はじめに 障害者職業総合センター職業センターでは、平成 17年度から、知的障害を伴わない発達 障害のある方を対象とした「発達障害者のワークシステム・サポートプログラム」を実施し、 発達障害者に対する職業リハビリテーション技法の開発・改良を進めてきました。 その開発成果については、継続して、実践報告書や支援マニュアルに取りまとめるとともに、 職業リハビリテーション研究・実践発表会を始めさまざまな機会をとおして発信しています。 本報告書で取り上げた「問題解決技能トレーニング」の支援技法は、平成 17年度実践報告書 「発達障害者のワークシステム・サポートプログラムとその支援技法」で、アメリカで開発された 発達障害者のための SOCCSS(ソックス)法を主としてグループワークで行うものとして援用し 、平成 24年度支援マニュアル№8「発達障害者のための問題解決技能トレーニング」に取りまとめ、 地域障害者職業センターを始めとする全国の支援機関等に配布するとともに、支援者を対象とした 講習を行いながらその普及に努めてきました。 そうした結果、問題解決技能トレーニングは現在では多くの就労支援機関で活用されるようになりましたが、 支援現場からは集団トレーニングだけではなく、ジョブコーチ支援や個別相談等の個別の支援において 活用する方法を知りたいといった要望や意見を頂くようにもなりました。 このため、平成 30年度より個別の支援において活用できる問題解決技能の技法開発の改良に取組み、 その成果を実践報告書として取りまとめました。 なお、本技法開発にあたり、 SOCCSS法全般について北海道教育大学教授 萩原拓氏、問題解決療法 について信州大学准教授高橋 史氏から、それぞれの専門的知見に基づき、ご助言を賜りましたことを 深く感謝申し上げます。 本報告書が、就労支援を担う方々に熟読いただき、発達障害者の方々のスキル習得に有用に活用され、 職業リハビリテーションサービスの質的向上の一助となれば幸いです。 令和2年3月 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター職業センター 職業センター長望月春樹 目 次 はじめに 第1章 ワークシステム・サポートプログラムの概要  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 1 WSSPの概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 (1) WSSPの基本構成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 (2)就労セミナー ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 (3) 作業・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 (4) WSSPにおける個別相談 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 第2章 問題解決技能トレーニングと SOCCSS法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 1SOCCSS法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 (1) SOCCSS法とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 (2) SOCCSS法の特徴 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 (3)他の問題解決の方法とSOCCSS法との相違 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10 (4) SOCCSS法の実施用紙 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 2 グループワークで実施するWSSP問題解決技能トレーニング ・・・・・・・・・・・・・16 (1)これまでのグループワークで実施するWSSP問題解決技能トレーニング ・・・16 (2)グループワークにおける問題解決技能トレーニングの基本的な考え方 ・・・18 第 3章 背景と目的   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20 1 改良に向けた支援ニーズと課題点の整理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20 2 改良の方向性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21 第 4章 SOCCSS法に基づいた個別相談モデルの作成と試行 ・・・・・・・・・・・22 1 問題解決技能トレーニングの個別相談での活用可能性について ・・・・・・・・・・22 2 個別相談モデルの作成と試行結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23 (1) SOCCSS法の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23 (2)実施事例(Aさん) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29 (3)実施事例(Bさん) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34 3 SOCCSS法の簡略版の作成と事例 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38 (1)簡略版の作成目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38 (2)簡略版の実施方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38 (3)簡略版の留意事項 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38 (4)実施事例(Cさん) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40 (5)実施事例(Dさん) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45 (6)簡略版の効果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49 (7)簡略版の実施上の工夫 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49 4 SOCCSS法及びSOCCSS法(簡略版)のマニュアル ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50 第5章 個別相談場面での活用のための工夫と留意事項 ・・・・・・・・・・・・・・・・62 1 個別相談に活用することのメリット ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・62 (1)相談の枠組みがあると、相談を進めやすい ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・62 (2)問題状況を整理する方法を学べる ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・62 (3)具体的な実施方法とその振り返りまで考えることができる ・・・・・・・・・・・・・62 2 個別相談に活用する際の工夫・ポイント ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・63 (1)対象者にあった選択肢の立て方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・63 (2)対象者の納得性・自発性の促し方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・63 (3)対象者像に応じた工夫 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・64 3 実施上の留意事項 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66 (1)事前に支援者がSOCCSS法の目的や流れを覚えておく必要がある ・・・・・・・・・66 (2)目的や理由を対象者に丁寧に説明する ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66 (3)全体の流れを説明し、見通しを持ちやすくする・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66 (4)相談相手に合わせて、実施の仕方を変える・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66 (5)問題の内容等によっては、実施に時間を要する・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・67 第6章 まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・67 教材集 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・69 1 SOCCSS法実施の流れ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・71 2 SOCCSS法の活用のポイント ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・73 3 SOCCSS法実施用紙(利用者用マニュアル) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・75 4 SOCCSS法実施用紙 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・77 5 SOCCSS法支援者用記録用紙 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・79 6 SOCCSS法(簡略版)実施の流れ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・85 7 SOCCSS法(簡略版)支援者用記録用紙 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・88 第1章 ワークシステム・サポートプログラムの概要 障害者職業総合センター職業センター(以下「職業センター」という。)では、知的障害を伴わない 発達障害の診断を受けている者(以下「発達障害者」という。)を対象とした「ワークシステム・ サポートプログラム」(以下「 WSSP」という。)を実施しています。職業センターは、 WSSPの実施を とおして支援ノウハウの蓄積を行い、発達障害者の職業リハビリテーションにおける支援技法の開発及び改良を行っています。 開発等を行った支援技法については、実践報告書や支援マニュアルにとりまとめ、地域障害者職業センター (以下「地域センター」という。)や、障害者就業・生活支援センター等の支援機関に配付するとともに、 職業リハビリテーション研究・実践発表会での報告等をとおして広く普及を図っています。詳細については、 職業センターのホームページをご覧ください(http://www.nivr.jeed.or.jp/center/center.html)。 1 WSSPの概要 WSSPは「ウォーミングアップ・アセスメント期(5週間)」(以下「アセスメント期」という。)と 「職務適応実践支援期(8週間)」(以下「実践支援期」という。)の合計 13週間で実施しています。 アセスメント期では、受講者の状態像(障害特性やセールスポイント、職業的課題等)について、 環境との相互作用を含めて把握します。また、受講者の状態像に応じた支援方法の仮説作りを行います。 実践支援期では、アセスメント期で作った仮説の検証、就職後・復職後等の個別状況に応じた支援方法の整理を行います(図1)。 図1WSSPの概要 (1) WSSPの基本構成 発達障害者の就労支援にアセスメントは不可欠であり、アセスメントは障害者の状態像把握だけでなく、 状態像に応じた個別的な支援技法について整理することも含んでいます。 WSSPは、スキル付与支援をしつつ、 アセスメントを行うプログラムといえます。 WSSPでは、支援を効果的に進めるために、発達障害のある受講者一人ひとりの障害特性や職業上の課題等について、 「就労セミナー」、「作業」、「個別相談」の各場面を関連づけてアセスメントをしています。 図2「就労セミナー」、「作業」、「個別相談」の関連づけ (2)就労セミナー 就労セミナーでは、4種類の技能トレーニングを行い、職業生活を維持するために必要な技能の習得を図ります。 ただし、必ずしも受講者一人でトレーニング内容ができるようにすることだけを目的とはしていません。 各技能トレーニングを通じて、受講者の障害特性についてアセスメントを行うことも重要な目的となります(図3)。 図3就労セミナーにおける4つの技能トレーニング (3) 作業 アセスメント期では、ワークサンプル幕張版等を用いた比較的シンプルな作業設定における受講者の状況を確認します。 具体的には、作業遂行上の障害特性の現れ方や指示理解、作業の正確性、速度等の状況を確認します。それと並行して、 作業の進め方を工夫したり、環境調整等を行いながら、各受講者の障害特性に応じた対処方法を検討するための情報を収集します。 実践支援期では、アセスメント期で把握した情報や希望する働き方に応じて、より就労場面に近い作業環境を設定し、 検討した対処方法や受講者に合った周囲の関わり方(指示の出し方等)、環境設定を試します。「作業」の一環として、 民間事業所での職場実習(5日程度)を実施し、それまでに職業センター内で試してきた対処方法や事業所に要請する 配慮事項等の効果検証を行います。 「作業」におけるアセスメント期と実践支援期の各目的、具体的な作業の種類については表1と表2のとおりです。 表1WSSPにおける「作業」の目的 表2WSSPにおける主な「作業」の種類 (4) WSSPにおける個別相談 「個別相談」では、これまでの経験や WSSPで見られた様子、起こった出来事について受講者自身の捉え方を聞いたり、 支援者からフィードバックしながら、障害特性、セール スポイント、課題等に関する情報をアセスメントし、整理していきます。また、課題への受講者自身の対処方法、 周囲に求める配慮(作業環境の設定や周囲の関わり方)等について、受講者とともに考え、「作業」等で試した状況の 振返りを行います。これを繰り返すことによって、受講者の自己理解を促します。整理された特性や対処方法、 配慮事項等については、受講者がナビゲーションブック1)に取りまとめます。 <引用文献> 1) 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構:「支援マニュアル No.13 ナビゲーションブックの作成と活用」、2016. 第2章 問題解決技能トレーニングと SOCCSS法 1 SOCCSS法 WSSPの就労セミナーで行う問題解決技能トレーニングは、発達障害の障害特性を考慮して、問題の分析、 解決方法の検討を効率的・効果的に進めるためのトレーニングです。問題解決の方法は、発達障害者が 日常生活を通して自然に体得できるものであるとは限りません。そのため、このような問題解決技能は、 体系的にスキル付与される必要があります。 