支援マニュアル 令和5年3月 No.22 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者の強みを活かすための相談・支援ツールの開発 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター職業センター はじめに  障害者職業総合センター職業センターでは、平成17年度から、知的障害を伴わない発達障害のある方を対象とした「発達障害者のワークシステム・サポートプログラム」を実施し、実際の支援をとおして発達障害者に対する職業リハビリテーション技法の開発・改良を進めてきました。その開発成果については、継続して、実践報告書や支援マニュアルに取りまとめるとともに、職業リハビリテーション研究・実践発表会を始め様々な機会をとおして発信しています。  本マニュアルは、発達障害のある方の自己肯定感の持ちづらさを背景に、「強み」の認識とその活用を促すための相談・支援ツールの開発に令和3年度より取り組んだ成果を取りまとめたものです。「強みの理解をすすめる講習」、「強みの活用にチャレンジするホームワーク」、「自らの強みに気づきやすくするためツール」など、本支援技法は発達障害のある方々の職業指導、職業相談等就労支援に活かせるものとなっています。  なお、本技法開発にあたり、東京成徳大学応用心理学部臨床心理学科准教授 石村 郁夫 氏、国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター科研費研究員及び目白大学心理学部心理カウンセリング学科助教 駒沢 あさみ 氏から、それぞれの専門的知見に基づき、ご助言を賜りましたことを深く感謝申し上げます。  本マニュアルが、発達障害のある方の就労支援現場において活用され、職業リハビリテーションサービスの質的向上の一助となれば幸いです。 令和5年3月 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター 職業センター 職業センター長    中村 雅子 目 次 第1章 ワークシステム・サポートプログラムの概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1  1 支援の流れ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2  2 基本構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 第2章 開発の背景と概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5  1 背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6  2 開発の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 第3章 「強み」について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11  1 「強み」の定義、種類 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12  2 「強み」の構成要素・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13 第4章 WSSP版強み育成プロジェクトについて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15  1 WSSP版強み育成プロジェクトの概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16  2 WSSP版強み育成プロジェクトの特徴 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19  3 オリエンテーション、講習・ホームワーク、振返りの目的と内容・・・・・・・・・・・・・・20  4 オリエンテーション、講習・ホームワーク、振返りの実施方法・・・・・・・・・・・・・・・・22   第5章 事例紹介 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・69  1 問題解決技能トレーニングに「強み」の知識を活かした事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・70  2 「強み」の自覚はあるが「強み」の活用方法が分からなかった事例・・・・・・・・・・・・73  3 職場定着を図るため「強み」の内容と活用上の留意点を                   復職時に会社の担当者と共有した事例 ・・・・・・・・75 第6章 実施上の留意点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・77  1 プロジェクト全体を通じた支援者の視点、関わり方の留意点・・・・・・・・・・・・・・・・・・78  2 講習・ホームワーク実施上の留意点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・78  3 振返りの際の留意点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・80 第7章 まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・81 付録 WSSP版強み育成プロジェクト資料集 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・83 第1章 ワークシステム・サポートプログラムの概要  障害者職業総合センター職業センター(以下「職業センター」という。)では、知的障害を伴わない発達障害の診断を受けている者(以下「発達障害者」という。)を対象とした「ワークシステム・サポートプログラム」(以下「WSSP」という。)を実施しています。職業センターは、WSSPの実施をとおして、発達障害者の職業リハビリテーションにおける支援技法の開発・改良と、その成果の伝達・普及を行っています。  WSSPの支援の目的は、13週間のプログラムを通じて「障害特性と職業的課題、就労上のセールスポイントなどについて把握すること」「個々の課題への対処方法、周囲に求める配慮などについて整理すること」「職業生活を維持するために必要な技能(問題解決技能・職場対人技能・リラクゼーション技能・手順書作成技能)の習得を図ること」です。   1 支援の流れ  WSSPの支援の流れは図1-1のとおりです。  WSSPは「ウォーミングアップ・アセスメント期(5週間)」(以下「アセスメント期」という。)と「職務適応実践支援期(8週間)」(以下「実践支援期」という。)の合計13週間で実施しています。  アセスメント期には、障害特性や職業的課題など受講者の状態像について、環境との相互作用を含めて把握します。また、受講者の状態像に応じた支援方法の仮説作りを行います。実践支援期では、アセスメント期で作った仮説の検証、就職後や復職後等の個別の状況に応じた支援方法の整理を行います。     図1-1 WSSPの支援の流れ 2 基本構成  WSSPは、「就労セミナー」、「作業」、「個別相談」で構成されています。  「就労セミナー」では、問題解決技能トレーニング1,2)、職場対人技能トレーニング3,4)、リラクゼーション技能トレーニング5,6)、手順書作成技能トレーニング7)の4つの技能トレーニングを通じて、職業生活を維持するために必要な技能の習得を図るとともに、受講者の特徴についてアセスメントを行います。  「作業」では、アセスメント期、実践支援期の2期に分けてアプローチします。アセスメント期においては、ワークサンプル幕張版※を中心に比較的シンプルな作業環境を設定し、作業遂行上の障害特性の現れ方を確認します。並行して、作業の進め方を工夫したり、環境調整などを行いながら、各受講者の障害特性に応じた対処方法を検討するための情報を収集します。実践支援期においては、より就労場面に近い作業環境を設定し、検討した対処方法や受講者に合った周囲の関わり方(指示の出し方など)を試し、その効果を検証します。  「個別相談」では、これまでの経験やWSSPで見られた様子、起こった出来事について受講者自身のとらえ方を聞いたり、支援者からフィードバックしながら、障害特性、セールスポイント、課題への受講者自身の対処方法、周囲に求める配慮事項(作業環境の設定や周囲の関わり方)などについて、受講者とともに考え、作業などで試した状況の振返りを行います。整理された特性や対処方法、配慮事項などについては、受講者がナビゲーションブック8)に取りまとめます。  なお、WSSPでは、支援を効果的に進めるために「就労セミナー」、「作業」、「個別相談」の各場面を関連づけながら支援を行っています(図1-2)。たとえば、「作業」において手順を何度も間違うといった課題が確認された場合、「就労セミナー」の問題解決技能トレーニングにて「作業手順を何度も間違う」をテーマにグループ・ディスカッションを行い、手順を間違わないための対処方法を検討します。また、「個別相談」では、検討した対処方法をどのように実行するかを話し合ったり、実行した結果を振り返る、などを行っています。 ※ワークサンプル幕張版は、OA作業、事務作業、実務作業に大別される13種類のワークサンプルで構成されたツール。職業能力の評価だけでなく、作業を行う上で必要となるスキルや職務遂行を可能とする環境(補完手段や補完行動、他者からの支援等を含む)を明らかにすること、様々な様相で現れる職業上の問題に対応できる訓練課題としての機能も果たせることなどを目的に開発された9)。    図1-2 「就労セミナー」、「作業」、「個別相談」の関連づけ   <引用・参考文献> 1)独立行政法人高齢・障害・求職者支援機構 障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュ   アルNo.8 発達障害者のための問題解決技能トレーニング」、2013 2)独立行政法人高齢・障害・求職者支援機構 障害者職業総合センター職業センター:「実践報告書   No.34 問題解決技能トレーニングの改良」、2020 3)独立行政法人高齢・障害・求職者支援機構 障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュ   アルNo.6 発達障害者のための職場対人技能トレーニング(JST)」、2011 4)独立行政法人高齢・障害・求職者支援機構 障害者職業総合センター職業センター:「実践報告書   No.31 職場対人技能トレーニング(JST)の改良」、2018 5)独立行政法人高齢・障害・求職者支援機構 障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュ   アルNo.10 発達障害者のためのリラクゼーション技能トレーニング」、2014 6)独立行政法人高齢・障害・求職者支援機構 障害者職業総合センター職業センター:「実践報告書   No.36 リラクゼーション技能トレーニングの改良」、2021 7)独立行政法人高齢・障害・求職者支援機構 障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュ   アルNo.15 発達障害者のための手順書作成技能トレーニング」、2017 8)独立行政法人高齢・障害・求職者支援機構 障害者職業総合センター職業センター:「支援マニュアルNo.13 ナビゲーションブックの作成と活用」、2016 9)独立行政法人高齢・障害・求職者支援機構 障害者職業総合センター:「トータルパッケージの活用のために(増補改訂版)―ワークサンプル幕張版(MWS)とウィスコンシン・カードソーティングテスト(WCST)幕張式を中心として―」、2013、p4 第2章 開発の背景と概要 1 背景 (1) 発達障害者の自己肯定感の持ちづらさ  発達障害者は、一般的にポジティブな自己概念や感情を持ちづらいと言われています。