支援マニュアル 令和7年3月 No.28 発達障害者の障害特性を踏まえた相談の進め方 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター職業センター はじめに  障害者職業総合センター職業センターでは、平成17年から「ワークシステム・サポートプログラム」を開始し、ここでの実践を通じて、発達障害者に対する職業リハビリテーション技法の開発・改良を進めてきました。その開発成果については実践報告書や支援マニュアルとして取りまとめるとともに、職業リハビリテーション研究・実践発表会をはじめ、様々な機会を通して発信しています。  発達障害者の自己理解を進め、課題への対処方法や周囲への配慮事項を検討するためには、発達障害者が自らの経験を振り返り、気づきを得ることが大切です。そのため、支援者は発達障害者の振返りを適切にサポートすることが求められます。  本マニュアルはワークシステム・サポートプログラムの実践等に基づき、発達障害者との相談の進め方の過程とそのポイント、支援者が押さえておくとよい対応等についてまとめています。また、相談の効果的な実施に資するため、ワークシステム・サポートプログラムにおいて開発した支援ツールを中心に、使用目的や特徴等を整理し、相談目的に応じて支援ツールが適切に選択できるよう活用整理表を作成し、利便性の向上を図ることとしました。  本マニュアルの作成にあたり、明星大学人文学部福祉実践学科准教授 縄岡 好晴氏並びに、目白大学心理学部心理カウンセリング学科助教及び国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター科研費研究員 駒沢あさみ氏から、専門的知見に基づき、ご助言賜りましたことを深く感謝申し上げます。  本マニュアルが様々な機関での障害者支援において活用され、職業リハビリテーションサービスの質的向上の一助となれば幸いです。 令和7年3月 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター 職業センター  職業センター長 那須 利久 目 次 序章 ワークシステム・サポートプログラムの概要  1 障害者職業総合センター職業センターにおける発達障害者に対する    支援プログラムの取組 3  2 WSSPの構成 3 第1章 開発の背景と概要 第1節 開発の背景 9  1 地域障害者職業センター等への調査 9  2 相談場面における発達障害の特徴に応じた対応 10  3 支援者の相談スキル向上における課題 10 第2節 開発の概要 11  1 本マニュアルのねらい 11  2 本マニュアルの活用を想定する対象者 11 第2章 相談の過程と構成要素 第1節 相談の過程 15 第2節 【過程1】相談の準備 17  1 信頼関係の構築 17  2 相談の準備に必要なアセスメント 19  3 アセスメント結果に応じた相談時の工夫 21  (1) 環境設定 21  (2) 言葉の意味や使い方等の認識合わせ 22  (3) 会話のペースや間(ま)の調整 22  4 相談の組立 24  (1)TEACCH Autism Programの「ワークシステム」を参考とした相談の構造化 24  事例 ワークシステムを参考にし、相談を組み立てた事例 29 第3節 【過程2】共通認識の形成 32  1 共通認識の形成の目的 32  2 共通認識の形成のポイント 33  (1) 相談で取り上げる話題(テーマ)の選定 33  (2)取り上げる話題の優先順位の確認 34  (3)状況の確認と整理 34  (4)課題に取り組む準備の確認 41  (5)主体的な課題への取組に向けた関わり 42 第4節 【過程3】目標設定 44  1 SMART理論を参考とした目標設定 44  事例 SMART理論を参考に本人にあわせた目標設定を行った事例 47 第5節 【過程4】取組結果の振返り 49  1 取組を振り返るポイント 49  2 行動変容と振返りによる気づきの循環 51  3 今後の展開の検討 52    第3章 支援ツールの活用 第1節 相談で活用できる支援ツール 57  1 本人にあわせた支援ツールの活用 57  2 目的に応じた支援ツールの選択 57 第2節 支援ツール活用整理表 58 第3節 支援ツール関連図 85  【特別寄稿】ソフトスキルを視覚化させるアセスメントツール        明星大学人文学部福祉実践学科 縄岡 好晴 准教授 91 第4章 支援者の相談スキルの振返り 第1節 支援者の自己理解 97 第2節 支援者の相談スキルのチェックリスト 100  事例 「相談スキルのチェックリスト」を活用し支援の方向性を     検討した事例 106 第5章 まとめ 115 巻末資料 117 付録  対応のヒント集 155 ●よくある相談場面でのヒント  Case1 話題が拡散しやすい  Case2 相談時間が超過する  Case3 話がかみあわない  Case4 本人のルールを尊重した妥協点を見いだしにくい  Case5 「はい」と返事をするが行動化されない ●相談スキル向上のためのヒント  Case6 話題にしにくいことを伝えるとき  Case7 本人の困っている原因が分かりづらいとき  Case8 支援者が責められているように感じるとき  Case9 本人が質問に対して沈黙しているとき 序章 ワークシステム・サポートプログラムの概要 序章 ワークシステム・サポートプログラムの概要   序章 ワークシステム・サポートプログラムの概要 1 障害者職業総合センター職業センターにおける発達障害者に対する支援プログラムの取組  障害者職業総合センター職業センター(以下「職業センター」という。)では、知的障害を伴わない発達障害者を対象とした「ワークシステム・サポートプログラム」(以下「WSSP」という。)を実施しています。職業センターは、WSSPの実施を通して、発達障害者の職業リハビリテーションにおける支援技法の開発・改良と、その成果の伝達・普及を行っています。  WSSPは、13週間のプログラムを通じて①障害特性と職業的課題、就労上のセールスポイントなどについて把握すること、②個々の課題への対処方法、周囲に求める配慮などについて整理すること、③職業生活を維持するために必要な技能(問題解決技能・職場対人技能・手順書作成技能・リラクゼーション技能)等の習得を図ることを目的としています。 2 WSSPの構成  WSSPは、「就労セミナー」「作業」「個別相談」から構成されています。  「就労セミナー」では問題解決技能トレーニング )、職場対人技能トレーニング )、リラクゼーション技能トレーニング )、手順書作成技能トレーニング )の4種類の技能トレーニングを通じて、職業生活を維持するために必要な技能の習得を図ります。  「作業」では、ウォーミングアップ・アセスメント期、職務適応実践支援期の2期に分けてアプローチします。  ウォーミングアップ・アセスメント期においては、シンプルに構造化し た作業環境のもと、ワークサンプル幕張版 )※等の実施を通じて、作業遂行上の障害特性の現れ方を確認します。並行して、作業の進め方の工夫や環境調整などを行いながら、各受講者の障害特性に応じた対処方法を検討するための情報を収集します。  職務適応実践支援期においては、より就労場面に近い作業環境を設定し、検討した対処方法や受講者に応じた周囲の関わり方(指示の出し方など)を試し、その効果を検証します。  「個別相談」では、支援者は受講者と毎週1回、相談を実施し、プログラム内での受講者の言動や就労セミナーで得られた知識・スキルについて受講者自身がどのように捉えたかを確認し、自身の特性、困っていることや苦手なことへの対処方法、周囲から配慮を得たい事項等について整理します。  WSSPでは、支援を効果的に進めるために「就労セミナー」「作業」「個別相談」の各場面を関連づけながら支援を行います(図1)。たとえば、「作業」において手順を何度も間違うといった課題が確認された場合、「就労セミナー」の問題解決技能トレーニングにてグループ・ディスカッションを行い、手順を間違わないための対処方法を検討します。また、「個別相談」では、検討した対処方法をどのように実行するかを話し合ったり、実行した結果の振返りなどを行っています。 ※ワークサンプル幕張版は、OA作業、事務作業、実務作業に大別される13種類のワークサンプルで構成されている。職業能力の評価のほか、作業を行う上で必要となるスキルや職務遂行を可能とする環境(補完手段や補完行動、他者からの支援等を含む)を明らかにする機能や、様々な様相で現れる職業上の問題に対処できる訓練課題としての機能も果たせることなどを目的に開発された。 1 障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.8 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者のための問題解決技能トレーニング」(2013)p9-13 2 障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.6 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者のための職場対人技能トレーニング(JST)」(2011)p.8-10 3 障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.10 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者のためのリラクゼーション技能トレーニング ストレス・疲労のセルフモニタリングと対処方法」(2014)p.9-10 4 障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.15 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者のための手順書作成技能トレーニング」(2017)p.8-12 5 障害者職業総合センター:「トータルパッケージの活用のために(増補改訂版)-ワークサンプル幕張版(MWS)とウィスコンシン・カードソーティングテスト(WCST)幕張式を中心として-」(2013)p.4-7 図1 「就労セミナー」「作業」「個別相談」の関連 6 障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.13 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム ナビゲーションブックの作成と活用」(2016)p.9-13 【引用文献】 1)障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.8 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者のための問題解決技能トレーニング」(2013)p.9-13 2)障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.6 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者のための職場対人技能トレーニング(JST)」(2011)p.8-10 3)障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.10 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者のためのリラクゼーション技能トレーニング ストレス・疲労のセルフモニタリングと対処方法」(2014)p.9-10 4)障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.15 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者のための手順書作成技能トレーニング」(2017)p.8-12 5)障害者職業総合センター:「トータルパッケージの活用のために(増補改訂版)-ワークサンプル幕張版(MWS)とウィスコンシン・カードソーティングテスト(WCST)幕張式を中心として-」(2013)p.4-7 6)障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.13 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム ナビゲーションブックの作成と活用」(2016)p.9-13 【参考文献】 障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.4 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 障害者支援マニュアルⅡ」(2009) 第1章 開発の背景と概要   第1章 開発の背景と概要 第1節 開発の背景 1 地域障害者職業センター等への調査  令和5年度に全国の地域障害者職業センター及び広域障害者職業センター(全50か所※)(以下「地域センター等」という。)を対象に、発達障害者との相談に関するアンケート及びヒアリングを実施しました。  これらの調査で、実際の相談場面で支援者が体験したことについて質問したところ、表1のように発達障害者との相談において、状況や特徴に応じた対応への難しさを感じていることがうかがえました。 ※50か所の内訳:各都道府県の地域障害者職業センター47センター、東京障害者職業センター多摩支所、国立職業リハビリテーションセンター、及び国立吉備高原職業リハビリテーションセンター。 表1 発達障害者(本人)との相談についての意見 本人の話したいことがまとまらず、相談内容のテーマを一つに絞ることが難しい 本人の話す内容・話題が拡散し、整理するために時間を要して、限られた時間内に整理やフィードバックすることが難しい 本人自身が困っていることを言語化できなかったり、相談したい内容を整理できていないと面談時間が長引きやすい 自己評価と周囲の評価が異なる場合に評価の共有の仕方に苦慮する 質問者が意図したことと、本人の回答とにずれが生じる 本人の言語表現や言葉等の解釈が一般的な解釈と異なっていることがあり、コミュニケーションのずれが生じやすい 認知の特徴を踏まえ、本人の理解できる形で伝えることに難しさを感じる 本人が情報を整理・統合することが難しく、体験したことや助言したことがなかなか腑に落ちない 本人の興味関心のあるテーマや内容であるか否かで伝わる度合に差が大きい 本人と問題意識や課題について共有しにくい ストレスや失敗の要因と本人の特徴との紐づけが難しい 2 相談場面における発達障害の特徴に応じた対応  発達障害者との相談に支援者が難しさを感じる要因の一つとして、発達障害の特徴は幅広く、人によって表れ方が異なり、より個別性の高い対応が必要であることが挙げられます。  職業センターでは「情報処理過程仮説」に基づいた発達障害者の特徴に着目しています。情報処理過程とは情報を受け取り理解する「受信」、行動を選択する「判断・思考」、実際に行動を行う「送信」といった情報処理の一連の流れを指しますが、個人の経験や考え方等が影響し、同じ出来事であっても人それぞれ処理の仕方が異なります。  さらに、発達障害者は感覚やコミュニケーション・社会性の特徴、不注意、多動性、衝動性の特徴が情報処理過程にも影響を与え、独自の捉え方や表現の仕方となることもあり、そのため、「他者との共通理解が図りにくい」「限られた時間のなかで情報を整理し、検討することが難しい」といった状況が生じやすくなると考えられます。 3 支援者の相談スキル向上における課題  発達障害者との相談を難しくしている要因は、発達障害の多様な特徴に応じた対応が必要であることに加えて、支援者の相談スキルの向上にかかる課題も考えられます。  相談スキルは基本的な面接技術の習得と実践を積み重ねることで向上が図られると考えられますが、実践した結果や効果、改善点を振り返り、検証する、そして検証結果をもとに再度実践するといったことが必要です。  一方で、相談場面の多くは個室で発達障害者と支援者の一対一で行われ、支援者が自らの相談場面においてライブスーパーバイズ等を受ける機会は限られ、相談のノウハウは個々の支援者の中で「実践知」として蓄積されてはいっても、言語化された「形式知」としては共有がなされにくいといった状況があります。    第2節 開発の概要 1 本マニュアルのねらい  職業センターでは、地域センター等からの声や支援者の相談スキルの向上に係る課題の解決も視野に入れて相談に焦点を当てた支援マニュアルの作成に着手することにしました。  WSSPでは発達障害者と支援者が「経験を振り返る」「目標を設定し、実行する」「実行した結果を振り返る」という一連の過程を通じて、発達障害者自身の困っていることや改善したいことの解決策を見出し、解決に向けた一歩を踏み出すこと、ストレングスを見出すことを相談の目的としています。  WSSPの受講後のアンケートでは「うまく言葉にできなかったことが相談の中で会話を重ねることにより言葉で表せるようになった」「相談を重ねることで、なぜうまくいかないのだろうかといったことが整理され、自分の特徴について気づきを得られた」といった相談の効果について感想が挙げられています。  本マニュアルは発達障害者との相談の方法について、WSSPの実践を通して得られた経験等をもとに「相談の構造化」「支援ツールの整理」「支援者の相談スキルの振返り」等についてまとめるとともに本文の要所要所に「相談のコツ!」や「コラム」等を掲載しました。また、職業相談等様々な場面で手軽に活用できるよう「付録」には、発達障害者との相談においてよく遭遇する場面を取り上げ、支援者の対処行動に係る「対応のヒント集」として掲載しました。 2 本マニュアルの活用を想定する対象者  本マニュアルは、知的障害を伴わない、主に自閉症スペクトラム障害、もしくは注意欠陥多動性障害のいずれか、または両方の診断を受けている発達障害者(以下「発達障害者」または「本人」という。)との相談場面での活用を想定しています。 コラム 「目標として設定された行動が行われない」その理由は? 相談場面において本人と共通理解を図れたと支援者が感じていても、行動化する段階では支援者が期待する行動に至らない(もしくは期待と異なる行動を行う)場合があります。情報処理過程仮説に沿ってその理由を考えてみます。 受信の段階 •支援者と本人が互いに使用している言葉の意味が異なっているため、共通認識が図られていなかった •本人の注意を阻害する刺激があり、話に集中できていなかった 等 判断・思考の段階 •いつ、誰に、どんな場面で行動するのかが判断できなかった •メモをとっていなかったため、目標として設定した行動を忘れていた •不安を強く感じて、実行に移せなかった 等 送信の段階 •どのように行動すれば良いのか具体的な方法が分からなかった •実行しようと思っていたが、つい違う行動をとってしまった 等  これらの仮説を検証するためには発達障害者の特徴、これまでの経験、考え方やものごとの捉え方の傾向について、相談場面等を通じて確認した上で、改めて行動に移すための具体的な目標を本人と一緒に検討することが必要です。 第2章 相談の過程と構成要素 第2章 相談の過程と構成要素  この章では、WSSPにおける相談の過程とその構成要素を確認し、効果的な相談を行うためのポイントについて説明します。  WSSPの相談において、支援者はマイクロカウンセリング、認知行動療法、応用行動分析等の技法を援用し、本人が自信を回復し、自ら現状を変えようとする意識を高めていけるよう介入を図ります。WSSPの相談は就職や復職、職場適応に向け、実際に困っている場面や行動に対する解決策を検討するために実施します。そのため、技法の活用においては意識していることや現実を対象とし、本人の無意識を意識化させ洞察を深めさせるような治療的アプローチの方向にならないように注意します。  なお、本章では、就職や復職、職場適応に向けた支援を希望する発達障害者のうち、自身の課題や特徴等の整理と対処方法の検討に対し、一定の意欲、または問題意識を持っている方を主な対象者としています。 第1節 相談の過程  心理カウンセリングにて分析・蓄積された技法や対人支援に係る実践アプローチを参考に、WSSPにおける相談の流れを表1のとおり4つの過程に整理するとともに各過程の構成要素について図2にまとめました。 表1 相談の過程と内容 相談の過程 内容 1 相談の準備 信頼関係の構築とアセスメントを行う 2 共通認識の形成 本人と支援者が事実や状況の捉え方などを共有し、共通の認識を持つ 3 目標設定 行動変容やストレングスを伸ばすための目標を具体的に設定する 4 取組結果の振返り 目標に対する取組結果を振り返り、次の目標や今後の展開を検討する 図2 相談の過程と構成要素  「相談の準備」から「取組結果の振返り」までの一連の過程を経て相談が終結することもあれば、次の取組に向けて改めて「共通認識の形成」から相談を実施する場合もあります。  各過程の詳細は次節以降で解説します。   第2節 【過程1】相談の準備  第2節では本人が安心して相談に臨めるよう、信頼関係の構築や環境調整等、相談を効果的に実施するための準備について解説します。 1 信頼関係の構築  相談の際は、本人や本人の周囲の方の困り感に焦点を当て、その要因の分析や、より適した行動の検討を行います。本人は自らの言動やその時に感じた気持ちなどを振り返ることから、内容によっては、本人が戸惑いや不安、怒り等を感じることもあります。本人が自分自身を振り返り、課題と向き合うためには、支援者は本人との信頼関係をなるべく早期に構築することが望まれます。  信頼関係の構築の方法として一概に「○○をすれば良い」とは言えませんが、本人が、「一方的に非難、または忠告されている」と感じるような関わり方をすると信頼関係の構築は困難です。  WSSPの受講者に「支援者や一緒に働く方との信頼関係の構築」をテーマにレポートを書いてもらい、聞取り調査を行った際には以下のような意見があげられました。 表2 信頼感を持てる人と持てない人の差 信頼感を持てる人 業務の知識を教えてくれたり、仕事を任せてくれる人 信頼感を持てない人 障害名で人柄や能力を判断する人 高圧的な対応をする人 ミスの指摘のみして、対処方法の助言をしてくれない人  「信頼感を持てる人」については「相手が自分を信頼してくれていると感じ、自分もモチベーションがあがる」と話していました。一方、「信頼感を持てない人」については「相手が自分を信頼してくれていない」という受講者の気持ちが表れていました。本人が「支援者が自分を信頼してくれている」と感じられることで、支援者を信頼し、課題と向き合う準備ができると考えられます。  本人との信頼関係を構築する際には支援者の関わり方が重要であると言えます。 