職場における実行機能の困難
2025年03月
実行機能とは?
なお、「遂行機能」と呼ばれることもありますが、どちらも「Executive Function」の訳語であり、同じ意味で用いることができます(福井, 2010)。
実行機能の定義
ここでは、実行機能の標準化されたアセスメントであるBehavior Rating Inventory of Executive Function-Adult Version(BRIEF-A)(Roth, Isquith, & Gioia, 2005)で用いられている下位項目を紹介します。
BRIEF-Aとは
日本語版もあり、日本人における信頼性や妥当性も検証されています。BRIEF-Aは、オリジナルのBRIEFを成人(18~90歳)向けに拡張したもので、本人及び支援者等の周囲の人がそれぞれ評価を行います。
BRIEF-Aの実行機能は、以下の9つの下位項目から構成されています(表1)

実行機能の困難により生じる職業上の課題
障害者職業カウンセラーを対象に、実行機能に困難のある対象者について、次のような質問を行いました。
まず、実行機能の下位項目の定義を提示し、その定義に該当する困難が生じているかどうかを回答してもらいました。さらに、具体的にどのような困難が生じているかについても記述を求めました。
以下に、下位項目ごとに得られた具体的な記述の例を示します(表2)。
以下に、下位項目ごとに得られた具体的な記述の例を示します(表2)。

赤い四角の中に書かれているのが実行機能の各下位項目名で、周囲の丸の中に書かれているのが記述でよく出てきた語です。また、各下位項目と線で結ばれている語は、下位項目と関係が深い、つまり特徴的にみられる語(特徴語)です。
特徴語には、特定の下位項目にのみ見られるものと、複数の下位項目に共通するものがあります。例えば、「忘れる」と「取る」という語はワーキングメモリ(WM)のみの特徴語であり、「メモを取る」ことや「指示を忘れてしまう」といった内容が特徴的であることがわかります。
次に、「作業」という語はタスクモニタ、計画・組織化、道具の整理、ワーキングメモリの4つの下位項目に共通する特徴語です。これらの下位項目は特に作業の遂行に関連しているからだと考えられます。分析に用いた記述の数が多くないため、下位項目によっては明確な特徴が見られない場合や、全ての特徴語と下位項目の関係性を整合的に説明できない場合もあります。しかし、下位項目に特徴的な語や、下位項目同士の関係性を大まかに確認することができます。

引用文献
Goldstein, S., Naglieri, J. A., Princiotta, D., & Otero, T, M. (2014) Introduction: A History of Executive Functioning as a Theoretical and Clinical Construct. In Goldstein.S.,& Naglieri,J.A.(eds.), Handbook of Executive Functioning (pp.301-331). Springer.
Roth,R.M., Isquith,P.K.,& Gioia, G.A.(2005) Behavior Rating Inventory of Executive Function-Adult Version (BRIEF-A).Lutz, Fl: Psychological Assessment Resources.