発達障害児・者を対象に専門的治療を行う専門家からは、失敗体験の蓄積、不全感、自己肯定感の低下等が発達障害においては元来生じやすいことが指摘されています1)。また、発達障害者の自己決定力が低くなる要因として、強みや自己決定力の発達を促すような体験や、強みに対する理解を深めるサポートがなかったからではないかとの指摘がなされています2)。  WSSPの受講者の過去3年間(令和元年度~令和3年度)における受講者アンケートでは、受講効果について、「自分の特徴が把握でき、対応策をある程度決めることができた」「きちんと休憩をとることが出来るようになったり、コミュニケーションの取り方がなんとなくわかったり、仕事に向けての大きな不安を取り除くことができた」等、支援に対する満足度は100%と高い一方、長所や苦手なことを書き出す課題に対しては「苦手なことはいくつも書き出せたが、自分の長所を書き出すことは難しかった」「苦手なことは作業中に意識的に確認していたので書きやすく感じた。長所については出来る時もあれば、出来ない時もあると考えてしまって書くのが難しく感じた」等、長所の見出しにくさを示す感想が散見されました。また、令和3年度に全国の地域障害者職業センター及び広域障害者職業センター(全50ヶ所※)を対象に行った発達障害者の支援に関するアンケートにて「発達障害者支援において、自らの強みを認識しにくいケースはあるか」を質問したところ、回答のあった50センターのうち49センターが「自らの強みの認識が困難だったケースが認められる」と回答しました。あわせて、強みの認識を難しくさせている要因を質問したところ、複数のセンターから、「自己肯定感・自己効力感の低さ」「強みの捉え方の特異さ(強みとする基準が高かったり、強みと捉える範囲が狭かったりする)」「否定的な事象への焦点化(強みに目が向かない、失敗経験へのとらわれ)」等が挙げられました。また、これらの特徴を持つ発達障害者は、助言を受け止めにくく、支援が進みにくいとの指摘があり、支援者の立場からも、発達障害者の自己肯定感の持ちづらさが支援に影響していることが認められました。  そこで、発達障害者の就労支援をスムーズに進めるためには、自己肯定感を高める支援が必要と考え、本技法開発に着手することにしました。   ※50ヶ所の内訳:各都道府県の地域障害者職業センター47センター、東京障害者職業センター多摩支所、国立職業リハビリテーションセンター、国立吉備高原職業リハビリテーションセンター。   (2) 「強み」への着目  自己肯定感を高めるための支援方法を検討し技法開発を進める中で、ポジティブ心理学における“Strengths”、つまり「強み」という概念に着目しました(コラム①参照)。  ポジティブ心理学は近年注目されている研究分野であり、その中でも「強み」について、関連する研究数は急激に増加しており3)、キャリア教育や心理療法等の幅広い分野で注目されています。  駒沢・石村4)は、大学生を対象とした研究において、「強み」として自覚している側面が多い学生ほどキャリア意識が高く、キャリアビジョンを明確に持ち、積極的に就職活動をしていることを指摘しています。また、「強みを活用する人は、ポジティブな自己概念やポジティブ感情とも関連しており、仮にストレス状況に晒されたとしても粘り強く、積極的に目標に向かって成長しようとする意欲を失わずにレジリエンスが高いまま保たれることが伺われる」5)と述べています。  そこで、本技法開発では、石村ら6)が開発した、大学生を対象とした「強み」の認識を深めるための「強み育成プログラム」(以下「先行プログラム」という。)を参考にし、両氏の助言を得ながら、発達障害者の「強み」の認識とその活用を促すための相談・支援ツールの開発に取り組むこととしました。  本技法開発で先行プログラムに着目した理由は、先行プログラムが、就労経験が少なくキャリアのイメージが十分持てていない対象者にも興味が持ちやすいよう構成されていること、「強み」について分かりやすく分類されていることなどから、発達障害者にも適用しやすく理解されやすいと考えたためです。   (3) 先行プログラムの内容  先行プログラムは、28日間にわたり、週1回90分のセッション5回とホームワーク4回から構成されています(表2-1)。  石村ら6)は、先行プログラムの実施により、精神的健康やキャリア意識の形成に有効であることが示された、としています。  表2-1 先行プログラムの内容    ※石村郁夫:「強みの発見や活用を支援するポジティブ心理学的介入法の開発」、科学     研究費助成事業研究成果報告書、2016を元に作成。 コラム①『ポジティブ心理学と「強み」』  ポジティブ心理学は、1998年、アメリカの心理学者によって提唱され、「人や集団、組織が最適に機能し、繁栄に至る条件や過程を明らかにする学問」7)で、20 世紀の心理学の実践・研究の中であまり注目されてこなかった、人間の持つ心のポジティブな働きに注目しようという提案であり、運動として始められたものであるとされています3)。  ポジティブ心理学の研究成果に基づく、「ポジティブな気分、行動、認知を高めることを目指す治療法や意図的な活動」をポジティブ心理学的介入と言い7)、これにより、抑うつの低減などへの効果があることを示すデータが報告されています7)。  ポジティブ心理学の中核には「強み」(Strengths)の研究があり、ポジティブ心理学成立に伴い、「強み」の研究が活発に行われるようになりました3,7)。  「強み」とは、広義には「人が活躍したり最善を尽くすことを可能にさせる特性」と定義されており、これは、才能や技術など幅広い「強み」を含んだ定義と言えます7)。一方、道徳的に価値のある性格特性的「強み」として、「思考、感情、行動に反映されるポジティブな特性」という定義があります7)。「強み」の中でも近年特に、後者の性格特性的「強み」に関する研究が盛んに行われています7)。 2 開発の概要  WSSPでは、発達障害者の強みの認識とその活用を促すための相談・支援ツールを開発し、それを活用した強みに関する体系的な支援を、「WSSP版強み育成プロジェクト」(以下「プロジェクト」という。)と名付けました。  プロジェクトの構成は図2-1のとおりです。  プロジェクトにおいて支援を効果的に進めるための相談・支援ツールは表2-2のとおりです。 図2-1 WSSP版強み育成プロジェクトの構成 表2-2 WSSP版強み育成プロジェクトの相談・支援ツール一覧 ※各相談・支援ツールの詳細は第4章で詳述します。 <引用・参考文献> 1)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター:「調査研究報告書No.150 発達障害者のストレス認知と職場適応のための支援に関する研究―精神疾患を併存する者を中心と して―」、2020、p18 2)Niemiec,Shogren,Wehmeyer:「Character Strengths and Intellectual and Developmental   Disability: A Strengths-Based Approach from Positive Psychology」、Education and Training   in Autism and Developmental Disabilities、52(1)、2017、p13-25 3)津田恭充・島井哲志:「潜在的強みの測定とその活用:ポジティブ心理学の更なる発展に向けて」、   関西福祉科学大学紀要、第21号、2017、p27-35 4)駒沢あさみ・石村郁夫:「大学生における強みとキャリア意識及び職業興味との関連」、東京成徳大   学臨床心理学研究、15号、2015、p169-177 5)石村郁夫・駒沢あさみ:「大学生における強みの自覚がうつ・不安症状に及ぼす影響」,東京成徳大   学臨床心理学研究、15号、2015、p178-186 6)石村郁夫:「強みの発見や活用を支援するポジティブ心理学的介入法の開発」、科学研究費助成事業   研究成果報告書、2016 7)阿部望・石川信一:「ポジティブ心理学における強み研究についての課題と展望」、心理臨床科学、   第6巻、第1号、2016、p17-28 第3章 「強み」について 1 「強み」の定義、種類  本技法開発では、駒沢らの先行研究1)に基づき、「強み」を “その人特有の思考・感情・行動に反映される力であり、その人にとって特別な意味を成す、生きる上で頼りになるもの”と定義しています。そこでは、具体的な「強み」の種類として、表3-1のとおり60種類の「強み」が挙げられています。   表3-1 「強み」の種類一覧 ※石村郁夫:「強みの発見や活用を支援するポジティブ心理学的介入法の開発」、科学  研究費助成事業研究成果報告書、2016を元に作成。 2 「強み」の構成要素  駒沢ら2)は、「強み」の定義、種類に加え、「強み」の構成要素にも触れており、「強み」には、①ある程度高いパフォーマンスを発揮でき、②エネルギー・活力を感じ、③意味付け・価値付けがなされているもの、という3つの構成要素があることを指摘しています(表3-2)。   表3-2 「強み」の構成要素  その中でも、「強み」の自覚においてウェルビーイング※に特に関連のある側面はパフォーマンスであると述べており、「強み」を活かすことでうまくいくという自信や、良い結果が出せるという肯定的な予想が持てるようになり、それが幸福感などにつながることを示唆しています2)。一方、強みはその性質上認識されにくいと言われており、例えば大学生の場合、就職活動における自己PR以外の場面では「強み」を意識し、積極的に活用しようとする意識が薄いとの指摘もなされています2)。大学生の場合、個人の秀でた点や長所、つまりパフォーマンスの側面にのみ着目されがちですが、駒沢ら2)は「パフォーマンスの側面のみならず、強みの活用に伴う活力感についても十分に意識化し、強みとして意味づけていくことで、強みの発展が促進され、積極的な活用にもつながることが期待できる」としています。また、「強み」の活用による高いパフォーマンスとそれに伴う活力感は、「自己の主要な側面としての強みの意味付けに促進的な影響を及ぼすことが示されている」とし、パフォーマンスの側面だけでなく、活力感、自分らしさ(意味付け)の各側面から包括的に「強み」の自覚を促進していくことが有効と述べています。   ※ウェルビーイングは、英英辞典(Oxford Dictionary of English、2010)では「快適/安寧で、健康な、ないし幸福な状態(the state of being comfortable, healthy, or happy)」と定義されており、ウェルビーイングの概念には、快適や健康、幸福といった要素が含まれている3)。   コラム②『就労支援における「強み」のイメージ』  私たちは普段「強み」と言うと、パフォーマンスの要素を真っ先に思い浮かべることが多いかもしれません。例えば、「正確」という「強み」を持った人がその「強み」を発揮している場面として、どんな場面を思い浮かべるでしょうか。恐らく、正確でミスなく作業をする場面を思い浮かべることが多いのではないでしょうか。