SOCCSS法は、ジャン・ルーザが発達障害のある息子のために発案し、カンザス大学(当時)の ブレンダ・スミス・マイルズが開発しました。問題解決技能トレーニングでは、この発達障害者向けの 「 SOCCSS法(ソックス法)」を援用して実施してきました。 図4問題解決技能トレーニングの位置付け (1) SOCCSS法とは SOCCSS法は、S(状況把握 Situation)、O(選択肢 Option)、C(結果予測 Consequences)、C(選択判断 Choices)、 S(段取り Strategies)、S(事前試行 Simulation)の枠組み(フレームワーク)で構成されており、 社会的場面の因果関係の理解や、問題解決スキルの育成の手助けができるようになっています。 問題解決技法(SOCCSS法) 1問題の明確化(状況の把握(S;Situation)) その問題はいつ起こったか? その問題はどこで起こったか? 関係する人は誰か?何が起きたか? 何をしたか? 理由は?など 2ブレインストーミング(選択肢(O;Options)) 3解決策の決定 (結果予測(C;Consequences)) (選択判断(C;Choices)) (段取り(S;Strategies)) (事前試行(S;Simulation)) (事前試行からの検討事項) 4実行 5結果の評価 一つひとつの選択肢の行動をすると何が起こるか、結果を予測する (1)効果(2)現実性から順位をつけて、昀善策を選び出す 具体的な実行計画を立てる 静かな場所で再考する、他の人の意見を聴く、何が起きそうかを書き留める、ロールプレイを行うなどシミュレーションする。 図5SOCCSS法実施の流れ (2) SOCCSS法の特徴 発達障害者向けに開発されている SOCCSS法には次のような特徴があります。 ○ 視覚的に整理できるよう構造化されている。 SOCCSS法は、問題や解決策等を視覚的に整理できる枠組みとなっています。発達障害者にとっては、 問題状況を整理しやすく、枠組みがあることで見通しを持ちやすい構造になっています。支援者にとっても、 枠組みがあることで本人からの聞き漏らしを防ぐことができます。 また、 SOCCSS法は、本人単独で行う必要はなく、構造化されているので支援者と一緒に実施できるようになっています。 ○ 年齢、環境、内容を問わず、発達障害者に幅広く使用できる。 SOCCSS法は、成人だけでなく、学生や子ども等のあらゆる年齢の発達障害者に 使用することができます。 また、職場だけでなく、地域社会、家庭、学校等の様々な場面や環境で使用できるようになっています。もともとは、 社会的場面の問題解決に使用するように開発されてきましたが、人間関係に限らず、職場の作業や生活習慣に関することにも活用でき、 幅広く使用することができるようになっています。 ○本人が納得して行いやすい。 SOCCSS法は、支援者の手を借りながら、本人が自分で模索して、実際に問題解決することを 経験できるようになっています。 SOCCSS法では、特定の解決策に支援者が本人を誘導することはしません。本人が「この言動をするとどうなるか」と結果を予測した上で、 本人が「やってみよう」と思って行動することを尊重する枠組みとなっています。したがって、本人の内的な動機づけを損なうことなしに、 本人の主体性・納得性・意欲を尊重して実施できる枠組みとなっています。一般的に、課題について、支援者が本人の言動に対して 是正を指示するような支援だと、本人が納得せずに反発する場面も見られますが、 SOCCSS法は本人の価値観と効果感を連動させるようになっており、 本人が納得して実行しやすい枠組みになっています。 ○ 社会的場面の理解を助け、問題解決を体験的に知ることができる。 SOCCSS法は、通常、問題が起こった後に用い、問題があった社会的場面に対して、次の(a)~(c)に対する理解を助けます。 (a)因果関係、(b)大抵の社会的場面で選択肢があること、(c)多くの社会的場面のもたらす結果に対し、自分が影響を与えたり、 自分で予測したりできること SOCCSS法を実施することを通して、本人は問題が生じている状況に対して様々な解決策を考え、結果の予測を行います。 いろいろな解決策を出すことは、物事を違った角度から見ることにもつながります。結果の予測をすることは、 職場で生じる出来事にうまく反応することにつながります。 ○ 他の支援方法の併用等、様々な応用が可能である。 SOCCSS法は、集団のみならず、ジョブコーチ支援や個別相談等様々な支援で活 用できます。 また、他の支援方法との併用も可能です。例えば、自己認知力を高めるセルフモニタリングの発展形である 「ビデオセルフモニタリング手法(※)」等を SOCCSS法の中で実施することもできます。 その他、本報告書38ページにある「 SOCCSS法(簡略版)」のような応用的なやり方も可能です。 これは、本人から選択肢が出にくい場合や、各種支援上の時間等制約がある場合に、 SOCCSS法実施用紙(図7)を使用せずに、 支援者が本人に合った選 択肢を提示して通常の SOCCSS法を簡略化して実施する方法です。 このように、 SOCCSS法は他の支援方法と併用することができ、様々な応用が可能です。 (※)ビデオセルフモニタリング手法 ビデオセルフモニタリング手法とは、支援者が本人とともに、本人が映っているビデオを見て、適宜質問やコメントを 加えて行動やふるまいの自己認知力を高め、解決法を一緒に模索していったり、行動抑制を促したりする支援手段です1)。 本人の課題となっている言動について、支援者が言葉で指摘や助言をすると、上から言われたように受け止めて反発したり、 言葉だけでは本人が納得できない場面も生じることがあります。ビデオセルフモニタリング手法では、 慣れるまでは撮られることに抵抗を示すかもしれませんが、ビデオに映った自分の言動を視覚的に見ることで、 自分の言動を理解・認識しやすくなり、本人自ら納得して修正することができます。 図6SOCCSS法の特徴 発達障害者が抱える問題は多岐にわたります。 WSSP受講者の中には、それぞれの抱える思考や行動の特異性が児童期・ 青年期を通じて深く形成されてしまい、思考や行動が他者と顕著に異なることについて自責の念に駆られている者や、 過去の嫌な記憶を繰り返し思い起こし、自己効力感を低下させている者、うつ状態等で二次障害を抱えている者も少なくありません。 通常、何か問題が起きた場合、①問題状況に気づき、②要因や背景を客観的に分析し、③現実的に対応可能かどうかを判断し、 ④事前に選んだ選択肢に対するシミュレーションを行い、⑤行動に移すという一連の過程を、“何気なく、即時的に” 対処していることが多く、仮に選択行動を誤ったとしても、再度効果等の検証を行い新たな対処方法を“自然に” 選んでいることが多いように思われます。 しかし、問題解決や意思決定の方法は、発達障害者にとっては日常生活の中で自然に体得できるものであるとは必ずしも限りません。 また、発達障害者は、問題場面に関する事実を思い出すために、より多くの手がかり(プロンプト)を必要としていることや、 解決法の質が低いことも指摘されており、問題が発生しても効果の薄い対応方法しか思いつかず、 衝動的に同じやり方で対応して失敗を繰り返す者も少なくありません。 SOCCSS法は、行動を予測し、ミスを減らし、社会的ルールや周囲の状況を理解するための構造化されているフレームワークです。 「このように行動するとどうなるだろか?」と行動の結果予測をした上で、本人が自ら納得して選択し問題解決に向けて行動できるようになっています。 職場でトラブルが生じた際に、支援者の手を借りて状況を解釈し、本人が納得した上で自主的に解決に一歩踏み出せるようになっています。 例えば、本人が職場のルールに逸脱するような行動をして問題が発生した場合には、その場面を本人と支援者が振り返って一緒に分析し、 今後どのようにしていくと良いか予測した上で、今までとは異なった行動を実際に行ってみるところに SOCCSS法の特徴があります。 (3)他の問題解決の方法と SOCCSS法との相違 SOCCSS法による問題解決の方法は、問題をなくしていくというよりは、本人が支援者の手を借りながら、 主として、より社会的に適切な手段を検討していく方法となっています。 他の問題解決の方法の中には、事前に問題解決に向けた「目標」や「解決のイメージ」を立てることで解決に向けた行動を促す方法もあります。 WSSP就労セミナーの集団で実施する問題解決技能トレーニングでも、複数の受講者がいて、解決する方向性を統一しないと 議論が噛み合わなくなるため、テーマとする問題に対して解決する「目標」や問題の「原因」を定めます。 しかしながら、発達障害者の中には、個別相談等の場面では「目標」や「解決のイメージ」を検討することが難しい者も少なくありません。 そのため、 SOCCSS法は、他の問題解決の方法のように事前に「目標」や「解決のイメージ」を定めなくとも、起こった問題場面をもとにして 解決に向けた支援を進めていくことができる枠組みとなっています。 また、 SOCCSS法以外の、他の問題解決の方法には「原因」を見極めて解決策を見出していく方法もあります。 このような問題解決の方法では、問題に対する真の原因を見極めることが重要で、これら原因に対する解決策を考え、 メリット・デメリットを確認し、解決に向けた取組を行っていくことになります。 しかしながら、複雑な問題の場合、 実は因果関係の中で「原因」を特定することは必ずしも容易ではありません。なぜならば、問題に対する原因が一つではなく 複数ある場合もありますし、一見すると原因と思われることが実は直接の原因ではない場合、あるいは、 原因と思われることが結果である場合もあるからです。 一方、SOCCSS法では、このような問題の「原因」については特定せずに、支援者とともに状況を分析しながら解決に向けて 行動できる枠組みとなっています。 SOCCSS法は、このように発達障害者の障害特性に対応しており、定まった枠組み(フレームワーク)により系統的に まとめていくことで、本人が自分に何が起こったのかを理解する手助けをするとともに、支援者の手を借りながら本人自身で 問題の解決策を模索し、行動して、実際に問題が解決していく流れを理解できるようになっています。 (4) SOCCSS法の実施用紙 SOCCSS法は、次のような実施用紙(図7)を活用して、視覚的に整理しながら行われます。各項目欄で行う内容や記載事項は次のとおりです。 ⑥ ① ② ③ ④ ⑦ ⑤ ⑧ 図7SOCCSS法実施用紙 ①「状況把握」欄 「状況把握」欄では、問題や課題を生じた状況を把握するため、「関係する人」、「いつ」、 「何が起きた・何をした」、「理由」を分析し、どんな状況だったか本人とともに確かめます。 この欄でのポイントは、本人を含めた関係者すべての行動を記入することと、事実のみを記入することです。 ②「選択肢」欄 「選択肢」欄では、状況を確認した後、取るべき行動や解決策をブレインストーミングします。何事にも選択肢があり、 考えてみることを学ぶ大事なステップです。支援者と本人とで意見を出し合います。支援者が質問することで本人から 選択肢が出てくる場合もあります。また、どうしても本人から選択肢が出にくい場合には、支援者は本人に合った選択肢をいくつか提示します。 この場合、支援者は本人に合った選択肢で、なるべく汎用性のある応用が利く選択肢を本人に提示することが大切となります。 この「選択肢」欄でのポイントは、問題や課題が生じている状況下で、本人が現在行っていることも選択肢の一つとして 「選択肢」欄に記載することです。今、本人が行っている言動を記載することで、「今の言動を続けるとどうなるのか?」、 「今の言動を続けると状況は改善するのか?」等を結果予測する機会となるからです。 ③「結果予測」欄 「結果予測」欄では、ブレインストーミングした選択肢を行うと、何が起こるかを考えます。一つひとつの選択肢の行動をするとどうなるか、 結果を予測します。本人がわからない場合は、定型発達の一般的な見方を翻訳する形で支援者が解説します。 本人が結果を予測することに慣れることは大切なことです。本人が結果を予測することに慣れていなければ、 出来事に上手に対応することができず、結果として、その出来事からの学習ができないばかりか、上手にやり遂げることができずに 不安が増大することにつながる場合もあります。 ④「選択判断」欄 「選択判断」欄では、結果予測に基づき、選択肢の「効果」や「現実性」を確認して優先順位を付け、自分ができると思う行動を 一つ選択します。「その解決策で望むものが得られるか?」、「それは自分の力で行えるか?」、「リスクはないか?」等 確認して自分のニーズに応じた選択肢を一つ選びます。 ⑤「段取り 行動のプラン」欄 「段取り 行動のプラン」欄では、選択された行動を具体的に実行するための段取りや計画(行動のプラン)を作成します。 課題分析のように箇条書きにして、行うことを順番にリスト化したり、フローチャートのような選択肢の図にして記載します。 ⑥「事前試行の方法」欄 「事前試行の方法」欄では、考えた段取りや計画(行動のプラン)を実際に行動に移す前に、シミュレーションの方法や内容を検討します。 選んだ選択肢やその段取りについて、人に相談したり、他の人とロールプレイしたり、あるいは別の方法で試しに行ってみます。 イメージしてみたり、他の人を巻き込んだり、行動リハーサルしたり等の内容となっています。 シミュレーションやリハーサルは、一般的に行われていることです。例えば、社員がプレゼンをする前に練習したりするように、 自然に本番前に普通に行われることです。発達障害者の中には何かトラブルが生じると衝動的に安易に対応して失敗を繰り返す場合もあり、 シミュレーション(事前試行)を行うことが大切です。 ⑦「事前試行からの検討事項」欄 「事前試行の方法」欄で選んだシミュレーションを事前に行ってみて、どうであったのかを記載します。 具体的には、「シミュレーションしてみて別の良い解決方法が何かあったか?」、「考えている選択肢や段取りの修正はあるか?」 あるいは、「では、このまま実際にやってみるか?」等と本人と相談した上で、この欄に検討した内容を本人又は支援者が記載していきます。 ⑧「実際の施行結果・その後の経過」欄 本人が実際に決めた行動を実際に行った後で、本人に実施結果を確認します。「実際にやってみて、どうだったか?」、 「問題解決ができたか?」を本人に聞いて記載します。上手くいかなかった場合は、「どうして上手くいかなかったのだろう?」 と理由を本人に聞いた上で記載します。例えば、「練習したとおりに本番ではできなかった」等記載していきます。 本人が実際に行ってみることで状況への影響を体験できますので、必ず行ってみることがとても重要です。 実行することで自分や状況の変化を実感することが大切です。 しかし、中には、「実際にやってみる」と言いつつ、実行しない(できない)事例もあります。そのような場合は、 選んでいる選択肢の内容を段階的にして、負担なくできることから行うようにする等工夫が必要です。 例えば、時間的な余裕があれば、本人が乗っかってくる内容を選び、本人が「そんな簡単なことでよいのですか?」と言うくらい、 すぐに達成できる小さなことから始めたり、相談直後にすぐできることから始めて、徐々にハードルを高めていくようにする方法もあります。 2 グループワークで実施する WSSP問題解決技能トレーニング (1)これまでのグループワークで実施する WSSP問題解決技能トレーニング 職業センターにおいて、SOCCSS法の考え方をベースに、これまでは主にグループワークとして問題解決技能トレーニングを開発、改良させてきました。 グループワークで実施する問題解決技能トレーニングでも、 SOCCSS法を援用し、 ①問題の明確化、②ブレインストーミング(選択肢)③解決策の決定、④実行、⑤結果の評価というステップで進めていきます(図8)。 このステップを「就労セミナー」でのグループワークと個別相談(一対一の面談)を組み合わせて実施しています。 グループワークでは 「1問題の明確化」から「3解決策の決定」のうち「選択判断」までの段階を取り扱います。問題状況の分析や解決策案を検討する際に、 他者の意見を聴く機会が得られるグループワークを活用して、セミナーによる効果を高めるようにしています。 