相談のコツ!  本人が感じている辛さや困難さは、周囲の人からは理解されにくいこともあります。例えば、不快な音の種類や程度は人によって異なる等、感覚の感じ方は他者には共有しにくいものです。また、出来事に対する捉え方や感じ方も人によって様々です。  本人との信頼関係を築く上では、本人の感覚や気持ち、ものごとの捉え方等を支援者が一方的に評価するのではなく、共感的に受け止め、辛さや困難さを理解しようとする姿勢が大切です。   2 相談の準備に必要なアセスメント  「本人が落ち着いて安心できる相談環境を設定する」ためには、本人の特徴や学習スタイル等のアセスメントに基づいた対応が重要です。  相談環境の調整は、特に「感覚特性」「コミュニケーション」「注意」等の特徴について確認することが必要です。確認が必要な項目は「アセスメントで把握しておきたい情報(例)」として表3にまとめました。  情報収集は、本人や家族、関係機関等からの聞取り、行動観察、チェックリスト等の支援ツールや医療機関で実施した検査結果等をもとに行います。また、アセスメントした結果を本人と共有することで、本人の自身の特徴への気づきを促す効果も期待できます。  アセスメントにより、対応を検討した後も、相談を進めていく中で新たな情報を把握した際は、その都度対応を検討します。このようにアセスメントは一度行ったら終わりではなく、相談の全過程において常に念頭に置くことが大切です。 相談のコツ!  苦手な感覚があっても本人は常にその感覚を感じていることから、「当たり前のこと」となっているため本人自身が把握していない場合もあります。  また、これまでに感覚特性に理解や配慮を得られない、工夫してみたいが試す機会がない等、他者に伝えずに我慢している場合もあります。支援者がつけている香水や香料が気になっても遠慮して言えないことがあります。  本人からの訴えがない場合でも、感覚特性や集中しやすい環境を確認することが望まれます。確認の際は感覚特性の例や配慮・工夫の仕方も併せて伝えると、本人の感じ方や配慮してほしいことも確認しやすくなります。 表3 アセスメントで把握しておきたい情報(例) 把握しておきたい事項    観察するポイントの例 ・注意が向きやすい、集中しやすい環境 ž  ・注意が向きやすい、または嫌悪刺激(音や光、におい、視界に入る他者の動きなど)がある(感覚特性) ・注意や集中を阻害する要因 ž       ・失敗体験など嫌な記憶を想起した後は、気持ちの切換えに時間がかかる ・感覚特性 ž              ・集中が継続できる時間の目安 ž                   ・集中して相談ができる時間帯 ž                   ・自らの疲れや感情に気づき、対処できるか否か ・言葉の使い方の傾向 ž           ・言葉の使い方が厳密、または曖昧な表現が多い ž                   ・本人が独自に意味づけをしたり、定義して使用している単語や言葉がある ・会話の構成 ž               ・話題が拡散しやすい ž                   ・推敲してから話し始める/思ったことをそのまま言葉にする ž                   ・自分の考えを自分の言葉で伝えることが得意/苦手 ・ノンバーバルコミュニケーションの理解・表出の傾向 ž ・相手の表情や仕草から他者の気持ちや背景を直観的に理解することが得意/苦手 ž                   ・感情や気持ちが表情や態度に出やすい/出にくい ・ものごとの理解の仕方(学習の仕方) ž  ・口頭情報のみであっても理解ができる/苦手 ž                   ・曖昧な情報からでも相手が伝えたいことを推察することができる/苦手 ž                   ・長い文章で伝えられた場合、一部の内容を聞き漏らしたり、忘れてしまうことがある ž                   ・視覚的な情報の提示があると理解や記憶を保持する助けになる ž                   ・会話を通じて、言葉にすることで自分の考えが整理されやすい ž                   ・他者の意見に影響されやすい/されにくい 3 アセスメント結果に応じた相談時の工夫  アセスメント結果に基づき、相互に安心して正確な情報をやり取りできるように工夫します。  相談しやすい環境を整える上で留意することについて解説します。 (1)環境設定 ア 安心して話せるための工夫  相談を行う際、本人の緊張が強くなったり、過去の嫌な記憶を思い出し、辛い気持ちになってしまうことがあります。本人が安心して話せる環境を整えるためには、他者に相談内容が聞かれない環境が整えられているか、緊張や不安などが強くなった時にその気持ちを軽減するための対策が用意されているかといった点から考えます。  他者に相談内容が聞かれないようにするためには個室での相談が望ましいですが、個室を準備できない場合はパーテーション等を活用して相談スペースを確保し、「相談中」などの札を掲示する等、第三者に話を聞かれないように工夫しましょう。  相談することで緊張や不安などが強くなったときの対策として、ひとりで落ち着ける場所(カームダウンスペース)を設けたり、本人が日頃から使用している落ち着くことができる支援ツール(ストレスボールなど)を用意することもあります。「カームダウンスペースを使う前に支援者に声をかける」「ストレスボールは相談中に好きなタイミングで使って良い」等相談に入る前に使用のルールを決めておくと、本人もそれらが使用しやすくなります。 イ 感覚特性に応じた工夫  感覚特性によって日常生活や就労場面において困難さを感じることがあります。相談に集中しにくいこともあるため、感覚特性に配慮した環境を整えることが必要です。  そのため、本人にとっての不快感を誘発する感覚刺激を減らすという考え方から相談環境を確認し、調整します。  しかし、不快感を誘発する感覚刺激すべてを減らすことは難しいため、感覚特性に応じた支援ツールを本人自ら使用し、相談に集中できるよう協力を得られると良いでしょう。  また、感覚特性は不安を感じた時や情緒が不安定になっている時に現れやすいことから、本人が感じている感覚特性が日常的に表れているものなのか把握しておくと、本人の精神状態等の変化に支援者や本人も気づきやすくなります。 (2)言葉の意味や使い方等の認識合わせ  相談の多くは言葉のやり取りを中心に進められるため、本人と支援者は言葉の意味や使い方についてなるべく齟齬が生じないよう伝えあう必要があります。  発達障害者の中には言葉の使い方が厳密であったり、独自の理解や表現の仕方をする方、言葉のニュアンスや比喩、非言語的な情報等が把握しにくい方がいます。支援者は本人のコミュニケーションの特徴に応じた伝え方を工夫します。 相談のコツ!  障害の有無にかかわらず、同じ単語であっても自分と他者とで異なるニュアンスの使い方をしていると感じることがあると思います。  そのような微妙な差であっても、発達障害者にとってはやり過ごすことができずに違和感として強く感じることがあります。特に感情やものごとの捉え方等の表現については、「どう表現すると納得感が得られるか」「本人が表現している言葉は何を指すか」を確認し、共通認識を持つことが大切となります。 (3)会話のペースや間(ま)の調整  本人のコミュニケーションの特徴や学習スタイルによって、相談内容を理解し、発言しやすいペースや間(ま)が異なります。  話すスピードが速く直観的に話をする方や急いで結論を出そうとしている方との相談では、本人が冷静に落ち着いて課題を整理したり、解決策を検討できるようにするため、支援者は意図的にゆっくりとしたペースで話すことが必要かもしれません。  また、頭の中でじっくり考え一つ一つ理解しながら話す方の場合、支援者は一度に様々な情報を伝えず、本人の理解度を確認したり、発言を待ってから次の話題に進むことも必要です。   4 相談の組立  相談では様々な話題を取り上げることもあり、時に複雑になることもあります。発達障害者の中には聴覚的な情報処理が苦手であったり、見通しが立たないと行動しにくいといった方もいるため、1回1回の相談を構造化し、視覚的にわかりやすくする配慮があると良いでしょう。構造化によって、相談の枠組みを設定し、見通しも明らかにします。 (1)TEACCH Autism Programの「ワークシステム」を参考とした相談の構造化  TEACCH Autism Programのワークシステム(以下「ワークシステム」という。)は、「何をするのか」「どのようにするのか」「終わりはどこか(どの時点に来たら終了とするのか)」「終わった後はどうするのか」を伝える整理統合システムです。ワークシステムを参考に、相談の枠組みについて表4のとおり整理しました。 表4 ワークシステムを参考とした相談の枠組み ワークシステム 枠組み ① 何をするのか ž   ・相談の目的 ② どのようにするのか ž   ・話題の選定 ž            ・参加者 ž            ・相談場所 ž           ・相談環境 ž           ・相談時間 ③ 終わりはどこか ž   ・ 相談終了の目安 ž            ・相談が終わらないときの対応 ④ 終わった後はどうするのか・今後の予定 ① ワークシステム:「何をするのか」  「相談の目的」は、この相談時間で何を話し、何を本人と共有したいのかという視点で考えます。相談の目的は様々ですが、相談で取り上げることでどのような効果が期待できるのかを想定し、相談が必要か否かを検討します。継続して相談している場合は、相談の冒頭で前回の相談を振り返り、今回の相談の目的を整理します。  相談の目的は、相談の冒頭で本人と共有し、本人もその必要性や効果を理解した上で進めていくことがポイントです。 ② ワークシステム:「どのようにするのか」  「話題の選定」にあたっては、目的に対して適切な話題になっているか、本人の心情を想定したうえで話題として適切か否かを検討する必要があります。話題は支援者だけで考えず、支援者と本人の両者で検討のうえ、設定できると望ましいです。なお、発達障害者によっては、話題として上げた際に本人自身がどのような気持ちになるかといった影響を想定しにくい方もいます。話題にすることで本人に負担がかかることが想定される場合や本人が話題に取り上げる意図を理解できていない場合は、支援者が意図や効果を説明し、話題とするか検討することが必要です。  「参加者」「相談場所」「相談環境」及び「相談時間」は本人が落ち着いて話せるか、気兼ねなく話せるかという視点で考えます。  「参加者」は関係者を集めることで相談が進みやすいこともあれば、本人が話しにくい場合もあります。相談の目的や相談で取り上げる話題を踏まえて設定するとともに、事前に本人に参加者を伝え、相談を進めるうえで懸念されることの有無を確認します。  次に「相談場所」「相談環境」ですが、参加者が安心して話せる環境の調整については「第2節3(1)環境設定」で説明しました。ここでは、本人の学習スタイルに応じた工夫の仕方について考えます。 学習スタイルに応じた工夫としては、相談の流れをわかりやすくするために相談の進行表を示す、ホワイトボードに板書する、相談の時間経過や残り時間をわかりやすくするためにビジュアルタイマーや砂時計を使用する等が考えられます。 「相談時間」は、相談目的や話題に合わせて設定できる場合には、余裕を持たせた時間設定をします。しかし、十分な時間を設定できない場合は、事前に本人に対して相談時間が限られていること、相談途中で終了時間になった場合でも、次回いつ実施するのかあわせて伝えておくと、落ち着いて相談することができます。例えば、相談の冒頭に「もし、相談時間内に話題がすべて終わらなかったら、次回、〇月〇日の△△時からの相談で話すことにしましょう。」と伝えることがあります。 相談のコツ!  相談で話すテーマや話したことを視覚的に確認しやすくするためにホワイトボードなどを使用することがあります。  ホワイトボードに今話している話題が何かわかるように「~について」と話しているテーマを書いておくと、話題が逸れても元の話題に戻りやすくなります。  また、大事なことは赤字にする、枠で囲う等のルールを決めておくと、相談で話したことがよりわかりやすくなります。 ③ ワークシステム:「終わりはどこか(どの時点に来たら終了とするのか)」  「相談終了の目安」は、相談がどの時点にきたら終わるのかという視点で考えます。「今日の予定している話題すべてを話したら終わりです」のように具体的にどのような状況になったら終わりなのかを明確にします。  相談で話したことは相談が終わる度にホワイトボード等に取りまとめ、話した内容について共通認識を持ち、④ ワークシステム:「終わった後はどうするのか」に進みます。  「話題が終わらないときの対応」は、設定していた時間内に取り上げようと思っていた話題が終わらなかった場合、本人と支援者の共通理解が図れなかった場合を想定して、相談の開始前に検討し伝えておくと良いでしょう。検討した対応方法の案は、相談の冒頭で相談の目的や時間を伝えるときに合わせて伝え、本人の同意を得る必要があります。 ④ ワークシステム:「終わった後はどうするのか」  今後の予定は、相談が継続することもあれば、一旦相談を終了することも考えられます。どちらにしても、相談後はどうなるのかを明確に示すことが必要です。  相談が継続する場合には、次回の相談の日程、次回の相談までに本人と支援者がそれぞれ取り組むことを整理します。  一旦相談が終了する場合には、相談が再開する目安や状況を整理します。本人が相談再開の目安や状況が具体的にイメージできない場合には、「会社から連絡があった時」「気持ちの落ち込みが〇日以上続いたとき」等、具体的にどのような状況になったら相談するのかを伝えることが必要です。 相談のコツ! 相談がうまく進まない場合、ワークシステムの4つの視点に戻って相談を振り返ります。 (例) 「どのようにするのか」 →話題が多すぎた? →相談時間が長すぎた? 「終わった後はどうするのか」 →次回の相談までに取り組むことが具体的でなかった? ワークシステムを参考に相談を構造化するポイントを「相談の枠組みチェック表」として図3に取りまとめました。 相談の構成 内容 内容を検討するときの視点・留意すること 相談の目的 ワークシステム 何をするのか? □何のために相談で取り上げるのか? □相談のゴールを設定しているか? 相談で取り上げる話題、進め方 ✓取り上げる話題 ✓優先順位 ワークシステム どのようにするのか? □相談の目的にあった話題を設定しているか? □話題の設定は本人の心情を踏まえて設定しているか? □話題は本人にあった情報量になっているか? □相談時間で終えられる話題設定になっているか? 参加者・場所・環境・時間 参加者: ワークシステム どのようにするのか? 場所: □参加者の選定は適切か? 時間: □落ち着いて話せる適切な場所を設定しているか? 環境調整: □相談内容に応じた時間設定になっているか? (視覚化の工夫)□ホワイトボードの使用 □蛍光ペンなどの色ペンを用意する(必要箇所を強調する) □対象者の特性に応じて環境調整をしているか? (構造化の工夫)□時間設定の確認 □カウントダウンタイマー (安心して話せるための工夫)□L字に座る □対面で座る □30分で区切って休憩を入れる □ストレスボールを用意する (感覚特性の応じた工夫) □ブラインドやパーテーションで不要なものを隠す □空調の下を避けて席を用意する □その他: 相談終了の目安 ワークシステム 終わりはどこか? □どうなったら相談を終了とするか? 時間内に相談が終わらないときの対応 ✓取り上げる話題が終わっていないが、相談時間になってしまった場合 ワークシステム 終わりはどこか? □相談時間内に設定した話題が終わらない時はどうするのか? □本人と支援者の考え等が合わなかった時はどうするのか? ✓具体的な目標設定ができていない、解決策を検討できていないが、相談時間になってしまった場合 今後の予定 (  継続相談  ・  相談終了  ) ワークシステム 終わった後どうするのか? 【継続相談の場合】 【相談終了の場合】 □相談後の予定を明確にしているか? ✓次回の相談日程 ✓どのような状況になったら相談を再開するか □次回の相談までの間隔が空きすぎていないか? ( 1週間後  ・ 1か月後 ・ 3か月後 ) □相談後の連絡手段は決まっているか? ✓次回の相談までに支援者が取り組むこと ✓次回の相談までに本人が取り組むこと 図3 相談の枠組みチェック表   ワークシステムを参考にし、相談を組み立てた事例 事例概要 Aさん、男性、30代 <支援の経過>  Aさんは、口頭でやり取りをすると相手の認識と齟齬が生じることがあり、在職中には「指示を聞いていない」「指示を理解できない」と評価されることがありました。  Aさんも「会議に参加しても会議で何が決まったのか、自分は何をすれば良いのかわからないことが多かった。口頭だけでやり取りしていると今何の話をしているのかわからないことがあった。」と話していました。 支援中にも次のような特徴が見られました。 口頭だけでやり取りをすると相手の解釈と異なることがある 口頭だけでやり取りをする場合、何の話をしているのか、話がどうなったのかわからないことがある  そこで、Aさんが相談内容を理解しやすくするために「相談の枠組みチェック表」を参考に相談を進めることにしました。 支援のポイント ①Aさんが理解しやすい相談方法の検討 Aさんは口頭だけでのやり取りをすると、何の話をしているのかわからなくなることがあったため、相談時は支援者が手元でメモを取り、時折メモを見せながら話の流れを確認しました。1つの話題が終わるごとにホワイトボードに要点をまとめ、Aさんに渡すことで相談後も内容を確認できるようにしました。 Aさんが自覚している感覚特性はありませんでしたが、WSSPの就労セミナー後は疲れを感じていることがありました。そのため相談自体も疲れを感じる可能性があるため、相談の途中で休憩を入れることにしました。 ②ワークシステムを参考にした相談の構造化 Aさんと相談する前に支援者がその日の相談で取り上げたいことを整理し、Aさんにも支援者が整理したシートを見てもらうことでその日の相談で何をどこまで話すのかを伝えました(図4参照)。 Check! <相談において支援者が留意したこと> ・話したことの要点をホワイドボードに書き、ホワイドボードの板書を見ればどのような相談をしたのかわかるようにしました。 ・Aさんに支援者が整理した相談の枠組みチェック表を見てもらうことで、その日の相談で何を話すのか、結果的にどうなったのかわかりやすくしました。 相談の構成 内容 内容を検討するときの視点・留意すること 相談の目的 今後の就労を検討するため、Aさんの障害特性について整理する。 ワークシステム 何をするのか? □何のために相談で取り上げるのか? □相談のゴールを設定しているか? 相談で取り上げる話題、進め方 ✓取り上げる話題 ✓優先順位 ・Aさんが作成したナビゲーションブック(案)の確認(①) ・Aさんが作成した特性チェックシートの確認(②)" ワークシステム どのようにするのか? □相談の目的にあった話題を設定しているか? □話題の設定は本人の心情を踏まえて設定しているか? □話題は本人にあった情報量になっているか? □相談時間で終えられる話題設定になっているか? 参加者・場所・環境・時間 参加者:Aさん、支援担当者 ワークシステム どのようにするのか? 場所:相談室 □参加者の選定は適切か? 時間:10:00~11:30 □落ち着いて話せる適切な場所を設定しているか? 環境調整: □相談内容に応じた時間設定になっているか? (視覚化の工夫)☑ホワイトボードの使用 □蛍光ペンなどの色ペンを用意する(必要箇所を強調する) □対象者の特性に応じて環境調整をしているか? (構造化の工夫)□時間設定の確認 □カウントダウンタイマー (安心して話せるための工夫)□L字に座る ☑対面で座る ☑30分で区切って休憩を入れる □ストレスボールを用意する (感覚特性の応じた工夫) □ブラインドやパーテーションで不要なものを隠す □空調の下を避けて席を用意する □その他: 相談終了の目安 "・Aさんが作成したナビゲーションブック(案)の確認までをゴールとする (時間に余裕があれば、特性チェックシートをできるところまで進める)" ワークシステム 終わりはどこか? □どうなったら相談を終了とするか? 時間内に相談が終わらないときの対応 ✓取り上げる話題が終わっていないが、相談時間になってしまった場合 ・Aさんの疲れを考え、相談時間になったら一旦終了する。今回確認しきれなかった部分は次回の相談で確認する" ワークシステム 終わりはどこか? □相談時間内に設定した話題が終わらない時はどうするのか? □本人と支援者の考え等が合わなかった時はどうするのか? ✓具体的な目標設定ができていない、解決策を検討できていないが、相談時間になってしまった場合 (今回はAさんの日常生活や働いている状況を確認するため、該当しない)" 今後の予定 (  継続相談  ・  相談終了  ) ワークシステム 終わった後どうするのか? 【継続相談の場合】 【相談終了の場合】 □相談後の予定を明確にしているか? ✓次回の相談日程 〇月〇日(木)11:00~12:00 ✓どのような状況になったら相談を再開するか □次回の相談までの間隔が空きすぎていないか? ( 1週間後  ・ 1か月後 ・ 3か月後 ) □相談後の連絡手段は決まっているか? ✓次回の相談までに支援者が取り組むこと ・今回の相談で話したことを要約し、Aさんに書面で渡す ✓次回の相談までに本人が取り組むこと ・なし 図4 Aさんの相談に係る「相談の枠組みチェック表」   第3節 【過程2】共通認識の形成 1 共通認識の形成の目的  「相談の準備」が整ったら、実際の相談場面となります。  「共通認識の形成」の過程では、相談の目的や相談で取り上げる話題を共有し、本人とともに要因等の分析を通して課題を明らかにし、行動変容に移行していくための意思決定を図ります。 【共通認識を図るために支援者と本人が一緒に確認・検討する主な事項】 (1) 相談で取り上げる話題(テーマ)の選定 (2) 取り上げる話題の優先順位の確認 (3) 状況の確認と整理 (4) 課題に取り組む準備の確認 (5) 主体的な課題への取組に向けた関わり   2 共通認識の形成のポイント (1)相談で取り上げる話題(テーマ)の選定  まず、「本人が感じている困り感」と「本人を取り巻く周囲の方の困り感」のいずれを相談の話題として取り上げるか、本人と支援者で検討します。  「本人が感じている困り感」を取り上げる場合、本人が相談の必要性を感じており、相談ニーズも高いものと思われます。  「周囲の方の困り感」を取り上げる場合、本人に「周囲の方の困り感」が伝わっていないと本人は相談の必要性を感じにくく、取り上げる話題として受け入れがたいこともあります。