就労支援のためのアセスメントシートの効果的な活用方法 -支援者への調査結果より-
2025年12月

2023年3月に開発した「就労支援のためのアセスメントシート」(以下「アセスメントシート」といいます。)の効果的な活用方法を検討することを目的として、就労支援機関の支援者の方々に実施事例情報を提供していただくとともに、質問紙調査とインタビュー調査を2024年に実施しました。ここでは、その調査結果の一部を紹介します。これらの調査結果をもとに、「アセスメントシート活用ガイド」を作成し、2026年3月下旬にホームページで公開する予定です。
就労支援のためのアセスメントシートとは

アセスメントシートとは、就労を希望する障害者(以下「対象者」といいます。)の就労に関する以下の①から③までの情報を支援者と対象者が協同で収集、整理することにより、両者が対象者のストレングス(長所)や成長可能性、就労するうえでの課題等を適切に理解し、就職に向けた必要な支援や配慮を検討することを目的に活用するものです。
| アセスメントシートの情報 | シート名 |
|---|---|
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① 対象者の就労に関する希望・ニーズ 例)「一般就職を希望していますか、一般就職以外の就労や訓練で希望するものはありますか。」
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シートⅠ(就労に関する希望・ニーズ)
【シートⅠ参照:Excelシート名】
「③Ⅰ_就労に関する希望・ニーズ」
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② 対象者の就労のための作業遂行・職業生活・対人関係に関する現状 例)「以下のことがどのくらいできますか。」
□安全に作業する □職場の規則を守る
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シートⅡ(就労のための基本的事項)
【シートⅡ参照:Excelシート名】
「⑤Ⅱ_就労のための基本的事項(評価用)」
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③ 対象者の就労継続のための望ましい環境 例)「以下に関しどのような支援・配慮が必要ですか。」
□職場の人間関係の維持
□上司・同僚や職場の支援者の異動時の引継ぎ
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シートⅢ(就労継続のための環境)
【シートⅢ参照:Excelシート名】
「⑦Ⅲ_就労継続のための環境(評価用)」
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就労支援機関の支援者への質問紙調査等の実施
アセスメントシートの実施事例情報(43事例)を提供していただいた就労支援機関(就労移行支援事業所、障害者就業・生活支援センター、ハローワークおよび障害者職業総合センター職業センターの12機関)の支援者(29人)にアセスメントシートの活用方法に関する質問紙調査を実施し、あわせてその回答内容を補足するためにインタビュー調査を実施しました。
その調査結果のうち、特にアセスメントシートを活用するうえで課題となっている以下の4点について、調査結果の概要を紹介します。
アセスメントシート記載内容の説明
アセスメントシートによるアセスメントでは、対象者と支援者による協同評価を行うことから、対象者がアセスメントシートの記載内容を理解することが必要になります。対象者によっては、障害特性により記載内容の理解に困難が生じることがあり、支援者は対象者にとってわかりやすい説明を行うことが必要になることも少なくありません。
対象者にとって特に理解が難しい言葉や文章には、シートⅠ(就労に関する希望・ニーズ)では就労・労働に関する用語(「一般就職」「正社員と正社員以外」など)、シートⅡ(就労のための基本的事項)では評価項目に設定している評価の目安(「ミスが5%未満」「決められた時間内」など)、シートⅢ(就労継続のための環境)ではチェック項目の表現(「勤務形態(シフト制、テレワーク等)の設定・変更」「対人マナー」など)があります。
支援者が具体的でわかりやすく説明するためには、次のような工夫が必要となります。
- 対象者が体験した作業や場面に置きかえて説明する。
- 就労や労働の制度や用語は、既存の説明資料を使って説明する。
- 対象者にとって身近な物や画像を例示して説明する。
- 評価の判断基準を提案、説明する。
2026年3月下旬に公開する「アセスメントシート活用ガイド」には、特に理解が難しい言葉や文章のわかりやすい説明(例)を掲載しますので、是非ご参照ください。
評価項目・評価領域の選択
アセスメントシートによるアセスメントでは、対象者にとって必要と考えられるシートⅡ(就労のための基本的事項)の評価項目とシートⅢ(就労継続のための環境)の評価領域をそれぞれ選択して評価を行います。
収集した事例情報よりシートⅡ(就労のための基本的事項)の評価項目の選択状況をみると、選択評価率が90%以上の項目は表1のとおりとなりました。