図8問題解決技能トレーニング実施の流れ 行動した時の「自分の気持ち」、「相手の気持ち」、「相手への影響」といった、 比較的 1人では考えにくい事柄を複数の参加者で話し合えるようにしています。 そうすることで、状況に対する捉え方を関係する人物の気持ちを含めて検討できるようにしました。 このようにグループワークを通じて、自分と他者の考え方の違いを比較し、振り返りやすくしています。 また、問題に関連する状況が複雑な場合や問題が複数ある場合などでは、同じ問題でも受講者によって設定される目標が異なる場合があります。 あるテーマに対して集団で意見交換を行うため、グループワークの進行上、一つのテーマに絞る必要があります。 そのため、どのテーマを取り扱うのかを表記する「目標」という欄を設けました。 さらに、「原因」欄を設け、対象者自身に起因すること、周囲の環境、人間関係等、 環境に起因すること双方の視点から考えられる問題の原因と思われることを記入できるようにしています。 現在のグループワークで実施する問題解決技能トレーニングでは、以上の点を踏まえ、 「SOCCSS法実施用紙」を改良した「問題状況分析シート」を使用しています(図9)。 図9問題状況分析シート 就労セミナーにおいては、問題状況分析シートの枠組みをホワイトボードに記載し、 出された意見を受講者と一緒に確認していくことで情報の視覚化・構造化に努めています。 また、個別場面においては、問題状況分析シートをもとに受講者と支援者が作成した問題解決の方法を検討できるようにしています。 (2)グループワークにおける問題解決技能トレーニングの基本的な考え方 問題解決技能トレーニングのグループワークを効果的に進めるために、次の考え方に基づいて行っています。 ア 問題の状況や原因を把握するスキルの習得 発達障害者が、問題状況に気づき、それを正確に把握し、説明するためには、支援者がプロンプト(手がかり)を示し、丁寧に確認していくことが必要です。 イ 解決策が複数存在することへの気づき グループワークで実施する問題解決技能トレーニングでは、トレーニングの過程で、他の受講者からの意見を聞く機会があります。 ある問題を解決するための解決策には多くの選択肢があることに気づきやすくするためです。 自分が考えた解決策以外にも、 より適切で現実的な解決策がないかについて、改めて振り返る機会となります。 ウ 自分自身の思考や行動の特徴への気づき 問題解決技能トレーニングは、自分が陥りやすい思考や行動の特徴について改めて考える機会となります。 受講者の中には、物事がうまくいかない状況でわずかな対応方法しか思いつかず、 同じ解決策で対応して同じ失敗を繰り返してしまいやすい人もいます。 問題場面における自分の行動や気持ちを振り返ったり、他の受講者の意見を聞いたりする過程で自分自身の物事の捉え方や行動の特徴に気づくことにもつながります。 エ 他者の考えや気持ちに対する気づき トレーニングでは、参加している受講者からも、できるだけたくさん意見を出してもらうことにしています。 その際、それぞれの受講者がどのような意図で発言したのかを確認することで、受講者それぞれの情報の受け止め方、 物事の捉え方があることに対する気づきを促します。 参加している他の受講者と一緒に問題状況を分析把握し、その時の他人の気持ちを想像したりすることで、 自分の考え方と他者の考え方には違いがあることに気づき、「他者には、他者の考えがあること」、「 自分とは違う物事の捉え方もあること」を知るきっかけとなります。 オ 支援者は受講者の特性をアセスメントする グループワークで実施する問題解決技能トレーニングでは、問題提起者から問題状況を詳しく説明してもらい、 他の受講者はその内容を聞きながら、問題状況分析シートに記載していきます。把握した内容に対して、 問題提起者だけでなく、他の受講者からも疑問に思ったことや気づいたことを発言してもらいます。 そうすることで、支援者は受講者それぞれの情報の受け止め方を把握することができます。 例えば、問題状況の一側面に注目しがち、登場する関係者の気持ちや立場を想像することが苦手、 状況に関する複数の情報を踏まえた上で「なぜ問題が起きたのか?」の理由を考え出すことに時間がかかる等が挙げられます。 また、問題の解決策案についても受講者から、できるだけたくさん意見を出してもらうことにしています。 出された意見から、それぞれの受講者がどのような意図で発言したのかを確認することで、 その受講者の物事の捉え方と分析の仕方、効果のある解決策を考え出せるか等に関する情報の把握につながります。 さらに、解決策を実際に行動に移す段階では、問題提起者と個別に段取りと事前試行を行います。 その際、実際に行動に移す際に戸惑ったり、別の解決策を希望したりすることがあります。 実際にどの程度行動に移せるか、段取りを忘れずに取り組めるのか等を確認できます。 このように支援者にとっては、問題を提起した受講者だけではなく、 トレーニングに参加した受講者それぞれの障害特性をアセスメントする重要な機会となります。 発達障害者の障害特性はいくつかの理論で説明されますが、その一つとして「心の理論」で説明されることがあります。 「心の理論」は、他者の行動の意味を理解し、行動を予測するための他者の視点に立つ能力であり、他者の考えや気持ちを理解する能力です。 別の理論の「共感-システム化仮説」では、発達障害者は心の理論のように他者の心を読むことを含む 「認知的共感」と、他者の考えや気持ちへの適切な情緒的反応である「感情的共感」が低く、 その一方で、例えば、時刻表やカレンダー、音符、種類の分類等における規則的な関連や、 AならばBという結論になるか分析したり構成したりする「システム化(すべてを一定に保つ)」への衝動が強い傾向で説明されています。 この「共感化-システム化仮説」では、システム化のために発達障害者の障害特性である細部への注意が役立っていますが、 いわゆる中枢性統合仮説とは異なり、システム内の多様性に注意を向けて調整する機会が与えられれば、 徐々に全体のシステムを理解するようになるとされています2)。また、人は言語を使うことにより、 直接に現時点にあるものと接触しなくとも、様々な経験したことがないような事柄を欲したり、何かを意図したりできます。 まだ起きていない出来事とあたかも接触しているかのような機会を持つこともできます。問題や課題となっている行動は、 本人が上手くいかない対処行動や考え方を何度も繰り返して行い、他の解決策や選択肢を試すのを妨げているときにも生じやすく、 上手く行っていないことを認識した上で、代わりとなる行動に挑戦していくことについて、 本人の内的な動機づけや価値を損なうことなく後押ししていくことが大切です。3)<引用文献> 1)萩原拓(著):「学齢期の発達障害児者が抱える社会的行動の困難性に対する包括的支援パッケージの構築」、 科学研究費助成事業(科学研究費補助金)研究成果報告書、2013 2)サイモン・バロン=コーエン(著):「自閉症スペクトラム入門」、中央法規、2011、p92-111 3)ニコラス・トールネケ(著)、山本淳一(監修)、武藤崇、熊野宏昭(訳):「関係フレーム理論(RFT) をまなぶ」、星和書店、2013 <参考文献> 「発達障害がある子のための「暗黙のルール」<場面別>マナーと決まりがわかる本」明石書店、2010 2)ブレンダ・スミス・マイルズ、ジャック・サウスウィック(著)、冨田真紀(監修)、萩原拓、 嶋垣ナ オミ(訳)「アスペルガー症候群とパニックへの対処法」、東京書籍、2002 3)ブレンダ・スミスマイルズ、ダイアンエイドリアン(著)、吉野邦夫、萩原拓、 テーラー幸恵 (訳)「アスペルガー症候群への支援-思春期編」、東京書籍、2006 第3章 背景と目的1 改良に向けた支援ニーズと課題点の整理 問題解決技能トレーニングは、支援マニュアルの配布や各種研修等による普及を通じて、 地域センターを始めとする障害者就労支援機関において活用されてきています。 こうした中、支援現場からは集団トレーニングだけではなく、ジョブコーチ支援や相談場面等の個別の支援において活用できる、 実践場面に即した支援の方法が求められています。 平成 29年度と平成 30年度に 41カ所の地域センターを対象に対して「ジョブコーチ支援等、 個別相談場面で問題解決技能トレーニングを使ったことがありますか?」とヒアリングしたところ6割以上が「使ったことがある」と回答しており、 支援現場ではすでに個別相談で問題解決技能トレーニングを活用するようになりつつある実態が窺えます(図10)。 そのような状況を踏まえると、ジョブコーチ支援等の時間や場所、参加人数に制限がある就労支援の現場において、 どのように問題解決技能トレーニングを活用すればいいのかについて具体的な方法や工夫点、 留意点等をまとめた支援技法を開発することが、より効果的な就労支援の実施に資することにつながるのではないかと考えました。 図10ジョブコーチ支援等個別相談場面におけるPST活用の有無 問題解決技能トレーニングに対して、寄せられた意見・感想を整理すると、以下の3点に集約されます。 一つ目は、問題解決技能トレーニングの構成(項目)に何を書けばよいのかわかりづらいという点です。 問題解決技能トレーニングの有効性は感じるものの、個別相談等で「行動、原因欄はどう記入すればよいのかわからない」、 「原因が複数あると進め方に困る」、「問題の原因なのか、行動の原因なのか、何に対する原因なのか分析が難しい」、 「目標が現実的ではない。かなり先の大きな目標を立てがち」、「想像力やコミュニケーション面に課題のある発達障害者にとって、 相手の気持ちを書き出すことが困難」といった意見が出されていました。 二つ目は、「グループワークとして問題解決技能トレーニングを実施するのが難しい」といった支援体制上の制約による難しさです。 就労支援機関によっては、必ずしも集団プログラムの機能を持つ組織ばかりではないことや 同じ悩みを有するメンバーを集めることの困難さがあるようです。 三つ目は、個別相談場面で活用できる支援方法に対するニーズです。 上記のヒアリング調査の結果でも示されたように、 就労支援ではジョブコーチ支援等、支援者が職場に出向いて支援する場合が多くあり、集団ではなく、 支援者と一対一で相談をするという場面があるため、そのような個別の相談場面で活用できる 問題解決技能トレーニングの方法があるとよいといったものです。 2 改良の方向性 このような支援ニーズを踏まえて、問題解決技能トレーニングを個別相談場面で活用しやすくすることで、 より多くの支援者にとって役に立つものになるのではないかと考え、改良に取り組むこととしました。改良の方向性として、 SOCCSS法の特徴や有効性を整理し、個別相談で活用しやすい実施方法を検討することしました。 なお、本実践報告書では、個別相談のことを、「ジョブコーチ等、就労支援者と支援を受ける障害者の一対一形式での相談」と位置付けています。 図 11改良に取り組む部分 第 4章 SOCCSS法に基づいた個別相談モデルの作成と試行 1 問題解決技能トレーニングの個別相談での活用可能性について 問題解決技能トレーニング支援マニュアルにおいて、個別相談への活用方法に全く触れていなかったわけではありませんが、 集団場面での実施方法を中心に紹介した内容となっています3)。 そのため、地域センターや就労支援機関等が問題解決技能トレーニングに抱くイメージは、「集団場面で実施するグループワーク」となっています。 実際には、 SOCCSS法を活用することで個別相談を効率的、効果的に進めることができます。 例えば、 SOCCSS法の実施用紙を使って、相談を行うことで視覚的に問題状況を整理しやすくなります。 また、問題解決に向けた決まった枠組みがあるため、問題を把握して、解決策を検討するという「相談の枠組み」がイメージしやすくなります。 発達障害者の中には、相談の際、話しているテーマが明確でないと相談内容が拡散してしまったり、 同じ話題を繰り返してしまうこと等が起きてしまい、問題分析や解決策の検討に進みにくいといったことがあります。 また、本人にとっても、何を話せばよいのかわからず、迷いながら相談することは、強いストレスになると考えられます。 SOCCSS法の実施用紙を活用することで、本人は相談で話すべき「枠組み」を持つことができ、安心して相談に臨むことができます。 また、個別場面では、支援者と一対一なので、プライベートな話題についても話しやすい環境で進めることができ、 かつ自分のペースで進められるというメリットがあります。 問題解決技能トレーニングのグループワークと個別相談における実施によってメリット、デメリットがあります(図 12)。 図 12グループワークと個別相談におけるメリット・デメリット グループワークによるデメリットは、対象者によっては、集団場面で個別課題を取り上げることに抵抗感を示したり、 フラッシュバックを起こす危険性等があることです。 一方、個別相談のデメリットとしては、グループワークで期待される当事者同士の共感、 多種多様な意見から導き出される受講者自身の気づきといった点は得られにくいことや支援者と受講者の一対一の相談の中で、 本人の予測や納得を無視して支援者の考えや解決策に誘導する可能性があることです。 以上をまとめると、「問題解決技能トレーニングは個別相談でも有効な支援方法として活用できる。 しかし、個別相談で行う際には留意点があるため、何らかの工夫が必要である」といえます。 この点を踏まえ、個別相談で問題解決技能トレーニングを活用しやすくするための SOCCSS法を援用した試行モデルを作成することにしました。 2 個別相談モデルの作成と試行結果 (1) SOCCSS法の概要 ここでは、 SOCCSS法における個別相談の進め方について各項目ごとに解説を行います。 なお、SOCCSS法による個別相談を実施する際の支援者の質問例、基本ポイント、留意点等については、 14ページ「 SOCCSS法の活用のポイント」や 51ページ「 SOCCSS法・ SOCCSS法(簡略版)支援者用実施マニュアル」 にもまとめていますので、ご活用ください。 ア SOCCSS法の流れ (ア)導入部分 相談開始後すぐに SOCCSS法のステップを進めるのではなく、当日の対象者の体調確認や相談の休憩時間や終了時間といった 予定を伝えるところから話を始めていきます。 そうすることで、対象者が話しやすい雰囲気となり、その後の個別相談を円滑に進める関係性を築きやすくなります。 話しやすい話題から、徐々に対象者が困っていることに関する情報について少しずつ質問していきます。 もし、「●●の問題について相談したい」等、事前に要望が出されている場合でも、 「前回の相談で、●●について相談したいということでしたが、今日の相談のテーマとしてよいですか?」等、 対象者に確認し、対象者と支援者とで相談内容にずれが生じないようにします。 このように、対象者、支援者の両者で個別相談の目的をしっかりと共有します。 そして、 SOCCSS法という相談の枠組みを用いて状況を整理し、解決策を検討し、実行していくということを説明します。 (イ)問題の明確化(状況の把握(S;Situation)) 問題に関する情報(誰が、何を、いつ、どこで、なぜ)を確認する段階です。他の項目にも共通しますが、 質問を始める際には、いきなり項目ごとの質問を始めないようにします。 支援者用支援マニュアルの1ページには、「関係する人は誰ですか?」の質問からスタートしていますが、 実際には、この項目のどこから質問を始めても問題はありません。 どのような順番で質問をするのかに決まったものはなく、そのときの対象者との話の流れによって柔軟に変えていきます。 なぜなら、決まった枠組みに沿って質問をされると、自然な会話の流れにならずに一問一答形式となります。 そうすると相談というよりも事情聴取をされているような印象を対象者に与えてしまう可能性が出てきます。 また、質問に対する回答が対象者から出された際には、「関係者はあなたの知らない方だったんですね」や 「場所は自宅だったんですね」等、 出された情報をこまめに要約していくことで、対象者は「話を聞いてくれている」という実感を持ちやすくなり、 自分の発言内容の再確認もしやすくなります。 (ウ)ブレインストーミング(選択肢(O;Options)) 明確化した問題に対して、選択肢を出す段階です。