そのため、まずは「周囲の方の困り感」が本人に伝わっていない要因を探ることから始めます。 図5 本人に周囲の方の困り感が伝わっていない要因例 (2)取り上げる話題の優先順位の確認  取り上げたい話題が複数ある場合には、緊急度や想定される効果等を勘案し、優先順位を協議します。本人と支援者で優先順位の考え方が異なる場合は、本人の希望を確認しながら慎重に検討します。  話題の優先順位をつけることにより、話題の拡散を防いだり、本人にとっては相談の見通しもつきやすくなる等、集中して相談に臨むための工夫でもあります。 優先順位のつけ方について、例えば話題の候補として、「①ミスを減らす工夫を検討する」「②規則正しい生活リズムを作る」が挙げられた場合、仕事でミスを繰り返してしまうことの不安から眠れないという人なら「①ミスを減らす工夫を検討する」の方が優先度が高い話題となるかもしれません。一方、不規則な生活を送っていることで寝不足のため集中力が低下している人であれば、「②規則正しい生活リズムを作る」の方が優先度が高くなる可能性があります。 (3)状況の確認と整理 ア 話題からより具体的な課題の絞り込み  相談で取り上げる話題を基に、状況の詳細を把握・確認、整理します。ここでは本人の「受信」「判断・思考」「送信」といった情報処理過程の特徴や本人を取り巻く生活環境面等も踏まえて、状況の背景や要因について対話を通して注意深く探っていきます。その際「事実」と「本人が感じたこと」を分けて整理することが大切です。  ここで把握・確認した背景や要因、本人の希望、周囲が本人に期待していることなどを整理することで、より具体的な課題へと絞り込みを図ります。ここは相談の核となる過程です。  以下に「WSSPを無断で休んでしまった」ことを話題に課題を探った相談の例を示します。 【背景や要因から課題を探る対話の例】 支援者 :先週の水曜日、連絡されずにWSSPをお休みしたことについてですが、その時はどんな状況だったか教えてもらえますか? 本 人 :はい。あの日は朝起きたら体調が悪くて、今日は出席できないと思いました。 支援者 :休むと決めた後にどう行動すればいいか、その時には何か考えましたか? 本 人 :電話しなきゃと思いました。 支援者 :電話で連絡しよう、と思ったんですね。 本 人 :はい。 WSSPの朝礼前までには連絡しないと、と思ったんですけど…。 支援者 :朝礼前までに電話をしようと思ったけど、電話できなかったのはどうしてか、何か思いあたる理由はありますか? 本 人 :休みたいことを電話でどう伝えたらいいかわからなくて。 悩んでいるうちに、朝礼時間になってしまったのでそのまま休んでしまいました。 支援者 :どう伝えようか悩んでいたら、始業時間になってしまったんですね。 本 人 :そうなんです。 電話でうまく言えるか不安で、言い方を考えているうちに時間がたってしまい、「朝礼時間になったし、きっとスタッフさんも忙しいし、もういいか」という気持ちになりました。 支援者 :電話でうまく言えるか、不安に感じたんですね。 「もういいか」という気持ちになって、その後はどうしましたか? 本 人 :そのまま家で休んでいましたが…やっぱり無断で休んだのは気になりました。 支援者 :落ち着いて休めませんでした? 本 人 :はい。 支援者 :あの日は確か、10時くらいにWSSPスタッフから確認のお電話をしましたね。電話があった時にはどんな気持ちでしたか? 本 人 :最初は「怒られる」と思ったんですが…電話に出ないのも申し訳ないので出ました。 スタッフから「どうしました?」と聞いてもらったので、体調や欠席のことを伝えられました。 支援者 :質問に対して自分の状態を伝えることができたんですね。 本 人 :はい。 支援者 :その時にスタッフが言っていたことを覚えてますか? 本 人 :・・・(考え中) 「連絡がないので心配した」「次は連絡してね」と言ってたと思います。 支援者 :そうですよね。私も時間になっても連絡がなかったので「事故にあっていないか」と、とても心配しましたよ。電話が繋がって安心しました。 本 人 :そうですか、心配かけてすみません。 支援者 :連絡をせずにお休みすることは今回が初めてですか? 本 人 :前に勤めていた時も連絡せずに休んだことがあります。 支援者 :その時も今回と同じように、どう伝えるか悩んでいたら時間になってしまったんですか? 本 人 :そうです。 支援者 :その時は職場の人は何かおっしゃってましたか? 本 人 :とても怒られて、その後は休みにくくなりました。 支援者 :そうなんですね。 もし、電話でお休みする連絡ができるようになったら、どうでしょうか? 本 人 :そうですね・・・(考え中) ずっと悩み続けなくてすみます。体調が悪い時に無理して出勤しなくていいですし。 支援者 :先ほども「無断で休むと気になる」「前の職場でも休みにくくなった」と言ってましたね。 本 人 :はい。そういうことに悩まなくていいのは気持ちが楽かもしれません。 支援者 :休む連絡以外でも、電話をするときはいつも悩みます? 本 人 :悩むので、事前に準備してから電話します。 支援者 :どんなことを準備してますか? 本 人 :伝えたい用件を書き出して、用件を伝えるためのセリフも書いてます。 支援者 :用件とセリフを書き出して、しっかり準備されてから電話しているんですね。 普段とお休みするときの連絡は何が違いますか? 本 人 :体調が悪いときは考えがまとまらないことも多くて、考えるのも大変だし、セリフも思い浮かばないです。 支援者 :体調が悪い時には用件を書き出したり、セリフを考えたりという準備をすること自体が大変ということですか? 本 人 :そうですね。 …(考え中) その場で考えているからまとまらないんですよね。「早く電話しないと」っていう焦りもあるし。 事前に伝え方をメモしておけば少し安心かもしれません。 支援者 :それは良いかもしれませんね。 伝え方をメモしておいたら、次は電話できるかもしれませんね。 本 人 :いきなり当日というのは自信がないので、一度練習したいです。 支援者 :WSSPのプログラム中に練習してみますか? 本 人 :そうさせてほしいです。来週までには伝え方のメモを作るので、 来週の相談で練習させてもらえますか? 支援者 :とても良いチャレンジだと思いますよ。 では、来週の相談では作ったメモをもとに一緒に練習してみましょう。    先ほどの例では、「無断でWSSPを休んでしまった」という話題から「休む際の電話での伝え方が思い浮かばない」ことが課題であることがわかりましたが、ここが「プログラムの時間に間に合うように起きれない日がある」と述べた場合は、「生活リズムの乱れを正す」とか「見通しをもった計画的な行動をする」等が課題になるかもしれません。  また、「以前の職場で電話で叱責をされた経験から電話が怖い」と述べた場合には、「電話への恐怖心の軽減」とか「電話以外の連絡方法の検討」といったことが課題になるかもしれません。 相談のコツ! 【状況の確認を行う際の視点の例】 どのような状況で起きたことか 事実を本人がどう捉えた(感じた)か 本人が行動を行った、もしくは行わなかった理由 自分や周囲に与えた影響 行動できるときと行動しにくいときの違い 本人がどうなりたいと思っているか(本人の希望) 周囲が本人に期待していること イ 本人の「気づき」に対する支援  課題の絞り込みにおいて注意すべき点は、「本人の行動や思考のパターン」「周囲から期待されていること」等の本人の気づきを促すことであり、支援者が先回りして結論づけないことです。この気づきは本人にとって新たな視点の獲得となり、行動の判断基準に影響を与えたり、行動変容に取り組む内発的動機づけとなる可能性があります。  口頭での相談や聞き取りでは十分な気づきを得にくい場合もありますので、そのときは相談内容の板書やチェックリスト等の支援ツールを活用した「見える化」を図ることについても検討します。  また、ものごとの捉え方や行動の判断基準は相対的なものであり、環境や状況によっても異なることをわきまえておくことが必要です。支援者が適していると思うものごとの捉え方や判断基準が、誰に対しても、どの場面でも最適とは限りません。一見、場に即していないと思われる捉え方や行動の判断基準でも、本人が過去の経験から学習したことであったり、大事にしたい価値観や判断基準である場合があります。  支援者は本人の気づきを促す場合には、本人の前向きな言動を是認するとともに「そのような考え方は良くない」「間違った捉え方をしている」等といった誤りを正したり、支援者の考えを押し付けるといった本人の自発性を阻害するような言動を慎むことに特に注意することが重要です。 相談のコツ!  「問題状況分析シート」1)や「体験整理シート(2023版)」2)では状況に応じた心身の変化を書き込むことで、自分を客観的に分析することの一助とすることができます。  その他、「生活記録表」3)は生活や行動と体調の変化のパターンを見つけたり、「ストレス温度計」3)を使用することでストレスの強度とその対処方法の効果等を整理することができます。 ウ 本人のスキルや対処方法の習得状況の確認  相談で取り上げている状況に対して、本人のスキルや対処方法の習得状況も確認します。習得状況は「スキルや対処方法が未習得」と「知識はあるが、実践的な活用ができていない」の二つのパターンで検討できます(図6参照)。 1 障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.8 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者のための問題解決技能トレーニング」(2013)p.17 2 障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.26別冊 職場適応を促進するための相談支援ツール集」(2024)p.31-32 3 障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.10 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者のためのリラクゼーション技能トレーニング ストレス・疲労のセルフモニタリングと対処方法」(2014)p.111、p.119 パターン1:スキルや対処方法が未習得 ・「スキルや対処方法が未習得」とは、どう行動すれば良いのかの知識が十分に得られていない、知らないといった場合です。 【「スキルや対処方法が未習得」の例】 ・「メモをどうまとめると良いかわからない」「どのように報告すれば良いか、言い方がわからない」といった場合です。 【注目するキーワード】 「どうすればいいか、わからない」  「やったことがない」「イメージがわかない」 ・この場合はどうすると上手くできるか、方法や手順を確認するといった知識付与のための支援が考えられます。手順書作成技能トレーニング4)や職場対人技能トレーニング(JST)5)など各種の就労セミナーの講習や演習場面を活用することも可能です。 パターン2:知識はあるが、実践的な活用ができていない ・「スキルや対処方法は習得しているが、場面に即した効果的な対処や捉え方になっていない」とは、どう行動するかの対処方法は持っているものの、場面に即した適切な対処となっていないと思われる場合です。 【「場面に即した効果的な対処や捉え方になっていない」の例】 ・「メモは取っているが、メモ帳のどこのページに書いたのか忘れてしまう」「報告の仕方は知っているが、叱られた経験から声をかけられず、急ぎの案件でも相手の手が空くまで待っている」などです。 【注目するキーワード】 「うまくできない」 「あまり効果がない」 「自分なりには努力してるが、結果に繋がらない」  ・この場合は今の対処方法を見直し、新たな対処方法を獲得したリ、場面に即した効果が期待できる方法を再構築します。 図6 本人のスキルや対処方法の習得状況のパターン 4 障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.15 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者のための手順書作成技能トレーニング」(2017)p.8-12 5 障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.6 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者のための職場対人技能トレーニング(JST)」(2011)p.8-10 エ 「できていること」や「強み」への着目  状況の確認や整理を行う際にはできていないことや失敗した場面に焦点が当たりがちですが、「できていること」「うまくいったこと」に着目し、本人と共有することが重要です。  行動した結果、期待する効果が感じにくい場合でも「行動した」という能動的な結果に対して支援者から肯定的なフィードバックを伝えることは、本人のモチベーションの維持・向上にも繋がります。  これらの関わりは信頼関係の構築や、本人が不安を感じていることに対しても「取り組んでみよう」という一歩を後押しする効果も期待できます。 相談のコツ!  就労支援では「困っていること」の解決を目指すあまり、「できていないこと」「うまくいかなかったこと」に焦点化しやすくなります。  発達障害者の中には失敗経験を多く積んでいたり、本人の考える達成基 準の高さから、達成感や自己肯定感、自己効力感を感じにくい方もいます。  このような方に対しては、「目標の行動のうち、できた部分」「行動に移してみた」「うまくいったこともある」ということを認めたり、励ましを伝えることで行動化や取組の継続を支えることができます。 (4)課題に取り組む準備の確認  話題の背景や要因から課題を整理する過程でも、本人の言動から対話を進めることへの不安や負担がないか、本人が主体的に、前向きに取り組んでいけそうかを確認します。本人が不安な気持ちを感じていたり、取組に消極的な場合は、無理に相談を進めないことが大切です。  本人が負担や不安を感じている場合には、どんなことが負担または不安か、負担や不安を軽減する方法はあるかを検討します。今のタイミングで相談の話題やそこから明らかになった課題を取り扱うこと自体が本人にとって大きな負担となる場合には、この話題や課題は一旦保留とするといった対応も必要です。 (5)主体的な課題への取組に向けた関わり  課題等の整理がなされた後は、支援者は本人が主体的に課題に取り組めるように関わります。 ア 本人の自己決定の尊重  これまでの考え方や行動を変化させたり、新しい視点を取り入れる際は負担を感じやすいものです。これまでに自分で行動を選択する経験が少なかった方にとっては、行動を選択すること自体に躊躇することもあります。そのような場合は、躊躇する理由を問いかける、行動することと行動しないことのメリットやデメリットを整理する等により、行動への動機づけを高めます。  一方、実行するように支援者が無理に誘導してしまうと、仮に結果が良くとも「やらされた」という印象が本人に強く残り、不全感を持つ場合もあります。本人の負担感を理解しながら、どのような選択であっても本人の自己決定を尊重することが大切です。 相談のコツ! 【自己決定を支えるための関わり方の例】 「行動する、行動しない」ことで得られるメリットとデメリットを整理する 偏った選択とならないよう、他の選択肢の可能性を提示する、家族や周囲の意見を聞く等、検討材料を増やす 選択肢を検討するための時間を取る 「本人がどうなりたいか」の希望を再確認する 取り組めそうな行動からスモールステップで設定する 本人の「強み」や「できていること」をフィードバックし、自己効力感を高める関わりを行う 取組を阻害する要因や不安への対処方法を検討する 期待する成果や効果が得られなかった時の代替案等を確認する イ 目的の確認  行動変容への取組を本人が決定した際も「行動変容を目指す目的」については意思決定の段階で再度確認します。  行動変容を目指す目的は「(3)状況の確認と整理」の過程において醸成されることが多いですが、本人と支援者とで認識が異なっていると、次の「目標設定」や「取組結果の振返り」においても齟齬が生じることとなります。課題への取組については、支援者ではなく、本人が主体的に決定したことを改めて確認しておくことが重要です。   第4節 【過程3】目標設定  本人と支援者の共通認識を形成し、行動の変容等に取り組む意思決定がなされた後は、具体的な行動目標を設定するステップに移ります  ここでは課題に対する行動目標を決め、実際に行動を実行し、その効果を検証します。このため、課題に対して目標が適切なものになっているか、実行可能か、といった「具体的な行動目標の検討」と行動を実行に移すことをサポートするための準備などが必要となります。 1 SMART理論を参考とした目標設定  目標設定は、SMART理論を参考に考えることができます。SMART理論は目標を効果的に設定する際に検討すべき重要な点をまとめたフレームワークです(表5参照)。 表5 SMART理論 Specific 具体的に何をするのか? Measurable 目標達成はどのように判断できるのか? Achievable 与えられた条件内で本当に達成できる目標なのか? Relevant 目的達成に向けて効果的につながっているか? Time-bound 目標達成までの期限が設定されているか? Specific:具体的に何をするのか?  曖昧な目標を設定すると行動に移せない可能性があります。  発達障害者の中には、いつ、何を、どこまでやったらよいのか、どうなったら終わりなのかがわからないために行動できないという方がいます。本人といつ、何を、どのように行動するのかを共有し、適当なタイミングや状況で行動できるようにすることがポイントです。 Measurable:目標達成はどのように判断できるのか?  目標が具体的になっていると回数や時間などのデータで判断することができます。  しかし、支援者の「できた」と判断する基準と本人の「できた」と判断する基準が異なっている場合、データで表すことができる目標であっても本人と支援者で認識が異なることがあります。事前に本人と支援者で「できた」と判断するポイントをすり合わせておくことが必要です。 Achievable:与えられた条件内で本当に達成できる目標なのか?  課題を改善するために目標を設定する場合、時に現実的でない目標や本人が取り組む自信が持てない目標を立ててしまうこともあります。新しいスキルを一から身に付けるには労力や時間もかかり、心理的な負担も大きくなります。まずは、本人が現在持っているスキルや強みを場面に即した形で発揮するにはどうすれば良いかを見極め、目標として設定することで、本人にとっても取り組みやすい目標になります。例えば、本人が「分析力」という強みを持っていたら、「なぜそのような状況に至ったのか分析力という強みを使って状況を整理し、解決策を考えましょう」というように目標を設定します。強みを取り入れた目標を設定することで、目標に取り組むことへの負担を軽減させることができます。  一方で、本人が現在持っていないスキルを習得することを目標に設定することもあります。こうした場合は講習等を通じてスキルの習得を図ることや相談の場で行動のモデルを示すことが必要です。また、本人が「取り組めそうだ」と感じられるレベルの目標から始めることが大切です。 Relevant:目標達成に向けて効果的につながっているか?  本人が設定した目標が、目標達成に向けて効果的でない場合は、目標達成を後押しすることはできません。  WSSPで見られた事例では、「体力を付ける」という課題について目標設定を相談したところ、本人は「他の人と楽しめる趣味を見つける」を挙げました。本人がこの目標を考えた意図としては、「単に運動するよりも他の人と楽しめるような運動や活動をした方が体力を付けるための活動が継続できそう」とのことでした。本人が設定した目標は行動を開始する、継続するためのモチベーションとしては必要なものですが、目標達成に効果的につながっている内容ではありません。改めて本人と相談し、「まず1週間、送迎バスではなく徒歩で職業センターに通所してみる」ことになりました。 支援者は本人とともに設定した目標が最終的な目標達成に効果的な目標につながっているかを検討する必要があります。 Time-bound:目標達成までの期限が設定されているか?  最後に目標を達成するまでの期限が設定されているかを検討します。目標に取り組む期限が設定されていないと行動が後回しにされ、目標達成できない可能性が高くなります。事前に振返りの時期を設定し、本人に目標への取組状況について適切なタイミングでフィードバックすることが必要です。  目標の振返りのポイントについては、「第5節 1 取組結果を振り返るポイント」で詳しく解説しています。 相談のコツ!  職場や日常の生活で実際に経験する機会が少ない行動を目標に設定した場合は、支援者とロールプレイを行うことで学習の機会としたり、模擬的就労場面において意図的に環境を作り、目標とする行動を学習するといった工夫が考えられます。   SMART理論を参考に本人にあわせた目標設定を行った事例 事例概要 Bさん、20代、女性 <支援の経過>  Bさんは、長い指示であっても「覚えていられる」と思いメモを取らなかったことで作業ミスや指示の抜けが見られました。支援者と相談し、メモの取り忘れを防ぐための対策をBさんに考えてもらいました。Bさんの考えた対策は、「メモを取ることを忘れない」という具体的な行動がわかりにくいものになっていました。支援者から「指示を受ける時はメモを取りましょう」という目標を提案され、Bさんも納得し、「これからはメモを取ります」と話されていました。  しかし、その後もBさんがメモを取る様子はなく、支援者からメモを取るように促すことが続いたため、Bさんに理由を確認したところ、「メモを取ることは覚えているけど、いつ取ったら良いのかわからない」と話されていました。  Bさんは支援者とメモを取る必要性は共有しているものの、いつ、どんな時にメモを取るかが共有されておらず、メモを取るための具体的な行動目標が設定されていないことがわかりました。 <支援の中で見られた特徴> 課題に対する対処策を検討することが苦手 いつ、何をするのか等が具体的に設定されていない場合は、行動に移しにくい 支援のポイント ①SMART理論を活用した目標設定 ・目標を具体化し、かつ行動しやすくするためにSMART理論を参考に目標を設定しました。まず、最終目標を「ミスを防ぐためにメモを取る」とし、最終目標を達成するため、Bさんが「できそうだ」と感じられる目標から取組むことにしました。目標は「作業指示を聞きに行く時にメモ帳とペンを持っていく」とし、取組期間やどのような行動ができたら目標達成とするのかを具体的に整理しました。また、取組途中で目標に取り組む必要性を忘れないように目標を達成できた時にどのような効果があるか明記しています。 