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難病患者就労実態調査結果

ベーチェット病患者の就労実態

1)対象者の病気の状態

研究班報告では、病型について、完全型が29%、不全型が55.4%となっているが、今回の調査では、不完全型と記してあった者が21.6%、完全型が5.4%であったが、73.0%については詳しい病型は不明である。性差は男女がほぼ同率で研究班報告に一致している。発症年齢は30歳代前後とするものが多く、30歳代前半に多いとする研究班の報告とほぼ一致した。研究班報告では就労の注意として「軽症であっても過労を避ける」とされ、「全身炎症症状が強いものはなるべく入院」とされているが、本調査では大部分が「ストレスを避ける」という注意を受け、作業強度の制限は40%弱が受けている程度であり、「残業を避ける」という注意は25%であり、軽症の範囲のものが多かったことを示唆している。身体障害者手帳の取得は35%で、1級も15%程度あったが、その一方で障害がないものも30%あった。今回の対象者では全盲者は15%程度で、日常生活への影響が少ない粘膜皮膚病変や関節病変の病型が30%程度と多かったと考えられる。治療・通院に要する時間は一週間に1時間以内が半数であったが、多いものでは1週間に4時間以上のものもあった。症状は軽快と増悪の繰り返しが半数、軽快傾向が3分の1強であった。

2)対象者の就労状況

調査対象者は50-60歳代が半数を占めていたが失業率は比較的低く4.8%であり、雇用と自営の割合を見ても正社員での雇用が55%と比較的多かった。就労職種は、視覚障害者に多い通信がやや多い傾向があったが、その他は特に傾向は認められず、眼症状のない病型の就労が多いことが示唆される。

発病時に長期入院のためと考えられる自主退職が52.8%と比較的多く、退職者の63.2%がその後も無職に止まっていたが、一方で、発病時に就労状況に変化がなかったものが27.8%と比較的低いものの存在した。

就労しているベーチェット病患者の職場状況としては、「疾病管理可能」が不十分であり、「設備現状満足」がやや不十分である傾向があり、また、支援や配慮の要望としては「疾病理解共存」が高かった。職場で病気を隠しての就労も半数近くあった。一方、就労を希望しているベーチェット病患者が要望している支援/配慮としては「身体障害者雇用対策」がやや高い傾向があり、一方で「公的助成・福祉」が低くなっていた。これは就労している患者には眼症状のないものが多く疾病の管理が重要である一方で、就労していないものには眼症状のあるものが多く疾病管理の配慮に増して、視覚障害者ための職場での対策が必要であることを示していると考えられる。

3)まとめ

日常生活への影響が少ない粘膜皮膚病変や関節病変の病型に属するものは発病しても影響なく就労できるが、不完全型や完全型になると退職率が非常に高く、また再就職も困難という状況が示唆される。それにも関わらず、失業率が低かったのは、高齢者が多く就労を希望するものが少なくなっていることが影響していると考えられる。現在、就労しているベーチェット病患者は眼症状が少ないものが多いと考えられるが、病気を隠しての就労も多く、職場での疾患管理のための対策が必要でな状況である。一方、就労を希望しながら就労していない患者は疾病管理配慮はもちろん、それに増して、視覚障害者としての対策を要しており、職場での視覚障害に対する具体的な配慮が必要となっていると考えられる。

多発性硬化症患者の就労実態

1)対象者の病気の状態

今回の対象者は、女性が多く、発病も35歳以前で20歳代も多くなっており、研究班報告と一致していた。医師からの職業上の注意としては「ストレスを避ける」が67.6%と比較的多くなっていた。作業強度制限も30%程度が受けていた。身体障害者手帳の取得は55%であり、1級が25%、2級をあわせて50%となっていた。障害種類としては視力障害ないし痙性対麻痺による肢体不自由であると考えられる。通院・治療に要する時間は1週間平均で2時間から1時間が大半で多いものでは4時間以上もあり、比較的時間を要していた。症状の変化としては軽快と増悪の繰り返しが半数強で軽快、増悪、変化なしがそれぞれ10%程度であった。

2)対象者の就労状況

対象者が女性が多かったことにより求職経験のない非労働力人口が多かったが、求職をしたことがあるが就労していないものが多く失業率が7.1%、潜在的な失業率としては33.3%と比較的高い失業率となっていた。就労している場合でもパートでの就労が21.4%と比較的高くなっていた。発病時には自主退職が68.5%、対象者に高齢者が少なかったにも関わらず退職者がその後も無職である割合も74.5%、再就職に1年以上を要する場合も多かった。その一方で、発病時に仕事に影響がなかったものも20%いた。就労している多発性硬化症患者は、「疾病管理可能」が高いかわりに、「自立・対等感」と「設備現状満足」が低く、比較的負担が軽いが充実感や設備面の配慮がやや低い仕事に従事している場合が多いことが示唆された。就労者の希望する支援としては、「身体障害者雇用対策」が高く、また、「疾病理解共存」も高くなっていた。身体障害があることもあって、74.1%の患者が事業主に病名を告げており、職場で病名を全く知られていない場合はほとんどなかった。就労していない理由としては、通勤の困難と治療に時間がかかること、適職がみつからないことが比較的多くあげられ、就労のために必要な支援としては「身体障害者雇用対策」が多かった。

3)まとめ

多発性硬化症は、身体障害を有し比較的病名を隠しにくく、また、発作を繰り返し、治療に要する時間も多いため、就労をあきらめる例が多いことが示唆された。また、パートなどの比較的負担の低い仕事に従事する場合も多くなっていた。多発性硬化症患者の就労のためには、治療時間や作業不可やストレスに配慮した職場環境の整備と、視力障害や肢体不自由のための障害者用のバリアフリー環境や通勤への支援が必要であると考えられる。

スモン患者の就労実態

1)対象者の病気の状態

スモンは1970年のキノホルム使用禁止により患者発生がなくなったため、今回の対象者も、最も若い者で30歳代であり、81%が50歳代であった。研究班報告によると発病の性差はないが、今回の対象では女性が多かったことは、患者の高齢化が進行したことで平均寿命の長い女性の比率が増加していることも関連している可能性などが考えられる。医師から就労を原則的に禁止されているものが18.8%と比較的多かった。90%以上が身体障害者手帳を取得しており、2級以上が40%強、3、4級が30%、5、6級で20%となっていた。障害種類としては、視覚障害ないし下肢機能障害が考えられる。症状の変化としては増悪傾向が50%弱、軽快と増悪の繰り返しが20%強となっていた。治療・通院に要する時間は1週間に1時間以内が大半であるが、多いものでは3時間以上のものもあった。