対象者に対して「問題を解決するためにはどのような方法が考えられるか?」について質問します。 その際、一対一での相談であるため、選択肢がなかなか出てこない場合があります。 その場合には、対象者が過去に実際に行った方法を聞いたり、支援者が事前に選択肢を考えておくといった対応が考えられます (選択肢を事前に検討する方法については 41ページ、46ページ「支援者から複数の選択肢の提示」、 63ページ「対象者に合った選択肢の立て方」を参考にしてください。) また、問題状況下で、本人が今行っている行動も選択肢として記入欄に記入します。 (エ)解決策の決定①(結果予測(C;Consequences))・(選択判断(C;Choices)) 選択肢に対する結果予測と選択判断を行う段階です。結果予測の段階では、選択肢の行動を行うと、 どのような結果となるか予測します。 障害特性の影響からどのような結果になるのか予測できない場合もありますので、 支援者は起きる可能性のある結果について解説できるようにしておく必要があります。 選択判断の段階では、出された選択肢に対して効果と実現性の観点から順位を付けて、実際に取り組む解決策を選びます。 その際、対象者と支援者とで選択肢に対する評価が異なる場合もあるかもしれません。 そのようなときには、対象者に対して「なぜ、そのように効果と実現性を考えたのか」という支援者の見立てを説明できるようにしておきます。 その上で、本人が選択肢を選べるようにします。 ②段取り:行動プラン 選んだ選択肢を実行する計画を立てる段階です。 箇条書きのリスト形式にしたり、フローチャートで計画の流れや選択肢を示す等の工夫をします。 例えば、図 13は、「会議中に居眠りをしてしまう」という問題に対し、「眠気を感じたらストレスボールを握る」 という選択肢を選んだ方の段取りを示したものです。 段取り:行動のプラン ・朝(出勤前)の時点で眠気を感じていたら、カバンにストレスボールを入れる ↓ ・会議が始まる前に、カバンからストレスボールを取り出し、スーツのポケットに入れておく ↓ ・会議中に眠気を感じたら、周囲に邪魔にならないように握る 【こういう場合は】 ・もし、周囲の人から「疲れていない?」「少し休んだ方がいいんじゃない?」と声をかけられたら、会議室から出て 10分休憩をとる 図 13「段取り:行動プラン」の流れ図例 以上のようにどのように実行すればいいのか、わかりやすい形で具体的に「段取り:行動のプラン」を まとめておくことで、実行する際の戸惑いやミスを減らすことにつながります。 ③事前試行の方法 考えた「段取り:行動プラン」に対して、様々な方法を用いて事前に試してもらう段階です。 実際に行う前にシミュレーションすることで、想定していなかった問題があることがわかる等、 新たな気づきを得やすくなり、実行の成功率を高めることにつながります。 状況的に即実行することが必要であれば、その場でできるシミュレーションを本人と相談して、まずは行います。 もし、事前試行の方法として「自宅にいる母親に相談してみたい」を選んだ場合等のように、選んだ内容によっては、 その場で実行できない場合もあります。その際は、この段階で一旦相談を終了し、次回の相談で続きから再開します。 ④事前試行からの検討事項 事前試行の結果を確認する段階です。事前試行をしてみて、気づいたことやわかったことに関する情報を 対象者から聞き出していきます。 その際、「状況の把握」の段階のように誰が、何を、いつ、どこで、なぜといった観点から確認すると 事前試行を行った具体的な状況を把握しやすくなります。 (オ)実際の施行結果・その後の経過 解決策の実行結果を確認する段階です。施行した結果、問題が解決した場合、この問題についての個別相談はここで終了となります。 問題が解決しなかった場合は、問題の明確化の段階に戻り、うまくいかなかった状況を把握して、解決策の検討へと進めていきます。 イ 利用者用マニュアルの活用 SOCCSS法を活用した個別相談は、基本的には実施用紙を用いた口頭での相談となります。 しかし、発達障害者の中には、口答指示のような聴覚情報では記憶に残りにくく、事前に視覚情報で示された方が理解しやすい方もいます。 そのような障害特性に対応するために、SOCCSS法の各項目で何を答えればいいのかを記載した「 SOCCSS法実施用紙(利用者用マニュアル)」 (27ページに掲載)を作成しました。対象者の障害特性に応じて活用してください。 なお、38ページ「 SOCCSS法簡略版」は、実施用紙を使用せず、その場で問題を取り上げて、解決策まで短時間のうちに相談を進めていく方法となっています。 (2)実施事例(Aさん/30代男性/注意欠陥・多動性障害) 大学卒業後に事務職として就職しました。入社当初は大きな問題なく勤務していましたが、 半年ほど経過したころから業務進捗に遅れが生じ始め、業務が立ち行かないことで無断欠勤を繰り返すようになりました。 その後、別部署に異動しましたが、再度業務進捗が遅れるようになり休職・復職を繰り返しました。 休職中に Aさんがインターネットで発達障害の特徴と自分の状態が近いと感じ、医療機関に相談したところ発達障害の診断を受けました。 発達障害の診断を受けたことを会社に相談し、復職プログラムの利用を提案され、 Aさんも受講を希望したため WSSPを受講することになりました。 【問題の概要】 ・職場の作業室にある書類回収ボックスに回覧済み書類が入っていたら、ファイリングするという毎日取り組む必要があるタスクを忘れてしまう。 ・日常のタスクのヌケモレが多かったため、 WSSPのタスクを増やし、タスク管理に取組むことにした。 ・WSSPの作業室は、回覧が終了した書類が戻ってくる箱が設置してある。午前と午後の作業開始時間に箱を確認し、 書類が戻っていたらファイルに綴じるというタスクを Aさんの担当業務として設定した。 ・課題設定から 1週間ほど経過し、取組について振り返ったところ、職場と同様に確認し忘れが多い状況が明らかになった。 ・上記の問題について、 Aさんは「対策を考えよう」と思っていたが、対策を立てないためタスクを忘れるという状況が続いた。 そのためスタッフから SOCCSS法を活用した個別相談の実施を提案して実行した。 Aさんと一緒に状況把握を行いました。 Aさんから、関係する人や実際に起きたこと、理由を確認しました。 しかし Aさんは当時の状況を曖昧に覚えていたため、スタッフが見た Aさんの状況について説明し、情報を補う形で整理をしました。 その結果、 Aさんは忘れた理由について様々な視点から意見を述べることができました(図 14)。 図 14状況把握の結果 このステップは、通常、まずは対象者に選択肢を考えてもらいますが、 Aさんから出された選択肢は1つのみでした。 スタッフからも選択肢を提案し、それをきっかけに Aさんから新たな選択肢が出されました。 人の意見に触れることで、それまで思いつかなかった新たな案を思いつきやすくなることがあるようでした。 加えて、 Aさんが現在行っている対応も選択肢(図 15)に書き入れました。 Aさんは思いついた選択肢をすぐに行動に移したいと考えやすい傾向があります。 選択肢を考えた後に効果と実現性を検討するステップがあることで、客観的に選択肢を選ぶことができていました。 選択肢を行うと自分ができるどうなる?か?と質問 図 15選択肢、結果予測、選択判断の検討 Aさんからは、「選択肢全て取り組みたい」との発言がありましたが、スタッフからは一つに絞ることを提案しました。 Aさんも納得し、「作業室に入室するたびに確認する」ことを選択しました。 行動のプランとして、翌日から取り組むことを確認しました。 段取り:行動のプラン 明日(8/◇)、作業室へ入室するときに書類回収ボックスを見る Aさんは、実行に移す前の事前試行として、自分のノートに何が起きそうかを書き留めました。 Aさんが想定したこととしては、「毎回作業室に入る時に見ることを行えば習慣化できるのではないか、 書類回収ボックスの場所は目につきにくい場所にあるため注意する必要がある、ボックスに毎回紙が入っていないと見なくなるかもしれない」等がありました。 事前試行を通して実行するために必要な情報や不安な点が整理できました。 事前試行の方法 一つ選ぶ 1.静かな場所に腰を落ちつけ、いろいろな行動の選択肢と結果予測に基づき、どんな事前試行ができるか(できないか)を考える 2.支援者、友人、家族、その他の人に、自分の考えた行動プランについて相談してみる 3.自分の選んだ選択肢と結果予測に基づき、その状況では何が起きそうかを書き留める ○自分でやる 4.自分の選んだ選択肢を、2~3人で事前に演じてみる 5.その他の方法 図 16事前試行の方法の検討 事前試行を行い、定着させていくための方法を自分で考えました。作業室に入る時に箱を必ず確認してから他のことを始めるようにしました。 取組結果について、8月◇日にスタッフと振返りを行い、報告することとなりました。 事前試行からの検討事項 定着できるかどうか(少し自信はないが、やってみたいと思った) 事前試行の結果を踏まえて、取り組んだ解決策は「作業室に入室した時に必ず回収ボックスを見る」でした。 実際の施行結果・その後の経過 ・結果として、6~7割程度確認することはできるようになり、回収ボックスを見忘れる回数は減りましたが、 習慣化するまでには至りませんでした。 ・本人はこの結果から、ルールを守れたかどうか確認する仕組みが必要と考えました。 習慣化させるための方法を再度 SOCCSS法で検討することにしました。 ・「入室したときに見る」としたが、毎回見ても入っていないこともあり、 見るタイミングを具体的に決めてみたいとの意見がありました。 Aさんとスタッフは実施結果を踏まえて、再度 SOCCSS法を行い、回収ボックスを見忘れる状況を整理しました。 その結果、「回収ボックスを見るタイミングを具体的に決める」、「一日の流れを視覚的に共有できるツールが必要」ということが分かり、 具体的な対応策を検討しました。その結果、ボックスを見る時間を 10:30、11:45、13:00、14:50の計4回に固定化しました。 また一日のスケジュールボード(図17)を作成し、「タスクの見える化」をしました。 その2つの対応を実施することで、回収ボックスの回収漏れはなくなり、トレーニングを終了しました。 図 17スケジュールボード 問題解決に対する選択肢について、事前に複数のスタッフで選択肢のアイデアを出し合い、 Aさんから出てこない時に提示できるように用意をしておきました。 実際には、 Aさんから2案、スタッフから 1案をそれぞれ出すことができました。 Aさんからは検討した選択肢を挙げた際に、「すぐにそれをやりたい」という発言が出されました。 しかし、職場や WSSPの作業場面、日常生活等においても、思いついたアイデアをすぐに実行して、 うまくいかないということを繰り返していることを Aさんと振り返りました。 そして、今回の解決策の実行においては、実施を想定したシミュレーション、実施する効果や継続できそうか等を事前に考えることを提案しました(事前試行)。 そうすることで、実行したときの結果予測や実行上の注意点を整理することができました。 一方、スタッフは、昀初に本人が選んだ選択肢では対策が不十分ではないかと思いながらも、まずは Aさんが選んだ選択肢で実践してもらいました。 実際に実行して本人が解決策案の情報の不十分さに気づく機会とするためでした。 その上で、スタッフが再度具体的な助言を行うことで、 Aさんもスタッフのアドバイスを受け入れやすくなりました。 (3)実施事例(Bさん/30代男性/自閉症スペクトラム障害) 大学卒業後に製造関係の会社に就職しましたが、業務対応が難しく適応障害の診断を受け休職しました。 休職期間中に医療機関で検査を受け、発達障害の診断を受けました。 職場復帰にあたって発達障害の診断を受けたことを伝え、会社から発達障害に対する配慮を受けることになりました。 しかし、同僚とのコミュニケーショントラブルをきっかけに体調が悪化し、勤務継続は困難と判断し退職に至りました。 退職後の就職に向けて、自分自身の特性やこれまでの状況を整理したいという目的から WSSP受講に至りました。 【問題の概要】 ・二度寝をしてしまい、約束の時間に遅れることがたびたび続いている。 ・前職では勤務開始時間直前に出勤することが多い。 WSSPでも同様の状況が見られる。 Bさんと一緒に状況把握を行いました。 Bさんは朝に起き上がれないことはほぼ毎日起きており、 特定の日にちを特定しにくいという発言があったため、相談日の直近で遅刻した日の朝の場面を設定しました。 また、 Bさんからは二度寝の理由が思い浮かばないという発言があったため、 スタッフから二度寝をしたくなる時の気持ちを選択肢として出し、選んでもらいました。(図18) 図 18状況把握の結果 Bさんは二度寝を防ぐための方法について、自分で考えたり、本を読んだりすることでいくつか選択肢を持っていたため、 その選択肢に基づき結果予測を行いました。 ただし、選択肢は出ましたが、それがどのような結果になるか、続けられそうかどうかがイメージしにくい様子が見られました。 そこで、スタッフが選択肢を選んだ時に想定されることを本人に質問し、結果予測に記入しました(図 19)。 選択肢 結果予測 選択判断 【現在行っている対応】目覚まし時計をセットする ・起きても、また寝てしまう・セットそのものを忘れる × ペットボトルの水を飲む(コップはダメ) ・ベッド横にあれば、できそう・起きなければ飲めない ○ 軽食をベッド横に置く ・寝ながら食べることができる・起きる前に食べそう × 図 19選択肢、結果予測、選択判断の検討 Bさんに段取りを確認したところ、具体的な段取りを考えていないことがわかりました。 そこでスタッフと一緒に、実行するにあたって準備するものやペットボトルを置く場所などの具体的な段取りを作成しました。 段取り:行動のプラン ①寝る前にペットボトルに水を入れる。 ②ベッドの上に置く ③寝る ④起きた後、ペットボトルを見る ⑤起き上がる ⑥飲む Bさんは段取りを明確にしたことで見通しを持つことができました。実行するために家族の意見を聞いてみたいと考えました。 そこで事前試行では「2.家族(母親)に選んだ行動プランを相談する」を選びました(図 20)。 事前試行の方法 一つ選ぶ 1.静かな場所に腰を落ちつけ、いろいろな行動の選択肢と結果予測に基づき、どんな事前試行ができるか(できないか)を考える 2.支援者、友人、家族、その他の人に、自分の考えた行動プランについて相談してみる ○ 3.自分の選んだ選択肢と結果予測に基づき、その状況では何が起きそうかを書き留める 4.自分の選んだ選択肢を、2~3人で事前に演じてみる 5.その他の方法 図 20事前試行の方法の検討 Bさんは事前試行と合わせて自宅でシミュレーションしつつ母親に相談しました。 その結果、実行できるのではないかと判断し、試してみることを決めました。 事前試行からの検討事項 ・ベッドが遠いとできない ・手軽にやれて、体を起こせるのでは? ・母親に相談したところ、「方法はいいけど、コップだとこぼすから気をつけて」と言われた 実行してみたところ、起きてすぐにペットボトルが目に入り、体を起こすことができました。 そこから朝の準備をスムーズに行うことができました。実行した結果、問題が解決したため、 このテーマでのトレーニングを終了しました。 実際の施行結果・その後の経過 ・起きることができた(水を飲んで、トイレに行けた) ・継続してみたい Bさんは問題に対して選択肢を複数挙げることはできましたが、実行するための見積もりが立てにくい状況が見られました。 スタッフと一緒に、各選択肢を選んだ時の段取りについて検討しました。 Bさんは、選択肢を選んだ結果どうなるかのイメージが持ちにくいため、 思いついた選択肢を次々試してうまくいかないことが続いているのではないかと気づきました。 取り上げたテーマの対応方法の検討をしながら、自分自身の対応方法の傾向について知ることにつながりました。 3 SOCCSS法の簡略版の作成と事例 (1)簡略版の作成目的 ジョブコーチ支援等、職場での就労支援を行う際には、様々な制約を伴い、相談に使える時間が限られることが多いです。 一方、 SOCCSS法では選択肢を出す段階等で時間がかかる場合があります。 