図7 Bさんと目標設定を行った際の板書 Check! <相談において支援者が留意したこと> ・Bさんと支援者の認識を確認し、両者の認識を合わせる ・目標は具体的にいつ、何をするのかを明確にし、Bさんが「できそうだ」と感じられるものにする   第5節 【過程4】取組結果の振返り  最後は目標に取り組んだ結果を振り返り、今後の展開を検討する過程です。  設定した取組期間の終了後、目標に取り組んだ結果を速やかに本人と一緒に確認します。振返りの内容によって、次の展開、つまり目標を継続するか、違う目標に取り組むか、相談を終結するかを検討します。 1 取組結果を振り返るポイント  取組結果を振り返る際は、「目標が達成できた」または「達成できなかった」だけではなく、達成の度合や行動できた場面と行動できなかった場面の違い、本人の気持ち、考え、周囲への変化など、心理的な側面や環境面での変化なども一緒に確認を行います。  適切かつ的確な振返りを行うためにも目標設定は前節で述べたように具体的に設定されており、本人と支援者間で共通認識をもっておくことが必要です。 相談のコツ! 【振返りの視点の例】 設定した目標はどの程度達成できたか 目標達成のために工夫をしたことはあるか。あるとしたらどのような工夫をしたか 取組の前後において本人の気持ちや考え方に変化があったか 取組の前後で周囲の反応や評価に変化はあったか 変化に対して、本人はどのように感じたか 達成できたこと、できてなかったことの要因はそれぞれどんなことか 取組を継続していけそうか(継続できない場合、その理由や要因はあるか)  取組の結果、期待した効果が得られなかったり、行動ができなかったという場合もあります。その場合は、目標設定が適切であったか、行動に移す準備が整っていたか等を確認し、改めて目標を検討します。 相談のコツ!  取組後の変化や効果について本人は実感しにくい場合もあります。その場合は支援者から観察できた様子や行動の変化を本人にフィードバックすることで、変化や効果を共有します。  また、本人が効果を感じにくいと想定される場合には行動の前後の変化や効果について確認する視点やポイントを事前に共有しておくことで、本人が変化や効果に着目しやすくなります。 2 行動変容と振返りによる気づきの循環  本人の気づきは行動を支える動機づけになり得ることは前述のとおりですが、行動変容をきっかけに本人が新たな視点の獲得につながる場合があります。  経験がないことへの見通しを持つことが苦手であったり、行動に移した後のイメージが持ちにくい方には、まずは行動してみて、行動した結果に対して自分自身や周囲の変化を振り返ることで、気づきを促すこともできます。この気づきが、次の行動変容や行動を継続する動機となる場合があります。 図8 行動変容と気づきの循環 3 今後の展開の検討  取組の振返り後は、「今後の展開」を本人と支援者とが一緒に検討します。  「今後の展開」とは取組目標を継続するか、違う目標に取り組むか、相談を一旦終結するのかということです。  引き続き同じ目標に取り組む場合は、行動目標の内容や期間を変更する必要があるか確認し、改めて目標を設定します。  異なる目標に取り組む場合は、再度「共通認識の形成」の過程に戻り、一連の流れに沿って相談を進めます。  相談を一旦終結する場合は、「今後の相談は定期的に行いたいか、必要なタイミングで行いたいか」「相談したいと思った時は誰にどのように連絡すればよいか」等、連絡体制を確認しておけると良いでしょう。 図9 「今後の展開」の流れ コラム 就労等の意思が明確でなかったり、自身の特徴の整理等の必要性を感じていない人への対応  本章では主に「就労等の意欲があって、自身の課題や特徴を整理し、課題に対しては対処方法を検討することについて、一定の意欲や問題意識を持った方」を対象とした相談の進め方を解説しましたが、ここではこのような方以外の方への相談の対応の例を簡単に示します。 ●就労の意思は明確であるが、自身の特徴の整理や対処方法の検討の必要性を感じていない方  特徴の整理や対処方法の検討の必要性は感じていないものの、支援機関に相談に来ていることから、何らかの支援ニーズはあると想定されます。そのため、本人が感じている就職活動や就労時における困り感の確認から行います。困り感が確認できた場合は困り感に対する対処方法や支援の内容、支援機関について情報提供を行います。 ●就労の意思は曖昧であるが、自身の特徴の整理や対処方法の検討が必要だと感じている方  就労の場面に限らず、どんな困り感があるか、どんなことなら取り組めそうか、本人の意思を確認します。その内容によって、自機関以外の支援が適当と思われる場合は、他の支援機関や支援サービスについて情報提供を行います。 ●就労に消極的で、自身の特徴の整理や対処方法の検討の必要性を感じていない方  相談に来た経路や本人の気持ちを確認します。本人自身の意思ではなく周囲の促しにより相談に来ている場合もあるためです。自機関で実施している支援の内容について情報提供を行い、相談が必要となったタイミングでいつでも相談可能であることを伝えます。 【引用文献】 1)障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.8 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者のための問題解決技能トレーニング」(2013)p.17 2)障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.26 別冊 職場適応を促進するための相談支援ツール集」(2024)p.31-32 3)障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.10 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者のためのリラクゼーション技能トレーニング ストレス・疲労のセルフモニタリングと対処方法」(2014)p.111、p.119 4)障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.15 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者のための手順書作成技能トレーニング」(2017)p.8-12 5)障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.6 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者のための職場対人技能トレーニング(JST)」(2011)p.8-10 【参考文献】 福原眞知子、アレン・E・アイビイ、メアリ・B・アイビイ:「マイクロカウンセリングの理論と実践」、風間書房(2004) 熊﨑博一:「発達障害の感覚過敏について、どのような対応がありますか?」『精神医学65(5)』医学書院(2023) Gary B, Mesibov、 Victoria, Shea、 Eric, Schopler:「自閉症スペクトラム障害の人へのトータル・アプローチ TEACCHとは何か」、エンパワメント研究所(服巻智子、服巻繁訳)、筒井書房(2007) 玉瀬耕治:「カウンセリングの技法を学ぶ」、有斐閣(2008) 第3章 支援ツールの活用   第3章 支援ツールの活用 第1節 相談で活用できる支援ツール 1 本人にあわせた支援ツールの活用  本人と相談する際に支援ツールを活用することにより、以下のようなメリットがあります。一方、支援者が支援ツールの利用目的をよく理解しないまま活用すると、逆に、相談や支援が進めにくくなることも考えられます。支援ツールを活用する際は、支援者はもちろん、本人も目的や必要性を理解した上で実施します。 【支援ツール活用のメリット】 ✓本人の状況を効率的に把握できる ✓本人が自らの経験について説明する負担が軽減する ✓本人がフォーカスしやすい視点以外の視点にも目を向けやすい ✓事象の全体像を視覚的に把握しやすい ✓俯瞰的かつ客観的に事象を捉えることができ、本人もその時に感じた感情と距離を置いて整理しやすい 2 目的に応じた支援ツールの選択  効果的な相談を行うために、既存の支援ツールやワークシートを活用することが考えられます。各支援ツール等が有効に機能するためには、それらが持つ機能や特徴を理解し、支援の方略や目的に沿った支援ツールを選択することが必要です。そのため、これまでにWSSPで開発した支援ツールを中心に、目的に応じた支援ツールの適切な選択に資するよう「支援ツール活用整理表」及び「支援ツール関連図」を新たに作成しました。  以下、第2節で「支援ツール活用整理表」、第3節で「支援ツール関連図」について解説します。  また、本章の最後に明星大学人文学部福祉実践学科准教授 縄岡 好晴 氏による特別寄稿「ソフトスキルを視覚化させるアセスメントツール」を掲載しました。 第2節 支援ツール活用整理表  支援ツール活用整理表はこれまでにWSSPの実践を通じて開発した支援ツールについて、方略ごとに整理したものです。各支援ツールの詳細については、支援マニュアル等で確認してください。 支援ツール活用整理表の見方(凡例) No 支援ツール名 支援ツール画像 使用目的・タイミング 特徴 活用のコツ 作成目安(分) 作成の仕方 掲載誌 ①支援ツールの名称を記載しています。 ・支援ツールの一部を載せています。全体図は実際に支援ツールが掲載されている支援マニュアル等をご覧ください。 【目的】 ・この支援ツールは何のために使うものなのか記載しています。 【使用するタイミング】 ・本人または支援者がどのような状況で活用できるか記載しています。 ・支援ツールを使用することで、本人に対して何を促したいのか(例・特性への気づき、強みに目を向ける)、支援者が何を把握するといった支援ツールの特徴を記載しています。 ・どのような方に活用すると効果的なのか、元々の目的以外の効率的な活用方法、支援ツールを使うことによるメリットを記載しています。 ・本人が作成する時間の目安、または支援者が作成する時間の目安を記載しています。 【作成主体】 【作成場面】 「作成の仕方」について 【作成主体】 ・主な作成者を示しています。 【作成場面】 ・「個別相談」は個別相談等で本人に聞き取りながら作成できる場合に記載しています。 ・「グループワーク」はグループでの講習や演習などで作成できる場合に記載しています。 ・「支援者間で意見交換を行う」は複数支援者で状況を共有し、作成できる場合に記載しています。 ・支援ツールが掲載されている冊子を記載しています。 ・それぞれの冊子はホームページから無料で閲覧、ダウンロードすることができます。  支援マニュアル、実践報告書  調査研究報告書、資料シリーズ 支援ツール活用整理表 支援ツール名 支援ツール画像 使用目的・タイミング 特徴 活用のコツ 作成目安(分) 作成の仕方 掲載誌 ①MSFAS 【目的】 ・現状の整理 ・基本情報を収集する ・自己理解を促進し、具体的な対処行動を検討する 【タイミング】 ・本人の基本情報を支援者が収集することに同意が得られたとき ・本人や支援者が日常生活やストレス対処方法、障害に関する情報を整理したり、対処方法を検討したいとき ・日常生活やストレス対処方法、障害に関する情報等様々な項目について状況を整理しやすく、本人に自身の状況について気づきを促しやすい ・本人が説明する負担を軽減でき、支援者も幅広く情報を得ることができる ・シートは目的に応じて取捨選択できる ・支援の前後で使うことで、支援や対処方法の効果を検証することができる 60~90分 (1シート10~15分) 【作成主体】 本人 【作成場面】 個別相談" 「幕張ストレス・疲労アセスメントシートMSFASの活用のために」1) (2010年発行) 支援ツール名 支援ツール画像 使用目的・タイミング 特徴 活用のコツ 作成目安(分) 作成の仕方 掲載誌 ②生活記録表 【目的】 ・作業場面の課題と生活場面の課題の関連性の理解を進める ・日常生活、疲労、睡眠状況の把握 【タイミング】 ・本人が生活面の状況や余暇の過ごし方について支援者と共有したり、整理することに同意が得られたとき ・生活の状況を視覚化することで本人自身が日常の過ごし方を把握しやすく、疲労・睡眠状況への気づきを得やすい ・〇を付けたり、線を引くことで完成するため、本人の作成に係る負担が比較的少ない ・本人が希望する働き方や勤務時間に合わせて、日常生活を調整するために使用することも可能 20分 (1日当たり5分) 【作成主体】 本人 【作成場面】 個別相談 支援マニュアルNo.10 「発達障害のワークシステム・サポートプログラム発達障害者のためのリラクゼーション技能トレーニング ストレス・疲労のセルフモニタリングと対処方法」2) (2014年発行) ③生活場面でのアセスメントシート 【目的】 ・生活場面における注意や集中、スケジュール管理等の状況の整理、把握 【タイミング】 ・本人から生活場面での困りごと(自宅を出る時間が遅れる等)が生じる状況について整理することに同意が得られたとき ・本人が生活場面での課題について支援者が把握することに同意が得られたとき ・決まったスケジュールを実行するために必要な手順やきっかけ、スケジュール通りに行動できない要因について気づくことができる ・項目を就労場面等に合わせて変更することで生活場面以外でのアセスメントとしても活用可能 ・作業におけるアセスメントや振返りを同時に実施することで、作業場面と生活場面の課題の関連性の理解を促す" "20~30分 (1日あたり5~10分) 【作成主体】 支援者 【作成場面】 個別相談 実践報告書No.23 「発達障害者のワークシステム・サポートプログラムとその支援事例(2) ~注意欠陥多動性障害を有する者への支援~」3) (2010年発行) 支援ツール名 支援ツール画像 使用目的・タイミング 特徴 活用のコツ 作成目安(分) 作成の仕方 掲載誌 ④ストレス対処整理シート(ストレス温度計) 【目的】 ・ストレス、疲労のサインの把握 【タイミング】 ・ストレス、疲労について確認又は把握することに本人からの同意が得られたとき ・ストレス・疲労のサインをどの程度認識しているか確認し、ストレス・疲労についての気づきを促す ・ストレス、疲労に対する対処方法の把握" "・就労経験がなくても日常生活を基に記載することができる ・ストレスについての知識がなくても記入しやすい ・グループでの講習や演習等集団で作成すると他者の意見が聞けるため、本人の視野が広がる可能性がある 30分 【作成主体】 本人 【作成場面】 個別相談 グループワーク 支援マニュアルNo.10 「発達障害のワークシステム・サポートプログラム発達障害者のためのリラクゼーション技能トレーニング ストレス・疲労のセルフモニタリングと対処方法」2) (2014年発行) ⑤ストレス対処法整理シート 【目的】 ・ストレス、疲労のサインの分析 ・ストレス、疲労に対する対処方法の分析 【タイミング】 ・本人がストレスを感じていることが把握でき、分析することに本人からの同意が得られたとき ・ストレスの傾向(どのようなときにストレスを感じやすいか、どんなサインが出やすいのか、対処方法は偏っていか等)について本人が自己分析を行う ・「⑦体験整理シート(2023版)」などでストレス状況を整理し、整理した内容をこの支援ツールに蓄積していくとストレスを受けた際のパターン把握などがしやすい ・ストレスサインなどに意識を向けた経験が少ない方と実施する場合は、個別相談で支援者が解説を交えながら作成できると整理が進みやすい 40分 【作成主体】 本人 【作成場面】 個別相談 実践報告書No.23 「発達障害者のワークシステム・サポートプログラムとその支援事例(2) ~注意欠陥多動性障害を有する者への支援~」3) (2010年発行) ⑥休憩のとり方 チェックシート 【目的】 ・ストレス・疲労に対して適切なタイミングで対処が行えているかの把握 ・ストレス・疲労への効果的な対処方法の習得 ・気づいていなかったストレス・疲労のパターンやストレス・疲労につながる要因の把握 【タイミング】 ・ストレス・疲労に対して対処した場合と対処しなかった場合の変化について整理することについて本人からの同意が得られたとき ・ストレス・疲労に対し、「対処する」「対処しない」ことの変化への気づきを促す ・適切なタイミングでストレス・疲労に対処する方法の習得" "・疲労のサインに着目するのか、対処した結果に着目するのか等、着目する視点を本人と共有したうえで実施するとストレス・疲労へ対処するタイミングや方法を検討しやすい ・相談場面では把握しにくい「本人がどのタイミングでストレスを感じ、対処しているのか」を知ることができ、ストレス対処方法をより本人に合わせた方法で検討できる ・本人が自ら記入することで意識的にストレス対処に取り組めるため、習得をサポートしやすくなる 10~15分 【作成主体】 本人 【作成場面】 個別相談 実践報告書No.36 「発達障害者のワークシステム・サポートプログラム リラクゼーション技能トレーニングの改良」4) (2021年発行) 支援ツール名 支援ツール画像 使用目的・タイミング 特徴 活用のコツ 作成目安(分) 作成の仕方 掲載誌 ⑦体験整理シート(2023版) 【目的】 ・本人がストレスの全体像を把握し、対処方法を検討する ・ストレスを感じた場面を繰り返し書き出すことで、自分がストレスを感じやすい状況やストレス反応の特徴(思考、気分・感情、行動、身体変化)を整理、把握する 【タイミング】 ・本人がストレスを感じたり、困り感を感じた場面を整理、把握することに本人の同意が得られたとき ・支援者が本人にストレスの全体像を把握する方法を知ってほしいとき ・支援者が本人のストレスを感じた場面でストレス反応(身体的な影響、気分、感情への影響等)を把握し、整理することについて本人の同意が得られたとき ・本人がストレスを感じた際の反応の特徴について気づいてもらう ・ストレスを感じた場面を言語化することで気持ちの整理を促す ・本人がストレスや困り感を感じた場面は当時の気持ちや身体反応を取り上げられると相談を進めやすい ・ストレスを感じた場面を書き出し、客観的に振り返ることで気分が落ち着く ・対処方法を試した場合も試さなかった場合のいずれも、振返ることができ、本人にあった対処方法を検討できる 30分 【作成主体】 本人 【作成場面】 個別相談 支援マニュアルNo.26 別冊 「職場適応を促進するための相談支援ツール集」5) (2024年発行) 支援ツール名 支援ツール画像 使用目的・タイミング 特徴 活用のコツ 作成目安(分) 作成の仕方 掲載誌 ⑧職場環境適応プロフィール 【目的】 ・本人が対応しやすい環境と対応しにくい環境の把握 【タイミング】 ・本人の特性と対応しやすい環境について整理することに本人の同意が得られたとき 例)職場環境が変わったとき   職場見学や職場実習の実施前 ・本人の力が発揮しやすい環境を知ってもらう ・事前に自身の適応できる環境を把握しておくことで、環境とのマッチングを図りやすくなる ・本人が対応しやすい職場環境をもれなく確認できる ・口頭で聞き取るよりも短時間で幅広い項目の情報を把握しやすい ・対応できる、できないを%で整理するため、「できる」「できない」の2択では判断しにくい項目も判断しやすい 20分 【作成主体】 本人 【作成場面】 個別相談" 支援マニュアルNo.10 「発達障害のワークシステム・サポートプログラム発達障害者のためのリラクゼーション技能トレーニング ストレス・疲労のセルフモニタリングと対処方法」2) (2014年発行)" ⑨注意・集中等の特徴に関するインタビューシート 【目的】 ・注意・集中等の特性に関して自己理解を深める 【タイミング】 ・本人が注意・集中等に関するエピソードと関連した特性について整理することに本人の同意が得られたとき ・支援者が本人の注意・集中等の特性について整理することに本人の同意が得られたとき ・注意・集中、仕事の手順や段取り、進捗管理等普段の様子を振り返り、自分の状態について気づいてもらえる ・エピソードとともに特性把握がしやすく、注意・集中以外の特性についても把握しやすい ・本人が日々の出来事をどのように受け取っているのか等認知特性等も合わせて把握しやすい ・エピソードと特性を関連させにくい方に対して実施することで、特性の理解を促す 40分 【作成主体】 支援者 【作成場面】 個別相談 支援者間で意見交換を行う 実践報告書No.23 「発達障害者のワークシステム・サポートプログラムとその支援事例(2) ~注意欠陥多動性障害を有する者への支援~」3) (2010年発行) ⑩発達障害の特性チェックシート 【目的】 ・社会性、コミュニケーション、想像力、注意・集中と活動性、感覚過敏、運動に関する特性の把握 【タイミング】 ・本人が自分の特性について整理することに本人の同意が得られたとき ・社会性、コミュニケーション、想像力、注意・集中と活動性、感覚過敏、運動に関する特性について確認できる ・特性には強みと苦手の両方があることを確認できる ・質問項目が少なく、強みも同時に確認できるため、取り組みやすい ・ネガティブな側面だけでなく、強みにも意識を向けやすい 10~20分 "【作成主体】 本人 【作成場面】 個別相談 支援マニュアルNo.13 「発達障害者のワークシステム・サポートプログラム ナビゲーションブックの作成と活用」6) (2016年発行)" 支援ツール名 支援ツール画像 使用目的・タイミング 特徴 活用のコツ 作成目安(分) 作成の仕方 掲載誌 ⑪発達障害の特性チェックシート(支援者用) 【目的】 ・本人の社会性、コミュニケーション、想像力、注意・集中と活動性、感覚過敏、運動に関する特性について支援者から観察された内容を大まかに整理する 【タイミング】 ・支援者が本人の特性や強みについて大まかに整理したり、支援者間で共有するとき ・特性は環境やその時の状況によって強み・苦手のどちらかに偏る場合があることを支援者が本人に説明する ・本人の強みについて支援者が整理する ・本人の特性を支援者間で整理し、共有する ・複数の支援者で本人の特性を共有するために活用することも可能 10分 【作成主体】 支援者 【作成場面】 支援者間で意見交換を行う 実践報告書No.23 「発達障害者のワークシステム・サポートプログラムとその支援事例(2) ~注意欠陥多動性障害を有する者への支援~」3) (2010年発行) ⑫特性チェックシート (ご本人用) 【目的】 ・特性を「広く、浅く」収集する 【タイミング】 ・本人が自分の特性について整理することに同意が得られたとき ・どの項目で特性が表れているのかについて幅広くざっくりと把握してもらう ・支援者は詳細なアセスメント実施に向けて方向性を見極める ・気づいていなかった特性に気づける(気づく可能性が高まる) ・本人が発達障害に関する知識が無くても幅広くチェックが付けられる ・チェックした部分の見える化ができるため、本人が自覚している・できていない部分が把握できる ・本人の気づきを促す" "200分 (1シート20分) 【作成主体】 本人 【作成場面】 個別相談" 支援マニュアルNo.18 「発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者のアセスメント」7) (2019年発行) ⑬感覚特性チェックシート 【目的】 ・感覚特性の理解を深める ・現実的な対処方法を検討しやすくする 【タイミング】 ・本人が自分の感覚特性について整理することに同意が得られたとき ・支援者が感覚特性について整理したり、職場環境によって疲労・ストレスの感じ方が異なる状況を把握することについて本人の同意が得られたとき ・気づいていなかった特性に気づける(気づく可能性が高まる) ・感覚特性と作業や日常生活場面でのストレス、疲労との関係に気づくことができる(気づく可能性が高まる) ・ストレスや疲労につながる感覚刺激を特定し、意識することで早めに対処できるようになる ・本人の障害受容が十分でない場合でも、感覚に絞ってチェックするため、取り組みやすい ・先報告書No.36にある「感覚特性見える化シート」により、感覚特性チェックシートの回答内容を視覚的に把握しやすくする 30分 【作成主体】 本人 【作成場面】 個別相談 実践報告書No.36 「発達障害者のワークシステム・サポートプログラム リラクゼーション技能トレーニングの改良」4) (2021年発行) 支援ツール名 支援ツール画像 使用目的・タイミング 特徴 活用のコツ 作成目安(分) 作成の仕方 掲載誌 ⑭特性対処のヒント集 【目的】 ・感覚特性の理解を深め、感覚特性に対する対処方法や周囲への配慮事項を検討しやすくするため 【タイミング】 ・本人が自分の感覚特性への対処を検討することに本人の同意が得られたとき ・対処方法のヒントを参考に具体的に考えることができる ・感覚特性について本人が普段感じている感覚が他者と異なることに気づくきっかけになる ・特性に対する具体的な対処方法が載っているため、できないことやつらいことだけに焦点化されず、前向きな対策を検討することができる ・「⑬感覚特性チェックシート」の詳細を聞き取るために活用可能" 60~120分 【作成主体】 本人 【作成場面】 個別相談" 実践報告書No.36 「発達障害者のワークシステム・サポートプログラム リラクゼーション技能トレーニングの改良」4) (2021年発行) ⑮情報処理過程におけるアセスメントの視点(Ver.10) 【目的】 ・支援者間でアセスメント内容を共有し、支援方法を検討する ・情報処理過程に着目して特性や取組方法を本人と共有できる ・事業主に対して本人の特徴を説明する 【タイミング】 ・本人が自分の行動の背景にある特性について整理・分析することに本人の同意が得られたとき ・支援者が本人や支援者間等複数人で本人の特性について共有したり、支援方針の仮説を立てたいとき ・本人の行動の背景にある情報処理の流れや特性同士の関連性の理解を進める ・ある場面に区切って整理、検討することで特性が表れている場面であっても強みやできていることが含まれていることへの気づきを促せる ・特性がどのように影響し合っているのか多角的に検討しやすい ・支援方針の仮説として考えることができ、支援者間や本人が意見を出しやすい ・特性同士の関連性や情報処理過程が視覚的に確認出来るため、特性の理解や周囲に求める配慮事項等を検討できる可能性がある 30分 【作成主体】 支援者 【作成場面】 個別相談 支援者間で意見交換を行う 支援マニュアルNo.18 「発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者のアセスメント」7) (2019年発行) ⑯行動/環境アセスメントシート 【目的】 ・個人と環境との相互作用から問題の原因を考え、問題の解決策や支援方法を検討する 【タイミング】 ・支援者が本人の行動について前後の環境や状況を踏まえて分析するとき ・支援者が本人の行動を障害特性と環境の相互作用を踏まえて説明するとき ・支援者が本人の行動や本人が行動する前後の状況を具体的に整理しやすく、問題の原因を検討しやすい ・問題状況を前後の環境や望ましい行動を含めて、具体的に整理しやすく、支援者間で課題の状況を把握しやすい 40分 "【作成主体】 支援者 【作成場面】 支援者間で意見交換を行う 支援マニュアルNo.18 「発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者のアセスメント」7) (2019年発行)" 支援ツール名 支援ツール画像 使用目的・タイミング 特徴 活用のコツ 作成目安(分) 作成の仕方 掲載誌 ⑰支援方法検討シート 【目的】 ・個人と環境との相互作用から問題の原因を考え、問題の解決策や支援方法を検討する 【タイミング】 ・複数の支援者で支援策を共有するとき ・これまで実施した支援策が課題に対して効果的ではないとき ・本人や環境のどこに対してアプローチするか検討しやすく、介入するタイミングを支援者間で共有しやすい ・「⑯行動/環境アセスメントシート」と併わせて使用することで、何にアプローチするか、介入するかを検討しやすい ・介入後に本人にどのようなフィードバックをするのかも検討できる" 40分 【作成主体】 支援者 【作成場面】 支援者間で意見交換を行う 支援マニュアルNo.18 「発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者のアセスメント」7) (2019年発行) 支援ツール名 支援ツール画像 使用目的・タイミング 特徴 活用のコツ 作成目安(分) 作成の仕方 掲載誌 ⑱在職者のための情報整理シート(事業主用) 【目的】 ・「⑲在職者のための情報整理シート(従業員用)」とセットで使用することで、問題状況、事業主と本人双方の捉え方を把握をすることができ、事業主と本人が取り組むべき目標の検討がしやすくなる ・事業主が職場において、課題と捉えていることの背景を分析したり、従業員用とセットで使用することで本人の個々の特性に応じた環境配慮等の雇用管理や職場定着に向けた取組が検討できる 【タイミング】 ・事業主が本人の状況や配慮の実施状況を整理、把握するとき ・事業主が本人の状況認識とのすり合わせを行いたいとき ・支援者が事業主から本人の状況を聴取するとき ・事業主から見た、できていることと課題、その背景、配慮が必要な事項について把握する ・事業主として課題に感じている事項について確認する ・事業主が行っている配慮と本人に対処を求めていることを整理する ・課題に対し本人が対応するのか、事業主が配慮するのかについて検討しやすい 20分 【作成主体】 事業主 【作成場面】 使用するタイミングと同じ 実践報告書No.27 「発達障害者に対する雇用継続支援の取組み ~在職者のための情報整理シートの開発~」8) (2015年発行)" ⑲在職者のための情報整理シート(従業員用) 【目的】 ・職場において、対応できていること、本人が課題と捉えており、対処方法や周囲に配慮を依頼したいことを整理する 【タイミング】 ・本人の勤務状況を事業主や支援者と共有するとき ・本人が職場で求められるスキルについて知ることに本人の同意が得られたとき ・本人が把握している「できている」項目の把握 ・「できている」にチェックが付かなかった項目は、自らの対処方法を検討したいのか、周囲に配慮をお願いしたいのか回答できる項目もあるため、今後の対策を検討しやすい" "・在職者の状況を把握するとともに今後の目標の検討にも活用可能 ・求職者が就職後に求められるスキルとして提示し、日々の支援で各項目を振り返り、職場で求められるスキルの変化を確認することも可能 ・「⑱在職者のための情報整理シート(事業主用)」とセットで使用することで、問題状況、事業主と本人の捉え方の把握をすることにより、事業主と本人が取り組むべき目標を設定する 20分 【作成主体】 本人 【作成場面】 個別相談" 実践報告書No.27 「発達障害者に対する雇用継続支援の取組み ~在職者のための情報整理シートの開発~」8) (2015年発行)" 支援ツール名 支援ツール画像 使用目的・タイミング 特徴 活用のコツ 作成目安(分) 作成の仕方 掲載誌 ⑳就労支援のためのアセスメント シート 【目的】 ・本人、支援者が強みや成長可能性、就労するうえでの課題等を適切に理解し、就職に向けた必要な支援や配慮を検討できる 【タイミング】 ・本人が就労を希望している、あるいは就労について検討しているとき ・就労に向けて本人や支援者が本人の強みや就労上の課題を整理し、必要な支援・配慮を検討するとき ・本人が自身のニーズや就労のための基本的事項の状況、就労継続のために必要とする支援・配慮等について具体的に整理する ・本人の強みや課題に関する認識を確認できる ・本人と支援者が共同評価を行うことで現状について本人の気づきを促す ・各項目に対する本人の評価や考えを支援者とすり合わせることで支援者が本人の思いを把握しやすくなる ・就労の希望・ニーズがある程度具体化した段階から実施し、本人の希望・ニーズの変化や具体化の進展にあわせて継続して活用できる ・作業場面や職場実習を体験し、そこでの行動を評価の対象にする ・シートを作成する際に本人と支援者が評価の根拠を共有することで、本人と支援者の現状のすり合わせが行いやすくなる ・現状に関する評価だけでなく、評価の理由や具体的な根拠(どのような場面でどのような行動が観察されたか等)に関するテキストをシートに記録しておくことで、本人が能力を発揮しやすい環境に関する情報を共有しやすい" 180分 "【作成主体】 本人、支援者 【作成場面】 個別相談 支援者間で意見交換 「就労支援のためのアセスメントシート活用の手引」9) (2023年発行)" 支援ツール名 支援ツール画像 使用目的・タイミング 特徴 活用のコツ 作成目安(分) 作成の仕方 掲載誌 ㉑問題状況分析 シート 【目的】 ・本人が問題の発生状況や原因を把握し、現実的な問題解決策を選択できるようにする 【タイミング】 ・本人から困り感について状況の分析や対処方法を検討することに本人の同意が得られたとき ・支援者が本人の対処方法のレパートリーを増やしたり、問題解決のスキームを学んでほしいと考え、本人の同意が得られたとき ・相手(上司、同僚等)の状況や影響を予測することで本人の行動が周囲へどのような影響を及ぼすかを把握しやすい ・俯瞰して問題を捉えたり、分析、解決方法を検討できるスキームを知る ・本人の体験を言語化し、見える化することで本人が自らの体験全体を俯瞰しやすい ・集団で実施すると他者からも意見をもらえ、本人だけが悩んでいる問題ではないと感じることができる可能性がある" 40分 "【作成主体】 本人 【作成場面】 個別相談 グループワーク" "支援マニュアルNo.8 「発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者のための問題解決技能トレーニング」10) (2013年発行)" ㉒SOCCSS法 実施用紙" 【目的】 ・本人が主体となって、より社会的に適切な問題解決の手段を検討する 【タイミング】 ・本人が困り感を感じ、困り感への対策を検討することに本人の同意が得られたとき ・本人が対処策を実施できるか不安に感じるとき ・本人が対処策を実施できないことが続いており、対処策の実施を検討することに本人から同意が得られたとき ・対策を事前にシュミレーションできるため実施できる対策を検討しやすく、行動に移しやすい ・対策を事前にシュミレーションすることで、これまでの対策が行動に至らなかった要因を検討できる可能性がある ・問題を俯瞰して眺めることができる ・本人の体験を言語化し、「見える化」することで本人が自らの体験全体を俯瞰しやすい ・解決策は「㉑問題状況分析シート」を使用し、集団で解決策を検討してから、個別相談で各解決策について相談することも可能 ・問題の特定ができなくても(しなくても)、解決に向けて行動できる枠組みを設定することができる ・先報告書No.34にある「SOCCSS法 支援者記録用紙」、「SOCCSS法(簡略版)支援者記録用紙」を活用すると「SOCCSS法 実施用紙」の各項目での質問のポイントを確認しながら進められる ・実施用紙を使わずに相談を進める場合は、「SOCCSS法(簡易版)」を活用する方法もある 40分 【作成主体】 本人 【作成場面】 個別相談" 実践報告書No.34 「発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 問題解決技能トレーニングの改良」11) (2020年発行)" 支援ツール名 支援ツール画像 使用目的・タイミング 特徴 活用のコツ 作成目安(分) 作成の仕方 掲載誌 ㉓Sheet A:「支援を進める際のポイント・方法一覧(カウンセラー用)」 【目的】 ・支援者が支援手法を取捨選択し、組合わせを修正していく先に行われる複雑な認知過程のモニタリング ・段階ごとに支援ノウハウを確認したり、選択しやすくする 【タイミング】 ・相談の前後 ・支援途中や支援終了後 ・相談前に確認することで相談の構成について検討しやすくする ・支援実施後の振返りとして活用すると、支援のポイントの把握ができ、支援者の支援ノウハウを蓄積することができる "【作成主体】 支援者 【作成場面】 使用するタイミングと同じ 資料シリーズNo.59 「認知に障害のある障害者の自己理解促進のための支援技法に関する研究」12) (2011年発行)" ㉔Sheet B-1:「情報収集補助シート(初期;カウンセラー用)」 【目的】 ・現状の認識、将来への展望の有無、感じている課題やその解決方法等を聞き取ることを通じ、本人が「自分は何を考えているのか、何を知っているのか、何が不足しているのか」といった本人の相談初期の自己理解の状況を支援者が確認する ・強い思い込み等本人の希望を実現するにあたってマイナスに働く認知に対してアプローチする準備を行う 【タイミング】 ・相談の前後 ・インテーク等相談の初期の段階 ・本人が「自分は何を考えているのか、何を知っているのか、何が不足しているのか」を具体化できる ・本人の考えや希望を具体的に整理することができ、支援者と本人の認識のずれを防ぐことができる 20分 "【作成主体】 支援者 【作成場面】 使用するタイミングと同じ 資料シリーズNo.59 「認知に障害のある障害者の自己理解促進のための支援技法に関する研究」12) (2011年発行) ㉕Sheet B-2「情報収集補助シート(中期・終期;カウンセラー用)」 【目的】 ・支援の過程が進み、本人が「自分は何を考えているのか、何を知っているのか、何が不足しているのか」といった状況が初期に比べてどのように変化したかを確認する 【タイミング】 ・支援の中期または終期" ・支援開始後の本人の希望や考えと支援者の認識を合わせる ・これまでに実施した支援や本人が経験したことが本人の考えにどのように影響を及ぼしたのかが把握でき、本人に応じた説明や支援方針を検討しやすくなる 20分 【作成主体】 支援者 【作成場面】 使用するタイミングと同じ 資料シリーズNo.59 「認知に障害のある障害者の自己理解促進のための支援技法に関する研究」12) (2011年発行)" 支援ツール名 支援ツール画像 使用目的・タイミング 特徴 活用のコツ 作成目安(分) 作成の仕方 掲載誌 ㉖Sheet C「相談後チェックシート(カウンセラー用)」 【目的】 ・支援者が、相談時の留意点についてどの程度意識しているか、支援者自身の認知に注意を向け、次回以降の相談に役立てる 【タイミング】 ・相談後 ・支援者が普段の支援で意識して行うと良いことを振り返る ・相談を進める際の留意点をいつ確認したかが記録できるため、本人主体の支援であることを継続して意識することができる ・チェックが付かなかった項目は次回以降の相談の留意事項として意識づけできる 20分 【作成主体】 支援者 【作成場面】 使用するタイミングと同じ 資料シリーズNo.59 「認知に障害のある障害者の自己理解促進のための支援技法に関する研究」12) (2011年発行)" ㉗Sheet D「今後の課題検討シート(カウンセラー&本人用)」 【目的】 ・本人が今後改善したいと考えている課題の達成に向けた方法、課題に取り組むことでの気づき・感覚(課題は簡単そうだ、難しそうだ等)、結果の予測等を意識化できているか否かを、支援者と本人が互いに確認する 【タイミング】 ・本人が今後改善したいと考える課題の改善のための目標を設定するとき ・本人と共に作成することで本人が設定する目標と達成に向けてのステップが適当なものになっているのか、本人と確認する ・本人が課題改善に向けた目標設定や目標達成までのステップ等についてのイメージが持てているか等の状況を知ることができ、今後の支援で活用しやすい" ・「㉑問題状況分析シート」や「⑦体験整理シート(2023版)」等で目標設定をした後に整理すると本人が目標達成に向けてのステップ等をどのように考えているか把握できる 30分 "【作成主体】 支援者 【作成場面】 使用するタイミングと同じ 資料シリーズNo.59 「認知に障害のある障害者の自己理解促進のための支援技法に関する研究」12) (2011年発行)" ㉘Sheet E「振り返りシート(カウンセラー用)」 【目的】 ・本人と支援者が共に過去の取組を取り上げ、当時、本人がどの程度状況をモニタリングし、その結果に基づいて取組をコントロールしていたか検討することにより本人の目標を達成するにあたっての方法・気づき・予測等の状況を確認する 【タイミング】 ・本人が設定した目標に取り組んだ後 ・本人が過去に取り組んだことについて、目標達成するためのポイント、目標達成に至らなかった場合も次の目標設定時に留意する点について把握できる ・目標への取組状況やその当時の考えを聞き取るため、対象とする目標は、①直近で取り組んだもの、②明確に思い出せるもの、③取組への目的が明確であったものが望ましい 20分 【作成主体】 支援者 【作成場面】 使用するタイミングと同じ 資料シリーズNo.59 「認知に障害のある障害者の自己理解促進のための支援技法に関する研究」12) (2011年発行) 第3節 支援ツール関連図  「支援ツール関連図」は「支援ツール活用整理表」に基づいて各支援ツール同士の関連や各支援ツールが把握、整理できる範囲を視覚化したものです。  「支援ツール関連図」の各支援ツール名に記載されている番号は、「支援ツール活用整理表」の番号と連動しています。各支援ツールの詳細は「支援ツール活用整理表」で確認してください。 支援ツール関連図 支援ツール関連図の見方 :各支援ツールの特徴を簡単に表しています。 :より詳細を確認したいときには、矢印の方向に進みます。 「④ストレス対処整理シート(ストレス温度計)」で把握した内容から、ストレスサインに応じた休憩の取り方について把握したい場合には、「⑥休憩のとり方チェックシート」に進みます。 ストレス対処方法の検討には、「⑤ストレス対処法整理シート」または「⑦体験整理シート(2023版)」が活用できます。それぞれの支援ツールからストレス対処方法の実行に着目して相談する場合には「㉒SOCCSS法 実施用紙」が活用できます。 障害把握イメージ図の使い方 ・本人の強みを中心に特性を把握したい場合には、「●強み」の中の支援ツールを活用できます。 ・本人の感覚特性を把握したい場合や感覚特性への対処方法を検討したい場合には、「●感覚特性」の中の支援ツールを活用できます。 ・本人の注意、集中の特性について把握したい場合には、「⑨注意・集中等の特徴に関するインタビューシート」を活用できます。 ・本人の特性を広く知りたい場合には、「⑫特性チェックシート(ご本人用)」を活用できます。 ・本人の特性の全体像や特性同士の関連について把握したい場合には、「⑮情報処理過程におけるアセスメントの視点(Ver.10)」を活用できます。 ・支援策、支援方法の検討をしたい場合には、「⑯行動/環境アセスメントシート」または「⑰支援方法検討シート」を活用できます。 支援ツール関連図 【引用文献】 1)障害者職業総合センター:「幕張ストレス・疲労アセスメントシート MSFASの活用のために」(2010)p.5-20 2)障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.10 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者のためのリラクゼーション技能トレーニング ストレス・疲労のセルフモニタリングと対処方法」(2014) p.115-116、p.119 3)障害者職業総合センター職業センター:「実践報告書No.23 発達障害者のワークシステム・サポートプログラムとその支援事例(2)』 ~注意欠陥多動性障害を有する者への支援~」(2010) p.59、p.60-61、p.63、p.74 4)障害者職業総合センター職業センター:「実践報告書No.36 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム リラクゼーション技能トレーニングの改良」(2021)p.100-103、p.105-116、p.133 5)障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.26 別冊  職場適応を促進するための相談支援ツール集」(2024)p.31-32、p.72、p.117 6)障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.13 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム ナビゲーションブックの作成と活用」(2016)p.73-74 7)障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.18 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者のアセスメント」(2019)p.39-56 8)障害者職業総合センター職業センター:「実践報告書No.27 発達障害者に対する雇用継続支援の取組み~在職者のための情報整理シートの開発~」(2015)p.44-45、p.48-49 9)障害者職業総合センター:「就労支援のためのアセスメントシート活用の手引き」(2023)p.85-118 10)障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.8 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者のための問題解決技能トレーニング」(2013)p.17 11)障害者職業総合センター職業センター:「実践報告書No.34 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 問題解決技能トレーニングの改良」(2020)p.77-78 12)障害者職業総合センター:「資料シリーズNo59  認知に障害のある障害者の自己理解促進のための支援技法に関する研究」(2011)p.97、p.99、p.101、p.102、p.105、p.107 【特別寄稿】 「ソフトスキルを視覚化させるアセスメントツール」 明星大学人文学部福祉実践学科 准教授 縄岡 好晴 ●BWAP2とは?  