ミスのない作業、というのは、「強み」の構成要素においては「パフォーマンス」の要素になります。特に就労支援においては、働くということが一定の成果や結果を求められるため、パフォーマンスに着目することがとりわけ多いと考えられます。  しかし、「強み」の要素はパフォーマンスだけではありません。残りの要素は活力感と自分らしさ(意味付け)ですが、「正確」という「強み」を持った人の例で言うと、例えば、正確さ、緻密さを求められる作業をしているときに、とても熱中し充実しているのであれば、「活力感」の要素を満たしていると言えます。また、そのような作業をしていて自分らしさを発揮していると感じているのであれば、「自分らしさ(意味付け)」の要素も満たしていると言えます。一方、正確でミスなく作業するというパフォーマンスを発揮していても、作業をしているときに充実感がなくただ機械的にやっているだけ、という場合は、「活力感」の要素を満たしているとは言えず、「自分らしさ(意味付け)」についても疑問符が付きます。  プロジェクトでは、就労支援の場面でもあえて、普段あまり着目することのない活力感や自分らしさ(意味付け)に着目することで、発達障害者がより「強み」の認識を深め、キャリア形成や就職活動に積極的に取り組みやすくなったり、ナビゲーションブックの作成、職種選択等における「強み」の活用につながることを企図しています。 <引用・参考文献> 1)駒沢あさみ・石村郁夫:「大学生における強みとキャリア意識及び職業興味との関連」、東京成徳大   学臨床心理学研究、15号、2015、p169-177 2)駒沢あさみ・石村郁夫:「強みと心理的ウェルビーイングとの関連の検討」、東京成徳大学臨床心理   学研究、16号、2016、p173-180 3)アニーシャニシャート・鈎治雄:「well-being研究に関する展望と課題」、創価大学教育学論集、第   72号、2020、p179-193 第4章 WSSP版強み育成プロジェクトについて 1 WSSP版強み育成プロジェクトの概要 (1) プロジェクトの目的  プロジェクトの実施を通じて、発達障害者が自らの「強み」を認識し、伸ばしていくことで自己肯定感の向上を図ることを目的としています。 (2) 対象者  対象者像として、“長所”や“セールスポイント”などの「強み」の自覚が難しく自信をもって就職活動に臨めない、または、自己肯定感が低い発達障害者を想定しています。     しかし、このプロジェクトは、受講者の考えを支持することを柱に進めるため、参加する対象者を限定はしていません。  WSSPでは、①自己肯定感の低さから職種選択などの就職活動に意欲的に取り組みにくい方、②就職活動に向けて長所の整理を希望している方、③休職中で今後の職務内容の検討に向け自らの「強み」を整理したい方などが参加しています。 (3) 構成  プロジェクトは、「オリエンテーション」「講習」「ホームワーク」「振返り」の4つで構成しています。  これらをWSSPの基本構成に当てはめると、「オリエンテーション」と「振返り」は“個別相談”、「講習」は“就労セミナー”、「ホームワーク」は“作業”で実施する仕組みとなっています(図4-1)。 図4-1 プロジェクトの構成とWSSP基本構成 (4) 実施時期  自らの「強み」を見つめ直すためには、受講者が自らの障害特性を整理できていることや支援者からのフィードバックを受け入れられる関係性が構築できていることが重要です。  そのため、WSSPでは、多くの受講者が障害特性のアセスメントが進んだ支援の中間以降の実践支援期に実施しています。WSSPでの実施例は図4-2のとおりです。   図4-2 WSSPでの実施例 (5) 実施の流れ  プロジェクトの実施の流れ図は図4-3のとおりです。  図4-3 プロジェクト実施の流れ図 2 WSSP版強み育成プロジェクトの特徴  プロジェクトの特徴は次の(1)~(4)です。 (1) 受講者や支援者が取り組みやすい回数・時間を設定  各講習は60分を目安とした計3回、ホームワークは計2回とし、就労支援の現場で負担なく取り組める範囲であることに考慮しています。   (2) 受講者が理解しやすく親しみやすい強みカードを使用  60種類の「強み」を元に、ピクトグラム(図4-4)を使った強みカードを作成しました。ピクトグラムを用いることで、「強み」の内容が直感的に理解しやすく、また、自らの「強み」に親しみを持つことが可能となります。     図4-4 ピクトグラム例   (3) ゲームや演習を導入  全3回の講習には、リフレーミング・ゲームや観察記録作成などのゲームや演習要素を取り入れました。これにより、受講者の集中力を切らすことなく、主体的に楽しくプロジェクトに参加することが可能となります。 (4) ホームワークに取り組みやすくするための工夫  ホームワークに取りかかりやすくするため、観察記録表に記入例を示しました。  また、ホームワークに対する負担感の軽減に配慮し、記入量を少なくしました。 3 オリエンテーション、講習・ホームワーク、振返りの目的と内容   (1) オリエンテーションの目的と内容  「強み」に着目することは日常生活においてなじみがないことであり、プロジェクトを単に受講するだけでは主体的に自らの「強み」を実践することにつながりにくく、モチベーションをあげることが困難です。特に、抽象的なことを捉えたり、全体像を把握することが苦手な発達障害者には、プロジェクトの目的や全体像を明確にとらえられる段階を設けることが重要であると言えます。  そのため、プロジェクトへの参加の動機づけとプロジェクトの全体像について理解を促すためにオリエンテーションを実施します。オリエンテーションの内容は図4-5のとおりです。 図4-5 オリエンテーションの内容  オリエンテーションには事前ワークを取り入れています。事前ワークを行うことで、「強み」への興味関心を持ちやすくします。あわせて、受講者が「強み」をどう捉えているのかを確認します。  また、プロジェクト終了後に事前ワークで作成したワークシートを見直すことで「強み」の捉え方の変化を確認することができます。 (2) 講習・ホームワークの目的と内容  講習は、全3回で構成しています。また、「強み」の講習②と③終了後にホームワークを行います。各講習・ホームワークの目的と内容などは表4-1のとおりです。  プロジェクトの最後に行う振返りは、「強み」の継続的な活用を促すことを可能にします。目的と内容は表4-2のとおりです。  この振返りは、プロジェクトが終結しても「強み」を継続的に活用するための動機づけを図るため、「強み」を意図的に活用する経験をした上で行うことが重要です。 表4-2 振返りの目的と内容 4 オリエンテーション、講習・ホームワーク、振返りの実施方法 (1) オリエンテーション  個別に資料を手渡し実施します。受講者と支援者で資料を読み合わせることを標準としていますが、受講者の理解度によっては資料を手渡すのみで読み込みは受講者個人に任せてもかまいません(説明に要する時間は約20分です)。  資料を配布もしくは読み合わせする際に補足事項として、講習中は講習資料とワークブックを常に使うため、配布された資料などはすべて持参して参加することを伝えます。  また、受講者には、事前ワークに取り組むこと、「強み」の講習①までにオリエンテーション資料に含まれているワークシートを提出することを指示します。そのため遅くとも、「強み」の講習①の前日までにオリエンテーションを終えておくことが必要です。   (2) 講習・ホームワーク  講習・ホームワークにおける実施方法と実施における留意点は表4-3、表4-4のとおりです。 表4-3 講習・ホームワークの実施方法 表4-4 講習・ホームワークにおける留意点  ア 「強み」の講習①~「強み」とは?~ 【準備】 ・講習資料 ・「強み」ワークブック ・Nカード  ・タイマー ・筆記具 ・(視聴覚教材(映像資料)を使用して進行する場合)DVD 進行 ゲーム・演習について 1.目的の説明  (スライド1~4):5分  目的と進め方を説明します。 2.「強み」について説明  (スライド5~12):20分  講義資料に沿って、「強み」について説明します。  「強み」や「強み」の構成要素について事例を提示し、意見交換をしながら確認していきます。 3.「強み」を認識し活用する効果の説明  (スライド13~24):30分  「強み」を認識し活用する効果を紹介します。  「強み」を認識するための方法として、リフレーミングをゲームで紹介します。 4.まとめ  (スライド25~27):5分  まとめスライドを用いて講習①の内容を確認し、次回予告をして終了です。 ・スライド8の意見交換の標準時間は3分です。 ・スライド15の発達障害者の特性チェックリストの標準回答時間は10分です。 ・スライド22のリフレーミングの例の標準発言時間は2分です。 ・スライド23のリフレーミング・ゲームの標準所要時間は5分です。 ポイント ・「強み」の定義、構成要素、具体例を示すことで「強み」の具体的なイメージ形成を促します。 ・なぜ「強み」を認識し活用する必要があるのか、その意義(効果やメリット)を伝えることで「強み」の発見などへの動機づけの向上を図ります。 次ページの講習資料について 視聴覚教材を使用する際、途中で再生を止めるタイミングを示しています (ア) 講習の流れ  「強み」の講習①を開始します。  この「強み」の講習は、「WSSP版強み育成プロジェクト」の一環です。  「WSSP版強み育成プロジェクト」は、自分自身の「強み」を発見し、意図的に活用することで、自分自身の「強み」を認識していくことを目的としています。  自分自身の「強み」を知り、活用することでいくつかの効果が得られます。  例えば、就職活動に積極的に取り組める、ストレスに強くなるなどです。  自分自身の「強み」に目を向け、職業生活でのセールスポイントを増やしていきましょう。    「強み」の講習の目的は3点あります。 1.自分自身の「強み」を発見または再認識すること  2.自分自身の「強み」が活かせる場面と方法を見つけること  3.日常生活や職業生活で自分自身の「強み」が活かせること    講習①の内容は、スライドのとおりです。  まずは、「強み」とは何か?から確認していきます。    みなさんは「強み」と聞いて何をイメージしますか? (5秒ほどおく)  長所や能力、あるいは、才能、技能、技術、知識を持っていることなどをイメージした方が多いのではないでしょうか。  「強み」は、「その人特有の思考・感情・行動に反映される力であり、その人にとって特別な意味を成す、生きる上で頼りになるもの」と定義されています。  この講習では、この定義に沿って、みなさん自身の「強み」を探していきます。  このスライドに示されているのは、「強み」の種類です。  ただし、ここに載っているものが「強み」のすべてではありません。「強み」の種類やその数は、人の数だけあります。  みなさん、自分の「強み」は何だろう・・・と少しワクワクしてきましたか?  それとも、自分には「強み」なんてありはしないさ、という気持ちになっていますか?  もう少し「強み」とは何かについて深く考えたいと思います。  スライドを見てください。これは「強み」でしょうか?  Aさんは、商品の分かりやすい説明ができます。Aさんの話を聞いた人はその商品が欲しくなってしまいます。そのため、Aさんは営業成績がトップです。しかし、Aさんは営業が嫌いです。そもそも人と話をすること自体あまり好きではありません。そのため営業に行くたびに憂うつになります。 (5秒ほどおく)  一見、Aさんの「強み」は分かりやすい説明ができることです。しかし、Aさん自身はその力を活用することに憂うつ感を感じています。 