そのため、様々な制約がある状況下で、本人から選択肢が出にくい場合等では何かしら工夫して短時間で効果的な相談を行うことが支援者には求められます。 そこで、 SOCCSS法の基本的要素を残し、ジョブコーチ支援等様々な制約がある中でも活用できるよう、 「SOCCSS法の簡略版」の開発に取り組みました。 40ページからは、この簡略版の実施事例と結果について掲載しています。 (2)簡略版の実施方法 「SOCCSS法(簡略版)」では、通常の SOCCSS法と異なり、実施用紙を使用せずに行います。 問題や課題が発生後、本人と相談しながら、まず支援者から本人に合った選択肢を3つ程度本人に対して提示します。 そして、提示した1つ1つの選択肢について「この選択肢を行うのはどうですか?」、 「この選択肢を行ったらどうなりますか?解決しそうですか?」と本人に質問します。本人の回答を聞きながら、 本人が解決できそうと思っている選択肢を確認します。 本人の回答が、支援者の考えと異なる場合は、支援者の考えを本人が納得できるように根拠を持って説明します。 ただし、ここで大切なのは特定の選択肢に本人を誘導しないことです。誘導してしまうと、本人が納得しないばかりか、 本人の内的な動機づけを低下させる場合があるからです。 本人が選択肢を選んだ後、段取り(行動のプラン)や、状況に応じたシミュレーションを本人と相談します。 シミュレーションした後、選んだ選択肢を実行します。実行後、実行した結果がどうだったか振り返ります。 (3)簡略版の留意事項 「SOCCSS法(簡略版)」では、SOCCSS法の重要なプロセスを省略しています。簡易的に実施できる反面、 SOCCSS法で行う大切な内容やプロセスがなくなってしまっていることに留意が必要です。 そのため、「SOCCSS法(簡略版)」では、本人が通常の SOCCSS法であれば、状況把握や選択肢を考えること等、 得られるはずの経験が失われることになります。 また、 SOCCSS法実施用紙を用いないため、事前に、支援者が SOCCSS法の枠組みを頭に入れて行う必要があります。 さらに、支援者が本人に提示する選択肢は、本人に合ったものである必要があります。本人の状況を踏まえ、 効果的かつ実行可能で、本人にとって難しすぎない選択肢である必要があります。 SOCCSS法(簡略版) 本人から選択肢が出にくい場合や、選択肢が絞りにくい等の場合に実施できる簡略化された実施方法で、 SOCCSS法の様式への記入を行わず、支援者がこの SOCCSS法のフレームワークを頭に入れて置いて実施することができる (ただし、支援者があらかじめ選択肢を本人に提示することとなるため、 SOCCSS法における自己解決の重要プロセスの一部がなくなってしまうことに留意が必要。)。 1 個 別 相 談 2 支援者から複数の選択肢の提示 困りごとや課題を解決していくため、支援者から本人に対して、本人に合った3つ程度の複数の選択肢を提示する。 3 選択肢の検討 選択肢一つずつについて、本人に次の2点を尋ねる。 ①「この選択肢で行うのはどうか?」 ②「この選択肢を行ったらどうなる?解決しそうか?」 本人の発言と支援者の考えが異なる場合は、支援者の考えを根拠を持って本人に対して納得できるように説明する。ただし、特定の選択肢に本人を誘導することはしない。 4 選択肢の決定、シミュレーションの実施 本人に実施する選択肢を選ばせ、段取り (行動のプラン )・シミュレーション (事前試行)の仕方について相談や提示をする。シミュレーション (事前試行 )する。 5 実施 6 実施結果の評価・取りまとめ 7 解決 (4)実施事例(Cさん/20代男性/自閉症スペクトラム障害) ・ 小学校から高校まで通常学級に在籍しました。大学4年生の時に障害を非開示で就職活動をしましたが、内定を得ることができませんでした。 就職活動中にコミュニケーション面で難しさを感じ、障害を開示して就職したいと考えるようになり、 地域センターで就職に向けた相談をすることとなりました。地域センターでの相談で、自分の特性の理解や課題に対する対処方法、 周囲にお願いしたい配慮事項の整理が必要だと感じ、 WSSPを受講することとなりました。 【問題の概要】 ・入浴後に薬を塗り忘れてしまう。 ・就寝前に思い出すことが多いが、薬を塗り終わるまでに 15分~20分程度時間がかかるため、就寝時間が遅くなり、翌日のプログラムに影響がでてしまう。 Cさんとスタッフで状況把握を行いました。 Cさんは、状況の説明をするときに、うまく説明ができないことや問題場面の状況を忘れてしまうことがありました。 そこで、問題解決技能トレーニングを実施する前に「生活記録表」(図 21)に1週間分の生活リズムを記録してもらうことにしました。 図21生活記録表から伺えたCさんの状況 ・問題が起きるのは、毎日の入浴後(22時 30分頃) ・22時頃にお風呂からあがることが多いため、22時 30分頃に薬を塗ろうと思っているが実際にその時間になると忘れてしまう →寝る直前に思い出して、就寝が遅くなってしまう ・薬を塗ることを忘れる理由は、風呂の後にスマートフォン(ゲーム)に夢中になる ことが多い 次に、課題を解決するための選択肢を検討しました。これまでグループワークで実施する問題解決技能トレーニングを行った際には、 Cさんは解決策の選択肢が浮かばないことが多く、案を出すときに時間がかかっていました。 Cさんからも選択肢を考えることに負担感があると訴えがあったため、スタッフからいくつかの選択肢を提示し、 その中から本人が選択する簡略版の SOCCSS法を実施しました。簡略版での実施のため、 SOCCSS法のシートは記入せず、 重要な点をホワイトボードに記載しながら進行しました。 生活記録表から、 Cさんの平日の食事や入浴時間等の生活リズムは一定であることがわかりました。 さらに、 Cさんから聞き取りをすると「テレビ番組が切り替わるタイミング等で○時だなと気づいて、 次の行動に移ることが多い」と話しており、普段は時間をきっかけとして行動していることが窺えました。 そこで、時間に気づくことで適切なタイミングで薬を塗ることができるのではないかと考え、以下の選択肢を検討しました。 [選択肢] 1 22時 30分頃に薬を塗ることを頭に思い浮かべる(現在行っている対応) 2 お風呂からあがった後、すぐに塗る 3 スマートフォンのアラーム機能を使い、薬を塗る時間を知らせる 4 タイマーを使い、薬を塗る時間を知らせる スタッフが選択肢を提示した後に、まずその選択肢を選んだ場合に Cさんがどのような 行動をとることになるかをスタッフが解説しました。 Cさんの場合、選択肢の提示の後の、行ったらどうなる?(結果予測)や選択肢を一つに選ぶとき(選択判断) でも、それぞれの選択肢を選んだ場合の段取りについてスタッフが解説を加えながら、本人に実現可能性を検討してもらっています。 例えば、選択肢のうち「タイマーをセットする」では、入浴時に毎回セットする段取りがあると伝えると、 「自分の場合は忘れそうなので、その方法は難しいと思う」と予測するといったものでした。そのような検討を重ね、 「段取り:行動のプラン」では、事前に準備することや入浴開始から薬を塗り始めるまでに取る行動について具体的に確認していきました。 選択肢を選んだ場合の具体的な状況をイメージできたことで、結果予測やその後の選択判断をスムーズに選ぶことができました(図 22)。 スタッフが本人に提示「この選択肢を「この選択肢を行ったらどうなる?」行ったら解決しそう?」 選択肢 結果予測 選択判断 【現在行っていること】22時 30分頃に薬を塗ることを頭に思い浮かべる ゲームに夢中になって忘れる他のことが気になって忘れる △ お風呂からあがった後、すぐに薬を塗る 塗り忘れはなくなりそう入浴直後だと、肌がべとべとして不快に感じると思う △ スマートフォンのアラーム機能を使い、薬を塗る時間を知らせる 塗り忘れはなくなりそう ○ タイマーを使い、薬を塗る時間を知らせる タイマーのセットを忘れそう △ 図 22選択肢、結果予測、選択判断の検討 入浴時に取る行動について時系列で確認しました。薬を塗る前の行動を含めて確認し、 法を有効にするためには入浴準備の段階から時間どおりに行動することが大切であると確認しました。 段取り:行動のプラン 【事前準備】 ・相談中にスマートフォンのアラームをセットする (毎日 22時 30分に鳴る設定にする。「薬を塗る時間」とアラーム名をつける。) 【入浴時の行動】 ①21時に入浴準備を開始する ②22時にお風呂からあがり、着替える ③休憩する(スマートフォンは必ず手元に置く) ④22時 30分にアラームが鳴る ⑤アラームをとめる ⑥薬を塗る 行動のプランを考える時に、 Cさんにアラームを設定しておくことを伝え、どのような設定にするつもりであるか確認しました。 Cさんは「22:30に鳴らす」以外に思いつかない様子だったため、事前準備のステップを設け、 一緒にアラームの設定を行い「毎日鳴る設定にする」、「アラーム名をつけて用件が分かるようにする」ことを確認しました。 事前試行からの検討事項 ・アラームに気づけば、できそうだと思った。 1週間後に、個別相談で試行結果の振返りを行いました。 Cさんが対処方法を実施したところ、アラームによって時間に気づき、 時間どおりに薬を塗ることができ、対処方法が有効であることがわかりました。 Cさんからは「これまでやろうと思っていても、つい忘れてしまって落ち込むことが多かった。 できるようになってよかった。他の場面でも対処方法を試したい」との感想が聞かれました。 実際の試行結果・その後の経過 ・アラームによって薬を塗る時間になったことに気づくことができた。 ・寝る直前に薬を塗ることがなくなり、就寝時間を守れるようになった。 選択肢を出す際に、 Cさんからは「どうするとよいか思いつかない」「自分で考えるのはちょっと無理だと思う」との申し出があったため、 スタッフが選択肢を提示する簡略版の SOCCSS法を実施しました。 選択肢を支援者が提示する場合、押しつけの形になったり、本人の状況に照らすと実現性が低い選択肢にならないよう留意が必要です。 Cさんの場合、選択肢を提示する際、「Cさんの生活環境や障害特性をふまえて実現可能な見込みが高い選択肢」を提示するために 生活記録表によるアセスメントを事前に行いました。当初は「就寝時間が遅くなること」が課題として挙げられていましたが、 普段の生活状況や就寝が遅くなる原因が本人の説明だけではわからず、何に対してアプローチをすると課題の解決に効果的であるかがわかりませんでした。 そこで、生活記録票を作成し、 Cさんに1日の過ごし方を記入してもらいました。 生活記録表を活用して振り返ることで Cさんの1日の行動が見え、どこに焦点を当てて SOCCSS法で取り上げるかを決めることができ、 課題解決に有効な選択肢をスタッフが事前に考えることができました。 そして、 Cさんが「自分にも取り組めそうだ」と意欲を持ちやすい選択肢を事前に検討することができました。 また簡略版で実施しましたが、口頭のみの情報提示では混乱することが考えられたため、 「状況整理」と「選択肢の検討」はスタッフがホワイトボードに情報を記入し、共有しながら進行しました。 (5)実施事例(Dさん/30代男性/自閉症スペクトラム障害、限局性学習障害 注意欠陥・多動性障害) ・専門学校を卒業後、何社かで勤務した経験はありますが、コミュニケーションの課題や業務に対応できない状況が発生し、 離転職を繰り返してきました。インターネットで発達障害について知り、病院に受診したことで発達障害の診断を受けました。 ・障害者手帳を取得し、障害者求人での就職を検討する上で障害特性の整理と課題の対応方法を身につけたいという希望から WSSPを受講することになりました。 【問題の概要】 ・職場実習で書類の仕分け業務を行いました。部門ごとに仕分けをする際に、書類を分けることは出来ましたが、 仕分けた書類の間隔が狭く、かつ乱雑に置くため書類が混在してしまいました。また、自分の身体が書類にぶつかり、 混在してしまったことで修正方法がわからず、最初からやり直すことになりました。 職場実習の休憩時間の後、 Dさんとスタッフで相談を実施しました。 Dさんとスタッフで状況把握を行いました。 Dさんに仕分けのルールを確認すると、部門ごとに選別することはわかっていましたが 思ったよりも部門の数が多く、作業を始めてから置き方を考えているため不規則な置き方(図 23)になりやすい状況が明らかになりました。 図23Dさんの作業状況 【Dさんの問題の状況】 ・問題に関係するのは自分( Dさん)のみ ・問題が起きたのは7月△日の9時 30分頃 ・仕分け作業の時に仕分けた書類が混ざってパニックになった ・理由としては、「思ったより仕分ける項目が多かった」、「机上の書類の置き方が乱雑だった」、「どう修正したらよいかわからなかった」 次に、課題を解決するための選択肢を検討しました。職場実習中であり、 Dさんはうまく作業が進まないことでパニックになっていたことから、 Dさんの了解のもと、スタッフが選択肢を提示することになりました。 スタッフは Dさんの作業の様子と今までの作業状況から、「置く場所のルールを決めること」、 「机との距離が無意識に近づきやすい」傾向があることを踏まえて選択肢を検討・提示しました。 [選択肢] 1 置く場所を頭の中で決める(現在行っていること) 2 仕分けた書類を置く場所に立つ付箋を貼る 3 いすの場所や仕分け前の書類を置く場所を決めて、ぶつからないようにする 4 作業途中で書類をまとめ、乱雑になることを防ぐ スタッフのノートに選択肢を書き、本人と一緒に選択肢の検討を行いました(図24)。 選択肢の検討では、その選択肢を選んだ場合に Dさんが行う行動と、何が起きるかを作業場で確認しました。 Dさんは仕分けた書類を置く場所を決めることは対応としては行っていましたがうまく機能しなかったことを踏まえて検討をしました。 スタッフが 「この選択肢を「この選択肢を本人に提示行ったらどうなる?」行ったら解決しそう?」 選択肢 結果予測 選択判断 【現在行っていること】 置く場所を頭の中で決める ・作業しているとわからなくなる・頭の中のルールが一定しない × 仕分けた書類を置く場所に立つ付箋を貼る ・見出しがあるのはよい・作業途中に埋もれてしまうかもしれない △ いすの場所や仕分け前の書類の置く場所を決めて、ぶつからないようにする ・自分の位置を考えていなかった・決まったところを確認できるようになれば混乱は防げる ○ 作業途中で書類をまとめ、乱雑になることを防ぐ ・作業中に乱雑になっているという感覚はない・タイミングを決めて整えることはできそう △ 図 24選択肢、結果予測、選択判断の検討 作業に集中すると机に近づきすぎること、仕分け前の書類を左手に持ちながら作業を行っていたため動きが一定になっていない状況が検討の中で明らかになりました。 そこで「いすの場所や書類を置く場所を決める」ことを選択しました。 段取り:行動のプラン ①作業に適したいすの場所を決める (身体が机に当たらない距離、肘が触れない高さ) ②仕分け前の書類の置く場所を決める ③決めた場所にいすをセットする ④机の上の決めた位置に書類をセットする(図 25) ⑤作業を実施する 図25 Dさんの作業状況(選択肢検討後) 作業場面での個別相談だったため、ステップ5「実施」を相談後すぐにその場で実行し、 ステップ6「実施結果の評価・取りまとめ」も、その直後に Dさんとスタッフとで行いました。 ステップ4の作業環境の調整を実施することで作業ミスが減り、修正時間が減ったことで全体の作業能率の向上が見られました。 本人は作業がしやすくなったと実感した一方で、気をつけても書類が乱雑になりやすい傾向に気づくことができ、 書類を整える対応は考える必要があると感じていました。 実際の試行結果・その後の経過 ・いすの場所を決めたことで、作業の立ち座りの動作が発生せず、書類が身体に触れることはなくなった。 ・手元に書類を持たなくなり、置いている書類を確認するようになったため、仕分け時のミスも減った。 ・仕分けが進むと書類が乱雑になる状況は引き続き発生していた。 →「作業途中に書類を整えることは必要かもしれない」(本人の発言) 職場実習の中で行ったケースであるため、選択肢が本人の特性に十分あったものではありませんが 本人の状況整理と対応策を考えるきっかけを作ることができました。 