発達障害を持つ人々が職場で適切に働くためには、個々の特性や能力に応じた支援が不可欠です。そこで活躍するのが、 「BWAP2(Becker Work Adjustment Profile 2)」というアセスメントツールです。 BWAP2は、職場や支援施設で幅広く利用され、発達障害者の就労能力や職場適応力を評価し、具体的な支援方法を導き出すために使用されます。 ●BWAP2の背景  元々BWAPは、知的障害のある人々の職場適応力を評価するために開発されたものでした。しかし、近年では発達障害者、特に自閉スペクトラム症(ASD)のような知的障害を伴わない障害者の就労支援が必要となり、BWAP2として改訂されました。 ●ソフトスキルを重視した評価の特長  働くことは単に「与えられた仕事をこなす」だけではなく、他者とのコミュニケーションや職場のルール、マナーの遵守が求められます。これらのいわゆる「ソフトスキル」が発達障害者の職場適応に大きな影響を与えます。  従来の職業適性検査は、主に作業能力や認知能力に焦点を当てていましたが、BWAP2は対人関係や日常生活のスキルなど、ソフトスキルの評価項目が充実している点が特長です。このアプローチにより、発達障害者が職場で直面する具体的な課題を明らかにし、適切な支援方法を見つけ出すことが可能となります。 ●BWAP2の実施者と利用場面  BWAP2は、12歳以上の知的障害や発達障害、学習障害、身体障害のある人を対象にしています。実施者としては、就労支援に携わる支援者や教育関係者、保護者などが想定されており、専門的な知識がなくても簡単に実施できる点も大きな魅力です。また、企業や就労支援施設、教育機関など、幅広い場面で活用でき、個々の職場適応を支援する上で有用なツールとなっています。 ●4つの評価領域と63の項目  BWAP2では、職業能力を「仕事の習慣/態度」(HA)、「対人関係」(IR)、「認知能力」(CO)「仕事の遂行能力」(WP)という4つの領域に分けて評価します。 各領域には細かい評価項目が設けられており、合計63の項目が0点(最もスキルが不足している)から4点(スキルが十分に備わっている)までの5段階で評価されます。  例えば、「仕事の習慣/態度」では、時間の守り方や身だしなみなどの基本的な生活習慣が評価され、「対人関係」では、同僚や上司とのコミュニケーション能力が重視されます。   これにより、対象者の強みや弱みを明確に把握し、個別の支援計画を立てるための資料が得られます。 ●プロフィールシートで個別の支援を計画  BWAP2の結果を元に作成されるプロフィールシートは、発達障害者が職場で適切に働くための「マニュアル」のような役割を果たします。このシートは、対象者の強みと弱みを視覚化し、具体的な支援方法を明示します。例えば、「認知能力が低いが対人関係の能力が高い」場合には、金銭管理や記憶力のサポートを強化しながら、コミュニケーション能力を活かした業務を提案するなど、個別対応が可能となります。 ●発達障害者の就労支援に役立つBWAP2の活用  BWAP2は、発達障害者の職業能力を5つのレベルに分類し、適切な就労環境を導き出す「ワークプレイスメント」という概念を用いています。デイケアから一般就労まで、幅広い就労形態に対応しており、発達障害者やその家族が最適な職場を選びやすくなる仕組みです。また、職場環境の改善や合理的配慮に関する指針も提供します。  支援者の皆さまにご活用いただくことで、発達障害の方々が働きやすい環境を整える一助となれば、翻訳者として幸いです。 第4章 支援者の相談スキルの振返り   第4章 支援者の相談スキルの振返り 第1節 支援者の自己理解  効果的な相談を実施するためには、支援者は基本的な相談スキルを習得するとともに本人の特徴や学習スタイルに応じた関わり方、情報の提示方法等を意図的に選択できることが大切です。  例えば、「合理的にものごとを捉え、単刀直入にはっきり伝える傾向がある支援者」が相談を行った際には、本人の受け止め方として、「はっきり伝えてくれるため、コミュニケーションが取りやすい」という印象を持つ方もいれば、「自分のことを理解してもらえなかった」という印象を持つ方もいるかもしれません。  支援者も一人一人性格や認知の特徴、他者との関わり方の傾向、得意・不得意等に違いがあります。また、学んできた専門性や獲得しているスキル等も異なります。これらの支援者の特徴等が本人との相談場面において影響を与える場合もあることを自覚しておくことが重要です。 相談のコツ!  支援者が自分自身の専門性や特徴等を理解し、本人との相談において「効果的な相談を行う助けになっているか」「効果的な相談を阻害する要因になっていないか」を振り返ることが必要です。  支援者の特徴が効果的な相談を阻害する要因となっている場合には関わり方や対応の仕方の見直し、改善を図ります。  このような支援者の特徴に関する自己理解については、障害者職業総合センター「資料シリーズNo.32 障害者就労支援におけるカウンセリングの技法と障害への配慮」において、以下が示されています。 表5 支援者の特徴に関する自己理解(依田1)より引用し作成) ①支援者の専門性 支援者が身につけ、絶対的な信頼を寄せている専門的な知識、価値観、ものごとの捉え方 ②支援者自身の日常 支援者自身の文化的背景、家庭や学校等で身に付けた生活習慣、身近な人間関係などから習慣的に繰り返し持ってきたものごとの捉え方 ③支援者の心理 自分自身の気持ちの流れ方の癖、知識、技能の限界、置かれた立場等  これらを相談場面に当てはめた場合、以下のように整理することができます。 支援者の専門性  本人の特徴や特徴に配慮した対処方法の知識があるかということが挙げられます。例えば、「第2章第2節1(3)アセスメント結果を踏まえた相談の工夫」で紹介している様々な相談場面の工夫を実施できるかということも含まれます。 支援者自身の日常  支援者が今までの経験や周囲の環境から学んできた知識やスキル、ものごとの捉え方は支援者独自のものです。つまり、支援者と本人は異なる環境下で異なる経験をしているため、学んできた知識やスキル、ものごとの捉え方も異なる可能性がある、ということを理解しておくことが大切です。 1 障害者職業総合センター:「資料シリーズNo.32 障害者就業支援におけるカウンセリングの技法と障害への配慮」(2005)p.22 障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.13 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム ナビゲーションブックの作成と活用」(2016)p.9 障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.22 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者の強みを活かすための相談・支援ツールの開発」(2023)p.16 障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.8 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者のための問題解決技能トレーニング」(2013)p.17 支援者の心理  支援者が支援に携わるときに感じる心の動きと、その心の動きが支援にどのように影響するかを指します。例えば、「本人から頼られることを嬉しく感じ、本人が行うべき行動の肩代わりをする」「責任感のあまり、問題解決を焦り、次々とアドバイスを与える」等です。  本人を適切に理解し、効果的な対応を行うためには支援者の特徴や知識と、本人の特徴とのすり合わせを行い、柔軟に対応していくことが求められます。そのためには、支援者が相談の際の自分の対応を振り返り、相談において必要なスキルや工夫の仕方を研鑽し習得する、支援ツール等を目的に応じて的確に活用する、スーパーバイズによる新しい視点を獲得する等の取組が求められます。   第2節 支援者の相談スキルのチェックリスト  「就労支援における発達障害者との相談スキルのチェックリスト」(以下「相談スキルのチェックリスト」という。)は、支援者が「自らの相談のスキル」や「相談で実施できている工夫」について振り返り、本人との相談時の対応を検討する一助となることを目的に作成しました。  良い相談とは「相談のスキルチェックリスト」で挙げられている全ての内容を網羅していることではありません。本人の特徴や状況、その日に相談で取り上げる事項によって必要なスキルや工夫の仕方を選択して、実施することが大切です。  まず「相談スキルのチェックリスト」に、自ら気づいたことや、周囲からフィードバックを受けたことがあれば記載します。  「就労支援における発達障害者との相談スキルのチェックリスト(まとめシート)」は自らチェックするだけでなく、周囲からフィードバックを受け感じたことを言語化できる等、支援者の自己理解を深めるためにも活用できます。 「就労支援における発達障害者との相談スキルのチェックリスト」使用方法 【使用場面】 支援者が自らの相談スキルを振り返りたいと考えた際にチェックすることを想定しています。 本人の特徴や相談の内容によって、何に気を付ければ良いかを確認する際にチェックすることも可能です。 【留意事項】 相談スキルのチェックリストは1回だけではなく、繰り返し使用できます。 特定の方との相談場面を想定して使用しても良いですし、特定の方は想定せず、自らの相談スキルの振返りのために使用することもできます。 一度に全てを振り返らなくても構いません。項目を絞って、振り返ることも可能です。 全てにチェックが付くことを目指すのではなく、支援者自身の得意なこと、苦手なこと、意識して実施できていること等を知り、本人に合わせた対応ができているかに着目します。 【使用方法】 <支援者の対応> 発達障害者との相談場面で支援者がよく実施したり、必要とされる工夫やスキルをカテゴリに分けて記載しています <チェック項目> 「支援者の対応」のより具体的な対応方法を記載しています。 実施しているものは、左の□にチェックを入れます。 「就労支援における発達障害者との相談スキルのチェックリスト」(使用例) 就労支援における発達障害者との相談スキルのチェックリスト 記入日:    年   月   日 支援者の対応 チェック項目 1 本人の特徴の把握・アセスメント 相談への影響が想定される特性についてアセスメントを行う ☑本人のコミュニケーションの取り方、情報処理過程や学習スタイルの傾向、感覚特性等、相談時に影響が想定される特徴について相談前に確認したり、意識して相談に臨む。(確認する内容や方法の詳細はP19を参照) ☑相談中に支援者が把握した特性について本人と共有し、本人の特性の認識の確認や自己理解を促す。 2 相談場面の設定 本人の苦手とする、または注意を阻害する刺激を減らし、相談に集中しやすい環境を設定する ☑苦手とする、または注意を阻害する刺激が少ない相談環境を試しながら設定する。(環境調整や相談場面の設定の工夫の仕方はP21を参照) 本人が落ち着いて安心した状態で相談に臨むための環境面の工夫や対策を行う □休憩の取り方、リラクゼーショングッズの使用やカームダウンについて相談場面で行う方法やタイミングを本人と確認する。 ☑疲労やストレス反応が見られた場合に備えて事前に休憩やリラクゼーショングッズの使用、カームダウンを提案する。 ☑相談場面における休憩の取り方やリラクゼーショングッズの使用、カームダウンの方法の効果を確認し、今後の相談場面での取り入れ方を確認する。 3 本人が理解しやすい伝え方 使用している言葉の意味や定義を合わせる ☑本人が使用している言葉の意味を確認したり、支援者の理解したことを伝える等により、本人と支援者が使用する言葉の定義を一致させる。 本人の理解度や理解の仕方に応じた情報量で伝える □本人が理解しやすい会話のペースや間で話したり、答えやすい質問の仕方をする。 (例:話すスピードが速く直観的に返答する方には考えてから返答するよう促しを行う、    考えながら話す方には矢継ぎ早に質問やレスポンスを返さず、本人の発言を待つ) □支援者が伝えたいことや取り上げたい話題があっても、1度の相談で無理に伝えようとせず、本人が受け止められる情報量で伝える。 ☑情報量が多く本人が混乱している場合は、情報量や優先事項を整理したり、話題の焦点を明確にする等、本人が理解しやすくするための工夫を行う。 ☑沈黙の背景をアセスメントし、想定される背景に応じた対応を行う。 理解しやすい表現方法を選択する □本人の情報の理解の特徴や傾向、学習スタイルに応じて分かりやすい表現や伝え方を選択する。 (例:具体例や抽象的な例の使い分け、    視覚情報が分かりやすい本人に対して文章や図で書かれた資料を用意する) 相談した内容について本人と支援者の認識の確認を行う ☑「相談の結論」「本人が理解したこと」「これから取り組むこと」等相談の内容を本人の言葉で説明してもらったり、支援者が要約して確認するなど、認識や理解が一致しているかの確認を行う。 4 相談内容の構造化 時間を意識した相談を行う □支援者も本人も共に相談時間を意識するための工夫を実施する。 (工夫の例:事前に本人と相談時間を共有する、カウントダウンタイマーを使用する、  相談で取り上げる話題や優先順位を再調整する等) □相談の終了時間までに取り上げたい話題を全て取り上げられない場合や結論が出ない場合でも、話の区切りを付けたり、次の相談で話す見通しをつける等により、予定時間内に相談を終える。 相談で取り上げる話題の優先順位を決める ☑相談で取り上げたい話題が複数ある際には、相談前や相談の冒頭で優先順位を本人と一緒に話し合い、優先順位を決定してから相談を行う。 見通しをつけて相談に臨む □相談で取り上げたい話題について所要時間の目安を付け、相談時間の見通しを持つ。 □相談で取り上げたい話題について、時間内に「どんな内容をどこまで話すのか」「終わりはどこか」といった見通しをつける。 □取り上げたかった話題が終わらなかった場合やその場で結論を出せない展開となった場合の準備をする。 (例:「取り上げたい話題が取り上げきれなかった場合、再度相談日を設定する」    「支援者個人で決めることが出来ないことは○○までに回答する」等) ホワイトボードやメモを活用し、相談内容を「見える化」する ☑本日の相談で取り上げる話題や話し合った内容を板書したり図示する等、本人と共有したり相談中に確認できる工夫を実施する。 ☑本人の発言について板書やワークシート等に記入する際は不必要な要約をせず、発言をそのまま記入する。要約や表現を変える場合には、表現について本人と確認して記入する。 (例:「○○と言い換えて板書に書いても良いですか?」等) ☑"板書や図示をする際は情報を分けて記載したり、ポイントの色を変えるなど後から見返した時に分かりやすくする。 (分類の例:「相談のテーマ」「事実」「気持ち」「結論」「取組み目標」等)" 支援全体のプロセスを明確化し、共有する ☑複数回に渡って相談する場合、初めに「前回の相談内容」や「本日のテーマ」を、相談の終了時には「相談のまとめ」「次回の相談までに実施すること(本人、支援者共に)」「次回の相談で話す内容」を確認し、見通しや進捗を本人と共有する。 5 支援ツールの効果的な活用 支援ツールの特徴を理解し、相談の目的に応じて適切に使用できる □相談の目的にあった適切な支援ツールを選択する。 □支援ツールを使用するか否かを本人が選択できるよう支援ツールを使用する目的や効果を説明し、本人に提案する。 6 本人の気づきに対する支援 他者(支援者等)からの見え方を本人と共有する ☑本人の言動が他者(支援者等)からどのように見えているかを具体的かつ客観的に伝える(良い印象を与える言動や場に即していないと捉えられる可能性がある言動等)。 ☑一般的、または支援者が考えているマナーやルールを一方的に伝えず、本人の経験や知識、本人を取り巻く環境を総合的に把握したうえで本人が受け止めやすい表現や内容で説明する。 課題を絞り込み、行動目標を検討するために必要な場面や状況の整理・分析を行う □相談で取り上げる事柄が起きた際の環境や状況について客観的な視点で整理する。 ☑本人の感情に共感を示しつつ、感情面のみに焦点を当てず、「どう行動すれば場に即した適応的な行動となるか」という行動面にも焦点を当てて問題を整理する。 7 目標の設定への支援 目標や行動を選択する際に本人の自己決定を支える ☑想定される選択肢と、そのメリット、デメリットのポイントを整理し、本人と確認する。 ☑支援者側が考える選択肢や行動のメリット、デメリット等の検討材料となる視点について情報提供をする。 ☑本人が判断に悩む場合は、検討するための時間を設ける。 目標達成のための行動を実行する場面や行動の内容を具体化し、本人と共通認識を図る ☑目標は「具体的」「達成の状況が判断できる」「達成可能」「目標までの期限が明確」であるものを設定する(目標設定の仕方の詳細はP44を参照)。 ☑目標達成のための行動を実行する場面を具体的に確認する。必要に応じて模擬的な場面を設定する等、行動を実行できる環境を整備する。 8 自己肯定感、自己効力感への配慮 自己肯定感・自己効力感に配慮した関わりを行う □問題となっていることや改善したいことだけではなく、本人の「出来ていること」「うまくいった経験」等についても焦点をあてて相談を行う。 ☑支援者が観察した本人の「出来ていること」「うまくいっていること」「強み」について、具体的に本人に伝える。 ☑本人の話す辛さや困難さについては共感的に受け止め、本人の取組に対してポジティブなフィードバックを行う。 9 信頼関係の構築・心理的安全性への配慮 本人との信頼関係を構築する ☑傾聴の姿勢や共感・受容的な態度で相談に臨む。 ☑守秘義務や業務上対応できる範囲について支援者自身がよく理解し、本人に分かりやすく説明する。 本人が安心して相談できるよう対応する ☑本人の言動から不安の有無を把握し、不安の程度や内容、影響度について確認を行う。 ☑相談の前に「相談の目的」「相談の見通し」「守秘義務」「いつでも相談を中断できるなどの選択肢や情報」等を伝え、安心して相談が実施できる関係性を構築する。 □相談を一方的に進めず、本人の課題に準備や意思を尊重した関わりを行う。 (例:「特定の話題に対して不安がある場合は、無理に取り上げず、一旦保留とする」等) 10 支援者の自己理解 支援者が持つ知識に偏ることなく本人と共通認識を図る □支援者自身が学んできた専門性や知識、支援者の成功体験等の影響の有無を自覚している。 ☑本人の話す内容を支援者の持つ枠組みで捉えないよう、理解した内容を本人と確認する。 ☑本人の経験や持っている知識、取り巻く環境といった背景も考慮し、本人が伝えたいことを理解しようと努める。 支援者としての心理に振り回されず、本人にとって必要な支援を適切に検討する ☑本人から頼られたり、非難された際に感じる心の動き(支援者の心理)を自覚している。 (支援者の心理の例:「頼られて嬉しい」           「(非難された際に)期待に応えられない自分はダメだ」等) ☑心の動きを感じた場合も本人に提供できる支援の内容を冷静に検討し、本人にとって必要な支援を検討する。 「就労支援における発達障害者との相談スキルのチェックリスト(まとめシート)」使用方法 【使用場面】 「相談スキルのチェックリスト」で自らの相談スキルを振り返り、気がついたことをまとめる際に使用します。 【留意事項】 自らの相談スキルについて「できていること」「これから取り組みたいこと」、周囲から「フィードバックされたり、スーパーバイズをされた内容」を自由に記入します。 「まとめシート」は必ず使用する必要はなく、すべての項目を記入する必要もありません。必要な項目に絞って記入しても良いです。 【使用方法】 <チェックして気がついたこと> 相談スキルのチェックリストを付けてみて、気が付いた自分の強み、工夫したいこと、周囲から伝えてもらったことなどを記入します。 「就労支援における発達障害者との相談スキルのチェックリスト(まとめシート)」(使用例) 就労支援における発達障害者との相談スキルのチェックリスト(まとめシート) 支援者の対応 チェックして気がついたこと (できていること、今後工夫したいこと、周囲から伝えてもらったこと)" 1 本人の特徴の把握・アセスメント  相談への影響が想定される特性についてアセスメントを行う 2 相談場面の設定 本人の苦手とする、または注意を阻害する刺激を減らし、相談に集中しやすい環境を設定する 本人が落ち着いて安心した状態で相談に臨むための環境面の工夫や対策を行う 3 本人が理解しやすい伝え方 使用している言葉の意味や定義を合わせる ・言葉の意味や本人の理解度の確認を意識的に行うようにしており、本人からも「自分が言いたいことを理解してくれた」と言ってもらえることが多い。 ・早口なためゆっくり話すようにしているが、焦っている時には意識できていないことがある。 本人の理解度や理解の仕方に応じた情報量で伝える 理解しやすい表現方法を選択する 相談した内容について本人と支援者の認識の確認を行う 4 相談の構造化 時間を意識した相談を行う ・相談の目的やテーマを共有すること、優先順位を確認することは出来ている。 ・おおよその相談時間は伝えるが、本人から話したいというそぶりがあれば聞いてしまうかもしれない。 ・相談内容の「見える化」は板書が苦手なため、つい口頭のみで相談を実施してしまいやすい。先輩の板書の仕方なども聞いてみたい。 相談で取り上げる話題の優先順位を決める 見通しをつけて相談に臨む ホワイトボードやメモを活用し、相談内容を「見える化」する 支援全体のプロセスを明確化し、共有する 5 支援ツールの効果的な活用 支援ツールの特徴を理解し、相談の目的に応じて適切に使用できる ・支援ツールを使う場面は少ないかもしれない。どんな支援ツールがあるか、まずは特徴を把握しておきたい。 6 本人の気づきに対する支援 他者(支援者等)からの見え方を本人と共有する 課題を絞り込み、行動目標を検討するために必要な場面や状況の整理・分析を行う 7 目標の設定への支援 目標や行動を選択する際に本人の自己決定を支える 目標達成のための行動を実行する場面や行動の内容を具体化し、本人と共通認識を図る 8 自己肯定感、自己効力感への配慮 自己肯定感・自己効力感に配慮した関わりを行う 9 信頼関係の構築・心理的安全性への配慮 本人との信頼関係を構築する 本人が安心して相談できるよう対応する 10.