実践報告書 令和4年3月 No.40 高次脳機能障害者の 復職におけるアセスメント 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター職業センター はじめに 障害者職業総合センター職業センターにおいては、休職中の高次脳機能障害者を対象とした職場復帰支援プログラム、就職を目指す高次脳機能障害者を対象とした就職支援プログラムの実施を通じ、障害特性に起因する職業的課題の把握と補完行動の獲得、作業遂行力や自己管理能力の向上、及び職業的課題に対する自己理解の促進に資する支援技法の開発を進めています。 高次脳機能障害者の復職支援の際は、休職者と事業主双方の支援ニーズを把握し、助言・支援を行うことが必要です。そのため、幅広い情報収集と支援課題の把握、これらに基づく支援方針の策定、休職者や事業主との情報共有などを、職場復帰期限に遅れることなく計画的かつ確実に行うことが求められます。 本報告書では、高次脳機能障害者の復職支援における、アセスメントから支援方針の策定、その後の事業主支援などにおいて用いる各種ツールを整備し、その体系的活用方法についての解説と説明を行っています。なお、本支援技法による事例について、今後も継続的に蓄積を行い、その結果を基に有効性の向上に努めていく予定としています。 本報告書の作成にあたり、神奈川リハビリテーション病院、特定非営利活動法人高次脳機能障害者支援 笑い太鼓 高次脳機能障害者支援センター、特定非営利活動法人 クロスジョブ、千葉県千葉リハビリテーションセンター高次脳機能障害支援センターの職員の皆さまから、専門的知見に基づき数多くのご助言を賜りました。深く感謝申し上げます。 本報告書が高次脳機能障害者の就労支援の現場で活用され、職業リハビリテーションサービスの質的向上の一助となれば幸いです。 令和4年3月 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター 職業センター 職業センター長 中村 雅子 目次 第1 章 高次脳機能障害者の職場復帰支援 1 技法開発の背景と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 2 「高次脳機能障害」、「職場復帰支援」の定義・・・・・・・・・・・・・1 3 高次脳機能障害者の一般的な復職の流れと職場復帰支援・・・・・・・・・2 4 高次脳機能障害者の職場復帰支援における課題・・・・・・・・・・・・・5 5 高次脳機能障害者の職場復帰支援におけるアセスメントの技法開発の紹介・5 第2章 職場復帰支援のアセスメント 1 障害特性を整理するための特性チェックシート・・・・・・・・・・・・・7 2 高次脳機能障害者の職場復帰支援アセスメントシート・・・・・・・・・・10 第3章 支援方針の検討 1 ケースフォーミュレーション・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 2 支援方針の検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 第4章 事業主との調整のための資料の作成 1 リファレンスシート・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21 2 連絡会議資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24 3 報告資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27 第5章 職場復帰における事業主支援 1 対象者の障害特性と就労上配慮が必要なことを確認する・・・・・・・・・32 2 職務や配置、労働条件を検討する・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32 3 復職部署に障害特性や必要な配慮を説明する・・・・・・・・・・・・・・36 第6章 支援事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38 第7章 まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48 参考文献一覧・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49 資料集 ① 高次脳機能障害特性チェックシート ② 高次脳機能障害特性チェックシート簡易版 ③ 高次脳機能障害者の職場復帰支援アセスメントシート ④ 情報整理シート・ケースフォーミュレーションシート ⑤ 事業主のための職場復帰に関する参考資料集 ⑥ リファレンスシート ⑦ 対処策リスト255 ⑧ 神経心理学的検査の見方 第1章 高次脳機能障害者の職場復帰支援 1 技法開発の背景と方法 (1) 背景 高次脳機能障害者にとって、受傷前の自己像との違いへの戸惑いや障害特性などから、障害の症状や課題の自覚が難しい場合が少なくありません。1) また、障害の現れ方は人によって異なり、複雑でわかりにくく、家族をはじめ、事業主や支援者にとっても、高次脳機能障害者の状態像の把握が難しい場合があります。 障害者職業総合センター職業センター(以下「職業センター」という。)が毎年実施している地域障害者職業センター(以下「地域センター」という。)や障害者就業・生活支援センターなどを対象とした技法開発に関するヒアリング調査・アンケート調査では、高次脳機能障害者のアセスメントや自己理解の促進に関する支援技法の開発を望む意見が多くあげられてきました。また、「高次脳機能障害者の職場復帰支援の進め方や事業主との調整方法を知りたい」、「一般的な職場復帰支援の手続きをわかりやすく示してほしい」など、高次脳機能障害者の職場復帰支援に関わる支援技法の開発を望む意見も多くありました。 こうした意見をふまえ、職業センターでは、高次脳機能障害者の復職におけるアセスメントをテーマに、高次脳機能障害の障害特性や支援課題に関わる情報の収集・整理、支援課題の明確化や支援方針の検討、対象者の自己理解の促進や事業主との調整に資する支援技法の開発に取り組むこととしました。 (2) 開発の方法 開発にあたって、文献調査や専門家ヒアリングを通じ、高次脳機能障害者の職場復帰支援やアセスメントの実施状況に関する情報収集を行いました。並行して、職業センターにおけるこれまでの高次脳機能障害者の職場復帰支援に関わる開発成果を取りまとめ、アセスメントから事業主との調整にいたる一連の支援技法を高次脳機能障害者の職場復帰支援の試行モデルとしてあらためて整理し、職業センターが実施する職場復帰支援プログラム (以下「復帰プログラム」という。)において試行しました。さらに、高次脳機能障害者支援の専門機関である神奈川リハビリテーション病院、特定非営利活動法人 高次脳機能障害者支援 笑い太鼓 高次脳機能障害者支援センター、特定非営利活動法人 クロスジョブ、千葉県千葉リハビリテーションセンター高次脳機能障害支援センター、および3地域センター(千葉、茨城、埼玉)(以下「高次脳機能障害者支援機関」という。)に試行モデルの課題点などについて意見・助言を求め、これらの結果をもとにさらなる修正や改良を加えました。 2 「高次脳機能障害」、「職場復帰支援」の定義 (1) 高次脳機能障害 「高次脳機能障害」は、病気や怪我で脳に損傷を受けたことにより生じる認知機能の障害に関する言葉ですが、用いられる文脈により主として「注意障害」、「記憶障害」、「遂行機能障害」、「社会的行動障害」をさす場合※ と、「失語症」、「失行症」、「失認症」などを含め広くとらえる場合があります。 職業センターで実施するプログラムでは、「高次脳機能障害」を後者の意味としてとらえており、本報告書においても同様の意味で使用しています。 ※「高次脳機能障害支援モデル事業」における診断基準に準拠する場合。 高次脳機能障害支援モデル事業とは、国が平成 13 年度から平成 17 年度にかけて、高次脳機能障害者の支援に積極的に取り組んでいる医療機関を拠点病院に指定し、高次脳機能障害者に対する包括的な支援をめざした事業。 (2) 職場復帰支援 本報告書における「職場復帰支援」とは、原職復帰か、配置転換や職種変更による復帰かにかかわらず、病気や怪我により長期に休業した労働者が休職前の事業所に復帰するために行う支援をさします。 3 高次脳機能障害者の一般的な復職の流れと職場復帰支援 高次脳機能障害者の一般的な復職の流れを示したものが図1です。2) 治療やリハビリテーションにより在宅生活の安定が図られてくると、休職者と事業主は、情報交換を行いながら復職に向けた準備を始めます。その後、場合によってはリハビリ出勤を行い、事業主の復職可否判断を経て、復職となります。 職場復帰支援における取組みとともに、休職者と事業主が復職に向けた準備として取り組む事項を説明します。 休職者 ①障害特性を整理し、職業生活上の課題について理解を深める ②生活リズムを整える、健康を管理する、通勤の練習をするなど ③課題への対処策(補完手段)の習得を図る ④復職後の職務に必要な作業遂行力の向上を図る ⑤職場に依頼する配慮事項を整理する 情報交換 事業主 ①休職者の障害特性と就労上配慮が必要なことを確認する ②職務や配置、労働条件を検討する ③復職を想定している部署に障害特性や必要な配慮を説明する 受障 医学的リハビリテーション 在宅生活の安定 (リハビリ出勤) 事業所にて復職可否の判断 復職 ③´復職部署に障害特性や必要な配慮を説明する 図1 高次脳機能障害者の一般的な復職の流れ 【休職者】 ① 障害特性を整理し、職業生活上の課題について理解を深める 休職者は、復職に向けた準備性の向上や事業主との調整に備え、障害特性の整理と取り組むべき課題の確認を始めます。 職場復帰支援においては、アセスメントを行い、障害特性など個人の諸特性や職場など環境の諸特性を整理したうえで、復職に向けた支援課題を明らかにし、支援計画を立てます。また、これらの作業を休職者とともに行うなかで、休職者の自己理解を深めます。3) ② 生活リズムを整える、健康を管理する、通勤の練習をするなど 休職者は、復職に向けて職業準備性の向上に取り組みます。復職可否の判断基準として、「睡眠覚醒リズムが整っているか」、「決まった勤務日、時間に就労が継続して可能か」、「作業による疲労を翌日に持ち越さないか」、「通勤時間帯に一人で安全に通勤できるか」といった項目があげられます。4)5) 健康管理や生活リズムの確立、基本的な労働習慣、移動能力といった職業準備性の向上は、復職や安定した職業生活に向けた目標となります。 職場復帰支援においては、たとえば、医療機関におけるリハビリテーションや障害福祉サービス事業所における就労継続支援、就労移行支援、地域センターの職業準備支援といった職業前訓練を通じて、職業準備性の向上に取り組むことなどが考えられます。3) ③ 課題への対処策(補完手段)の習得を図る 休職者は、職業準備性の向上とともに対処策(補完手段)の習得を図ります。ここでの対処策(補完手段)とは、「受障によって低下した認知機能を補うための道具の使用」、「注意や記憶などを喚起しやすくするための環境の調整」、「認知機能の低下によるミスを予防するための日課や作業手順などの確立」をさします。6) 高次脳機能障害者の復職において、対処策(補完手段)の習得は職業生活における自立性の向上に向けた重要な目標となります。 職場復帰支援においては、職業前訓練における模擬的就労場面などを通じて、さまざまな対処策(補完手段)に関する情報提供を行いながら、休職者が自分に合った対処策(補完手段)を見つけるための支援を行います。 ④ 復職後の職務に必要な作業遂行力の向上を図る 休職者は、模擬的就労場面などを通じ、業務遂行に必要な注意力・集中力、作業耐性や作業能力の向上を図ります。「業務遂行に必要な注意力・集中力が回復しているか」、「業務に必要な作業ができるか」は復職可否の判断基準としてあげられるものです。4)5) 職場復帰支援においては、事業主との調整に備え、作業遂行力向上の取組みやその成果を報告できるように、休職者とともに具体的なデータの収集、整理を行います。 ⑤ 職場に依頼する配慮事項を整理する 休職者は、復職手続きを進める中で、職務内容や配属先の変更、環境整備や負荷の調整、指示の出し方など復職にあたって希望する配慮について、事業主と調整します。ここでは、①から④の取組みをふまえ、自らの障害特性や課題、課題への対処策(補完手段)を示し、そのうえで職場に依頼すべき配慮事項をできるだけ具体的に提示します。これにより、事業主は復職に向けた対応を具体的に検討できるようになります。 職場復帰支援においては、障害特性や依頼する配慮事項をまとめたレポートを休職者とともに作成するなどして、事業主との調整に臨みます。 【事業主】 ① 休職者の障害特性と就労上配慮が必要なことを確認する 事業主は、休職者からの申出や主治医の意見などをもとに、障害特性や必要な配慮事項を確認します。特に高次脳機能障害については、障害が職務遂行にどう影響するかがとらえにくいため、できるだけ具体的な情報を得ることが望まれます。 職場復帰支援においては、事業主に対し、まず一般的な高次脳機能障害の障害特性や職場復帰支援のポイントなどの情報提供を行います。そのうえで、アセスメント結果などをふまえ、休職者とともに個別の特性やどのような配慮が必要かを具体的に伝えます。 ② 職務や配置、労働条件を検討する 事業主は、①をふまえ、業務体制や安全配慮義務などを考慮しながら、職務や配置、労働条件など復職に向けた対応を検討します。なお、高次脳機能障害者の復職では、受障による身体的変化や認知機能の変化などにより、休職前後の職務に変更が生じやすい点が特徴です。2) 脳卒中患者の92%が障害に配慮した作業や職種、障害の程度に応じて改変された職場への配置転換を受けているとの報告もあります。7) 職場復帰支援においては、復職手続きやスケジュールに従い、職務や配置、労働条件などの検討を行う時間的な余裕を考慮のうえ、事業主との調整を進める必要があります。また、事業主が対応方法を検討しやすくするため、高次脳機能障害者が対応しやすい職務内容や合理的配慮の考え方、具体例などについて情報提供します。 ③ 復職を想定している部署、復職部署に障害特性や必要な配慮を説明する 事業主は、復職を想定している部署や復職部署の理解や協力が得られるように、障害特性や必要な配慮を具体的に説明します。高次脳機能障害は周囲から理解されにくいため、復職部署の上司や同僚への説明は重要となります。4) なお、説明にあたっては、説明する内容や対象について休職者の同意を得るとともに、就業上の措置や合理的配慮を実施するための情報に限定するなどプライバシーへの配慮が必要です。 職場復帰支援においては、必要に応じて事業主による説明をサポートするため、高次脳機能障害に関する資料の提供や休職者とともに作成したレポートをもとにした説明、社員研修の実施、ジョブコーチ支援の利用などを提案します。 4 高次脳機能障害者の職場復帰支援における課題 高次脳機能障害者の職場復帰支援には、高次脳機能障害の特性からくる課題や職場復帰支援ゆえの課題など、さまざまな課題があります。 (1) 高次脳機能障害の症状や状態像の多様さ、個別性、複雑さ、見えにくさ 高次脳機能障害は、脳のどの部位がどの程度損傷を受けたかにより症状が異なります。また、状態像は元々の認知や心理、行動の特性、経験・経歴、健康状態、取りまく環境因子の影響を受けます。加えて、高次脳機能障害を表す概念や専門用語は難解で理解しにくいものです。高次脳機能障害の症状や状態像は多様で極めて個別性が高く、複雑であると言えます。障害特性の整理は職場復帰支援の重要なステップですが、そのためには、個別性が高く、複雑で難解な高次脳機能障害の症状や状態像を的確に把握するアセスメントが重要となります。 また、高次脳機能障害者にとっても、自分の症状や変化に気づき、理解し、受け入れることが困難であることが少なくありません。障害を自分では理解できず、対処策(補完手段)の習得や支援の必要性に気づきにくいことが課題となります。障害の見えにくさから、周囲から理解されず、性格や態度の問題とされたり、合理的な配慮を得にくいといった課題も生じます。職場復帰支援においては、復職に向けた取組みを進めながら休職者の自己理解の促進を図り、同時に事業主の理解を促進する働きかけも行う必要があります。 (2) 支援課題が多方面にわたること 支援課題が多方面にわたることも特徴です。高次脳機能障害は職場で求められる業務遂行力に影響を及ぼすだけでなく、疾病管理や健康管理のあり方、生活管理のあり方、家族関係、経済的保障、余暇、地域活動など職業生活の土台となる生活全般に影響を及ぼし、ときに多面的な支援が必要です。そのほか、これらの支援課題に関わる医療機関や福祉機関、就労支援機関などとの連携体制の構築も課題となります。8) (3) 限られた期間の中での支援となること 休職者は、休職期限を目途とした限られた期間の中で、復職に向けて自らの職業準備性を整え、同時に、職場の復職手続きに従って人事担当者や上司、産業医や主治医などとの調整を行わなければなりません。職場復帰支援は、復職までのスケジュールを見とおしながら、復職に必要な手続きを漏れがないように行うなど計画的に進める必要があります。 5 高次脳機能障害者の職場復帰支援におけるアセスメントの技法開発の紹介 支援者は休職者とともに、限られた期間の中で、とらえにくい高次脳機能障害への理解を深め、多様な支援課題を整理することとなります。そして、支援課題に取り組みながら、同時に事業主への働きかけを行い、最終的には、休職者とともに取組み成果を取りまとめ、復職手続きに従って事業主との調整を行います。 こうした一連の支援におけるさまざまな課題に対応するために、高次脳機能障害者の職場復帰支援にかかる従来の支援ツールを取りまとめて一覧にしたものが図2です。 「特性チェックシート 2)」、「高次脳機能障害者の職場復帰支援アセスメントシート 9)」、「神経心理学的検査の見方 10)」は、アセスメントにおいて高次脳機能障害者の障害特性や多面的な支援課題を整理するためのものです。また、「ケースフォーミュレーション 11)」により、アセスメントを通じて収集した多様な情報から支援課題が明確化され、支援方針を検討しやすくなります。「対処策リスト255」は、対処策(補完手段)の具体的な事例を、職業センターのこれまでの実践をふまえて一覧にし、対処策(補完手段)の検討を行うときの参考となるよう作成しています。「リファレンスシート 2)」は、自己理解を深めたり、習得をめざす対処策( 補完手段)や職場に依頼する配慮事項を整理するためのものです。「事業主のための職場復帰に関する参考資料集 2)」と「高次脳機能障害者の職場復帰に向け準備を進める事業主の皆様へ(リーフレット)」は、事業主に対して調整を行う際に、職場復帰支援に関する知識やノウハウを早い段階でわかりやすく伝えるためのツールとして作成しています。 次章以降において、それぞれについて説明していきます。また、これらの支援ツールについては、巻末の資料集に載せるとともに、支援ニーズに応じてアレンジして活用できるように、記録メディアに電子データを収めています。 高次脳機能障害者の職場復帰支援における課題 ・症状や状態像の多様さ、個別性、複雑さ、見えにくさ ・支援課題が多方面にわたること ・限られた期間の中での支援になること アセスメント ・障害特性を整理する ・職業生活上の課題について理解を深める 特性チェックシート 特性チェックシート簡易版(資料集①、②) 高次脳機能障害者の職場復帰支援アセスメントシート(資料集③) 神経心理学的検査の見方(資料集⑧) 支援方針の検討 ケースフォーミュレーション(資料集④) 職業前訓練 ・生活リズムを整える、健康を管理する、通勤の練習をするなど ・課題への対処策(補完手段)の習得を図る ・復職後の職務に必要な作業遂行力の向上を図る 対処策リスト255(資料集⑦) 事業主との調整に向けた準備 ・職場に依頼する配慮事項を整理する リファレンスシート(資料集⑥) 事業主との調整 事業主のための職場復帰に関する参考資料集(資料集⑤) 高次脳機能障害者の職場復帰に向け準備を進める事業主の皆様へ(リーフレット) 事業主 ・休職者の障害特性と就労上配慮が必要なことを確認する ・職務や配置、労働条件を検討する ・復職を想定している部署・復職部署に障害特性や必要な配慮を説明する 図2 紹介する支援ツールの一覧 第2章 職場復帰支援のアセスメント 本章では、高次脳機能障害の障害特性を整理し、支援方法を検討するための「特性チェックシート」(資料集① )、休職者の医療情報や事業主情報など職場復帰支援に関わる多面的な情報を効率的かつ網羅的に把握するための「高次脳機能障害者の職場復帰支援アセスメントシート」(資料集③ )について解説します。 1 障害特性を整理するための特性チェックシート (1) 概要 特性チェックシートは、注意障害や記憶障害などの高次脳機能障害の主な症状別に、障害特性が職業生活場面においてどのように現れるか、具体的な事象を質問項目として複数用意し、それに対し対象者が、自分に当てはまるかどうか「はい」「ときどき」「いいえ」の3件法形式で回答するものです。 特性チェックシートの活用のねらいは、医療機関の診断書や神経心理学的検査の結果に示される高次脳機能障害の症状を、職業生活での具体的な行動レベルの困難さと結びつけて整理することや、対象者の障害特性に対する自己理解を深める際の相談ツールとすること、障害特性の具体的な現れ方を事業主に説明する際の資料にすることです。 また、巻末の資料集において紹介している「対処策リスト255」とあわせて、障害特性を具体的な行動レベルの困難さとして把握することにより、具体的な対処策や環境調整の工夫を検討する際の手がかりとすることも活用のねらいとしています。 なお、高次脳機能障害者支援機関からは、「質問項目は復職や就労に関連が強い特性を中心に内容をしぼる方がよい」、「専門的な判定については主治医や医療機関に確認が必要なことの注意書きが必要」、「受障後に現れた特性か受障前から見られる特性かを区別できるように記載にあたっての注意書きが必要」などの助言を受け、それらを反映しました。 (2) 使用方法 対象者のアセスメントを行う際、障害特性を把握するために特性チェックシートを使用し、対象者が自らの障害特性をどのように認識しているかを把握します。さらに、特性チェックシートの回答結果を用いた相談において、対象者が診断を受けている主な症状のうち、あてはまると回答した項目について具体的なエピソードをより詳しく聞き取ったり、あてはまらないと回答した項目についても、実際に行動レベルで現れている課題がないか、また課題をどう捉えているのかを詳しく確認し、相談を深めていきます。 対象者には、すべての項目に回答してもらうことを想定しています。例えば、注意障害の診断を受けていない場合でも不注意や見落としが多いという項目にチェックをいれる場合には、対象者が不注意があるという課題を認識していることがわかります。 一方、特性チェックシートは質問項目数が多いため、回答に時間を要するなど負担が大きいと考えられる場合には、複数回にわけて実施したり、対象者に回答を記入してもらうのではなく相談で聞き取るなど、対象者の負担をできるだけ少なくします。職業センターでは、失語の影響で回答が難しい場合などは、支援者が一つひとつの項目を解説しながら問いかける形で確認をしています。 また、対象者との障害認識の違いなどを把握するために、家族や支援機関に回答を依頼することもあります。ただし、対象者以外に回答を依頼する場合は、特性チェックシートの目的や留意事項を十分に説明し、対象者の同意を得る必要があります。 なお、初回相談などの場面で、対象者や家族、関係機関などから大まかに障害特性に対する認識を把握することを想定し、特性チェックシートの中項目から1項目ずつ抽出した「特性チェックシート簡易版」(資料集②)も作成しています。 (3) 構成 特性チェックシートは、高次脳機能障害の主な症状を大項目としています。(図1) また、具体的な行動レベルで現れている課題がどの症状に属するのかの見当をつけるために、例えば失語では、「聴く」「話す」「読む」「書く」「計算」といった中項目を設けています。小項目では、復帰プログラムなどを通じてこれまで蓄積した行動レベルの事象を整理しています。(図2) なお、特性チェックシートの項目は、高次脳機能障害の全ての症状を網羅しているわけではなく、項目数や記載内容も任意のものであることに留意して活用することが必要です。 注意障害 記憶障害 遂行機能障害 半側空間無視 失 認 失 行 易疲労 気づき 失語 社会的行動障害 図1 特性チェックシート 大項目(主な症状) (4) 活用のポイント 支援者は、特性チェックシートの回答結果から、対象者が自らの障害特性に対してどのような認識を持っているのか、どのようなことに困難さを感じているのかを把握することができます。また、神経心理学的検査の結果だけでは、対象者の症状や障害が実際の行動レベルでどのように現れるのかわかりづらいこともあります。そこで、神経心理学的検査結果と対象者が回答した特性チェックシートの項目を照らし合わせることによって、対象者の症状や障害の現れ方をより具体的に把握することができます。 例えば、対象者に記憶障害の診断があり、記憶障害の質問項目で「自分が話したこと、言われたことを忘れる」について「いいえ」と回答した場合は、障害の自己理解に課題があるのか、記憶障害の程度によるものなのかを確認する必要があります。そのため、神経心理学的検査などの客観的データをあらためて確認したり、新たに検査を実施したり、復帰プログラム場面の観察などを通じて、障害特性をさらに詳しく分析していきます。そのうえで対象者と話し合い、障害に対する考えを聞き取ることで、対象者の障害認識や理解が深まることがあります。 さらに、家族や関係機関による回答結果から、対象者との課題認識の違いについて把握することができます。課題認識に違いがある項目については、家族や関係機関から詳しく状況を聞き取り、家族や関係機関と連携しながら対象者と課題の共有を図っていきます。 特性チェックシートは、事業主との調整の際に活用することもできます。高次脳機能障 害者の職場復帰支援においては、症状や障害の現れ方、それに関わる具体的な支援課題をわかりやすく事業主に伝え、いかに職場の障害理解を深め共通認識を持てるように情報提供するかがポイントとなります。 特性チェックシートにもとづいて整理したアセスメント結果を共有することにより、事業主は障害特性を具体的にイメージできるようになり、職場における具体的な対応方法の検討につなげることができます。 事業主への情報提供の際に、事業主との調整に向けた資料を作成する手順については、第4章において説明します。 高次脳機能障害 特性チェックシート 下記の障害特性について自分に当てはまるかどうか、次の三択で回答してください。 注意障害 注意を向けるべき対象に適切に注意を向けること(選択性)や注意を長時間維持することが難しい(持続性)。 複数の対象に同時に注意を払うこと(分配性)や状況に応じて注意の対象を切り替えることが難しい(転換性)。 全般性 何となくぼんやりしていることが多い。 はい ときどき いいえ  会話があちこちに飛び、話にまとまりがない。 はい ときどき いいえ 選択性 周りの音や声に注意が散って作業ができない。 はい ときどき いいえ  誤字・脱字や計算ミスに気づけない。 はい ときどき いいえ 持続性 1つのことに長く集中して取り組めない。 はい ときどき いいえ  家事や趣味を始めても、すぐに疲れたり、あきたりしてやめてしまう。 はい ときどき いいえ 記憶障害 情報を覚えたり、保持したり、必要な時に引き出すことが難しい。 記憶障害全般 作業の手順が覚えられない。 はい ときどき いいえ  休憩時間をはさむと、どこまで作業していたのかわからなくなる。 はい ときどき いいえ  ある作業を指示された後に、別のことをすると、先に指示されたことを忘れる。 はい ときどき いいえ  2つ以上のことをまとめて伝えると、いくつか抜ける。 はい ときどき いいえ 前向性健忘 受障後に経験したことが思い出せない。(例:受障後に知り合った人の名前や顔が中々覚えられない) はい ときどき いいえ  新しいことを効率よく学習できない。 はい ときどき いいえ 遂行機能障害 計画的に段取り良く行動したり、目標や予定を達成したり、変化にうまく対応して行動することが難しい。 計画性の困難 手順が明確な作業はできるが、段取りや手順を自分で考えることができない。 はい ときどき いいえ  自分で1日の生活や作業などを計画して、過ごすことができない。 はい ときどき いいえ 行動の開始困難 周囲からの声掛けがないと、自分から物事を始めることができない。 はい ときどき いいえ  優柔不断で物事をなかなか決められない。 はい ときどき いいえ 失語 会話や読み書き、計算など、言語を使う行為に困難が生じる。 聴く 口頭のみの説明では、作業手順を十分に理解できない。 はい ときどき いいえ  複雑な話や抽象的な話題は、理解が追いつかない。 はい ときどき いいえ 話す 言葉が出づらかったり、言いまちがえをする。 はい ときどき いいえ  「えーっと」と言いよどんだり、「あれ」、「それ」や回りくどい表現になる。 はい ときどき いいえ 読む 文字のみの手順書では、十分に理解できない。 はい ときどき いいえ  平仮名やカタカナよりも、漢字の方がわかりやすいことがある。 はい ときどき いいえ 書く 書いて表現することが難しい。 はい ときどき いいえ  話しながらメモを取ることが難しい。 はい ときどき いいえ 図2 特性チェックシート一部例 2 高次脳機能障害者の職場復帰支援アセスメントシート (1) 概要 「高次脳機能障害者の職場復帰支援アセスメントシート」(以下「アセスメントシート」という。)は、高次脳機能障害者の職場復帰支援に関わる多面的な情報を収集・整理するためのものです。障害者職業総合センター研究部門が開発した幕張ストレス・疲労アセスメントシート 1) (以下「MSFAS」という。)を、高次脳機能障害者の職場復帰支援におけるアセスメントツールとしてカスタマイズしました。 研究部門が開発した MSFAS は、単なる情報収集に主眼をおくのではなく、ストレス・疲労に関するサインや対処方法を考えることを活用のねらいとしています。アセスメントシートには、MSFAS の機能を活かしつつ、高次脳機能障害に特化した医療情報や復職手続き、復職判断基準といった事業所情報など、高次脳機能障害者の職場復帰支援において必要となるアセスメント項目を追加しました。 なお、高次脳機能障害者支援機関からは、「アセスメント項目に運転の可否や出勤に関わる協力体制など職場復帰支援に関わる項目をさらに加えるとよい」、「文字の大きさやレイアウトの工夫が必要」などの助言を受け、それらを反映しました。 (2) 使用方法 使用にあたっては、アセスメントシートの表紙に記載した目的や留意事項を説明し、対象者に作成の同意を得ます。基本的には対象者がアセスメントシートを作成することを想定していますが、特性チェックシートと同様に質問項目数が多いため、複数回に分けて実施したり、対象者が記入することに負担が大きい場合は、支援者が聞き取りながら作成していきます。各シートは独立しているため、必要なシートを抽出して記入してもらうこともできます。また、回答しづらい箇所は未記入で構わないことを伝えます。家族や関係機関からあらためて情報を収集する場合は、対象者の同意を得たうえで協力を依頼します。アセスメントシートで収集・整理した情報は、第3章で紹介する「ケースフォーミュレ ーションのための情報整理シート」に反映し、支援課題や支援方針の検討につなげます。 (3) 構成 アセスメントシートの各シートの項目は図3 のとおりです。 フェイスシート シートA 生活習慣・健康状態をチェックする シートB ストレス・疲労が生じる状況や対処する方法を整理する シートC サポート体制を整理する シートD 障害(病気)に関する情報を整理する シートE 事業所情報を整理する 図3 アセスメントシートの構成 【フェイスシート】 対象者の氏名、住所、生年月日、家族構成、学歴などの基本情報を収集するためのシートです。 【シートA(生活習慣・健康状態をチェックする)】 シートAは、次の項目で構成されています。 シートA 生活習慣・健康状態をチェックする (1) 1日の生活リズムを教えてください (2) 生活リズムが変化することがありますか (3) 眠れないこと、目が覚めることがありますか (4) 食欲はありますか (5) 食生活は規則的ですか (6) 運動をしていますか (7) タバコを吸いますか (8) お酒を飲みますか (9) 腰痛、肩こり、鼻炎、アレルギーなどはありますか (10) その他、健康上の留意事項はありますか 生活リズムや睡眠・食事、健康上の留意事項といった生活習慣・健康状態は、復職可否の判断基準にされるものであり、生活習慣の確立や健康管理は、復職をめざすうえでの課題となるものです。また、生活習慣は、ストレス・疲労と密接に関係し、生活習慣の乱れがストレスや疲労の原因となり、健康悪化につながることもあり、生活習慣・健康状態は安定した職業生活を支える土台となります。シートAでは、生活習慣・健康状態の現状を把握し、職場復帰支援にあたって支援課題や留意事項がないかを確認します。 【シートB(ストレス・疲労が生じる状況や対処する方法を整理する)】 シートBは、次の項目で構成されています。 シートB ストレス・疲労が生じる状況や対処する方法を整理する 1 ストレスや疲労を解消する方法を考えましょう (1) あなたがリラックスしているとき、幸せを感じるときは、どんなときですか (2) あなたの趣味、得意なことは何ですか (3) 好きなもの、興味があることは何ですか (4) 余暇について 2 ストレスや疲労に関する周辺情報を整理する (1) 自分がストレスや疲れを感じていることに気づくサインがありますか (2) どんな作業や活動をしている時に、ストレスや疲れを感じやすいですか (3) 意欲的に(または、あまり疲れを感じずに)作業ができるのは、どんな場面ですか (4) ストレスを感じる状況について、整理してみましょう (5) ストレスや疲れを感じた時に、あなたが最もよくとる行動を、次の中から一つ選んで〇をつけてください 安定した職業生活に向けて、ストレス・疲労と上手につきあうことは大切です。ストレス・疲労と上手につきあうためには、自分がどのような場面でストレスや疲労を感じたり、疲れやすいのかを知り、そのときの心身のサインに気づくことが大切です。 シートBの1では、趣味や得意なこと、好きなことを整理しながら、どのようなときに心身がリラックスしているかを整理します。最初に対象者の興味関心や趣味の活動など身近な話題を聞き取ることは、スムーズに相談関係をつくることにもつながります。 シートBの2では、ストレス・疲労を感じたときのサインや対処行動を整理します。 高次脳機能障害の障害特性には易疲労や疲労に気づきにくいといった症状があり、復職後に安定した業務遂行力を発揮するために、対象者がどのような環境や条件下でストレス・疲労が生じやすいのか把握し、適切な対処方法を検討しておくことは重要です。また、事業主をはじめとした周囲の者にとっても、対象者のストレス・疲労を早期に発見し、ストレス・疲労を生じにくくするための環境調整などの合理的配慮を検討する手がかりとなります。 【シートC(サポート体制を整理する)】 シートCは、次の項目で構成されています。 シートC サポート体制を整理する (1) あなたが、日ごろ、相談をする人について記入してください (2) 現在利用している支援・相談機関について記入してください (3) 家族は、障害(病気)のことをどの程度理解してくれていますか (4) あなたが活用している制度について整理しましょう (5) 現在の経済状況について整理しましょう 安定した職業生活に向けて、サポート体制を活用することは大切です。悩みや不安があるときに、家族や友人など周りの人に話をすることにより、よいアドバイスを得られたり、支援機関や支援制度を利用することにより、課題が解決する場合があります。 シートCでは、現在どのような支援機関を利用しているかなど、ソーシャルサポートについて整理します。