労にかかる研究・事業と協力を保ちつつ進められてきた。本研究担当者は企画委員としての参画等を通して同研究所の事業への協力を行う一方、これら協力を通して得た知見を本研究の活動および成果に反映させた。

研究の結果得られた知見

近年の日本の農業は、就業者の減少・高齢化の進行に伴う担い手不足や耕作放棄地の拡大、食糧自給率の低下の課題に直面する一方、食の安全への意識の高まり等、さまざまな形で注目を集めている。本研究に直結するもののひとつとしては、まず担い手確保の課題があげられ、その人材育成の一環として障害者の就労も関心の対象となってきている。農作業を取り入れている障害者福祉施設は年々増加傾向にあり、また、企業、個人双方の側から農業参入の機運もみられる中、特例子会社における農業への参入事例も散見される。

農業自体の特性に注目すると、季節性、事業所規模の小ささ等障害者の雇用促進への制約が少なくない中、障害者を戦力として雇用し、利益を生み出す事業所として運営している事例が存在する。これら事例においては作物の選択、その組み合わせ(複数の作物を取り入れる等)や事業展開の仕方(加工や販売まで行う等)等、通年の作業量の確保や安定的な経営のためのさまざまな工夫がみられた。併せて、作業内容や従業員である障害者の特性を踏まえた工夫や配慮もなされていたが、それらは職業リハビリテーションの視点や手法を大いに活かし得るということも認識できた。

また、今後の農業分野での障害者就業の広がりに期待のもてる取り組みが地方自治体や教育機関等で行われていることも確認された。さらに、産業としての発展(6次産業化、技術革新等)の実態からは、これまでの農業のイメージから視野を広げ、「変わろうとする農業における障害者雇用」という視点で農業における障害者の雇用拡大を目指すことも意義あることと示唆された。

ダウンロード

サマリー

全文

冊子在庫

あり