2)対象者の就労状況

スモン患者は失業率が12.0%と比較的高く、また、就労も自営業が41.7%、さらに福祉的就労が8.3%と比較的高くなっていた。発病時の自主退職が42.9%を含め退職が半数強であった。退職者の21.1%が2年以上後に再就職しており、10.1%は1ヶ月以内に再就職していたが、47.4%が無職に止まった。就労しているスモン患者の30.4%が仕事を「きつすぎる」と答えており比較的多かった。事業主には病名を告げていない者が36.8%とやや高く、職場で病名が全く知られていないものが15%とやや高くなっていた。また、就労状況について「就労管理可能」と「自立・対等感」の両方が否定的な回答となっており、必要な支援としては「疾病理解共存」と「身体障害者雇用対策」が高く、「一般労働条件改善」はむしろ必要ないとの回答が多かった。

3)まとめ

スモンは1970年以降、新規発生はなくなっているが、若年発症者は30歳代からおり、雇用対策を必要とするものが依然存在する。スモン患者の大部分は身体障害者手帳を有しているが、身体障害以外に、スモン特有の下肢中心の痛みや筋力低下などの症状が周囲に理解されにくい状況が示唆された。スモン患者の就労を支援するためには、このような疾病の事情に対しての配慮と、下肢障害や視覚障害への配慮の両面からの支援が必要であると考えられる。なお、自営や福祉的就労だけでなく、雇用への希望についてはさらに個別に希望を聞く必要があると考えられる。

再生不良性貧血患者の就労実態

1)対象者の病気の状態

今回の対象者はわずか4名であったので、概観するにとどめたい。今回対象者は女性が3名となっていたが、研究班報告では男女差はないとされている。発病年齢は今回の対象者は26-35歳が3名、16-20歳が1名となっており、後天性に限られていた。医師からの就労上の注意としては残業を避けるが2名、ストレスを避けるが3名であり、作業強度の制限は1名であった。症状の変化としては軽快と増悪の繰り返しが2名、軽快傾向が1名、変化なしが1名であった。身体障害者手帳を持っているものはなく、障害もないとの回答であった。治療・通院時間は一週間平均で0時間から9時間以上まであった。

2)対象者の就労状況

2名が就労非希望で1名がアルバイト、1名が自営であった。3名は発症時に自主退職しており、内1名は1ヶ月後に再就職していたが、2名は無職のままとなっている。2名の就労非希望者は不就労の理由として、共通して、治療に時間がかかる、適職がみつからない、社会的な理解が不十分だから、をあげた。就労しているものは、休暇や短時間勤務等、在宅勤務の促進、事業主への公的助成金を必要な配慮として一致してあげた、

3)まとめ

再生不良性貧血患者の就労実態は、今回の調査では十分に把握できなかった。また、今回の対象者は後天性のものに限られた。しかし、治療に時間がかかるため、短時間就労等の配慮が必要であることが示唆された。

特発性血小板減少性紫斑病患者の就労実態

1)対象者の病気の状態

今回の対象者は女性が多く、また、発症年齢が30歳前後と、研究班報告にほぼ合致していた。成人女性に多い慢性型が大半であるが、一部小児に多い急性型も15%程度あったと考えられる。就労についての医師の注意も比較的少なく、「出血、打撲、感染症、過労がないこと」という一般的注意の範囲内であったことが示唆される。身体障害者手帳の取得は一部の合併症によるもの以外はなく、不取得の理由も「障害がないから」が大半であった。治療・通院時間は1週間平均で1時間以内が大半だが、多いものでは3時間以上のものもあった。症状の変化は増悪はほとんどなく、軽快が半数弱、軽快と増悪の繰り返しが40%弱であった。

2)対象者の就労状況

失業率が15.4%と比較的高く、また、就労を希望し過去に求職をしながら現在は求職していないものが22.2%と比較的高く、潜在的失業率は35.3%となった。正社員での雇用が75.0%と比較的多くなっており、事務職での就労が半数となっていた。就労していて発病により仕事に影響がなかったものが46.2%と比較的高く、退職は45%程度であり、その内83.3%が2年未満で再就職しており、無職のままとなったのは16.7%であった。就労者の職場状況としては「設備現状満足」が低く、就労支援の要望としては休暇や短時間勤務等の整備等の「一般労働条件改善」が高くなっていた。また、就労者の事業主への病名告知は90.9%と高くなっており、誰も知らない状況での就労はなかった。一方、非就労の理由としては、経済的に困らない、適職が見つからない、採用面接等に困難がある、などが半数以上となっていた。就労希望者の支援の要望はどの項目でも比較的低くなっていた。

3)まとめ

特発性血小板減少性紫斑病は、もともと就労への制限が少なく、症状の進行が少なく、軽快例も少なくないこと、また、30歳前後での発病で退職しても再就職が可能であることなどから、正社員での条件のよい就労が多かったことが示唆される。また、潜在的失業率の高さは、患者に女性が多く、結婚している場合には、適職がなければ無理に就職する必要もないという状況の反映であると考えられる。ただし、特発性血小板減少性紫斑病患者が、今後より安定して就労が可能になるためには、休暇や短時間勤務等、治療への配慮が必要であることも示唆された。

潰瘍性大腸炎患者の就労実態

1)対象者の病気の状態

今回の対象者には全大腸型が9%の他、直腸型、結腸型等の記入があったものもあったが、80%は特に記載がなかった。男女差はなく研究班報告に合致したが、発病年齢は研究班報告の20歳代にピークとの報告よりは30歳代前半も含んでやや上になっていた。医師から受けている注意としては「ストレスを避ける」が83.1%とほとんどが受けていた。就労禁止はほとんどなく作業強度や残業の制限は20%以内と比較的少なかった。身体障害者手帳を取得している者はほとんどなく、非取得の理由も「障害がないから」が60%に上った。治療・通院時間は1週間平均で1~3時間が多く、また、症状の安定は半数が軽快と増悪の繰り返し、30%が軽快傾向となっていた。これらから、今回の対象者は大腸切除を受けていないものがほとんどであり、継続的な治療を要するが、比較的軽症から中等度の範囲で不安定ながらも病状が制御されている者が大半であると考えられる。

2)対象者の就労状況

潰瘍性大腸炎患者では20~40歳代の患者が多く、失業率が17.2%と比較的高く、現在求職中のものが全体の11.8%に上った。過去に求職活動をしていたものを含めた潜在的失業率は29.4%に上った。就労者で正社員は53.1%であったが、パート、アルバイト、自営業が比較的多くなっていた。職種は事務職や専門・技術職、販売職やサービス職等広く就労していた。発病時に仕事に就いていた者では半数が退職していたが、一方で仕事への影響が特になかったものも31.0%あった。発病時に退職した者の3分の2強は無職のままとなり、一方3分の1弱が再就職をしていたが再就職期間は半年以内と2年以上に分かれた。また、発病時の仕事変化の中で配置転換による就労継続が22.7%と比較的高かった。