その状況によって、必要に応じて、医療機関や高次脳機能障害相談支援センター、障害者就業・生活支援センター、相談支援事業所、福祉サービス事業所など地域の社会資源の利用に関する情報提供を行い、支援課題に対する連携体制の構築などを検討します。また、現在の経済状況など心配していることを聞き取り、活用可能な支援制度に関する情報提供を検討します。 【シートD(障害(病気)に関する情報を整理する)】 シートDは、次の項目で構成されています。 シートD 障害(病気)に関する情報を整理する 1 治療・リハビリの経過を整理しましょう (1) 高次脳機能障害が発症した時の状況、受障した時の状況を整理しましょう (2) 身体面の症状について整理しましょう (3) その他の症状について整理しましょう(てんかん、生活習慣病、精神疾患) (4) 移動手段について整理しましょう (5) 治療・リハビリの経過について整理しましょう 2 服薬状況を整理しましょう (1) 現在服薬中の薬について、どの程度知っていますか (2) 薬の管理について、あてはまるものに一つ〇をつけてください (3) 薬の副作用を感じますか 3 障害(病気)に対する、自分の考えを整理しましょう (1) 日常生活で、障害を感じる点があれば教えてください。また、対処している方法があれば教えてください (2) 受障する前/ 発病する前と比べて、自分自身について変化したと感じることがありますか。変化した点について対処している方法があれば、教えてください 安定した職業生活に向けて、自分の症状の現れ方や障害の状況を整理しておくことにより、早めの治療や相談につなげることができます。また、高次脳機能障害者の職場復帰支援において、障害(病気)に対する医療情報を整理しておくことは、事業主に障害状況を正しく理解してもらうことにもつながります。 シートDでは、高次脳機能障害や身体的制限、てんかんやうつ症状などの精神疾患、神経心理学的検査の結果、服薬状況など、症状や障害に関わる医療情報を整理します。また、対象者が自分の障害(病気)についてどのように考えているのか、障害(病気)による影響をどのようにとらえているのかなどを把握します。 なお、治療・リハビリの経過や服薬状況を対象者自身が把握していない場合は、家族や主治医を通じて情報収集の協力を依頼します。支援者は必要に応じて、通院同行や文書による情報提供依頼を行います。 【シートE(事業所情報を整理する)】 シートEは、次の項目で構成されています。 シートE 事業所情報を整理する 1 事業所情報について整理しましょう (1) 現在在職中の事業所情報を記入してください (2) これまで従事した職業・職務について、新しいものから記入してください 2 職場復帰に向けた情報を整理しましょう (1) 職場復帰の手続きについて記入してください (2) 職場復帰に対する希望( 職場復帰時期、職場復帰部署、出勤の調整希望など) を記入してください (3) 職場復帰に対する事業所の考え( 職場復帰時期、職場復帰可否の判断基準、職場復帰部署、仕事の内容など)を記入してください 高次脳機能障害者の職場復帰支援は、限られた期間の中で行われることが多く、対象者や家族が休職制度や復職に関する事業主の考えなどを十分に把握していない場合もあるため、必要な事業所情報を早い段階で整理しておくことが大切です。 事業所情報を収集し、対象者の同意のもと産業医や保健師、事業所担当者などと連絡を取り、復職に向けた事業主との調整をはじめます。 なお、復職に対する対象者の希望と事業主の考えに違いがある場合は、事業主や主治医、支援機関などと話し合う機会を設けるなど、早期から調整を図ることが重要です。 (4) 活用のポイント アセスメントシートは、高次脳機能障害者の職場復帰支援における支援課題に関わる多面的な情報を収集・整理するためのものです。生活習慣・健康状態やストレス・疲労のマネジメント、サポート体制、医療情報、事業所情報といったそれぞれのシートに含まれるアセスメント項目について情報収集することにより、職場復帰支援を実施するにあたって必要な情報を網羅的に把握できるだけでなく、不足する情報を確認することができます。また、対象者が復職に向けてどの程度必要な情報を把握しているのかがわかるため、アセスメントシートの記入を通じて、対象者の認識や、事業所や家族、支援機関との認識の違いを確認することができます。 また、シート別に集めた情報は、さまざまなテーマごとにどのような支援課題があるかを検討する手がかりとなります。例えばシートC 「サポート体制を整理する」において、対象者が相談できる支援者や支援機関を記入できない場合、サポート体制の確立が支援課題であるとの仮説を立てることもできます。 アセスメントシートで収集した情報を整理し、支援課題を明確にしたうえで支援方針を検討する方法については、第3章で紹介します。 第3章 支援方針の検討 1 ケースフォーミュレーション 復職に向けた支援方針を検討するためには、復職にあたっての課題を明らかにすることが必要です。下山ら 1) は、「多様な要素と関わる情報を系統的に収集するとともに、それらを統合して問題の成り立ちを明確化し、個々の事例に適した介入法を組み立てていく作業が必要となる。そのために必要となるのがケースフォーミュレーションの方法である」と述べています。 職業センターでは、高次脳機能障害者の職場復帰についての支援方針を検討する際に、ケースフォーミュレーションの考え方を参考にしています。まず「ケースフォーミュレーションのための情報整理シート(以下「情報整理シート」という。)」(図1)で収集した情報を整理し、支援課題を明確にします。次に「情報整理シート」で明らかになった支援課題のうち、支援方針の検討が必要な課題があれば、「ケースフォーミュレーションシート」 (図2 )を用いて、課題に関わる個人・環境双方の要因について検討し、支援方針を組み立てます。(資料集④) 「情報整理シート」、「ケースフォーミュレーションシート」は、スタッフ間で行うケース会議で使用します。高次脳機能障害者の職場復帰支援にあたって収集する広範囲な情報を一覧化でき、支援課題は何か、支援課題に関わる個人・環境要因は何か、その解決のためにどのような介入が必要かなどを俯瞰的に検討することができます。 本章では、「情報整理シート」および「ケースフォーミュレーションシート」の作成・活用方法について説明します。 情報整理シートから考えられる「支援課題」に対し、ケースフォーミュレーションシートを使って「支援方針」を検討 図1 情報整理シート 図2 ケースフォーミュレーションシート 2 支援方針の検討 (1) 情報整理シートの構成 情報整理シートは、アセスメントで得られたさまざまな情報を項目ごとに取りまとめ、それぞれの項目における支援課題を検討していくためのシートです。 情報整理シートの項目は「特性チェックシート」や「アセスメントシート」に対応して構成しています。 (2) 情報整理シートの作成方法 各項目には、「特性チェックシート」や「アセスメントシート」に記載された内容を記入します。また、医療機関から取得した神経心理学的検査の結果や作業検査の結果、作業場面の観察記録など、その他のアセスメントの結果などの情報も反映します。情報を記入した後に、項目ごとに支援課題と考えられることを簡潔に記載します。支援課題に該当しない項目は「特になし」と表記します。情報整理シートは、担当者がケース会議前にあらかじめ作成しますが、話し合いの中で新たな支援課題が確認されれば書き加えます。 事例(Aさん)を用いて具体的な記入方法を説明します(図3)。 項目ごとに情報を記入 → 支援課題を検討、記入 図3 情報整理シートの記入例 ①「属性情報」 子供の養育のために現在の収入水準を確保したいという希望があり、そのための方策を考えていく必要があることから支援課題としました。 ②「高次脳機能障害」 失語症と注意障害の状況を整理しました。失語症については、パソコンの入力が難し く、業務が限られる可能性があるため、パソコン入力スキルの向上を支援課題としまし た。言葉の出づらさや言いまちがえなど、失語の対処策も支援課題としました。また、A さんの職場内のコミュニケーションの主な対象が上司や同僚に限られることから、Aさん自身が工夫する対処策について検討するとともに、上司や同僚の理解や配慮を得るための働きかけが必要としました。 注意障害については、主治医の意見では「ごく軽度」とのことで、作業検査の際も、書類の照合や入力内容のチェックなどパソコン入力や書字を伴わない簡易事務作業の正答率は高く、現状のままで業務への影響は少ないことから、支援課題としませんでした。 ③「生活習慣・健康状態」 生活リズムは安定しており、日常的に運動を行っているなど自己管理ができていることから、支援課題は「特になし」としました。 ④「ストレス・疲労」 アセスメント時に午後になると疲れが見られ、ミスが増加する傾向が見られたため、疲労のコントロールを支援課題としました。また、「受障後の趣味は特になく、テレビを見て過ごすことが多く退屈している」との話から、ストレス対処の幅を広げることも支援課題としました。 ⑤「その他の症状」 右上下肢に機能障害があり、書字をはじめ多くの作業や日常生活動作は左手で行う必要があること、歩行制限はないが床の突起や障害物につまづきやすく注意が必要なこと、トイレは洋式トイレが必要なことなど、事業所の配慮も必要と考えられました。そのため、どのような配慮があると望ましいか、Aさんの身体機能面に配慮した職場環境について確認することを支援課題としました。 ⑥「事業所情報」 Aさんの身体機能面に配慮した職場環境の整備を支援課題として記載しました。また、事業主からは、Aさんが対応できる作業内容を確認した上で復職後の業務内容を設定したいとの意向が聞かれました。復職の際はパソコン入力ができると対応業務が広がり、Aさんにとってよい条件で雇用継続が可能とのことでした。そのため、Aさんの作業遂行の状況や対応可能と思われる業務について伝えたうえで、復職後の業務内容について事業主と調整することを支援課題としました。 ⑦「医療情報」 定期的な通院や医療リハビリテーションは継続されており、支援課題は「特になし」としました。 ⑧「サポート体制」 家族のサポートが得られていること、相談支援事業所との相談を通して生活面の困りごとに関するサポートが得られていることから、支援課題は「特になし」としました。 (3) ケースフォーミュレーションシートの構成 「ケースフォーミュレーションシート」は、情報整理シートで明確化した支援課題に影響を及ぼす要因についての仮説を立て、支援方針を検討するためのシートで、実践報告書 No.35「アシスティブテクノロジーを活用した高次脳機能障害者の就労支援」2) の中で紹介した書式を改訂したものです。従来の書式は、主に復帰プログラム受講中の施設内で生じる課題に対する支援方針を検討するためのものでしたが、高次脳機能障害者の職場復帰支援にあたっては家族や地域など多面的な領域への視点が必要になることから、改訂版では、障害特性や身体的状況、自己認識などの個人要因を分析するための記入欄に加え、職場や家族、地域生活、サポート体制といった環境要因を多面的に分析するための記入欄を設けました。 ケースフォーミュレーションシートは、支援課題に関わる要因を職場や家族、地域の状況などの「環境要因」、認知面・身体面・感情・障害認識といった「個人要因」の観点から分析し、環境に介入する「支援方針」と個人に介入する「支援方針」のそれぞれについて検討できる構成にしています。 (4) ケースフォーミュレーションシートの作成方法 情報整理シートであげられた課題の中で、ケース会議などで分析が必要と考えられる支援課題をシートの中央の「支援課題」の欄に記入します。次に、アセスメント情報をもとに、支援課題に影響を及ぼす要因や活用できる強みなどを「環境要因」と「個人要因」の各欄に記入します。ケースフォーミュレーションシートは、担当者がケース会議前にあらかじめ作成しますが、話し合いの際に新たな視点を書き込みながら分析を進めます。 「環境要因」の欄には、家庭や職場、地域の支援体制など、対象者を巡る環境へのアプローチが必要となる要因を整理します。 「個人要因」の欄には、主に記憶や注意などの高次脳機能障害に関わる要因を「認知面」に、麻痺などの身体症状やその他の症状に関わる要因を「身体面」に、気分の落ち込みや不安などの感情面を「感情」に、受障後の自身の状態についてどのように理解しているかを「障害認識」に記入し、個人へのアプローチが必要となる要因を整理します。この際、マイナス面だけではなく支援課題に取り組むうえで強みとなる面についての記入も重要です。 具体的な記入方法について、前述した事例を用いて、Aさんの支援課題のうち、「パソコンの入力スキルの向上」について説明します。(図4) 支援方針に影響する環境要因として、①事業主は、パソコンでの書類作成が可能であればよりよい条件での雇用継続が検討できると考えているため、Aさんのパソコンスキルを確認したいと考えていること、②復職にあたり身体状況に配慮した職場環境の整備が必要になることがあげられます。また、子供の養育のための一定の収入を確保したいとの希望が家族からあることも支援方針に影響を与える環境要因となります。 支援方針に影響する個人要因として、①右上下肢機能障害の影響で左側に道具を配置する、つまづきを防ぐために床に物を置かないなどの環境調整が必要なこと、②失語症の影響により文字入力は単語入力も難しくなっていること、③文字入力はローマ字入力以外の方法を試したことはなく、音声入力や入力補助機能などの活用経験はないこと、④ワードやエクセルなどのアプリケーションソフトの操作方法を忘れていることなどがあげられます。 一方、Aさんは自身の失語症の症状について理解、認識していることが確認できました。また、言葉の出づらさはあるものの、こちらの話した内容はほぼ正確に聞き取れており文字の読み取りも可能であること、作業日報集計や物品請求書作成など文字入力や書字をあまり要さない簡易事務作業では正答率が高いといった状況も確認できました。そのため、現状でも書類の照合などの簡易事務作業への対応は可能であると考えました。さらに、事業主が復職を前提に話を進めていたこともあり、Aさんは安心してパソコン操作スキルの向上など復職準備に取り組むことができると考えました。 ケースフォーミュレーションシート 環境要因 【家族】 ・家族の理解・サポートは良好。 ・高校生、中学生の子供の養育のため、一定の収入を確保したいとの希望あり。 【職場】 ・事業所は雇用継続を前提として考えている。ただし、正社員として雇用継続するか、パート職員として契約し直すかについては、本人がどのような業務に対応できるかを確認した上で決めたい考え。 ・正社員での雇用継続の可能性を高めるためにはPCでの書類作成もできることが望ましい。 ・身体面に配慮した職場環境の整備が必要。 【地域生活】 【サポート機関】 【その他】 【原因となる疾患・外傷など】 脳出血(左被殻) 【支援課題】 パソコン入力スキルの向上 【支援方針】 ・パソコン操作を行いやすい作業環境の確認 ・音声入力、タッチキーボードなど、アシスティブテクノロジーを活用した入力方法を習得する ・ワードやエクセルの操作方法の再習得 ・事業主との調整 ・家族との情報共有 個人要因 【認知面】 ・職業センターで実施した作業日報集計や物品請求書作成作業の正答率は高い。 ・言葉の出づらさはあるが、こちらの話した内容はほぼ正確に聞き取れている。文字の読み取りも可能。 ・失語症の影響で、PCでの文字入力は、単語入力レベルでも難しい。特に拗音、促音は分からないことが多い。(これまでの訓練では、ローマ字入力しか行っていない。) 【身体面】 ・右上下肢機能障害 ・左手側に必要な道具(デスクキャビネット、PC本体、テンキー、マウス)を配置することで、職業センターでは独力で作業できると思われる。 【感情】 ・本人はあまり不安を感じていない。 【障害認識】 ・主治医意見書には、「理解・認識はできている」との記載あり。 ・特性チェックシートでも、「言葉が出づらかったり、言いまちがえをする。」をはじめ多くの失語症の項目で「はい」と 回答。症状は理解していると考えられる。 【その他】 ・音声入力やアプリケーションの活用経験はない。 ・ワード、エクセルの操作方法を忘れている。 図4 ケースフォーミュレーションシートの記入例 これらの状況をふまえ、A さんの「パソコンの操作スキルの向上」という支援課題に対して、①パソコン操作を行いやすい作業環境の確認、②音声入力やタッチキーボードなど、アシスティブテクノロジーを活用した入力方法の習得、③ワードやエクセルの操作方法の再習得、④事業主との調整、⑤パソコン入力スキルの回復状況や事業主との調整状況を家族と共有することを支援方針としました。 このように、それぞれの支援課題について支援方針を検討した後に、支援計画(図5)にまとめ、休職者や事業主に提示します。内容について休職者や事業主の同意が得られた場合は、支援計画に沿って支援を進めていきます。 対象者 〇〇 ○○ 対象事業主 株式会社〇〇 支援期間 令和〇年〇月〇日(〇) ~ 令和〇年〇月〇日(〇) (16週間) 支援目標 現在休職中であり、令和〇年〇月までに復職することを目指しています。復職に向けての準備を整えながら、職場との相談を進めていきましょう。そのために、職場復帰支援プログラムの受講を通じて、次の目標に取り組みましょう。   1. ストレス・疲労の対処方法の習得   2. 高次脳機能障害などに関する対処手段の習得   3. パソコン入力スキルの回復   4. 障害特性や職場に依頼する配慮事項などの整理 支援内容 1. ストレス・疲労の対処方法の習得   プログラム受講を通じて復職に向けた労働習慣の確立を目指すとともに、各種検査やセミナー、個別相談を通じて、ストレス・疲労が生じやすい要因を検討し、疲労のコントロールや安定して働き続けるためのストレスの対処方法の習得を目指します。   2. 高次脳機能障害などに関する対処手段の習得   各種検査や作業課題、個別相談を通じて、高次脳機能障害の特性や作業の得手不得手、どのような時に困難が生じやすいか整理できるよう支援します。   失語については、言葉カードやパソコンやスマートフォンの読み上げ機能など、言語コミュニケーションの対処手段を試します。また、作業しやすいデスク周りの物品配置や洋式トイレの整備など働きやすい職場環境について整理します。   3. パソコン入力スキルの回復   パソコンを使った訓練課題の実施を通じて、ワード、エクセルの基本的な操作方法の復習をしながら、パソコン入力スキルの回復に向けた支援を行います。また、タッチキーボード、音声入力、かな入力、ローマ字とかなの対応表の活用など自分に合ったパソコンの入力方法について試します。   4. 障害特性や職場に依頼する配慮事項などの整理   プログラム受講を通じて把握した障害特性や必要な配慮事項などを取りまとめます。職場との連絡会議を開催し、プログラム受講状況を職場と共有するとともに、復職に向けて職場との相談を行います。 支援体制 【家族】情報共有を行いながらプログラムを実施するとともに、職場との相談を進めます。   【株式会社〇〇】連絡会議を開催し、プログラム受講を通じて把握した障害特性や必要な配慮事項をお伝えします。また、必要に応じ、復職後の職務再設計などに関して職場訪問を行います。   【〇〇病院リハビリテーション科】復職に向けた障害特性や必要な配慮事項の整理について助言を仰ぎます。   【〇〇相談支援事業所】必要に応じて連絡を取り、情報共有を行います。   【〇〇障害者職業センター】連携して復職に向けた相談を行います。必要に応じて、ジョブコーチ支援などの復職後のフォローアップについて協力を仰ぎます。 留意事項等 連絡会議は、プログラム中間(〇月頃)と終了時(〇月頃)を予定しています。 図5 Aさんの職場復帰支援プログラム支援計画例 第4章 事業主との調整のための資料の作成 高次脳機能障害者の職場復帰支援においては、障害特性や必要な配慮事項を整理し、それをもとに事業主との調整を行うことが重要な支援課題となります。復帰プログラムでは、対象者はリファレンスシート(資料集⑥)を活用して復職に向けた情報をまとめた連絡会議資料を、支援者は受講の状況などをまとめた報告資料をそれぞれ作成し、事業主や関係機関との調整を行っています。 リファレンスシートは、対象者と支援者の協同作業により、特性チェックシートの記載内容や職業前訓練における観察結果などをもとに、障害特性とその対処手段、事業主に理解・配慮を求めることを取りまとめ、事業主や関係機関との情報共有に活用するためのものです。その詳細については、職業センター実践報告書 No.32「高次脳機能障害者の復職における職務再設計のための支援」1) において説明しています。 1 リファレンスシート (1) 作成のポイント リファレンスシートは、次のア~エのポイントをふまえて作成します。 ア 対象者と支援者が協同で作成する リファレンスシートは、対象者と支援者が話し合いながら作成します。対象者は自らの考えや体験を反映させ、支援者は、アセスメントを通じて客観的に把握した特性をフィードバックしたり、高次脳機能障害に関する知識や対処策(補完手段)に関する一般的な知見について情報提供を行います。さらに、事業主の復職に対する考えをふまえて、復職に向けた調整に必要な情報を協同で整理します。 イ バージョンアップする リファレンスシートは、職業センターの利用開始時から復職にいたるまでの間、その時々の状況をふまえて内容を更新し、安定した職業生活を送るための指針として長期的に活用していくことを念頭に作成します。職場復帰支援においては、相談を重ねバージョンアップを行いながら、事業主との調整に向け、最終的に何をどう伝えるかについて内容を精査します。 ウ 書式に沿った情報の選択と記入 リファレンスシートは、あらかじめ定められた書式に必要な情報を記入する形式としています。特性チェックシートから行動レベルで思い当たる自分自身の特性を選択し、それに対して一つずつ対処手段や必要な配慮事項を検討するため、事業主に伝える情報の整理を構造的に進めることができます。 エ 対処手段と事業主に求める配慮事項を明確にする 事業主は、休職者からの申出や主治医の意見などをもとに、障害特性や必要な配慮事項を確認し、復職に向けた対応を検討します。リファレンスシートは、事業主にとって必要な具体的な情報を明確化するシートとなっています。 (2) 項目 リファレンスシートの構成は図1のとおりで、記入欄には以下の5項目があります。 ・特性チェックシートで確認された特性 ・どの程度あてはまるか(1回目・2回目) ・会社に伝えるかどうか(1回目・2回目) ・対処手段 ・周囲に求める配慮、理解してほしいこと リファレンスシート ○・・・はい △・・・ときどき ×・・・いいえ ○・・・伝える △・・・検討中 ×・・・伝えなくて良い 〇月×日作成Ver No 特性チェックシートで確認された特性 どの程度あてはまるか  会社に伝えるかどうか  対象者と職業センターで整理した項目    1回目 2回目 1回目 2回目 対処手段 周囲に求める配慮、理解してほしいこと 1 2 3 4 5 図1 リファレンスシートの構成 (3) 作成のプロセス リファレンスシートの作成は、復帰プログラム開始から1 か月後を目安に始め、週1回行う個別相談の中で、対象者と支援者が一緒に作成していきます。作成のプロセスは次のとおりです。 ア リファレンスシートの記入 対象者がプログラム利用初期に記入した「特性チェックシート」の項目のうち、「はい」または「ときどき」とした項目を書き出していきます。基本的には対象者が記入しますが、麻痺や失語などの影響で記入が困難な場合などは支援者が記入しています。なお、「どの程度当てはまるか」の1回目の欄は、特性チェックシートで「はい」であった特性は〇を、「ときどき」であった項目は△を記入します。 次に、書き出した特性について、復職にあたって事業主に伝えたほうがよいものは「会社に伝えるかどうか」の1回目の欄に〇、検討中のものは△、伝えなくてよいものは×を記入します。原則として対象者の希望に沿って記入しますが、支援者から見て事業主に伝えたほうがよいと思われる項目があればその旨の提案をするなど、個別相談を通じて1つひとつの項目ごとに話し合いながら検討を進めます。 「対処手段」の項目には、それぞれの特性に対して有効な作業工夫や道具の使用といった方法を記入します。また、「周囲に求める配慮、理解してほしいこと」の項目には、復職にあたって事業主に理解してほしい自分の特性、希望する環境調整など配慮を求める事項について記入します。支援者は、対象者が作業課題への取組みを通して試しているさまざまな対処手段やその有効性について一緒に確認しながら、対象者が自分自身で対処する内容と、事業主に配慮を求める内容を明確にします。また、「対処策リスト255」などを活用し、過去の復帰プログラム受講者が検討したり、一般的に有効とされる対処手段、周囲に求める配慮事項について情報提供を行います。 イ リファレンスシートの見直し リファレンスシートは、1 回の相談で完成させるものではなく、個別相談を重ねながら見直しを行っていきます。その過程で、それぞれの特性がどの程度あてはまるか、会社に伝えるかどうかについてもあらためて検討します。また、有効な対処手段があらたに見つかったり、職場に求める配慮をあらたに検討した場合には情報を更新します。たとえば、当初は「どの程度あてはまるか」の欄が△であった特性が、作業課題や個別相談を繰り返す中で〇という認識に変化することもあります。また、それに伴いその特性を会社に伝え、配慮を得たほうがよいと考えるようになったという変化や、当初は会社の配慮を得たいと思っていた特性が、対処手段をうまく用いることで自ら対処が可能になったため特に伝える必要がなくなったなどの変化が生じることがあります。 リファレンスシートの作成例(図2)では2回目の検討までの記録を記載してありますが、 3回、4回と検討を重ねることもあり、その場合はリファレンスシートに記入欄を追加して利用します。 話す 言葉が出づらかったり、言いまちがえをする。 はい ときどき いいえ  「えーっと」と言いよどんだり、「あれ」、「それ」や回りくどい表現になる。 はい ときどき いいえ  同じ言葉でも、その時々で言えたり言えなかったりする。 はい ときどき いいえ  錯語がある。(例:机を見て、椅子と言うなど) はい ときどき いいえ 特性チェックシートでチェックした項目をリファレンスシートに書き出し、対処手段や周囲に求める配慮などを一つひとつ検討。 リファレンスシート ○・・・はい △・・・ときどき ×・・・いいえ ○・・・伝える △・・・検討中 ×・・・伝えなくて良い 〇月×日作成Ver No 特性チェックシートで確認された特性 どの程度あてはまるか  会社に伝えるかどうか  対象者と職業センターで整理した項目    1回目 2回目 1回目 2回目 対処手段 周囲に求める配慮、理解してほしいこと 1 言葉が出づらかったり、言いまちがえをする。 ○ ○ ○ ○ 仕事でよく使う言葉は「単語カード」を作って机の上に置き、確認できるようにする。 言いまちがえは指摘してほしい。 2 「えーっと」と言いよどんだり、「あれ」、「それ」や回りくどい表現になる。 ○ ○ ○ ○  言葉に詰まっていたら、声をかけてほしい。(例:「○○のことですか?」など) 3 同じ言葉でも、その時々で言えたり言えなかったりする。 △ ○ ○ ○  特に人の名前は言えたり言えなかったりする。→これも伝えることとする。 4 文章を書くときに、助詞(てにをは)など、文法的なあやまりが生じる。 △ △ △ ○ WordやExcelなどの校正機能を使う。 可能であれば書類のダブルチェックをお願いしたい。 5 漢字が思い出しにくい。 △ △ △ × スマートフォンの音声入力と漢字アプリを使う。 図2 リファレンスシートの作成例 2 連絡会議資料 (1) 連絡会議資料作成の目的 復帰プログラム終了の概ね1か月前に対象者や事業主、家族、関係機関を交え、復職に向けた協議を行うための連絡会議を実施しています。連絡会議では復帰プログラムの実施状況やリファレンスシートで整理した対象者の特性、対象者自身が対処すること、復職にあたって配慮を要する点について情報共有を行います。この情報共有のために、対象者自身が作成する資料が連絡会議資料であり、連絡会議では対象者がおおむね 10~15分程度のプレゼンテーションを行います。なお、連絡会議の実施やその目的については、復帰プログラム開始前の初回相談の時点で対象者に説明を行います。 ただし、たとえば重度の失語症があるなど単独での連絡会議資料の作成が困難である場合は、必ずしも対象者自身が作成しなければならないものとはせず、対象者の特性に合わせ、聞き取った内容を代筆する、概要を作成してもらったうえで支援者が体裁を整えるなど、対象者の障害状況や希望を尊重して、柔軟に対応することとしています。 (2) 項目 連絡会議資料の記載項目は、図3のとおりです。 1.受障~現在までの経緯 受障時の状況やこれまでに行ったリハビリテーションの内容、職業センターでの相談にいたる経緯を整理し記載します。 2.障害について リファレンスシートをもとに整理した特性のうち、対象者が会社に伝えたいと判断した内容を記載します。 3.職場復帰支援プログラムでの取組み 復帰プログラムの中で取り組んだ作業課題やグループワークなど、復職に向けて取り組んだ内容や成果について記載します。 4.対処手段 リファレンスシートをもとに整理した、復職にあたって自らが行う対処手段について記載します。 5.希望する配慮事項 リファレンスシートをもとに整理した、復職にあたって事業主に配慮を求めたいことについて記載します。 図3 連絡会議資料の記載項目 (3) 作成のプロセス ア 連絡会議資料作成に向けたオリエンテーション 連絡会議開催の概ね1か月前頃に、対象者にあらためて連絡会議の目的について説明するとともに、ワード、パワーポイントで作成したものなど3種類の連絡会議資料の見本を提示し、見本や一般的な記載項目を参考にしながら、対象者にとって作成しやすい形式で連絡会議資料を作成することを伝えます。 イ 連絡会議資料の作成 対象者は、見本を参考にしながら、リファレンスシートの中で「会社に伝えるかどうか」に〇がついた特性とその対処手段、周囲に求める配慮を連絡会議資料に反映させていきます。支援者は、対象者が伝えたい内容が適切に伝わる表現になっているのか、リファレンスシートの内容以外にも有効な対処策や事業主に配慮を求めたほうがよいと思われる内容はないか、事業主の意向をふまえた記載になっているのかなどについて確認しながら、追加、修正した方がよいと思われる内容についてアドバイスを行います。 リファレンスシートをもとに連絡会議資料を作成 図4 対象者が作成した連絡会議資料例(一部抜粋) ウ プレゼンテーション練習 連絡会議資料がひととおり完成した後に、対象者からの希望に応じてプレゼンテーション練習を行います。さらに、動画を撮影して後で見返してもらう、プレゼンテーションにかかった時間を計測しフィードバックするなどの振り返りを行っています。また、他の受講者や支援スタッフから、プレゼンテーションの「良かったところ」「改善すると良い点」をあげてもらい、これらの意見をもとに連絡会議資料を修正します。 なお、連絡会議資料には個人情報が含まれることから、対象者がプレゼンテーション練習を希望しない場合は実施しません。また、実施する場合、発表内容を口外しないことについて他の受講者の同意を得るとともに、配付した連絡会議資料は全て回収します。 3 報告資料 (1) 報告資料作成の目的 対象者が作成する連絡会議資料に加え、支援者もプログラムの状況などを説明するための報告資料を作成します。これは、支援者から見た客観的な状況を事業主に伝えるとともに、今後の支援方針などを話し合うためのものです。なお、報告資料の内容は、事前に対象者や必要に応じて家族にも提示し、内容や表現について同意を得たうえで連絡会議において提示しています。 (2) 項目 報告資料の記載項目は、図5のとおりです。 1.出席状況 実施期間や出席状況、欠席があった際にはその理由などを記載します。 2.体調について 生活リズム( 睡眠時間など)、体調、気分の状況、集中力・作業耐性などの復帰プログラムの受講状況や、通院・服薬の状況、主治医からの意見などを記載します。 3.職場復帰支援プログラムの実施状況 復帰プログラムで実施した作業やその結果のデータ、復帰プログラムから把握される現状( 高次脳機能障害の症状の解説、課題と対象者が取り組んだ対処手段、今後の支援で取り組む内容など)について記載します。 4.復職にあたって必要な配慮など 復職にあたって配慮が必要と思われることを記載します。 5.検討事項 復職後の勤務条件や復職までのスケジュールなど、連絡会議において検討が必要と思われる項目を記載します。 図5 報告資料の記載項目 ※参考:連絡会議資料見本 ※参考:報告資料見本 職場復帰支援プログラム報告資料 1,出席状況 ・実施期間:**年**月**日~**年**月**日 ・支援日数:**日(**年**月**日~**月**日までの支援日数) うち欠席*日(****のため)、遅刻*日、早退*日 プログラム時間 10:15~15:20 ・通所状況:自宅から**駅まで徒歩**分 ****駅→(**線)→****駅→(****線)→****駅 ****駅から送迎バスを利用(所要時間約**分) 2,体調について ・生活リズム 体調不良による欠席や遅刻・早退はなく、安定してプログラムに出席することができています。 10:15~15:20の作業では、開始当初は午後になると疲労や集中力の低下が見られました。しかし、ほぼ毎日休むことなく40分程度の散歩を続けることで体力が向上し、また午前中に1回、午後に1回、5分程度の休憩を取るなどの対処を取り入れたことで、現在では集中力を維持して作業を行うことができています。 ・通院状況・服薬状況 通院先:**脳神経内科 主治医:** **医師通院頻度:月に1度 *曜日 服薬状況:*******(1日2回) *******(1日1回)通院、服薬は自己管理されています。 ・主治医の意見(**月**日診察時) 職場復帰に向けて日中の疲労について引き続き見ていく、と言われています。 3,職場復帰支援プログラムの実施状況 (1)各種検査 ・日本版リバーミード行動記憶検査:日常生活に関係の深い記憶力を測る検査 【結果】標準プロフィール点合計 18/24、 スクリーニング点合計 8/12 【所見】記憶に関しては境界線上の結果です。 ・トレイルメイキング検査日本版(TMT-J):遂行機能と複数の注意機能側面を測る検査 【結果】 A:数字の線でつなぐ 79秒(同年代平均±標準偏差30.3±7.5秒) B:数字と仮名を交互に線でつなぐ 124秒(同年代平均±標準偏差49.0±11.9秒) 【所見】所要時間が同年代標準を上回り、注意の持続、分配の苦手さが窺われます。 ・標準注意検査法(CAT):複数の下位検査により、注意の範囲や強度、聴覚的な記憶範囲を測る 【結果】注意の範囲、聴覚的・視覚的短期記憶の範囲を測る検査→カットオフを上回る注意の分配、変換、制御能力を測る検査(時間制限がない検査) →正答率カットオフを上回る、所要時間1.6~2倍 注意の分配、変換、制御能力を測る検査(時間制限がある検査)→カットオフを下回る 【所見】聴覚的・視覚的短期記憶は保たれています。注意の持続、分配、切り替え、処理速度に制限があり、配慮が必要と考えられます。 (2)作業実施状況   同世代健常者平均 ご本人の結果 文書入力 正答率 80.7% 92.2%  作業時間 40分58秒 59分23秒 物品請求書作成レベル3 正答率 80.9% 100.0%  作業時間 11分23秒 28分24秒 作業日報集計 正答率 96.8% 97.2%  作業時間 43分33秒 144分39秒  検索修正レベル4 正答率 80.8% 83.3%  作業時間 9分33秒 30分23秒 郵便物仕分けレベル3 正答率 94.6% 96.3%  作業時間 6分27秒 16分11秒 ・正答率、能率:作業によって種々の対処手段を活用しながら何度も確認し、取り組んでいます。結果、正答率は一般平均より高く遂行できています。一方で、作業時間については一般平均から30%~60%の能率です。 ・集中力・作業耐性の状況:午後に眠気が強い日があり、様々な対策を検討し試みています。対策:顔を洗う、席を離れて体を動かす、肩のストレッチ、数分眠る、水分補給、コーヒー 4,現状と課題、必要となる配慮 (1)高次脳機能障害の状況 ・記憶障害:プログラム参加前は約束の日時を間違えるなどのエピソードがありました。 