さぁ、みなさん、分かりやすい説明ができることは果たしてAさんの「強み」と言えるでしょうか? 1分間考えてみましょう。 ※動画を一時停止する※ ※1分計測後、動画を再生する※  では、参加しているみなさんで意見交換しましょう。 ※動画を一時停止する※ ※3分間意見交換し、動画を再生する※  みなさん、それぞれに感じたことがありましたか?  何をもって「強み」とすればよいかという疑問が思い浮かんだ方がいらっしゃるのではないでしょうか?    では次は「強み」を構成する要素を見てみましょう。    「強み」の構成要素は、パフォーマンス、活力感、自分らしさの3つです。  パフォーマンスとは、高いパフォーマンスが示せることを意味し、うまくできることや得意なことと言えます。このパフォーマンスに着目して「強み」を見つけたいときは、これまで成功したことや頑張って乗り越えられたこと、難なくこなせたことを思い出してみましょう。  活力感とは、「強み」の感情的側面でイキイキ、ワクワクといった気持ちが感じられることです。ちなみに、「強み」を活用したときの活力感は、必ずしも生理的興奮を伴うものとは限りません。たとえば、安らぎ、喜び、感謝、誇り、愛なども「強み」の活用に伴って生じる活力感に含まれます。また、感情の強さも様々と言われています。強く感じることもあれば、かすかに感じる程度の場合もあります。  自分らしさとは、あなたの中での「強み」の価値や意味に焦点を当てた側面です。自分自身の中で大切にしていることや価値を置いていること、あるいは意味を見出していることです。人生のモットーと関連しています。つまり、何か困難なことがあっても、この「強み」を持つ自分なら大丈夫と思わせてくれるものです。  それでは、先ほどのAさんの「分かりやすい説明ができる」ことを構成要素ごとに整理してみましょう。  Aさんが分かりやすい説明ができるという力を発揮していると、営業成績トップという成果を上げることができているため、パフォーマンスはあると言えます。  しかし、憂うつになると言っているので、活力感はありません。  自分らしさについては、はっきりとは言えませんが、営業活動が嫌いだと言っていることや人と話すこと自体があまり好きではないと言っているため、自分らしさと認識していない可能性があります。はっきりと言えないのでハテナ?にしておきます。  Aさんのように得意だけれどやっていると気持ちが憂うつなだけという場合、それは本当の意味での「強み」とは言えません。  ではなぜ、Aさんは活力感が伴っていないのに、分かりやすい説明ができることを習得したのでしょうか。  3つの理由が考えられます。  1つ目は、生きる上で必要だから身に着けたスキル、  2つ目は、何かの目標を達成するために習得した力、  3つ目は、周りの人との調和をとるためにとらざるを得なかった役割に由来する  もの     だからです。  Aさんにとって、分かりやすい説明ができることは習得した力に変わりありませんが、活力感がないことを続けていけば、いつかエネルギーが枯渇し、ストレスを感じる状況になると考えられます。  「強み」を見出すときには、パフォーマンスだけでなく活力感、そして自分らしさにも目を向けていくことが大切です。    みなさんの中に「自分で思う「強み」は本当に「強み」なのかな?」や「これから「強み」になるのかな?」といった疑問が出てきたかもしれません。 「WSSP版強み育成プロジェクト」では、「強み」だけでなく「本当に「強み」なのかな?」とまだ自信が持てないものも「強み」として取り上げます。  自分自身の「強み」をたくさん発見し、意図的に活用し、育てていきましょう。    ここまでで「強み」について大まかなイメージができたと思います。  次は、「強み」を認識し、活用するとどのような効果、つまりどのようなメリットがあるか紹介します。  「強み」を認識し、活用することの効果はたくさんあります。  これらの効果を見ると、もっと自分の「強み」を知って、それを活かして人生を楽しめたらよいのにと思いませんか?  しかし、そう一筋縄ではいかないみたいです。  では、なぜ一筋縄ではいかないのかワークで確認しましょう。    ワークブックを開いて、発達障害の特性チェックリストに回答してみましょう。  このチェックリストは、さまざまな特性を長所短所両面から掲載しています。長所短所両方にチェックをつけても構いません。  どのような長所や短所があるか、それがどの程度かは人それぞれで異なります。  説明は以上です。では今から10分間で回答してください。   ※動画を一時停止する※   ※10分計測後、動画を再生する※  障害特性を長所と捉えた数と短所と捉えた数、どちらが多かったでしょうか? 実際に数えてみましょう。 ※動画を一時停止する※ ※1分計測後、動画を再生する※  短所と捉えた数の方が多かったという方が多いのではないでしょうか。 では、次の解説に移ります。  発達障害の特性チェックリストで短所ととらえた人が多かったのは、人は、ポジティブな要素に目を向けにくいという特徴があると言われているからです。 「人間の脳の認識は期待値との差分によって行われるため、予定通りにできて差分を生まなかった事柄に対しては意識が向きにくい」と言われています。  つまり、私達人間は、主に期待していたことと異なる部分に意識が向きやすいため、成功体験などのポジティブな要素には意識が向きにくいということです。  では、「強み」もポジティブな要素と言えますが、やはり気づきにくいものなのでしょうか?     実際に「強み」の認識は難しいようです。それは、欧米でも日本でも同じ傾向を示すと言われています。  たとえば、ある研究によると、「強みは意識されにくく、一般に約3割の人しか強みを自覚していない」と言われています。    また、日本の大学生を対象とした調査では、「①弱みの自覚が69.7%であったのに対し、強みの自覚は36.4%だった」、「②就職活動における自己PR以外に強みを意識し、積極的に活用しようとする意識が薄い」と指摘されています。研究結果をみると「強み」の認識は難しいことが読み取れます。  だからこそ、意識的に「強み」に目を向けることが大切です。  ここで受講しているみなさんのなかに、「意識的に「強み」に目を向ける」って具体的にどうすればいいんだ・・・?という疑問が浮かんできた方がいらっしゃるのではないでしょうか。  「強み」に目を向けるためには、地道なトレーニングが必要です。  では、トレーニングの内容について次のスライドから確認していきましょう。     ここからは「強み」に目を向けるため    のトレーニングをしていきましょう。  でもせっかくなら楽しくトレーニングでき  るとよいと思いませんか?  今日はゲーム感覚でできるトレーニングを  していきます。 ゲームを行う前に、ゲームのカギとなる、リフレーミングについて説明します。  リフレーミングとは、ものの見方や考え方を変える、今までとは異なった角度・視点からものを見るという意味です。  リフレーミングは二つの方法があります。一つ目は状況のリフレーミングです。行動や特性がプラスへ働く状況に焦点を当てる方法です。  二つ目は意味のリフレーミングです。状況を変えずにそのものが持つ意味を捉え直す方法です。  ここで注意点をお伝えします。リフレーミングはポジティブシンキングではありません。ポジティブシンキングは、「失敗は成功のもと」とか、できなくても「まあ、いいか」と考えることであり、ネガティブな物事を否定する、覆い隠す、無視するという意味合いが入ります。  リフレ-ミングは捉え直す、その事実は認めながら価値を再構築するという方法のためポジティブシンキングとは異なることに注意が必要です。  では次のスライドでリフレーミングを体験してみましょう。  まずは、<状況のリフレーミング>です。  声が大きいという特徴を持つ人がいたとします。この特徴は、静かなオフィスではうるさいとなり、歓迎されにくいでしょう。しかし、大きな音がしている工場では声がよく聞こえるので、周囲は助かるかもしれません。声が大きいという特徴自体は変わっていませんが、状況によってマイナスの特徴になったり、プラスの特徴になったりします。これが状況のリフレーミングです。  次は、<意味のリフレーミング>です。  心配性という特徴を別の角度・視点から表現できないでしょうか。心配性という特徴を持つ人がやりそうな行動を考えてみましょう。スライドに心配性な人がとりがちな行動を3つ載せています。  身近にこのような人がいないか思い浮かべてください。  そして、そのような行動をする人はどういう人と言えるか考えてください。  たとえば、①の書類に間違いがないか念入りに確認するという行動特徴については慎重な人とか慎重さと言えるでしょう。  では、残りの②、③はどうでしょうか?皆さんで考えてみましょう。 ※動画を一時停止する※ (②・③で考えた内容を自由に発言してもらう(発言時間は全体で2分)) ※発表終了後、動画を再生する※    リフレーミングの方法が体験できましたので、いよいよゲームを始めたいと思います。このゲームは2名以上で実施します。  まず、ゲームの進行役を決めます。進行役はプレーヤーを兼務できます。  テーブル中央に講師から配布されたNカードの山を置きます。 ① 進行役は山札の一番上の目隠しカードをとります。 ② プレーヤーは山札の一番上のNカードに書かれた言葉に関して素早くリフレーミングします。 ③ プレーヤーは挙手し、リフレーミングした内容を発表します。発表は早いもの順とします。進行役が発表順を決めてください。 ④ 発表者がリフレーミングした内容が他のプレーヤー全員に認められた場合、該当のNカードを獲得します。認められない場合は、プレーヤー全員に認められるリフレーミングができるまでプレーヤー全員で発表を続けます。 ⑤ ②~④を3回繰り返し、最終的に最も多くのNカードを取得した者が勝者となります それでは、2人以上のグループになりゲームを開始しましょう。 ※動画を一時停止する※ ※ゲーム終了後、動画を再生する※ では、次に進みます。    本日の講習のまとめです。 「強み」とは何か?を確認してきましたが、今日いちばん押さえておきたい点は、「強み」の定義と「強み」の構成要素の二つです。 (スライド内容を読み上げる)       次回予告です。  「強み」の講習②は、「強み」の発見と再認識がテーマです。  内容は、講習①の復習、「強み」発見チェックリスト、「強み」の構成要素のチェック、ホームワーク「強みの観察」の4点です。   以上で「強み」の講習①は終了です。  おつかれさまでした。 (イ) 発達障害の特性チェックリストの実施について(スライド15)  〈目的〉   この演習は、「強み」を意識することは難しいことを実感するために行います。  〈実施方法〉   発達障害の特性チェックリスト(図4-6)を使い、「強み(長所)」と「苦手(短所)」の2つの側面でチェックし、どちらのチェック数が多いか確認します。「苦手(短所)」にチェックをつけた数の方が多いことを確認したら、次のスライドへ進みます。 ※「強み(長所)」のチェック数の方が多かったという受講者がいる場合は、受講者で多数決をとり、「苦手(短所)」のチェック数が多い人が多数であることを確認します。  図4-6 発達障害の特性チェックリスト (ウ) リフレーミング・ゲームの実施について(スライド23)  〈目的〉  このゲームは、リフレーミングという多面的に物事を捉える方法を伝えるとともに、ゲームを通じてリフレーミングに親しむことで、「強み」に気づきやすくするために行います。  〈実施方法〉  リフレーミング・ゲームでは、ネガティブカード(以下、「Nカード」という。)を使います。  Nカード(図4-7)の表には“ネガティブな言葉”が書かれてあり、裏には“リフレーミングした言葉”が書かれてあります。  