就労状況は仕事がきつすぎるとするものがやや多かった程度で特徴は明瞭ではなかったが、就労者の就労支援の要望としては、休暇・短時間勤務等、昇進機会や賃金の保証、適職や職場配置などの「一般労働条件改善」が高く、一方「身体障害者雇用対策」は必要ないとされていた。事業主への告知では75.0%であり、職場の誰も知らない状況での就労も12.0%あった。非就労の理由は57.1%が適職が見つからないをあげ、治療に時間がかかることも31.4%があげた。就労希望者の要望としては「労働条件改善」が比較的高く、一方、「公的助成・福祉」や「身体障害者雇用対策」は必要なしとするものが多かった。

3)まとめ

潰瘍性大腸炎患者は、青年期や働き盛りの年齢のものが大半で、治療や通院のための配慮やストレスを避けることにより就労が可能である場合が多いと考えられるが、発病時や症状悪化時の数ヶ月の入院によって退職していることが多い状況が示唆された。潰瘍性大腸炎患者の就労促進のためには、障害者としての配慮よりも、むしろ、求職時や昇進における差別や不利をなくすために適職の紹介や職場配置の適正化と、治療や通院の配慮、及び休業後の復職の対策を進めることが必要であると考えられる。

大動脈炎症候群(高安病)患者の就労実態

1)対象者の病気の状態

大動脈炎症候群患者は、調査対象者が9名であったので概観するに止めたい。全て女性で、発病年齢は20歳代が中心であり研究班報告に合致した。ストレスを避けることと、残業を避けることが医師からの注意で多く、研究班報告に合致し軽症者と中等度者であったことが示唆される。半数が軽快傾向で軽快と増悪の繰り返しと増悪傾向がそれぞれ4分の1であった。治療・通院時間は1週間に30分程度から6時間までに広がったが中央値としては2時間半とやや長い方であった。身体障害者手帳を持っているものが半数であり、1級から3級までがあった。障害種類としては平衡機能障害、心臓機能障害、腎臓機能障害等が考えられる。その一方で障害がないとするものが3分の1あった。

2)対象者の就労状況

今回の対象者には求職中のものはなく、2名が正社員での雇用、1名がその他の就労、3名が過去に求職経験のある就労希望者、3名が就労非希望者であった。職種は事務職と営業職であった。発病時には9名全員仕事についていたが、6名が退職しその後再就職はできておらず、1名が2年以上の後に配置転換となった。就労状況としては、仕事はややきついとものであったが、「設備現状満足」と「自立・対等感」が低く、「疾病管理可能」が高く、また、就労者の就労支援要望としては「身体障害者雇用」と「一般労働環境改善」が高くなっていた。2名が事業主に病気の告知を行っていたが、1名は行っていなかった。非就労者の非就労の理由は適職がみつからないからが62.7%と最も多かった。就労希望者の就労支援の要望としては、事業主への公的助成金や福祉的就労の場の増加などの「公的助成・福祉」が多かった。

3)まとめ

今回は調査対象者が少なく、また大動脈炎症候群による障害は多様であり、合併症の影響もあると考えられ、一般的な傾向は把握が難しいかった。非就労の理由としては身体障害の影響と適職がみつからないことの影響が大きいことが示唆された。

バージャー病患者の就労実態

1)対象者の病気の状態

今回のバージャー病患者の調査対象者は6名であったので、概観するに止めたい。患者は全員男性で、発病年齢は20歳代後半から50歳代であり、研究班報告と合致した。作業強度の軽作業への制限が75%、勤務時間中の安静・休憩などの医師からの注意についても、最重症期の後の状況に合致するものであった。症状の安定状況としては、半数が変化なしで、半数が軽快と増悪の繰り返しで、これも研究班報告の軽快43.6%、再発32.8%に類似していた。治療・通院時間は1時間以内が大半で長いものでは2時間以上もあった。身体障害者手帳取得は40%で、2級と3級であり軽度の下肢障害によるものと考えられる。一方、60%は障害がないと回答した。

2)対象者の就労状況

高齢退職者を除いて全員が就労しており正社員2名、自営業2名、その他の就労1名であった。管理職が3名、営業職が1名、運輸職が1名であった。発病時に2名が退職したがそのうち1名は2年以上後に再就職し、その他4名は発病の仕事への影響はなかった。就労状況としては仕事のきつさはちょうどよいかややきつい程度で、「自立・対等感」が高く、「設備現状満足」が低くなっていた。就労支援要望は少なく、「身体障害者雇用対策」がややある程度で、「一般労働条件改善」や「疾病管理共存」はむしろ必要ないとの回答が多かった。事業主への病名告知は3分の2で、職場では誰も知らない状況のものも1名あった。

3)まとめ

今回、バージャー病の調査対象者は少なかったが、病気の状態も制御され、中途発病時の問題も少なく、軽度の下肢障害以外には特に問題なく就労している状況が示唆された。ただし、治療・通院時間が比較的長いことから、これ以外にも治療・通院の配慮が必要となる状況や、作業強度の制限と両立する適職や職場配置の紹介が必要となることは考えられる。

脊髄小脳変性症患者の就労実態

1)対象者の病気の状態

対象者が2名であり、疾病の状態は増悪傾向で身体障害者手帳は1級と2級、治療・通院時間は1週間平均で1時間以内であった。平衡機能障害あるいは下肢障害があると考えられる。

2)対象者の就労状況

1名が発病時に解雇されアルバイトでの再就職をしたもの、1名は高齢のため就労非希望であった。就労している1名は事業主には病名告知をしていた。

3)まとめ

脊髄小脳変性症は、患者会への調査協力依頼時には、就労している例が少なく調査への理解が得られないとされた病気であったが、今回独立に2名からの回答が得られた。病気が進行性であることや重度身体障害のための困難があることが示された。今回の就労者は、発病年齢が30歳前後で解雇され、家族の生活を支えるために、現在、アルバイトでの就労となっているもので、就労支援の要望も全項目で高くなっていた。

クローン病患者の就労実態

1)対象者の病気の状態

今回の対象者は男性が70%、発病年齢は10~20歳代が中心との研究班報告と一致したが、30歳代も含んでいた。病型としては特に記載のないものが多かったが、小腸大腸型:小腸型:大腸型が2:1:0.5となっており、研究班報告の2:1:1に近いのものであった。医師からの就労への注意としてはストレスを避けるが63.6%で最も多かった。就労禁止はほとんどなかったが、軽作業への制限や残業の制限が20%弱あった。症状は軽快と増悪の繰り返しが60%で最も多く、22%が軽快傾向であり、増悪傾向は5%未満であった。緩解、再燃を繰り返して増悪する傾向にあるとする先行研究もあったが、治療法の進歩等により、増悪は少なくなっている可能性が示唆される。治療・通院時間は1週間平均で1~3時間が多く潰瘍性大腸炎と同程度であった。身体障害者手帳は4級が30%弱で、障害がないとするものが4分の1程度、支給を受けたいが認定されないものとあえて障害者認定を望まないものが10%強ずつであった。障害種類は、小腸機能障害による1週間に1度程度の数時間の中心静脈からの栄養注入又は口からの経管栄養あるいは、大腸機能障害の人工肛門適用(4級)、及び、毎日の中心静脈からの栄養注入又は携帯型輸液システム使用(3級)であろうと考えられる。