スケジュール管理、ToDo管理、作業手順の把握のため、メモリーノート、スマートフォンなどの代償手段を活用しています。 ・注意障害:注意の持続、分配、切り替えの制限 作業の正確性を高められるよう、作業前に取り組むべき箇所を目立たせる、作業後の目視や検算等のダブルチェック、画面や文字の拡大表示などの工夫に取り組んでいます。 ・会話の行き違いなどによるイライラ 自身で振り返り、クールダウンの時間を取る、行き違いについての説明を行うなどの対処を心がけています。 (2)今後の取り組み事項 ・感情コントロールに関するグループワークへの参加 ・ポイントを絞った作業の確認の仕方 (3)職場に理解・協カを依頼したいこと ・職務内容の設定について 業務手順が頻繁に変更になる作業は避け、一定の手順で行える作業が望ましい。 複数の同時処理が必要となる作業は避け、一つのことに集中して行える作業が望ましい。 ・職場環境 1時間に1回程度の休憩を取ることへの理解 5.検討事項 (1)復職手続きについて (2)復職後の支援について (3)その他 第5章 職場復帰における事業主支援 第1章で述べたとおり、高次脳機能障害者の復職に向けて事業主が取り組む事項として、 ① 休職者の障害特性と就労上配慮が必要なことを確認する ② 職務や配置、労働条件を検討する ③ 復職を想定している部署、復職部署に障害特性や必要な配慮を説明する の3点をあげています。本章では、これらの3点について、事業主に対してどのような支援を行っていくのかについて説明します。 1 対象者の障害特性と就労上配慮が必要なことを確認する 復職にあたり、事業主が対象者の障害特性や必要な配慮事項について理解したうえで職務内容や配置、労働条件などを検討するために、支援者は対象者の同意を得たうえでできるだけ具体的な情報提供を行ったり、対象者自身に説明をしてもらうようにします。 復帰プログラム開始にあたり、対象者のこれまでの経歴や休職前の状況、現時点で想定している復職後の業務内容や復職までの流れ、復職に向けた事業所内での支援体制などの情報を事業所訪問や電話により聞き取りアセスメントします。また、「事業主のための職場復帰に関する参考資料集」(資料集⑤)や「高次脳機能障害者の職場復帰に向け準備を進める事業主の皆様へ」(リーフレット)を活用し、事業主に対し対象者の復職に向けて事業主が取り組むことが望まれる内容や復職事例についての情報提供を行います。 復帰プログラムの開始後は、プログラムの中で行っている対処方法や配慮事項について事業主と適宜情報共有を行います。情報共有の頻度やその方法、事業所との連絡窓口を誰にするかなどについては、事業主や対象者と相談のうえで決定します。 復帰プログラム終了の概ね1か月前には、第4章で紹介したように対象者や事業主、家族、関係機関を交えた連絡会議を行います。連絡会議では対象者の障害特性や就労上配慮が必要な事項を連絡会議資料および報告資料として取りまとめ、事業主に伝えます。 復帰プログラムの終了時には、対象者や事業主、家族、関係機関を交えてもう一度連絡会議を行います。ここでは、復帰プログラムの結果や連絡会議後のプログラムの中で新たに確認した対象者の特性や対処手段、復職にあたって必要となる配慮事項などについて情報提供します。その上で、復職後に予定している業務内容を確認し、ジョブコーチ支援などの復職後の支援体制について最終調整を行います。 2 職務や配置、労働条件を検討する 事業主は、対象者の障害特性や必要な配慮事項をふまえたうえで、職務内容や配置、労働条件などについて検討します。職務内容や配置の検討の際に活用できるツールとして、「事業主のための職場復帰に関する参考資料集」で紹介している「受け入れ部署整理表」「作業整理表」「職務再設計のモデル」があり、事業主のニーズに応じてこれらについての情報提供を行います。労働条件については、事業主は対象者の申し出や主治医、産業医の意見などをもとに、業務体制や安全配慮義務などを考慮しながら検討することとなります。 (1) 受け入れ部署整理表 復職部署を検討する際に活用できるツールが「受け入れ部署整理表(図1)」です。復職が想定される部署について、現場の理解やサポート体制、バリアフリー環境、通勤ルートの安全性などの観点から整理し、受け入れ部署検討のための参考にすることができます。具体的な記入方法は、次のとおりです。 ① 「部署名」に、復職先として想定される部署を記入します。 ② 現場の理解、対象者をサポートする人員体制など、項目にそって○をつけます。 ③ 現場の理解が「得やすい」、対象者をサポートする人員体制が「ある」、バリアフリー 環境が「ある」、通勤ルートが「安全」に○が多い部署を対象者にとって適応しやす い職場の候補として検討し、最終的にはその他の要因もふまえて総合的に判断します。 № 部署名 現場の理解 対象者をサポートする人員体制 バリアフリー環境 通勤ルート 備考 1  得やすい・得にくい ある・ない ある・ない 安全・問題あり 2  得やすい・得にくい ある・ない ある・ない 安全・問題あり 3  得やすい・得にくい ある・ない ある・ない 安全・問題あり 4  得やすい・得にくい ある・ない ある・ない 安全・問題あり 5  得やすい・得にくい ある・ない ある・ない 安全・問題あり 6  得やすい・得にくい ある・ない ある・ない 安全・問題あり 7  得やすい・得にくい ある・ない ある・ない 安全・問題あり № 部署名 現場の理解 対象者をサポートする人員体制 バリアフリー環境 通勤ルート 備考 1 品質管理部 得やすい・得にくい ある・ない ある・ない 安全・問題あり 元の部署。電車の乗り換え、駅構内の階段昇降に不安有り。 2 総務部 得やすい・得にくい ある・ない ある・ない 安全・問題あり 自宅から近い。電車の乗り換えは無い。事務所内の床の段差に注意。 図 1 受け入れ部署整理表および記入例 (2) 作業整理表 復職先として想定される部署において、復職後に対象者が従事する作業を検討する際に活用するツールが「作業整理表(図2)」です。具体的な作業についてその内容や難易度、危険性などを洗い出し、実際に担当する作業を検討するための参考にすることができます。具体的な記入方法は、次のとおりです。 ① 受け入れ部署整理表を作成後、復職先として想定される部署で、対象者が取り組めそうな作業を「作業名」「内容」に記入します。 ② 覚えやすさ、作業方法など、項目にそって○をつけます。 ③ ○の該当箇所や頻度・時間を勘案して、候補となる作業を選択します。 ※ このツールでは、高次脳機能障害の特性を考慮し、覚えやすさは「易しい」、作業方法は「定型」、他の部署や建物に行くことは「ない」、怪我の危険性は「ない」に〇がつく作業を高次脳機能障害者が適応しやすい作業として優先的に選択することを示しています。ただし、対象者の障害特性により選択基準は異なります。 № 作業名 内容 覚えやすさ 作業方法 他の部署や建物へ行くこと 怪我の危険性 頻度・時間 1   易しい・難しい 定型・非定型 ある・ない ある・ない 2   易しい・難しい 定型・非定型 ある・ない ある・ない 3   易しい・難しい 定型・非定型 ある・ない ある・ない 4   易しい・難しい 定型・非定型 ある・ない ある・ない 5   易しい・難しい 定型・非定型 ある・ない ある・ない 6   易しい・難しい 定型・非定型 ある・ない ある・ない 7   易しい・難しい 定型・非定型 ある・ない ある・ない № 作業名 内容 覚えやすさ 作業方法 他の部署や建物へ行くこと 怪我の危険性 頻度・時間 1 請求書データの入力 請求書を見ながら、金額や口座番号などを経理システムに入力する 易しい・難しい 定型・非定型 ある・ない ある・ない 毎日・1時間 2 郵便物の配付、発送 ・届いた郵便物を各部署に配る 易しい・難しい 定型・非定型 ある・ない ある・ない 毎日10:00~10:30   ・発送する郵便物をとりまとめ、配達業者に渡す     15:30~16:00 図2 作業整理表および記入例 (3) 職務再設計のモデル 対象者が従事する職務を組み立てる際、将来的に従事することが期待される職務についての検討を行う際に参考となるのが、職務再設計のモデル(図3)です。 職務再設計のモデルには「切り出し・再構成モデル」「積み上げモデル」「特化モデル」があります。高次脳機能障害者の復職においては、対象者の障害特性や必要な配慮事項をふまえつつ、どのモデルが適切か検討を進めていくことになります。 「切り出し・再構成モデル」は、他の従業員が行っている業務の一部を切り出し、組み合わせて一人分の仕事を再構成するものです。多くの場合、これまで対象者が行っていた職務とは異なる新しい職務となり、対象者が新しい仕事を覚えなければならないという難しさはありますが、対象者の特性に合わせた職務を設定することができます。たとえば、脳卒中の後遺症で身体に麻痺が生じてしまったため、身体作業を伴う工場での勤務継続が困難と考えられるときに、事務部門への配置転換を検討し、事務部門の仕事を切り出し再構成するというように用いられることがあります。 「積み上げモデル」は、復職当初は限定的な内容の職務から開始し、少しずつ時間をかけて、次第に職務の内容や責任の幅を広げていくものです。もともと対象者が行っていた職務のうち、無理なく行えそうな業務や補助的な職務から開始し、様子を見ながら少しずつ元の職務に戻していくというケースが多く、事業主と対象者双方が職務のイメージを持ちやすいことがメリットです。 「特化モデル」は、対象者の強みを生かせる職務を選び出し、その職務における一部の不得手な作業などについて、担当の見直しや支援の対象とすることで、対象者が得意とする職務に専念・特化できるようにするものです。たとえば、失語症があるものの計算や書類照合などの事務処理ができる場合、来客対応と電話応対は他の職員に担当してもらい、経理業務に専念するといったケースが考えられます。 ① すでにある仕事から定型反復作業などを切り分ける。 ② 切り分けた作業を組み合わせ、スケジュール化し、事業所で一人分の仕事として再構成 する。 ① 復職時点では、既存の職務の中から作業を切り出し、再構成された限定的な職務を担当職務とする。 ② 目標とする職務に向け、一定の時間をかけて、次第に職務の内容や責任の幅を広げる。 ① 対象者の強みを生かす既存の職務や再構成された新たな職務を選び出す。 ② 職務の一部に不得手な作業などがあった時には、担当の見直しや支援の対象とすることで、対象者が得意とする分野に専念・ 特化できるようにする。 図3 職務再設計のモデル <参考文献>独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター:調査研究報告書 No.133 「精神障害者及び発達障害者の雇用における職務創出支援に関する研究」、2017、P6、PP105-108 3 復職部署に障害特性や必要な配慮を説明する 復職にあたり事業主は、対象者の同意に基づき、復職を想定している部署、特に対象者の上司や同僚など職務遂行上関係が深い人に、対象者の障害特性や配慮が必要なことを説明します。 事業主が対象者の障害特性や配慮が必要なことを伝えるためには、次の方法があります。 ① 対象者が復職部署の上司や同僚などへ説明する。 ② 人事担当者が復職部署の上司や同僚などへ説明する。 ③ 対象者を支援している就労支援機関などの担当者が復職部署の上司や同僚などへ説明する。 ④ 対象者の障害特性や必要な配慮事項などを記載した資料を配付し、説明する。 ⑤ 就労支援機関などの職員を講師として招き、障害特性や配慮事項などの研修会を開催する。 上記①~⑤は、必要に応じて組み合わせて実施します。支援者は、事業主が行う復職手続き、復職までのスケジュール、業務実施体制などを勘案して、誰に、どの情報を、どのように伝えるかを検討することが必要です。 また、配慮事項の説明の際には、「事業主のための職場復帰に関する参考資料集」に記載した、厚生労働省障害者雇用対策課発行の「合理的配慮指針事例(図4)」の内容を活用し、一般的に言われている合理的配慮の内容について情報提供することも有効です。 業務指導や相談に関し、担当者を定める ・業務指導の担当者(現場の課長等)と相談対応を行う者(人事担当者等)をわけている。 ・担当者と同じシフトで勤務してもらっている。(1,000人以上/ 小売業/ 接客) 仕事内容をメモにする、一つずつ業務指示を行う、写真や図を多用して作業手順を示す ・メモ帳を持参してもらい、指導・注意事項を忘れないように記載してもらうとともに、業務の開始前にメモ帳の内容を確認してもらう。(10人未満/サービス業/ 労務) ・本人がメモをとりやすいスピードで話すようにする。 ・作業の終了報告後に次の作業を出すようにするなど、指示は一つずつ行う。 ・作業場所の写真と作業手順を追加したポケットサイズの携帯できる手引きを作成し、作業に慣れるまで本人が見返しながら作業できるようにしている。(10~49人/福祉/清掃) ・荷物の仕分け作業において、各コンテナに便名や商品名の紙を貼り、間違いが起こりにくいようにしている。(50~99人/運送業/仕分け・荷物積み) ・業務指示にあたり、まずは手本を示す。 ・毎日の作業終了後、チェック表を使い指導内容を理解しているかを確認する。(50~99人/製造業/製造工、50~99人/福祉/清掃) ・慣れるまでは、現場担当者が定期的に確認を行った。(100~299人/製造業/製造工) 出退勤時刻・休憩・休暇に関し、通院・体調に配慮する ・体調に合わせ、勤務時間・休憩時間・残業を柔軟に調整している。 ・体調が優れないときのために、休憩室を用意している。(10~49人/生活関連サービス業/事務、300~499人/宿泊業/事務補助) ・通院日には休暇を認めている。 ・本来はシフト制の勤務だが、過集中を防ぐため、勤務時間や休みの日を固定している。 本人の負担の程度に応じ、 業務量等を調整する ・本人の体調、希望、習熟度を考慮して徐々に時間を増やす。 ・集中力を維持できるよう、当初短時間勤務とし、その後状況を見ながらフルタイムに移行する。 ・作業をできるだけわかりやすく単純な形(使用する機械と工程を減らす、決まった商品のみの品出しを担当してもらう。 ・本人の状況に応じて、業務量を徐々に増やしていく。 ・朝礼時の声かけ、体調管理シートの活用、家族と連絡をとることなどにより、日々体調の把握に努める。 ・本人の就労状況等を人事担当者、上司、同僚(パートリーダーで福祉業種経験者)で共有している。(1,000人以上/飲食サービス業/調理) 本人のプライバシーに配慮した上で、他の労働者に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明する ・(本人の希望を踏まえて)説明をする相手の例  →総務や人事担当者、上司、同僚 ・(本人の希望を踏まえて)説明する内容の例  →本人への接し方(ペース配分、言葉づかい、複数の指示を一度に行わない、困っているときは声をかけてほしい等)  →安全面の配慮について協力すること ・(本人の希望を踏まえて)説明する方法の例  →本人の特性や必要な配慮事項などを記載した資料を活用する。  →障害者就業・生活支援センターにサポートに入ってもらい、本人の特性・配慮事項等について説明した。  →本人より提供された障害特性に関する資料を配付し、説明した。  →就労移行支援事業所から提供された本人の特性リストを活用し、説明した。 ・障害者職業センター職員を講師として招く等により、障害特性や配慮事項等の研修会を開催。 その他の配慮 ・フォークリフトが頻繁に通行する職場だが、本人に半側空間無視の症状があるため、危険が及ばないよう、作業場所の配置を工夫した。(50~99人/運送業/倉庫内作業) ・上司・同僚の名前と顔が覚えられないとの相談があったため、顔写真入りの名簿を作成した。(50 ~99人/運輸業/倉庫内作業) ・障害者就業・生活支援センター、ジョブコーチの支援を定期的に活用している。 ・就労支援機関と精神保健福祉士、人事担当者、本人の上司が連携して配慮事項を決定している。(500~999人/飲食サービス業/労務) 図4 高次脳機能障害に対する合理的配慮指針事例(一部抜粋) <参考資料>厚生労働省障害者雇用対策課:「合理的配慮指針事例集(第三版)」、PP84-90 第6章 支援事例 復帰プログラム受講者Fさんについて、支援の流れに沿って紹介します。 1 事例概要 F さ ん 男性40代 障害状況 脳出血による高次脳機能障害(記憶障害、注意障害、半側空間無視、地誌的障害) G事業所 建築物の内外装工事の設計・施工、部品製造 従業員数 150人 受障前の所属部署・職務内容 生産加工部門に所属リーダーとして5人ほどのチームの進捗管理をしながら自らも現場作業に取り組んでいた Fさんは、自分自身がもの忘れが多くなったという自覚はありましたが、業務内容や手順に関する記憶は残っているので仕事はできる、そのため受障前と同様にリーダーとして復帰できると考えていました。一方、G事業所は、リーダーとしての職場復帰は困難ではないかとの考えであり、さらに現場作業員としての復帰も難しい場合を想定し、配置転換の検討も必要との考えでした。 FさんとG事業所の考えにずれがあるため、Fさんの障害が仕事にどのように影響するかを整理するとともに、F さんの自己理解を深めること、G事業所の職務再設計をサポートすることが支援課題と考えました。 2 Fさんのアセスメント (1) 特性チェックシートを活用した障害特性の整理 Fさんの障害の仕事への影響度合いを確認するため、特性チェックシートを活用して、 Fさんの障害特性を確認しました。Fさんは1項目ずつ読みあげながら、自分に当てはまるかどうかを回答しました。 Fさんは、診断を受けている記憶障害、注意障害、半側空間無視のいくつかの項目について、「ときどき当てはまる」を選択していました。一方、「当てはまる」とした項目はありませんでした。 Fさんに「ときどき当てはまる」と回答した項目についてより詳しく確認しましたが、この時点ではFさんから具体的なエピソードは出てきませんでした。また「『当てはまらない』とは言い切れないので、『ときどき』に〇をしている」と自分の回答に自信のない様子でした。 Fさんは、職場復帰した際にさまざまな困難が生じるであろうと感じている一方で、具体的なエピソードと結びつけて特性を把握しておらず、障害認識があいまいな状況であることが窺えました。したがって、復帰プログラムの中での具体的なエピソードをFさんと振り返りながら障害特性を共有するとともに、神経心理学的検査などを実施し、客観的な評価をあらためて行うことにしました。 (2) アセスメントシートによる情報収集 アセスメントシートにより、Fさんの職場復帰支援に関わるさまざまな情報を整理しました。Fさんは話し言葉は豊富ですが、文章を書こうとすると頭の中からその内容が消えてしまうような感覚があるとのことで、アセスメントシートの自由記述欄は、口頭で話す内容に比べ情報量が少なくなる傾向がありました。そのため、選択式の項目はFさんが記入し、自由記述の項目は支援者が聴取しながら記入しました。 「生活習慣・健康状態」については、生活リズムは安定しており、食生活に気を配り自己管理できていることがわかり、支援課題としませんでした。 「ストレス・疲労」については、自分のストレス・疲労状況への気づきが薄く、休憩の取り方などストレス・疲労のマネジメントに関する支援が必要でした。 「障害・病気に関する情報を整理する」については、Fさんは記憶障害や注意障害、半側空間無視の診断があることを自分から記入できていましたが、日常生活や職業生活において具体的にどのような影響があるかについての説明はできませんでした。Fさんに復帰プログラムでうまくいかなかった具体的な場面を伝えると、その出来事があったこと自体は覚えていましたが、G事業所での仕事については、「慣れた仕事と職場なので今までのようにできる」という考えでした。G事業所での仕事に障害特性がどのように影響するか、 Fさんと話し合いを進めることが支援の柱の一つと考えられました。 (3) 神経心理学的検査とワークサンプル幕張版によるアセスメント 復帰プログラムでは、特性チェックシートやアセスメントシートのほか、神経心理学的検査やワークサンプル幕張版(以下「MWS」という。)を活用しアセスメントを行っています。 Fさんに対し、記憶障害に関しては「日本版リバーミード行動記憶検査(RBMT)」を、注意障害に関しては「トレイルメイキング検査日本版(TM T-J)」と「標準注意検査法 (CAT )」を実施しました。各々の検査結果については、データとしてFさんに明示し、次のことをわかりやすい表現でフィードバックしました。 ・RBMTの結果は標準域を下回り、話の流れは記憶できる一方で、日付、人名、道順、予定などを記憶しにくく、日常生活のさまざまな場面で困難さが推察されること ・T MT-JとCATの結果から、一つの作業から他の作業への切り替えに時間を要すること( 注意の切り替え)、複数のことを同時に行うとどちらかがおろそかになる( 注意の分配)と推察されること、ワーキングメモリ※ が関わる検査項目が低位であること ・一方、注意を一定時間維持する力(持続的注意)は良好であること ※ ワーキングメモリについては、 物事を処理する際の脳の状況を机の広さで説明しています。 また、作業遂行力に関するアセスメントとして、MWS簡易版13種を実施し、さらに、 Fさんの復職時の職域を想定し、MWS訓練版における実務作業を実施しました。MWSの結果を次のようにまとめ、客観的なデータとともにフィードバックしました。 ・作業時間を要しミスが多く、作業能率、正答率ともに標準値と比べ低位であること ・新しい作業では、作業の準備や作業手順の理解に時間を要していること ・手順書を使い、繰り返し手順を追う練習により、手順が安定すると考えられること ・工程の少ない簡易な作業種であれば、比較的正確に遂行できると考えられること 3 支援方針の検討 特性チェックシートやアセスメントシート、神経心理学的検査などの結果、復帰プログラムでの状況や事業所訪問により収集した情報をもとに、情報整理シートとケースフォーミュレーションシートを作成し、スタッフ間でケース会議を実施しました。(図1) 図1 Fさんの情報整理シートとケースフォーミュレーションシート ケース会議の結果、次の点を支援方針として整理しました。 ・Fさんは記憶障害と注意障害が複雑に影響し、障害特性がどのように作業遂行力の低下に影響しているかがわかりにくいため、障害状況をさらに整理すること ・知能検査や遂行機能障害に関する検査を追加実施し、客観的な情報を収集すること ・職務再設計に向けてMWS(実務作業)に取り組むこと ・MWS(実務作業)を正確に取り組むための対処策(補完手段)を見つけること ・職務再設計に向けてG事業所にFさんの障害特性や必要な配慮事項を伝えること ・職務再設計が想定されているため、ご家族にFさんの障害特性やG事業所との調整状況を報告し、方向性を相談すること ケース会議の結果をふまえて作成した支援計画が図2となります。この支援計画はFさんとG事業所に提示し、同意を得た上で支援を進めました。 対象者 Fさん 対象事業主 G事業所 支援期間 令和〇年〇月〇日(〇) ~ 令和〇年〇月〇日(〇)(16週間) 支援目標 現在休職中であり、復帰プログラム終了後速やかに復職することを目指しています。復職に向けての準備を整えながら、職場との相談を進めていきましょう。復帰プログラムの受講を通じて、次の目標に取り組みましょう。 1.高次脳機能障害に対する対処策(補完手段)の獲得 2. 障害がどのように仕事に影響するかを整理し、連絡会議資料にまとめ、プレゼンテーションを練習すること 支援内容 1 高次脳機能障害に対する対処策(補完手段)の獲得 ・疲労について、作業課題の取組み、日々の振り返りや個別相談を通じて疲労へのサインへの気付きを深め、適切な休憩の取り方などの対処策(補完手段)を検討します。 ・記憶の補完手段や記憶によい取組みについて、グループワークで学びます。学んだ内容はプログラムの中で試行し、効果を確かめます。 ・各種作業課題に取り組みながら、正確に作業を進めるための対処策(補完手段の活用を検討します。 2 連絡会議資料作成とプレゼンテーション練習 ・事業所との面談に向けて、自分自身の障害特性などを整理します。また、リファレンスシートや障害特性や取組みをまとめた連絡会議資料を作成し、プレゼンテーション練習を行います。 支援体制 ・家族:情報共有を行いながらプログラムを実施するとともに、職場との相談を進めます。 ・G事業所:復職にあたっては職務再設計を検討する必要があります。復帰プログラムを通じて把握された対象者の特性や必要な配慮事項などをお伝えします。 ・K病院:復職に向けた障害特性や必要な配慮事項について助言を仰ぎます。 ・M障害者職業センター:連携して復職に向けた相談を行います。必要に応じて、ジョブコーチ支援などの復職後のフォローアップについて協力を仰ぎます。 留意事項等 連絡会議は、プログラム中間(〇月頃)と終了時(〇月頃)を予定しています。 図2 Fさんの職場復帰支援プログラム支援計画 4 復帰プログラムの実施 復帰プログラムは、基礎評価期(5週間)、集中支援期(7週間)、職場適応支援期(4週間)から構成される 16週間のプログラムです。(図3) 基礎評価期には、アセスメントを中心に行います。特性チェックシートやアセスメントシート、神経心理学的検査、MWSなどを実施し、個別相談を行いながら障害特性や支援課題を整理し、そのうえで支援計画を策定します。 集中支援期には支援計画に沿って、労働習慣の確立などの職業準備性の向上を図るとともに、作業課題への取組みを個別相談などで振り返り、対処策(補完手段)や疲労のマネジメントの習得を図ります。また、受講者はアセスメントの結果や作業課題により得られた自分自身の現状を取りまとめ、事業主にプレゼンテーションできるよう連絡会議資料を準備します。連絡会議には、受講者と事業主、家族や関係機関が出席し、復帰プログラムの経過を確認のうえ、復帰に向けた検討事項について協議します。 職場適応支援期には、連絡会議における協議内容をふまえ、復帰に向けたより実際的な作業場面を設定し、集中支援期で習得した対処策を職場で活かすための取組みを行います。復帰プログラム終了前には再度連絡会議を行い、復職に向けた最終調整を行います。 休職者 ワークサンプル幕張版 各種神経心理学的検査 復帰プログラム開始 【基礎評価期】(アセスメント)5週間 事業主 職場環境のアセスメント 職場復帰支援プログラム支援計画 作業課題の実施 対処策(補完手段)の習得 疲労のマネジメント 連絡会議資料作成 【集中支援期】7週間 中間連絡会議 復帰プログラムの経過報告 復職に向けたより実際的な作業の実施 【職場適応支援期】4週間 終了連絡会議 復帰プログラムの結果報告 復職 図3 復帰プログラムの流れ 5 リファレンスシートを活用した連絡会議資料作成 集中支援期の中盤頃から、Fさんは障害特性や補完手段、配慮事項などをG事業所に説明できるように連絡会議資料作成の準備を進めました。神経心理学的検査の結果や日々の復帰プログラムの状況などから、特性チェックシートを1回目に実施した時と比べてFさんの自己理解が変化していると想定されたため、あらためて特性チェックシートを実施しました。リファレンスシートを活用して、Fさんの特性チェックシートの回答の1回目と 2回目の比較を行ったところ、全項目の約2割の回答内容に変化がありました。2回目の回答の方がよりFさんの特性を表していると考えられたため、Fさんと相談し2回目の回答を参考にリファレンスシートを取りまとめることにしました。 さらにFさんと相談をしながら、リファレンスシートの中で内容が近いと考えられる項目を並べ替え、重なる項目は一つにまとめました。また、仕事上影響が少ないと思われる項目は省略し、復帰プログラムにおいて作業課題を遂行するうえで困った項目のみに絞りました。その上で、精査した項目について、実施している対処策(補完手段)と周囲に求める配慮、理解してほしいことをそれぞれ検討しました。Fさんは支援者と整理したリファレンスシート(図4)を参照しながら、連絡会議資料を作成しました。 リファレンスシート ○・・・はい △・・・ときどき ×・・・いいえ ○・・・伝える △・・・検討中 ×・・・伝えなくて良い 〇月×日作成Ver No 特性チェックシートで確認された特性 どの程度あてはまるか  会社に伝えるかどうか  対象者と職業センターで整理した項目    1回目 2回目 1回目 2回目 対処策(補完手段) 周囲に求める配慮、理解してほしいこと 1 受障後に経験したことが思い出せない。 △ △ ○ ○ メモリーノート、スマホ、メモなどの補完手段の活用  (例:受障後に知り合った人の名前や顔が中々覚えられない) 2 受障前に経験したことが思い出せない。 × △ ○ ○  知り合いの名前がすぐにでて来ない、思い出すのに時間がかかる  (例:家族や上司の名前を思い出せない) 3 最近の出来事や食事の内容を思い出すことが できない。 × △ △ △  (表現を変えて伝える)病後新しい情報を覚えることが苦手になった 4 休憩時間をはさむと、どこまで作業してたの かわからなくなる。 × △ ○ ○ 付箋を貼っておく、ホワイトボードに記入しておくとよい。 5 頼まれたことや予定・約束・日課を忘れる。 △ △ ○ ○ 予定や約束、日課を忘れることがあるため、スマホのカレンダーに入力し、アラームをかけることで対処している。  (例:薬の飲み忘れ、相談日時を忘れる。) 6 メモを書いても、書いたこと自体を忘れたり、どこに書いたかわからなくなる。 △ △ ○ ○  メモを書いても目に入るところにないと活用できない。(見えなくなると思い出すのに時間がかかる) 7 受障後に通い始めた場所(病院や支援機関など)への道順がわからなくなる。 × △ ○ ○ スマホのナビゲーションシステムを使っても道を間違えたことがあった。事前に同行者と練習、目印を写真で取っておく。出発前に予習してから行くようにする。 8 2つ以上の指示をまとめて伝えると、いくつ か抜ける。 △ △ ○ ○ (⇒まとめて1つの項目にする。)「理解している作業でも一つの注意点に気が向くと他の事が抜けてしまう」 複数の指示を1度に言われると何かが抜けてしまうため、ひとつずつ指示をだしてほしい(メールやチャットで残してもらえば見直し確認ができる) 9 複数のことを並行して行うとき、どちらかが おろそかになったり、同時に行うことができない。 △ △ ○ ○ 対処手段 工程表にルーラーを当てて一行ずつ進める事で防ぐことができる 聞きながらメモを取ることが難しいため、メモをとる時間をいただきたい 10 会話において話があちこちに飛び、話にまと まりがない。 △ × × × (→プログラムではあまり見られない) 図4 Fさんのリファレンスシート 6 事業主との調整 (1) 職場環境のアセスメント Fさんの職務内容や職場環境をアセスメントするため、基礎評価期( 復帰プログラム開始後1か月頃)に、Fさんとともに支援者がG事業所を訪問しました。 Fさんが所属していたG事業所の生産加工部門では、機械部門で製造された部品を、研磨や溶接により調整しながら組み立てる作業を行っており、休職前のFさんは、生産加工部門に複数あるチームのうちの1つを率いるチームリーダーでした。F さんは、リーダーとしてチームの進捗管理をしながら、自分でも組立作業を行っていました。 職場を見学した際、生産加工部門では部品ごとに作業方法や取付け方などについて、互いにコミュニケーションを取り、細かな調整をしながら進めていました。また、Fさんは作業場にある設計図を見ながら、そこで行われている作業内容を端的に説明できており、作業内容や手順についての記憶が確かに残っていることがわかりました。しかし、G事業所の生産加工部門では設計図に沿った作業のほか、細かな調整をしながらの変更も多いことから、新たに覚えたり、変更された内容を反映させることが難しくなっているF さんが組立作業を行うことは難しいと考えました。 職場見学後の打ち合わせでは、G事業所の人事担当者と製造部門の上司に「事業主のための職場復帰に関する参考資料集」により、Fさんにあてはまる障害特性(記憶障害、注意障害、半側空間無視)と、高次脳機能障害者の復職における職務選定の考え方(積み上げモデル)を紹介しました。(図5) そのうえで、「磨き作業」のようにどの部品にも共通する作業や、手順が固定できる工程の有無を確認しましたが、複数のチームが並行して異なる部品製造に取り組んでおり、一連の流れのある工程から特定の作業を集約することは難しいとのことでした。また、機械を用いる作業の場合、怪我のリスクが高い作業もあるため、Fさんの安全性を第一に考えたいとの職場の意向が示されました。 この段階では、Fさんの職務をどうするかについて見当をつけることができませんでした。したがって、G事業所の人事担当者と製造部門の上司がFさんの復帰プログラムにおける作業遂行の様子を見学し、あらためてFさんが行えそうな職務を検討しなおすこととなりました。 図5 「事業主ための職場復帰に関する参考資料集」職務選定の考え方(積み上げモデル) (2) 連絡会議 復帰プログラム終了約1か月前に、FさんとG事業所の人事担当者、製造部門の上司、地域センター担当者、職業センターによる中間連絡会議を実施しました。Fさんが作成した連絡会議資料と職業センターが作成した報告資料は次のとおりです。 【Fさん作成連絡会議資料】 現状報告資料・障害について感じること 記憶障害の特性について ・新しい情報を覚えることが苦手になった ・知り合いの名前がすぐにでてこない、思い出すのに時間がかかる ・メモを書いても目に入るところにないと活用しにくい ・休憩をはさんだり、中断して翌日に作業を残したりすると、どこまでやったかわからなくなることがあるので、付箋やホワイトボードに記入している ・予定や約束、日課を忘れることがあるため、スマホのカレンダーに入力し、アラームをかけることで対処している 注意障害の特性について ・理解している作業でも一つの注意点に気が向くと他のことが抜けてしまう  (工程表にルーラーを当てて一行ずつ進めることで防ぐことができる) ・口頭で、二つ以上の指示を受けるといくつか抜ける ・初めて行う作業では見落としやケアレスミスがあるが、注意点がわかると繰り返し同じミスをすることは少ない 見え方の特性について ・複数の物の中から必要なものが見つけにくい ・目分量で、半分や三等分に分けることが難しい その他 ・道順が覚えにくい ・作業手順やルールの変更があった場面、すぐに対応できるか不安がある 職場に理解・配慮を依頼したいこと ・理解したり思い出したりするのに時間がかかるため、全体的にスローペースになったことを理解してほしい ・聞きながらメモを取ることが難しいため、メモをとる時間をいただきたい ・複数の指示を1度に言われると何かが抜けてしまうため、ひとつずつ指示をだしてほしい  (メールやチャットで残してもらえば見直し確認ができる) ・集中力と注意力を継続するために、1時間に10分程度の休憩をいただきたい 復職にあたって ・できないことは助けてもらいながら、自分でできることからやっていきたい ・作業がごく簡単なものであっても一作業員としてG事業所に復職したい 【職業センター作成報告資料】 連絡会議資料 1.出席状況 ・実施期間:○年○月○日~○年○月○日(16週間) プログラム時間 10:15~15:20 ・支援日数:○日(○年○月○日現在) うち欠席:○日(欠席理由 通院のため) 2.体調・疲労管理について ・生活リズム:毎日23時就寝、7時頃起床 睡眠生活リズムは安定しています。 ・通院先:K病院 脳神経外科(主治医 L医師)に通院しています。 ・服薬内容:●●●(降圧剤)㎎、■■■(抗脂質剤)㎎ ・服薬管理:お薬カレンダーを使い、食事前に準備し飲み忘れなく服薬できています。 3.復帰プログラム実施状況について (1)各種心理検査結果等(結果、所見の詳細は省略) ・記憶に関する検査:日本版リバーミード行動記憶検査(RBMT) ・注意に関する検査:トレイルメイキング検査日本版(TMT-J)/標準注意検査法(CAT) ・その他の検査:知能検査(WAIS-Ⅲ)/遂行機能障害症候群の行動評価(BADS) (2)MWS 実務作業実施状況(結果、所見の詳細は省略) ・正確性:補完手段を活用し確認しながら取り組み、正答率は一般平均程度です。 ・作業能率:作業時間については一般平均から○%程度の能率です。 ・作業態度:真面目に集中して取り組むことができます。 (3)高次脳機能障害の状況 ●記憶障害: ・病後に新たに経験したことが記憶に残りにくく、また思い出すのに時間を要します。  対処法(補完手段): 手順書やメモは必要な情報を思い出すことに有効です。一方で必要なタイミングでメモや手順書を見ることを思い出すことができないことがあるので、メモや手順書を準備するよう声をかける必要があります。  ルーティンの予定については、スマートフォンのアラームなどを活用することで安定してこなせます。一日の流れが変化する場合には、スケジュールを明記し、本人が一行ずつチェックしていく方法が現段階では最も有効です。 ●注意障害: ・複数の点に同時に注意を配分することが苦手になっています。  対処法( 補完手段):一度ミスをした点については注意すべきことをメモに残すことで、次の作業時に活かすことができます。 ●半側空間無視: ・プログラム中では、左側に集中的にミスが出る、左側の物にぶつかるなどは確認されていません。本人によると、文字を読んだり書いたりする際に、頭の中で左側が消えるような感覚があるとのことです。 4.復職にあたって必要な配慮事項 (1)作業の内容 ・業務手順に変更が少なく、一定の手順でできる作業。 ・複数同時処理をさけ、継時的にできる作業、一定時間繰り返す作業。 (2)指示の仕方 ・指示は短い言葉でひとつひとつ行う、複数の指示をさける。 ・何かに取り組んでいる時には、名前を呼び注意を引き付けてから指示する。 ・本人がメモを取る時間をもらう、あるいはメモなど形が残る形で指示する。 ・指示した内容が本人にどのように伝わっているか本人の行動を見て確認する。 (3)休憩の取り方 ・1時間に10分程度、休憩が取れると安定した作業につながります。 5.検討事項 (1)復職時の職務内容について (2)復職後の支援について これらの資料をもとに、Fさんと支援者がそれぞれ復帰プログラムの成果を報告しました。また、実際に復帰プログラムの作業環境をG事業所の方に見てもら い、Fさんの作業遂行状況を確認してもらいました。 (図6) G事業所からは、復職当初1か月程度は、午前中半日の勤務を想定していること、また、Fさんが従事する職務として、Fさんに経験があり、受注内容による変化が少ない仕上げ工程の2つの作業と、手順が明確で細かな調整が少ない機械加工作業を検討しているとの説明がありました。 連絡会議での検討をふまえ、F さんの職務として検討されている機械加工作業には機械への数値入力作業が含まれることから、復帰プログラムの作業課題として新たに数値入力作業を実施することとしました。しかし、同じ数字を連続して入力する際にミスが増えること、紙を見ながらパソコンに入力する場合にミスが増えやすいことが確認され、数値入力を正確に行うためには第三者のダブルチェックを必要とすることがわかりました。 図6 Fさんの部品配置図と作業環境 (3) 復職に向けた最終調整 復帰プログラム終了1週間前に実施した終了連絡会議において、復帰プログラムの状況をあらためて報告し、復職スケジュールや勤務時間、職務内容、職場環境などの最終調整を行いました。Fさんの職務として検討されていた機械加工作業は、ミスが発生しやすいことが懸念され復職当初には行わないことになりました。また、復職後の環境調整や対処策(補完手段)を職場で活用するための支援を目的に、地域センターのジョブコーチ支援の活用をG事業所に提案し、同意を得ました。 Fさんは、復帰プログラム実施前には「受障前と同様にリーダーとして復帰したい」と言っていましたが、復職後の仕事について「まずはできることから積み重ねていきたい」と人事担当者に話すようになっていました。 (4) 復帰プログラム終了後の経過 Fさんは、半日勤務から復職し、同僚の指示を仰ぎながら仕上げ工程の2つの作業に取り組んでいます。Fさんにとって難しい作業は、Fさんから同僚に依頼しサポートを得ています。また、道具の置き忘れ、休憩後の作業開始時にどこまでやっていたかがわからなくなるといった課題は、ジョブコーチの提案でF さん専用の目立つ道具入れを作業途中の場所に置くといった環境調整の工夫により対処しています。 G事業所からは、復帰プログラム受講前にFさんが「仕事は以前と同じようにできる」と言っていたことが最も不安であったと聞きました。復帰プログラム受講により、Fさんが自分の状況を理解したうえで復職でき、職場としても配慮がしやすくなったとの感想を得ています。 第7章 まとめ 本報告書では、高次脳機能障害者の復職におけるアセスメントをテーマに、高次脳機能障害の障害特性や支援課題に関わる情報の収集・整理、支援課題の明確化や支援方針の検討、対象者の自己理解の促進や事業主との調整など、アセスメントから事業主との調整にいたる一連の支援に関わる支援技法を紹介しました。 熟練した支援者は、アセスメントで得られた多様な情報から、取り組むべき支援課題の見当をつけ、支援方針やその優先順位、関係者間の役割分担などについて見立てを立てる「ケースフォーミュレーション」を頭の中で自然に行っていると思われます。この頭の中の作業を図式化したものが「ケースフォーミュレーションのための情報整理シート」と「ケースフォーミュレーションシート」です。経験の浅い支援者にとっては、ケースフォーミュレーションを実践するためのツールとして、また、ケース会議における関係者間の情報共有や支援方針の検討のための会議資料として有効に機能するものと考えています。 本報告書で紹介した一連の支援技法を活用することによって、高次脳機能障害者の職場復帰や職場適応が促進されることを願います。 < 参考文献一覧> 第1章 1)鈴木大介、山口加代子:不自由な脳 高次脳機能障害当事者に必要な支援、金剛出版(2020)、 PP183-194 2)障害者職業総合センター職業センター:実践報告書 No.32「高次脳機能障害者の復職における職務再設計のための支援」、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(2018) 3)障害者職業総合センター: 就業支援ハンドブック、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 (2021)、PP9-33 4)豊田章宏他:脳卒中に罹患した労働者に対する治療と就労の両立支援マニュアル、独立行政法人労働者健康安全機構(2017) 5)厚生労働省、独立行政法人労働者健康安全機構: 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き、厚生労働省、独立行政法人労働者健康安全機構(2020) 6)障害者職業総合センター職業センター:実践報告書 No.30「記憶障害を有する高次脳機能障害者の補完手段習得のための支援」、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(2017)、P2 7)佐伯覚、有留敬之輔、吉田みよ子他: 脳卒中後の職場復帰予測、総合リハビリテーション 28巻9号(2000)、PP875-880 8)障害者職業総合センター:調査研究報告書 No.142「採用後障害者の職場復帰の現状と対応に関する研究」、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(2018)、PP41-42 9)障害者職業総合センター:調査研究報告書 No.57「精神障害者等を中心とする職業リハビリテーション技法に関する総合的研究」、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(2004) 10)障害者職業総合センター職業センター:支援マニュアル No.14「高次脳機能障害者のための就労支援~医療機関との連携編~」、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(2016) 11)障害者職業総合センター職業センター:実践報告書 No.35「アシスティブテクノロジーを活用した高次脳機能障害者の就労支援」、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(2020) 第2章 1)障害者職業総合センター:調査研究報告書 No.57「精神障害者等を中心とする職業リハビリテーション技法に関する総合的研究」、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(2004) 第3章 1)下山晴彦、神村栄一:改訂版 認知行動療法 -実践手続きを具体的に知ることができる-、NHK出版(2020) 2)障害者職業総合センター職業センター:実践報告書 No.35「アシスティブテクノロジーを活用した高次脳機能障害者の就労支援」、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(2020) 第4章 1) 障害者職業総合センター職業センター:実践報告書 No.32「高次脳機能障害者の復職における職務再設計のための支援」、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(2018) 資料集 ① 高次脳機能障害特性チェックシート ② 高次脳機能障害特性チェックシート簡易版 ③ 高次脳機能障害者の職場復帰支援アセスメントシート ④ 情報整理シート・ケースフォーミュレーションシート ⑤ 事業主のための職場復帰に関する参考資料集 ⑥ リファレンスシート ⑦ 対処策リスト255 ⑧ 神経心理学的検査の見方 ※①~⑦とリーフレット「高次脳機能障害者の職場復帰に向け準備を進める事業主の皆様へ」は付属DVDに電子データを収めています。あわせてご覧ください。 高次脳機能障害 特性チェックシートについて チェックシートの目的 このチェックシートは高次脳機能障害について、様々な特性が職業生活にどのように影響しているかを全体的に把握するためのものです。特性別に項目を分類していますが、専門的に判定をしようとするものではなく、多様で個人差が大きく、とらえにくいと言われる高次脳機能障害の特性を、具体的な職業生活場面に応じて整理し、支援の方向性や手立てを考えるヒントを得ようとするものです。 回答の仕方 それぞれの項目を見て、普段の職業生活のなかで受障によって生じたと思われることについて、「はい」、「ときどき」、「いいえ」の3つから1つを選び回答してください。 現時点で、自分のことをどのようにとらえているかを教えてください。正しいとか、間違っているということはありませんので、思ったとおりに答えてください。 項目の意味がわからないときには、空欄のままでかまいません。 留意して頂きたいこと 高次脳機能障害は、障害の内容や症状の現れ方が非常に多様であり、このチェックシートの項目でその全てを網羅している訳ではありません。ご自身で障害の特性を把握したり、ご自身と家族など周りの方との障害認識の違いを確認するための補助的手段として活用いただけます。 なお、ご自身の症状等の専門的な判定については、主治医や医療機関にご確認ください。 その他 特徴的な項目のみ抜粋した簡易版もありますので、適宜ご活用ください。 記入日 氏 名 記入者氏名(対象者と記入者が別の場合) (対象者との関係:     ) 高次脳機能障害 特性チェックシート 下記の障害特性について自分に当てはまるかどうか、次の三択で回答してください。 主な症状 注意を向けるべき対象に適切に注意を向けること(選択性)や注意を長時間維持することが難しい(持続性)。複数の対象に同時に注意を払うこと(分配性)や状況に応じて注意の対象を切り替えることが難しい(転換性)。 注意障害 全般性 何となくぼんやりしていることが多い。 はい ときどき いいえ 会話があちこちに飛び、話にまとまりがない。 はい ときどき いいえ 選択性 周りの音や声に注意が散って作業ができない。 はい ときどき いいえ 誤字・脱字や計算ミスに気づけない。 はい ときどき いいえ 動作への安全性への配慮が不足し、安全確保のないまま動作を開始する。 はい ときどき いいえ 持続性 1つのことに長く集中して取り組めない。 はい ときどき いいえ 家事や趣味を始めても、すぐに疲れたり、あきたりしてやめてしまう。 はい ときどき いいえ 分配性・転換性(同時処理・切替) 作業手順の抜け、見落とし、誤字脱字、入力ミス、計算ミスなど、いわゆるケアレスミスが多い。 はい ときどき いいえ 複数のことを同時に行うと、どちらかがおろそかになる。(例:電話しながらメモを取る、作業している最中に指示されると抜ける) はい ときどき いいえ ひとつのことから他のことへ切り替えることができない。 はい ときどき いいえ 文書作成中に電話がかかってきたら、文書作成をいったん中断して、電話対応することができない。 はい ときどき いいえ 物事に熱中して他のことに気がつかない。 はい ときどき いいえ 2つ以上の指示をまとめて伝えると、いくつか抜ける。 はい ときどき いいえ 高次脳機能障害 特性チェックシート 下記の障害特性について自分に当てはまるかどうか、次の三択で回答してください。 主な症状 情報を覚えたり、保持したり、必要な時に引き出すことが難しい。 記憶障害 記憶障害全般 作業の手順が覚えられない。 はい ときどき いいえ 休憩時間をはさむと、どこまで作業していたのかわからなくなる。 はい ときどき いいえ 自分が話したこと、言われたことを忘れる。 はい ときどき いいえ ある作業を指示された後に、別のことをすると、先に指示されたことを忘れる。 はい ときどき いいえ 何度も同じまちがいを繰り返す。 はい ときどき いいえ 2つ以上のことをまとめて伝えると、いくつか抜ける。 はい ときどき いいえ 前向性健忘 受障後に経験したことが思い出せない。(例:受障後に知り合った人の名前や顔がなかなか覚えられない) はい ときどき いいえ 新しいことを効率よく学習できない。 はい ときどき いいえ 逆向性健忘 受障前に経験したことが思い出せない。(例:家族や上司の名前を思い出せない) はい ときどき いいえ エピソード記憶 発症前の仕事内容や思い出の記憶があいまいである。 はい ときどき いいえ 展望記憶 頼まれたことや予定・約束・日課を忘れる。(例:薬の飲み忘れ、相談日時を忘れる。) はい ときどき いいえ 約束があったことは覚えているが、何であったか思い出せない。 はい ときどき いいえ 意味記憶 言葉の意味がわからない。 (例:日本の総理大臣は?と聞かれても総理大臣とは何かがわからない。) はい ときどき いいえ 手続記憶 意識せず、体が覚えているようなことはできる。(例:自転車に乗れる、タイピングができる、楽器の演奏、水泳など) はい ときどき いいえ ワーキングメモリ 話しているうちに、何を話しているかわからなくなる。 はい ときどき いいえ レジでお金を支払おうとしているうちに、いくらかわからなくなる。 はい ときどき いいえ 顔と名前 人の顔や名前を覚えられない。 はい ときどき いいえ 想起の困難 ヒントがあれば思い出せることが多い。 はい ときどき いいえ 道順 今いる場所がわからなくなる。道順がわからなくなる。(例:休憩中にトイレに行くと、さっきまでいた場所に戻れなくなる) はい ときどき いいえ 道具と場所 必要な道具の種類や置き場所が覚えられない。どこにしまったかわからなくなる。 はい ときどき いいえ 高次脳機能障害 特性チェックシート 下記の障害特性について自分に当てはまるかどうか、次の三択で回答してください。 主な症状 計画的に段取り良く行動したり、目標や予定を達成したり、変化にうまく対応して行動することが難しい。 遂行機能障害 計画性の困難 手順が明確な作業はできるが、段取りや手順を自分で考えることができない。 はい ときどき いいえ 自分で1日の生活や作業などを計画して、過ごすことができない。 はい ときどき いいえ 「行き当たりばったり」な行動をする。 はい ときどき いいえ 行動の開始困難 周囲からの声掛けがないと、自分から物事を始めることができない。 はい ときどき いいえ 優柔不断で物事をなかなか決められない。 はい ときどき いいえ 時間の見積もりの困難 時間を見積ることができず期限に間に合わない、約束の時間に遅れる、または、早く着き過ぎる。 はい ときどき いいえ モニタリングの困難 計画変更の困難 行動修正の困難 1つの作業にこだわり、時間内にやるべき仕事が終わらない。 はい ときどき いいえ 目の前の出来事に気を取られて、やるべき事がおろそかになる。 はい ときどき いいえ 作業の進捗管理ができない。 はい ときどき いいえ 新しい規則やルールに柔軟に切り替えられない。(例:一度失敗したやり方でまたやろうとする) はい ときどき いいえ 普段と違うことが起きたり、急な予定変更があったときに、どう対処してよいかが わからず、必要以上に慌てたり混乱する。 はい ときどき いいえ 段取り・要領が悪い 効率的・効果的な問題解決の困難 家事や作業を行うとき、段取りや効率が悪い。 はい ときどき いいえ 新しい仕事の習得に時間がかかる。 はい ときどき いいえ スピードや正確さを向上させるための工夫を自分で考えることが難しい。 はい ときどき いいえ 複数の担当作業があると、優先順位の判断が難しい。 はい ときどき いいえ 先を見越した行動がとれない。 はい ときどき いいえ 試行錯誤をするが、結果として同じことを繰り返してしまう。 はい ときどき いいえ 困った時に、誰かに相談することができない。 はい ときどき いいえ 整理整頓の困難 持ち物や道具の整理整頓ができない。 はい ときどき いいえ 高次脳機能障害 特性チェックシート 下記の障害特性について自分に当てはまるかどうか、次の三択で回答してください。 主な症状 事物や空間の左右どちらかに注意が向きにくくなる(多くの場合は左側)。 半側空間無視 左側にある人や物を無視する。(例:ドアの左側にぶつかったり、左側にある食べ物に気づかないなど) はい ときどき いいえ 自分の左側に置いた持ち物を置き忘れる。 はい ときどき いいえ 作業上の見落としが特に左側に多い。(例:清掃作業で左側のゴミの取り残しがある) はい ときどき いいえ 左から話しかけられても気がつかない。 はい ときどき いいえ 横書きの数字を1桁読みまちがえる。(例:12,800円→■2,800円、14時→■4時) はい ときどき いいえ 左の道を見落として道にまよう。 はい ときどき いいえ 横書き文章の文頭の文字や単語を見落とす。 はい ときどき いいえ 読書のときに、改行して読めず、意味がわからない。 はい ときどき いいえ 8と3(6と5)を見まちがえる。 はい ときどき いいえ パソコン画面の左側にある文字を見落とす。 はい ときどき いいえ 文字を書くときに、文字が紙の右側による。 はい ときどき いいえ 高次脳機能障害 特性チェックシート 下記の障害特性について自分に当てはまるかどうか、次の三択で回答してください。 主な症状 感覚には問題がないが、ある特定の感覚(視覚、聴覚など)を通した時だけ、それが何なのかわからなくなること。 失認 視空間失認 地誌的障害(道順障害) 地誌的障害(街並失認) 見えているはずなのに手探りで探すことがある。 はい ときどき いいえ 鍵を鍵穴に差し込むのに手間取る。 はい ときどき いいえ アナログ時計が読めない。読みまちがえる。 はい ときどき いいえ 方向・方角をよくまちがえる。よく知っているはずの場所で道にまよう。 はい ときどき いいえ よく知っているはずの風景や建物を見てもわからない。 はい ときどき いいえ 地図や、展開図、見取り図が理解できない。 はい ときどき いいえ 物品を目視で数えられない。 はい ときどき いいえ 目分量で半分や3等分に分けることができない。 はい ときどき いいえ 清掃作業において、「どこまで済ませたか」がわからなくなる。 はい ときどき いいえ 表計算などの作業において、行と列の関係が理解しにくい。 はい ときどき いいえ 形の似た部品、左右対称形の部品をまちがえる。 はい ときどき いいえ 「右」「左」「手前」「奥」など空間関係を表す言葉を含む指示に対応できない。 はい ときどき いいえ 高次脳機能障害 特性チェックシート 下記の障害特性について自分に当てはまるかどうか、次の三択で回答してください。 主な症状 慣れているはずの動作や行為が、麻痺などの運動障害や感覚障害がないのにスムーズにできなくなる。 失行 構成障害 着衣障害 失行 歯ブラシやハサミ、爪切りなど、使い慣れた道具の持ち方や使い方にまよう。 はい ときどき いいえ 手を振るなどのちょっとした動作やジェスチャーがうまくできない。 はい ときどき いいえ 構成障害 文字の形が崩れる。仮名よりも画数の多い漢字を書くことが難しい。 はい ときどき いいえ 絵がうまく描けなくなった。簡単なパズルができなくなった。 はい ときどき いいえ 図表の作成や文章のレイアウトが難しい。 はい ときどき いいえ 組立作業に時間がかかる。誤って組み立てても気づかない。 はい ときどき いいえ 着衣障害 身支度を整えるのに時間がかかる。 はい ときどき いいえ 服の前後や裏表をまちがえたり、袖にうまく腕が通せない。 はい ときどき いいえ 主な症状 通常より疲れやすい。あまり活動をしていないのに心身に疲労を感じる。 易疲労 一定時間作業を継続すると、ミスが増えたり、話を理解しにくくなる。 はい ときどき いいえ 一定時間作業を継続すると、集中力、注意力が低下する。 はい ときどき いいえ 長時間座っていることができない。 はい ときどき いいえ 反応したり、対応する余裕がなくなりやすい。 はい ときどき いいえ 疲れていることに自分で気づかない。 はい ときどき いいえ 日中の眠気が強い。 はい ときどき いいえ 主な症状 自分の病気や障害を理解している。 気づき 自分の障害の内容、状態を理解できている。 はい ときどき いいえ 以前と同じように作業も生活もできると思う。 はい ときどき いいえ 高次脳機能障害 特性チェックシート 下記の障害特性について自分に当てはまるかどうか、次の三択で回答してください。 主な症状 会話や読み書き、計算など、言語を使う行為に困難が生じる。 失語 聴く 口頭のみの説明では、作業手順を十分に理解できない。 はい ときどき いいえ 会議などの複数の相手のいる場面では、話についていけない。 はい ときどき いいえ 相手の話がよくわからなくても「うん、うん」と言ってしまうことがある。 はい ときどき いいえ 複雑な話や抽象的な話題は、理解が追いつかない。 はい ときどき いいえ 耳で言葉を聞いてわからなくても、文字を見ればわかることがある。 はい ときどき いいえ 電話などの言葉以外の手がかりがない状況での会話が難しい。 はい ときどき いいえ 話す 言葉が出づらかったり、言いまちがえをする。 はい ときどき いいえ 「えーっと」と言いよどんだり、「あれ」、「それ」や回りくどい表現になる。 はい ときどき いいえ 同じ言葉でも、その時々で言えたり言えなかったりする。 はい ときどき いいえ 錯語がある。(例:机を見て、椅子と言うなど) はい ときどき いいえ 読む 文字・文章を読むことが難しい。 はい ときどき いいえ 文字のみの手順書では、十分に理解できない。 はい ときどき いいえ 新聞記事や小説など、長い文章の理解が難しい。 はい ときどき いいえ 平仮名やカタカナよりも、漢字の方がわかりやすいことがある。 はい ときどき いいえ 文字や文章を見てわからなくても、耳で聞いたり、指で文字をなぞるとわかる。 はい ときどき いいえ 自分で書いた文字が読めないことがある。 はい ときどき いいえ 書く 書いて表現することが難しい。 はい ときどき いいえ まとまった文章を書くことが難しい。 はい ときどき いいえ 文章を書くときに、助詞(てにをは)など、文法的なあやまりが生じる。 はい ときどき いいえ 漢字が思い出しにくい。 はい ときどき いいえ 話しながらメモを取ることが難しい。 はい ときどき いいえ コンピューターのキーボードを使った文字入力が難しい。 はい ときどき いいえ 計算 以前にできた簡単な計算ができない。 はい ときどき いいえ 九九が思い出せない。 はい ときどき いいえ 計算式を立てることが難しい。 はい ときどき いいえ 数字そのものの概念が理解できない。 はい ときどき いいえ 高次脳機能障害 特性チェックシート 下記の障害特性について自分に当てはまるかどうか、次の三択で回答してください。 主な症状 行動や言動、感情をその場の状況にあわせてコントロールすることが難しい。 はい ときどき いいえ 社会的行動障害 意欲・発動性 自発的に行動できない。何事にもやる気がないように見える。 はい ときどき いいえ 頭が働かず、考えや言葉が思い浮かばない。 はい ときどき いいえ 欲求コントロール 待つことができない。落ち着きがなく、じっとしていられない。 はい ときどき いいえ 欲しいものが我慢できずに、無計画にお金を使う。 はい ときどき いいえ 間食や嗜好品(タバコ・アルコール)を過剰に摂取する。 はい ときどき いいえ 日常生活に支障が出るほど、パチンコなどのギャンブルがやめられない。 はい ときどき いいえ セクハラ的な言動をする。 はい ときどき いいえ 感情コントロール 少しの刺激でイライラして、すぐに機嫌が悪くなる。 はい ときどき いいえ 攻撃的な言動をしたり暴力をふるう。 はい ときどき いいえ 腹が立ったことをなかなか忘れられない。 はい ときどき いいえ 急に泣く、笑う、怒るなど感情の起伏が激しくなる。 はい ときどき いいえ 対人技能 他者に過度なおせっかいをする。嫌がられてもやめない。 はい ときどき いいえ 他者の気持ちを傷つけたり、場の雰囲気をこわすような発言や行動をする。 はい ときどき いいえ 誰にでもなれなれしい態度をとる。 はい ときどき いいえ 依存性退行 自分でできるようなことでも、すぐ他人に頼ろうとする。 はい ときどき いいえ 年齢や立場に合わない子供っぽい行動をする。 はい ときどき いいえ 固執性 ひとつの物事にこだわる。作業の手順やルールの変更に対応できない。 はい ときどき いいえ 何か気になることがあると、そのことばかり言う。 はい ときどき いいえ 「社会は、~であるべき」というような自分の価値観を他者に押しつける。 はい ときどき いいえ 周囲からの助言を聞かない。 はい ときどき いいえ 気分の落ち込み 気分が落ち込んでいる。気持ちが沈んで暗い。 はい ときどき いいえ 自分は価値のない人間だと考える。 はい ときどき いいえ 高次脳機能障害 特性チェックシート 簡易版 それぞれの項目を見て、普段の職業生活のなかで受障によって生じたと思われることについて、「はい」、「ときどき」、「いいえ」の3つから1つを選び回答してください。 (留意事項)この項目がすべてを網羅している訳ではありません。ご自身と家族など周りの方との障害認識の違いを確認するための補助的手段としてご活用ください。 注意障害 ひとつのことから他のことへ切り替えることができない。 はい ときどき いいえ 周りの音や声に注意が散って作業ができない。 はい ときどき いいえ 家事や趣味を始めても、すぐに疲れたり、あきたりしてやめてしまう。 はい ときどき いいえ 2つ以上の指示をまとめて伝えると、いくつか抜ける。 はい ときどき いいえ 記憶障害 自分が話したこと、言われたことを忘れる。 はい ときどき いいえ 受障後に経験したことが思い出せない。(例:受障後に知り合った人の名前や顔がなかなか覚えられない) はい ときどき いいえ 受障前に経験したことが思い出せない。(例:家族や上司の名前を思い出せない) はい ときどき いいえ 頼まれたことや予定・約束・日課を忘れる。(例:薬の飲み忘れ、相談日時を忘れる) はい ときどき いいえ 話しているうちに、何を話しているかわからなくなる。 はい ときどき いいえ 今いる場所が分からなくなる。道順がわからなくなる。 はい ときどき いいえ 遂行機能障害 手順が明確に示された作業はできるが、段取りや手順を自分で考えることができない。 はい ときどき いいえ 時間を見積ることができず期限に間に合わない、約束の時間に遅れる、または、早く着き過ぎる。 はい ときどき いいえ 1つの作業にこだわり、時間内にやるべき仕事が終わらない。 はい ときどき いいえ 新しい規則やルールに柔軟に切り替えられない。(例:一度失敗したやり方でまたやろうとする) はい ときどき いいえ スピードや正確さを向上させるための工夫を自分で考えることが難しい。 はい ときどき いいえ 困った時に、誰かに相談することができない。 はい ときどき いいえ 半側空間無視 左側にある人や物を無視する。(例:ドアの左側にぶつかったり、左側にある食べ物に気づかないなど) はい ときどき いいえ 作業上の見落としが特に左側に多い。(例:清掃作業で左側のゴミの取り残しがある) はい ときどき いいえ 失認 鍵を鍵穴に差し込むのに手間取る。 はい ときどき いいえ よく知っているはずの風景や建物を見てもわからない。 はい ときどき いいえ 失行 歯ブラシやハサミ、爪切りなど、使い慣れている道具の持ち方や使い方にまよう。 はい ときどき いいえ 図表の作成や文章のレイアウトが難しい。 はい ときどき いいえ 服の前後や裏表をまちがえたり、袖にうまく腕が通せない。 はい ときどき いいえ 易疲労 日中の眠気が強い。 はい ときどき いいえ 一定時間作業を継続すると、集中力、注意力が低下する。 はい ときどき いいえ 気づき 自分の障害の内容、状態を理解できている。 はい ときどき いいえ 以前と同じように作業も生活もできると思う。 はい ときどき いいえ 失語 口頭のみの説明では、作業手順を十分に理解できない。 はい ときどき いいえ 言葉が出づらかったり、言いまちがえをする。 はい ときどき いいえ 文字・文章を読むことが難しい。 はい ときどき いいえ 書いて表現することが難しい。 はい ときどき いいえ 以前にできた簡単な計算ができない。 はい ときどき いいえ 社会行動障害 自発的に行動できない。何事にもやる気がないように見える。 はい ときどき いいえ 欲しいものが我慢できずに、無計画にお金を使う。 はい ときどき いいえ 他者の気持ちを傷つけたり、場の雰囲気をこわすような発言や行動をする。 はい ときどき いいえ 自分でできるようなことでも、すぐ他人に頼ろうとする。 はい ときどき いいえ 「社会は、~であるべき」というような自分の価値観を他者に押しつける。 はい ときどき いいえ 気分が落ち込んでいる。気持ちが沈んで暗い。 はい ときどき いいえ NIVR 障害者職業総合センター職業センター 高次脳機能障害者の職場復帰支援アセスメントシート 職業センターカスタマイズ版 幕張ストレス・疲労アセスメントシート(MSFAS) このアセスメントシートは、高次脳機能障害者の職場復帰支援をはじめるにあたって把握しておくとよいさまざまな情報を、まとめて確認、整理することを目的に作成したものです。 <対象者の方へ> このシートには多くの質問項目がありますが、そのすべてに回答する必要はありません。答えにくい質問、わからない質問については、空欄のままでかまいません。 <支援者の方へ> このシートは、A~Eの5つのシートから構成されています。回答するシートの順番に決まりはありません。また、必要なシートをピックアップしてご活用ください。 対象者に記入していただいてもかまいませんし、支援者が聞き取りながら記入してもかまいません。 (氏 名) < 目 次 > フェイスシート シートA 生活習慣・健康状態をチェックするシートB ストレス・疲労が生じる状況や対処する方法を整理するシートC サポート体制を整理する シートD 障害(病気)に関する情報を整理するシート E 事業所情報を整理する フェイスシート (1)基本属性 作成日: 年 月 日 ふりがな 氏 名 生年月日 年 月 日 住 所 TEL 最寄駅 駅名・バス停名 自宅から、最寄駅までの距離 ( )で( )分 来所経路(紹介者) ( ) 家族構成 名前 年齢 続柄 備考 免許資格の有・無 免許、資格の名称 取得年月 備考 年 月 年 月 年 月 年 月 (2)学歴 名称 卒業等 在籍期間 備考 中学 •卒業 •在籍 •中退 •その他 年 月 年 月 高校 •卒業 •在籍 •中退 •その他 年 月 年 月 専門学校 •卒業 •在籍 •中退 •その他 年 月 年 月 大学 •卒業 •在籍 •中退 •その他 年 月 年 月 その他 •卒業 •在籍 •中退 •その他 年 月 年 月 シートA 生活習慣・健康状態をチェックする 日常の生活習慣や健康状態とストレス・疲労は密接に関係しています。 生活習慣の崩れがストレスや疲労の原因になることもあれば、生活習慣の崩れにより、ストレスや疲労がたまっていることに気づく場合もあります。 安定した職業生活に向けて、自分の生活習慣や健康状態を把握し、ストレスや疲労との関係を考えてみましょう。 氏名 記入日 年 月 日 自分の生活習慣を整理しましょう。 次の(1)~(10)の質問について、あてはまるところに一つ○をつけてください。 (1)1日の生活リズムを教えてください 起床   時   分 頃 就寝   時   分 頃 平均睡眠時間   時間位 (2)生活リズムが変化することがありますか イ 大体一定している ロ 時々崩れる ハ ほとんど一定していない (特記事項   ) (3)眠れないこと、目が覚めることがありますか イ よくある ロ 時々ある ハ ほとんどない (特記事項   ) (4)食欲はありますか イ いつも食欲がある ロ 時々、食欲がなくなる ハ いつも、あまり食欲がない (特記事項   ) (5)食生活は規則的ですか イ 毎日、ほぼ同じ時間帯に、バランスのよい食事をとっている ロ 時間は不規則だが、ほぼバランスのよい食事をとっている ハ 食事を抜いたり、偏食が多い (特記事項   ) (6)運動をしていますか (散歩やストレッチも含む) イ 定期的にしている(内容:   頻度:   ) ロ 気がむいたらする(内容:   頻度:   ) ハ ほとんどしない (特記事項:   ) (7)タバコを吸いますか イ 吸う (1日   本位) ロ 吸わない ハ 止めた (特記事項   ) (8)お酒を飲みますか イ 飲む(週に   日位。量は   位) ロ 飲まない ハ 止めた (特記事項   ) (9)腰痛、肩こり、鼻炎、アレルギーなどはありますか イ ある (症状:   ) ロ ない (特記事項   ) (10)その他、健康上の留意事項はありますか イ ある (内容:   ) ロ ない シートB ストレス・疲労が生じる状況や対処する方法を整理する 安定した職業生活に向けて、ストレスや疲労と上手につき合うことは大切です。 また、ストレスや疲労と上手につきあうためには、自分がどのような場面でストレスを感じたり、疲れやすいのかを知り、そのときの心や身体のサインに気づくことが大切です。 ストレスや疲労を感じる状況を整理し、自分のストレスや疲労のサインを探してみましょう。 また、対処法を考えるために、自分が興味を持っていること、好きなことを整理しながら、どのようなときに心や身体がリラックスしているかを考えましょう。 氏名 記入日 年 月 日 1 ストレスや疲労を解消する方法を考えましょう。 (1)あなたがリラックスしているとき、幸せを感じるときは、どんなときですか?(あてはまるものに、いくつでも○をつけて下さい) •お風呂に入っているとき •コーヒー、お茶を飲んでいるとき •タバコを吸っているとき •食事をしているとき •子どもと遊んでいるとき •おしゃべりしているとき •マッサージ等をうけているとき •趣味の活動(   )をしているとき •その他(   ) •特にない •わからない (2)あなたの趣味、得意なことは何ですか?