〈ゲームの流れ〉 1.ペアもしくは3~4人のグループを作ります。 2.グループ内でゲームの進行役を決めることを指示します。あわせて、進行役はプレーヤーを兼務できます。 3.進行役が山札の一番上の目隠しカードをとります。 4.プレーヤーの動きとして以下の内容を伝えます。 ・プレーヤーは山札の一番上のNカードに書かれた言葉に関して素早くリフレーミングします。 ・プレーヤーは挙手し、リフレーミングした内容を発表します。発表は早いもの順とします。複数のプレーヤーが同時に挙手した場合は、進行役が発表順を決めます。 ・発表者がリフレーミングした内容が他のプレーヤー全員に認められた場合、該当のNカードを獲得します。 5.4を3回繰り返し、最終的に最も多くのNカードを獲得した人が勝者となります。  6.ゲームの流れの説明が終わったら、ゲームを開始します。     図4-7 Nカード   イ「強み」の講習② ~「強み」の発見と再認識~ 【準備】 ・講習資料  ・「強み」ワークブック ・強みカード カードタイプ ・強みカード 一覧表タイプ ・タイマー ・筆記具   ・(視聴覚教材(映像資料)を使用して進行する場合)DVD 進行 演習について 1.「強み」の発見と再認識の説明と復習  (スライド1~4):2分  講義内容を説明し、講習①の内容を復習します。 2.強み発見チェックリストの説明と記入  (スライド5~6):25分  強み発見チェックリストの記入方法や「私の強み5(ファイブ)」の抽出方法を説明します。 3.「強み」の構成要素チェック  (スライド7~10):15分  「強み」の構成要素のチェック方法を説明します。 4.ホームワークの説明と観察記録のつけ方練習  (スライド11~16):15分  ホームワークの内容とホームワークで作成する観察記録の書き方を説明します。 5.次回予告  (スライド17~18):3分  次回の講習内容を説明して終了です。 ・強み発見チェックリストの回答と「私の強み5(ファイブ)」の整理に係る標準時間は20分です。 ・「強み」の構成要素のチェックに係る標準記入時間は10分です。 ・観察記録のつけ方練習に係る標準時間は10分です。 ポイント ・強み発見チェックリストや「強み」の構成要素をチェックするという具体的な作業によって「強み」の抽出を促します。 次ページの講習資料について 視聴覚教材を使用する際、途中で再生を止めるタイミングを示しています (ア) 講習の流れ 「強み」の講習②を開始します。  講習②の内容は、 ・講習①の復習 ・「強み」発見チェックリスト ・「強み」の構成要素のチェック ・ホームワーク:「強みの観察」の4点です。  講習①の内容を振り返りましょう。  講習①では、「強み」とは何か?を確認してきましたが、いちばん押さえておきたい点は、「強み」の定義と「強み」の構成要素の二つでした。 (スライド内容を読み上げる)   では、次に進みます。  今日はいよいよ、「強み」発見チェックリストを使って、自分自身の「強み」を発見していただきたいと思います。 ワークブックの「強み」発見チェックリストを開いてください。全部で60項目ある「強み」について、自分に「とても当てはまる」から「まったく当てはまらない」の5段階で選択します。選択が終わったら、ワークブックの次のページに、4もしくは5と選択した項目を、書き出します。書き出すときは、項目番号を含めて書き出してください。 (該当の強みカードを配布しやすくなります) では、いまから時間を取りますので、チェックと書き出しを行ってください。  ※動画を一時停止する※  ※チェックと書き出しの標準時間は10分。10分計測後、動画を再生する※    すべての項目を書き出せましたか?それでは今から「強み」カード一覧表を配ります。この一覧表には、「強み」の詳細が書かれています。表の中からあなたが書き出した「強み」を見つけ、マーカーや色ペンで囲みましょう。見つける時には先ほど書き出した項目番号と一覧表のナンバーが連動していますので数字に着目して探してください。そして、4または5を選択したあなたの「強み」の詳細を一つ一つじっくりと読んでください。    ※動画を一時停止する※  ※読み込みの標準時間は5分。5分計測後、動画を再生する※ 次に、今後このプロジェクトの中であなたが伸ばしていきたい「強み」を5つ選び、ワークブックの赤枠部分に書き出します。    たとえば、ナンバー1の場合は、「自分を信じることができる」と書いてもよいですし、一覧表にある「自信」を抜き出してもよいです。  では、書き出してみましょう。  ※動画を一時停止する※  ※書き出しの標準時間は5分。5分計測後、動画を再生する※ 次に、あなたが選んだ「強み」5つに該当する強みカードを配布します。この5つの「強み」を「「強み」ファイブ」と呼びます。カードを携帯するなどして、「強み」を意識するツールとして活用してください。  ※動画を一時停止する※  (強みカードを配布する)  ※動画を再生する※ 「強み」の書き出しは以上です。次は、「強み」の構成要素に着目したワークに進みましょう。    自分自身の「強み」は、「強み」の構成要素ごとに分析し、客観的に見つめることで、効率的に伸ばしていくことができます。先ほどのワークで書き出した今後伸ばしていきたい「強み」の構成要素をチェックしてみましょう。    今後伸ばしていきたい5つの「強み」を、「強み」の構成要素である「パフォーマンス」、「活力感」、「自分らしさ」で考えた場合、「全くあてはまらない」(1点)から「とてもよくあてはまる」(6点)のいずれに当てはまるかを考え数字を選びます。例えば、パフォーマンスのチェックではその強みを発揮できているときは、「物事がたいていうまくいく、いい成果を収めることができる、最大限の力を発揮できると思う、成功している、うまくやれていると思う」という内容が総合的にどの程度当てはまっているか考えます。同じように、活力感と自分らしさについてもチェックします。  それでは、チェックをはじめてください。 ※動画を一時停止する※ ※チェックの標準時間は10分。10分計測後、動画を再生する※  それでは、次に進みます。  次は、チェックした「強み」の構成要素をレーダーチャートにしてみましょう。 ※動画を一時停止する※ ※作成の標準時間は5分。5分計測後、動画を再生する※  「強み」の構成要素をチェックすることで、あなたが伸ばしていきたい「強み」の状態を確認できたのではないでしょうか。    では、次に進みます。  最後に、ホームワークについて説明します。  これから1週間自分自身の「強みの観察」に取り組み、観察記録を作成してください。観察するのは今日選んだ5つの「強み」です。  詳細はワークブックに記載してありますので、よく読んでホームワークに取り組みましょう。  次のスライドから観察記録のつけ方を練習しましょう。  Bさんの語りを読んでみましょう。  「私は菓子メーカーの商品開発部門で新商品の開発を担当しています」  「新商品開発のヒントにするため、常に他社の新商品の情報収集をしています」  「また、毎週水曜日はコンビニやスーパーに出向き、気になったお菓子を購入し実際に食べてみることで味や風味などの研究をしています」  「私が開発したお菓子が実際に発売されたことがありとても達成感がある仕事だと思っています」  「締切りまでにイメージした味が見つけられず失敗し苦しい思いをすることもありますが、常に新しいものを作り出す挑戦ができる楽しい仕事だと思っています」  みなさん、Bさんの「強み」は何だと思いますか?先ほど配布した「強みカード一覧表」を使いながら、次のページの表に書き込んでみましょう。  Bさんの「強み」の種類と「強み」が表れている場面や状況、その時の行動や考え、そして結果と気持ちを書き込みましょう。 ※動画を一時停止する※ ※演習の標準所要時間は10分。10分計測後、動画を再生する※  みなさん、記入できましたか?次のスライドで記入例を確認しましょう。  Bさんの「強み」についての記入例です。 記入例以外にも、No.37柔軟性や No.38成長、あるいは、No.57閃きなどが「強み」の種類として挙げられます。  記入例を参考にしながらホームワークに取り組みましょう。  では、次に進みます。  次回予告です。  「強み」の講習③は、「強み」の活用とは?がテーマです。  内容は、ホームワーク「強みの観察」感想共有、「強み」をいろいろな視点からとらえる、「強み」の活用について、ホームワーク「強みの意図的活用:行動実験」の4点です。  以上で「強み」の講習②は終了です。  おつかれさまでした。 (イ) 「「強み」発見チェックリスト」の実施について (スライド6)  〈目的〉   この演習は、「強み」発見チェックリストで示される60種類の「強み」から自らの「強み」を発見するために行います(図4-8)。  〈実施方法〉  全部で60種類ある「強み」について、自分に「とても当てはまる」から「まったく当てはまらない」の5段階で選択することを指示します。 どの「強み」が自らの「強み」に当てはまるかは受講者の主観でチェックするため、必要に応じて「深く考えすぎず直感でチェックする」などの助言を行ってください。 図4-8 強み発見チェックリスト (ウ) 「あなたの「強み」を書き出してみましょう」の実施について Step1:私の強み5(ファイブ)の作成(スライド6)  〈目的〉  プロジェクト内で伸ばしていきたい自らの「強み」を選ぶために行います。  〈実施方法〉  まず、強み発見チェックリストで4もしくは5と選択した項目を書き出すことを指示します。  次に今後このプロジェクトの中で伸ばしていきたい「強み」を5つ選び、図4-9の赤点線内への記入を指示します。  現段階で本当に「強み」なのか分からないので書けないという受講者がいた場合は、これからプロジェクトを通じて伸ばしていくため疑問があっても書き出してよいと助言します。 図4-9 あなたの「強み」を書き出してみましょう(上部) Step2:「「強み」の3つの構成要素をチェックしよう~構成要素の得点化~」                                  (スライド8)  〈目的〉  自らの「強み」を3つの構成要素で確認し、「強み」の状態を知ることや「強み」の育て方を見つけるために行います。  〈実施方法〉   図4-10内緑点線部分の構成要素の得点化を指示します。 図4-10 あなたの「強み」を書き出してみましょう(下部) Step3:「「強み」の3つの構成要素をチェックしよう~レーダーチャート作成~」  (スライド9)  〈目的〉   構成要素の得点をレーダーチャートにすることで自らの「強み」を視覚的に把握するために作成します。  〈実施方法〉  構成要素の得点化(49ページ)の後に、図4-11の緑点線内にレーダーチャートの作成を指示します。  また、プロジェクトの最後に行う振返りにおいて、再度レーダーチャートの作成を指示することでプロジェクトの取組の成果を具体的に確認できます。 図4-11 「強み」の3つの構成要素をチェックしよう~レーダーチャート作成~ (エ) ホームワーク~「強みの観察」~の実施について(スライド12)  〈目的〉   このホームワークは、「強み」が表れていると感じた場面、行動、結果、感情の記録を通じて、生活場面の中の自らの「強み」に注目するために行います。  〈実施方法〉  講習終了後1週間、「私の強み5(ファイブ)」の「強みの観察」と観察記録の作成を指示します。(図4-12、図4-13)  ホームワークの内容を把握しきれていない場合は、個別で補足説明を実施し、取組状況を確認しながら必要に応じて一緒にホームワークに取り組みます。 