2)対象者の就労状況

今回の調査対象者は20~30歳代が多く、正社員での雇用が多い一方で求職中のものも8.0%あり、失業率は10.0%、また、潜在的失業率は17.2%となった。就労者の73.3%が正社員としての就労で比較的高くなっており、一方自営業が8.9%と低くなっていた。職種は多様であったが、事務職が32.5%と比較的多くなっていた。発病時に就労していたものの発病による影響はなかったとするものが最も多く41.8%であったが、自主退職36%を含む退職が40%で3分の1強が無職のままとなり、3分の2弱は1年~2年程度で再就職していた。発病により配置転換となったものは11.5%と比較的高かった。仕事のきつさはややきついからちょうどよいが大半であった。職場状況は「疾病管理可能」がやや低い傾向、「設備現状満足」がやや高い傾向にあり、就労者の就労支援の要望としては、休暇・短時間勤務、昇進機会・賃金の保証、適職・職場配置等についての「一般労働条件改善」が多く、一方、職業生活のための教育・助言や人間関係の促進等による「疾病理解共存」支援はむしろ必要ないとの回答が多かった。事業主への病名告知は78.9%と比較的多かったが、告げていないものが21.1%おり、職場の誰も知らない状況のものが11.2%あった。一方、就労していない者の非就労の理由としては、適職がみつからないことが62.7%と最も多く、社会的理解の不十分や採用面接の困難もそれぞれ42.9%、32.0%と多かった。就労希望者の就労支援要望としては「労働環境改善」が比較的やや高く、一方、設備の整備や在宅勤務の促進等の「身体障害者雇用対策」はむしろ必要ないとの回答が多かった。

3)まとめ

今回のクローン病の調査対象者は回答数が多く、病型、性別、発病年齢の分布も研究班調査のものに近く、対象者の住所も関西と関東からのものであり、比較的我が国の状況をよく反映していると考えられる。クローン病患者は20~30歳代が多く就労の必要性は高く、症状の安定性が職場の状況に左右される度合いも大きいと考えられる。発病時の仕事への影響はもともと事務職等に就労していた場合には少なかったと考えられる。発病時に無職になることを防ぐために配置転換や適職紹介が重要であろう。また、治療・通院時間の問題については、安定期であっても薬をもらうために通院しなければならないことが負担となっていることが自由記述にあり。この便宜をはかることで就労の困難の一部は減少すると考えられる。また、クローン病は疲労を避ける必要があることから休暇・短時間勤等や適職や職場配置の紹介の要望につながると考えられるが、それによって昇進や賃金に影響が出ない制度の整備もまた同時に要望されているものと考えられる。

後縦靭帯骨化症患者の就労実態

1)対象者の病気の状態

今回は対象者が7名であったので概観するに止めたい。全員が男性で30歳代後半から50歳代での発病で、やや高齢者の回答者が少なかった可能性がある。医師からの就労上の注意としては軽作業程度なら可が75%、ストレスを避けるが50%であった。なお、研究班報告ではストレスを避けるとの注意は勧められていない。症状の変化としては軽快傾向が40%強、増悪傾向が30%弱と分かれた。なお、研究班報告ではこの疾患は進行性で転倒などの軽微な外傷が麻痺の増悪になるとされている。治療・通院に要する時間はばらつきが大きく、1週間に3時間を中心として0時間から6時間以上に分かれた。身体障害者手帳は5級が40%強で、支給を受けたいが認定されない、あえて障害者認定を望まない、障害がないなどに分かれた。障害種類は軽度の上肢または下肢障害であると考えられる。

2)対象者の就労状況

正社員での雇用が1名、自営業が2名、その他の就労が1名、1名が求職中、2名が高齢で就労非希望であった。職種は専門技術職、事務職、サービス職であった。発病時には4名が退職し、2名が1ヶ月以内に再就職していた。2名は変化はなく、1名は変化はあったが就労は継続となった。職場状況としては「疾病管理可能」と「設備現状満足」は高かったが、「自立・対等感」は低くなっており、就労者の就労支援要望としては「一般労働条件改善」が高く、一方「身体障害者雇用対策」は必要がないとの回答が多かった。2名は事業主に病名告知をし、1名はしていなかった。しかし、職場で誰も病気を知らない状況はなかった。就労希望者についても「労働環境改善」の要望が多く、一方、「公的助成・福祉」や「身体障害者雇用対策」は必要ないとされていた。

3)まとめ

今回の調査では回答者数が限られていたため就労実態の把握は難しかった。後縦靭帯骨化症患者は、上肢や下肢の障害が少ない場合であっても、転倒や衝撃や負荷を避ける必要があるため仕事量の調節の必要があり、それが雇用の困難につながっている可能性が示唆された。

ウィリス動脈輪閉塞症(モヤモヤ病)患者の就労実態

1)対象者の病気の状態

研究班報告によるとウィリス動脈輪閉塞症患者は女性が男性の1.8倍であるが、今回の調査回答者は性差がなかった。発病年齢からみると、5歳を中心とする若年型が65%程度、30歳代を中心とする成人型が35%程度であった。医師から就労について受けている注意としてはストレスを避けるが半数で最も多かったが、軽作業までという作業強度の制限と残業の制限が40%のものが受けて比較的多くなっていた。症状の変化としては、軽快傾向と変化なしがそれぞれ40%程度となっていた。治療・通院時間は1週間平均で1時簡以内が大半だが2時間以上もあった。身体障害者手帳を取得しているものが30%強だったが1級や2級はいなかった。脳出血の後遺症による上肢や下肢の麻痺によるものと考えられる。また、20%強は障害がないと回答した。

2)対象者の就労状況

今回の調査回答者には20歳代が多く現在求職中のものが26.5%に上り、失業率が32.5%、潜在的失業率としては41.3%に上った。また、就労者でも作業所や福祉工場などでの福祉的就労が14.3%と高く、高齢者が少ない割には正社員での就労が42.9%と少なくなっていた。職種は幅広かったが、労務作業が18.5%と高くなっていた。発病時に就労していた成人型では仕事状況に変化なしと自主退職が36.6%ずつで並んだ。また、解雇が19.5%と多くなっていた。発病によって退職したもののうち半数は半年から2年以上後に再就職していた。就労者の職場状況では「疾病管理可能」が高く、「自立・対等感」が低くなっており、就労者の就労支援の要望としては「一般労働条件改善」が高く、「身体障害者雇用対策」はむしろ必要ないとの回答が多かった。事業主に病名を告げていないものが35.7%に上り、また、職場で誰も病気のことを知らないものも3分の1あった。一方、就労していない者の非就労の理由では、適職がみつからないが72.7%と最も多かったが、社会的な理解が不十分だからが45.5%と次いで多かった。就労希望者の就労支援の要望としては逆に特に「身体障害者雇用対策」が必要ないとの回答が多かった。