支援者の自己理解 支援者が持つ知識に偏ることなく本人と共通認識を図る ・頼られた時には「自分がやらないと」という気持ちを感じやすいと自覚している。 ・先輩からも「責任感が強い一方で、必要以上のことを実施している時がある」と言われたことがあった。 支援者としての心理に振り回されず、本人にとって必要な支援を適切に検討する 「相談スキルのチェックリスト」を活用し、支援の方向性を検討した事例 事例概要 Cさん、20代、男性 <支援の経過>  WSSPの受講者であるCさんは、手順が明らかな作業であれば対応可能ですが、自ら段取りを考えて作業することには苦手さを感じていました。また、困っていても周囲に相談せず、抱え込んでしまう傾向があります。  WSSPでは作業内容や1日の流れが明確なため、迷わずに行動でき、報告や質問も簡潔に分かりやすく相手に伝えることができます。一方、支援者から「できていること」を伝えた際、Cさんからは「それはできて当たり前」と返答することが多くありました。  相談や就労セミナーでCさんの意見を求める場面では発言に時間を要し、意見が浮かばずに沈黙することが多くありました。そのため、相談では予定時間を超過したり、結論が出ずに相談を終了することが度々あり、その時にCさんは「決めることができなかった」と自分を責める気持ちを感じているようでした。  相談を通して「困り感を抱え込まないための対処を検討すること」が、WSSP内で取り組む目標の候補として挙がりましたが、Cさんは「うまくいかなかった時が不安」と話し、取組には消極的でした。その後の相談でも他の目標に対しても不安な気持ちを述べられ、目標の設定が難しい状況が続きました。 <支援の中で見られた特徴> ・自ら計画や段取りを立てることが苦手だが、手順や段取りが明確であれば行動に移すことができる。 ・発言は納得できる表現をじっくり検討してから返答する。 ・周囲が強みと捉えていることもCさんは「できて当たり前」と感じている。新しい取組には失敗するのではないかという不安を抱えやすい。 支援のポイント <「相談スキルのチェックリスト」を用いた相談の振返り> 相談スキルのチェックリストを活用し、以下の2点を検討することとしました。 ①Cさんとの相談の進め方の課題を整理し、適切な対応を検討する。 ②Cさんの支援において優先して実施するポイントを検討する。 ※Cさんとの相談における「相談スキルのチェックリスト」の一部抜粋 赤字部分は現在実施できていない、相談の進め方において課題になっている項目 チェック欄が■となっている項目はCさんとの相談で実施している内容 Cさんの支援の方針として黄色の網掛け部分を重点的に行う必要があると想定(現時点で実施している項目としていない項目がある) <検討の結果> ①相談の進め方の課題を整理し、適切な対応を検討する →「時間を守って相談を行う」に関連する項目は意識できておらず、相談の進め方の課題となっています。 ②支援の優先項目を検討する →行動を実行することの不安に対し、Cさんが新しい目標に取り組むためには、成功体験を積むことで、自己肯定感や心理的安全性を高めることが必要と考えました。 <実施した支援> 自己肯定感に配慮した関わり ・ナビゲーションブック )作成をきっかけにセールスポイントの整理を目的に「WSSP版強み育成プロジェクト )」(以下「強み育成プロジェクト」という。)を実施しました。 ・「強み育成プロジェクト」の実施と同時に作業、就労セミナーでもCさんの強みについて支援者からフィードバックしました。 ・状況を見える化し整理できる「問題状況分析シート )」はCさんにとって使いやすいようであり、Cさんとの相談では、状況の整理、解決策の検討においては「問題状況分析シート4)」を活用しました。 ・Cさんが「問題状況分析シート4)」の解決策案の欄が思いつかない時には、次回の相談までに「周囲の人に解決策案を聞いてみる」という行動目標を決め、解決策案を収集しました。 2 障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.13 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム ナビゲーションブックの作成と活用」(2016)p.9 障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.22 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者の強みを活かすための相談・支援ツールの開発」(2023)p.16 時間を守った相談 ・作業や就労セミナーの振返りにおいては、Cさんの「強み」や「できたこと」を中心に確認しました。 ・また、相談場面で黙り込んでしまう点は、「周囲の人から解決策案を収集する」という行動目標を活かし、情報を収集してから相談に臨んでもらうこととしました。 Check! <相談において支援者が留意したこと> 相談スキルのチェックリストを活用して整理した相談時の対応方法や支援のポイントを意識して支援を実施した。 相談時間の超過を防ぐため支援者が取り上げたい話題があっても、優先順位を判断し、時間内に相談を終える。 Cさんの持つ強みを生かして、成功体験を積み、Cさんの対処スキルの幅を広げる。 4 障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.8 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者のための問題解決技能トレーニング」(2013)p.17 コラム 相談で活用できる理論や技法  職業リハビリテーションにおける相談は様々な心理的理論や実践アプローチを複合的に活用していくことが必要となります。相談を行う際に押さえておくと良い、または活用できそうな技法や理論を一部紹介します。このような技法や理論の背景にある「人のこころや行動についての捉え方」を理解することは適切な技法の活用にとって重要です。 【マイクロカウンセリング】  アレン・E・アイビイ氏によって開発されたカウンセリング技法の訓練プログラムです。カウンセリング技法を細分化し、段階的に学ぶことで、基本的なスキルを習得します。傾聴や共感等の技法は他のカウンセリング技法においても共通しています。 【ポジティブ心理学】 マーティン・セリグマン氏によって提唱された人々の幸福や強み、前向きな感情に焦点を当てる心理学の分野です。近年、進路指導や就労支援においてもポジティブ心理学の技法が活用されています。 【経験学習理論】  デイビット・コルブ氏によって提唱された学習モデルです。経験学習理論は、学習者は「具体的経験」「内省的観察」「抽象的概念化」「能動的実験」のサイクルを繰り返すことで経験から学び、次の経験に生かすことができます。 【課題中心アプローチ】  ウィリアム・リード氏、ジャクリーン・エプスタイン氏によって提唱された援助プロセスです。限定された枠組みの中で計画的に課題解決を目指します。「問題の明確化」「契約」「課題の遂行」「終結」といった一連のプロセスを短期間で効率的に実施することとしています。 【ナラティブアプロ―チ】  マイケル・ホワイト氏とデビット・エプストン氏により提唱されたアプローチです。問題は対象者の語る「物語」にあるとし、問題を外在化させ、新しい物語を構築することで問題も変化させることができるとしています。 【引用文献】 1)障害者職業総合センター:「資料シリーズNo.32 障害者就業支援におけるカウンセリングの技法と障害への配慮(2005)p.22 2)障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.13 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム ナビゲーションブックの作成と活用」(2016)p.9 3)障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.22 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者の強みを活かすための相談・支援ツールの開発」(2023)p.16 4)障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.8 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者のための問題解決技能トレーニング」(2013)p.17 【参考文献】 福原眞知子、アレン・E・アイビイ、メアリ・B・アイビイ:「マイクロカウンセリングの理論と実践」、風間書房(2004) フランシス・J・ターナー編:「ソーシャルワーク・トリートメント下 相互連結理論アプローチ」(米本秀仁監訳)、中央法規出版(1999) Michael White,David Epston:「物語としての家族[新訳版]」(小林康永訳)、金剛出版(2017) 松尾睦:「経験からの学習―プロフェッショナルへの成長プロセスー」、同文舘出版(2006) Martin E.P.Seligman:「ポジティブ心理学が教えてくれる 『ほんものの幸せ』の見つけ方 とっておきの強みを生かす」(小林裕子訳)シナノ(2021) 第5章 まとめ   第5章 まとめ  本マニュアルでは、発達障害者との相談の進め方やコツについて、WSSPの実践等を通じ、「相談の構造化」「支援ツールの整理」「支援者の相談スキルの振返り」等として取りまとめました。また、巻末資料では、相談で活用できる各種支援ツールの一部を紹介し、付録として発達障害者との相談においてよく遭遇する場面を取り上げ、支援者の対処行動に係る「対応のヒント集」として掲載しました。  発達障害者との相談は個別性が高く、支援者の相談スキルの向上には、目の前の発達障害者一人一人の特徴を的確に捉えて、相談の準備を行い、相談後の振返りとそれを踏まえた次回相談の準備を一回一回丁寧に行うことの積み重ねが必要です。本書は、このような支援者の日々の実践をサポートし、相談スキルの向上に資するため、相談の過程ごとにそのポイントについて詳述するとともに、新たに作成した支援ツール(支援ツール活用整理表、支援ツール関連図、相談スキルのチェックリスト)のほか、支援者の対処行動に係る「対応のヒント集」等を掲載したものです。  WSSPでは、第2章でも述べたように、本人の無意識に対して意図的に働きかけるような支援技法は用いていませんが、支援者と本人との関係においては、多少なりとも「転移」「逆転移」といった現象が生じ得るものと考えています。そのため、時に支援者は、本人からアグレッシブな感情が向けられることもあり、それによって支援者の感情が揺さぶられ、気分が落ち込むようなことがあります。そのようなとき、支援者は、いずれの感情も支援者個人に向けられたものや本人と支援者の関係性から生じたものではなく、相談のプロセスにおいては起こり得る感情であることを理解し、冷静に捉えなおしていくことが重要であることを付言したいと思います。 本マニュアルを一つの参考として、地域センター等各支援機関における発達障害者に対する支援スキルのさらなる向上が図られることを期待します。 巻末資料 今回の支援マニュアルで作成したもの 資料番号 資料名 ページ番号 1 ワークシステムを参考とした相談の枠組 119 2 支援ツール関連図 120 3 支援者の相談スキルのチェックリスト 122 過去の支援マニュアル、実践報告書において紹介しているもの 資料番号 資料名 ページ番号 4 生活記録表 125 5 ストレス対処整理シート(ストレス温度計) 126 6 体験整理シート(2023版) 127 7 問題状況分析シート 129 8 情報処理過程におけるアセスメントの視点(Ver.10) 130 9 情報処理過程におけるアセスメントの視点(Ver.10) 補足資料1~2 131 10 感覚特性チェックシート 137 11 特性対処のヒント集 141 相談の構成 内容 内容を検討するときの視点・留意すること 相談の目的 ワークシステム 何をするのか? □何のために相談で取り上げるのか? □相談のゴールを設定しているか? 相談で取り上げる話題、進め方 ✓取り上げる話題 ✓優先順位 ワークシステム どのようにするのか? □相談の目的にあった話題を設定しているか? □話題の設定は本人の心情を踏まえて設定しているか? □話題は本人にあった情報量になっているか? □相談時間で終えられる話題設定になっているか? 参加者・場所・環境・時間 参加者: ワークシステム どのようにするのか? 場所: □参加者の選定は適切か? 時間: □落ち着いて話せる適切な場所を設定しているか? 環境調整: □相談内容に応じた時間設定になっているか? (視覚化の工夫)□ホワイトボードの使用 □蛍光ペンなどの色ペンを用意する(必要箇所を強調する)                 □対象者の特性に応じて環境調整をしているか? (構造化の工夫)□時間設定の確認 □カウントダウンタイマー (安心して話せるための工夫)□L字に座る □対面で座る □30分で区切って休憩を入れる □ストレスボールを用意する (感覚特性の応じた工夫)□ブラインドやパーテーションで不要なものを隠す □空調の下を避けて席を用意する     □その他: 相談終了の目安 ワークシステム 終わりはどこか? □どうなったら相談を終了とするか? 時間内に相談が終わらないときの対応 ✓取り上げる話題が終わっていないが、相談時間になってしまった場合 ワークシステム 終わりはどこか? □相談時間内に設定した話題が終わらない時はどうするのか? □本人と支援者の考え等が合わなかった時はどうするのか? ✓具体的な目標設定ができていない、解決策を検討できていないが、相談時間になってしまった場合 今後の予定 (  継続相談  ・  相談終了  ) ワークシステム 終わった後どうするのか? 【継続相談の場合】【相談終了の場合】 □相談後の予定を明確にしているか?      ✓次回の相談日程 ✓どのような状況になったら相談を再開するか □次回の相談までの間隔が空きすぎていないか? ( 1週間後  ・ 1か月後 ・ 3か月後 )         □相談後の連絡手段は決まっているか? ✓次回の相談までに支援者が取り組むこと ✓次回の相談までに本人が取り組むこと 資料2 支援ツール関連図 資料3 就労支援における発達障害者との相談スキルのチェックリスト 記入日:    年   月   日 支援者の対応 チェック項目 1 本人の特徴の把握・アセスメント 相談への影響が想定される特性についてアセスメントを行う □本人のコミュニケーションの取り方、情報処理過程や学習スタイルの傾向、感覚特性等、相談時に影響が想定される特徴について相談前に確認したり、意識して相談に臨む。(確認する内容や方法の詳細はP19を参照) □相談中に支援者が把握した特性について本人と共有し、本人の特性の認識の確認や自己理解を促す。 2 相談場面の設定 本人の苦手とする、または注意を阻害する刺激を減らし、相談に集中しやすい環境を設定する □苦手とする、または注意を阻害する刺激が少ない相談環境を試しながら設定する。(環境調整や相談場面の設定の工夫の仕方はP21を参照) 本人が落ち着いて安心した状態で相談に臨むための環境面の工夫や対策を行う □休憩の取り方、リラクゼーショングッズの使用やカームダウンについて相談場面で行う方法やタイミングを本人と確認する。 □疲労やストレス反応が見られた場合に備えて事前に休憩やリラクゼーショングッズの使用、カームダウンを提案する。 □相談場面における休憩の取り方やリラクゼーショングッズの使用、カームダウンの方法の効果を確認し、今後の相談場面での取り入れ方を確認する。 3 本人が理解しやすい伝え方 使用している言葉の意味や定義を合わせる □本人が使用している言葉の意味を確認したり、支援者の理解したことを伝える等により、本人と支援者が使用する言葉の定義を一致させる。 本人の理解度や理解の仕方に応じた情報量で伝える □本人が理解しやすい会話のペースや間で話したり、答えやすい質問の仕方をする。 (例:話すスピードが速く直観的に返答する方には考えてから返答するよう促しを行う、    考えながら話す方には矢継ぎ早に質問やレスポンスを返さず、本人の発言を待つ) □支援者が伝えたいことや取り上げたい話題があっても、1度の相談で無理に伝えようとせず、本人が受け止められる情報量で伝える。 □情報量が多く本人が混乱している場合は、情報量や優先事項を整理したり、話題の焦点を明確にする等、本人が理解しやすくするための工夫を行う。 □沈黙の背景をアセスメントし、想定される背景に応じた対応を行う。 理解しやすい表現方法を選択する □"本人の情報の理解の特徴や傾向、学習スタイルに応じて分かりやすい表現や伝え方を選択する。 (例:具体例や抽象的な例の使い分け、    視覚情報が分かりやすい本人に対して文章や図で書かれた資料を用意する) 相談した内容について本人と支援者の認識の確認を行う □「相談の結論」「本人が理解したこと」「これから取り組むこと」等相談の内容を本人の言葉で説明してもらったり、支援者が要約して確認するなど、認識や理解が一致しているかの確認を行う。 4 相談内容の構造化 時間を意識した相談を行う □支援者も本人も共に相談時間を意識するための工夫を実施する。 (工夫の例:事前に本人と相談時間を共有する、カウントダウンタイマーを使用する、  相談で取り上げる話題や優先順位を再調整する等) □相談の終了時間までに取り上げたい話題を全て取り上げられない場合や結論が出ない場合でも、話の区切りを付けたり、次の相談で話す見通しをつける等により、予定時間内に相談を終える。 相談で取り上げる話題の優先順位を決める □相談で取り上げたい話題が複数ある際には、相談前や相談の冒頭で優先順位を本人と一緒に話し合い、優先順位を決定してから相談を行う。 見通しをつけて相談に臨む □相談で取り上げたい話題について所要時間の目安を付け、相談時間の見通しを持つ。 □相談で取り上げたい話題について、時間内に「どんな内容をどこまで話すのか」「終わりはどこか」といった見通しをつける。 □取り上げたかった話題が終わらなかった場合やその場で結論を出せない展開となった場合の準備をする。 (例:「取り上げたい話題が取り上げきれなかった場合、再度相談日を設定する」    「支援者個人で決めることが出来ないことは○○までに回答する」等) ホワイトボードやメモを活用し、相談内容を「見える化」する □本日の相談で取り上げる話題や話し合った内容を板書したり図示する等、本人と共有したり相談中に確認できる工夫を実施する。 □本人の発言について板書やワークシート等に記入する際は不必要な要約をせず、発言をそのまま記入する。要約や表現を変える場合には、表現について本人と確認して記入する。 (例:「○○と言い換えて板書に書いても良いですか?」等) □板書や図示をする際は情報を分けて記載したり、ポイントの色を変えるなど後から見返した時に分かりやすくする。 (分類の例:「相談のテーマ」「事実」「気持ち」「結論」「取組み目標」等) 支援全体のプロセスを明確化し、共有する □ 複数回に渡って相談する場合、初めに「前回の相談内容」や「本日のテーマ」を、相談の終了時には「相談のまとめ」「次回の相談までに実施すること(本人、支援者共に)」「次回の相談で話す内容」を確認し、見通しや進捗を本人と共有する。 5 支援ツールの効果的な活用 支援ツールの特徴を理解し、相談の目的に応じて適切に使用できる □相談の目的にあった適切な支援ツールを選択する。 □支援ツールを使用するか否かを本人が選択できるよう支援ツールを使用する目的や効果を説明し、本人に提案する。 6 本人の気づきに対する支援 他者(支援者等)からの見え方を本人と共有する □本人の言動が他者(支援者等)からどのように見えているかを具体的かつ客観的に伝える(良い印象を与える言動や場に即していないと捉えられる可能性がある言動等)。 □一般的、または支援者が考えているマナーやルールを一方的に伝えず、本人の経験や知識、本人を取り巻く環境を総合的に把握したうえで本人が受け止めやすい表現や内容で説明する。 課題を絞り込み、行動目標を検討するために必要な場面や状況の整理・分析を行う □相談で取り上げる事柄が起きた際の環境や状況について客観的な視点で整理する。 □本人の感情に共感を示しつつ、感情面のみに焦点を当てず、「どう行動すれば場に即した適応的な行動となるか」という行動面にも焦点を当てて問題を整理する。 7 目標の設定への支援 目標や行動を選択する際に本人の自己決定を支える □想定される選択肢と、そのメリット、デメリットのポイントを整理し、本人と確認する。 □支援者側が考える選択肢や行動のメリット、デメリット等の検討材料となる視点について情報提供をする。 □本人が判断に悩む場合は、検討するための時間を設ける。 目標達成のための行動を実行する場面や行動の内容を具体化し、本人と共通認識を図る □目標は「具体的」「達成の状況が判断できる」「達成可能」「目標までの期限が明確」であるものを設定する(目標設定の仕方の詳細はP44を参照)。 □目標達成のための行動を実行する場面を具体的に確認する。必要に応じて模擬的な場面を設定する等、行動を実行できる環境を整備する。 8 自己肯定感、自己効力感への配慮 自己肯定感・自己効力感に配慮した関わりを行う □問題となっていることや改善したいことだけではなく、本人の「出来ていること」「うまくいった経験」等についても焦点をあてて相談を行う。 □支援者が観察した本人の「出来ていること」「うまくいっていること」「強み」について、具体的に本人に伝える。 □本人の話す辛さや困難さについては共感的に受け止め、本人の取組に対してポジティブなフィードバックを行う。 9 信頼関係の構築・心理的安全性への配慮 本人との信頼関係を構築する □傾聴の姿勢や共感・受容的な態度で相談に臨む。 □守秘義務や業務上対応できる範囲について支援者自身がよく理解し、本人に分かりやすく説明する。 本人が安心して相談できるよう対応する □本人の言動から不安の有無を把握し、不安の程度や内容、影響度について確認を行う。 □相談の前に「相談の目的」「相談の見通し」「守秘義務」「いつでも相談を中断できるなどの選択肢や情報」等を伝え、安心して相談が実施できる関係性を構築する。 □相談を一方的に進めず、本人の課題に準備や意思を尊重した関わりを行う。 (例:「特定の話題に対して不安がある場合は、無理に取り上げず、一旦保留とする」等) 10 支援者の自己理解 支援者が持つ知識に偏ることなく本人と共通認識を図る □支援者自身が学んできた専門性や知識、支援者の成功体験等の影響の有無を自覚している。 □本人の話す内容を支援者の持つ枠組みで捉えないよう、理解した内容を本人と確認する。 □本人の経験や持っている知識、取り巻く環境といった背景も考慮し、本人が伝えたいことを理解しようと努める。 