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調査研究報告書 No.7
重度障害者の総合的就労支援技術の開発—その1—

執筆者(執筆順)

執筆者
佐々木昌秀 (雇用開発研究部門統括研究員)
岡田伸一 (雇用開発研究部門適応環境担当主任研究員)
八藤後 猛 (雇用開発研究部門適応環境担当研究員)
野中由彦 (評価相談研究部門能力開発担当研究員)

(概要)

当センターにおいては、「重度障害者の職域拡大のための総合的就労支援技術の開発に関する研究」を、外部のリハビリテーション工学等の専門家と当センターの研究職とで構成する「障害者就労支援技術開発委員会」を設置して、平成5年度から10年度までの調査・研究期間で行っている。その開発ニーズを把挺するために、次のような調査。研究を行った。

事業所において求められる職務要件に関する研究- 今日では、さまざまな職種においてコンピュータを利用した職務が多くなってきた。こうした機器開発を行うためには、職種や障害によって異なるニーズを把握する必要がある。そこで、近年、大幅に変化した職務の内容を再調査した。調査は延べ約1万社、7職種に対してアンケートを行った。調査内容は、身体機能、感覚器機能、職場環境への耐性、精神活動、内的能力など42項目である。

「事務」では、移動動作や座位姿勢関連は平均的で、指先動作もペン操作やキーボード操作については高く求められるが、それ以外は平均的かそれ以下である。視聴覚機能関係も平均的である。労働条件や精神的、内的能力では、管理・経験者の要件が高く求められている傾向があるが、これも他の職種の管理・経験者と比較すれば平均的である。

「営業」では、移動動作は事務と比較すると高く求められているが、座位姿勢関連はむしろ低い。指先動作も平均的か低いほうであり、キーボード操作も低い。ただし、腕や足の動作については高く求められている。視力に関するものはむしろ低いが、聴力は高く求められている。職場環境の耐性では、単純作業の耐性を除き、どの職種より高く、管理・経験者の要件はさらに高く求められている。労働条件や精神的、内的能力では、管理・経験者の要件がやや高い傾向にある。

「情報処理」では、移動動作は事務と同様平均的であるが、座位姿勢や立ち上がり動作が高いことが特徴である。指先動作は、速度に関するものやキーボード操作では高く求められている。視聴覚機能関係では高く、とくに光刺激耐性は高く求められている。職場環境の耐性では、事務などと同様にむしろ要件は低い。労働条件では、時間外勤務、不規則勤務への耐性、精神的ストレスを筆頭に高く求められている。そして、管理・経験者の要件は、さらに高い傾向にある。精神的、内的能力では、比較・照合、検索力や論理的思考能力に関して高く求められている。

「電気回路設計」では、移動動作や座位姿勢関連は平均的に求められている。ただし、指先動作では基本事項や巧ち・協調、ペン操作、キーボード操作については高く求められるが、それ以外は平均的である。視覚機能関係は色識別を筆頭に高く求められている。職場環境の耐性ではむしろ要件は低い。労働条件では、時間外勤務の要件が高いが、それ以外は平均的である。

「機械設計」では、全般に電気回路設計と類似した結果となっている。異なっている点は、座位姿勢や立位姿勢がそれぞれ高く求められる傾向にある。

「建築設計」では、移動動作は運搬負荷や立位-かがみ間動作が高いといった特異な職場環境をうかがわせるが、そのほかは平均的である。指先動作は、巧ち・協調、ペン操作については高く求められるが、それ以外キーボード操作などは平均的である。視聴覚機能関係も、平均的かむしろ低い傾向がある。職場環境の耐性や労働条件では、高塵埃への耐性、外出や体力が必要とする要件が高い。精神的、内的能力では、一般に平均的である。

「デザイン」では、全般に建築設計と類似している。異なっている点は、移動動作は座位姿勢、指先動作は基本事項が高く求められている。視聴覚機能関係では色識別が高く求められ、職場環境の耐性や労働条件では、単純作業への耐性が高い。精神的、内的能力では、数的処理能力の要件は低いが、会話については高く求められている。

機器開発のニーズについては、調査結果から得られた必要要件の高さが、各職種ごとの障害者の雇用の障壁となっている。これらの中には、現行の技術によって改善が困難な環境条件の設定や機器開発の課題が多く含まれている。こうしたものが研究開発のニーズとなって現れていると考えられた。

機器間発のニーズに関するグループインタビュ-- コンピュータを核とした肢体不自由着用就労支援機器としての開発ニーズを把握するため、普段から積極的にコンピュータを使用している重度肢体不自由者5名に射し、通信を媒体としたグループインタビューを行った。開発要望の高かったものは、腕を動かす範囲が狭くても使うことのできる片手入力用小型キーボードである。その大きさは標準キーボードの1/3でもよいという意見もあった。将来のコンピュータの理想像として、個々の障害に応じた入出力装置を接続できる入出力インターフェースを標準で用意した樫種というものが提案された。これは肢体不自由という障害の枠を超えた全ての障害者にとって必要性の高い提言である。またソフトウエアとしては手を使わずにページをめくれる電子本があれば有効な機器となるという発言もあった。