3)まとめ

ウィリス動脈輪閉塞症患者は、身体障害の程度はないか又は軽度であっても、脳出血を防止するための要件として作業強度や残業の制限があり、それによる就労の困難性が大きいと考えられる。このような困難性は理解が得にくく、さらに就労の可能性を阻んでいると考えられる。軽度な身体障害がある場合もあるため、周囲は身体障害者としてみることが多い可能性があるが、身体障害は軽度でありあまり支援は必要でなく、むしろ病気の管理に必要な職場での配慮が必要であることについての理解の促進が必要と考えられる。若年者も多く、座業や軽作業での就労は可能である場合が大半なので職業紹介や職場配置によって、現在非常に高い失業率を下げることは可能であると考えられる。

表皮水疱症患者の就労実態

1)対象者の病気の状態

今回の調査回答者の病型の記載によると記載なしが30%の他、栄養障害型が65.0%、特定疾患に含まれない単純型が5.0%であった。研究班報告によると、栄養障害型には優性と劣性の異なった病型があり、劣性の方が優性の1.5倍の数となり、重症度も大きい。回答者は男女同数であり、発病は全て出生時であり、研究班報告に合致した。医師からの就労上の注意は比較的少なかったが、軽作業への作業強度の制限や残業の制限が20%程度あった。症状変化は軽快と増悪の繰り返しが40%、変化なしと増悪傾向が25%程度ずつ、軽快傾向は10%となっていた。治療・通院に要する時間は比較的長く、中央値が1週間平均で3時間であり、長いものでは8時間以上もあった一方で、短いものは0時間もあった。皮膚の水疱やびらんの治療は毎日必要であることが関係していると考えられる。身体障害者手帳の取得は30%強で1級2級が多く、劣性栄養障害型による上肢・下肢障害であることが推測される。その一方で支給を受けたいが認定されないと回答したものが20%、障害がないとの回答が10%あった。

2)対象者の就労状況

失業率は7.7%であったが、潜在的失業率となると25.0%となった。就労の58.3%が正社員であった。今回の回答者では加工工が41.7%と多く、事務職が比較的少なかった。全てが出生時発病のため、最初の就職から病気をもってのものであった。職場状況としては、「自立・対等感」が高く、一方、「疾病管理可能」と「設備現状満足」が低くなっており、就労者の支援の要望としては「身体障害者雇用対策」と「疾病理解共存」が高くなっていた。事業主に病気について知らせていないものが41.9%と比較的高くなっており、職場で病気のことを誰も知らない状況が36.4%に上った。優性栄養障害型や単純型では目立った身体障害もないため、健康者と同様に就労しているように見えるが、その実、設備面での改善や治療への配慮を必要としている状況が示唆される。一方、就労していない者の非就労の理由としては、適職が見つからないが最も多く87.5%であったが、通勤が困難が62.5%と高くなっていた。通勤困難は劣性栄養障害型による下肢障害によるものと考えられる。

3)まとめ

出生時発病である表皮水疱症は成人するまでの間も皮膚の水疱やびらん、局所的な疼痛が毎日続き、毎日の治療を必要としている状況であり、学習機会にも制限があったことが推測される。事務職が比較的少なく、技能・加工工での就労が比較的多かったのもその反映である可能性がある。目立った身体障害のない優性栄養障害型や単純型の表皮水疱症では、病気について周囲の理解を得られていない状況での就労が比較的多く、疼痛や、作業によって皮膚への刺激を避ける必要のあること、また、治療・通院時間の確保といった点で、患者本人が負担を負っている現状が示唆された。また、それに加えて、就労していない者には劣性栄養障害型による上肢・下肢障害によると考えられるものがあり、それに対する対策が必要である。

先天性免疫不全症候群患者の就労実態

1)対象者の病気の状態

今回の調査回答者では病型としては無ガンマグロブリン症が54.5%、記載なしが27.3%、その他ブルトン型(無ガンマグロブリン症の一種)と白血球遊走不全症が1名ずつであった。回答者は男性が72.7%、先天性が81.8%と無ガンマグロブリン症等の研究班報告に合致した。医師からの就労上の注意はほとんど受けていなかったが、これが免疫グロブリン補充療法により血清免疫グロブリン値が正常に維持されている状況にあるからと考えられる。症状の変化は軽快傾向、変化なし、軽快と増悪の繰り返しがほぼ同数となった。治療・通院時間は1週間平均で2時間半で1時間から6時間以上に分かれた。これは、免疫グロブリン補充療法のためばかりでなく、感染症の状態によって影響されていると考えられる。身体障害者手帳は1名が4級であった他は、障害がないとするものが半数、支給を受けたいが認定されないものが30%となっていた。

2)対象者の就労状況

今回の調査回答者は20~30歳代であった。失業率は20.0%に上り、現在求職中のものが18.2%となっていた。また、就労者は73%であったが、その62.5%が自営業であり、正社員での雇用は25.0%であり、雇用の困難性が示唆される。職種は自営業での就労が多いためと考えられるが販売職がやや多くなっていた。就労者の職場状況は「疾病管理可能」がやや低く、「設備現状満足」が高くなっており、就労支援の要望は他の難病に比較して全体的に少なく、特に「身体障害者雇用対策」と「疾病理解共存」はむしろ必要なしとする傾向があった。事業主への病名告知ではしているものとしていないものが半数ずつであり、また、職場で誰も病気のことを知らない状況も37.5%と比較的高くなっていた。非就労の理由は様々に分かれ、非就労者の就労支援の要望も他の難病に比較して低く、特に「労働環境改善」と「身体障害者雇用対策」が低くなっていた。

3)まとめ

今回の回答者は無ガンマグロブリン症を中心として、免疫グロブリン補充療法を受け、社会復帰が可能となっているものと考えられる。しかし、合併症もあり症状の安定性が悪い者もあり治療・通院時間を比較的多く要する者も多く、雇用が困難となり、自営業が多くなっている場合が多くあると考えられた。また、発病が出生時であることにより、治療・通院の必要による教育への影響の可能性も考えられる。今回の回答では要望は少なかったが、先天性免疫不全症候群の雇用促進のためには、他の難病等慢性疾患者のための支援と共通した一般的配慮が必要であると考えられる。

網膜色素変性症患者の就労実態

1)対象者の病気の状態

研究班報告では性差はないとされているが、今回の回答者では男性が64.4%とやや多くなっていた。また、発病時期は出生時が20.9%、20歳以下の合計が半数弱であったが、20~40歳代にも発病時期が広がっていた。医師から受けている注意は比較的少なかった。症状の変化は増悪傾向が80%と進行性疾患の特徴を示していた。治療・通院はほとんど必要ない状態であったが、1週間に1時間のものもあった。身体障害者手帳は半数強が取得しており、2級が40%弱、15%程度が1級であったが、より軽度のもの、支給を受けたいが認定されないもの、障害がないものなどと病気の進行による視覚障害の段階が現れていると考えられる。

