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中小企業における障害者雇用の段階の構造とその変遷について

2026年03月

中小企業における障害者雇用の段階の構造とその変遷について

1.はじめに

2024年4月の法定雇用率改定により、民間企業の法定雇用率は2.3%から2.5%へと引き上げられ、対象となる企業規模も「常用労働者40人以上」へと拡大しました。そして、2026年7月には2.7%への引上げ(常用労働者37.5人以上)が予定されており、中小企業における障害者雇用の対象企業規模は拡大しているところです。

このような中で、中小企業においては、障害者雇用に関するノウハウや経験が乏しく、担当者や担当部署を専任化することも難しい場合が少なくありません。そのため、障害のある従業員の採用や能力開発までの各段階に、いかに効果的に取り組むかが大きな課題となっています。中小企業の人材確保に関する先行調査を手がかりに、中小企業における障害者雇用の「段階」における取組について考えます。

2.中小企業における一般的な人材確保の段階

まず、一般的な人材確保の段階を確認します。

中小企業庁(2023)の「中小企業・小規模事業者人材活用ガイドライン」1) では、中小企業が人材活用に関する課題解決を目指す際に活用できるフレームワークとして、「課題の確認」→「戦略の検討」→「取組実行」という3ステップの段階を提示しています。

また、労働政策研究・研修機構(2017)の「中小企業における採用と定着」 2)に係る調査結果では、人材確保の段階を「採用」・「定着」・「能力開発」 という3つの項目に整理して報告しています。

しかし、障害者雇用の場合は、このような人材確保の段階とは異なり、各段階においてより多くの取組が求められることがあります。

3.先行研究に見る障害者雇用の段階

障害者雇用においては、合理的配慮の提供が必要な場合の事前検討や、ハローワーク等の外部機関の支援を活用する場面など、段階ごとに様々な取組が必要となることがあります。障害者職業総合センター(2013)の「中小企業における初めての障害者雇用に係る課題と対応に関する調査」3) では、中小企業の障害者雇用の段階的な取組を「雇用する以前」、「雇用するに当たって」、「雇用した後」という時系列に沿って調査し、各段階における具体的な課題を以下のように明らかにしています。

(1)雇用する以前の段階(導入検討・職務設定)

経営層の意思決定から、現場従業員の障害理解を促す社内学習を通じた受入体制づくり、そして具体的な業務の切り出しを行う準備段階です。障害者を雇用しなかった最大の理由として「障害の状況に応じた職務の設定や作業内容、作業手順の改善が難しかった」ことを挙げています。属人化しやすい中小企業の既存業務から障害者が担える定型業務を抽出し再構築するには、社内での丁寧な調整プロセスと多大な労力を要します。

(2)雇用するに当たっての段階(外部連携・マッチング)

自社のニーズと求職者の特性をすり合わせる採用・選考の段階です。中小企業においては、自社単独での採用活動や見極めが困難な場合が多く、採用基準の策定や求職者情報の収集においてハローワーク等の外部支援機関からの支援ニーズが高いことが示されています。ミスマッチを防ぐため、社外とのネットワークを構築しながら採用活動を進めるステップが不可欠です。

(3)雇用した後の段階(職場定着・継続的配慮)

採用後、安定して長く働き続けるためのフォローアップを行う段階です。職場定着の段階においても外部機関からの継続的な支援が求められており、特にジョブコーチ等の活用が有効であると指摘しています。社内での定期的な面談に加え、外部機関と連携した継続的な定着支援や環境調整の取組が求められます。

このように、2013年時点の調査においても、障害者雇用の各段階の取組自体が「社内学習を通じた合意形成」、「職務再設計」、「外部ネットワークの構築」といった重層的な取組を内包していることが示されていました。その後、当時の基本的枠組みに加え、制度改正や雇用形態の変化等により対応が求められる場面が増え、より多くの取組が必要となっています。次に、こうした取組が増加している背景について整理します。

4.障害者雇用において取組が増加する背景

障害者雇用の段階について、眞保(2017)は、採用時の配慮検討と入社後の継続的な雇用管理が不可分の関係にあることに触れ、一連の取組におけるきめ細やかな「個人別管理」の積み重ねが合理的配慮を実践する上で重要であると指摘しています4)。前述の2013年時点の基本的な3段階6項目に加え、障害者雇用において取組が増加する背景として、以下の3点があげられます。

(1)法定雇用率の段階的引上げによる対象企業の拡大と雇用人数の増加

江本(2017)は法定雇用率・納付金制度が、対象となる中小企業の意識のみならず,実際の雇用も大きく押し上げたことを指摘しています5)。法定雇用率の段階的な引上げにより、これまで障害者雇用の経験がなかった企業が新たに対象となるケースが増えるとともに、既に雇用実績のある企業においても雇用すべき障害者数が増加しています。いずれの場合においても、採用から定着に至る一連の取組の全体的な総量が増加しており、中小企業においても、初めて対象となる企業も多く含まれることから、こうした取組の増加による影響が顕著に現れると考えられます。

(2)新たな支援制度の創設による手続きの追加

制度改正により、企業が対応すべき実務的な取組が増加しています。 例えば、合理的配慮の提供義務化により、採用時及び雇用継続中に個別の配慮を検討・協議する段階が追加されました。

