実践報告書 令和4年3月 No.39 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 在職中又は休職中の発達障害者に対する 作業管理支援 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター職業センター はじめに 障害者職業総合センター職業センターでは、平成17年度から、知的障害を伴わない発達障害のある方を対象とした「発達障害者のワークサポート・システムプログラム」を実施し、実際の支援を行うことで発達障害者に対する職業リハビリテーション技法の開発・改良を進めてきました。その開発成果については、継続して、実践報告書や支援マニュアルに取りまとめるとともに、職業リハビリテーション研究・実践発表会を始め様々な機会をとおして発信しています。 本報告書は、発達障害のある方の職場定着には作業管理上の困難さについてアセスメントし、その管理能力を向上させる支援が必要との考えの下、令和2年度から開発を行ってきました「作業管理支援技法」について、「アセスメントの視点」、「作業管理上の課題の把握と対応」、「活用できる支援ツール」、「支援事例」などを取りまとめたものです。 なお、本技法開発にあたり、上越教育大学大学院学校教育研究科准教授 池田 吉史 氏、肥前精神医療センター臨床研究部 非常勤研究員 中島 美鈴 氏から、それぞれの専門的知見に基づき、ご助言を賜りましたことを深く感謝申し上げます。本報告書が、発達障害のある方の就労支援現場において活用され、職業リハビリテーションサービスの質的向上の一助となれば幸いです。 令和4年3月 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター職業センター 職業センター長 中村 雅子 目次 第1章 開発の背景と概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 1 背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 2 概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 第2章 作業管理支援の内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 1 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 2 実施の流れ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 3 実施のスケジュール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 第3章 作業管理能力におけるアセスメントの視点・・・・・・・・・・10 1 実行機能・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10 (1)抑制・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 (2)シフト・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 (3)情緒のコントロール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 (4)開始・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13 (5)ワーキングメモリ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 (6)計画・組織化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 (7)道具の整理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22 (8)タスクモニタ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24 (9)セルフモニタ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25 (10)実行機能の働きを阻害する要因・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26 2 その他の視点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27 (1)作業管理を妨げる思考・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27 (2)コミュニケーションに関する知識・スキルの不足・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29 第4章 作業管理課題の内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33 1 作業管理課題の目的と項目・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33 2 作業管理課題の流れ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34 3 作業管理課題期間中のスケジュール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35 4 各タスクの実施方法と関係する実行機能・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36 5 「タスクる」(支援者用課題設定補助ツール)の活用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41 (1)入力のステップ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41 (2)各ステップの入力方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42 6 作業の教示・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48 (1)第1回作業管理課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48 (2)第2回作業管理課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50 第5章 行動観察シートとふりかえりシートの活用・・・・・・・・・・52 1 行動観察シート・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52 2 ふりかえりシート・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52 3 個別相談(振返り)での活用方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53 (1)フェイズ2の個別相談(振返り)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53 (2)フェイズ3の個別相談(振返り)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54 第6章 事例紹介・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55 第7章 まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66 作業管理課題において活用した課題への対処方法~ヒント集~・・・・67 CD収録内容 1 行動観察シート 2 ふりかえりシート 3 タスクる(支援者用課題設定補助ツール) 4 作業管理課題において活用した課題への対処方法~ヒント集~ 第1章 開発の背景と概要 1 背景 障害者職業総合センター職業センター(以下「職業センター」という。)では、知的障害を伴わない発達障害の診断を受けている者(以下「発達障害者」という。)を対象とした「ワークシステム・サポートプログラム」(以下「WSSP」という。)を実施しています。職業センターは、WSSPの実施をとおして、発達障害者の職業リハビリテーションにおける支援技法の開発・改良と、その成果の伝達・普及を行っています。 WSSPでは、13週間のプログラムを通じて「障害特性と職業的課題、就労上のセールスポイントなどについて把握すること」「個々の課題への対処方法、周囲に求める配慮などについて整理すること」「職業生活を維持するために必要な技能(問題解決技能・職場対人技能・手順書作成技能・リラクゼーション技能)の習得を図ること」を支援の目的としています。 一般的に、発達障害者は管理(マネージメント)能力に課題があることを指摘されており、金銭管理、健康管理1)、スケジュール管理、タスク・情報・物の整理2)、動機づけの維持3)など多種多様な場面で見られることが示されています。 WSSP受講者の「管理」の状況については同様の傾向も認められますが、在職中で不適応状態(以下「在職中」という。)、休職中といった主訴による受講である場合、職務遂行における管理に課題を抱える点が概ね共通しています。