(あてはまるものに、いくつでも○をつけて下さい) •スポーツ観戦(   ) •スポーツ(   ) •散歩(ウォーキング) •車、オートバイ、自転車 •ドライブ •電車 •旅行 •キャンプ •温泉、サウナ •野鳥観察 •星を見る、天文観測 •歌を唄う •カラオケ •楽器を弾く(   ) •音楽を聴く •ダンス、踊り •芝居等 •手品 •映画 •ファッション •美術館巡り •絵、イラストを描く •写真 •陶芸 •書道 •文章を書く •茶道 •華道 •フラワーアレンジメント •料理、お菓子作り •手芸、編み物等 •ガーデニング(庭いじり、家庭菜園、畑仕事) •動物の世話 •収集 •模型、プラモデル •外国語(英会話など) •ゲーム •コスプレ •競馬、競輪など •マージャン •パチンコ •手話 •ボランティア(   ) •パソコン •読書 •マンガ、アニメ •テレビ •マッサージ、指圧 •アロマテラピー •買い物 •友人との雑談 •SNS •動画を見る •カフェ •アマチュア無線 •山登り •占い •特になし •その他(   ) (3)好きなもの、興味があることは何ですか?(食べ物、色、場所、活動など、何についてでもかまいません。) (4)余暇について ①余暇の過ごし方やリラックス法について、以前(受障前)と変化していることはありますか? ②余暇の過ごし方やリラックス法について、困っていることや課題に感じることはありますか? 2 ストレスや疲労に関する周辺情報を整理しましょう。 (1)自分がストレスや疲れを感じていることに気づくサインがありますか?(次の中から、あなたに当てはまるサインに、いくつでも○をつけてください。) •眠くなる •あくびが出る •頭が痛くなる •頭が重くなる •頭がボーっとする •目が充血する •目が疲れる •目が痛くなる •ものがぼやける •手足が震える •手や腕がだるい •足腰がだるい •全身がだるい •肩がこる •周囲が気になる •よそみが増える •ため息が出る •姿勢が崩れる •汗が出る •背伸びをする •ミスが増える •能率が下がる •イライラする •独り言が増える •表情が硬くなる •口調や話し方が変わる •貧乏ゆすりをする •その他(   ) •ない •わからない (2)どんな作業や活動をしている時に、ストレスや疲れを感じやすいですか?(作業環境、仕事の内容、作業時間など具体的に記入してください) • • • (3)意欲的に(または、あまり疲れを感じずに)作業ができるのは、どんな場面ですか? • • • (4)ストレスを感じる状況について、整理してみましょう。 ①不安になったり、緊張したり、イライラするのは、どんな状況ですか? 例)上司や同僚から、高圧的な口調で指示をされるとき。 ②その時に、どんな行動を取りますか? 我慢する。 ③行動の結果は、どうなりますか? 上司や同僚は、自分の気持ちに気づいてくれないので、ストレスがたまる。 (1) (2) (3) (4) (5) (5)ストレスや疲れを感じた時に、あなたが最もよくとる行動を、次の中から一つ選んで○をつけてください。 •自分で判断し、休憩をとる(必要に応じ、上司に相談する) •休憩を取ってよいか、上司に聞く •上司から休憩を取るよう声をかけられたら、休憩する •休憩を取るように言われても、休憩を取らない(休憩をとりたくない) •できる限り我慢する •その他(   ) シートC サポート体制を整理する 安定した職業生活に向けて、サポート体制を活用することは大切です。 ストレスで悩んだときに、家族や友人など、周りの人に話をすることで気持ちが楽になったり、よいアドバイスをもらえる場合があります。 また、支援機関や制度を活用することによって安心したり、楽になる場合もあります。 現在、あなたがどのようなサポートを活用しているか、整理してみましょう。 氏名 記入日 年 月 日 ソーシャルサポートについて考えましょう。 (1)あなたが、日ごろ、相談をする人について記入して下さい。最もよく相談する人から、順番に記入してください。 № 自分との関係(親、友人、主治医、上司、同僚など) 相談の頻度(あてはまるものに○をつけ、回数を記入) 相談内容(あてはまるものに、いくつでも○をつけて下さい) 1 •ほぼ毎日 •1週間に   回位 •月に   回位 •年に   回位 •仕事関係 •金銭関係 •体調や健康 •人間関係 •日常のこと、過ごし方など •その他(   ) 2 •ほぼ毎日 •1週間に   回位 •月に   回位 •年に   回位 •仕事関係 •金銭関係 •体調や健康 •人間関係 •日常のこと、過ごし方など •その他(   ) 3 •ほぼ毎日 •1週間に   回位 •月に   回位 •年に   回位 •仕事関係 •金銭関係 •体調や健康 •人間関係 •日常のこと、過ごし方など •その他(   ) (2)現在利用している支援•相談機関について記入してください。 № 支援•相談機関の名称 (例、○○病院、福祉機関、友の会など) 利用の目的 利用頻度 備考 1 2 3 4 (3)家族は、障害(病気)のことをどの程度理解してくれていますか? № 属性(父、母など) 障害(病気)に関する理解の程度 サポートの内容 1 •理解がある •あまり理解していない •どちらともいえない 2 •理解がある •あまり理解していない •どちらともいえない 3 •理解がある •あまり理解していない •どちらともいえない 4 •理解がある •あまり理解していない •どちらともいえない (4)あなたが活用している制度について整理しましょう。 制度 利用状況 備考(更新日•申請中など) 障害者手帳 身体障害者手帳 •あり •なし 種   級 交付年月日 年 月 日 精神障害者保健福祉手帳 •あり •なし 級 交付年月日 年 月 日 療育手帳 •あり •なし 級 交付年月日 年 月 日 障害者総合支援法 介護給付 •あり •なし 利用サービス内容 訓練等給付 •あり •なし 利用サービス内容 自立支援医療 •あり •なし 介護保険 •あり •なし •要支援 •要介護(   ) 利用サービス内容 障害年金 •あり •なし •障害基礎年金 •障害厚生年金 •障害共済年金 級 労災保険 障害補償給付 •あり •なし •障害補償年金 •障害補償一時金 級 休業補償給付 •あり •なし •休業補償給付 •休業特別支給金 受給期間 年 月まで その他 •あり •なし 勤務先の休業補償制度 •あり •なし 受給期間 年 月まで 傷病手当金 •あり •なし 受給期間 年 月まで その他 (5)現在の経済状況について整理しましょう。 ①主な収入について整理しましょう。 •障害年金 •労災 •傷病手当金 •雇用保険 •休業補償制度 •組合等からの援助 •親族からの援助 •その他(   ) 月額 約   万円 ②主な支出について整理しましょう。 •生活費 •家賃 •光熱費 •子どもの教育費 •親族の介護等 •住宅ローン •その他(   ) 月額 約   万円 ③経済面について、特に心配していることはありますか? シートD 障害(病気)に関する情報を整理する 自分の症状の現れ方や障害の状況を知っておくことで、早めの治療や相談につなげることができます。 また、症状や障害に関する適切な知識をもつことで、ストレスや疲労を軽減する手がかりを探すことが容易になります。 安定した職業生活に向けて、症状や障害について自分がどの程度、どのように理解しているか、整理してみましょう。 氏名 記入日 年 月 日 1 治療•リハビリの経過を整理しましょう。 (1)高次脳機能障害が発症した時の状況、受障した時の状況を整理しましょう 高次脳機能障害の発症原因 •脳卒中(脳出血、脳梗塞など) •頭部外傷 •脳腫瘍 •脳炎 •低酸素脳症 •その他(   ) 発症日•発症年齢 年 月 日(  歳) 発症時の状況 高次脳機能障害診断 •あり(診断日:   年 月 日) •なし 神経心理学的検査(知能検査、記憶検査など)の結果 •あり(   ) •なし 高次脳機能障害の症状 •記憶障害 •注意障害 •遂行機能障害 •社会的行動障害 •失語 •失行 •失認 •半側空間無視( 左 • 右 ) •易疲労 •その他(   ) (2)身体面の症状について整理しましょう。 身体症状について 麻痺 •あり •右腕 •右手指 •右下肢 •左腕 •左手指 •左下肢 •なし •その他(   ) 疼痛 •あり •右腕 •右手指 •右下肢 •左腕 •左手指 •左下肢 •なし •その他(   ) 感覚障害(しびれなど) •あり •右腕 •右手指 •右下肢 •左腕 •左手指 •左下肢 •なし •その他(   ) 使用している補装具について •あり •右上肢 •右下肢 •左上肢 •左下肢 •なし •その他(   ) 制限のある動作について •歩く(平地) •歩く(足場の悪い所) •飛び跳ねる •階段の昇降 •ハシゴの昇降 •立位作業 •座位作業 •中腰での作業 •しゃがんでの作業 •重い物を押す •重い物を持ち運ぶ(約 kg) •細かい手作業 •字を書く •字を読む •PC作業(文字•文書入力) •PC作業(数値入力) •PC作業(表•グラフ作成) •電話応対 •電卓計算 •その他(   ) その他、職場復帰にあたって留意すべき身体面の症状など (3)その他の症状について整理しましょう。 てんかん等のけいれん発作について •あり •なし (頻度) •ほぼ毎日 •週1回程度 •月1回程度 •半年に1回程度 •年1回程度以上 •1回のみ (服薬) •あり(予防的な服薬も含む) •なし 発作時の状態 発作の前兆• 起きやすい環境 発作時の対応 生活習慣病(高血圧•糖尿病など)の既往歴について •あり •なし (診断名) 精神疾患(うつ病•適応障害など)の既往歴について •あり •なし (診断名) (4)移動手段について整理しましょう。 利用可能な移動手段について •電車 •バス •自動車 •バイク •自転車 •その他 自動車運転免許について •持っており、運転もできる。 •持っているが、今は運転は主治医から禁止されている。 •持っていたが、現在は返納した。 •もともと持っていない。 •その他(   ) 運転再開支援について •現在、運転再開支援を受けている。 •これから運転再開支援を受けることを予定している。 •運転再開支援を受ける予定はない。 •その他(   ) 移動の支援について •常に家族から送迎してもらうことができる。 •家族の都合の良い日であれば、送迎してもらうことができる。 •移動の支援はあまり期待できない。 •移動の支援を受ける必要はない。 •その他(   ) (5)治療・リハビリの経過について整理しましょう ①入院歴 医療機関名 入院期間 主な治療・リハビリ 年 月~ 年 月 (在院期間 約   か月) 年 月~ 年 月 (在院期間 約   か月) 年 月~ 年 月 (在院期間 約   か月) ②通院歴 医療機関名 通院期間 利用目的 主な治療・リハビリ 年 月~ 年 月 年 月~ 年 月 年 月~ 年 月 ③リハビリの経過(リハビリテーションセンター、デイケア、福祉サービス事業所など) 機関名 利用期間 リハビリの内容と経過 年 月~ 年 月 年 月~ 年 月 年 月~ 年 月 ④現在かかっている医療機関 医療機関名 診察等を受けている病名 診療科目・主治医 通院頻度 2 服薬状況を整理しましょう。 (1)現在服薬中の薬について、どの程度知っていますか(※お薬手帳のコピーを提出していただいても構いません) 薬の名称 量/1回 服薬時間/タイミング 効能 副作用 mg •朝 •昼 •夕 •就寝前 錠 •食前 •食後 •食間 •その他(   ) mg •朝 •昼 •夕 •就寝前 錠 •食前 •食後 •食間 •その他(   ) mg •朝 •昼 •夕 •就寝前 錠 •食前 •食後 •食間 •その他(   ) mg •朝 •昼 •夕 •就寝前 錠 •食前 •食後 •食間 •その他(   ) mg •朝 •昼 •夕 •就寝前 錠 •食前 •食後 •食間 •その他(   ) mg •朝 •昼 •夕 •就寝前 錠 •食前 •食後 •食間 •その他(   ) mg •朝 •昼 •夕 •就寝前 錠 •食前 •食後 •食間 •その他(   ) (2)薬の管理について、あてはまるものに一つ○をつけてください イ 自分で管理をし、薬を飲み忘れることはない ロ 自分で管理をしているが、たまに飲み忘れる ハ 自分で管理をしているが、時々、飲み忘れる ニ 薬を飲み忘れるため、家族が、薬を管理している ホ その他(   ) (3)薬の副作用を感じますか? イ 感じる(症状:   ) ロ 感じない ハ わからない 3 障害(病気)に対する自分の考えを整理しましょう。 (1)日常生活で、障害を感じる点があれば教えてください。また、対処している方法があれば教えてください。 日常生活での障害の現れ方 対処方法 例)言いたいことがあってもうまく言葉に出せない なし (2)受障する前/発病する前と比べて、自分自身について変化したと感じることがありますか?変化した点について対処している方法があれば、教えてください 変化した点 対処方法 例)もの忘れが多くなった メモを取る シートE 事業所情報を整理する 職場復帰にあたって必要な事業所情報を整理してみましょう。 氏名 記入日 年 月 日 1 事業所情報について整理しましょう。 (1)現在在職中の事業所情報を記入してください。 事業所名 事業内容 所属部署•役職 勤務地 (最寄り駅:   線   駅) 通勤経路 (通勤時間:約   時間   分) 勤務時間  : ~ :  勤務日数 週   日 (2)これまで従事した職業•職務について、新しいものから記入してください。 事業所名• 部署名 職務内容 雇用形態 勤務時間 休日(曜日) 仕事の難易度 忙しさ 健康状態 1 •正社員 •パート •派遣 •臨時 •その他(   ) 時 分 から 時 分 まで 在籍期間 年 月~ 年 月 (期間   年   ヶ月) •難しかった •簡単だった •どちらでもない •忙しかった •余裕があった •どちらでもない •好調だった •不調だった ※不調の状況(   ) 2 •正社員 •パート •派遣 •臨時 •その他(   ) 時 分 から 時 分 まで 在籍期間 年 月~ 年 月 (期間   年   ヶ月) •難しかった •簡単だった •どちらでもない •忙しかった •余裕があった •どちらでもない •好調だった •不調だった ※不調の状況(   ) 3 •正社員 •パート •派遣 •臨時 •その他(   ) 時 分 から 時 分 まで 在籍期間 年 月~ 年 月 (期間   年   ヶ月) •難しかった •簡単だった •どちらでもない •忙しかった •余裕があった •どちらでもない •好調だった •不調だった ※不調の状況(   ) 4 •正社員 •パート •派遣 •臨時 •その他(   ) 時 分 から 時 分 まで 在籍期間 年 月~ 年 月 (期間   年   ヶ月) •難しかった •簡単だった •どちらでもない •忙しかった •余裕があった •どちらでもない •好調だった •不調だった ※不調の状況(   ) 5 •正社員 •パート •派遣 •臨時 •その他(   ) 時 分 から 時 分 まで 在籍期間 年 月~ 年 月 (期間   年   ヶ月) •難しかった •簡単だった •どちらでもない •忙しかった •余裕があった •どちらでもない •好調だった •不調だった ※不調の状況(   ) 2 職場復帰に向けた情報を整理しましょう。 (1)職場復帰の手続きについて記入してください。(わかっている範囲で構いません) 休職開始日 年   月   日 休職期限 年   月   日まで 休職期間 年   月   日 ~   年   月   日(   年   ヵ月間) 現在の状況 •有給休暇 •病気欠勤 •休職 •その他(   ) 職場復帰にあたっての事業所担当者 窓口の優先順位 氏名•役職 連絡先 健康情報開示 備考 人事担当 可 • 否 健康管理室 可 • 否 上司 可 • 否 産業医 可 • 否 その他 可 • 否 主治医診断書 要 • 不要 【職場復帰手続き•スケジュールの詳細】 産業医面談 要 • 不要 人事面談 要 • 不要 試し出勤 要 • 不要 時期 休職扱い•職場復帰後 賃金 有 • 無 (2)職場復帰に対する希望を記入してください。 希望する職場復帰時期 年   月ごろ 希望する職場復帰部署 元の部署 • 配置転換(   ) • 会社に一任 • その他(   ) 希望する仕事の内容、職種 出勤の調整希望 出勤日数 週   日から 就業時間 1日   時間くらいから 就業上の配慮について、そのほかに希望があれば記入してください。 (例) ・残業・深夜業務について ・交替勤務について ・出張について ・転勤について ・危険作業、運転業務、高所作業、窓口業務、苦情処理業務について など その他に希望があれば記入してください。 (3)職場復帰に対する事業所の考えを記入してください。(わかっている範囲で構いません) 職場復帰時期 年   月ごろ 職場復帰可否の判断基準 職場復帰部署 元の部署 • 配置転換(   ) 仕事の内容、職種 出勤の調整 出勤日数 週   日から 就業時間 1日   時間くらいから その他の就業上の配慮 (例) ・残業・深夜業務について ・交替勤務について ・出張について ・転勤について ・危険作業、運転業務、高所作業、窓口業務、苦情処理業務について など ケースフォーミュレーションのための情報整理シート 属性情報 氏名・年齢 事業所名 住所 家族状況 移動手段 支援制度 収入状況 その他 支援課題 高次脳機能障害 (手帳   級) 原因疾患等 受傷年月日 受傷時年齢 検査結果 症状等 障害特性 支援課題 生活習慣・健康状態 生活リズム 食事 運動 睡眠 飲酒・タバコ その他 支援課題 ストレス・疲労 ストレス状況 ストレスサイン ストレス対処 支援課題 その他の症状 (手帳   級) 身体の状況 補装具等 生活習慣病 てんかん その他 支援課題 事業主情報 休職期限 担当者 復職までの流れ 休職前の業務 本人の希望 事業主の意向 復職時期 勤務時間/日数 復職部署 復職後の業務 その他 支援課題 医療情報 通院先(科・主治医) 通院頻度 受診内容 服薬 現在実施中のリハビリ 過去のリハビリ 支援課題 サポート体制 利用中の支援機関 支援内容 家族関係 その他相談相手等 支援課題 ケースフォーミュレーションシート 環境要因 【家族】 【地域生活】 【その他】 【職場】 【サポート機関】 【原因となる疾患・外傷など】 【支援課題】 【支援方針】 個人要因 【認知面】 【感情】 【その他】 【身体面】 【障害認識】 事業主のための職場復帰に関する参考資料集 ~休職中の高次脳機能障害者の復職に向けて~ 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター職業センター 目次 ■高次脳機能障害とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1ページ ■高次脳機能障害の職業的課題 ■職場復帰支援の意義 ■職場復帰支援のポイント ■高次脳機能障害の主な症状・・・・・・・・・・・・・・・・・・2ページ ■高次脳機能障害と合併することが多い障害・疾患・・・・・・・・3ページ ■障害者手帳について ■職場復帰までのながれ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4ページ ・職場復帰までのながれ 【1】対象者の障害特性と就労上配慮が必要なことを確認する・・・・5ページ ・職場復帰までのながれ 【2】職務や配置、労働条件を検討する・・・・・・・・・・・・・・6ページ    障害者雇用における職務再設計モデル・・・・・・・・・・・・7ページ ・職場復帰までのながれ 【3】復職部署に障害特性や必要な配慮を説明する・・・・・・・・・8ページ 【参考1】 高次脳機能障害者の業務内容例 ・・・・・・9 ページ 【参考2】 職務内容を検討するためのワークシート・・・10 ページ      「受け入れ部署整理表」「作業整理表」 ・・・・11 ページ 【参考3】 高次脳機能障害に対する職場の配慮例・・・・12 ページ 【参考4】 「自己対処の工夫」と「環境調整の工夫」の例・・14 ページ 【参考5】 事例紹介・・・・・・・・・・・・・・・・・16 ページ 【参考6】 高次脳機能障害者のリハビリテーションのながれ・19 ページ 高次脳機能障害とは 高次脳機能障害とは、脳出血や脳梗塞、交通事故などによる脳の損傷のため、記憶障害や注意障害など認 知障害が生じ、日常生活または社会生活に制約がある状態をさします。 高次脳機能障害の主な症状として、「記憶障害」、「注意障害」、「半側空間無視」、「遂行機能障害」、「社会 的行動障害」、「失語症」、「易疲労」などがあります。 脳の損傷部位や程度などのさまざまな要因によって、現れる症状の程度や組みあわせはさまざまです。 高次脳機能障害の職業的課題 障害特性が多様で複雑、見えにくい。 高次脳機能障害の障害特性は多様であり、一見してわかりにくく、複雑でつかみにくいと言えます。したがって、次のような課題があります。 周囲から理解されにくく、性格や態度の問題とされやすい。 自分でも気づきにくく、困り感がなく、支援を求めなかったり、対処策の習得の必要性の認識が進まない。 職業生活への影響が大きい。課題が多方面にわたる。 注意障害や記憶障害、易疲労といった症状は、作業遂行力をはじめとした職業生活に大きな影響を与える可能性があります。 また、課題は、健康管理や生活管理、家族関係、地域活動など生活全般にわたります。 中途障害ゆえに、障害の自己理解や自己受容がしづらい。 高次脳機能障害があると病前に当たり前にやっていたことや得意だったことができなくなります。そのような自分の状態や変化に気づき、受け入れることは、つらく困難なことです。自己受容により添うことが大切です。 職場復帰支援の意義 労働者が業務によって疾患を憎悪させることなく治療と仕事の両立を図るための事業者による取組は、労働者の健康確保という意義とともに、継続的な人材の確保、労働者の安心感やモチベーションの向上による人材の定着、生産性の向上、健康経営の実現、多様な人材の活用による組織や事業の活性化、組織としての社会的責任の実現、労働者のワーク・ライフ・バランスの実現といった意義もあると考えられます。 【出典】厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」(平成 31 年 3 月改訂版) 職場復帰支援のポイント 障害特性が多様で複雑であり、一見してわかりにくいため、障害特性を客観的に整理し、理解することが大切です。 対象者は、例えばメモやスマートフォンを記憶障害の補完手段として活用するなど、さまざまな対処策の習得について検討します。また、対象者がスムーズに能力を発揮できるよう、職場環境や職務内容をわかりやすく構造化するなどの配慮や環境調整の検討が必要です。 高次脳機能障害者の職業的課題は多方面にわたることがあるため、職場の担当者や担当部署は一人で抱えることなく、人事部門や産業保健スタッフ、医療機関、就労支援機関、家族などと連携し、サポート体制を構築することが望まれます。 高次脳機能障害の主な症状 高次脳機能障害の主な症状は以下のとおりです。ただし、症状の現れ方には個人差があります。 注 意 障 害 注意を持続する、集中する、周囲に注意をはらう、すばやく注意を切りかえるといったことが難しい。 □ケアレスミスが多い。 □周りの音や声に注意が散りやすい。 □作業している途中で話しかけられると、その内容を後で覚えていない。 □細かいところに気づくことが難しい。 □複数のことを行うと、どちらかがおろそかになる。 記 憶 障 害 昔のことが思い出せなかったり、新しいことをおぼえておくことが難しい。 □見たことや聞いたことを忘れる。 □日課や約束を忘れる。 □人の名前や顔がなかなかおぼえられない。 □同じ質問を何度もする。 □メモを書いても、書いたこと自体を忘れたり、どこに書いたかわからなくなる。 半側空間無視 事物や空間の左右どちらかに注意が向きにくくなる(多くの場合は左側)。 □左側にある人や物を無視する。 □自分の左側に置いた持ち物を置き忘れる。 □作業上の見直しが特に左側に多い。 □左の道を見落として道に迷う。 □横書き文章の文頭の文字や単語を見落とす。 □8と3を見まちがえる。 遂行機能障害 目標や予定を達成したり、計画的に段取りよく行動したり、変化にうまく対応して行動することが難しい。 □家事や作業を行うとき、段取りや効率が悪い。 □「行き当たりばったり」な行動をする。 □複数の担当作業の優先順位の判断が難しい。 □困ったときに誰かに相談することができない。 □先を見越した行動をとることが難しい。 社会的行動障害 行動や言動、感情をその場の状況に合わせてコントロールすることが難しい。 □我慢できず、無計画にお金を使う。 □イライラして、すぐに機嫌がわるくなる。 □場をわきまえず発言したり、行動する。 □気になることがあると、そのことばかり言う。 □悲観的な言動が目立つ。 失  語 会話や読み書き、計算など、言語を使う行為に困難が生じる。 □口頭説明だけでは作業手順を理解できない。 □複雑、抽象的な話は理解が追いつかない。 □文字を読みまちがえる。文章が読めない。 □漢字を思い出しにくい。 □以前にできた簡単な計算が苦手。 易疲労 い ひ ろ う 一般的に疲れやすく、特に脳が疲労しやすい。 集中力や注意力の低下、あくび、眠気などがあらわれ、作業のミスにつながりやすい。 □一定時間作業を継続すると、ミスが増えたり、話を理解しにくくなる。 □一定時間作業を継続すると、集中力や注意力が低下する。 □日中の眠気が強い。 □疲れていることに自分で気づかない。 高次脳機能障害と合併することが多い障害・疾患 □片麻痺 右または左の上下肢の筋肉を意識的に動かすことができなくなる症状をいいます。麻痺の程度はさまざまです。障害が生じた側がもともとの利き手であったかどうかという点は、もう一方での動作の器用さに影響します。 □運動失調 主に小脳の損傷によって起こります。歩行がふらついて不安定になったり、動作や発音がぎこちなくなります。 □視野障害 視野の一部が欠損する場合があります。両眼の左右どちらか同じ方の視野が欠けることを同名半盲、左右上下の視野の同じ4分の1の部分が欠けることを同名四分半盲といいます。 □構音障害 舌や唇などの発音に必要な器官に麻痺や失調が起きることによる発音の障害です。 □症候性てんかん 発作には、けいれん発作、欠神発作などさまざまな種類があります。通常は数秒~数分以内で自然に終了します。 発作の予防のためには、医師の指示にそった通院や服薬が確実に行われていることが大切です。また、一般に過労や睡眠不足は発作の引き金になりやすいとされてお り、規則正しい生活リズムや無理のない働き方を守ることが望まれます。 障害者手帳について 医療機関において高次脳機能障害があると診断された場合、精神障害者保健福祉手帳の交付対象になります。 片麻痺や失語症などがある場合、身体障害者手帳の交付対象になります。交付には、居住地のある市町村などの担当窓口で申請が必要です。 ※障害者手帳は、個人の障害の状態などで判断されるため、申請すれば必ず交付されるものではないことに留意が必要です。 【参考】一般雇用もしくは就労継続支援 A 型事業所において就労中の高次脳機能障害者 208 人の障害者手帳取得状況 【参考文献】独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター:調査研究報告書 No.121「高次脳機能障害者の働き方の現状と今後の支援のあり方に関する研究」、2014、P64 職場復帰までのながれ 治療やリハビリテーションにより自立の見通しがたってくると、復職に向けた準備を始めます。 復職の際には、職務の見直しが必要になる場合が多いため、対象者の復職に係る希望や障害特性などを確認します。その上で、対象者が力を発揮できそうな職務の検討、人的な支援体制の整備などを進めます。 対象者 ①障害特性を整理し、職業生活上の課題について理解を深める ②生活リズムを整える、健康を管理する、通勤の練習をするなど ③課題への対処策(補完手段)の習得を図る ④復職後の職務に必要な作業遂行力の向上を図る ⑤職場に依頼する配慮事項を整理する 受障 医学的リハビリテーション 在宅生活の安定 情報交換 (リハビリ出勤) 事業所にて復職可否の判断 復職 ③´復職部署に障害特性や必要な配慮を説明する 事業所 ①対象者の障害特性と就労上配慮が必要なことを確認する ②職務や配置、労働条件を検討する ③復職を想定している部署に障害特性や必要な配慮を説明する 職場復帰までのながれ 【1】対象者の障害特性と就労上配慮が必要なことを確認する 復職にあたっての職務内容や配置、労働条件などを検討するためには、個別の障害特性や必要な配慮事項を確認する作業が不可欠です。 【確認する主な内容】 ① 高次脳機能障害の症状 ・注意障害 ・記憶障害 ・半側空間無視 … など ② 障害特性(症状の現れ方、日常生活や職業生活への影響) (例:~が苦手、~ができない、~に時間を要する) ・数分前に話したことを忘れている ・作業手順の見落としや道具の置き忘れなどケアレスミスが多い ・その他、相談・訓練場面での態度、疲労、集中力 … など ③ 対象者が行えること (例:~を覚えている、~はできる) ・パソコンで文章を入力できる ・作業手順書にそって作業を進めることができる … など ④ 就労上配慮が必要なこと ・一つずつ業務指示を行う。メモの取りやすいスピードで話す ・慣れるまで短時間勤務から始める ・休憩時間以外に小休憩の時間を設ける … など 上記内容を確認するためには、次の方法があります。 対象者や家族に確認する 医療機関の担当者に確認する (通院先の主治医、リハビリを担当している作業療法士など) 就労支援機関の担当者に確認する (地域障害者職業センターや障害者就業・生活支援センターの担当者など) 対象者の会話や行動を観察する (例:質問内容を理解して返事しているか、会話の流れについてきているかなどを確認する。麻痺がある場合、歩行スピードや手指の動きなどを観察する) 高次脳機能障害に関する対象者や家族の認識は一人ひとり異なります。病識が低下している方や障害を否認したい方もいます。 そのため、できるだけ医療機関や就労支援機関からも情報収集することが望まれます。 なお、医療機関や就労支援機関からの情報収集は、対象者の同意を得たうえで実施します。 職場復帰までのながれ 【2】職務や配置、労働条件を検討する 高次脳機能障害の障害特性は、多様で一人ひとり異なるため、一概に高次脳機能障害に向いている仕事と言えるものはありません。次のポイントをふまえ、対象者の障害特性や職務経験・スキル、対象者の希望、そして事業所が提供できる職務などから総合的に判断することになります。 Point 1 注意障害や記憶障害など高次脳機能障害の主な症状を考慮すると、一般的に次の要素を含 む職務内容が検討されます。 作業方法が定型的 (例:判断基準が明確、判断を伴わない、 手順書にしやすい) 対象者をサポートできる人的体制 (例:作業方法を助言する、ダブルチェックするなど) 作業方法が覚えやすい (例:過去に経験がある、専門的な知識がなくてもできる) Point 2 これは、障害者職業総合センター職業センターが事業所に対して行った「職務再設計をする 際に事業所で重視すること」に関するアンケート調査の結果です。職務再設計にあたって、障害特性への配慮以外の着眼点がいくつか示されています。 職務再設計をする際に特に重視すること ・就労支援機関から得た情報 (例:対象者の障害特性、対象者が行えること) ・医療機関から得た情報 ・受け入れに理解を得やすい部署 ・対象者の業務をフォローできる体制 (例:対象者へマンツーマンで対応できる場所) ・負担が少ない (例:対象者のペースでできる、対象者が力を発揮しやすい) その他に重視すること ・事業所内でできる (例:出張がない) ・安全に行える (例:身体障害への配慮) ・安全で通勤可能な勤務地 ・自宅から勤務地までの通勤時間 【参考文献】独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター職業センター:実践報告書 No.32「高次脳機能障害者の復職における職務再設計のための支援」、2018、PP9-18 Point 3 障害者雇用における職務再設計モデル 復職に向けて配置の検討や職務を再設計する際には、一人ひとりの特性に合わせて、以下のようなモデルを参考に検討すると良いでしょう。 切り出し・再構成モデル ① すでにある仕事から定型反復作業などを切り分ける。 ② 切り分けた作業を組み合わせ、スケジュール化し、事業所で一人分の仕事として再構成する。 積み上げモデル ① 復職時点では、既存の職務の中から作業を切り出し、再構成された限定的な職務を担当職務とする。 ② 目標とする職務に向け、一定の時間をかけて、次第に職務の内容や責任の幅を広げる。 特化モデル ① 対象者の強みを生かす既存の職務や再構成された新たな職務を選び出す。 ② 職務の一部に不得手な作業などがあった時には、担当の見直しや支援の対象とすることで、対象者が得意とする分野に専念・特化できるようにする。 【参考文献】独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター:調査研究報告書 No.133「精神障害者及び発達障害者の雇用における職務創出支援に関する研究」、2017、P6、PP105-108 職場復帰までのながれ 【3】復職部署に障害特性や必要な配慮を説明する 復職前に、復職を想定している部署へ対象者の障害特性や配慮が必要なことを説明する必要があります。特に、対象者の上司や同僚など、職務遂行上で関わる人には、詳しく理解してもらうことが望まれます。 障害特性や配慮が必要なことを伝えるためには、次の方法があります。 ・ 対象者が復職部署の上司や同僚などへ説明する。 ・ 人事担当者が復職部署の上司や同僚などへ説明する。 ・ 対象者を支援している就労支援機関などの担当者が復職部署の上司や同僚などへ説明する。 ・ 対象者の障害特性や必要な配慮事項などを記載した資料を配付し、説明する。 ・ 就労支援機関などの職員を講師として招き、障害特性や配慮事項等の研修会を開催する。 ※ 障害特性や必要な配慮を説明する際には、共有する内容や範囲(職場全体または配属部署のみ、上司のみなど)について対象者の同意を得るなど、プライバシーへの配慮が必要です。 高次脳機能障害に対する雇用管理上の配慮事項として代表的なものを示します。 【参考3】では、具体的な配慮例を紹介しています。 【高次脳障害に対する雇用管理上の配慮事項(代表例)】 □ 職務内容への配慮 ・作業手の定型化 ・作業マニュアルの作成 ・チェック表による作業の確認 □ 指示の出し方の配慮 ・作業は一つずつ行うようにする ・口頭での指示は、一つずつ端的かつ明確にする ・指導担当者を決める(複数でも可) ・作業や仕事ぶりに対するフィードバックをきめ細かく実施する □ サポートする人的体制の配慮 ・職場の上司等による日常的な声かけ ・定期的な面談や相談の実施 ・指導担当者や相談役などの役割を分担する □ 負担への配慮 ・就業時間の設定を、対象者の様子を見ながら段階的に延長 ・こまめな休憩の確保 □ その他 ・スケジュール帳やメモリーノートの活用 【参考文献】独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構:障害者雇用マニュアルコミック版 6 高次脳機能障害者と働く~確かな理解と適切な配慮で、ともに働く職場環境づくり」、2014、PP14-15 復職に関する雇用管理についての支援のご要望がありましたら、地域障害者職業センターや障害者就業・生活支援センターなどの就労支援機関へご相談ください。 □ 対象者への指示の出し方を知りたい □ コミュニケーションで気をつけておくことを知りたい □ ジョブコーチ支援を利用したい □ 社員研修の企画・実施への協力がほしい □ 雇用事例や教材資料などの情報提供がほしい □ 同僚や指導担当者の障害理解を高めたい など 【参考1】 高次脳機能障害者の業務内容例 「高次脳機能障害者の働き方の現状と今後の支援のあり方に関する研究(2014 年 4 月)」では、高次脳機能障害のある当事者への実態調査を行い、一般雇用もしくは就労継続支援 A 型事業所において就労中の 208 人の業務内容を調査しています。 担当する業務内容としては、「デスクワーク(「PC データ入力」、「簡易事務」など)」や「清掃活動」が比較的多いとの結果ですが、障害特性の多様さを反映し、管理職業務をはじめとしたさまざまな内容が挙げられています。 参考として、調査結果の一覧を紹介します。 