支援者としての心理に振り回されず、本人にとって必要な支援を適切に検討する □本人から頼られたり、非難された際に感じる心の動き(支援者の心理)を自覚している。 (支援者の心理の例:「頼られて嬉しい」           「(非難された際に)期待に応えられない自分はダメだ」等) □心の動きを感じた場合も本人に提供できる支援の内容を冷静に検討し、本人にとって必要な支援を検討する。 就労支援における発達障害者との相談スキルのチェックリスト(まとめシート) 支援者の対応 チェックして気が付いたこと(できていること、今後工夫したいこと、周囲から伝えてもらったこと) 1 本人の特徴の把握・アセスメント  相談への影響が想定される特性についてアセスメントを行う 2 相談場面の設定 本人の苦手とする、または注意を阻害する刺激を減らし、相談に集中しやすい環境を設定する 本人が落ち着いて安心した状態で相談に臨むための環境面の工夫や対策を行う 3 本人が理解しやすい伝え方 使用している言葉の意味や定義を合わせる 本人の理解度や理解の仕方に応じた情報量で伝える 理解しやすい表現方法を選択する 相談した内容について本人と支援者の認識の確認を行う 4 相談の構造化 時間を意識した相談を行う 相談で取り上げる話題の優先順位を決める 見通しをつけて相談に臨む ホワイトボードやメモを活用し、相談内容を「見える化」する 支援全体のプロセスを明確化し、共有する 5 支援ツールの効果的な活用 支援ツールの特徴を理解し、相談の目的に応じて適切に使用できる 6 本人の気づきに対する支援 他者(支援者等)からの見え方を本人と共有する 課題を絞り込み、行動目標を検討するために必要な場面や状況の整理・分析を行う 7 目標の設定への支援 目標や行動を選択する際に本人の自己決定を支える 目標達成のための行動を実行する場面や行動の内容を具体化し、本人と共通認識を図る 8 自己肯定感、自己効力感への配慮 自己肯定感・自己効力感に配慮した関わりを行う 9 信頼関係の構築・心理的安全性への配慮 本人との信頼関係を構築する 本人が安心して相談できるよう対応する 10.支援者の自己理解 支援者が持つ知識に偏ることなく本人と共通認識を図る 支援者としての心理に振り回されず、本人にとって必要な支援を適切に検討する <生活記録表> 氏名 月日 生活リズムの目標 睡眠 気分 眠気 集中力 目標達成のため 工夫した点 特記事項(作業環境、イベント等) 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 昨日はよく 1.嬉しい  2.楽しい  3.幸せ  4.リラックス  5.悲しい  6.怒っている  7.いらいら  8.憂鬱  9.緊張  10.心配  11.その他 0 ~ 5 (小 ~ 大) 0 ~ 5 (低 ~ 高) 1.眠れた 2.普通 3.眠れなかった AM PM AM PM AM PM / (月) / (火) / (水) / (木) / (金) / (土) / (日) / (月) / (火) / (水) / (木) / (金) / (土) / (日) [記入例] 1/21(月) 2時就寝 ○ 時に携帯アラームをセットした。 ピッキング作業初日  9 4 1/22(火) ○ 昨日昼寝+服薬忘れ。本日SOCCSS法初日 ストレス対処整理シート(ストレス温度計) ●ストレス対処整理シート(ストレス温度計)は、自分のストレス・疲労のサイン、強さ(レベル)、対処方法について整理するためのものです。プログラムを通じ、「身体や気持ちの変化」に応じた「対処方法」を確認しながら整理しましょう。 ●このシートを基に、自分の身体や気持ちの状態に応じた対処方法を行いましょう。ストレスレベルが低い段階で、対処方法を行うようにしましょう。 ストレス・疲労の 対処方法の例 深呼吸する 数を数える 音楽を聴く 鼻歌を歌う 本を読む マンガを読む  絵を描く  ゲームをする  静かな場所で休む 飲み物を飲む  手や顔を洗う ストレッチをする  ツボ押しをする 軽い運動をする 自転車に乗る  シャワーをあびる 入浴する 好きなことをイメージする 好きな言葉を考える その他・・・ 100 高 50 中 低 0 ストレス・疲労のレベル ストレス・疲労のサイン ストレス・疲労のレベルに応じた対処法 体験整理シート(2023年版) 体験整理シート(ふり返り用) 問題状況分析シート 問題 目標 <問題状況の把握> <解決策の検討> いつ どこで 誰と 解決策案 効果 現実性 選択判断 自分の状況   相手への影響 相手の気持ち 原因 解決策の実施手順・課題 資料9 ●発達障害のある方が職業生活で困っていることの例 (情報処理過程におけるアセスメントの視点(Ver.10)補足資料1) 情報処理過程におけるアセスメントの視点(Ver.10)補足資料2 資料10 感覚特性チェックシート 記 入 日 氏   名 【記入方法】 ・以下の項目について、当てはまるところにチェック✓をしてください。 【1】触覚 経験したことはない まれに経験している しばしば経験している いつも経験している 1 人に触られたり近寄られると、とても驚いたり、イライラしたり、緊張が強くなったりする 2 不意に背後から近寄られたり触られるとゾッとする 3 触られると過剰にくすぐったい、または不快に感じる身体の場所がある 4 触ると苦痛に感じる、触りたくない物がある 5 洋服や下着のタグ、縫い目がとても気になる(チクチクして痛い。強いかゆみを感じる等) 6 ちょっとしたことでも、とても痛いと感じる 7 暑さ、寒さの変化によって、体調や疲れ、気分に影響を受けやすい 8 触っただけでは物を識別することができない(見ないと、触っている物が何かわからない) 9 ケガやヤケドをしても気づくのが遅い(痛みの感覚を感じにくい) 10 触るととても安心できるものがある 11 手持ちぶさたな時等に、物を噛んだりいじったりする(爪かみ、服のそで口、鉛筆等) 【2】前庭覚 経験したことはない まれに経験している しばしば経験している いつも経験している 1 姿勢が崩れやすく「だらしない」「ちゃんとしなさい」といった注意をよく受ける 2 長時間立っていると、とても疲れる 3 イスに座っている時、足を前に投げ出して背もたれに寄りかかることが多い 4 面接等、一定時間背筋を伸ばして座り続けることがとてもつらい  5 座っている時、無意識に机に肘(ひじ)をついていることが多い  6 バスや電車で、揺れや急ブレーキがあると踏ん張れず、倒れたり人にぶつかってしまう  7 つまづいたとき、とっさに手や足が出ず転んでしまう  8 乗り物に酔いやすい  9 エレベーターやエスカレーター、ジェットコースター等、上下に動くものに乗るのが苦手  10 高い所に登ったり、階段を上がったり下がったりすることに怖さを感じる  11 おじぎ等、姿勢の傾きが変わるとフラフラして不安になる  【3】固有覚 経験したことはない まれに経験している しばしば経験している いつも経験している 1 強く力を込めて物を押したり引いたりするような、筋力を使うことは苦手 2 重い物をうまく持てない(バランスのよい、疲れにくい持ち方がわからない) 3 手に持っている物をよく落とす(力加減が弱すぎる) 4 物を置くときに大きな音が出たり、ドアを強く閉めてしまう(力加減が強すぎる) 5 体が硬く、動きがギクシャクする。または、首や腕、肩の関節が動く範囲が狭い  【4】嗅覚 経験したことはない まれに経験している しばしば経験している いつも経験している 1 嗅ぐと気持ちが悪くなったり、吐き気がする等、とても苦手なにおいがある 2 他の人が気づかないようなにおいに気づくことが多い 3 他の人が気づくにおいに気づかないことが多い(言われてもわからないことがある) 4 物や食べ物、人(自分)等のにおいを嗅ぐクセがある 【5】味覚 経験したことはない まれに経験している しばしば経験している いつも経験している 1 特定の味、色、食感、温度等、食べられない(食べたくない)物がある 2 食べ方に自分なりのルールがある 3 口の中で味が混ざるのがとても苦手 【6】聴覚 経験したことはない まれに経験している しばしば経験している いつも経験している 1 苦手な音がある(機械音、特定の人の声等) 2 突然の音を聞くと、とても驚いたり、怖かったり、辛かったりする 3 以前は辛かったが、何かのきっかけで(または、いつの間にか)大丈夫になった音がある 4 たくさん人がいる場所(ショッピングモールや体育館など)にいると、ざわめきや反響等でとても疲れる 5 人が多く、ざわざわした場所での会話は聞き取りづらい 6 特定の音や声が聞き取りにくく感じる 7 名前を呼ばれても気づかなかったり、周囲の物音に気づかないことが多い 8 電話だと、相手の声が聞き取りづらい 9 集中して聞かないと、人の話し声が聞こえなくなる感じがする 【7】視覚 経験したことはない まれに経験している しばしば経験している いつも経験している 1 特定の物を見るとつらく感じることがある(蛍光灯がまぶしすぎる等) 2 白い紙に書かれた黒文字が読みづらく感じる(白色以外の紙に書かれた文字の方が読みやすい) 3 読みづらいフォント(文字の種類・明朝体やゴシック体等)がある 4 カラフルな色が使われた書類やパンフレット、チラシ等は読みづらく感じる 5 見るとつらく感じる色がある 6 自分の色の見え方と他の人の見え方が違うように感じる(赤色が黒っぽく見える等) 7 電化製品の電源の点灯等、光って知らせるものに気づきにくい 8 回転する物、チカチカする光や反射、カーテンやブラインドから見える光に惹きつけられる 【8】視覚認知 経験したことはない まれに経験している しばしば経験している いつも経験している 1 一度にたくさんの文字や文章を見ると疲れる。ひどくなると頭痛やめまいがする 2 読書、デスクワーク等、手元で文字や細かい物を見る作業をするとぐったりと疲れる 3 眼を細めたり、片目で見る方が見やすく感じるときがある 4 動くものを目で追えず見失いやすい 5 人や物の接近に対する反応が遅いため、人にぶつかることやぶつかりそうになることがある 6 ホワイトボード等を見て内容をメモするときに、ホワイトボードとメモを交互に見ていると、 「どこを見て書けばいいのかわからなくなる」、「片方へ目を移す間に、内容を忘れてしまう」といったことがある 7 地図を見ても、様々な線や記号、文字、色などが入り交じっていているため、必要な情報 (目的地やこれから進む道、乗る路線等)だけを見つけることが苦手 8 「行き」と「帰り」の道が違って見えるため、一度通った道でも迷うことがある 9 たくさんある物の中から特定の物を探すとき、なかなか見つけられない (冷蔵庫の中から食べたいものを探す、似たような部品が入った箱から決められた種類の部品を探す等) 【自由記述欄】 チェックがついた項目について気づいたことや、項目以外にご自分で気になっている特徴についてご記入ください 資料11 障害者職業総合センター 職業センター 特性対処のヒント集 付 録  対応のヒント集  支援者へのヒアリング等で収集した、発達障害者との相談においてよくある相談場面での対応や支援者の相談スキルの向上に役立つ実践例を紹介します。支援の際のヒントとしてください。   よくある相談場面でのヒント Case1 話題が拡散しやすい Case2 相談時間が超過する Case3 話がかみあわない Case4 本人のルールを尊重した妥協点を見いだしにくい Case5 「はい」と返事をするが行動化されない 相談スキル向上のためのヒント Case6 話題にしにくいことを伝えるとき Case7 本人の困っている原因が分かりづらいとき Case8 支援者が責められているように感じるとき Case9 本人が質問に対して沈黙しているとき Case1:話題が拡散しやすい 考えられる要因 集中を阻害される環境で相談を行っている  *視界に気になる物がある、他者の動きが目に入る  *気になる音が聞こえる  *オープンスペースや様々な音が聞こえるなど相談に集中できない場所で相談をしている 相談の目的や内容について支援者と本人の間で共通認識が図られていない 1つの話題に関連して次々と思考が浮かんでくる 思ったことから話し始めてしまう まとめて意見を伝えることが苦手   対応のポイント  【環境設定】 ・本人の感覚特性や注意の特徴を確認し、集中しやすい環境を設定する ・秘匿性が高い相談をする時には個室で行う 【相談の構造化】 ・相談の目的や進め方について、開始前に本人と共通認識を図る 例)相談のテーマや時間を板書し、いつでも確認できるようにしておく ・目的から離れた話題となった時には再度今日の相談の目的を確認し、話題を戻す 例)「その件は、後程(別の機会に)詳しくお話ししましょう。一度、元の話に戻しますね。」 ・事前に相談する内容を伝えておき、意見をまとめてきてもらう   Case2:相談時間が超過する 考えられる要因  相談時間を意識していない 話すことに注力し、時間に注意が向かない 相談の終わりが分からない 相談が何時までか分かっていない 話の優先順位が付けられていない 時間の感覚が掴みにくい 1つの話題から関連して次々と思考が浮かんでくる 対応のポイント  【相談の構造化】 ・相談時間が何時までか共有する ・相談の途中で残り時間を確認する ・話の優先順位を決めておく ・相談途中で話題を思いついた場合には改めて優先順位を付ける ・相談の終わりを決めておく 【支援ツールの活用】 ・アナログタイプの時計 ・カウントダウンタイマー ・アラーム       等 Case3:話がかみあわない 考えられる要因 同じ言葉であっても言葉の意味やニュアンスが異なる 説明が不足する  *状況を客観的に捉えることが苦手なため、本人が把握している部分のみの説明になる 状況を客観的に捉えることはできるが、言葉でまとめようとするとまとめられない 思いついたことから話すため、時系列がバラバラになる 対応のポイント 【言葉の意味やニュアンスの確認】 ・本人と支援者の使っている言葉の認識をすり合わせる 例)「○○という言葉は、どういう意味ですか?」 「○○という言葉は、△△という意味で合っていますか?」 【本人が話す内容の整理】 ・本人が話したいことを事前にメモ等にまとめてもらう 【支援者が本人の話を整理しながら聞く】 ・時系列で整理する ・5W1Hで確認する Case4:本人のルールを尊重した妥協点を見いだしにくい 考えられる要因 過去の成功体験や失敗体験による学習から行動している 効率的な行動や状況に応じた行動を検討することが苦手 本人が行動を修正する必要性を感じていない 対応のポイント 【本人のルールを教えてもらう姿勢で聞く】 ・本人がこれまでどのような経験をして行動しているのかを聞く ・本人のルールが現実的でなかったり、効率的でないと思われる場合であっても否定せずに聞く ・本人のルールは価値観が反映されていることもあるため、良い悪いで判断せずに支援者との価値観の違いとして受け止める 【本人のルールどおりの行動を修正する必要性を話し合う】 ・本人のルールどおりに行動することで日常生活にどのような影響が生じるかを整理する ・本人が変更しがたいルールと変更を検討できるルールを分け、変更を検討できるルールから変更を検討する Case5:「はい」と返事をするが行動化されない 考えられる要因 本人がどのように行動すればよいのか理解できていない 支援者の説明が本人の理解の仕方にあっていない 例)口頭指示を覚えることが苦手な本人に口頭だけで説明する イメージすることが苦手な本人にたとえ話を交えて説明する 理解していないままに返事をしてしまう その場では理解できていたが、実際に行動する場面で、どうしたらいいのか分かっていなかった 本人にあった目標設定になっていなかった 対応のポイント 【本人の理解の仕方に合わせて説明する】 ・書面を用意し、読み合わせる ・重要な箇所にはしるしをつける ・ロールプレイをする      等 【伝えたあとに理解しているかを確認する】 ・本人にいつ、どのような行動を取ればよいのか説明してもらう 例)「先ほど伝えた対策はいつ、どうやって行うかイメージできていますか?具体的に教えてください。」 Case6:話題にしにくいことを伝えるとき 考えられる要因 ラポールの形成に不安がある 支援者が本人をよく知らない状況で伝えることに不安がある 本人に伝えることでどのような影響が生じるかを想定できない、ネガティブな反応が想定される  *本人に伝えることで本人が落ち込んだり、怒ってしまうのではないか  *相談が継続できなくなるのではないか 対応のポイント 【ラポール形成】 ・傾聴する ・本人の体験や考えを支援者の枠組みに当てはめて理解しない 【話題にしにくいことを伝える意図を説明する】 ・伝える目的を明確にしたうえで最初に説明する 【本人にとってプラスに感じられることも合わせて伝える】 ・話題にしにくいことを伝える前または後に本人にとってプラスに感じられることを伝える 【本人を追い詰めない】 ・本人が落ち込む、反省するだけにならないよう本人が自らの振り返りを深められる、次の取組を検討できるようにサポー トする ・本人にとっての逃げ道を用意する 例)「言いにくければ、今日話さなくても良いですよ。」 Case07:本人の困っている原因が分かりづらいとき 考えられる要因 本人と支援者で使っている言葉の意味やニュアンスが異なることで、本人が説明していることを支援者が理解できていない 本人が困りごとの全体像を把握できていない 言葉でうまく表現できない 本人の困りごとを支援者の枠組みに当てはめて理解している 対応のポイント 【事実を具体的に聞く】 ・5W1Hで事実を具体的に確認する 例)「誰と、いつ、どこで、何が起きたのか教えてください。」 【事実に対する本人の受け止め方を聞く】 ・事実を確認したのちに、本人がその困りごとをどのように受け止めているのかを確認する 【何に困っているか仮説を立て、本人に確認する】 ・本人の話から支援者が考える仮説を本人に伝え、本人の考えや何に困っているのかを確認する Case8:支援者が責められているように感じるとき 考えられる要因 支援者の質問の意図が分からない 支援者から責められるのでないか、叱られるのではないかと思い、他責的な言い方になる 相手の立場に立って考えることの苦手さ 本人のコミュニケーションの特徴  *怒っていないが、怒っているような言い方になる  *ぶっきらぼうな言い方になる  *焦っている等の特定の状況で語気が強くなる 対応のポイント 【本人に質問した意図を説明する】 ・本人の状況を把握したり、理解するために質問していることを説明する ・本人を責めたり、叱っているわけではないことを説明する 【他責的な言い方に対して支援者がどう感じたか伝える】 ・本人とラポール形成をしたうえで、本人の言い方がどのように聞こえるか、言われた方がどのような気持ちになのかを伝える 例)「○○さんから□□と言われて、悲しい気持ちになりました。」 「○○さんが怒っているように感じました。」 Case9:本人が質問に対して沈黙しているとき 考えられる要因 話す内容を考えている 話したいことの表現に悩んでいる 何を答えればよいのか支援者の質問の意図が分からず、迷っている 考えている最中に他の思考が浮かび、質問がわからなくなった 話すことを躊躇している 対応のポイント 【沈黙の背景を想定、確認する】 ・考えていることを確認する質問を投げかける 例)「今、何か悩んでいますか?」 【本人の言葉を待つ】 ・考えを整理するための時間を取ってから相談を再開する(再開が後日になる場合もある) 【解答の例を示す】 例)「例えば、○○や△△ということは…」 【質問を伝えなおす】 ・かみ砕いた表現や具体的な表現等で伝えなおす ・クローズドクエスチョンや質問内容を絞った質問の仕方にする ・質問を板書し、注意を向ける 【信頼関係の構築が十分できていないことについての対策】 ・対応方法について先輩や上司と相談する コラム 「話題が拡散しやすい」のはいつも?  Case1の「話題が拡散しやすい」は地域センター等のアンケートでも複数挙げられており、発達障害者との相談において遭遇しやすい場面の1つです。Case1で示した要因を特定し、対応を検討するにはもう少し詳しい分析が必要です。  分析にあたっては「話題が拡散しやすい」という事象は、1回の相談だけで見られたことか、よくあることかということが1つの視点です。この視点で以下の①~③のように分析し、対応を検討してみます。 ① 特定の方との相談時によくある ② 今日、もしくは特定の1回のみ ③ 相手は限定されないが、自分の相談時に起きやすい  ①の場合、本人の特徴の影響が要因として考えられます。そのため特徴に応じた環境設定や相談の構造化を実施することが重要です。  ②の場合、本人の特徴の影響は考えられますが、いつもなら抑制していることができにくい状況になっていたり、いつもは気にならない感覚刺激を敏感に感じ取っているといった可能性が考えられます。いつもと異なる理由として、「疲労の影響」「気がかりなことの有無」「通常とは違う環境で相談を実施している」など、何が普段と違うのかを分析し、要因にあわせた対応を検討します。本人にフィードバックし対応方法を一緒に検討できれば本人の自己理解を深める機会にもなります。  ③の場合、支援者のスキルや特徴が相談に影響を及ぼしている可能性があります。「相談の目的を明確にしているか」「答えやすい質問の仕方ができているか」「支援者自身が集中を阻害される要因がないか」などを自分で確認してみましょう。  例として、Case1を取り上げましたが、この視点はいずれの場面でも必要となります。1度だけ見られたことをそのまま特徴の影響と判断するのではなく、他の場面との比較や支援者自身の相談の傾向を踏まえたうえで、本人と対応方法を確認することが大切です。 障害者職業総合センター職業センター 支援マニュアルNo.28 発達障害者の障害特性を踏まえた相談の進め方 発 行 日  令和7年3月 編集・発行  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター職業センター            所在地:〒261-0014 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-3 電 話:043-297-9043(代表) URL:https://www.nivr.jeed.go.jp 印刷・製本  株式会社 コームラ  この成果物の著作権の取扱いについては、著作権法及び当機構の規程(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構のホームページを参照)の定めるところによるものとし、ご利用なさる方は著作権法で認められている範囲を逸脱しないように、文化庁の著作権に関するサイト等をご確認いただき適切なご利用をお願いします。                           当機構ホームページ「著作権・免責・リンク」  https://www.nivr.jeed.go.jp/copyright.html