2)対象者の就労状況

回答者は30~50歳代が中心であり、失業率は5.9%と比較的低かったが、潜在的失業者となると13.5%となっていた。就労者は75%であり、そのうち60.6%が正社員としての雇用と比較的大きくなっていた。年齢の影響もあり管理職が比較的多くなっていた。発病時に就労していた者の病気による仕事への影響はなかった者が54.5%と高かったが、自主退職が31.8%でその3分の1強が1年以上後に再就職していたが、3分の2弱はそのまま無職となった。発病時に配置転換等の変化を伴って就労継続となったものも12%あった。就労者の職場状況では「設備現状満足」と「疾病管理可能」が低くなっており、就労支援への要望では「疾病理解共存」が高く、一方、「一般労働条件改善」はむしろ必要ないとの回答が多かった。病名を事業主に告知していない者が41.9%、また、職場で病気について誰も知らない状況も18.2%あった。発病時期が遅かった場合、病気の進行も遅く、現状では視覚障害が顕著でないことから告知をしないことが考えられる。一方、就労していない者の非就労の理由は様々に分かれ、また、就労希望者の就労支援の要望が比較的少なく、かえって「労働環境改善」や「公的助成・福祉」が必要ないという回答が多かった。

3)まとめ

網膜色素変性症は日常の治療の必要が少ないため、病気が進行して視覚障害が悪化した場合には視覚障害者への対策に準じた対策が有効であると考えられる。しかし、一方、この病気は進行性であることから、視覚障害の悪化を前提とした長期の職場配置転換の見通しが、将来への不安感を解消するために必要と考えられる。また、発病が遅い者の場合、病気の進行も最初は夜盲から症状が始まり、過度の日光を避ける程度の配慮が必要な程度であり、職場での理解が得にくく、将来病気が進行した場合の不安もある状況が考えられる。夜盲による夜道の危険性や、強い日光に長時間されされることの危険、及び視野狭窄など、普段分かり難い障害の事情について、周囲の理解を促進していくことが、視覚障害が顕著でない網膜色素変性症の雇用促進に必要であると考えられる。

神経繊維腫症患者の就労実態

1)対象者の病気の状態

今回の調査回答者の病型としては神経繊維腫症I型(レックリングハウゼン病)82.2%と、結節性硬化症10.3%がほとんどであり、神経繊維腫症II型はなかった。やや女性が多かったがほとんど性差はなく、発病年齢は出生時が60%で20歳以下で90%以上となり、研究班報告に合致した。就労についての医師からの注意は比較的少なく、作業強度の制限とストレスを避けることがそれぞれ10.8%となっていたのが最高であった。症状変化は増悪傾向が60%弱、次いで変化なしが20%であった。治療・通院時間は必要ないものがほとんどで長いもので1週間平均1時間であった。身体障害者手帳の取得は20%弱で、障害がないと回答したものが40%で最も多く、次いで支給を受けたいが受けられないの25%であった。

2)対象者の就労状況

回答者の年齢は30歳代を中心として20~40歳代が多かった。失業率は4.0%と低く、現在求職活動しているものも3.0%と少なかったが、潜在的失業率は13.3%であった。就労者のうち正社員での雇用が60.3%と比較的高く、自営業が9.6%と低かった。職種は多様であったが事務職が比較的低く、加工工などの技能生産工が比較的多かった。病気が仕事内容に影響しなかったものが58.7%であったが、一方、自主退職25.0%を含め退職となったものが35%強あり、その60%程度はそのまま無職となっていた。就労者の職場状況としては「疾病管理可能」、「自立・対等感」が高く、「設備現状満足」もやや高くなっており、就労支援については「疾病理解共存」がやや高かった以外は、要望は少なかった。職場での事業主への告知では62.3%が告知しておらず、33.3%が職場では誰も病気のことを知らない状況であった。一方、就労していない者の非就労の理由は多様であったが、「適職がみつからないから」が低いという特徴があった。就労希望者の就労支援への要望も全体的に低く特徴がなかった。

3)まとめ

レックリングハウゼン病は、母斑や腫瘍が全身にでき、形態上の変化がある以外は、身体機能には影響がない場合がほとんどであり、その障害は、主に、顔面や手足などの目立つ部分に母斑や腫瘍ができた場合の外見による。そのため、顔面や手足に母斑や腫瘍のない者は、特に病名を事業主や同僚に告げる必要もないものと考えられる。逆に、母斑や腫瘍が目立つ場合には、感染の恐れがないことや、仕事の能力には影響がないことなどの理解を進める必要があるものと考えられる。また、少ない割合で脳内に腫瘍ができるや脊柱側弯がある場合もありその場合には身体障害者対策も必要と考えられる。

肝臓病患者の就労実態

1)対象者の病気の状態

今回の調査回答者は慢性肝炎が77.7%、肝硬変が20.2%であった。男女はほぼ同数であり、発病時期は20歳代後半から50歳代までに広がり比較的高齢での発病であった。医師からの就労上の注意としては、就労原則禁止が16.7%と高かったことや、軽作業への作業強度制限も44.0%、勤務時間中の安静・休憩が38.3%と高いことが特徴的であった。また、ストレスを避ける注意も63.6%と高かった。症状変化は軽快と増悪の繰り返しがやや多いが、軽快、増悪、変化なしと様々な状況が同程度で混在していた。治療・通院時間では1週間に2時間程度が多く、1時間から4時間程度までに広がっていた。身体障害者手帳受給については、支給を受けたいが認定されない者が40%と最も多かった。

2)対象者の就労状況

今回の回答者は50歳以上が多く、就労を希望しない非就労人口が42.0%と高くなっていた。現在求職中のものは3.4%であり、失業率は6.8%であったが、潜在的失業率は19.6%であった。就労者は46%で、そのうちの54.8%が正社員としての雇用で、自営業は23.8%であった。就労職種は多様で特に特徴はなかった。発病時に就労していたものでは仕事に変化がなかったものが最も多く41.2%であったが、自主退職の27.9%をはじめ、退職したものが45%となりそのうちで再就職したものは14%だけであった。この再就職は半年以内に行われていた。また、配置転換等で仕事を継続したものは13%であった。仕事のきつさに特に特徴はなく、就労者の職場状況は「疾病管理可能」がやや高く、「自立・対等感」がやや低かったが、就労支援の要望は他の難病等慢性疾患者に比較して特に特徴はなかった。事業主への病名告知は71.8%であったが、職場の誰も病気のことを知らない状況も17.1%にあった。一方、非就労者の就労非希望の理由は多様であったが、定年退職後であることにより退職金や年金での生活者が多いことが推測された。就労希望者の就労支援希望は全体的に少なかった。