また、視覚障害者用支援機器に対するニーズを把握するために、コンピュータを使いこなして、情報処理や事務的職種で就労している6名の重度視覚障害者によるグループインタビューを実施した。視覚に依存した操作方法の基本ソフトWindowsが、急速に普及している。そのようなソフトは使いたくないのが、多くの視覚障害者の本音である。しかし、職場にWindowsがすでに導入され、職務遂行に困難が   生じる可能性もでてきている。就労支援という観点からは、Windows利用のためのツール開発は急がれねばならない。しかし、メーカー主導で開発・市販化された機器が、しばらくすると市場から姿を消していることが多い。このようなことの大きな原因は、十分に障害者の声が反映されていないことによる。開発を期待する機器としては、①超小型の音声合成装置:携帯に便利なもの。②2次元触覚ディスプレイ:コンピュータ画面の図形情報を提示できる。③テキスト対応タブレット:テキスト画面に対応したタブレット(タッチパネル)で、指で押した位置にカーソルが移動したり、指でさわった部分を読み上げる。④操作が簡単なワープロ:今後中高年の中途視覚障害者から、コンピュータによる文字処理ニーズが増大すると予想される。その他の関連ニーズとしては、支援機器等に関する情報提供サービス、機器利用のためのトレーニング・サービス、機器等の購入費用助成制度に対しても強いニーズがある。

欧米における障害者支援技術の動向一 海外における障害者用支援機器の最新情報の収集のために、1993年6月、当センター研究員の岡田、八藤後の両名は、北米リハビリテ}ション工学セミナーに出席するとともに、米国の主要なリハビリテーション工学の研究開発機関等を訪問した。支援機器等の研究開発と普及の動向をまとめると、以下のとおりである。

(1)コミュニケーション機器、入力ディバイスは、単なるハードウェアの開発にとどまらず、教育学や言語学等の研究成果がソフトウェアに反映され始めている。しかし、全体的な開発の方向は、むしろ小型、軽量、高処理機能といったハードウェアに重きが置かれている。研究レベルでは、眼球運動による機器操作や、音声入力装置の研究も多くなってきたが、まだ実用・普及のレベルには達していないようであった。脳性まひ者は、不随意運動のために入力機器操作に大きな困難があるが、その入力動作を、一つの情報だけでは確実に認識できないため、複数のセンサ(たとえば、脳波、ヘッド位置と腕位置のポジションセンサ、音声、筋電、心電など)を組み合わせて利用する方法が研究されていた。

さらに、精神薄弱児のためのコンピュータインターフェースや、学習障害児童の作業遂行状況をモニタリングし、作業者が状況を認識しやすい形で提示するシステムなど、新しい分野の研究も始まっていた。

(2)ロボットとメカトロニクスによる支援では、市販の汎用ロボットを利用し、これにヒューマンインターフェースとソフトウェアを組み合わせたシステムの開発が欧米で進んでいる。それらは、上肢障害者の就労ワークベンチで、基本は紙ファイル・フォルダーや、書類を一枚づつ管理できる書類ラック、そしてコンピュータとロボットアーム、そしてテーブル(作業台)という構成である。

(3)コンピュータ・ユーザー。インターフェースは、グラフィカルなユーザー・インターフェース(GUI)を利用したウインドウ環境が、視覚障害者等にとっては大きな問題になっている。障害者が問題なくGUI環境でコンピュータを利用できるためのソフトウェアの開発が、ウィスコンシン大学を中心としたチームによって進められていた。このシステムでは、視覚障害者のためのスクリーンリーダーやスクリーン拡大、重度上肢障害者のためのキーボード操作を容易にする機能が用意されている。

その他の製品では、肢体不自由者のための入力補助ソフトで、文書等の入力においてキーの打鍵回数を大幅に減らすことができるものなどが、比較的実用化の可能性が高いものとして注目された。

以上の基礎調査の結果を踏まえながら、障害者就労支援技術開発委員会は慎重な検討を重ね、平成6年度から実際に開発を開始する機器・システムとして、視覚障害者用Windows画面読み上げソフトウェアと、上肢障害者用特殊キーボードを選定した。

目次

  • 第1部 平成5年度の経過
  • 第2部 事業所において求められる職務用件に関する研究
    • 第2部 序章 目的
    • 第2部 第1章 研究方法の検討
    • 第2部 第2章 結果
    • 第2部 第3章 考察とまとめ
    • 第2部 参考文献
  • 第3部 機器開発のニーズに関するグループインタビュー
    • 第3部 序章 はじめに
    • 第3部 第1章 肢体不自由者の機器開発のニーズに関するインタビュー
    • 第3部 第2章 視覚障害者の機器開発のニーズに関するインタビュー
  • 第4部 欧米における障害者支援技術の動向
    • 第4部 序章 はじめに
    • 第4部 第1章 北米リハビリテーション工学セミナー(RESNA'93)
    • 第4部 第2章 1993年 北米リハビリテーション工学セミナー(RESNA'93)
    • 第4部 第3章 訪問先の報告について(抜粋)
  • 資料編

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