Dさんは実際に作業をしていると目の前の課題で頭がいっぱいになりやすい傾向があったため、 SOCCSS法(簡略版)の枠組みで確認すると客観的に自分の状況を見ることにつながりました。 Dさんが自分の状況に気づきにくく、時間が空くとその時の状況の記憶が抜けやすいものの、 Dさん自身が困った状況に気づかないと改善に向けた取組みが進みませんでした。 Dさん自身が状況に気づいて解決策を考えるために、今回のように作業直後で振り返るだけでなく、 ビデオセルフモニタリングの活用も今後の支援として有効ではないかと考えました。 【支援者の留意点】 ・今回は実習の中での実施であったため、選択肢の提示は事業所の中で行っても支障がなさそうなものを考えて提示しました。 手順を大きく変える必要がある選択肢(例:トレーを使用して仕分けをする)は避けました。 ・また、事業所で実施することから、実行方法を事業所の担当者に相談し、了解を得た上で行いました。 併せて、取り組んだ状況を報告しました。 (6)簡略版の効果 それまで、 SOCCSS法を用いた相談では、事前試行の検討欄まで進めるのに1時間 30分~2時間近く相談に時間を要していましたが、 簡略版では、1回の相談につき 20~30分で終わることができました。 取り扱う問題の内容や本人の障害特性等によって相談にかかる時間は変わりますが、支援者が個別相談の実施前に受講者の 障害特性や状況等に応じた選択肢の検討をしておき、相談の際に受講者に提示するという方法によって、相談にかかる時間を短縮することができました。 また、事例 Cさんのように選択肢を自分で考えることが苦手な方もいます。そのような方に対して SOCCSS法を用いるときにも簡略版は有効と言えます。 (7)簡略版の実施上の工夫 簡略版では、 SOCCSS法の実施用紙を使用せずに口頭での相談で進めますが、対象者の障害特性やその場の状況等によっては、 ホワイトボードやノート等に書きながら、相談を進める方がよい場合があります。 例えば、事例 Cさんは、口頭での相談では話している内容を憶えていることができず、相談が進まない様子が見られたため、 ステップ2でホワイトボードに書きながら進めました。 このように対象者の状況に応じて、相談での発言や経過を文字や図等に表すことで理解が進みやすくなる場合があります。 4SOCCSS法及び SOCCSS法(簡略版)のマニュアル 相談で SOCCSS法や SOCCSS法(簡略版)を用いる際、事前に支援者が流れや留意点等について理解しておくことが大切です。 SOCCSS法と SOCCSS法(簡略版)の実施方法や留意点について効率的に学び、基本的な流れをイメージしやすくなるように、 次のようなマニュアルを作成しましたので、ご活用ください。 SOCCSS法・SOCCSS法(簡略版)支援者用実施マニュアル(セリフ等) 1.SOCCSS法 ・本マニュアルは、あくまで例であり、本人(対象者)の状況に合わせて、実施の仕方(話し方、セリフ等)を柔軟に変えること。 ■実施上のポイント (1)導入部分 (2)状況把握 (3)選択肢 (4)結果予測 (5)選択判断 (6)段取り:行動のプラン (7)事前試行 (8)事前試行からの検討事項 (9)実行 (10)実際の施行結果・その後の経過 (11)相談継続の判断 目 的 ・「状況把握」欄は、何か問題を起こした場面等の振り返り(検証)を行う。・原因探しをするためではなく、より社会的に適切な手段を考える。 ポイント ・予測性:予測性を習得させる練習のために行うこと。・納得性:本人が納得して「やってみよう」と思うこと。 留意点 ・必ずしも対象者本人 1人だけで SOCCSS法をできるようにすることが目的ではない。 ・本人が書くことが難しければ、代わりに支援者が書く。 1人で難しければ支援者とともに行う等でよい。 支援者の実施手順(セリフ) 実施上のポイント 相談開始 今日は、よろしくお願いします。 ・体調や近況の確認等、本題とは違う話しやすい話題から話し始めると、話しやすくなります。 また、支援者側も相談のペースを作りやすくなります。 【進行上のヒント留意点】 ・体調が優れない等、相談実施が難しい場合は、日時を変更するなどの対応を検討する。 また、終了予定時間や途中で休憩が取れるかどうかといった見通しも事前に伝えておくとよいです。 相談の趣旨説明 今日は、これから(相談内容)について相談をしたいと思います。 ・事前に本人から相談のあったこと、事業所から相談のあったこと、支援者側が改善が必要と判断したこと等が話題となります。 【進行上のヒント留意点】 ・事業所や支援者側からの問題提起の場合は、「今日は、○○について相談したいと思うけど、大丈夫ですか?」等、本人の意思確認を行う。 問題点の概要 ※本人「○について困っています。実はこういうことがあって…」 ・本人より、どんなことで困っているのかについて話してもらう 【進行上のヒント留意点】 ・問題の内容によっては「次回の相談では、 ○○について相談しましょう」等、事前予告をしておくと、本人も準備ができて話しやすくなる場合があります。 問題の確認 「○○という問題が続いていて、いろいろ試しているけれどうまくいかずに困っている」ということですね。 ・本人が話した問題を要約して伝え、相談したい内容について確認します。 【進行上のヒント留意点】 ・今回の相談で取り上げたい問題点を確認します。・問題が複数ある場合は、今回の相談で取り上げたい問題点をどれにするのか確認します。 支援者の実施手順(セリフ) 実施上のポイント それでは、まず「状況把握」から始めたいと思います。 (状況把握の導入部分です) ①関係する人は誰ですか? ・本人のことも書きます。 ②その問題はいつ起きましたか? ・日付、時間について、できるだけ具体的に確認します。 ③何が起きましたか?何をしましたか? ・本人を含めた、関係者全ての行動、「事実」のみを記入します。 ④理由は? ・その問題が起きた理由に対する本人自身の考えを確認します。 ありがとうございました。問題の状況を整理すると( )ということですね ・把握した状況について短く要約します。 【進行のヒント・留意点】 ・ここまでで出された情報を短くまとめて伝えることで、状況把握にモレやヌケがないか確認します。 ・例:「ここまでの話をまとめると、あなたが、 ●月△日に職場で、上司に質問をしたら注意された。 注意を受けた理由は、自分の話し方が早口過ぎたせいだと思っているんですね」 支援者の実施手順(セリフ) 実施上のポイント ・では、次に問題を解決するための選択肢(解決策の案)を考えます。 (状況把握の導入部分です) ・どんな解決策が考えられますか? ・汎用性のある選択肢がよいです(通常5つ程度が限度) ・本当にあり得ないこと(例:ミサイルを撃つ等)は、取り上げないようにします。 【進行のヒント・留意点】 ●本人の発言と支援者の考えが異なる場合・支援者の考えを根拠を持って本人に対して納得できるように説明します。 ただし、支援者が特定の選択肢に誘導することはしないよう気をつけます。 ・選択肢の中には、問題が生じているときにあなたが行っている行動も書きます。 【選択肢出しを促す投げかけ例】 <アイデアを広げる >・選択肢は、できるだけたくさん出しましょう ・ばかばかしく思える案でも、とりあえず出しましょう ・他にはどんな案が考えられますか?<過去の解決策> ・実際にやったことのある解決策は?<仮定> ・もし、あなたが考えた選択肢は必ず実現するとしたら、どんな案を出しますか?<例外> ・過去に問題が起きてもおかしくない状況なのに、例外的に問題が起きなかったとき、あなたはどんなことをしましたか?<当面の行動指針> ・次に何からできそうですか? ・どこから手を付けられそうですか? 支援者の実施手順(セリフ) 実施上のポイント ・では、次に何が起こるか結果予測について考えてみます。 (状況把握の導入部分です) ・選んだ選択肢を実行することで、どんなことが起こりそうですか? ・選択肢を出せた場合は、次の手順に進みます。 (解説) ・もし、○○を選んだ場合、(想定される結果)となると考えられます。 ・本人がどのような結果になるのかわからない場合は、発達障害がない方の見方を翻訳する形で支援者が解説します。 支援者の実施手順(セリフ) 実施上のポイント ・では、次に出した選択肢に順位を付け、あなたが昀善策と思うものを選んでみましょう。選ぶポイントは「効果」と「現実性」です。 (状況把握の導入部分です) ①効 果 ・その解決策案で、あなたが望むものを得ることができますか? ・効果と現実性を本人に問いかけて、確認していきます。 ・本人と支援者とで予測が異なった場合、支援者側が考えた効果と現実性の理由を本人に説明できるようにしておきましょう。 ②現実性・その解決策案はあなた自身の力で実現できますか?危険性はないですか? ・では、今回取り上げる解決策は ○○ということでよろしいですか? ・本人の意向を確認します。 支援者の実施手順(セリフ) 実施上のポイント ・では、次に具体的な実行計画を立てましょう。 ・選んだ選択肢を実行するための計画を立てます。 いつ、どこで、どのように、いつまでに実行に移すのかといったことをできるだけ具体的にしていきます。 【進行のヒント・留意点】 ・箇条書きのリスト形式やフローチャートで計画の流れ、選択肢を示す等の工夫をします。 ・実行に必要な事前準備(例:必要な物品の準備、関係者の予定確認等)に関する情報を見落としてしまう場合もあります。 計画の実行手順の他にも必要なことがないか、本人に質問して、本人が気づけるようにするとよいでしょう。 支援者の実施手順(セリフ) 実施上のポイント ・では、実際に実行に移す前に、選んだ選択肢や段取りについてシミュレーションしてみます。 (状況把握の導入部分です) ・このシートにある「事前試行の方法」から一つ選びましょう。 ・実際の実行に移る前に選択肢や段取りについて、試しにシミュレーションをしたり、他の人に相談したり、他の人の意見を聞いたり、 他の人とロールプレイしたり、あるいは、別の方法で試してみるようにします。 ①別の場所で1人で考える。 ②他の人等に相談する。 ・今、この相談を行っている担当者と別の機会に相談する場合も含みます。 ③(自分が選んだ選択肢と結果予測について)実際に実行したときに何が起きそうか書き留める。 ④ロールプレイする。 ・本人の行動(立ち振る舞いや声、表情等)が、ロールプレイ中でも自己認知できていない (支援者が指摘しても納得しない等)場合は、ビデオ撮影をして振り返るという方法も効果的です。 ⑤その他の方法。 ・対人関係が含まれない一人だけの問題なら、④は選択肢として想定しにくいです (例:「二度寝予防のために目覚まし時計をセットする」を選んだ場合、ロールプレイが有効なシミュレーションとはなりにくい)。 ただし、実際に目覚まし時計の音の大きさを確認したり、セットの手順をシミュレーションすることはできます。 このように、①~④に収まらない問題の場合は、その他の方法を検討してみましょう。 (事前試行の実施) 支援者の実施手順(セリフ) 実施上のポイント ・では、事前試行をしてみましょう。 【その場所で試行できない場合】 ・次回の相談で、事前試行をしてみた結果を教えて下さい。 支援者の実施手順(セリフ) 実施上のポイント ・「事前試行の方法」で選んだ内容を行ってみて、どうでしたか? ・事前試行の結果、何が起きたのかについて教えてください (事前試行からの検討事項の導入部分です ) ・日を改めてここから相談を始める場合は、支援者マニュアル「導入部分」を参考にして、相談を開始しましょう。 【事前試行の結果、実行してみようと思った場合】 ・では、このまま実際に実行してみますか? ・選択肢や段取りの修正等はありますか?【事前試行の結果、実行しない場合】 ・別のより良い方法はありましたか?・他の選択肢で事前試行をしてみますか? 支援者の実施手順(セリフ) 実施上のポイント ・では、選んだ選択肢(段取り:行動のプラン)を実行してみましょう。 【その場所で実行できない場合】 ・次回の相談で、実行の結果を教えて下さい。 ・シミュレーションで終わらせずに、必ず実行に移しましょう。 ・相談を実施したその場で確認できる「段取り:行動のプラン」であれば、本人に実行に移してもらって、結果を確かめます。 【進行のヒント・留意点】 ・選んだ選択肢(段取り:行動のプラン)によっては、今回の相談(その場)では実行できないものや時間を要するものも含まれます。 その場合、今回の相談は一旦ここで終了となります。 支援者の実施手順(セリフ) 実施上のポイント ・実行してみた結果はいかがでしたか? (施行結果の導入部分です) ・日を改めてここから相談を始める場合は、支援者マニュアル「導入部分」を参考にして、相談を開始しましょう。 【上手くいった場合の問いかけ】 ・うまくいきましたね。今後もこの取り組みを続けてみますか?【上手くいかなかった場合の問いかけ】 ・上手くいかなかったのは、どうしてですか? ・本人に対して施行結果を確認します。 ・上手くいった場合は評価を伝えて、今後の本人の目標を確認します。 ・上手くいかなかった場合は、その理由を本人に聞いてみます。 支援者の実施手順(セリフ) 実施上のポイント 【問題が解決した場合】 ・本人の意向確認をして、相談を終了します。 【問題が解決しなかった場合】 ・再度「(1)状況把握」のステップに戻り、改善に向けた取り組みを継続します。 ・また、問題の内容によっては SOCCSS法ではない、他の方法の活用を検討してみます。 2.SOCCSS法(簡略版)支援者用実施マニュアル(セリフ等) ・ 本マニュアルは、あくまで例であり、本人(対象者)の状況に合わせて、実施の仕方(話し方、セリフ等)を柔軟に変えること。 ■実施上のポイント (1)個別相談での確認事項 (2)支援者から複数の選択肢の提示 (3)選択肢の検討 (4)選択肢の決定、シミュレーションの実施① (5)選択肢の決定、シミュレーションの実施② (6)実施 (7)実施結果の評価・とりまとめ 目 的 ・ジョブコーチ支援等、就労支援で時間等物理的制約を伴い、本人から選択肢が出にくい場合や選択肢が絞り込みにくい場合等に簡略版を使う。 ポイント ・SOCCSS法と同様に、結果予測と本人の納得を大切にする。 ・本人に合った選択肢を提示するが、特定の選択肢に誘導することはしない。 留意点 ・SOCCSS法(簡略版)を使用することで、 SOCCSS法における自己決定の重要なプロセスの一部がなくなることに留意すること。 支援者の実施手順(セリフ) 実施上のポイント それでは、まず困った状況について教えてください。 (個別相談の導入部分です) ・以下の項目について、必要に応じて本人に確認します。その場で確認できるものは省略します。 ①関係する人は誰ですか? ②その問題はいつ起きましたか? ③何が起きましたか?何をしましたか? ④理由は? 支援者の実施手順(セリフ) 実施上のポイント ・この選択肢で行うのはどうですか? ・本人の発言と支援者の考えが異なる場合は、支援者の考えを根拠を持って本人に対して納得できるように説明します。ただし、特定の選択肢に本人を誘導することはしません。 【選択肢1】 【選択肢2】 【選択肢3】 支援者の実施手順(セリフ) 実施上のポイント ・この選択肢を行ったらどうなりますか?解決しそうですか? ・本人がどのような結果になるのかわからない場合は、発達障害がない方の見方を翻訳する形で支援者が解説します。 支援者の実施手順(セリフ) 実施上のポイント ・では、選んだ選択肢について、具体的な段取り(行動のプラン)を立てましょう。 ・選んだ選択肢を実行するための計画や段取りを立てます。 【進行のヒント・留意点】 ・実行に必要な事前準備(例:必要な物品の準備、関係者の予定確認等)に関する情報を見落としてしまう場合もあります。 計画の実行手順の他にも必要なことがないか、対象者に質問をして、本人が気づいていけるようにするとよいでしょう。 支援者の実施手順(セリフ) 実施上のポイント ・では、実際に実行に移す前に、選んだ選択肢や段取りについてシミュレーションしてみます。 (状況把握の導入部分です) ・シミュレーションの方法としては、〇〇をする方法等がありますが、やってみたいことはありますか? ・実行に移る前に選択肢や段取りについて、事前にシミュレーションをします。 