3)まとめ

全国肝臓病患者連合会が昭和60年に実施した調査と比較して、今回の回答者は40歳代が少なく、肝臓病患者がより高齢化していることが示唆される。発病年齢は20~30歳代も20%前後あるが、40~50歳代が中心であり退職した場合には、高齢で再就職が難しいことと治療に時間がかかることもあり退職金や年金で生活することになる者が多いことが示唆される。一方、発病により仕事に変化がなかった者や配置転換等で仕事を継続した者の多くは、職場での疾患管理が比較的可能であると回答していた。しかし、その一方で同僚への引け目や仕事の充実度の低さなどがあり、職場での配慮が逆に患者のQOLを下げている可能性も考えられた。今後の肝臓病患者の雇用促進のためには、作業強度や残業の制限、休憩時間、治療・通院についての配慮は必要であるが、それが逆差別につながらない方策の検討や、高齢で発病した場合の配置転換の対策について検討する必要があると考えられる。

糖尿病患者の就労実態

1)対象者の病気の状態

今回の対象者で病型の記載がなかったものが48.1%あり、インスリン依存型(IDDM)が46.2%、インスリン非依存型(NIDDM)が5.8%であった。日本人の糖尿病の90%はNIDDMであることから、病型記載のなかったものの内多くはNIDDMである可能性がある。回答者は女性が63.5%と多かった。発症年齢はIDDMの記載のあるものだけを見るといわゆる若年発症は40%にすぎず、60%弱が20歳以上での発病となっており、30歳代以降での発病もあった。しかし、30歳以降の発症の30~40%はNIDDMであると考えられる。医師からの就労上の注意は全体的に少なくストレスを避けるの38.0%が最高であった。症状の変化としては軽快と増悪の繰り返しが40%で最も多く、次いで変化なしが30%で多かった。治療・通院時間は1週間に1時間程度が大半で多いもので2時間程度であった。身体障害者手帳の取得はほとんどなく、障害がないとの回答が60%となった。

2)対象者の就労状況

就労状況には特にIDDMとNIDDMの違いが明らかでなかった。失業率は7.5%で現在求職中の者が5.8%、潜在的失業率は14.0%であった。就労者は53.8%であり、そのうち52.6%が正社員での雇用であったが、自営業も23.7%、パートやアルバイトでの雇用もそれぞれ13.2%と7.9%となっていた。職種は多様で特徴は明らかでなかった。病気による仕事への影響は65.9%が特に変化がなく、自主退職の22.0%をはじめ、退職も26.8%と他の難病等に比べると少なく、また、60%以上がほぼ2年以内に再就職していた。就労者の職場状況は「疾病管理可能」、「設備現状満足」、「自立・対等感」の全てで高く、就労支援の要望も比較的少なかったが、そのなかでは「疾病理解共存」が比較的要望の多い傾向があった。事業主への病名告知は19.4%が行っておらず、10%が職場では誰も病気のことを知らない状況であった。一方、就労していない者の非就労の理由はあまり明確ではなく、また、就労希望者の就労支援の要望も全体的に低かった。

3)まとめ

糖尿病は他の難病等に比較して病気による仕事への影響が少ない状況が示唆された。しかし、病名への偏見や、疾病管理の観点からの配慮などの問題もあると考えられる。IDDMでは、インスリン注射を(腹部等へ特殊な注射筒を使用して)勤務時間中に行う必要もあり、病気を隠しての就労では管理状況が悪化する可能性がある。パートや自営が多いことは、その困難性のためである可能性も考えられる。糖尿病は悪化すると視力障害や腎臓機能障害の合併の可能性もあるが、疾病管理が行われている状況ではあまり問題とはならないと考えられる。また、NIDDMの日常生活での疾患管理に失敗して病状を悪化させる例が増加していることが報告されているが、その原因として通院の困難などの職業生活の要因が関連していることが示唆される。治療時間については自由記述で薬を近くの薬局等で出せるようにしたり、郵送などされれば仕事への影響が少なくなることが指摘されていた。糖尿病患者の雇用促進のためには、病気についての正しい周囲の理解のもとで、安全で確実な疾病管理ができるように、医療制度との連携のもとに対策を進める必要があると考えられる。

進行性筋ジストロフィー、その他の筋萎縮症患者の就労実態

1)対象者の病気の状態

今回の調査回答者の病型は特に記載なしが3分の1あったが、肢帯型とデュシャンヌ型がそれぞれ23.3%と21.7%と多く、ベッカー型、顔面肩甲上腕型、遠位型などが10%以内であった。その他の筋萎縮症には筋萎縮性側索硬化症は含まれていなかった。男性が83.1%と多く、発病は20歳以下が85%であった。デュシャンヌ型は全て15歳以下での発病であったが、その他は6歳以上で16歳以上での発病もあり、肢帯型では20歳代での発病もあった。医師からの就労上の注意では就労原則禁止も10%弱あったが、座業や軽作業への作業強度の制限がそれぞれ35.7%、30.8%となっており、座業への制限が比較的多いことが特徴的であったが、デュシャンヌ型とそれ以外を問わない傾向であった。症状変化は進行性筋ジストロフィーでは大部分が増悪傾向であったが、その他の萎縮症には増悪しないものもあった。治療・通院は必要でない状況であった。身体障害者手帳は全員が取得しており、1級が半数以上で残りは2級であった。上肢・下肢・体幹の障害と考えられる。

2)対象者の就労状況

デュシャンヌ型とそれ以外では差が認められた。デュシャンヌ型は20歳代が中心であり非就労人口が90%弱、雇用は1名、求職中の者も1名であった。一方、肢帯型は30~40歳代が中心であり、また、雇用が30%弱、自営・福祉的就労が25%と就労が半数を超えていた。就労者の中では正社員が41.4%あったが、福祉的就労が17.2%と高くなっていた。就労職種は事務職が比較的多かった。就労者の職場状況としては「設備現状満足」が低くなっており、就労支援要望としては「身体障害者雇用対策」と「疾病理解共存」が高く、「一般労働条件改善」はむしろ低かった。職場で病名について誰も知らない状況はないが、特に事業主に病名を告げていないものも15.4%あった。一方、就労していない者の非就労の理由としては、適職が見つからないことと並んで通勤の困難が51.9%と高くなっていた。就労希望者の就労支援要望としては「公的助成・福祉」と「身体障害者雇用対策」が高くなっていた。

3)まとめ

進行性筋ジストロフィーは病気の進行はあるものの、治療・通院の必要も少なく、全てが重度の身体障害者認定を受けており、既存の身体障害者としての側面を強くもっている。進行性筋ジストロフィーの中でもデュシャンヌ型は特に病気の進行が速く20歳前後で死亡する例が多いといわれているため、求職も行ったことがないものが多いが、就労への希望はあり、30歳代の者がおり、今後生存可能年齢の延長も期待されることから、通勤面の配慮や身体障害者対策によって就労の可能性がある場合も考えられる。一方、デュシャンヌ型以外の特に肢帯型はより遅い進行のため、肢体不自由に対する対策や通勤の対策によって雇用促進を進める必要があると考えられる。また、肢体不自由の側面だけでなく、進行性筋ジストロフィーには内部障害の側面もあり、通勤の配慮としては、単に下肢障害のためではなく、心臓や呼吸器に負担をかけないためでもあることの理解が必要であり、在宅就労などの方策も検討する必要がある。