収集した事例情報よりシートⅢ(就労継続のための環境)の評価領域の選択状況を見ると、選択チェック率(各評価領域のチェック項目に1つ以上チェックがついた割合)が80%以上の評価領域は表2のとおりとなりました。

評価項目・評価領域は、対象者が希望している仕事や職場環境、生活環境で特に必要になる項目や領域を選択することが原則です。そのためには、シートⅠ(就労に関する希望・ニーズ)で把握した対象者の希望に基づいて、支援者として評価が必要な項目・領域を検討しておくことが必要です。
協同評価の方法
アセスメントシートによるアセスメントでは、選択した評価項目と評価領域について、対象者と支援者による協同評価を行います。
■シートⅡ(就労のための基本的事項)の協同評価
支援者への質問紙調査結果を見ると、シートⅡ(就労のための基本的事項)の協同評価の現状は図1のとおりとなりました。

注目すべきは対象者と支援者の評価が一致しない場合の対応です。その場合は、「両者で相談しながらどちらかの評価を採用した」が圧倒的に多くなっています。
■シートⅢ(就労継続のための環境)の協同評価
支援者への質問紙調査結果を見ると、シートⅢ(就労継続のための環境)の協同評価の現状は図2のとおりとなりました。

「対象者と支援者の評価が概ね一致し、そのとおり評価した」が最も多くなりました。両者の評価が一致しない場合の対応としては、「両者で相談しながらどちらかの評価を採用した」が比較的多くなっています。それ以外の対応では、どちらかというと対象者の考えを重視する傾向がうかがわれます。
協同評価において両者の評価が一致しない場合は、具体的な事実(体験・観察)に基づくそれぞれの現状認識の相違点を確認したうえで、評価の対象とする具体的な場面や状況を想定し、その場面における対象者の適応状態を相談して評価を決めることがポイントになります。
効率的で効果的なアセスメントを行うための工夫
支援者への質問紙調査結果によると、アセスメントシートによるアセスメントの実施に関する現状と課題について、「実施前の準備や個別面談に時間がかかり、担当者の負担が大きい」の回答(75.9%)が最も多くなっており、効率的な実施方法が求められています。
支援者への質問紙調査結果を見ると、個別面談の実施時間(複数回実施の場合はその合計時間)は図3のとおりとなりました。2.5時間~3時間未満が最も多く、2時間~4時間未満を合計すると過半数(51.2%)となりました。一方で、5時間以上かかるケースや2時間未満で終了しているケースも少なくありません。支援者へのインタビュー調査によると、時間のかかる事例は対象者の理解や意思表示の制約によるところが大きいようです。

個別面談の実施回数は、図4のとおりとなりました。1回(1日)で終了するケースは少なく、3回(3日)以上が過半数の約6割となっています。複数回実施する理由としては、対象者の疲労による集中力の低下を防ぐことや、支援者側の都合により1回当たりの実施時間に制約があることなどがあげられています。

効率的で効果的なアセスメントを行うための個別面談前の工夫としては、第一に対象者によるシート記入があります。収集事例では、およそ3人に1人が個別面談前のシート記入を行っていました。支援者からは、その効果として、個別面談の時間が短縮できたことのほか、障害特性上、質問に口頭で答えるよりも、質問を読んで書いて(入力して)答える方が得意な対象者に実施したことが報告されています。
第二に、次のような取組が報告されています。
- 作業場面の観察の段階で対象者とその状況を振り返り、アセスメントにつながる情報を共有しておく。
- シートⅡ(就労のための基本的事項)の評価項目とシートⅢ(就労継続のための環境)の評価領域の選択について、個別面談前に支援者の考えを準備しておく。
- シートⅠ(就労に関する希望・ニーズ)とシートⅡ(就労のための基本的事項)で共有した必要な支援・配慮につながる情報と、シートⅢ(就労継続のための環境)の領域・チェック項目との関連付けを、支援者が個別面談前に済ませておく。