状況に応じたシミュレーションの方法(ロールプレイする、書き留める等)を本人と相談します。 ・では、事前試行をしてみましょう。 (本人が事前試行する段階) 支援者の実施手順(セリフ) 実施上のポイント ・(セリフなし) (本人が実行する段階) 支援者の実施手順(セリフ) 実施上のポイント ・実行してみた結果はいかがでしたか? (施行結果の導入部分です) 【上手くいった場合の問いかけ】 ・うまくいきましたね。今後もこの取組を続けてみますか? ・上手くいった場合は評価を伝えて、今後の本人の目標を確認します。 【上手くいかなかった場合の問いかけ】 ・上手くいかなかったのは、どうしてですか? ・上手くいかなかった場合は、その理由を本人に聞いてみます。 3.SOCCSS法・SOCCSS法(簡略版)の実施上の留意点 その問題に対して、本人が困っていない場合 次のような方法もある。(1)本人に対して、問題によって引き起こされる結果 (不利益)を見せる。 (例)①「(あなたのとった言動に対して)会社はこう思っている」と伝える(会社の協力、同意は必要)。    ②「このままでは、どうなるのか?」、「どんな不利益が起きるのか?」ということを、本人に問いかける。 (2)本人の希望と絡めて相談を進める。例えば、身だしなみに課題があり、それをテーマとして取り上げたい場合、  本人に「働きたい」という希望があれば、「どうすれば働けるか?」「働くための準備には何があるか?」  といったところから相談を始め、徐々に課題に働きかけていくように進める。  本人から問題に対する解決策案が出てきにくいことが想定される場合  これまでの本人へのアセスメントの状況から、本人自身から選択肢が出にくいことが想定される場合がある。 そのような場合は、本人の状況や周囲の環境を踏まえて、 SOCCSS法簡略版のやり 方で、支援者から3つ程度の選択肢の案を提示できるように準備しておく。 第 5章 個別相談場面での活用のための工夫と留意事項 1 個別相談に活用することのメリット (1)相談の枠組みがあると、相談を進めやすい 就労支援における相談内容は多岐にわたります。また、作業を教えることと異なり、 相談にはやり方の決まりなどがあるわけではありません。 そのため、対象者は何を、どこから、どのように相談すればいいのか迷うことがあります。 また、支援者も何を、どのように聴き取れば、問題解決につなげていけるのかをその都度考えていかなければなりません。 特に、就労支援に従事し始めたばかりの支援者の場合、「何から聞けばいいのか?」、 「どのように相談を進めればいいのか?」といった悩みが出やすいようです。 そのような場合、 SOCCSS法による相談の枠組みを知っていれば、支援者として相談の方向性を示しやすくなります。 また、対象者としても、相談の際に何を聞かれるのか、相談のゴールはどこなのか見通しが持ちやすくなります。 質問されてすぐに回答が出にくい対象者であれば、 SOCCSS法のシートを事前に渡しておき、 相談時までに記入して持参するよう促すこともできます。 このように、 SOCCSS法は、相談に一定の枠組みを持たせることができるため、 対象者、支援者双方にとって相談を進めやすくなるというメリットがあります。 (2)問題状況を整理する方法を学べる 働いている障害者に対する就労支援の場合、対象者から問題の相談を受ける際、支援者が直接問題の起きる現場を目にする機会はかなり少ないといえます。 実際には、対象者や関係者から過去に起きた出来事を聴き取り、状況把握を進めることになります。 就労支援者には問題を解決することが期待されますが、問題解決を行うにあたり、状況を正確に把握することがとても重要になります。 問題を抱えた対象者や関係者によっては、問題の複雑さや問題を抱えた身体的精神的な負担から、解決に対する訴えが強くなったり、 困った印象が強く残った場面に関する話が出てきて問題解決とは関係の薄い情報を伝えてくる場合があるなど、 問題解決の昀初のステップである問題状況の整理が進みにくい場合があります。 そのような場合、 SOCCSS法を活用することで、問題に関する「関係者」、「いつ」、「どのようなことが起きたのか」、 「起きた理由」といった状況を整理する上で必要な情報が何なのか示すことができます。 そのような問題状況を整理するポイントを対象者が学ぶことで、同じような問題に遭遇した場合にも状況に関する情報を覚えておきやすくなります。 覚えておくことが難しい場合もシートを持っておけば、問題に遭遇した際、メモにまとめやすくなり、 相談までに時間が空いても相談に取り掛かりやすくなります。 (3)具体的な実施方法とその振り返りまで考えることができる 問題が起きた場合、問題の話を詳しく聞くだけで終わってしまう場合があります。また、解決策案まで考えたのに、 実際の実行に移らずに問題がそのままになってしまう場合があります。 実行まで取り組めない理由はいくつか考えらえます。例えば、「支援者に話を聞いてもらうだけで解決した気持ちになる」、 「シミュレーションまで考えて、できそうだと思った時点で満足してしまう」、「一度試してみたが、うまくいかなかったため、 そこで解決に向けた取り組みをやめてしまった」などです。 SOCCSS法では、実行を重視します。具体的な段取りを一緒に考え、 「実際の施行結果・その後の経過」の項目で、実際にどう実行したのか、結果がどうだったのかを振り返ります。 そのような流れを事前に提示することで、実行することを意識でき、取り組みやすくなっています。 2 個別相談に活用する際の工夫・ポイント (1)対象者に合った選択肢の立て方 支援者から提案する選択肢は、対象者の障害特性や状況、知識、経験等を踏まえたものでないと実行することが難しくなります。 そのため、対象者にあった選択肢を立てることが重要になり、対象者に合った選択肢を立てるためには、 対象者に関するアセスメント情報が必要になります。 対象者に対する支援を行う過程で見えてきた身体的側面、精神的側面、社会的側面、作業的側面についての特性から、 どのような選択肢なら実行できるかを見極めていきます。 また、これまで似たような状況で、本人がどの様に対応してきたかや上手にできたことはなかったかを 確認しておくとヒントになる事柄が出てくるかもしれません。 さらに、 Cさんの事例でも紹介したように対象者が抱える問題に直接関係する情報だけではなく、 その対象者の職業生活全体をアセスメントして、 問題発生につながる要因が生活の中のどこにあるのかについて事前に収集しておくことで、本人に合った無理なく 本人ができるような実現の可能性の高い選択肢を提案しやすくなります。その他、選択肢の内容は、本人にとって難しすぎないことも重要です。 (2)対象者の納得性・自発性の促し方 SOCCSS法では、解決策を実行に移すことがとても重要です。そして、解決策を実行するためには、 いかに対象者が納得した上で自分から取り組めるかがポイントになります。対象者が納得して自発的に取り組むための工夫として、 「選択肢や段取りを考える過程で、対象者の出した意見を取り入れていくこと」が挙げられます。 対象者から効果や現実性が低いと思われる選択肢を出されたとしても、その中に使えるアイデアが含まれている場合があります。 例えば、事例 Aさんの場合、Aさんが出した「絶対に見る場所に書いておく」という選択肢は選択判断の結果、3番目で採用されませんでした。 しかし、 Aさんと SOCCSS法を行っていた支援スタッフは、「(用件を思い出しやすい物を)目にすることで忘れることを防げるのではないか」 という Aさんの選択肢に含まれていたアイデアは活かせるだろうと判断し、「作業室に入室するたびに確認(見る)する」という選択肢を提案しています。 そうすることで「自分の出した意見が、よりよい選択肢を考え出すことにつながった」、あるいは「自分が出したアイデアが役立った」 といった思いを持ちやすくなり、実行に向けた意欲を持ちやすくなったと考えられます。実際に Aさんは、その後の相談で意欲的に実行に取り組んでいます。 このように、対象者が出した選択肢や意見を活かしながら、選択肢や解決策を考えることで納得性や自発性を促しやすくなります。 (3)対象者像に応じた工夫 ア 他罰的な対象者への対応 対象者によっては、「私がこんなふうに困っているのは、会社(親、先生、支援者等)が悪い!」等、問題に対して他罰的な言動を行う方もいます。 他罰の言動が続くということは、「自分は動かずに周囲に動いてほしい」と言っている状態と言えます。 元来、問題解決は自分が動くもので、それをサポートするのが支援者の役割です。 ただし、他罰的な言動をしながらも、対象者が「相談はしたい」、「もっと話を聞いてほしい」、「現状のままだと困る」等、相談継続を望むこともあります。 このように、他罰的な発言をしたり、変わりたいという明言がはっきりなくても本人の「何とかしたい」という気持ちが窺える場合は、 他罰的な言動には従わないようにしつつも、本人が動いていけるように、「何とかしたい」、「困っている」という気持ちを、 しっかりつかんで逃さないようにすることが大事になります。このような場合は以下のような対応方法も考えられます。 【例】 ①本人が問題についてどう思っているのかを確認する。 ②支援者が事前に事業所等(相手側)の思いと職場のルールを聞いて、本人に図等でわかりやすく示す。(事業所等の同意・協力は必要です) ③②を示しても、なお他責の発言があるときは、「会社(相手側)も、あなた(本人)が困っているということはわからない」等を本人に伝える。 もし、対象者が相談継続を望んでいない状態なら、 SOCCSS法を進める前に対象者とよく相談して、「じゃあ現状のままとなってしまうかもしれませんね」、 「では、問題解決の相談をしたいと思ったら、またお知らせください」といったような形でいったん相談を終えることについて検討も必要かもしれません。 もしくは、 SOCCSS法以外の方法の検討も必要かもしれません。 以上のように、他罰的な言動がある対象者に SOCCSS法を実施する際には、本人がどうしたいのか、どうなりたいのかを整理したり、 相手の気持ちや考えを解説して伝えるところから取り組むということも検討するとよいと思われます。 ただし、中には感情的な反応を示す対象者もいるため、対象者の状態に留意して行う必要があります。 イ 周囲が問題と思っていて、本人が問題と思っていない場合の対応 支援者が改善すべき問題だと思っていても、対象者本人が問題と捉えていない場合もあります。 そのような場合、対象者に対して、問題によって引き起こされる結果(不利益)を伝える方法が考えられます。 【例】 ①「(あなたのとった言動に対して)会社はこう思っている」と伝える。(その際、事前に会社の協力、同意は必要となります)。 ②「このままでは、どうなるのか?」、「どんな不利益が起きるのか?」ということを、本人に問いかける。 また、対象者の希望と絡めて相談を進める場合もあります。例えば、身だしなみに課題があるが、対象者が問題と捉えていない場合を考えてみます。 例えば、対象者が「働きたい」という希望を持っていれば、その希望があるところから相談を始めていきます。 「どうすれば働けるだろう?」、 「今すぐに働くことはできそう?」などの働きかけが考えられます。対象者自身の希望から相談を始めることで、 自分を振り返る動機づけと目的意識を持ちやすくなります。その過程で、身だしなみの課題に触れるタイミングが訪れた時に、 「働くためには、様々な準備が必要ですが、その中には清潔感のある身だしなみができるかどうかも含まれています。 自分が身だしなみができているかどうか、まずは確かめてみませんか?」といった提案を行い、本来の課題点に取り組んでいくという流れが考えられます。 ウ 選択肢を出せない対象者への対応 問題に対する選択肢のアイデアが対象者から出てこない場合があります。特に、集団で行う問題解決技能トレーニングと異なり、 このような場合には、 SOCCSS法簡略版の手順で支援者はあらかじめいくつかのアイデアを事前に考えておくとよいでしょう。 支援者自身がなかなかアイデアを出せない場合は、ケース会議等で複数の支援者同士で情報交換を行い、アイデアを収集しましょう。 また、支援者から提案された選択肢を本人が受け入れにくい場合もあります。 そのようなときは「過去に同じような悩みを抱えた方はこういう選択肢を挙げていた」等の説明を加えることで気持ちが変化する場合もあります。 エ 解決策案を実行できない対象者への対応 SOCCSS法を用いた相談を行い、解決策を決定しても実行できない場合があります。 本人が「やってみる」と述べていて、実際には実行できないことも少なくありません。 そのような場合は、段取りを細かく細分化する、解決策の難易度を下げる、なぜ実行できないかを検討したり、 実行できないことをテーマに再度 SOCCSS 法を実施するといった方法が考えられます。 また、支援者から提案されたアイデアを深く考えずに受け入れる場合や出てきた選択肢全てを実行しようとする場合にも、 うまく実行につながらない場合があります。 そのようなときには、事前試行を再度行い、それぞれの選択肢を選んだ場合のシミュレーションを丁寧に実施するとよいでしょう。 選択肢を選び、実行した結果までの流れを図や絵にして示すなどの工夫も加えるとより理解しやすくなると思います。 3 実施上の留意事項 (1)事前に支援者が SOCCSS法の目的や流れを覚えておく必要がある 相談で SOCCSS法を用いる際、相談の自然な流れを途切れさせないように、あらかじめ SOCCSS法の流れを支援者が覚えておくことが大切です。 従来のグループワークで実施する問題解決技能トレーニングでは、リーダー、コリーダーの2名体制で進めることができ、 お互いにフォローすることが可能でしたが、個別相談では支援者が1名となります。 そのため、事前準備と内容の習得がより一層求められます。 また、 SOCCSS法の開始前の相談の導入、 SOCCSS法実施用紙の各項目間では、対象者との自然な会話をする、 一つの項目を終えたら簡単にまとめてから次の項目に進む等、次の項目へ円滑に移行できるようにしましょう。 (2)目的や理由を対象者に丁寧に説明する 相談で SOCCSS法を活用する際には、事前にその目的や理由を対象者に説明しましょう。 SOCCSS法は、問題解決法の一つであるため、一定の枠組みの中で情報整理やアイデアを出すといった問題解決というゴールに向かう要素が強くあります。 そのため、対象者が困りごとを自由に話せる相談と思ったまま相談に臨むと、窮屈さや事情を聴かれているといったネガティブな印象を 抱くことにつながる場合があります。そのため、相談で SOCCSS法を活用する際には、事前にその目的や理由を対象者に説明することが大事になります。 (3)全体の流れを説明し、見通しを持ちやすくする 相談開始前に、SOCCSS法の全体的な流れを説明します。どのようなステップがあり、各ステップではどのようなことに取り組むのか、 そして、昀終的には何を目指しているのかを対象者と支援者で共有します。 そうすることで、対象者が相談(SOCCSS法の流れ)の見通しを持つことができ、何のために、どのようなことを話せばよいのか把握しやすくなります。 説明する際には「 SOCCSS法実施用紙(利用者用マニュアル)」を使う等、視覚的に提示するとより伝わりやすくなります。 (4)相談相手に合わせて、実施の仕方を変える 支援者が SOCCSS法の実施方法を習得し、どのように対象者へ働きかけるか理解しやすいように、 本報告書では SOCCSS法の実施方法と相談時の支援者のセリフや質問例をまとめています。 そうすることで、支援者は実施の流れをイメージしやすく、わからないときに確認しやすくなります。 ただし、相談相手にあわせて、実施の順番やスピード、言い方、使う言葉などを変える必要があります。 そうしないと、対象者と実施者との普段の関係性を考慮した言葉遣いやテンポでないため、相談の流れが形式的でぎこちないもの、 または不自然な印象を対象者に与えてしまう場合があります。 また、対象者が理解できないまま、相談が一方的に進んでしまい、不全感や支援者に改善策案などを押し付けられた印象を与えてしまう可能性があります。 本報告書のマニュアルは、あくまでマニュアルであり、相談の仕方について正解が書かれているわけではありません。 