図4-12 「強みの観察」説明資料 図4-13 「強み」の観察記録用紙 (オ) ツール紹介Ⅰ ~強みカード カードタイプ・一覧表タイプ~  この一覧表は、強み発見チェックリストで見つけた、自らの「強み」の内容を把握するためのツールです(図4-14)。  自らの「強み」の把握のほか、ホームワーク「強みの観察」の観察記録のつけ方練習や「強み」の講習③の演習において活用します。  図4-14 強みカード・一覧表タイプ (カ) ツール紹介Ⅱ ~強みカード・カードタイプ~  このカードは、プロジェクトで伸ばしていきたい「強み」(私の強み5(ファイブ))を常に意識するためのツールです。常時携帯でき、すぐに見ることができる名刺サイズとしています。(図4-15)   図4-15 強みカード・カードタイプ ウ 「強み」の講習③~「強み」の活用とは?~ 【準備】 ・講習資料 ・「強み」ワークブック ・強みカード カードタイプ ・強みカード 一覧表タイプ ・タイマー ・筆記具 ・(視聴覚教材(映像資料)を使用して進行する場合)DVD 進行 ゲーム・演習について 1.講習内容の説明   (スライド1~2):2分 2.ホームワークの感想共有 (スライド3~4):15分  発見できた「強み」や「強み」に着目した1週間を過ごしたことでの変化について発表してもらいます。 3.「強み」をいろいろな視点からとらえる   (スライド5~10):35分 ①講義資料に沿って、「強み」をとらえるウォーミングアップをします。  ②「強み」をとらえる演習を行います。  ③他者の強み当てゲームを行います。 4.「強み」の活用について   (スライド11~12):5分  「強み」を活用するときの留意点を説明します。 5.ホームワークの説明   (スライド13~16):3分  ホームワークについて説明し終了です。 ・発表内容を整理する標準時間は3分です。 ・発表時間は一人1分です。 ・「強み」をとらえる演習内の質問時間の標準時間は2分です。 ・「強み」当てゲームに係る標準時間は15分です。 ・ホームワークの実施後、振返りを行います。 ポイント ・演習を通じた他者からのフィードバックにより「強み」の認識を促します。 次ページの講習資料について 視聴覚教材を使用する際、途中で再生を止めるタイミングを示しています (ア) 講習の流れ 「強み」の講習③を開始します。  講習③の内容は、ホームワーク「強みの観察」感想共有、「強み」をいろいろな視点からとらえる、「強み」の活用について、ホームワーク「強みの意図的活用:行動実験」の4点です。  ホームワーク「強みの観察」の感想を共有したいと思います。  どのような「強み」を発見できたのか、また、「強み」に注目して1週間過ごしたことで自分の行動や思考、感情に気づくことがあったのか一人1分間で発表してください。発表に向けた準備として3分間時間を取りますので、発表する内容を整理してください。 ※動画を一時停止する※ ※3分計測後、動画を再生する※  みなさん準備はできたでしょうか。それでは一人ずつ発表してください。 ※動画を一時停止する※ ※発表の合計時間は標準5分。受講者の発表終了後、動画を再生する※  みなさんそれぞれ「強み」に注目して1週間を過ごせたようですね。 今後は、観察できた「強み」の活用を検討していきましょう。具体的な検討方法はホームワークの説明で紹介します。  「強み」をうまく観察できなかったと感じる方は、「強み」に着目していく方法を次のスライドからお伝えしますので、参考にしましょう。  今日はさまざまな視点や方法から「強み」を発見する練習をしたいと思います。  それではウォーミングアップです。「強み」の講習②で登場した、菓子メーカーの商品開発部門に所属しているBさんのエピソードです。 Bさんの語りを読んでみましょう。 「この仕事は好きなのですが、この前、失敗してしまいました。」 「実は、上司から大人が満足する高級感のあるチョコレートの開発を指示されました。しかし、まだ誰も口にしたことのない味、食感、見た目を追求しているうちに、締切りのことをすっかり忘れてしまって・・・こっぴどく怒られました。」 「とりあえず出来上がったものを上司に試食してもらい高評価を得たのですが、個人的にはまだまだ改良したい点があるんです。私からすれば50点ぐらいの出来なのに、どうして上司は高く評価したのか・・・いまだに納得いかないんですよね」  みなさん、Bさんの「強み」は何だと思いますか?  締切りを忘れたり、上司の評価を素直に受け入れられないといったネガティブな側面ではなく、「強み」に注目しましょう。  Bさんの「強み」は、好奇心やチャレンジ精神、また、情熱や創造力、あるいは閃きなどが考えられますね。  このように、「強み」は、成功している時だけではなく、「失敗してしまった!」とか「ストレスだ!」と感じた経験の中に隠れている場合があります。  では次は、みなさんに実際に語ってもらうワークを行います。  ワークの手順を説明します。 ① ペアもしくは3人一組で、一人が話し手になり、ほかの人は聞き手になります ② 話し手は、人に話せる内容で、日常生活でのちょっとした失敗や苦労した経験を2分間話してください ③ 話を聞いた聞き手は、下の1~4から、話し手の隠された「強み」に気づくための質問を選んでください  強みに気づくための質問は、次のとおりです。 1.「その〇〇や△△というところは、私には見方を変えると◎◎という良いところの裏返しのように思えますが、いかがですか?」 2.「その経験から学んだことはありますか?」 3.「その経験があとで役に立ったと思うことはありますか?」 4.「そのつらい経験からどうやって立ち直りましたか?」 ④聞き手は話し手に選んだ質問をしてください。 ⑤話し手は質問に答えてください。聞き手は相づちだけ返します。 ⑥最後に、話し手はワークを通じて得た気づきを話してください。 たとえば、「〇〇は自分のダメなところだと思っていたけど、見方を変えれば△△という強みになるのかなぁと思いました。」と伝えます。  では、日常生活でのちょっとした失敗や苦労したことについて話す準備をしてください。 5分間とるので、何を話すか決めてください。2分間で話せる範囲でかまいません。 それではどうぞ。 ※動画を一時停止する※ ※5分計測後、動画を再生する※  それでは、最初に話し手になる方を決めてください。(少し間をおいて)決まりましたか?  では、話し手はいまから2分間発表をしてください。お願いします。 ※動画を一時停止する※ ※演習が終了後、動画を再生する※ では、次に進みます。  今度は、ゲームを行いましょう。その名も「他者の強み当てゲーム」です。  「強み」は、他者との関わりを通して、さらに成長していきます。例えば、人の「強み」に注目することで、自分の「強み」にも目が向きやすくなったり、人に言われて自分の気づいていなかった「強み」に気づくなどです。  それではワークブックを開いてください。ゲームの解説をします。 ①「強み」を当てられる人、それ以外は「強み」を予想する人に分かれます。 ②当てられる人は自分の「強みの観察記録」の中から、エピソードを1つ発表します。このとき、自分の「強み」の種類について教えてはいけません。  例を挙げます。 「先週末、自宅に届いた就職面接の結果を見たら不採用でした。あまり考え込んでも不採用が採用に変わるわけではないと考えることにしました。具体的には、物事がうまくいかないときでも、モチベーションを保つ機会になると思うことにしました。逆境にくじけない自分を誇らしく感じました。」 ③予想する人は、発表されたエピソードに関して順番に質問し、「強み」を予想します。 ④質問が一巡したら、予想する人は、予想した「強み」を回答します。  回答は早押し形式です。一度に回答できる「強み」の数は一つまでです。 ⑤当てられる人は、回答が正解か否かを伝えます。不正解の場合は、回答権が他の予想する人に移ります。 ⑥1巡目で正解が出なかった場合は、④~⑤を繰り返します(最大5巡) 最初に「強み」を言い当てた人に得点が入ります。得られる得点は別表のとおりです。 回答が外れた場合でも、当てられる人が、そのような「強み」があると判断した場合は、4ポイントが付与されます。  それでは、「強みカード一覧表」を手元に用意し、「強み」を当てられる人、それ以外は「強み」を予想する人に分かれて他者の強み当てゲームを始めていきましょう。 ※動画を一時停止する※ ※ゲーム終了後、動画を再生する※   では、次に進みます。    これまでの講習で、「強み」とは何か、自分の「強み」は何か、また、自分の「強み」を活かせる場面などについて理解が深まってきたと思います。「強み」の講習、最後のテーマは「強み」の活用についてです。    「強み」を活用するときの留意点は3つあります。  まず、「強み」の過剰な活用は、ネガティブな評価に転じることがあります。  たとえば、一度決めたことはやりとおすという「強み」を持っているとします。いったんは認められたことでも、社会的に認められなくなった後もやりとおすとどうなるでしょうか?  この場合、やりとおすという強みは協調性のなさというネガティブな評価を受けることになるでしょう。  次に、「強み」を活用する場面やタイミングに気をつけましょう。  たとえば、困難があっても耐えることができるという「強み」を持っている人がいたとします。資格試験に合格するため、難しい勉強を継続する。これは問題ありません。しかし、高熱が出ているのに勉強を続けたとき、困難があっても耐えられるという「強み」を活用すれば身体的だけでなく、精神的な健康を損なってしまうことになりかねません。この場面では「強み」の活用をコントロールする必要があります。    最後に、「強み」を使わないという選択肢があります。  「強み」の活用は強制されることではありません。情熱という「強み」を活かして仕事に没頭することがあっても、疲れたときは休んでよいということです。先ほどの例の人でいえば、あまりに身体がきつければ勉強を止める選択をすることができるのです。  「強み」を活用しているのに、ポジティブな感情どころか辛さばかりを感じるときは、「強み」の活用を自分に強制していないか振り返ってみましょう。  最後に、ホームワークについて説明します。  これから1週間のあいだ、あなたの「強み」を、【どのような場面・状況】で活用し、【その結果・成果はどうだったか】、【そのときの気持ちはどうだったか】を記録してもらいます。  慣れるまでは、意図的に活用するのではなく、結果的に活用していた・・・となるかもしれませんが、それでもOKです。  詳しい内容を次のスライドとワークブックで確認しましょう。  では、行動実験に向けた流れを確認します。  最初に「強み」を意図的に活用する場面を決め、次に行動を決めます。スライドにヒントを載せていますので参考にしてください。  次に、実際に行動し、やってみます。そして、ワークブックの記録用紙に結果、その時の気持ちなどを記入します。  はじめに場面や行動を決めることが難しいときは、1日の終わりに、その日の行動を振り返り、「強み」を活用できていたと思う場面や結果などを記入してください。  この取組みを通じて、みなさんの「強み」が発揮しやすい場面・状況が明らかになってくると思います。そうなれば、「強み」をいっそう意図的に活用できるようになることが期待されます。     以上で「強み」の講習は終了です。  おつかれさまでした。 (イ)他者の強み当てゲームの実施について(スライド9)  〈目的〉   このゲームは、他者の「強み」に注目することで、自らが抽出した「強み」以外へも目を向けるため、また、他者から自らの「強み」を指摘されることで新たな「強み」に気づくために行います。  〈実施方法〉   図4-16、図4-17を使い他者の強み当てゲームの概要を説明します。