その点について「作業の基本的な流れ(図1-1)」に沿ってみていくと、指示に対しては「聞きそびれた内容を自己判断で補う」、作業予定・計画では「時間の見積もりをしない、時間の見積もりがずれる」、作業実施では「一つのタスクが終わるまで別のタスクに取り組めない」、結果確認では「複数のタスクになると進捗状況を正確に把握できなくなる」、報告・相談では「報告が簡潔にまとめられない」などの問題が確認されます。 図1-1 作業の基本的な流れ ※出典:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構: 「支援マニュアルNo.15発達障害者のための手順書作成技能トレーニング」、2017. こうした作業の基本的な流れにおける一連の工程を的確に処理し、与えられたタスクを完了すること(以下「作業管理」という。)の困難さは、職場適応や復職を図っていくための重要な支援事項となります。 発達障害者における作業管理の困難さについては、令和2年度に地域障害者職業センター(24か所)、広域障害者職業センター(1か所)を対象にヒアリングを実施しました。その結果、スケジュールの把握(11センター)、時間見積もり(10センター)、タスクの把握(10センター)、段取り(9センター)、優先順位づけ(7センター)、道具の管理・準備(5センター)、指示理解(4センター)、報告・連絡・相談(3センター)、目標の維持(3センター)、進捗把握(3センター)などさまざまな側面の困難さが確認されました。 また、発達障害特性がある者を対象とする復職支援プログラムを実施している医療機関のヒアリング研究4)では「発達障害特性がみられない気分障害の利用者においては、一般に、業務遂行能力が低下していても一時的なものであり、症状が回復すればその能力も回復するが、発達障害特性のある利用者についてはもともと業務遂行が苦手な場合が多いため、業務遂行能力を向上させることを目的とするプログラムが有効である」との考えが示されています。 WSSPを受講する在職中、休職中の者の中には、作業管理上の困難さが業務の抱え込みによる疲弊や職場内人間関係の悪化などに発展し、うつ病等の二次障害の発症につながっている事例も確認されています。こうしたことから、発達障害者自身の作業管理能力を向上させるための作業管理支援の技法開発は、職場適応を図り二次障害の再発を防止する観点から有用であると考えました。 2 概要 作業管理支援の構成と開発内容は図1-2のとおりです。 作業管理支援の構成 作業管理課題の実施 作業管理上の課題の把握 作業管理能力のアセスメント 課題の背景にある能力の分析 個別相談(振返り) アセスメント結果に基づく効果的な対処方法の検討 開発内容 作業管理課題 アセスメントの対象となる作業管理能力が求められる作業課題の作成 行動観察シート アセスメントの視点に基づいて作業管理課題中の受講者の行動を記録できるシートの作成 ふりかえりシート 受講者自らが、作業管理課題の実施状況を振り返るためのシートの作成 作業管理能力をアセスメントするための視点を整理 課題対処のヒント集 作業管理上の課題への対処方法や対処ツールに関する資料集を作成 図1-2 作業管理支援の構成と開発内容 <引用・参考文献> 1)中山和彦・小野和哉(著):「図解よくわかる大人の発達障害」、ナツメ社、2010、p74-77. 2)林寧哲(監修)・對馬陽一郎(著):「ちょっとしたことでうまくいく発達障害の人が上手に働くための本」、翔泳社、2017、p42-70、136-154. 3)中島美鈴(著)・稲田尚子(著):「ADHDタイプの大人のための時間管理ワークブック」、星和書店、2017、p148-149. 4)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター:「調査研究報告書No.156職場復帰支援の実態等に関する調査研究」、2021、p46. 第2章 作業管理支援の内容 1 目的 作業管理支援の目的は以下の2点です。 (1)支援者が、受講者の作業管理上の課題を把握するとともに、その背景にある作業管理能力について、主に実行機能(第3章において詳細を解説)の側面からアセスメントし、個々の特徴に応じた対処方法の検討及び提案を行うことを可能にする。 (2)実践的な作業管理課題※1を通じて、受講者自らが作業管理上の得手不得手を把握し、課題点については主体的に対処方法の検討、習得、実践を目指すことを可能にする。 ※1作業管理課題は、ワークサンプル幕張版(以下「MWS」という。)と完成形や完成形に至る手順を自ら見出す力が要求される課題を組み合わせた最大7種の課題で構成されています。受講者は、タスクごとに設定された締切り日時までにすべての課題を完了させることが求められます(詳細は第4章を参照)。 なお、MWSとは、職業リハビリテーションの中でさまざまに現れる利用者の課題について、作業を通してその状況を把握したり訓練できるツールのことです1),2)。