本マニュアルを使って学んでいただきたいことは、相談における重要なポイントと流れのイメージを掴むことです。 実施の際は対象者に合わせて実施の仕方を変えるようにしましょう。 (5)問題の内容等によっては、実施に時間を要する(SOCCSS法簡略版の使用) 取り上げる問題や選択した事前試行の方法によっては、 SOCCSS法の全過程を実施するまでに時間を要する問題もあります。 取り上げた問題が週1回、1か月に1回等、起きる頻度が少ない場合です。例えば「毎月1回の定期業務を忘れてしまう」 といった問題の場合、実際に解決策を実行し、結果を振り返るまでに時間がかかります。 また、職場で個別相談を実施しているときに、事前試行の「支援者、友人、家族、その他の人に、自分の考えた行動プランについて相談してみる」を選び、 具体的には家族に相談してみると決めた場合、事前試行は自宅に戻って行うことになり、その日の相談場面では実行できません。 このように取り扱う問題の内容や事前試行の選択によっては、何度かの相談回数が必要となる場合があります。 支援状況に応じ、必要であれば、 SOCCSS法簡略版を用いて、その場で実施していくようにすることも大切です。 第6章 まとめ 本報告書では、ジョブコーチ支援等の個別相談場面における問題解決技能トレーニングの活用方法を開発し、 その実施方法や留意点について事例を踏まえて紹介しました。開発の過程では、これまでに蓄積した問題解決技能トレーニングの知見を活かしつつ、 効果的な個別相談を行うにはどうしたらよいかについて検討を重ねました。 対象者 1人ひとりの障害特性や支援者との関係性等によって、個別相談の進め方は千差万別です。 今回作成した支援者用の相談マニュアルについても、それをモデルとしていただきつつも、 目の前の対象者の反応を見ながら柔軟な対応を意識して活用いただければと思います。 そして、そのような対象者に応じた柔軟な対応ができるようになるためには、実施前に支援者がその内容を理解しておく必要があります。 今回の実践報告書が、支援現場での問題解決に役立つものとなり、また、就労支援担当者のスキルアップの一助になればと考えます。 教材集 SOCCSS法実施の流れ SOCCSS法の活用のポイント SOCCSS法実施用紙(利用者用マニュアル) SOCCSS法実施用紙 SOCCSS法支援者用記録用紙 SOCCSS法(簡略版)実施の流れ SOCCSS法(簡略版)支援者用記録用紙 問題解決技法 (SOCCSS法) 1問題の明確化(状況の把握(S;Situation)) その問題はいつ起こったか?その問題はどこで起こったか?関係する人は誰か?何が起きたか?何をしたか?理由は?など 2ブレインストーミング(選択肢(O;Options)) 3解決策の決定 (結果予測(C;Consequences)) (選択判断(C;Choices)) (段取り(S;Strategies)) (事前試行(S;Simulation)) (事前試行からの検討事項) 4実行 5結果の評価 一つひとつの選択肢の行動をすると何が起こるか、結果を予測する (1)効果(2)現実性から順位をつけて、最善策を選び出す 具体的な実行計画を立てる 静かな場所で再考する、他の人の意見を聴く、何が起きそうかを書き留める、ロールプレイを行うなどシミュレーションする。 6解決 ■SOCCSS法の活用のポイント ソックス SOCCSS法実施用紙 ≪状況把握≫-≪選択肢≫-≪結果予測≫-≪選択判断≫-≪段取り≫-≪事前試行≫ 状況把握 関係する人 いつ ・本人を含めた、関係者全ての行動を記入 します。 ・その際、「事実」のみを記入することが重 要です。 選択肢 結果予測 選択判断 ・問題を解決するための選択肢を考えます。 ・問題や課題が生じているときに、実際に本人が行っていたことも選択 ・選択肢を行うと、何が起こるか結果を予測します ・(1)効果、(2)現実性から、どの選択肢にするか検討します。 肢に記載します。 ■SOCCSS法の活用のポイント 事前試行の方法 一つ選ぶ 1.静かな場所に腰を落ちつけ、いろいろな行動の選択肢と結果予測に基づき、どんな事前試行ができるか(できないか)を考える 2.支援者、友人、家族、その他の人に、自分の考えた行動プランについて相談・段取りを実行する前にシミュレーションします。 3.自分の選んだ選択肢と結果予測に基づき、その状況では何が起きそうかを・シミュレーションで「ロールプレイ」をする場合で、本人が自分の行動 (動作や 4.自分の選んだ選択肢を、2~3人で事前に演じてみる声、表情等)を自己認知できていないとき、ビデオに撮影して、本人とも効果的です(ビデオセルフモニタリング手法)。 振り返るの 5.その他の方法 事前試行からの検討事項 SOCCSS法実施用紙 ≪状況把握≫-≪選択肢≫-≪結果予測≫-≪選択判断≫-≪段取り≫-≪事前試行≫ 状況把握 関係する人 いつ 何が起きた ・何をした 理由 選択肢 結果予測 選択判断 段取り:行動のプラン 事前試行の方法 一つ選ぶ 1.静かな場所に腰を落ちつけ、いろいろな行動の選択肢と結果予測に基づき、どんな事前試行ができるか(できないか)を考える 2.支援者、友人、家族、その他の人に、自分の考えた行動プランについて、 相談してみる 3.自分の選んだ選択肢と結果予測に基づき、その状況では何が起きそうかを 書き留める 4.自分の選んだ選択肢を、2~3人で事前に演じてみる 5.その他の方法 事前試行からの検討事項 実際の施行結果・その後の経過 SOCCSS法支援者用記録用紙 ・ 本記録用紙は、あくまで例であり、本人(対象者)の状況に合わせて、実施の仕方(話し方、セリフ等)を柔軟に変えること。 ■実施上のポイント (1)導入部分 (2)状況把握 (3)選択肢 (4)結果予測 (5)選択判断 (6)段取り:行動のプラン (7)事前試行 目 的 ・「状況把握」欄は、何か問題を起こした場面等の振り返り(検証)を行う。 ・原因探しをするためではなく、より社会的に適切な手段を考える。 ポイント・予測性:予測性を習得させる練習のために行うこと。 ・納得性:本人が納得して「やってみよう」と思うこと。 留意点 ・必ずしも対象者本人 1人だけで SOCCSS法をできるようにすることが目的ではない。 ・本人が書くことが難しければ、代わりに支援者が書く。 1人で難しければ支援者とともに行う等でよい。 支援者の実施手順(セリフ) 記録 相談開始 今日は、よろしくお願いします。 相談の趣旨説明 今日は、これから(相談内容)について相談をしたいと思います。 問題点の概要 ※本人「○○について困っています。実はこういうことがあって…」 問題の確認 「○○という問題が続いていて、いろいろ試しているけれどうまくいかずに困っている」ということですね。 支援者の実施手順(セリフ) 記 録 それでは、まず「状況把握」から始めたいと思います。 ①関係する人は誰ですか? ②その問題はいつ起きましたか? ③何が起きましたか?何をしましたか? ④理由は? ありがとうございました。問題の状況を整理すると( )ということですね 支援者の実施手順(セリフ) 記 録 ・では、次に問題を解決するための選択肢(解決策の案)を考えます。 ・どんな解決策が考えられますか? ・選択肢の中には、問題が生じているときにあなたが行っている行動も書きます。 【選択肢出しを促す投げかけ例】 <アイデアを広げる>・選択肢は、できるだけたくさん出しましょう ・ばかばかしく思える案でも、とりあえず出しましょう・他にはどんな案が考えられますか?<過去の解決策>・実際にやったことのある解決策は?<仮定> ・もし、あなたが考えた選択肢は必ず実現するとしたら、どんな案を出しますか?<例外> ・過去に問題が起きてもおかしくない状況なのに、例外的に問題が起きなかったとき、あなたはどんなことをしましたか?<当面の行動指針> ・次に何からできそうですか?・どこから手を付けられそうですか? 支援者の実施手順(セリフ) 記 録 ・では、次に何が起こるか結果予測について考えてみます。 ・選んだ選択肢を実行することで、どんなことが起こりそうですか? (解説)・もし、○○を選んだ場合、(想定される結果)となると考えられます。 支援者の実施手順(セリフ) 記 録 ・では、次に出した選択肢に順位を付け、あなたが最善策と思うものを選んでみましょう。選ぶポイントは「効果」と「現実性」です。 ①効 果・その解決策案で、あなたが望むものを得ることができますか? ②現実性・その解決策案はあなた自身の力で実現できますか?危険性はないですか? ・では、今回取り上げる解決策は○○ということでよろしいですか? 支援者の実施手順(セリフ) 記 録 ・では、次に具体的な実行計画を立てましょう。 支援者の実施手順(セリフ) 記 録 ・では、実際に実行に移す前に、選んだ選択肢や段取りについてシミュレーションしてみます。 ・このシートにある「事前試行の方法」から一つ選びましょう。 ①別の場所で1人で考える。 ②他の人等に相談する ③(自分が選んだ選択肢と結果予測について)実際に実行したときに何が起きそうか書き留める。 ④ロールプレイする。 ⑤その他の方法。 (事前試行の実施) 支援者の実施手順(セリフ) 記 録 ・では、事前試行をしてみましょう。 【その場所で試行できない場合】 ・次回の相談で、事前試行をしてみた結果を教えて下さい。 (8)事前試行からの検討事項 支援者の実施手順(セリフ) 記 録 ・「事前試行の方法」で選んだ内容を行ってみて、どうでしたか? ・事前試行の結果、何が起きたのかについて教えてください 【事前試行の結果、実行してみようと思った場合】 ・では、このまま実際に実行してみますか? ・選択肢や段取りの修正等はありますか? 【事前試行の結果、実行しない場合】 ・別のより良い方法はありましたか? ・他の選択肢で事前試行をしてみますか? (9)実行 (10)実際の施行結果・その後の経過 (11)相談継続の判断 支援者の実施手順(セリフ) 記 録 ・では、選んだ選択肢(段取り:行動のプラン)を実行してみましょう。 【その場所で実行できない場合】 ・次回の相談で、実行の結果を教えて下さい。 支援者の実施手順(セリフ) 記 録 ・実行してみた結果はいかがでしたか? 【上手くいった場合の問いかけ】 ・うまくいきましたね。今後もこの取り組みを続けてみますか? 【上手くいかなかった場合の問いかけ】 ・上手くいかなかったのは、どうしてですか? 支援者の実施手順(セリフ) 記 録 【問題が解決した場合】 【問題が解決しなかった場合】 2.実施上の留意点 その問題に対して、本人が困っていない場合 次のような方法もある。(1)本人に対して、問題によって引き起こされる結果 (不利益)を見せる。 (例)①「(あなたのとった言動に対して)会社はこう思っている」と伝える(会社の協力、同意は必要)。 ②「このままでは、どうなるのか?」、「どんな不利益が起きるのか?」ということを、本人に問いかける。 (2)本人の希望と絡めて相談を進める。例えば、身だしなみに課題があり、それをテーマとして取り上げたい場合、 本人に「働きたい」という希望があれば、「どうすれば働けるか?」「働くための準備には何があるか?」といったところから相談を始め、 徐々に課題に働きかけていくように進める。 本人から問題に対する解決策案が出てきにくいことが想定される場合 これまでの本人へのアセスメントの状況から、 本人自身から選択肢が出にくいことが想定される場合がある。そのような場合は、本人の状況や周囲の環境を踏まえて、 SOCCSS法簡略版のやり方で、支援者から3つ程度の選択肢の案を提示できるように準備しておく。 SOCCSS法(簡略版)支援者用記録用紙 ・本記録用紙は、あくまで例であり、本人(対象者)の状況に合わせて、実施の仕方(話し方、セリフ等)を柔軟に変えること。 ■実施上のポイント (1)個別相談での確認事項 (2)支援者から複数の選択肢の提示 (3)選択肢の検討 (4)選択肢の決定、シミュレーションの実施① (5)選択肢の決定、シミュレーションの実施② (7)実施 (8)実施結果の評価・とりまとめ 目 的 ・ジョブコーチ支援等、就労支援で時間等物理的制約を伴い、本人から選択肢が出にくい場合や選択肢が絞り込みにくい等に簡略版を使う。 ポイント ・SOCCSS法と同様に、結果予測と本人の納得を大切にする。 ・本人に合った選択肢を提示するが、特定の選択肢に誘導することはしない。 留意点 ・SOCCSS法(簡略版)を使用することで、 SOCCSS法における自己決定の重要なプロセスの一部がなくなることに留意すること。 支援者の実施手順(セリフ) 記 録 それでは、まず困った状況について教えてください。 支援者の実施手順(セリフ) 記 録 ・この選択肢で行うのはどうですか? 【選択肢1】 【選択肢2】 【選択肢3】 支援者の実施手順(セリフ) 記 録 ・この選択肢を行ったらどうなりますか?解決しそうですか? 支援者の実施手順(セリフ) 記 録 ・では、選んだ選択肢について、具体的な段取り(行動のプラン)を立てましょう。 支援者の実施手順(セリフ) 記 録 ・では、実際に実行に移す前に、選んだ選択肢や段取りについてシミュレーションしてみます。 ・シミュレーションの方法としては、〇〇をする方法等がありますが、やってみたいことはありますか? では、事前試行してみましょう。 支援者の実施手順(セリフ) 記 録 ・(セリフなし) 支援者の実施手順(セリフ) 記 録 ・実行してみた結果はいかがでしたか? 【上手くいった場合の問いかけ】 ・うまくいきましたね。今後もこの取組を続けてみますか? 【上手くいかなかった場合の問いかけ】 ・上手くいかなかったのは、どうしてですか? 3.実施上の留意点 その問題に対して、本人が困っていない場合 次のような方法もある。(1)本人に対して、問題によって引き起こされる結果 (不利益)を見せる。 (例)①「(あなたのとった言動に対して)会社はこう思っている」と伝える(会社の協力、同意は必要)。 ②「このままでは、どうなるのか?」、「どんな不利益が起きるのか?」ということを、本人に問いかける。 (2)本人の希望と絡めて相談を進める。例えば、身だしなみに課題があり、それをテーマとして取り上げたい場合、 本人に「働きたい」という希望があれば、「どうすれば働けるか?」「働くための準備には何があるか?」 といったところから相談を始め、徐々に課題に働きかけていくように進める。 本人から問題に対する解決策案が出てきにくいことが想定される場合 これまでの本人へのアセスメントの状況から、本人自身から選択肢が出にくいことが想定される場合がある。 そのような場合は、本人の状況や周囲の環境を踏まえて、 SOCCSS法簡略版のやり方で、支援者から3つ程度の選択肢の案を提示できるように準備しておく。 SOCCSS法(簡略版) 1 個 別 相 談 2 支援者から複数の選択肢の提示 困りごとや課題を解決していくため、支援者から本人に対して、本人に合った3つ程度の複数の選択肢を提示する。 3 選択肢の検討 選択肢一つずつについて、本人に次の2点を尋ねる。 ①「この選択肢で行うのはどうか?」 ②「この選択肢を行ったらどうなる?解決しそうか?」 本人の発言と支援者の考えが異なる場合は、支援者の考えを根拠を持って本人に対して納得できるように説明する。ただし、特定の選択肢に本人を誘導することはしない。 4 選択肢の決定、シミュレーションの実施 本人に実施する選択肢を選ばせ、段取り (行動のプラン )・シミュレーション (事前試行 )の仕方について相談や提示をする。シミュレーション(事前試行)する。 5 実施 6 実施結果の評価・取りまとめ 7 解決 障害者職業総合センター職業センター 実践報告書 No.34 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 問題解決技能トレーニングの改良 発 行 日 令和2年3月 編集・発行 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター職業センター 所在地:〒261-0014 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-3 電話:043-297-9042 URL:http://www.nivr. jeed.or.jp 印刷・製本 前田印刷株式会社