分類 具体的な内容 デスクワーク PC データ入力 「PC 入力」「データ入力」「パソコンによるデータ入力」 事務 「デ―タスキャン」「一般事務」「経理」「物品の購入」「弁当の注文」「週報のとりまとめ」「病棟のクラーク業務」「書類の印押し」「郵便物の発送」 書類・文書等作成 「パソコンを利用しての広報誌(月一回を作成)」「注文書の作成」 清掃活動 場所の清掃 「フロア全体の洗浄」「ゴミの片づけ」「トイレ、階段、窓、廊下の掃除」「ベッドメイキング、部屋の掃除」「会社内の清掃」「学校周りの清掃」「公園の清掃」「清掃」「内装清掃」「駐車場の清掃」「病院内の清掃」「保育園内の清掃」 ものの清掃 「リネン作業」「汚れた器具の洗浄作業」「洗濯機の出し入れ」 棚卸し・品出し・準備 「バックヤードから製品を冷ケースに補充」「自動販売機の補充の補助」「商品の品出し」「品出し」「作業前の準備」 製造関係 食品製造 「アロエの洗浄」「パンにチョコ・クリームなどを塗る、ナイロン袋に入れる。シーラーで袋を閉じる、シールを貼る、乾燥材を入れる、印字をするなど」「菓子の材料を入れる作業など」「菓子原料の投入など」「大豆を煎る」 他製造 「製品の下地処理」「繊維加工」 管理 「管理職(作業指示、段取り)」「検査業務の統括、伝票及び成績表の最終チェック」「県道の維持管理業務と積算業務」「現場管理、書類にデータ入力、作業工程管理」「工場の美化、工場の管理」 梱包・包装 「製品のラップ詰め、製品の運搬」「製品の封包」「段ボールのテーピング、ペットの箱詰め、荷積み」「品物のベースの高さ測定、洗浄、梱包」「部品梱包、部品のミス発見」 調理 「皿洗い、簡単な調理手伝い(ジャガイモの皮むきなど)」「調理、調理補助(学食)」「調理補助」「夕食の片づ け、朝食準備、館内見回り、ロビー掃除、朝食配膳など」 分別・仕分け 「荷物の仕分け、データ入力」「社内便、郵便、宅配便の仕分け(事業所内の転送書類)」「投入、仕分け」「郵便物の住所別区分け」 詰め作業 「ボトル詰め」「野菜のカット、袋詰め」「野菜の袋つめ」「野菜袋詰め、パック詰め、掃除など」 介護 「介護補助」「見守り、声かけ、介助」「障害児の見守り、援助、食器片付け、送迎補助、清掃、おむつの用意、汚物処理など」「知的障害者、生活支援員」 書類整理 「書類のコピーや整理、作業工程の一部分担」「他部署のサポート(書類のコピー)」 検品・チェック 「チーズ梱包機器のオペレータと検品」「集荷郵便物点検など」 その他 「箱作り」「弁当販売」「芝刈り」「配達」「シール貼り」「リサイクル課題の解体・分別」「衣類の折り畳み」「ピッキング」「内職」「お茶出し」「雑用」「掛け金の確認」「車の誘導」「服の値付け」「レジ担当」「CAD による設計」「壁塗り」「生命保険の営業」「システムエンジニア」「プログラム」「マッサージ師」「火葬業務」「相談支援業務」「血圧測定、採血」「中学生の授業」「入院患者のリハビリ」「作業工程の一部分」「現場確認」「施設管理」「修理品」「駐車場管理」 【参考文献】独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター:調査研究報告書 No.121「高次脳機能障害者の働き方の現状と今後の支援のあり方に関する研究」、2014、P75(一部抜粋) 【参考2】 職務内容を検討するためのワークシート 職務内容を検討する際に、部署を超えた職務や作業の洗い出しを行うためのワークシートです。 《受け入れ部署整理表》 ① 「部署名」に、復職先として想定される部署を記入します。 ② 現場の理解、対象者をサポートする人員体制等、項目に沿って〇をつけます。 ③ 現場の理解が「得やすい」、対象者をサポートする人員体制が「ある」、バリアフリー環境が「ある」、通勤ルートが「安全」に、〇が多い部署を対象者にとって適応しやすい職場の候補として検討し、最終的にはその他の要因も踏まえて総合的に判断します。 受け入れ部署整理表 № 部署名 現場の理解 対象者をサポートする人員体制 バリアフリー環境 通勤ルート 備考 1 品質管理部 得やすい ・ 得にくい ある ・ ない ある ・ ない 安全 ・ 問題あり 元の部署。電車の乗り換え、駅構内の階段昇降に不安有り。 2 総務部 得やすい ・ 得にくい ある ・ ない ある ・ ない 安全 ・ 問題あり 自宅から近い。電車の乗り換えは無い。事務所内の床の段差に注意。 《作業整理表》 ① 《受け入れ部署整理表》を作成後、復職先として想定される部署で、対象者が取り組めそうな作業を「作業名」「作業内容」に記入します。 ② 覚えやすさ、作業方法など、項目にそって○をつけます。 ③ ○の該当箇所や頻度・時間を勘案して、候補の作業を選択します。 ※ このツールでは、高次脳機能障害者の特性を考慮し、覚えやすさは「易しい」、作業方法は「定型」、他の部署や建物に行くことは「ない」、怪我の危険性が「ない」に○がつく作業を高次脳機能障害者が適応しやすい作業として優先的に選択することを示しています。ただし、対象者の障害特性により選択基準は異なります。 作業整理表 【部署名:   総務部   】 № 作業名 内容 覚えやすさ 作業方法 他の部署や建物へ行くこと 怪我の危険性 頻度・時間 1 請求書データの入力 請求書を見ながら、金額や口座番号などを経理システムに入力する 易しい ・ 難しい 定型 ・ 非定型 ある ・ ない ある ・ ない 毎日・1時間 2 郵便物の配付、発送 ・届いた郵便物を各部署に配る ・発送する郵便物をとりまとめ、配達業者に渡す 易しい ・ 難しい 定型 ・ 非定型 ある ・ ない ある ・ ない 毎日 10:00~10:30 15:30~16:00 ~次の様式をご活用ください!~ 《受け入れ部署整理表》 № 部署名 現場の理解 対象者をサポートする人員体制 バリアフリー環境 通勤ルート 備考 1 得やすい ・ 得にくい ある ・ ない ある ・ ない 安全 ・ 問題あり 2 得やすい ・ 得にくい ある ・ ない ある ・ ない 安全 ・ 問題あり 3 得やすい ・ 得にくい ある ・ ない ある ・ ない 安全 ・ 問題あり 4 得やすい ・ 得にくい ある ・ ない ある ・ ない 安全 ・ 問題あり 5 得やすい ・ 得にくい ある ・ ない ある ・ ない 安全 ・ 問題あり 6 得やすい ・ 得にくい ある ・ ない ある ・ ない 安全 ・ 問題あり 7 得やすい ・ 得にくい ある ・ ない ある ・ ない 安全 ・ 問題あり 8 得やすい ・ 得にくい ある ・ ない ある ・ ない 安全 ・ 問題あり 9 得やすい ・ 得にくい ある ・ ない ある ・ ない 安全 ・ 問題あり 10 得やすい ・ 得にくい ある ・ ない ある ・ ない 安全 ・ 問題あり 《作業整理表》 № 作業名 内容 覚えやすさ 作業方法 他の部署や建物へ行くこと 怪我の危険性 頻度・時間 1 易しい ・ 難しい 定型 ・ 非定型 ある ・ ない ある ・ ない 2 易しい ・ 難しい 定型 ・ 非定型 ある ・ ない ある ・ ない 3 易しい ・ 難しい 定型 ・ 非定型 ある ・ ない ある ・ ない 4 易しい ・ 難しい 定型 ・ 非定型 ある ・ ない ある ・ ない 5 易しい ・ 難しい 定型 ・ 非定型 ある ・ ない ある ・ ない 6 易しい ・ 難しい 定型 ・ 非定型 ある ・ ない ある ・ ない 7 易しい ・ 難しい 定型 ・ 非定型 ある ・ ない ある ・ ない 8 易しい ・ 難しい 定型 ・ 非定型 ある ・ ない ある ・ ない 9 易しい ・ 難しい 定型 ・ 非定型 ある ・ ない ある ・ ない 10 易しい ・ 難しい 定型 ・ 非定型 ある ・ ない ある ・ ない 【参考3】 高次脳機能障害に対する職場の配慮例 ~高次脳機能障害のある当事者への実態調査より~ 高次脳機能障害のある人が就労する上で必要な配慮については、対象者、ご家族、医療機関や就労支援機関などの担当者から情報収集することが望ましいでしょう。 参考として、高次脳機能障害のある当事者への実態調査で示された職場の配慮内容を紹介します。 ✓勤務体系の配慮 ・勤務時間、働く時間を短くしてもらっている ・出社時間(朝夕のラッシュを避ける) ・定時に終わらせてもらえる ・残業はしないようにさせてもらっている ・夜勤はしなくてもよい ・休日の取得に寛容 ・週3日・3時間労働から半年以上かけて徐々に増やしている ・日曜の他、週の半ばに 1 日休みがもらえる ・通院のための遅刻や休み以外は健常者と同じ ✓周囲の理解・フォロー ・仕事上ミスしたら、周りの人にカバーしてもらう、皆さんにフォローされている ・自分ができない作業にはサポートがある ・職員の方々からの協力があるので安心している ・周囲の人が気遣ってくれる、日報のチェック(記入漏れ)などもしてくれる ・社員が皆いつもサポートしてくれていることに気づいている ・皆、気軽に声をかけてくれる ・ミスをそれほどあげつらわれない ✓職務内容への配慮 ・簡単な仕事だけ回してもらっている ・仕事のレベルを下げてもらっている ・難しい仕事はなしです ・自分に合った作業場で働かせてもらっている ・電話対応ができない為、電話はでなくてもよい ✓休憩時の配慮 ・休憩時間が長い ・休憩時間を多くもらっている ・休憩を細かく挟める ・昼食、休憩などを他の部屋で過ごしている(皆と一緒は苦手) ・昼食後、畳の部屋で昼寝させてもらっている ✓指示の出し方の配慮 ・ゆっくり指示して下さり、作業ごとに指示をもらえる ・1つずつ、できることを渡してもらっている ・記憶の障害があるので、メモで仕事を頼まれる ・仕事を進行していく上での指示票やチェック表がある ・指示を出す人は 1 人(混乱しないように) ・メモにやるべき事を記入しておく ✓健康状態への配慮 ・健康のチェック、無理な作業を言われない ・休みを優先的にとらせてくれている ・低気圧時の体調不良(吐き気・めまい・頭痛)での休みに配慮がある ・体調により休みが取りやすい ✓その他 ・家から近いところへ行けるようにしてもらっている ・靴を履き替える為の椅子が用意されている ・職場の声を支援の方に相談し、会社との話し合いをもうけてもらっている ・ジョブコーチがいる 【参考文献】独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター:調査研究報告書 No.121「高次脳機能障害者の働き方の現状と今後の支援のあり方に関する研究」、2014、P80(一部抜粋) 高次脳機能障害に対する合理的配慮指針事例(一部抜粋) ✓業務指導や相談に関し、担当者を定める ・業務指導の担当者(現場の課長等)と相談対応を行う者(人事担当者等)をわけている。 ・担当者と同じシフトで勤務してもらっている。(1,000 人以上/小売業/接客) ✓仕事内容をメモにする、一つずつ業務指示を行う、写真や図を多用して作業手順を示す ・メモ帳を持参してもらい、指導・注意事項を忘れないように記載してもらうとともに、業務の開始前にメモ帳の内容を確認してもらう。(10 人未満/サービス業/労務) ・本人がメモをとりやすいスピードで話すようにする。 ・作業の終了報告後に次の作業を出すようにするなど、指示は一つずつ行う。 ・作業場所の写真と作業手順を追加したポケットサイズの携帯できる手引きを作成し、作業に慣れるまで本人が見返しながら作業できるようにしている。(10~49 人/福祉/清掃) ・荷物の仕分け作業において、各コンテナに便名や商品名の紙を貼り、間違いが起こりにくいようにしている。(50~99 人/運送業/仕分け・荷物積み) ・業務指示にあたり、まずは手本を示す。 ・毎日の作業終了後、チェック表を使い指導内容を理解しているかを確認する。(50~99 人/製造業/製造工、50~99 人/福祉/清掃) ・慣れるまでは、現場担当者が定期的に確認を行った。(100~299 人/製造業/製造工) ✓出退勤時刻・休憩・休暇に関し、通院・体調に配慮する ・体調に合わせ、勤務時間・休憩時間・残業を柔軟に調整している。 ・体調が優れないときのために、休憩室を用意している。(10~49 人/生活関連サービス業/事務、300~499 人/宿泊業/事務補助) ・通院日には休暇を認めている。 ・本来はシフト制の勤務だが、過集中を防ぐため、勤務時間や休みの日を固定している。 ✓本人の負担の程度に応じ、業務量等を調整する ・本人の体調、希望、習熟度を考慮して徐々に時間を増やす。 ・集中力を維持できるよう、当初短時間勤務とし、その後状況を見ながらフルタイムに移行する。 ・作業をできるだけわかりやすく単純な形(使用する機械と工程を減らす、決まった商品のみの品出しを担当してもらう。 ・本人の状況に応じて、業務量を徐々に増やしていく。 ・朝礼時の声かけ、体調管理シートの活用、家族と連絡をとることなどにより、日々体調の把握に努める。 ・本人の就労状況等を人事担当者、上司、同僚(パートリーダーで福祉業種経験者)で共有している。(1,000 人以上/飲食サービス業/調理) ✓本人のプライバシーに配慮した上で、他の労働者に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明する ・ (本人の希望を踏まえて)説明をする相手の例  →総務や人事担当者、上司、同僚 ・(本人の希望を踏まえて)説明する内容の例  →本人への接し方(ペース配分、言葉づかい、複数の指示を一度に行わない、困っているときは声をかけてほしい等)  →安全面の配慮について協力すること ・(本人の希望を踏まえて)説明する方法の例  →本人の特性や必要な配慮事項などを記載した資料を活用する。  →障害者就業・生活支援センターにサポートに入ってもらい、本人の特性・配慮事項等について説明した。  →本人より提供された障害特性に関する資料を配付し、説明した。  →就労移行支援事業所から提供された本人の特性リストを活用し、説明した。 ・障害者職業センター職員を講師として招く等により、障害特性や配慮事項等の研修会を開催。 ✓その他の配慮 ・フォークリフトが頻繁に通行する職場だが、本人に半側空間無視の症状があるため、危険が及ばないよう、作業場所の配置を工夫した。(50~99 人/運送業/倉庫内作業) ・上司・同僚の名前と顔が覚えられないとの相談があったため、顔写真入りの名簿を作成した。(50~ 99 人/運輸業/倉庫内作業) ・障害者就業・生活支援センター、ジョブコーチの支援を定期的に活用している。 ・就労支援機関と精神保健福祉士、人事担当者、本人の上司が連携して配慮事項を決定している。(500~999 人/飲食サービス業/労務) 【参考文献】厚生労働省障害者雇用対策課:「合理的配慮指針事例集(第三版)」、PP84-90 【参考4】 「自己対処の工夫」と「環境調整の工夫」の例 高次脳機能障害は、日常生活や職業生活に大きな影響を与えます。そのため、対象者は、メモやスマートフォンといった補完手段を活用するなどの対処策の検討を行います。また、職場は、対象者が能力を発揮できるような配慮や環境調整の検討を行います。 ここでは、主な症状別に「自己対処の工夫」と「環境調整の工夫」の例を示します。 【 注 意 障 害 】 自己対処の工夫 ・日々の睡眠時間など、生活全体の見直しを検討する。〔疲労のマネジメント〕 ・見直しの際はいつもレ点チェックを入れる。作業後に指をさして見直す。〔作業遂行の工夫〕 ・ふせん、手順書、チェック表、アラーム、タイマー、ルーラー、書見台、拡大鏡、老眼鏡などの活用。〔外的補助具の活用〕 環境調整の工夫 ・必要以上の刺激が入らないように座席の位置などを工夫する(作業場所を壁側に配置する、パーテーションを使って視界を遮る、耳栓や周囲の騒音をカットするヘッドフォンを利用するなど)。〔物理的環境整備の工夫〕 ・脳や神経の疲労は注意の集中・持続に影響を与えるため、こまめな小休憩を認める。〔疲労のマネジメント〕 ・指示内容は、一度に一つずつ、ゆっくり伝える。指示内容をメモするように求める。〔関わり方の工夫〕 【 記 憶 障 害 】 自己対処の工夫 ・物の置き場所を決め、いつも同じところに戻す。〔物理的環境整備の工夫〕 ・スケジュール、Todo リスト、重要メモなどの情報管理にメモリーノートを活用し、どこに何を書くかを明確にして共有する。〔メモリーノート〕 ・注意事項はふせんに書き、目につくところに貼る。〔手がかりの活用〕 ・その日に起こったことは日記に書き、日記を読み返す習慣をつける。〔外的補助具の活用〕 環境調整の工夫 ・覚えていなくてもその場で見てわかるように、棚や引き出しにラベルを貼る。〔物理的環境整備の工夫〕 ・1 日のスケジュールや作業手順、ルールをできるだけ固定する。〔定型化〕 ・作業手順書やチェックリスト、注意書きなどを活用する。〔手がかりの提示〕 ・情報や指示は短い言葉で伝え、本人にメモしてもらう。〔関わり方の工夫〕 【遂行機能障害】 自己対処の工夫 ・メモリーノート、スケジュールアプリ、ふせん、作業手順書、チェック表、アラーム、タイマーなどを活用する。〔外的補助具の活用〕 ・予定や手順を書き出し、確認しながら行う。〔作業遂行の工夫〕 ・自分で優先順位を考えてみたうえで、その通りの順番でよいか上司に確認する習慣を作る。〔サポート体制の活用〕 環境調整の工夫 ・一日の作業スケジュールや作業の優先順位、作業手順、判断基準などをあらかじめ明確に決めておき、その場その場で判断しなければならないことをできるだけ少なくする。〔定型化〕 ・「今すぐやる」「今日中」「今週中」「保留(返事待ち)」などの札をつけたトレーを用意し、職務に関する書類を整理する。〔手がかりの提示〕 ・突発的な事態や判断に迷った場合に相談する相手や連絡体制を決めておく。〔サポート体制の構築〕 【半側空間無視】 自己対処の工夫 ・無視側にチェック欄を設け、チェックを入れるようにすることで無視側の見落としを減少させる。〔手がかりの活用〕 ・音声読み上げソフトを利用し、入力データと音声を照合する。〔外的補助具の活用〕 ・無視側を声に出して確認する習慣をつける(指さし、呼称「右よし、左よし」など)。〔作業遂行の工夫〕 環境調整の工夫 ・安全のため、足元につまづくようなものを置かない。左側に物を置くと見落としがちな場合は、本人の右側に物の定位置を定める。〔物理的環境整備の工夫〕 ・無視側から声をかけ注意を促す。あるいは、無視側に注意を向けることが負担になる場合もあるため、無視側の反対側から声をかけるように留意する。〔関わり方の工夫〕 ・見落としやすい無視側に目印をつける。〔手がかりの提示〕 【社会的行動障害】 自己対処の工夫 ・疲労がイライラ感につながっている場合があるため、こまめに休憩を入れるなど疲労のコントロールを検討する。〔疲労のマネジメント〕 ・リラックスできる方法を見つけておく。一旦その場を離れるなど、環境を変える。〔ストレス対処法の習得〕 ・同じ高次脳機能障害のある当事者との交流の機会を持つ。〔サポート体制の活用〕 環境調整の工夫 ・真心をもって接し、相手にわかりやすいように話しかける。怒りに正面から向き合わない。相手を認めつつ障害による症状としてとらえ、行動や反応をよく観察し、本人が怒りやすい言葉や状況を見つけ出す。〔関わり方〕 ・意欲や感情コントロール面は、脳や神経の疲労の影響を受けることを踏まえ、一旦休養を取らせる。〔疲労のマネジメント〕 ・主治医や高次脳機能障害に詳しい専門家に相談する。〔サポート体制の構築〕 【 失 語 症 】 自己対処の工夫 ・音声読み上げソフトを利用し、文字情報や入力した文章を確認する。〔外的補助具の活用〕 ・言葉のカードを会話場面で提示し、意思を伝える。〔外的補助具の活用〕 ・デジカメや携帯電話のカメラ機能を活用する。〔外的補助具の活用〕 環境調整の工夫 ・リラックスした環境でコミュニケーションをとる。〔関わり方〕 ・一度にいろいろな情報を伝えない。「はい」「いいえ」で答えられる質問をする。短く区切って、ゆっくり話す。〔関わり方〕 ・話す以外のジェスチャー、指差し、書く、字(キーワード)、絵や写真などの手段を最大限活用する。〔関わり方〕 【 易 疲 労 】 自己対処の工夫 ・疲れたらこまめに休む習慣をつける。目が疲れやすい携帯電話やパソコンを使わない時間を作る。〔疲労のマネジメント〕 ・合併症や薬の副作用が原因となっていることもあるため、主治医の指示を仰ぐ。〔サポート体制の活用〕 環境調整の工夫 ・周囲は疲れやすいことを理解する。疲れていても本人は気づかないことが多いので、周囲が気をつけることも必要。〔関わり方〕 ・大きな課題は小分けにして、できるものから行う。〔細分化〕 【参考5】 事例紹介 <受障前と異なる部署・職務内容で復職した事例> 障害特性から、受障前に所属していた部署における職務の選定や創出が難しいため、事業所において改めて職務や配置、労働条件を再検討し、受障前と異なる部署・職務内容で職場復帰した事例です。 <概要> A さ ん 男性 40 代 障害状況 脳出血による右片麻痺、高次脳機能障害(記憶障害、注意障害、失語症、遂行機能障害) 事 業 所 繊維製品の製造卸売業、従業員数 280 人 受障前の所属部署・職務内容 営業部における商談や商品の受発注、商品開発など 復職後の所属部署・職務内容 物流部における伝票入力、布製小物の値札シールはがし、布製小物の針の有無の確認など <経過> <事例のポイント> Point 1 対象者の障害特性と就労上配慮が必要なことを確認する 事業所担当者は、受障後 15 か月目に、Aさんとご家族の同席のもと、病院のソーシャルワーカーと地域障害者職業センターのカウンセラーから障害特性などの説明を受けました。 ここでの確認内容を踏まえ、当初想定していた営業部における原職復帰ではなく、配属や職務内容の変更の検討を始めることとなりました。(経過②) Point 2 職務内容や配置、労働条件を検討する Aさんは、営業部の事務的な職務で復職することを希望していました。事業所担当者はプログラムの見学を行った上で、Aさんのパソコンスキルは営業部で必要なレベルに至っておらず、営業部における復職は難しいとの判断を行い、Aさんと協議することにしました。(経過④) その上で、「Aさんにできそうな職務がある」、「受け入れに理解を得やすい」、「Aさんの職務をフォローできる人的環境がある」、「通勤の負担が少ない」といった要件から物流部への配属を想定し、社内調整を始めました。 Point 3 復職部署に障害特性や必要な配慮を説明する 復職部署において、社員にAさんの障害特性を理解してもらうことに苦労しました。言葉の説明だけでは理解してもらうことが難しかったのですが、事業所担当者がプログラムの見学時にAさんのパソコン入力の様子を取った動画が社員の理解を得ることに役立ちました。(経過⑤) リハビリ出勤を実施し、想定した職務が遂行できる体力や作業スキルに問題はないか、通勤が可能かといった確認を行い、最終的に職場復帰が決定されました。(経過⑥) <受障前の職務内容からの職務の切り出し・再構成で復職した事例> 障害特性から、受障前に所属していた部署における職務の切り出し・再構成により職場復帰した事例です。また、様子を見ながら職務内容を積み上げることとしています。 <概要> B さ ん 男性 30 代 障害状況 くも膜下出血による運動失調、構音障害、高次脳機能障害(注意障害) 事 業 所 風水力機械の製造、販売業、従業員数 600 人 受障前の所属部署・職務内容 図面の解析、部下の指導、社内外の折衝、技術文書作成など 復職後の所属部署・職務内容 図面の解析 <経過> <事例のポイント> Point 1 対象者の障害特性と就労上配慮が必要なことを確認する 事業所担当者は、入院後早い段階で主治医と面談し、Bさんの容体を確認しました。その時点では、今後の症状の見通しについてはわかりませんでした。(経過①) 受障後 15 か月目にBさん、地域障害者職業センターから、Bさんの障害特性の説明を受けました。また、地域障害者職業センターから提供された障害者雇用マニュアルコミック版6「高次脳機能障害者と働く」(※)により、一般的な障害特性や必要な配慮事項を確認しました。(経過③) ※高次脳機能障害者の雇用管理ノウハウに関するコミック版のマニュアルhttps://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/manual/emp_ls_comic06.html Point 2 職務内容や配置、労働条件を検討する Bさんも事業所も休職前と同じ技術者としての職場復帰を考えていました。技術者として職場復帰するためには、業務に関する知識・スキルをどの程度発揮することが可能かを確認する必要がありました。 Bさんはプログラム受講中、過去に経験した業務に関する資料の作成を行い、事業所に対してプレゼンテーションを行いました。それにより、事業所は専門的な知識を発揮できることを確認しました。(経過⑤) リハビリ出勤を3週間実施し、通勤の安全性と「解析ソフトや図面作成などのスキルを発揮できること」を確認しました。(経過⑥) Point 3 対象者ができることを確認し、職務の切り出し・再構成、積み上げを行う リハビリ出勤の結果、解析ソフトなどの使用について「職務遂行に問題ない」と判断され、休職前と同じ技術者として図面の解析業務を担当することとなりました。今後、様子を見ながら少しずつ職務内容を増やしていく予定となりました。 Bさんは、動作がぎこちなく(運動失調)、発話が不明瞭であったため(構音障害)、障害の程度が重度である印象がありましたが、高次脳機能障害の主症状は注意障害のみであり、理解力が高く、注意障害による作業遂行上のミスは少ない状況でした。 プログラム受講中にBさんが作成した資料やプレゼンテーション、リハビリ出勤を通じて、Bさんの技術者としての知識・スキルを確認できたことが職務内容の決定につながりました。 <受障前の部署へのテレワークで復職した事例> 受障前に所属していた部署における職務の切り出しを行い、テレワークで職場復帰した事例です。 <概要> C さ ん 男性 30 代 障害状況 脳動静脈奇形破裂 高次脳機能障害(失読、記憶障害、遂行機能障害) 事 業 所 鉄鋼製品、鉄鋼原料等の国内外取引、従業員数 8500 人 受障前の所属部署・職務内容 社内ITインフラの整備など 復職後の所属部署・職務内容 社内ITインフラの整備の補助業務 <経過> <事例のポイント> Point 1 対象者の障害特性と就労上配慮が必要なことを確認する 事業所担当者は、受障後6か月目に病院のリハビリスタッフからCさんの医療情報に関する説明を受け、16 か月目と 21 か月目には、Cさん自身から障害特性と、リハビリの状況について報告を受けました。 その結果、Cさんには「失読」「記憶・遂行機能の低下」といった障害特性があり、業務の遂行にあたって、「事務作業は正確にできる が、失読のために時間がかかる」「記憶障害のため、予定や打ち合わせの内容を忘れてしまうことがある」「遂行機能障害のため、適切な業務のスケジューリングが苦手である」ことを把握しました。(経過①、②、⑤) Point 2 職務内容や必要な配慮を検討し、テレワークに向けた環境整備をする 事業所としては、元部署での補助業務、または、現在の部署より難易度の低い他部署の補助業務を検討していました。しかし、Cさんの報告から事務作業の遂行は可能と思われること、記憶障害の影響からむしろ新しい部署への適応には時間を要すると考えられたことか ら、元部署への復職を中心に検討していくこととしました。 また、事業所はテレワークを導入していたため、テレワークの環境下でCさんにどのような配慮ができるかを検討しました。(経過⑥) Point 3 復職の状況にあわせて配慮事項を調整する 事業所の配慮事項 1.復職後すぐは担当者を固定して、Cさんの業務の振り返りや当日、翌日のスケジュールをCさんに提示しました。 2.復職1か月後には、Cさんがスケジュールをつくり、担当者が確認する形をとりました。 3.復職3か月後には、確認の頻度が減り、都合のつく担当者がその都度、確認する形になりました。 4.指示は文面が残るようメールで行いました。 5.Zoom 会議の録画を許可しました。 C さんの対処 1.記憶の補完手段 ・打合せの際のメモをまとめ、報告時に上司に確認。 ・Zoom 会議を録画して見直す。 2.スケジュールの管理 ・グループウェアの予定表とアラーム機能を活用、ウィークリーのメモ帳を併用する。 ・付箋に時間を書いて貼り、こまめに見返す。 3.失読の補完手段 ・PC やスマホの読み上げ機能を活用。 【参考6】 高次脳機能障害者のリハビリテーションのながれ 高次脳機能障害者の職場復帰支援については、必要な治療やリハビリテーションを経て、自立の見通しが立ってきた時点で準備を始めることとなります。 以下は、高次脳機能障害者の一般的なリハビリテーションの流れと関係する主な社会資源です。ただし、個人の症状や地域の社会資源の状況などによって利用するリハビリテーションや社会資源は異なります。 医学リハビリテーション 社会リハビリテーション 職業リハビリテーション 発症・受障 急性期医療機関 リハビリ専門医療機関 ・治療(外科的治療や薬物治療) ・神経心理学的評価 ・機能訓練 ・歩行訓練 ・言語訓練 ・認知リハビリテーション など デイケア デイサービス 障害者支援施設 ・日常生活訓練 ・生活リズムの確立 ・体力の向上 ・掃除・洗濯・調理・移動・金銭管理等の基本的な生活技能の向上 ・対人技能の向上 など 就労移行支援事業所 地域障害者職業センター 障害者就業・生活支援センター ・職業評価 ・模擬的な作業場面における職業準備性・復職準備性の向上に向けた支援 ・職場復帰の調整 ・ジョブコーチ支援 など ・定期通院 ・リハビリの継続 など 職 場 復 帰 高次脳機能障害者支援拠点機関 高次脳機能障害に関する専門性の高い相談窓口として、各都道府県のリハビリテーションセンター、大学病院、県立病院等に1~複数か所設置されている。 ● 高次脳機能障害に関する相談支援 ● 関係機関との連絡調整 ● 普及啓発・研修 など リファレンスシート ○・・・はい △・・・ときどき ×・・・いいえ ○・・・伝える △・・・検討中 ×・・・伝えなくて良い 月 日作成Ver No 特性チェックシートで確認された特性 どの程度あてはまるか 1回目 2回目 会社に伝えるかどうか 1回目 2回目 対象者と職業センターで整理した項目 対処手段 周囲に求める配慮、理解してほしいこと 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 復職を考える高次脳機能障害者の方へ 対処策リスト255 【目 的】 このリストは、障害者職業総合センター職業センターにおける実践をふまえた対処策を整理したものです。 支援者や対象者が、障害特性に応じて取り組む自己対処策や、職場に求める配慮事項を検討する際の参考となるよう作成しました。 【使用上の留意事項】 このリストは、すべての対処策を網羅しているわけではありません。それぞれの障害特性に応じて有効な対処策を見つけるヒントとなるようご活用ください。 【使い方の例】 支援者と対処策を検討するとき 事業主に環境調整を提案するとき 注 意 障 害 注意を向けるべき対象に適切に注意を向けることが難しい。注意を長時間維持することが難しい。 複数の対象に同時に注意を払ったり、状況に応じて注意の対象を切り替えることが難しい。 自己対処の工夫 刺激の統制 □ 目の前に、必要な物だけ準備する。視界にはいる余分な刺激を減らす。 □ 周囲の動きや物音に注意がそれないよう、作業台を壁側に向けたり、パーテーションを使い視界を遮る。 □ 必要以上の情報が入らないよう、耳栓や周囲の騒音をカットするノイズキャンセリングヘッドフォンを利用する。 疲労の マネジメント □ 脳や神経の疲労は、注意の集中・持続に多大な影響を与える。不注意やミスがみられるときは、休憩のマネジメントが必要なことを理解する。□ 疲労により注意力が大きく低下する場合は、必要な休憩の頻度や長さ、タイミングについて検討する。 □ 疲労のコントロールのために、休憩を定期的、または、こまめにとる。 □ 休憩時刻を意識するためのメモを机に置く。アラームを使う。 □ 特に集中力を要する作業は、疲労の少ない午前中に行うなど、作業スケジュールの組み方を工夫する。 □ 午後の疲労に備えて、昼休みの過ごし方を工夫する。 □ 日々の睡眠時間など、生活全体の見直しを検討する。 □ こまめに姿勢を正し、深呼吸する。 視界にはいる刺激を減らす ミスを減らす 外的補助具の活用 □ 外的補助具を活用する(ふせん、手順書、アラーム、タイマー、ルーラー、書見台、拡大鏡、老眼鏡など)。 □ 見落としや見誤り防止のため、ルーラーや下線付きルーペにより注目する箇所を強調する。 □ 注目が不要な箇所は、ロールふせんで隠す。 □ レ点チェックやマスキングなど視点を定めることで、どこまで作業を行ったか一目でわかるようにする。 □ パソコン画面を拡大表示して確認する。 □ パソコン画面の文字の白黒を反転させて確認する。 ロールふせん 読み上げ □ パソコン入力の際、音声読み上げソフトを利用し、入力データと音声を照合する。 目印 □ 行ズレ防止のため、入力セルに色を付ける。 □ ピッキングが終わった商品名に印をつける。 □ 箇条書きの手順書を準備し、進んだところに目印(マグネットなど)を置く。 ルーラーの活用 見直し □ 作業後に目視で見直す。 □ 作業後に指をさして見直す。 □ 自信のない箇所は2度見直して確認する。 □ 見直しを作業工程の一つに組み込む。 □ 見直しの際はいつもレ点チェックを入れる。 □ パソコン入力終了後に、カーソルを一文字ずつ動かしながらチェックする。 □ パソコン入力する原稿を赤ペンで細かく区切り、入力後に画面と照合する。 □ 丁寧に確認しすぎることで作業時間に影響が出る場合は、確認の方法や回数を決めておく。 書見台の活用 環境調整の工夫 物理的環境整備 □ 目の前に必要な物だけ準備する。視界にはいる余分な刺激を減らす。 □ 環境刺激を減らす(戸を閉める、人を減らす、テレビやラジオを消すなど)。 □ 周囲の動きや物音に注意がそれないよう、作業台を壁側に向けたり、パーテーションを使い視界を遮る。 □ 必要以上の情報が入らないよう、耳栓や周囲の騒音をカットするノイズキャンセリングヘッドフォンの利用をすすめる。 □ 部屋が広すぎたり物が多過ぎたりしないよう、対象者の席を調整する。 □ 対象者のいる部屋を適切な明るさに調整する。 疲労の マネジメント □ 脳や神経の疲労は、注意の集中・持続に多大な影響を与える。不注意やミスがみられるときは、休憩のマネジメントが必要だと理解する。 □ 疲労によって注意力が大きく低下する場合は、必要な休憩の頻度、長さ、タイミングについて検討する。 □ こまめな小休憩を設ける。タイマーを活用するよう助言する。 □ 休憩時刻を意識するためのメモを机に置くよう助言する。 □ 特に集中力を要する作業は疲れの少ない午前中の時間帯に行うなど作業スケジュールの組み方を工夫する。 □ 昼休みを一人で過ごす、また、刺激の少ない場所で過ごせるようにする。 作業設定 □ 作業工程を細かく分割し、並行処理を避ける。 □ 見直しを作業工程の一つに組み込む。 □ 作業時間を十分に確保する(期限に余裕を持たせて指示する)。 □ 手順のミスがある場合は、箇条書きの手順書を準備し、進んだところに目印としてマグネットやふせんを置く。 □ 作業上の注意事項を目立つ場所に掲示する。 □ 難易度が高いことが理由で集中力を保ちにくい場合は、難易度の面で職務内容を再検討する。 関わり方 □ ひとりずつ指示をする。 □ 指示内容は、一つずつ区切ってゆっくりと伝える。 □ 指示を伝達する時は、対象者の名前を呼び、作業中であればいったん手を止めるように求め、伝達の内容に注意を向けられるようにする。 □ 対象者がこちらを見ているか確認したうえで伝える。 □ 指示内容を対象者にメモするよう求める。 □ 話題についてこられているかどうか、頻繁に確認する。 □ 話にまとまりがなくなってきたら、話を止めて、本題に戻す。(ホワイトボードなどを使い、論点を整理しながら話す) □ 丁寧に確認しすぎることで作業時間に影響が出る場合は、確認の方法や回数を決める。 記 憶 障 害 物の置き場所を忘れる、新しいできごとを覚えられない、同じことを繰り返し質問するなど、情報を覚えたり、保持したり、必要な時に引き出すことが難しい。 自己対処の工夫 整理整頓 □ 道具や物の置き場所を一定の位置に決めていつも同じところに戻す。 □ 覚えなくてもその場で見てわかるように、棚や引き出しにラベルを貼る。 □ 場所がわからなくなる場合は、目印や矢印をつける。 □ 物を探すときは、いつも同じ順番で探すようにする。 道具や物を置く場所を決める 外的補助具の活用 □ 外的補助具を活用する。(メモリーノート、ふせん、手順書、アラーム、タイマーなど) □ メモ用紙を机の上に置いておく。 □ 携帯電話、スマートフォンのスケジュール機能やリマインダー、ボイスメモなどを活用する。 □ 重要なポイントや数字はあらかじめメモにして報告する。 □ 電話の内容はメモに取り、聞いた内容を復唱して確認する。 □ 腕時計や卓上時計で日付が表示されるタイプのものを用意し、いつでもそれを参照する習慣をつける。 □ その日に起こったことを日記に書き、日記を読み返す習慣をつける。 メモリーノート □ スケジュールや作業手順などの情報管理にメモリーノートを活用する。 □ スケジュール、Todoリスト、重要メモなど、どこに何を書くかを明確にして共有する。 □ 移動経路を書いたメモをメモリーノートに入れておく。 □ カレンダーやメモ、スケジュール表を活用し、こまめに確認する。 □ 「朝礼前」と「休憩時間」には手帳を開く、作業中に困ったら手帳を開くことを習慣化する。 メモリーノート スケジュールや日課の掲示 手がかり □ 思い出すための手がかり(日課表の掲示やアラームなど)を工夫する。 □ 作業手順書やチェックリストを活用する。(自分で作成する、参照する習慣をつける) □ 作業スケジュールを記載した表を机に置く。 □ 抜けやすい手順の箇所にマーカーで色をつけ目立たせる。 □ 作業上の注意事項などを、目のつくところに貼る。 □ メモ帳や携帯電話、ふせんなどに覚えるべきことを記録し、それを見て行動する。 □ ドアの内側など動線上に持ち物のチェックリストを貼る。 手がかりの工夫(ふせんを貼る) 定型化 □ 1日のスケジュールをできるだけ固定して過ごす。 □ 日課を決め、その通りに行動する習慣をつける。 □ 行動のパターンやルールをできるだけ決めておく。 □ 作業の手順を決めて、その手順に沿って作業する。 □ 作業手順などは、繰り返して習慣化する(手続き記憶にする)。 服薬管理 □ お薬カレンダーやピルケースを活用する。 □ 錠剤の種類が多い場合は、薬局で一包化を依頼する。 お薬カレンダー ピルケース 環境調整の工夫 物理的環境整備 □ 道具や物の置き場所を一定の位置に決めていつも同じところに戻すよう助言する。 □ 覚えなくても、その場で見て分かるように棚や引き出しにラベルを貼る。 □ 場所が分からなくなる場合などは、地図を持たせたり、目印や矢印をつける。 定型化 □ 1日のスケジュールをできるだけ固定して過ごせるような職務の組み立てをする。 □ 行動のパターンやルールをできるだけ決めておく。 □ 作業の手順を決めて、その手順に沿って作業よう決めておく。 手がかり □ 思い出すための手がかり(日課表の掲示やアラームなど)を工夫する。 □ ドアの内側など動線上に持ち物のチェックリストを貼る。 □ 作業上の注意事項を目立つ位置に掲示する。 □ 作業手順書やチェックリストを作成する。 関わり方 □ 情報や指示は短い言葉で伝え、対象者にメモしてもらう。 □ 情報や指示をメモで渡す。 □ 口頭だけでなく、要点を板書しながら説明し、メモを取るよう促す。 □ 見てわかるように文字や図、写真を使って伝える工夫をする。 □ 誤った手順を記憶しないように、見本を十分に示し、間違ったらすぐ修正する。 □ メモリーノートや手帳などのスケジュール、Todoリスト、重要メモなど、どこに何を書くかを明確にして共有する。 作業手順書 配置図、動線を決める 目印をつける 遂行機能障害 目標や予定を達成したり、計画的に段取りよく行動したり、変化にうまく対応して行動することが難しい。 自己対処の工夫 外的補助具の活用 □ 外的補助具を活用する。(メモリーノート、携帯電話のスケジュールアプリ、ふせん、手順書、アラーム、タイマーなど) □ アラームやタイマーにより、次の行動予定に気づきやすくする。 作業の工夫 □ 「今すぐやる」「今日中」「今週中」「保留(返事待ち)」などの札をつけたトレーを用意し、職務に関する書類を整理する。 □ スケジュール表や手順書など、予定や段取りなどが視覚的に理解できるものを用意して活用する。 □ 予定や手順を書き出し、確認しながら行う。 □ 作業手順をできるだけ細かく分割して、同時並行する処理を避ける。 □ 抱えている仕事とその期限の一覧表を作り、優先順位について目で見てわかるように整理する。 □ 作業の具体的な見本を机に置いておく。 □ 作業の優先順位や一日の作業スケジュールをあらかじめ決めて、その場その場で判断しなければならないことを少なくする。 □ いったん行動を止め、確認する癖をつける。 報連相 □ 進捗報告の時刻を決める。報告項目やせりふを決める。(アラームと併用など) □ 自分で優先順位を考えてみたうえで、その通りの順番でよいか上司に確認する習慣を作る。 □ 始業時、昼休み明け、終業1時間前などのタイミングを決めて、進捗状況を上司に報告し、助言を得る習慣を作る。 時間管理 □ 時間に余裕をもって計画を立て、行動する。 □ 作業時間の見積もりが難しい場合は、どの作業にどのくらいの時間が必要であったかを記録しておく習慣をつけ、過去の実績に基づいて予測を立てる。 環境調整の工夫 定型化 □ 作業の優先順位や一日の作業スケジュールをあらかじめ決めて、その場その場で判断しなければならないことをできるだけ少なくする。 □ ルーチン的な行動や業務を設定する。 手がかり作業手順書 □ 作業手順をマニュアル化する。 □ 作業手順をできるだけ細かく分割して同時並行する処理を避ける。 □ 作業の見本を机に置いておく。 □ スケジュール表や手順書など、予定や段取りなどが、視覚的に理解できるものを用意して活用する。 □ 「今すぐやる」「今日中」「今週中」「保留(返事待ち)」などの札を付けたトレーを用意し、職務に関する書類を整理する。 サポート体制の構築 □ 突発的な事態や判断に迷った場合に、相談する相手や体制を決めておく。 □ 始業時、昼休み明け、終業1時間前などのタイミングを決めて、進捗状況を上司に報告することを対象者と決めておく。 □ 進捗報告の時刻を決める。報告項目やせりふを決める。(アラームと併用など) 関わり方 □ 指示内容を具体的に残すため、メモなどに書いたもので対象者に渡す。 □ 選択肢を提示する際は、対象者が決断しやすいよう、各々のメリット・デメリットを提示する。 □ 指示の際は「いつ」「どこで」「何を」「どうする」などをはっきりと、かつ具体的な言葉を使って伝える。 半側空間無視 事物や空間の左右どちらかに注意が向きにくくなる(多くの場合は左側)。 自己対処の工夫 □ 左半側空間無視の場合、左側に注意を向けることは精神的な努力を要し、疲労の原因となるため、より少ない労力で注意を向けられる工夫を考える。 □ 左半側空間無視の場合、右側にヒントを貼り出ておき、左側を見ることに気づくことができるような工夫を行う。(手がかりを掲示するなど) □ 左側に物を置くと置き忘れがちな場合は右側に道具の定位置を定める。 □ 全体を見直す習慣をつける。 □ 見直しをする方向(右から左、左から右)によって、ミスの見つけやすさに差が出る場合があるので工夫する。 (例えば、清掃作業で左側にゴミの取り残しが見られる場合は、作業の終わりに担当箇所の隅を右回りに一周して見直すなど) □ 目立つ目印をつける。 □ テレビや人など動きや変化のある刺激をあえて無視しやすい側に配置する。 □ 左側にチェック欄を設け、チェックを入れるよう求めることで、左端の見落としを減らせるようにする。 □ 無視側を声に出して確認する習慣をつける(指さし、呼称「右よし、左よし」など)。 □ 文頭の文字や数字を見落としがちな場合、データ入力後、右から左方向に読み上げながら見直す。 □ パソコン入力の際、ルーラー機能を利用し左側の端への注意を促す。 □ パソコン入力の際、音声読み上げソフトを利用し、入力データと音声を照合する。 環境調整の工夫 □ 無視側に注意を向けることは精神的な努力を要し、疲労の原因となるため、より少ない労力で注意を向けられる側の情報を活用できるようにする。 □ 左半側空間無視の場合、右側にヒントを貼り出ておき、左側を見ることに気づくことができるような工夫を行う。 □ 見落としやすい無視側に目印をつける。 □ 左側にチェック欄を設け、チェックを入れるよう求めることで左端の見落としを減少させる。 □ 左側に物を置くと置き忘れがちな場合は対象者の右側に道具の定位置を定める。 □ 安全のため、足元につまづくようなものを置かない。 □ 無視側から声をかけ注意を促す。あるいは、逆に負担をかけないように無視側の反対側から声をかける。 □ (無視側が左の場合)右側にあるものを目印として伝える(右に○○が見えたら、左に曲がる、など)。 □ 例えば左半側空間無視の場合、廊下の左側に扉がある場合、急に開くと気づかずにぶつかることがあるため、職場全体でドアをゆっくり開けるよう注意喚起する。 □ 対象者が右側を歩くように、廊下の壁に目印をつける。 左半側空間無視の場合、右側に道具を置く 失行・構成障害・着衣障害 慣れているはずの動作や行為が、麻痺などの運動障害や感覚障害がないのにスムーズにできなくなる。 自己対処の工夫 失行 □ 障害の現れ方がとらえにくいため、作業療法士など、医療機関から情報収集する。 □ 職務上必要となる道具類の使い方を繰り返し練習する。 □ 職種転換や環境調整を検討する。 環境調整の工夫 着衣障害 □ 衣類の前後や裏表が分かりやすくなるような目印をつける。 □ 着替えやすい形状の衣類に変更する。 □ スナップやマグネットで簡単に着脱できるタイプのネクタイを使用する。 構成障害 □ 工程を細かなステップに分け、どこにつまづきがあるかを分析し、治具などにより段階的に練習する。 □ 書字が難しくてもキーボードでの入力ができる場合は、できるだけパソコンを活用する。 易疲労 通常より疲れやすい。あまり活動をしていないのに心身に疲労を感じる。 自己対処の工夫 □ 脳や神経の疲労は、注意の集中・持続に多大な影響を与える。不注意やミスがみられるときは、休憩のマネジメントが必要なことを理解する。 □ 合併症や薬の副作用が原因になっていることもあるため、医師の指示を仰ぐ。 □ 目が疲れやすい携帯電話やパソコンを使わない時間を作る。 □ 大きな課題は小分けにして、できるものから行う。 □ アクティブレスト(体を動かして休息)で気分転換する。 □ 自然の中を歩いたり、30分程度の運動を週3回、1日2回を目安に続ける。 □ 疲労のコントロールのために、休憩を定期的、または、こまめにとる。 □ 疲労により注意力が大きく低下する場合は、必要な休憩の頻度や長さ、タイミングについて検討する。 □ 休憩時刻を意識するためのメモを机に置く。アラームを使う。 □ 特に集中力を要する作業は、疲労の少ない午前中に行うなど、作業スケジュールの組み方を工夫する。 □ 午後の疲労に備えて、昼休みの過ごし方を工夫する。 □ 日々の睡眠時間など、生活全体の見直しを検討する。 □ こまめに姿勢を正し、深呼吸する。 環境調整の工夫 □ 周囲は、障害による疲れやすさがあることを理解する。 □ 脳や神経の疲労は、注意の集中・持続に多大な影響を与える。不注意やミスがみられるときは、休憩のマネジメントが必要なことを理解する。 □ 疲労により注意力が大きく低下する場合は、必要な休憩の頻度や長さ、タイミングについて検討する。 □ 疲労のコントロールのために、休憩を定期的、または、こまめにとるように促す。 □ 休憩時刻を意識するためのメモを机に置く。アラームを使うなどの対処を促す。 □ 特に集中力を要する作業は、疲労の少ない午前中に行うなど、作業スケジュールの組み方を工夫する。 □ 午後の疲労に備えて、昼休みの過ごし方を工夫する。 □ 日々の睡眠時間など、生活全体の見直しを検討するよう助言する。 □ 受障による自身の変化について受け入れられず、混乱していることも易疲労性に影響を与える要因として捉える必要がある。 □ 疲れていても対象者は気づかないことが多いので、対象者の様子に周囲が気をつけるよう気を配る。 □ 大きな課題は小分けにして、できるものから行う。 失 語 会話や読み書き、計算など、言語を使う行為に困難が生じる。 自己対処の工夫 □ ローマ字と仮名の対応表を活用する。 □ 50音配列のソフトキーボードを活用する。 □ 漢字を見て、読み方が思い浮かばない場合は、手書き入力機能(タッチキーボード)を活用する □ 読めるが書けない場合、音声入力を使って入力する。 □ 読み上げ機能を使い、文字情報を聞くことで理解する。 □ 読み上げ機能を使い、入力した文章を確認する。 □ 文章を指でなぞって理解する。 □ 文章を単語や5~10文字ごとに区切って、読む。 □ 電卓を使用して計算する。 □ 数える際は5個ずつ数える。 □ 数字をメモして報告する。 □ 言葉のカードを会話場面で提示し、意思を伝える。 □ 伝達手段として、デジカメやスマートフォンのカメラ機能を活用する。 □ 照合時は、照合する書類同士を近づけ、見比べやすくする。 ローマ字仮名対応表 タッチキーボード 指でなぞる 単語で区切る アプリの活用 環境調整の工夫 関わり方 □ リラックスした環境でコミュニケーションがとれるようにする。 □ 言葉が出ないことを指摘しない。 □ ゆっくり耳を傾け、緊張させない。 □ 言葉が出るまで待つ。 □ 会話のテンポはゆっくり、文は短く区切って簡潔な表現で伝える。 □ 話す以外のジェスチャー、指さし、書くなどの手段を最大限活用する。 □ 上手く通じない時は言い方を変えたり、絵や図、字(キーワード)を書いて見せながら確認する。 □ ホワイトボードやミニホワイトボードを活用する。(簡潔に、整理して、文章よりも単語で示すなどの工夫をして板書する) □ 「はい」「いいえ」で答えられる質問をする。 □ 主語、述語を明確に伝える。 □ 一度にたくさんの情報を伝えない。 □ 作業手順の説明は、例示のほか、写真や図など言葉以外の情報を活用した手順書を用いる □ 漢字と仮名の理解のしやすさに差がある場合、理解しやすい表記を用いる。 □ よく使う言葉のカードを活用し、会話場面で提示しながら意思を伝える。 ミニホワイトボード よく使う言葉のカード 社会的行動障害 行動や言動、感情をその場の状況にあわせてコントロールすることが難しい。 自己対処の工夫 疲労の マネジメント □ 意欲や感情コントロールなどは、脳や神経の疲労の影響を大きく受ける。脳や神経が疲労しているときに、安定した心理状態でいることは難しいことを理解する。 □ 作業課題に対して意欲がでない場合、その課題の手順や目的がわからないことが理由となることがある。再度、手順をわかりやすく説明してもらったり、目的や意味をたずねる。または、作業課題そのものを変更してもらう。 □ 作業課題に対して意欲がでない場合、疲労が影響している場合がある。疲労している可能性があることを伝え、休憩を申し出る。 □ 怒りやイライラ感につながっている場合は、こまめに休憩を入れるなど、疲労を軽減するため対処をとる。 ストレス対処法の習得 □ 心とからだをリラックスさせる方法を見つける。(深呼吸、ストレッチ、水分補給、アロマテラピー、など) □ いったんその場から離れる。 □ 1秒待ち訓練(行動する前に心の中で1秒数え、待ってから行う習慣をつけることで、衝動的な行動や発言を減らす。) □ 認知行動療法など心理的なアプローチを検討してみる。 サポート体制の活用 □ 高次脳機能障害のある当事者との交流の機会を持つ。 □ 主治医や高次脳機能障害に詳しい専門家に相談する。 環境調整の工夫 □ 意欲や感情コントロールなどは、脳や神経の疲労の影響を大きく受ける。脳や神経が疲労しているときに、安定した心理状態でいることは難しいことを理解する。 □ 作業課題に対して意欲的でない場合、その課題の手順や目的がわからないことが理由となることがある。再度、手順を分かりやすく説明したり、目的や意味をていねいに伝える。または、作業課題そのものを変更してみる。 □ 作業課題に対して意欲的でない場合、疲労が影響している場合がある。その場合は、休養や休憩を促す。 □ 怒りやイライラ感が生じている場合は、こまめに休憩を入れるなど、疲労のコントロールをするように促す。 意欲・発動性の低下を理解する □ 対象者が分かっていても障害ゆえに出来ないことがあったり、怠けているわけではないことを、周囲が理解する。 □ 取り組めない状況を責めたり、むやみに励ましたりせず、必要なことについては声掛けや、チェックリストを作って具体的に示す。 □ ほんの少しでも何かを始めた時には、急かすことはせず、じっくりと取り組めるようにする。 □ 肯定的なフィードバックを繰り返し、少しずつ対象者のやる気を引き出す。 □ 何をがんばったらよいのかわからない人に、「頑張って」と急かしたり励ましたりしない。 □ 少しでもやる気を持てそうな活動や作業に取り組んでもらい、少しずつ作業や活動の幅を拡げられるよう働きかける。 関わり方 □ 怒りに正面から向き合わない。突き詰めない。巻き込まれない。相手を認めつつ障害による症状として捉え、心理的に巻き込まれない。 □ 行動や反応の観察や相談により、対象者の怒りやイライラにつながる言葉や状況を見つけ出す。 □ 物理的にその場から離し、物理的環境を変える。クールダウン、タイムアウト(短時間の小休止)などで、落ち着くのを待ち、どうすればよかったかを不適切な行動と照らし合わせて考え、社会的に望ましい行動を教える。 □ 相談によって、対象者の抱えている混乱や不安を整理する。 □ 感情的に批判したり否定したりせず、対象者の話を最後まで聞く。 □ 不適切な行動は、はっきりと指摘する(責めるような言動はしない)。 □ 対象者が気持ちを切り替えられるように働きかける。(落ち着く声掛けや写真を見せる、「ところで」と言って話題や場面を変えるなど) □ 感情が爆発しそうになった時に対象者が使える手がないかを一緒に探しておき、身につけられるように促す。 サポート体制の構築 □ 高次脳機能障害のある当事者との交流の機会を持てるようにする。 □ 主治医や高次脳機能障害に詳しい専門家に相談する。 □ 周囲の人を継続的にサポートできる体制を検討する。 気づき 自分の障害や病気について理解している。 自己対処の工夫 □ 受障による悲嘆状態から抜け切れずにいる場合は、脳や神経が疲労困憊の状況にあることが多いことを理解する。 □ 何ができないかではなく、何ができるのかを、まず理解する。 □ 信頼できる仲間を作る。 環境調整の工夫 □ 無理に障害を認識させようとしない。 □ 対象者が受障による悲嘆状態から抜け切れずにいる場合は、脳や神経が疲労困憊の状況にあることが多いことを理解する。 □ グループワークの場などで当事者と一緒に過ごす機会を作る。 □ 対象者ができないことではなく、できることを見つけて、障害を理解する。 □ 補完方法を提案し、実行することで「こうすればできる」といった実感を促す。 身体障害 障害や病気によって生じている身体機能の制限を理解している。 □ 重いものや大きいものを運ぶ場合は、ワゴンを利用する。 □ 片手での扱いが容易な文房具を使用する。  (片手で開閉しやすいリングファイル、開いた状態で固定できるクリップバインダー、机に置いて使うステープラーなど) □ 麻痺がある場合、シリコン製デスクシートや文鎮をつかって紙を押さえて固定する。 □ パソコン周辺の配置を構造化し、道具を取りやすくしたり、使いやすくする。 □ 外的補助具を活用する。(拡大鏡、老眼鏡、アームレスト、紙めくりクリーム、ルーペ、指サックなど) ワゴン 文 鎮 シリコン製デスクシート 神経心理学的検査の見方 神経心理学的検査は、記憶障害や注意障害、遂行機能障害などの高次脳機能障害のスクリーニングや障害特性の把握などのために使用される検査です。 医療機関から提供された検査結果を読み取って支援に活かすことを想定し、高次脳機能障害の診断にあたって用いられることが多い検査について解説します。 <全般的知的機能> 改訂長谷川式簡易知能評価スケール (HDS-R: Hasegawa Dementia Rating Scale-Revised) 認知症などの認知障害のスクリーニングとして用いられる検査です。 検査方法 9 項目の課題があり、 評価者が被検者に質問を行います。 検査項目 ① 年齢、② 日時、③ 場所、④ 3 単語の即時記銘・即時想起、⑤ 計算( 7 シリーズ)、⑥ 数唱問題( 3 桁と4 桁の逆唱)、⑦ 3 単語の遅延再生、⑧ 物品の記銘と再生、 ⑨ 野菜名の想起 所要時間 10 ~ 15 分程度です。 結果と アセスメント 最高得点は 30 点です。スクリーニングとして、20 点以下が認知機能障害疑いとされます。 検査項目ごとの個別の結果は、例えば、見当識( ② ③ )、即時記憶( ④ )、遅延記憶( ⑦ )、ワーキングメモリ( ⑤ ⑥ )、計算( ⑤ )、注意の持続( ⑤ )、語の流暢性( ⑨ )、 失語( ⑨ ) などに関する見立ての参考になります。 ミニメンタルステート検査 ( MMSE: Mini- Mental State Examination) 認知症などの認知障害のスクリーニングとして用いられる検査です。 HDS- R は口頭のみで実施できますが、 MMSE には、紙を折る課題や図形模写の課題などがあります。 検査方法 11 項目の課題があり、 評価者が被検者に質問や指示を行います。 検査項目 ① 時間の見当識、② 場所の見当識、③ 3単語の即時記銘・即時想起、④ 計算( 7 シリーズ)、⑤ 3 単語の遅延再生、⑥ 呼称、⑦ 短文復唱、⑧ 3 段階指示( 紙を折る作業についての口頭指示)、⑨ 文章指示、⑩ 書字・作文、⑪ 図形の模写 所要時間 10 ~ 15 分程度です。 結果と アセスメント 最高得点は 30 点です。スクリーニングとして、23 点以下が認知機能障害疑いとされます。 検査項目ごとの個別の結果は、例えば、見当識( ① ② )、即時記憶( ③ )、遅延記憶( ⑤)、ワーキングメモリ( ④)、計算( ④)、注意の持続( ④)、 呼称・読字・書字・口頭理解などの言語理解( ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ )、失語( ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ )、 空間認知( ⑪ ) などに関する見立ての参考になります。 浜松式高次脳機能スケール (HHBFS: Hamamatsu Higher Brain Function Scale) 記憶障害や注意障害、半側空間無視、 あるいは前頭葉機能の障害といった高次脳機能障害について、 短時間で全般的にスクリーニングできる検査です。 検査方法 所定の記録用紙に従って、 14 種の下位検査を行います。 1) 検査項目 ① 見当識( 名前、年齢、日時、場所)、② 5 単語の即時想起、③ 5 単語の5 分後再生、④ 動物名想起、⑤ 計算( 7 シリーズ)、⑥ 数唱問題( 順唱)、⑦ 数唱問題( 逆唱)、⑧ 数唱学習、⑨ 類似問題、⑩ 仮名ひろいテスト( 無意味綴)、⑪ 仮名ひろいテスト( 物語文)、⑫ 図形模写、⑬ 図形の再生、⑭ 直線の二等分 所要時間 15 分~ 20 分程度です。 結果と アセスメント 各検査項目の粗点は、0 ~ 19 点までの 20 段階の評価点に換算し、評価点はプロフィールに記載します。プロフィールには、 各検査項目について、平均年齢相当の健常者の平均および標準偏差( SD) の範囲が示されています。 したがって、 プロフィールを見れば、それぞれの検査結果が健常基準の範囲内か、 低いか高いかがわかります。 検査項目ごとの結果や相互の比較は、例えば 、「即 時記憶( ②5 単語の即時想起、⑥ ⑦ 数唱問題) 」、「 言語の中間期( 数分~ 数時間) 記憶と記憶の保持・想起( ③5単語5分後再生) 」、「非言語の中間 期( 数分~数時間) 記憶と記憶の保持・ 想起( ⑬ 図形の再生) 」、「 注意の持続( ⑤ 7 シリーズ) 」、「 注意の選択( ⑩ ⑪ 仮名ひろいテスト) 」、「 注意の配分・同時処理( ⑩ ⑪ 仮名ひろいテスト) 」、「 ワーキングメモリ( ⑤ 7 シリーズ、⑥ ⑦ 数唱問題) 」、「 半側空間無視( ⑫図形模写、⑭直線の二等分) 」、「構成障害( ⑫図形模写) 」、「 語の流暢性( ④ 動物名想起) 」、「 抽象化能力( ⑨ 類似問題)」などに関する見立ての参考になります。 ウエクスラー成人知能検査 (WAIS- Ⅳ : Wechsler Adult Intelligence Scale- Fourth Edition) 全般的な知的機能を包括的に評価する検査です。 WAIS- Ⅴ ( 第5 版) が開発されていますが、 日本では、 現時点で WAIS- Ⅳ ( 第4 版) が利用可能です( 2021 年 11 月現在)。 WAIS- Ⅳ には知的機能全般を表す指標だけでなく、 言語理解や知覚推理、 ワーキングメモリ、処理速度といった認知領域別の指標や各下位検査の評価点などさまざまな指標があり、 認知特性の特徴が把握できます。 検査方法 検査マニュアル 2)3) と記録用紙、 検査用具( 問題冊子やワークブック、積木など) に従って、 15 種の下位検査を行います。 下位検査には、 10 種の基本検査と5 種の補助検査があります。基本検査は全検査 IQ と4 つの指標得点を算出するためのもので、 最初に実施します。補助検査はより詳細な情報を得るためや、 必要に応じて基本検査の代わりとして使用するために実施します。 検査項目 基本検査( ① 積木模様、② 類似、③ 数唱、④ 行列推理、⑤ 単語、⑥ 算数、⑦ 記号探し、 ⑧ パズル、 ⑨ 知識、 ⑩ 符号) 補助検査( ① 語音整列、② バランス、③ 理解、④ 絵の抹消、⑤ 絵の完成) 所要時間 60 ~ 90 分程度です。 必要に応じて2 回に分けて実施する場合は、 1 週間以内に行うことが望ましいとされます。 結果と アセスメント 下位検査のそれぞれの粗点は評価点に換算します。下位検査の評価点は、平均を 10 、標準偏差( SD) を3 とする基準に基づいて得点化されます。つまり、評価点が7 であれば、同年齢群の平均より低い( 1 標準偏差) と言えます。 また、 全般的な知的能力を表す全検査 IQ( FSIQ: Full Scale IQ) のほか、 言語理解指標( VCI: Verbal Comprehension Index)、 知覚推理指標(PRI : Perceptual Reasoning Index) 、 ワーキングメモリ指標(WMI : Working Memory Index)、 処理速度指標(PSI: Processing Speed Index) の4つの指標を算出します。これらの指標は、平均を 100 、標準偏差( SD) を 15 とする基準に基づいて得点化されます。これにより 、130 以上 は「 非常に高い 」、 120 ~ 129 は「 高い 」、 110 ~ 119 は「 平均の上 」、 90 ~ 109 は「 平均 」、 80 ~ 89 は「 平均の下 」、7 0 ~ 79 は「 低い 」、 69 以下は「 非常に低い」 となります。 3) 下位検査や各指標の得点は同年齢群における比較や指標間の比較が可能であり、認知特性を明らかにするための手がかりを得ることができます。基本的なプロフィール分析の方法については、検査マニュアルに示されています。 なお、 WAIS- Ⅲ で用いられていた言語性 IQ( VIQ) と動作性 IQ( PIQ) は、それぞれに含める下位検査の構成が変更され、上記の言語理解指標( VCI) と知覚推理指標(PRI) に置き換えられています。 さらに、 WAIS- Ⅳ には補助的な指標として、 一般的知的能力指標( GAI: General Ability Index) があります。 外傷性脳損傷や認知症、 ADHD などによりワーキングメモリや処理速度に困難がある人は全検査 IQ( FSIQ) が低くなりがちであるため、 GAI ではその影響を除いた全般的認知能力を評価できます。また、検査結果の質的解釈や誤答の傾向を分析するため、 プロセス得点という指標もあります。GAI やプロセス得点の解釈の考え方は、 検査マニュアルに示されています。 コース立方体組み合わせテスト ( KBDT: Kohs Block Design Test) 立方体の組み合わせで模様を作成する課題のみで構成された、 非言語性の知能検査です。 言語反応を必要とせず、 口頭による教示がなくてもできるため、 聴覚障害や失語の影響を受けずに知的機能の評価ができます。 検査方法 赤、白、青、黄、赤と白、青と黄からなる6 面の立方体の積み木を組み合わせて、図版と同じ模様を作ってもらい、模様ができるまでの時間を測定します。 模様を作成するための積み木は、回を重ねるなかで4 個、9 個、16 個と増え、難易度が上がります。2問連続して失敗する( 制限時間内にできない、 図版と異なる模様を作るなど) と検査を終了します。 検査項目 図版は 17 番まであります( 17 種の下位検査)。 所要時間 20 分~ 50 分程度です。 結果とアセスメント 制限時間内に図版どおりの正しい模様ができた場合に、かかった時間に応じて得点がつきます。検査マニュアル4)にある得点算出表により各下位検査の得点を確認し、その得点を合計して総得点を算出します。この総得点から精神年齢換算表により精神年齢を換算し、歴年齢と精神年齢から知能指数( IQ) を算出します。 IQ が 140 以上は「 非常に優れている 」、115 ~ 140 は「 優れている 」、90~ 115 は「 普通 」、 66 ~ 90 は「 劣っている 」、 66 以下は「 非常に劣っている」 とされます。 ただし、 KBDT は、構成障害や半側空間無視などの高次脳機能障害の影響により成績が低下するため、知的機能を評価する際には、 他の神経心理学的検査の結果も確認するなど留意が必要です。 5) なお、近年は、軽度認知機能障害( MCI) のスクリーニング検査として用いられることもあります。 6) レーヴン色彩マトリックス検査 ( RCPM: Raven’ s Colored Progressive Matrices) 図案の欠落部分を選択肢の図の中から選ぶ課題で構成された、 非言語性の知能検査です。 知的機能低下のスクリーニングとして用いられます。 言語反応を必要とせず、 口頭による教示がなくてもできるため、 聴覚障害や失語の影響を受けずに実施可能です。 検査方法 標準図案の欠落している部分を推理し、 6つの図案の中から欠落部分に合うものを 1 つ選択してもらいます。 図形の欠けている部分を選ぶ課題や、 空白部分に相当する図形や模様を推論する課題があります。 検査項目 12 問の課題からなるセットが 3 セットあり、 合計 36 問あります。 所要時間 10 分~ 15 分程度です。 結果とアセスメント 1問正答を1点とし、満点は 36 点です 。日本版の標準化がされており、RCPM 全体の得点が 24 点以下である場合、知的機能低下の疑いがあるとされます。5) なお、RCPM は、WAB 失語症検査の下位検査にも含まれています。 <記憶機能> 標準言語性対連合学習検査 ( S- PA: Standard Verbal Paired- Associate Learning Test) 日本高次脳機能障害学会が開発した言語性記憶の検査です。 7) 従来あった三宅式記銘力検査や東大脳研式記銘力検査の問題点をふまえて標準化されています。 難易度をそろえた検査が3セットあり、 練習効果の影響なく同じ対象者に複数回検査ができるため、リハビリテーション効果などを評価できます。 検査方法 「 お茶- 菓子」といった関連のある単語の組合せ(有関係対語)を 10 組読み上げ、その後、その 10 組について、最初の単語のみを伝えて対の単語を思い出して言ってもらう試行を3回行います。次に、「卵焼き-社長」といった関連のない単語の組合せ(無関係対語) を 10 組読み上げ、同様 の試行を3回行います。 検査項目 有関係対語 10 組、 無関係 10 組で 1 セットです。 所要時間 10 分程度です。 結果とアセスメント 10 組のうち対の単語をいくつ正しく答えられたか、第3試行目の正答数が得点となります( 10 点満点)。 有関係対語試験と無関係対語試験それぞれの得点(正答数)により、「 良好 」、「 境界 」、「 低下」のいずれかの判定を行います。 例えば、有関係対語試験について、 45 ~ 54 歳の年齢区分では、第3試行目の得点(正答数) 0 ~ 7 点は「 低下 」、8~ 9 点は「 境界 」、10 点は「 良好 」 となります。最後に、 有関係対語試験と無関係対語試験の判定結果をもとに 、「 正常 」、「 境界 」、「 異常」 の総合判定を行います。 S- PA は、 対連合学習と呼ばれる形式でエピソード記憶を評価するものであり、 言語性の近時記憶( 数分間~数日程度の記憶) の障害のスクリーニング検査となります。ただし、失語や注意障害、認知的処理速度なども S- PA の成績低下に影響を与えるため、検査中の行動観察や他の神経心理学的検査などをふまえた慎重な評価が必要となります。 ウエクスラー記憶検査 (WMS-R: Wechsler Memory Scale- Revised) 言語性、 視覚性双方の記憶( 前向性記憶) に関する包括的な記憶検査です。 言語性記憶や視覚性記憶、 即時記憶や遅延記憶といった記憶のさまざまな側面をそれぞれ評価する指標を得ることができます。なお、すでに開発されている WMS- Ⅲ やWMS- Ⅳ の日本語版は、 現時点でまだ市販化されていません( 2021 年 11 月現在)。 検査方法 検査マニュアル 8)と記録用紙 、検 査用具( 問題冊子や下位検査カードなど) に従って、 13 種の下位検査を行います。 検査項目 ①情報と見当識( 個人的な情報や時間・場所に関する質問に答える課題)、②情報統制( 20 ~1までの数字を逆唱する課題、五十音を順に言う課題など)、 ③図形の記憶( 抽象的な図形を短時間で覚え、直後に選択肢から覚えた図形を選ぶ課題)、④論理的記憶Ⅰ( 物語を聴覚で聞き、直後に記憶を頼りに物語を再生する課題)、⑤視覚性対連合Ⅰ(抽象的な図形と色の対を覚え、直後に図形のみを見て対の色を選択肢から選ぶ課題)、⑥ 言語性対連合Ⅰ ( 有関係と無関係からなる8組の単語の対を読み上げ、直後に最初の単語のみ伝えて対の単語を思い出して答える課題)、⑦ 視覚性再生Ⅰ ( 10 秒間提示した幾何学図形を 、直後に記憶を頼りに描く課題)、⑧ 数唱(順唱と逆唱の2種の課題)、⑨ 視覚性記憶範囲(下位検査カードにランダムに配置された8つの■マークを、検査者と同順序でタッピングする課題と逆順序にタッピングする課題の2種)、⑩ 論理的記憶Ⅱ ( 論理的記憶Ⅰ の遅延再生課題)、⑪視覚性対連合Ⅱ( 視覚性対連合Ⅰの遅延再生課題)、⑫ 言語性対連合Ⅱ ( 言語性対連合Ⅰ の遅延再生課題)、⑬ 視覚性再生Ⅱ ( 視覚性再生Ⅰ の遅延再生課題) 所要時間 45 ~ 60 分程度です。 結果とアセスメント 下位検査の粗点は、① 情報と見当識の結果を除き、「 言語性記憶 」、「視覚性記憶 」、「 一般的記憶 」、「 注意/ 集中力 」、「 遅延再生」の5つの指標ごとに集計します。検査マニュアルに示された換算表により、指標ごとの集計点を指標得点に換算します。なお、指標得点は、平均が 100 、標準偏差が 15 になるように標準化されます。よって、これら5 つの指標それぞれについて、 130 以上が最優秀域、 120 ~ 129 が優秀域、 110 ~ 119 が普通域上位、 90 ~ 109 が普通域、 80 ~ 89 が普通域下位、 70 ~ 79 が境界域、 50~ 69 が軽度記憶障害域、50 未満が中等度から中度記憶障害域と評価できます。 6) なお 、「 一般的記憶」は 、「 言語性記憶」と「 視覚性記憶」の集計点の合計から算出するもので、 MQ( Memory Quotient) と言われます。 ウエクスラー成人知能検査( WAIS) から算出される IQ と MQ に 15 以上の差がある場合は、 有意な記憶障害を示します。 