3人以上で行うと、「強み」の指摘が多く得られるため、「強み」を当てられる人の気づきが促しやすくなります。   なお、ゲームの最後に受講者自身で獲得した得点を確認しますが、他者の「強み」に目を向けるというゲームの仕組みが重要であるため、講師は勝敗に関するコメントはせずゲームを終了します。  図4-16 他者の強み当てゲーム説明資料  図4-17 他者の強み当てゲーム得点表 (ウ) ホームワーク~「強みの意図的活用:行動実験」の実施について                                 (スライド15)  〈目的〉   このホームワークは、「強み」の意図的活用を経験するために行います。  〈実施方法〉  図4-18を使い、記録しながらホームワークに取り組むことを指示します。意図的に活用する「強み」や場面などが設定できない場合は、受講者と支援者で相談して決めます。必要に応じて途中で取組状況を確認するなどサポートしながら実施を促します。終了後は実施結果の振返りを行います。 図4-18 「強みの意図的活用:行動実験」記録用紙 (3) 振返り  「強みの意図的活用:行動実験」実施後に取り組んだ内容などをプログラムの個別相談場面を使い振り返ります。流れは以下のとおりです(図4-19)。    図4―19 振返りの流れ     各実施方法は以下のとおりです。    ア  ホームワークの感想を共有する  〈実施方法〉   ・支援者が記録(もしくは板書)しながら行います(図4-20)。   ※受講者の感想に対して正誤のフィードバックなどは行わず本人の率直な感想として受け止めてください。    図4-20 振返りの記録例    イ ホームワークの実施内容を振り返る   〈実施方法〉  「強みの意図的活用:行動実験」記録用紙(図4-21)「強み」の種類や結果などを聞き取りながら記録(もしくは板書)し、一番多く活用した「強み」などを整理します。    図4-21 「強みの意図的活用:行動実験」記録用紙    ウ 意図的に活用した「強み」の内容をふまえて、その「強み」の構成要素をチェックする  〈実施方法〉  ・構成要素の再チェックと例(図4-22 緑点線)を参照してレーダーチャートを作成することを指示します。   ・レーダーチャートの大きさや形の変化に着目したフィードバックを行います。  ・より大きな三角形を目指していくために今後も「強み」を意図的に活用することを促します。   図4-22 レーダーチャート作成例  エ 「強み」をより有効に活用するための方法を確認する  〈実施方法〉  図4-23内の原稿を読み上げます。    図4-23 「「強み」はチームで働く」説明資料       オ 就職(復職)活動への活かし方を検討する  〈実施方法〉  講習①のスライド14(図4-24)を使い、自らの就職(復職)活動において、どの効果をどの場面で活用したいか、また、どんな場面でどう活用すればよいのかを検討します。    図4-24 「「強み」を認識し、活用することの効果」説明資料(講習①スライド14)  ※具体的な今後の活動への活かし方については、第5章事例紹介で述べていますので、参照してください。  そのほか、「強み」に興味を持った受講者やホームワーク(「強みの意図的活用:行動実験」)を順調に進めている受講者には、図4-25のチャレンジを実施することを勧めます。   図4-25 「チャレンジ」説明資料 第5章 事例紹介 1 「問題解決技能トレーニング※に「強み」の知識を活かした事例」 (1) 対象者  Aさん(20代、求職中) (2) 支援概要  Aさんは、アセスメント期において、「困りごとを解決したいと思うものの、解決策をうまく実行できないかもしれない」という不安から具体的な行動が取りにくくなっている様子が確認されました。  そのため、実践支援期で実施する問題解決技能トレーニングにおいて、問題が明確化し解決策が見いだせたとしても、解決策の実行に移れない可能性が高いのではないかと推測しました。 一方、アセスメント期にプロジェクトに参加したAさんは、自らの「強み」をスムーズ に選び出すことができていました。  これらの状況から支援者は、問題解決トレーニングの解決策を実行するきっかけとして、「強み」を活かすという視点で解決策を考えると行動しやすくなるのではないかと考えました。  そこで、問題解決技能トレーニングの中の「解決策の検討」のステップにおいて、自らの「強み」をもとに解決策を検討できる「問題解決技能トレーニング「強み」反映版シート」(図5-1)を作成し、Aさんに活用してもらうことにしました。 図5-1 問題解決技能トレーニング「強み」反映版シート  Aさんは、問題状況の把握から解決策案のブレインストーミングまでをグループワークで行った後に、個人ワークとして「問題解決技能トレーニング「強み」反映版シート」の記入を行いました(図5-2)。強みカードを用いることで自らの「強み」をスムーズに思い返し、「問題解決技能トレーニング「強み」反映版シート」に「強み」を活かした解決策をいくつか書き込むことができました。なお、Aさんの選択と決定を尊重するため、支援者は、どの「強み」や解決策を記入するかは、本人の判断に任せました。  Aさんは、優先順位の高い解決策から実行し、問題解決に向けて主体的に行動することが可能となりました。   図5-2 Aさん記入「問題解決技能トレーニング「強み」反映版シート」 (3) まとめ  Aさんは、「「強み」と関連付けて解決策を検討することで、ストレスなく解決策を実行できそうだと感じられ、実行を意識しやすかった」と感想を話していました。  「強み」を活かした解決策の検討が行動を促すきっかけとなり、不安の軽減につながったことが確認されました。  本事例は、解決策になかなか取り組めず、行動のきっかけが掴めない対象者に対し、「強み」と解決策を関連付けることで行動を促す方法が見出せた事例と言えます。 ※問題解決技能トレーニングは、発達障害の特性を考慮して、問題の分析、解決方法の検討を効率的・効果的に進めるための、集団場面や個別相談で実施できるトレーニングです。  受講者自らが問題の発生状況や原因を把握し、現実的な問題解決策を選択できることを目指します。  問題解決技能トレーニングは、SOCCSS法の基本コンセプトを援用しています(図5-3)。 図5-3 問題解決技能トレーニングの流れ  ※詳細は、「発達障害者のための問題解決技能トレーニング(支援マニュアルNo.8)」を参照してください。 2 「「強み」の自覚はあるが「強み」の活用方法が分からなかった事例」 (1) 対象者  Bさん (20代、求職中)   (2) 支援概要  Bさんは、「自分自身の「強み」は思いつくが就職活動への活かし方が分からない」と感じていました。そのため、プロジェクトで「強み」やその活かし方を学んだ後に、就職活動に活かすため、就職活動時に活用するナビゲーションブック※の作成に反映することとしました。 ア ナビゲーションブックへ「強み」を反映するために・・・ 【「強み」の継続的な活用を目標として明確化】  Bさんは、「強み」の講習①で「「強み」の認識と活用の効果(講習資料スライド14)」を学び、「強みを自覚するほどキャリア形成や就職活動に対する積極的な姿勢を示す」という効果が得られることに期待を持ちました。振返りの際には、就職活動を積極的に行うためにも、今後「強み」を継続的に活用したいと話していました。 イ Bさんが「強み」の記入に活用したのは・・・・ 【「強みの観察記録」・「強みの意図的活用:行動実験記録」】  「強みの観察記録(図5-4)」・「強みの意図的活用:行動実験記録(図5-5)」をナビゲーションブック内の長所・セールスポイントの記入時に活用しました。プロジェクトを受講する中で自らの「強み」と結び付いた具体的な行動などを数多く書き溜めていたため、長所・セールスポイントとしてアピールできるものはどれかが選択しやすくなり、よりスムーズに長所・セールスポイントを記入できました。 図5-4 Bさん記入「強みの観察記録」 図5-5 Bさん記入「強みの意図的活用:行動実験記録」 ウ 作成中に助言したこと・・・ 【「強み」の構成要素を再チェック】  ナビゲーションブックを作成する過程で、Bさんから、「自分では「強み」だと思うが本当に「強み」と言ってよいのか心配だ」との相談がありました。そのため、ホームワークの記録などを用いて、「強み」を意図的に活用したときに結果を残せたことや生き生きとした感覚があったことなどを振り返り、「強み」と言えることを助言しました。  図5-6はBさんが作成したナビゲーションブックです。 図5-6 Bさん作成「ナビゲーションブック」(抜粋) (3) まとめ  プロジェクト内のホームワークで取り組んだ結果などを用いて長所・セールスポイントを書き込んだことで、「他者よりも秀でていることではなく、自分自身が達成したことや熱中できること、自分らしくいられること」を「強み」として自信を持って書き込むことができました。  また、プロジェクト中にBさんから、「力を発揮できる仕事は自分が思っているよりもあるのかもしれない」との感想が得られました。  本事例は、「強み」を活かす方法や目標がプロジェクトで明確になり、ナビゲーションブックに就職活動に使える情報として書き込めたことで、Bさんのより意欲的かつ積極的な就職活動を促すきっかけになりました。 ※ナビゲーションブックは、受講者自身がWSSPでの体験などをもとに、自らの特徴やセールスポイント、障害特性、職業上の課題、会社に配慮を依頼することなどを取りまとめて、会社や支援機関に説明する際に活用するツールです。  詳しい内容は、「ナビゲーションブックの作成と活用(支援マニュアルNo.13)」を参照してください。 3 「職場定着を図るため「強み」の内容と活用上の留意点を復職時に会社の担当者と共有した事例」 (1) 対象者  Cさん (50代、休職中) (2) 支援概要  Cさんは、臨機応変な対応が苦手であるなど、発達障害の特性を自覚していました。また、Cさんの休職前のエピソードから、「与えられた仕事は自分の責任でしっかりやり遂げなければならない」と考え一生懸命仕事に取り組むものの、予定通り進まないと不安や焦りにつながっていたことが確認されました。復職に向けて、周囲の人に自らの特性を知ってもらうことで安心して勤務できる環境が整えられると考え、Cさんの特性を整理しナビゲーションブックを作成することとしました。ナビゲーションブックにはネガティブな情報だけではなく、プロジェクトを通して見つけた「強み」や長所を反映すること、また、それを復職時に会社の担当者に説明できることを受講の目標にしました。 ア 支援のポイント① 自らの「強み」の発見、再認識 【「強み発見チェックリスト」による「強み」の発見】  Cさんに「強み発見チェックリスト」を付けてもらったところ、“4(当てはまる)”“5(とても当てはまる)”と付けた項目が数多く抽出されました。  Cさんが選んだ「私の強み5(ファイブ)」は、「情熱」、「尽力」、「集中」などでした。 イ 支援のポイント② ナビゲーションブックへの「強み」の反映 【強みカード、「強みの観察記録」・「強みの意図的活用:行動実験記録」を参照しナビゲーションブックを作成】  Cさんは復職に向けて、会社の担当者に説明するためのナビゲーションブックを作成しました。支援者は、作成の際、強みカード、「強みの観察記録」・「強みの意図的活用:行動実験記録」を参照し長所の記載内容に反映することを助言しました(図5-7)。  作成したナビゲーションブックは、WSSP終了後のケース会議で、会社の担当者に説明を行いました。 