現在、16種類のワークサンプルが開発されており、そのうち、作業管理課題に含まれるものは、数値チェック、社内郵便物仕分、検索修正、文書入力、数値入力、作業日報集計、物品請求書作成、ラベル作成、ピッキングの9種類です。 MWSには、主に作業体験や作業能力の初期評価に用いられる「簡易版」と、作業能力の向上や補完方法の活用、作業やストレス・疲労への対処行動などのセルフマネジメントスキルの確立に向けた支援に用いられる「訓練版」が用意されています1)。 また、MWS訓練版には各ワークサンプル内に難易度(以下「レベル」という。)が設定されています。レベルは、処理すべき情報量、情報処理の複雑さや認知的負荷(一時的に記憶しなければならない情報量、注意配分数、確認個所数など)の増加などによって高くなります3)。 2 実施の流れ 作業管理支援には3つのフェイズがあり、段階的に受講者の作業管理能力を高めていく構図になっています。作業管理支援の実施の流れは図2-1のとおりです。 フェイズ1 作業管理課題の導入に向けた支援 フェイズ2 作業管理上の課題、作業管理能力を把握するためのアセスメント 作業管理上の課題の共有、課題に関する対処方法の検討・提案 フェイズ3 対処方法の習得・実践に向けたトレーニングの実施 職場での対処方法の活用に関する検討 図2-1 作業管理支援の実施の流れ 各フェイズの詳細は次のとおりです。 フェイズ1 フェイズ1では、作業管理課題への基礎的な対応力の習得を図ります。この準備段階を設けることで、作業管理に関する基礎的な知識・スキルが不足しているために作業管理課題にまったく対応できないという事態を回避することができます。 フェイズ1の詳細は下表2-1のとおりです。 表2-1 フェイズ1の詳細 内容 M-メモリーノートの集中訓練※2 手順書作成技能トレーニング※3 MWS簡易版・訓練版 目的 ・手帳に予定を記入し参照する行動習慣の形成 ・to-doリストの活用方法の習得 ・自分に合った手順書を作成するスキルの習得 ・作業管理課題に含まれるMWSの実施方法の習得 ・作業能率を記録しておくことで作業管理課題実施時の時間見積もりを行いやすくする ・質問、確認、メモとり、情報の保管に関する知識、スキルの習得 留意点 ・作業管理課題に含まれるMWS訓練版の課題が概ねレベル4に到達した段階で、フェイズ2へ移行する※4 ※2実施方法については、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構M-メモリーノート支援マニュアル(2006)を参照。 ※3実施方法については、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター職業センター支援マニュアルNo.15発達障害者のワークシステム・サポートプログラム手順書作成技能トレーニング(2017)を参照。 ※4MWSのレベルが低すぎると在職者・休職者が実際の職場で従事している業務負荷との乖離が大きくなり作業管理課題の現実味が損なわれると考えます。 フェイズ2 フェイズ2では、受講者の作業管理能力に関するアセスメントとその結果に基づく対処方法の検討を行います。フェイズ2の詳細は表2-2のとおりです。 表2-2 フェイズ2の詳細 内容 第1回作業管理課題の実施 個別相談(振返り) 目的 ・作業管理上の課題と作業管理能力を把握するためのアセスメント ・作業管理上の課題の共有、課題に関する対処方法の検討 方法 ・支援者は、行動観察シート(P8参照)を活用し受講者の行動記録を作成する 受講者は作業管理課題終了後、ふりかえりシート(P9参照)に基づき自ら実施状況を振り返る 【支援者と受講者の共同実施】 ・行動観察シートとふりかえりシートを元に、作業管理課題の実施結果について擦り合わせを行う ・共有された課題点について対処方法を検討する 留意点 ・作業管理課題実施期間中、支援者は円滑な作業管理に関する助言を行わない ・支援者は、必要に応じて「作業管理課題において活用した課題への対処方法~ヒント集~」(P67参照)に掲載されている対処方法について情報提供し、習得を目指した支援を行う フェイズ3 フェイズ3では、フェイズ2で検討した作業管理上の課題に関する対処方法の実践的活用、職場での活用に向けたトレーニングを行います。フェイズ3の詳細は下表2-3のとおりです。 表2-3 フェイズ3の詳細 内容 第2回作業管理課題の実施 個別相談(振返り) 目的 ・フェイズ2で整理した対処方法の実践的活用 ・対処方法の見直し、改良、活用の意識づけ 方法 ・支援者は、行動観察シートを活用し受講者の行動記録を作成する 受講者は作業管理課題終了後、ふりかえりシートに基づき自ら実施状況を振り返る 【支援者と受講者の共同実施】 ・行動観察シートとふりかえりシートを元に、作業管理課題の実施結果について擦り合わせを行い、受講者が実践した対処方法の有効性を確認したり、対処方法の改良に関する助言を行う ・課題への対処方法が復職後に活用されるよう、活用のメリットを再確認したり、対処ツールを復職後の業務に合った形に改訂する 留意点 ・作業管理課題実施期間中、支援者は対処方法を活用するタイミングやより効果的な実施方法について助言する ・支援者は、有効性が確認された対処方法について、ナビゲーションブックやケース会議資料に記載することを助言する 3実施のスケジュール 13週間のWSSPで作業管理支援を実施する場合のスケジュールは、図2-2のとおりです。 