9) 日本版リバーミード行動記憶検査 ( RBMT: Rivermead Behavioral Memory Test) 日常生活上の記憶 ( everyday memory) の障害を定量的に評価できる検査です。「 人の名前を覚える 」「 道順を覚える 」「 持ち物を覚えておく」 といった日常生活場面に沿った課題で構成されています。 展望記憶( 未来の予定や約束についての記憶) を検査できることが特徴です。また、難易度をそろえた検査が4セットあり、 練習効果の影響なく同じ対象者に複数回検査ができるため、リハビリテーション効果などを評価できます。 検査方法 検査マニュアル 10) に基づき、顔写真や絵カード、被検者の持ち物、検査を行っている部屋の配置などを使って、日常生活場面で遭遇するような記憶の課題を出します。 検査項目 ① 写真の人物の姓名、② 絵カードの絵の再認、③ 写真の顔の再認、④ 物語の即時再生、⑤物語の遅延再生、 ⑥道順と用件の即時再生、 ⑦道順と用件の遅延再生、⑧見当識と日付、 ⑨約束の記憶、⑩ 隠した持ち物の記憶 所要時間 20 ~ 30 分程度です。 結果と アセスメント 記録用紙にある分類に従って、各検査結果の粗点を標準プロフィール点とスクリーニング点に換算します。標準プロフィール点とスクリーニング点は合計します(標準プロフィール点の満点 24 点、スクリーニング点の満点 12 点)。 それぞれにカットオフ値があり( 表1 )、 カットオフ値以下であれば記憶障害の疑いがあるとされます。 表1 標準プロフィール点およびスクリーニング点のカットオフ値 年齢区分 標準プロフィール点 スクリーニング点 39歳以下 19 以下 7以下 40~59歳 16 以下 7以下 60歳以上 15 以下 5以下 標準プロフィール点とスクリーニング点はいずれも記憶障害の有無の指標ですが、 標準プロフィール点は重症度の指標ともなり、0 ~9 点は重度、10 ~ 16 点は中等度、17 ~ 21 点は境界、22 ~ 24 点は障害なしと判定されます。11) また、標準プロフィール点では各下位検査間の得点の比較が可能です( 59 歳までの場合)。 10) 検査項目ごとの個別の結果は、「人名の記憶( ① ) 」、「視覚的な記憶(② ) 」、「相貌の認知( ③) 」、「言語的な記憶( ④⑤) 」、「 道順や場所の記憶(⑥⑦ ) 」、「予 定や約束の記憶( ⑨⑩)」など、実際の生活において記憶に関わる問題がどのように生じているか(生じそうか) を明確化するための参考になります。 ベントン視覚記銘力検査 ( BVRT: Benton Visual Retention Test) 幾何学的な図形の記憶と再生を求める課題で構成された視覚性即時記憶の検査です。簡単に短時間で実施することができ、器質性脳障害の判定に有用とされます。ただし、日本版の標準値が示されていないという問題点があると指摘されています。 12 ) 難易度をそろえた検査が3セットあり、 練習効果の影響なく同じ対象者に複数回検査ができます。また、言語反応を必要とせず、口頭による教示がなくてもできるため、聴覚障害や失語の影響を受けずに実施可能です。 検査方法 図版を1枚ずつ提示し、その後再生描画してもらいます。「 図版 10 秒提示- 直後再生 」、「 図版5 秒提示- 直後再生 」、「 図版 10 秒提示- 15 秒後再生 」、「 図版の模写」 の4通りの実施方法があります 。「 図版 10 秒提示- 直後再生」 という方法が最も多く実施されているようです。 12) 検査項目 1 セットに 10 枚の図版があります。 所要時間 5 ~ 10 分程度です。 結果と アセスメント 10 枚の図版のうち正確に再生描画した正答数( 10 点満点) により、全般的な成績水準を評価します。年齢区分ごとに正答数の標準値が示され、それよりも低い場合は何らかの障害があると考えられます。また、正答数から IQ 値を算出します。誤謬数も採点対象となり( 6 部門 63 種の誤謬の分類が定められている)、 これにより質的分析を行います。 図版を提示してすぐに再生を求める検査であることから、視覚性の即時記憶の指標とできます。また、模写を求める実施方法もあり、視覚認知や視空間認知の障害や半側空間無視の影響を評価することができます。 <注意機能> 標準注意検査法 (CAT: Clinical Assessment For Attention) 日本高次脳機能障害学会が開発した注意障害の検査です。 選択性注意や持続性注意、 分配性注意、 注意の転換といった注意のさまざまな機能を分析的に評価できます。 検査方法 7 種の下位検査があり、 検査マニュアル 13)に基づき、 検査図版や検査用紙、 CD プレイヤーからの聴覚刺激( 数字や語音)、 パソコン画面に提示される視覚刺激( 数字) などによる課題を出します。目的によって、 下位検査単独の実施も可能です。 検査項目 ① Span( Digit Span(数唱) と Tapping Span(視覚性スパン) の2種)、 ② Cancellation and Detection Test( 抹消・検出検査 、V isual Cancellation Task ( 視覚性抹消課題) と Auditory Detection Task( 聴覚性検出課題) の2 種) 、 ③ Symbol Digit Modalities Test( SDMT) 、 ④ Memory Updating Test( 記憶更新検査)、 ⑤ Paced Auditory Serial Addition Test( PASAT)、⑥ Position Stroop Test( 上 中 下 検 査 ) 、 ⑦ Continuous Performance Test( CPT) 所要時間 パソコンを使用する⑦ CPT を除くと、 約 50 分です。 ⑦ CPT 単独で約 50 分かかります。 検査が1度にできない場合は2回に分けて実施します。パソコンを使 用する⑦CPT は特に時間がかかるため、 単独で実施して構わないとされます。 結果とアセスメント 各下位検査の結果(検査によりSpan桁数や所要時間、正答率など評価する結果が異なる) は、CATプロフィールに記載します。 年代別プロフィール( 20 歳代~ 70 歳代) には、健常平均値、標準偏差、カットオフ値が記載されています。したがって、プロフィールを見れば、各下位検査の結果が、カットオフ値以上か以下か、 健常基準の範囲内かそうでないかがわかります。 「 ① Span」は注意の範囲や強度を評価する検査です。また、短期記憶の検査であり、 聴覚的な記憶範囲と視覚的な記憶範囲をそれぞれ評価します。「 ② 抹消・検出検査」は選択性注意の検査で、視覚性の選択性注意と聴覚性の選択性注意をそれぞれ評価します 。「③ SDMT 」、「④記憶更新 検査 」、「 ⑤ PASAT 」、「 ⑥ 上中下検査」では、分配性注意や注意の転換を評価します。なお 、「 ④ 記憶更新検査」と「 ⑤ PASAT」は、ワーキングメモリの関与が大きい検査です。また 、「 ⑥ 上中下検査」は Stroop テスト( 例えば、赤色で書かれた黄色という文字を読ませるといったテスト) と言われる もので、 前頭葉機能の検査として干渉刺激がある場合の抑制機能、 あるいは葛藤条件下での監視機能を評価します 。「⑦CPT」では持続性注意を評価します。 <遂行機能> ウィスコンシンカード分類テスト ( WCST: Wisconsin Card Sorting Test) 前頭葉機能障害を明らかにする検査です。 また、 遂行機能障害は前頭葉機能障害が影響することから、 遂行機能障害の評価として用いられます。 Milner( 1963 ) によって開発された WCST がありましたが、 問題点を改善し使いやすくした慶應版ウィスコンシンカード分類検査( Wisconsin Card Sorting Test- Keio version: KWCST) が市販されています。この市販されている KWCST は、実際のカードを使用し、検査者と被験者が対面で実施するものです。 また、 コンピューター画面上で実施する PC 版WCST があります。 検査方法 色・形・数が異なる図形が描かれたカードを使用します。検査者が提示したカードに対し、被検者は同じカテゴリー( 色ごと・形ごと・数ごとのいずれか) と思われるカードを選択肢の中から選びます。色・形・数のどのカテゴリーで分類するかというルールは示さず、被検者がカードを選んだ後に、 その分類の考え方が正しいか( 〇か)、 間違いか( ×か) のみを 伝えます。被検者はこの〇×を手掛かりに、分類のルールを推測します。 被験者が6回連続で正答するまでは同じルールを適応し、6回連続正答後は分類ルールを予告なしに変更します。 KWCST の場合、48枚のカードの分類が終わるとセッション終了です。また、KWCST の場合、セッションが2つあります。セッション1では、色・形・数の分類カテゴリーがある ことと、 反応の〇×のみしかフィードバックしないことを事前に説明します。セッション2では、 正解となる分類カテゴリーが時々変わることを追加教示します。 検査項目 ① 達成カテゴリー数( CA: Categories Achieved, KWCT の場合は、6回連続正答した分類カテゴリーの数 )、② 誤反応のパターン等※ ※ 誤反応のパターン等には 、ミルナー型保続性エラーの誤反応数( PEM: Perseverative Errors of Milner, 前に正しかった分類ルールに固執する) や、ネルソン型保続性エラーの誤反応数( PEN: Perseverative Errors of Nelson, 間違った分類に固執する)、セットの維持困難( DMS : Difficulty Maintaining Sets, 2 以上5 以下の連続正答後に誤反応が生じた回数)、試行錯誤数、全誤反応数などがあります。 所要時間 20 ~ 30 分程度です。 結果とアセスメント 達成カテゴリー数(CA) などの検査項目は、年齢別の標準値と比較して評価します。 WCST で正答を出すためには、ルールを推論し、理解し、それを維持し、必要に応じて柔軟に転換するといった遂行機能が求められます。円滑な遂行機能を妨げる前頭葉機能の症状として、「 行動の開始が困難 」、「 行動の維持が困難 」、「 切替えが困難( 保続) 」、「 衝動性・抑制が困難 」、「 失敗からの学習が困難 」、「推論が 困難 」、「概念 形成が困難 」、「思考の柔軟 性の制限」といったものが挙げられます。行動観察を含む WCST の結果は、遂行機能の阻害要因としてどのような前頭葉機能の症状が考えられるか、見立ての参考となります。 特に WCST は、 概念や行動の切替え( セットシフティング) の障害を検出すると言われます。 14) 遂行機能障害症候群の行動評価 ( BADS: Behavioural Assessment of the Dysexecutive Syndrome) リバーミード行動記憶検査( RBMT) と同じく、 日常生活上の遂行機能の障害を定量的に評価できる検査です。全般的に遂行機能障害が疑われるかどうかが検出できるだけでなく、新しい課題に対応できるか、段取りが組めるか、時間の見積もりや時間配分が検討できるかなど、日常生活上の問題解決場面における遂行機能の特徴を分析的に捉えることができます。 検査方法 検査マニュアル 15) に基づき、トランプカードや地図、試験管・ビーカー・コルク・ 針金といったさまざま物品からなる検査キットを使って、日常生活上の問題解決場面に似た6種の下位検査を実施します。 検査項目 ① 規則変換カード検査、② 行為計画検査、③ 鍵探し検査、④ 時間判断検査、 ⑤ 動物園地図検査、 ⑥ 修正6 要素検査 また、 これら6種の下位検査のほかに、 遂行機能障害がある場合に特徴的にみられる行動特性が当てはまるかどうかの認識を尋ねる本人用と家族・ 介護者用の質問紙(20 問) がついています。 所要時間 40 ~ 60 分程度です。 結果とアセスメント 各検査結果の粗点はプロフィール得点に換算し、それらを合計して総プロフィール得点( 満点 24 点) を算出します。さらに、総プロフィール得点を標準化得点に変換します。その標準化得点により、遂行機能について「 障害あり 」、「 境界域 」、「 平均下 」、「 平均 」、「 平均上 」、「 優秀 」、「 きわめて優秀」 と区分します( 表2 )。 表2 標準化得点と全般的区分 全般的区分 40 歳以下 41~ 65 歳 65~ 87 歳 障害 あり 65 以下 68 以下 69 以下 境界域 70、75 73、78  74、79 平均下 81、86 83、88 84、89 平 均 91、97、102、108 93、98、102、108 94、99、104、109 平均上 113、118 112、117 114、119 優秀 124、129 123、127 124、129 きわめて優秀 ― ― 134、139 また、検査項目ごとの個別の結果は、「 新しい規則や規則の変化に対応できるか、柔軟に切り替えられるか(① 規則変換カード検査) 」、「新しい課題に対し、計画的な解決ができるか(②行為計画検査) 」、「課題を効率的・効果的に解決できるか(③鍵探し検査) 」、「常識的な時間の見積もりや推論ができるか(④時間判断検査) 」、「提示された規則を念頭に置きながら、複数のプロセスを組み合わせ、計画を立てられるか(⑤ 動物園地図検査) 」、「指示されたとおり手順を進められるか、手順書やチェックリストは有効か(⑤ 動物園地図検査) 」、「規則や時間配分を念頭に計画、実行、モニタリング、調整ができるか(⑥修正6要素検査)」など、遂行機能障害が日常生活においてどのように現れるか(現れそうか) を把握する参考となります。 トレイルメイキング検査日本版 (TMT-J: Trail Making Test Japanese Edition) 比較的簡単に実施することができ、遂行機能障害や注意障害の評価として利用される検査です。また、認知症や脳損傷による障害の存在を反映しやすい検査とされます。自動車運転の適性に関する神経心理学的検査として使用されることもあります。難易度をそろえた検査が2 セットあり、練習効果の影響なく同じ対象者に対して2 回検査ができます。 検査方法 被検者には、A4判の検査用紙にランダムに配置された数字や文字を、鉛筆で線を引きながら順番に結んでもらいます。数字を1 ~ 25 まで順番に結んでいく Part A と、1 ~ 13 までの数字と五十音(あ~し)を交互に順番に結んでいく Part B の2 種類の課題があります。 検査項目 開始から結び終わるまでの時間と誤反応を計測します。 所要時間 15 分程度です。 結果とアセスメント 検査マニュアル 16)には、開始から結び終わるまでの所要時間について、20 代から 80 代までの年代別のカットオフ値を示す判定表が載せられています。それにより、所要時間が平均レベルか、境界レベルか、何らかの障害や制限があると言えるレベルかを判定します。さらに、所要時間と誤反応の回数に応じ、Part A と Part B のそれぞれについて「正常」「境界」「異常」 といった総合判定を行います。 TMT の成績が低い場合、何らかの障害があると考えることができ、あるいは、遂行機能障害や注意障害を反映していると考えられます。ただ、どういった機能に制限があるのか、原因は何なのかということについては、 Part A と Part B の成績の比較や、行動観察結果、他の神経心理学的検査の結果などとあわせて考えていく必要があります。 TMT の遂行には、注意の選択機能などが関わる視覚性探索能力、鉛筆を離さず課題を持続して遂行する持続性注意、認知的処理速度が関わるとされます。また、Part B は、数字と五十音の交互の順番を一時的に記憶しながら切り替える課題であり、ワーキングメモリや注意の配分、遂行機能における切替え(セットシフティング) が関わります。数字と五十音を切り替えられないといった誤反応の観察によって、衝動性や保続が確認されることもあります。特に Part B は前頭葉機能障害がある場合の指標と言われます。 全般的な認知障害、運動障害、手と視覚の協調運動機能の障害、意欲の低下も成績に影響します。 また、失語や半側空間無視がある場合も成績低下がみられます。 <失語> 標準失語症検査 ( SLTA: Standard Language Test of Aphasia) 日本高次脳機能障害学会が開発したわが国の代表的な失語症の検査です。「 聴く 」、「 話す 」、「 読む 」、「 書く 」、「 計算 」 といった言語能力の諸側面を包括的に評価し、失語症の有無や重症度、タイプを診断することができます。 検査方法 「 聴く 」、「 話す 」、「 読む 」、「 書く 」、「 計算 」の5つの検査領域があり、それぞれの検査領域ごとに「単語の理解」、「単語の復唱」といった下位検査が設けられています。下位検査は 26 種です。 検査マニュアル 17) に基づき、図版や文字カード、実際の物品(ハンカチ、鏡、櫛など) を使って、聴く課題、話す課題、読む課題、書く課題、計算課題を出します。例えば、聴く課題の「単語の理解」では、図版にある6つの絵を見せながら、「猫はどれですか。指さしてください」といった質問を口頭で行い、耳で聴いた単語の理解を確認します。 検査項目 Ⅰ. 聴く( ①単語の理解、② 短文の理解、 ③口頭命令に従う、④ 仮名の理解)、 Ⅱ . 話す( ⑤ 呼称、 ⑥ 単語の復唱、 ⑦ 動作説明、 ⑧ まんがの説明、⑨ 文の復唱、⑩ 語の列挙、⑪ 漢字単語の音読、⑫ 仮名1 文字の音読、⑬ 仮名単語の音読、⑭ 短文の音読)、Ⅲ . 読む( ⑮ 漢字単語の理解、⑯ 仮名単語の理解、⑰ 短文の理解、⑱ 書字命令に従う)、Ⅳ 書く( ⑲ 漢字単語の書字、⑳仮名単語の書字、㉑まんがの説明、㉒仮名1文字の書取、㉓漢字単語の書取、 ㉔仮名単語の書取、 ㉕短文の書取)、 Ⅴ . 計算( ㉖計算) 所要時間 すべての検査を実施するには 60 ~ 90 分程度かかります。被験者の疲労などを勘案し、必要に応じて分割実施できることとなっています。ただし、検査開始から終了までの期間は2週間以内とされています。 結果とアセスメント 各下位検査の結果は、一部の例外を除き6段階評価します。6段階評価では、6 = 完全正答(スムーズに正答した)、5 =遅延完全正答(遅れあるいはよどみが見られたが正答した) から、2= 関連(ヒントを与えられても正答できなかったが、部分的に正しい反応があった)、1=誤答(ヒントを与えられても段階2に達しなかった) など、反応特徴によって区分します。6段階評価は、失語症症状の程度を詳細に評価し、細かな変化も捉えられるようにするためです。 さらに、6段階評価を正答・誤答の2段階評価になおします。この2段階評価では、6段階評価の5・6を正答、1~4を誤答とします。 そして、下位検査ごとの正答率( 正答数/ その下位検査の課題項目数) を計算します。 プロフィールAには、下位検査ごとの正答率を折れ線グラフで表示します。非失語症群の平均と標準偏差の折れ線があわせて記入されているため、プロフィールを見れば、被験者の各下位検査の成績が標準域か、それ以下かを確認でき、失語があるかや失語のタイプを検討できます。また、 SLTA には、 プロフィールB という様式もあります。 これは、 各下位検査の正答率を「 聴く 」、「 読む 」、「 話す 」、「 書く 」、「 計算 」、「 復唱 」、「音読 」、「書 取」といった言語様式ごとに並べ替えて折れ線グラフに表すもので、失語症重症度別の3群( 軽度・中度・ 重度) と非失語症群の平均値が折れ線で記入されているため、失語の重症度を検討する参考とできます。 さらに、プロフィールCという様式では、各下位検査の成績が失語症母集団の平均からどの程度離れているかをみることができます。 なお、 SLTA には、 例えば各下位検査の得点を総計し、 失語の有無や失語症の分類を総合的に判定する指標はありません。 WAB 失語症検査 (WAB: Western Aphasia Battery) 国際的に使われている失語症検査の日本語版です。 SLTA と同じく、言語能力を包括的に評価する検査です。また、 WAB には、失語症の検査項目以外に、描画や積木問題、失行検査、レーヴン色彩マトリックス検査(RCPM)など非言語性の検査も含まれています。 検査で使用する物品( 鉛筆やボールなど 20種、 積木問題の積み木)やレーヴン色彩マトリックス検査は別途用意する必要があります。 検査方法 「 自発話 」、「 話し言葉の理解 」、「 復唱 」、「 呼称 」、「 読み 」、「 書字 」、「 行為 」、「 構成」の8 種の大項目があり、大項目ごとに「 物品呼称 」、「 文章完成」 といった下位検査が設けられています。 下位検査は 38 種です。 検査マニュアル 18)に基づき 、図版や文字カード 、実際の物品を使って、物品を呼称してもらう課題や、口頭による命令を遂行してもらう課題、文字カードによる命令を遂行してもらう課題などを行います。 検査項目 Ⅰ . 自発話( ① 情報の内容、 ② 流暢性)、 Ⅱ . 話し言葉の理解( ③ 「 はい」「 いいえ」で答える問題、④ 単語の聴覚的認知、⑤ 継時的命令)、Ⅲ . 復唱( ⑥ 復唱)、Ⅳ . 呼称( ⑦ 物品の呼称、⑧ 語想起、⑨ 文章完成、⑩ 会話での応答)、Ⅴ . 読み( ⑪ 文章の理解、⑫ 文字による命令文、⑬ 漢字単語と物品の対応、⑭ 仮名単語と物品の対応、⑮ 漢字単語と絵の対応、⑯仮名単語と絵の対応、⑰ 絵と漢字単語の対応、 ⑱絵と仮名単語の対応、⑲ 話し言葉の単語と仮名単語の対応、 ⑳話し言葉の単語と漢字単語の対応、㉑文字の弁別、㉒漢字の構造を聞いて語を認知する、㉓漢字の構造を言う)、Ⅵ . 書字( ㉔指示に従って書く、㉕書字による表現、㉖書き取り、㉗漢字単語の書き取り、㉘仮名単語の書き取り、㉙五十音、㉚数、㉛文字を聞いて書く、㉜数を聞いて書く、㉝写字)、Ⅶ . 行為( ㉞行為)、Ⅷ . 構成( ㉟描画、㊱積木問題、 ㊲計算、 ㊳レーヴン色彩マトリックス検査) 所要時間 すべての検査を実施するには2~4時間程度かかります。口頭で答える問題( Ⅰ自発語、Ⅱ 話し言葉の理解、 Ⅲ復唱、 Ⅳ呼称) のみを行う場合は、1 時間程度でできます。なお、分割実施は可能であり、また、非言語性検査の実施は任意としています。 結果とアセスメント 課題ごとに定められた採点基準に従って回答に得点をつけます。下位検査のなかの複数の課題の得点を合計し、下位検査ごとの得点を算出します。 プロフィール( その1 ) は、 38 種の下位検査ごとの得点を折れ線グラフで表示します。 検査マニュアルには、 38 種ある下位検査それぞれの失語症患者および健常者の平均得点と標準偏差が示されているため、言語機能の諸側面ごとに標準値と照らし合わせた評価が可能となります。 プロフィール( その2) は、8種の大項目ごとに再点数化した得点を折れ線グラフに表示するもので 、「自発話 」、「話し言葉 の理解 」、「復 唱 」、「 呼称 」、「 読み 」、「 書字」 といった大項目別に特性を一覧できます。 また、この大項目ごとの得点から、失語指数( AQ: Aphasia Quotient) と大脳皮質指数( CQ: Cortical Quotient) を算出します。 失語指数( AQ) は、「 自発話 」、「 話し言葉の理解 」、「 復唱 」、「 呼称」の4 つの大項目の得点から算出するもので、 健常者の平均は 97 . 7 点( 標準偏差 3 . 0 )、 失語症患者の平均は 53 . 0 点( 標準偏差 29 . 4 ) です。 大脳皮質指数( CQ) は 、「 読み 」、「書字」 の得点と「行為 」、「構成」 といった非言語性検査の得点を含めた、総合的な認知機能を評価する指標です。大脳皮質指数( CQ) の健常者の平均は 96 . 3 点( 標準偏差 4 . 4 )、 失語症患者の平均は 57 . 1 点( 標準偏差25 . 5 ) です。 さらに、検査マニュアルに示されている分類表にしたがって、検査得点から、全失語、ブローカ失語、ウェルニッケ失語、健忘失語の4 タイプの失語症の分類が検討できるようになっています。 <失行> 標準高次動作性検査 ( SPTA: Standard Performance Test for Apraxia) 高次脳機能障害学会が開発した失行の検査です。失行に関わる動作の観察を網羅的に統一された形で実施できるよう標準化したもので、 検査項目である動作を被験者に実際にしてもらい、 その反応によって失行の判定を行います。 検査で確認する動作で使用する用具( 歯ブラシや櫛、 衣服、 お茶を飲むためのセットなど) は別途用意する必要があります。 検査方法 「 顔面動作 」、「 上肢( 片手) 慣習的動作 」、「 上肢・物品を使う動作」といった 13 種の大項目があり、さらに小項目が設定されています。小項目は「 舌を出す 」、「 お茶を入れて飲む」といった具体的な動作を示すもので、各小項目が課題となります。課題では 、「 舌を出してください 」、「 お茶を入れて飲んでください」といった口頭命令や「まねをしてください」といった模倣の命令を行い、 それぞれについて、被験者がどのように反応するかを観察し、 評価します。 19) 検査項目 ① 顔面動作 (「 舌を出す 」、「 舌打ち」など)、② 物品を使う顔面動作 (「火を吹き消す」)、③上肢( 片手) 慣習的動作(「軍隊の敬礼 」、「おい でおいで」など)、④ 上肢( 片手) 手指構成模倣(「 Ⅰ Ⅲ Ⅳ 指輪( 手をキツネの形にする)」など)、⑤ 上肢( 両手) 客体のない動作(「 8 の字 」、「 蝶」など)、⑥ 上肢( 片手) 連続動作(「 ルリアの屈曲指輪と伸展こぶし」)、⑦ 上肢・着衣動作 (「 着る」)、⑧ 上肢・物品を使う動作( 物品なし「 歯を磨くまね 」、「 髪をとかすまね」 など、 物品あり「 歯を磨く 」、「 櫛で髪をとかす」 など)、⑨ 上肢・系列的動作(「 お茶を入れて飲む 」、「 ローソクに火をつける」)、⑩ 下肢・ 物品を使う動作(「 ボールをける」)、⑪ 上肢・ 描画: 自発(「 三角をかく」など)、⑫ 上肢・ 描画: 模倣(「 幾何学的図形の模写」)、⑬ 積み木テスト(「 WAIS の積み木課題」) 所要時間 すべての検査を実施するには 1 時間 30 分以上かかり、必要に応じて分割実施できることとなっています。 ただし、検査開始から終了までの期間は2 週間以内とされています。 結果とアセスメント 各小項目の評価では、正常な反応で課題を完了できたかをチェックし得点化します。得点は誤り得点と呼ばれ、できた場合は0点、 できなかった場合は2点、完了できたがその過程に問題があった場合は1点です。また、検査マニュアル 19)に示された分類に従って反応タイプを分類します。さらに、失語症と麻痺の影響をチェックします。最後に、各検査の成績から失語症や麻痺などの影響を除外するための計算式により、修正誤反応率を算出します。 検査項目の誤反応率は、成績プロフィールに転記します。よって、プロフィールでは、どの動作の誤反応が多いか、結果のパターンを視覚的に一覧できます。 SPTA では、 誤反応率などの結果がいくらであれば失行と判定といった基準があるわけではなく、 失行に関わる動作を網羅的に再現してもらう中で、誤反応の状況から失行かどうかを判断します。なお、 麻痺や運動失調といった運動機能障害や、失語や知的機能の制限などによる口頭命令の理解力の影響などとの鑑別は難しく、 関連症状に関する事前情報や反応タイプの観察などをふまえて検討する必要があります。 また、 SPTA では、 どの検査項目がどの失行の種類に該当するかは直接示しません。ただ、例えば 、「 歯を磨くまね」といった「 上肢・ 物品を使う動作: 物品なし」の検査は観念運動失行に該当し 、「 歯を磨く」といった「 上肢・物品を使う動作: 物品あり」の検査は観念失行に該当します。そのほか、上肢・着衣動作の検査は着衣失行に該当し、上肢・手指構成模倣や上肢・ 描画: 模倣の検査は構成失行に該当します。 <失認> 標準高次視知覚検査 ( VPTA: Visual Perception Test for Agnosia) 日本高次脳機能障害学会が開発した視覚失認と視空間失認に関する検査です。 物体失認や色彩失認、 相貌失認、 失読といった高次視知覚機能障害の包括的な評価を行います。 検査方法 「 物体・画像認知 」、「 相貌認知 」、「 シンボル認知」といった7 種の大項目があり、さらに 44 種の中項目が設定されています。中項目は「 物品の呼称 」、「 家族の顔 」、「 模写」といったもので、検査マニュアルに従って、図版や評価表紙を使いながら、中項目ごとに決められた課題を出します。 検査項目 ① 視知覚の基本機能( 中項目は、線分の長さの弁別、数の目測、形の弁別など)、② 物体・画像認知( 中項目は、絵の呼称、物品の呼称、使用法の説明など)、③ 相貌認知( 中項目は、有名人の命名、未知相貌の異同弁別、表情の叙述など)、④ 色彩認知( 中項目は、色名呼称、色相の照合、色相の分類など)、⑤ シンボル認知( 中項目は、記号の認知、文字の音読、文字の照合など)、 ⑥視空間の認知と操作( 中項目は、 線分の2等分、線分の抹消、模写など)、⑦ 地誌的見当識( 中項目は、日常生活、個人的な地誌的記憶など) 所要時間 すべての検査を実施するには 1 時間 30 分以上かかり、必要に応じて分割実施できることとなっています。 ただし、検査開始から終了までの期間は2 週間以内とされています。 結果とアセスメント 各課題は、反応時間によって原則3段階で評価します。中項目ごとに即反応や遅延反応の時間範囲が決められており、 即反応は0点、遅延反応は1点、無反応・誤答は2点です。各課題の点数を中項目ごとに合計し、誤り得点を算出します。また、誤反応の場合は、反応を具体的に記述し、特に保続的誤りや半側空間無視による誤りなどはチェックすることになっています。 20) 中項目ごとの誤り得点は、 成績プロフィールに転記します。 成績プロフィールは折れ線グラフ表示であり、中項目のどの項目の誤り得点が高いか( つまり誤りが多いか)、結果のパターンを視覚的に一覧することができます。 VPTA 全体としての総合評価はありません。 多岐にわたる検査項目( 大項目および中項目) それぞれについて個別に評価し、 視知覚機能に関わる障害がどこにどのように現れているのか、また、どのような視覚失認や視空間失認があるのかを把握します。 <視空間認知> BIT 行動性無視検査日本語版 (BIT: Behavioural Inattention Test) 半側空間無視の有無を明らかにする検査です。また、 半側空間無視によって日常生活上どのような問題が生じそうかを予測し、 リハビリテーション課題を検討するための検査が含まれています。 検査方法 線分二等分や文字抹消、図形模写など、 検査用紙と鉛筆を使って行う「通常検査」 と、写真や時計、地図といった日常生活場面に沿った材料を使う「 行動検査」の2つのパートがあります。 検査マニュアルに従って、6種の下位検査からなる通常検査と9種の下位検査からなる行動検査を行います。 検査項目 通常検査( ① 線分抹消試験、② 文字抹消試験、③ 星印抹消試験、④ 模写試験、 ⑤ 線分二等分試験、 ⑥ 描画試験) 行動検査( ① 写真課題、② 電話課題、③ メニュー課題、④ 音読課題、⑤ 時計課題、 ⑥ 硬貨課題、 ⑦ 書写課題、 ⑧ 地図課題、 ⑨ トランプ課題) 所要時間 すべての検査を行う場合、 45 分程度かかります。 結果とアセスメント 各下位検査は、正答数や間違い、見落としの数を基準に評価します。下位検査それぞれの得点についてカットオフ値が示されています。また、通常検査と行動検査それぞれの合計得点のカットオフ値も示されています。 通常検査の合計得点のカットオフ値は 131 点、 行動検査の合計得点のカットオフ値は 68 点です。得点がカットオフ値以下の場合、半側空間無視があると判定されます。 6) なお、 半側空間無視の現れ方はさまざまで、行動検査の合計得点はカットオフ値以上でも通常検査の合計得点はカットオフ値以下だったり、下位検査のいくつかのみがカットオフ値以下ということもあります。 6)正答でも、例えば描画が右側に偏るといったことも観察されます。 半側空間無視の判定についてはそれぞれの下位検査や行動観察の結果を踏まえ、総合的に検討する必要があります。また、行動検査の結果は、半側空間無視の有無だけではなく、実際の生活において半側空間無視に関わる問題がどのように生じているか( 生じそうか) を明確化するための参考となります。 <参考文献> 1) 今村陽子: 臨床高次脳機能評価マニュアル 2000(改訂第2版)、新興医学出版社(2000) 2) David Wechsler: 日本版 WAIS-Ⅳ 実施・採点マニュアル、日本文化科学社(2018) 3) David Wechsler: 日本版 WAIS-Ⅳ 理論・解釈マニュアル、日本文化科学社(2018) 4) S.C.Kohs、大脇義一編者:コース立方体組み合わせテスト使用手引(改訂版)、三京房 (2014) 5) 田川皓一、池田学:神経心理学への誘い 高次脳機能障害の評価、西村書店(2020) 6) 小海宏之: 神経心理学的アセスメント・ハンドブック、金剛出版(2015) 7) 日本高次脳機能障害学会、Brain Function Test 委員会、新記憶検査作製小委員会: 標準言語性対連合学習検査、新興医学出版社(2014) 8) David Wechsler、杉下守弘訳著: 日本版ウエクスラー記憶検査法 WMS-R、日本文化科学社(2001) 9) JOHN R HODGES、森悦朗監訳:臨床家のための高次脳機能のみかた、新興医学出版社 (2011) 10)Wilson BA、Cockburn JM、Baddeley AD、綿森淑子、原寛美、宮森孝史他訳著: 日本版リバーミード行動記憶検査使用の手引き、解説と資料、千葉テストセンター(2002) 11)武田克彦、長岡正範編著:高次脳機能障害~ その評価とリハビリテーション、中外医学社(2016) 12)滝浦孝之: 日本におけるベントン視覚記銘検査の標準値:文献的検討、広島修大論集.人文編 48 (2007)、PP273-313 13)日本高次脳機能障害学会 Brain Function Test 委員会: 日本標準注意検査法・標準意欲評価法、新興医学出版社(2006) 14)障害者職業総合センター:精神障害者等を中心とする職業リハビリテーション技法に関する総合的研究(最終報告書)、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(2004)、 P29 15)Wilson BA、Alderman N、Burgess PW et al.、鹿島晴雄監訳: 遂行機能障害症候群の行動評価日本版、新興医学出版社(2003) 16)日本高次脳機能障害学会 Brain Function Test 委員会: Trail Making Test 日本語版、新興医学出版社(2019) 17)日本高次脳機能障害学会 Brain Function Test 委員会: 標準失語症検査マニュアル改訂第2 版、新興医学出版社(2003) 18)WAB 失語症検査(日本語版)作成委員会、代表杉下守弘:WAB 失語症検査日本語版、医学書院(1986) 19)日本失語症学会高次動作性検査法作製小委員会、日本失語症学会 Brain Function Test委員会改訂:標準高次動作性検査~失行症を中心として、新興医学出版社(1999) 20)徳永博正、池尻義隆、武田雅俊: 視知覚検査-標準高次視知覚検査-、総合リハビリテーション 27 巻第 8 号、医学書院(1999)、PP755-761 障害者職業総合センター職業センター実践報告書 No.40 高次脳機能障害者の復職におけるアセスメント 発行日 令和4年3月 編集・発行 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター職業センター <所在地>〒261-0014 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-3 <電話> 043-297-9043(代表) https://www.nivr.jeed.go.jp 印刷・製本 勝美印刷株式会社 ISSN 1881ー0381