図5-7 Cさん作成「ナビゲーションブック」(抜粋) ウ 支援のポイント③ 「強み」の構成要素に着目した助言と会社担当者との共有 【「「強み」の3つの構成要素チェック~レーダーチャート作成~」を通した振返り】  「強み」の構成要素をチェックする際、講習②受講時とプロジェクトの最後の振返り時のレーダーチャートを比較すると、活力感が上がったことが確認できました。これはホームワークにおける「強みの観察記録」・「強みの意図的活用:行動実験記録表」の記入を通じて、強みを実感できたことが一因と考えられました(図5-8)。  一方、Cさんの「強み」は「情熱」、「尽力」、「集中」など一生懸命がんばることがその内容に含まれていました。実際CさんはWSSPの取組みの際も、熱心に課題に取り組むものの、ときに一生懸命見直しをしているのにミスを見つけられず焦ってしまうといった場面が見られました。そこで、Cさんに、「強み」を発揮してもかえって疲れてしまったり、結果がうまくいかなかったりするときには、「強み」の発揮を休むことや、他者に客観的な助言を仰ぐことが大事であるとの意識付けを図りました。  一生懸命取り組むものの、予定通り進まないと不安や焦りにつながるというエピソードは休職前の職場でも見られたため、WSSP終了後のケース会議の際に、「一生懸命やるあまり疲れてしまったり、そのわりに結果が伴わないときには、休息の促しや客観的な助言など声掛けを行っていただきたい」と会社担当者にお伝えしました。   図5-8 Cさん作成「レーダーチャート」 (3) まとめ  Cさんからは、「強み発見チェックリスト」に関して、「苦手なことはたくさん思い浮かぶが、得意なことや「強み」はあまり浮かばなかった。「強み発見チェックリスト」で「強み」が一覧になっていることで、「強み」を見つけやすかった」との感想がありました。また、ナビゲーションブックをWSSP終了後のケース会議で会社の担当者に説明したあとは、「復職への不安が少し軽減された」との感想が得られました。  本事例は、「強み発見チェックリスト」による「強み」の発見とナビゲーションブックへの反映により、自らの「強み」の認識を深めることができたケースです。自らの「強み」を含めた特性をナビゲーションブックという形で復職時に会社の担当者に説明することで、復職に向けた不安の軽減につながったと考えられます。  併せて、「強み」の構成要素、特に活力感や自分らしさ(意味付け)に着目した振返りを行い、「強み」の活用を休むという選択肢があることを助言したこと、さらに、休職前の課題を踏まえて、「強み」を活用してもうまくいかないときの対応を会社の担当者と共有したことも支援のポイントと言えます。 第6章 実施上の留意点  プロジェクトを実施するにあたって、専門家の助言を踏まえた留意点は以下のとおりです。プロジェクトを行う際の参考にしてください。   1 プロジェクト全体を通じた支援者の視点、関わり方の留意点 ・受講者に必ず「強み」があると認識して関わる ・支援者が、「受講者には「強み」がある」と認識して関わらないと、受講者本人も「自分には「強み」がある」という思いを抱きにくくなります。どの受講者も、自分には「強み」があるという意識が育成されてこなかっただけで、もともと「強み」はあると認識して支援を進めることが大切です。 ・支援者は、受講者に「強み」はあるという認識のもと、「強み」に着目して受講者の行動観察等を行います。 ・受講者の選んだ「強み」を意識して行動観察する ・日頃の行動観察やアセスメントを行う際は、受講者が選んだ「強み」と関連づけて観察し、記録に残します。 例:日頃の支援で使っている支援記録票に、「受講者が選んだ「強み」」   を常時記載しておく。 ・受講者が「強み」を発揮していると思われる場面が観察できたときや、「強み」を発揮しすぎて疲れていると思われる場面が見られた際は、それをフィードバックして、受講者が、自らの「強み」を発揮している状況やその効果を振り返る手助けをします。 2 講習・ホームワーク実施上の留意点 ・講習参加者が少  なく集団が形成  できない場合 ・受講者の集団参  加が難しい場合 ・1対1の相談場  面で活用する場  合 ・講習・ホームワークは、支援者と受講者1対1で行うことができます。 ・「リフレーミング・ゲーム」や「「強み」をいろいろな視点からとらえる」の「ワーク1、2」は、支援者が進行役を担いつつプレーヤーなどの参加者役を担うことで、1対1で進めることができます。 ・いろいろな意見を聞いて視野を広げるといった効果をねらいたい場合は、進行役の支援者以外に、別の支援者が受講者役として補助的に入ることで対応します。 ・プロジェクトの必要な部分のみを実施する場合 ・プロジェクトは、オリエンテーションから振返りまで、流れに沿ってすべて実施することが必須ではありません。受講者のニーズや状況に応じて、その要素の一部のみを取り出して実施することが可能です。 ・その場合、「強み」の定義、構成要素の説明と、振返りは必ず行います。    例1:「強み発見チェックリスト」と強みカードのみ使用 ⇒1.講習①から「強み」の定義、構成要素の説明などを抜粋し、「強み」についての理解を促す。 2.「強み」発見チェックリストを付けてもらい、伸ばしていきたい「強み」を5つ選んでもらう。 3.該当の強みカードを渡す。 4.「強み」の構成要素をチェックしてもらう。 5.強みカードの内容を意識して活動に取り組むように促す。 6.強みカードの内容を意識して取り組んだ結果や、「強み」の構成要素の変化などの振返りを行う。  例2:「強み発見チェックリスト」とホームワークを中心に実施 ⇒1.講習①から「強み」の定義、構成要素の説明などを抜粋し、「強み」についての理解を促す。 2.「強み」発見チェックリストを付けてもらい、伸ばしていきたい「強み」を5つ選んでもらう。 3.「強み」の構成要素をチェックしてもらう。 4.「強みの意図的活用:行動実験」記録用紙を渡し、1週間など期間を決めて、選んだ「強み」の意図的な活用に取り組んでもらう。 5.「強みの意図的活用:行動実験」の結果や、「強み」の構成要素の変化などの振返りを行う。 ・強み発見チェックリストの表現が自らの状況に合致しにくい受講者の場合 ・受講者が自らに当てはまると思う言葉で「強み」を表現してもらってもかまいません。 例:「熱い気持ちを持っているが「情熱」には当てはまらない」という場   合、「「熱い気持ち」を自らの「強み」にしましょう」と声をかける。 ・「強みカードに記載された「強み」の内容の一部は当てはまるが全部は当てはまらない」と言う受講者の場合は、「すべて当てはまらなくてよいので、自らが伸ばしていきたいと思う点だけに着目しましょう」と伝えます。 ・強み発見チェックリストで“4”や“5”と答えた回答がない場合 ・ “3”と答えたもののうち受講者自らが伸ばしていきたい「強み」を抽出します。 ・受講者単独でホームワークに取り組むことが難しい場合 ・自宅ではなく、支援の中で実施します。 ・独力でホームワークの記録シートを書けない場合は、個別相談など支援者との相談の中で一緒に振り返ることで対応します。 ・「強み」の構成要素の得点化がうまくできない場合 ・「強み」の構成要素チェックで、「強み」の構成要素(パフォーマンス、活力感、自分らしさ(意味付け))について「総合的にどの程度当てはまるか」が判断できない場合は、項目1つ1つについて1~6点を付け、平均点を出します。 例:パフォーマンスのチェック 物事がたいていうまくいく 4点 いい成果を収めることができる 5点 最大限のちからを発揮できると思う 6点 成功している 2点 うまくやれていると思う 3点 ⇒(4+5+6+2+3)÷5=4点とする ※「強み」の講習資料②-8(43ページ)、「「強み」の3つの構成要  素をチェックしよう」(49ページ)参照。 ・この場合は、受講後の変化を確認するため、プロジェクトの最後の振返りで構成要素を得点化するときにも再度同様の方法で点数を付けます。 ・発達障害者以外に実施する場合 ・プロジェクトは、発達障害者の特性を踏まえて開発したものですが、発達障害者以外へも実施できます。その際は、講習①で使用する「発達障害の特性チェック」への記入は省いて実施してください。 3 振返りの際の留意点 ・活力感、自分らしさ(意味付け)への着目 ・「強み」を観察できたかどうか、発揮できたかどうかだけでなく、活力感、自分らしさ(意味付け)に着目して振り返ります。 ・「強み」を発揮できていても活力感を感じていなかったり、自分らしさ(意味付け)を感じられない場合は、「強み」の発揮を休んでもよいことや、ほかの「強み」に目を向けることなどを助言します。 例:「集中」という「強み」を発揮しすぎて、夜遅くまで勉強して睡眠不   足になっている。 ⇒「集中」という「強み」を発揮することはいったん休み、夜遅くまで  勉強するのはやめてみよう、と声をかける。 ⇒「集中」ではなく「計画性」という「強み」を使い、夜の時間の使い  方の計画を立ててみよう、と声をかける。   第7章 まとめ  本技法開発では、発達障害のある方の自己肯定感を高めるために、「強みの理解をすすめる講習」「強みの活用にチャレンジするホームワーク」「自らの強みに気づきやすくするためのツール」など「強み」に着目した相談・支援ツールの開発を行いました。  本技法は、ネガティブなことに目を向けやすい受講者が「強み」に気づきやすくするため、興味を持って取り組めるゲームや演習の後、「強み」への意識付けをより促すためにホームワークを通じた実践場面を設けるなど体験する機会を多く設定しています。これにより、受講者自身が主体的にプロジェクトに参加することができ、自らの「強み」に目を向けることが可能となりました。  また、それらの体験を通じて気づいた自らの「強み」を自分の言葉で記録し、支援者と話し合うことにより、受講者が自らを客観的に振り返ることも可能となりました。  受講者からは「自分自身の強みに気づくことができた」「強みを日常生活で意識することが習慣化した」「シートに感情を書き出すことで気持ちの整理ができた」という感想が得られており、自らが強みに気づけたことで納得感が得られ、それによりホームワークに積極的に取り組むなど行動化が促進されたと考えられます。  本技法は自分自身の「強み」に気づくこと、それを日常的に意識し活用することで自己肯定感の向上を図り、就職(復職)活動に活かすことを目的としています。発達障害のある方が自らの「強み」を日常的に意識しやすくするためには、一過性の取組みで終わるのではなく、「強み」に気づくことができる体験とその振返りを幾度となく積み重ね、自身が納得感を持つことが可能になるまで、このプロセスを繰り返す等時間をかけた取組みが必要です。  今後は、プロジェクト終了後の振返りの実施方法、日常生活に落とし込んだ「強み」の活用場面の設定、支援者のサポートの在り方など、発達障害のある方が日常的に「強み」を意識し就職活動などに積極的に取り組むための相談・支援の方法をより充実・洗練していくことと併せ、継続的な取組みを支える支援体制を整えることが、本技法をより効果的に活用するための課題として考えられます。           障害者職業総合センター職業センター 支援マニュアルNo.22 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 発達障害者の強みを活かすための相談・支援ツールの開発 発 行 日    令和5年3月 編集・発行    独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター職業センター             所在地:〒261-0014 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-3 電 話:043-297-9042 URL:https://www.nivr.jeed.go.jp 印刷・製本   株式会社 日精ピーアール