また、就労定着支援事業の創設により、就職後6か月~3年6か月の定着支援計画とモニタリングへの対応に関して支援機関との連携が必要になる場合があります。さらに、2024年の特定短時間労働者(週10~20時間)の追加に伴うシフト調整や、2025年10月新設の就労選択支援(採用前アセスメント・就労パスポート作成の確認等)の活用など、企業側に求められる実務的な取組は広がっています。

障害者職業総合センター(2017)においても、合理的配慮の認知度が高い企業は、配慮の実施率が高いことを指摘しています6)。制度改正の認知が進むことにより企業の雇用管理に変化が生じるとともに、企業が担う一連の対応事項は増加する傾向にあります。

(3)障害種別の多様化による個別対応の取組増加

雇用されている障害のある労働者数は年々増加しており、また、雇用されている障害の種別も多様化しており、企業においては、それぞれの障害特性に応じた個別の対応を行う場面が増えています。例えば、精神障害のある従業員に対しては、体調の変化への対応や医療機関との連携が必要となるケースもあり、これまでの経験(身体・知的障害等)とは異なる取組が求められる場合があります。安原他(2024)は、障害種別の拡大に伴い、中小企業においても活躍業務の拡大や働き方の多様化へ対応する必要があるため、外部の行政機関や支援機関を有効活用する必要性を指摘しています7)

雇用する障害のある従業員の障害種別が多様になるほど、企業は従来の雇用管理の方法に新たな対応を組み合わせて実践する必要に迫られます。そのため、障害者雇用のノウハウや経験が少ない中小企業においては、こうした対応について支援機関の活用が一層重要となります。

5.増加した障害者雇用の段階に対する効果的な取組

このように障害者雇用の段階的な取組が増加・複層化する中で、障害者雇用を効率的に進めるには、採用後の初期段階での支援や、職場全体の協力体制づくりが重要となります。

外部支援機関との連携の効果について、前述の労働政策研究・研修機構(2017)は、一般的な人材確保に係る調査研究において、早期離職の多くが入社初期の不適応に起因する点を指摘し、初期定着には丁寧な受入れ支援が不可欠であると述べています。

この一般の雇用プロセスにおける初期定着の重要性は、障害者雇用においてさらに顕著となります。

そのため、自社内に十分なノウハウや経験を持たない中小企業では外部資源(支援機関等)のネットワークの活用が求められます。継続的に支援機関と情報共有を行いながら、採用直後の職務環境の調整や業務指示の工夫といったステップを踏むことが、本人の不安軽減と確実な職場定着に資するものと考えられます。

(1)配慮と職場改善の標準化の効果

さらに、厚生労働省(2024)「障害者への合理的配慮好事例集」8)では、企業における職場改善の取組についての多様な実例から共通点が抽出でき、「合理的配慮と職場改善の標準化」が定着を促進する傾向にあることが示されています。同事例集の実践例から読み取れるように、作業工程の見直しや視覚的マニュアルの作成、コミュニケーション手段の工夫など、配慮の内容を都度の個別対応に留めず「再現可能な社内の運用ルール」として蓄積・整備することが重要です。こうした標準化により、次の採用における対応を簡略化・効率化でき、組織としての安定した就労継続の基盤が構築されます。

(2)取組の意義と本研究調査について

これらの調査研究や事例集の知見は、現在の障害者雇用が過去に比べて各段階における取組が増加していても、外部支援ネットワークとの協働や、社内ルール(配慮)の標準化等の工夫を行うことで、中小企業の負担を軽減しつつ、職場定着を高められることを示しています。

障害者雇用の各段階において、これらの効果的な取組を取り入れることで、効率的に、かつ、中小企業が障害者雇用の進展を実感しながら、障害のある人材の確保を実践できるものになると考えられます。

中小企業における障害者雇用の段階に応じた取組や課題について明らかにすることで、中小企業における障害者雇用の推進や支援機関による事業主支援等の検討に資するため、現在、「中小企業における障害者雇用の段階に応じた取組に関する調査研究」を実施しており、事業主の方に活用いただける事例集を作成する予定としています。

参考文献

  1. 中小企業庁.『中小企業・小規模事業者人材活用ガイドライン』中小企業庁, 2023.
  2. 労働政策研究・研修機構. 『中小企業における採用と定着』 (労働政策研究報告書 No.195). 労働政策研究・研修機構, 2017.
  3. 障害者職業総合センター. 『中小企業における初めての障害者雇用に係る課題と対応に関する調査』 (障害者職域拡大等調査報告書 平成24年度 No.2). 障害者職業総合センター. 2013.
  4. 眞保智子. 「障害者雇用進展期の雇用管理と障害者雇用促進法の合理的配慮」. 『日本労働研究雑誌』59巻8号, 2017, pp.4-19.
  5. 江本純子. 「中小企業による障害者雇用調査の分析と考察」. 『企業環境研究年報』22 (2018): 35-47.
  6. 障害者職業総合センター.「障害者雇用制度の改正等に伴う企業意識・行動の変化に関する研究」調査研究報告書 No.143, 2019.  
  7. 安原美希ほか.「中小企業における成長戦略としての障害者雇用の実現に向けて — 義務的な雇用から戦略的な雇用へ」.『知的資産創造』32巻4号, 2024, pp.36-53.
  8. 厚生労働省. 『障害者への合理的配慮好事例集』. 厚生労働省職業安定局障害者雇用対策課, 2024.
  • お問い合わせ先:研究企画部 企画調整室(TEL:043-297-9067 E-mail:kikakubu@jeed.go.jp)