強直性脊椎炎患者の就労実態

1)対象者の病気の状態

今回の回答者は男性が81.3%と多く、発病年齢は20歳代を中心として10歳代と30歳代に広がっており、先行研究の報告よりは男女差が少なくなっていたが、発病年齢については合致した。医師からの就労上の注意としては座業、軽作業への作業強度の制限や残業の制限、勤務時間中の安静・休憩、ストレスを避けることなどが30%前後ずつあった。症状変化は軽快と増悪の繰り返しが40%で最も多く、次いで増悪傾向が30%が多かった。治療・通院時間は1週間平均で1時間を中心として0時間のものから、3時間というものまであった。身体障害者手帳は60%弱が取得しており、1級から6級まであった。視覚障害や関節の運動制限による障害認定であろうと考えられる。また、支給を受けたいが認定されないものやあえて障害者認定を望まないなど障害を自覚しているものを含めると90%弱となり、障害がないとしたものは5%であった。

2)対象者の就労状況

今回の調査回答者には60歳以上が25%強とやや高齢者が多く、就労非希望者も多かったが、その一方で40歳代以下も半数弱あった。失業率は3.0%と低く、現在求職中のものも2.1%であった。しかし、その一方で、潜在的失業率は13.5%となり、また、就労者のなかで正社員での雇用が56.3%あったものの、自営業が31.3%と比較的高かったことから、必ずしも雇用上の問題がないわけではないと考えられる。職種は事務職が比較的低く、自営のためか管理職が多くなっていた。発病時に就労していたもので、発病により仕事の変化がなかったものは31.9%、自主退職の36.2%を含め退職した者が51%で、そのうち43%が2ヶ月から2年以上後に再就職していた。就労者の職場状況としては「設備現状満足」が低く、また、「疾病管理可能」もやや低く、就労支援要望としては「身体障害者雇用対策」が高かった。職場で事業主に病名を告げていないものが34.6%あり、職場で誰も病名を知らない状況は16.1%であった。一方、就労していない者の非就労の理由としては適職がみつからないが57.1%で最も多かったが特に特徴はなかった。就労希望者の就労支援要望としては「身体障害者雇用対策」が高く、一方、「労働環境改善」や「公的助成・福祉」は低かった。

3)まとめ

強直性脊椎炎患者は全身の関節のこわばりや痛みによる障害があり、それが普通の肢体不自由と異なる点であり、また、痛み止め薬の服用も行っており治療・通院も必要な場合もある。また、自営業での就労が比較的多かったが、雇用の促進のためには、外見よりも肢体不自由の度合いは大きいことを考慮して、肢体不自由のための対策を適用することが必要であると考えられる。

先天性骨形成不全症(先天性代謝異常)患者の就労実態

1)対象者の病気の状態

 今回の調査回答者で先天性代謝異常の大半(93.8%)が先天性骨形成不全症であった。男女差はなく、発病は81.3%が出生時であり、その他も20歳以下であった。病気の顕在化が遅い例がいくらかあることが示唆された。医師からの就労上の注意は座業や軽作業への作業強度の制限がそれぞれ34.6%、28.0%と比較的多かったことが特徴的であった。症状の変化は増悪傾向が12%と比較的少なかったが、軽快傾向、変化なし、軽快と増悪の繰り返しがそれぞれ30%弱ずつと傾向が分かれた。治療・通院時間はほとんどないもの大半であったが、1週間に1時間程度のものもあった。身体障害者手帳は90%以上が取得しており1級2級となっており、骨脆弱性により下肢の変形や歩行困難、あるいは上肢の変形などによる障害認定であると考えられる。

2)対象者の就労状況

 今回の回答者は20~40歳代が大半で、特に20歳代と40歳代が多くなっていた。現在求職中のものが16.7%と多く、失業率が20.0%に上った。また、潜在的失業率は28.6%となった。就労している者の55.0%が正社員としての雇用、20%が自営、また、パートやアルバイトが15%であった。職種は事務職が半数と比較的多くなっていた。病気による仕事への影響としては、変化がなかったものが59.3%であったが、自主退職の18.5%を含んで37%が退職しその半数が無職のままとなっていた。就労者の職場での状況は「自立・対等感」が比較的高く、就労支援の要望としては「身体障害者雇用対策」と「疾病理解共存」が大きくなっていた。事業主への病名告知では15%が告知していなかったが、職場で誰も病気のことを知らない状況は少なかった。一方、就労していない者の非就労の理由としては適職が見つからないことが90%となり、また、通勤の困難も60%と高くなっていた。就労希望者の就労のための支援要望は全体的に高く、特に「労働環境改善」と「身体障害者雇用対策」が高かった。

3)まとめ

 骨形成不全症は、治療や通院に要する時間も少なく、骨折等の後遺症による四肢の変形等による障害認定がなされている場合が多かった。しかし、そのような身体障害の側面以上に、骨折の防止のために四肢への荷重を避け、座業や軽作業などの作業強度の制限が重要である。骨形成不全症患者の雇用促進のためには、上肢や下肢の障害への配慮だけでなく、骨折防止のための作業強度の制限にも配慮した職業紹介や職場での支援が必要と考えられる。

膠原病(患者会調査による)患者の就労実態

1)対象者の病気の状態

 膠原病友の会が1997年に実施した調査によると、回答者の46.9%が全身性エリテマトーデス、13.0%が強皮症、その他に皮膚筋炎、多発性筋炎、シェーグレン病、混合性結合組織病、大動脈炎症候群、リウマチ、結節性動脈周囲炎、ウェゲナー肉芽腫症などが10%未満であった。回答者は女性が90.9%であった。身体障害者手帳は15.3%がもっており、肢体不自由が69.3%、内部障害が22.3%で、4級以上が多かった。障害者手帳を持っていないものの59.8%が障害の程度が軽く該当しないことが理由であった。治療状況は月に1回の通院や2週に1回が大半であった。

2)対象者の就労状況

 就労していたものは全体の36.8%で、そのうち常勤雇用が41.0%、パート・アルバイトが31.4%、自営等が27.0%であった。働きたいと思わない、又は、働きたくても無理である、あるいは将来働きたいとする非労働力人口が58%であった。仕事があればすぐに働きたいと回答したものが13.3%あり、失業率が22.7%と推計でき他の難病等に比較しても高くなっていたが、実際に求職活動をしているかは不明である。また、職場で病気について誰にも話していないものが11.6%あった。就労していない者で病気により職を失った者は42%であった。

3)まとめ

 膠原病は一般的に女性に多い特徴があり、関節炎等による肢体不自由や内部疾患が主な身体障害であることや、失業率が高く、自営やパートの比率も高いことから職業的な困難も大きいことが示唆された。また、身体障害以外にも治療の問題など他の難病等慢性疾患との共通の問題も多いことが示唆される。