フェイズ1 フェイズ2 フェイズ3 1~2週目 3~5週目 6週目 7週目 8週目 9週目 10週目 11~13週目 作業 MWS簡易版 MWS訓練版※レベル4まで 【第1回】作業管理課題 MWS訓練版※レベル5以降 【第2回】作業管理課題 作業以外(個別相談・就労セミナー注)等) M-メモリーノートの集中訓練 手順書作成技能トレーニング 個別相談(振返り)① 個別相談(振返り)② 有効性が確認された対処方法をナビゲーションブックに記載 注)就労セミナー:職業生活を維持するために必要な技能の習得を図る技能トレーニング 図2-2 作業管理支援の実施スケジュール <引用・参考文献> 1)独立行政法人高齢・障害・求職者支援機構:「トータルパッケージの活用のために(増補改訂版) -ワークサンプル幕張版(MWS)とウィスコンシン・カードソーティングテスト(WCST)幕張式を中心として-」、2013、p4‐5. 2)独立行政法人高齢・障害・求職者支援機構:「調査研究報告書No.130障害の多様化に対応した職業リハビリテーション支援ツールの開発-ワークサンプル幕張版(MWS)の既存課題の改訂・新規課題の開発-」、2016、p4. 3)独立行政法人高齢・障害・求職者支援機構障害者職業総合センター:「職場適応促進のためのトータルパッケージワークサンプル幕張版実施マニュアル―理論編―」、株式会社エスコアール、2008、p20. 作業管理支援【行動観察シート】作業管理課題 令和年月日()記録者【】 +:できていた、-:できなかった、±:できたりできなかったりした、レ:場面がなかった 作業工程 作業工程ごとに必要な行動 アセスメントのポイント 評価 関連する実行機能 観察メモ ①指示受け ・指示を聞く態勢をとる ・直前の行動や思考から離れて指示を聞くことに注意を向ける 【シフト】 ・指示受けに必要な道具を準備する ・素早くメモ、筆記具等を取り出す 【道具】 ・指示内容についてメモを取る ・指示を正確に記憶する 【WM】 ・指示を聞きながらメモを取る ・不明点を質問する ・適切な台詞、声の大きさ、態度で質問する 【コミュ】【セルフモニタ】 ・自信がない点について確認する ・適切な台詞、声の大きさ、態度で確認する ・誤りに対して冷静に事実確認を行う ・冷静さを維持し、相手のミスを責めることなく事実の確認を行う 【情緒】【コミュ】 ②作業予定・計画立案 ★各タスクを指定された納期までに完了させるための計画を立てる ・タスクの全体把握※報告もタスクとして認識しているか 【計画】 ・優先順位づけ ・工程の明確化 ・時間の見積もり ・スケジューリング ・レポート、社内報原稿:完成形を明確にし(目標の明確化)、指示者と共有する ・完成形の明確化※完成形のイメージでもよい。 【計画】 ・独力で完成形の明確化が難しい場合、指示者に相談する 【コミュ】 ・完成形について共有する ③作業実施 ・整理整頓をする ・机上など作業環境を整理された状態に保つ 【道具】 ・定例作業に対応する ・定例作業があることを覚えている 【WM】 ・進行中の作業から定例作業に切り替える 【シフト】 ・計画通りに作業を進める ・苦手な作業を後回しにせず、適切なタイミングで作業を開始する 【開始】 ・計画外の行動を抑制する(例:計画を無視して自分のやりたいタスクを優先する) 【抑制】 ・急ぎのタスクとして指示される「追加作業」に対応する ・動揺や焦りをコントロールする 【情緒】 ・スケジュールを組みなおす(作業予定・計画立案★の項を参照) 【計画】 ・進行中の作業から追加作業に切り替える 【シフト】 ・各タスクをミスなく完了させる ・作業中の見直しによるミスの発見と修正 【タスクモニタ】 ・ネガティブな結果を予想したり、ネガティブな状況に直面しても冷静さを保つ ・締め切りに間に合わないかもしれないと考えたり、ミスをしたり、計画通りに進まなかった場合に生じる動揺、いら立ち、落ち込みなどをコントロールし、平静を保つ 【情緒】 ・作業方法、ルールの変更に対応する※ ・新しいルールで対応する(対応困難な場合は、下記①②を検証) 【シフト】 ①新しいルールを覚えている 【WM】 ②古いルールに基づく反応を抑制する 【抑制】 ④結果確認 ・作業の見直しをする ・作業終了後、見直しを行い、ミスを発見したら修正する 【タスクモニタ】 ・進捗状況の確認をする ・スケジュールと作業遂行状況を照らし合わせ、計画通りに進んでいるかを確認する ⑤報告・相談 ・指定された期間中または日時に進捗報告を行う ・報告する情報を体系的に整理する(例:完了/未完了とにタスクを分類、未完了のタスクは今後の見通しをまとめる) 【計画】 ・報告のタイミングを覚えている 【WM】 ・進行中の作業から報告へ行動を切り替える 【シフト】 ・正確に報告を行う 【タスクモニタ】 ※作業方法、ルールの変更に対応する 【ストップウォッチの計測(旧:あり、新:なし)】【レベルを進めるルール(旧:3連続正答、新:ミスの修正)】 【物品請求書作成の消費税率(前半:8%、後半:10%)】【作業日報集計(前半:少数点第2位を切り上げ、後半:少数点第2位を四捨五入)】 ■その他■ 作業管理を妨げる思考 実行機能の働きを阻害する要因 □強いストレス(詳細:) □不安、抑うつ(詳細:) □睡眠不足(詳細:) □実行機能を酷使した直後(詳細:) 感覚特性(感覚刺激への反応) □視覚(詳細:) □聴覚(詳細:) □その他(詳細:) ■MEMO■ ■関連する実行機能等の記載方法について 情緒のコントロールを【情緒】と記載。 ワーキングメモリを【WM】と記載。 計画・組織化を【計画】と記載。 道具の整理を【道具】と記載。 コミュニケーションに関する知識・スキルの不足を【コミュ】と記載。 作業管理支援【ふりかえりシート】作業管理課題 令和年月日()記録者【】 +:できていた、-:できなかった、±:できたりできなかったりした、レ:場面がなかった 作業工程 作業工程ごとに必要な行動 振返りのポイント 自己評価 振返りメモ ①指示受け ・指示を聞く態勢をとる ・直前の行動や思考から離れて指示を聞くことに注意を向ける ・指示受けに必要な道具を準備する ・素早くメモ、筆記具等を取り出す ・指示内容についてメモを取る ・指示を正確に記憶する ・指示を聞きながらメモを取る ・不明点を質問する ・適切な台詞、声の大きさ、態度で質問する ・自信がない点について確認する ・適切な台詞、声の大きさ、態度で確認する ・誤りに対して冷静に事実確認を行う ・冷静さを維持し、相手のミスを責めることなく事実の確認を行う ②作業予定 ・計画立案 ★各タスクを指定された納期までに完了させるための計画を立てる ・自分が抱えている全てのタスクを把握する ・タスク間の優先度を決める ・目標を達成するうえで効果的な方法や工程を選択する ・各タスク、各工程に必要な作業時間を予測する ・各タスク、各工程に予定を組み込む ・レポート、社内報原稿:完成形を明確にし(目標の明確化)、指示者と共有する ・完成形の明確化※完成形のイメージでもよい。 ・独力で完成形の明確化が難しい場合、指示者に相談する ・完成形について共有する ③作業実施 ・整理整頓をする ・机上など作業環境を整理された状態に保つ ・定例作業に対応する ・定例作業があることを覚えている ・進行中の作業から定例作業に切り替える ・計画通りに作業を進める ・苦手な作業を後回しにせず、適切なタイミングで作業を開始する ・計画外の行動を抑制する(例:計画を無視して自分のやりたいタスクを優先する) ・急ぎのタスクとして指示される「追加作業」に対応する ・動揺や焦りをコントロールする ・スケジュールを組みなおす(作業予定・計画立案★の項を参照) ・進行中の作業から追加作業に切り替える ・各タスクをミスなく完了させる ・作業中の見直しによるミスの発見と修正 ・ネガティブな結果を予想したり、ネガティブな状況に直面しても冷静さを保つ ・締め切りに間に合わないかもしれないと考えたり、ミスをしたり、計画通りに進まなかった場合に生じる動揺、いら立ち、落ち込みなどをコントロールし、平静を保つ ・作業方法、ルールの変更に対応する※ ・新しいルールで対応する(対応困難な場合は、下記①②を検証) ①新しいルールを覚えている ②古いルールに基づく反応を抑制する ④結果確認 ・作業の見直しをする ・作業終了後、見直しを行い、ミスを発見したら修正する ・進捗状況の確認をする ・スケジュールと作業遂行状況を照らし合わせ、計画通りに進んでいるかを確認する ⑤報告・相談 ・指定された期間中または日時に進捗報告を行う ・報告する情報を体系的に整理する(例:完了/未完了とにタスクを分類、未完了のタスクは今後の見通しをまとめる) ・報告のタイミングを覚えている ・進行中の作業から報告へ行動を切り替える ・正確に報告を行う ※作業方法、ルールの変更に対応する 【ストップウォッチの計測(旧:あり、新:なし)】【レベルを進めるルール(旧:3連続正答、新:ミスの修正)】 【物品請求書作成の消費税率(前半:8%、後半:10%)】【作業日報集計(前半:少数点第2位を切り上げ、後半:少数点第2位を四捨五入)】 ■その他■ 作業管理課題の実施を妨げる思考があったか 強いストレス、不安、抑うつ、睡眠不足、疲労などがあったか 感覚特性が作業管理課題に影響を与えることがあったか ■実施した感想■ 第3章 作業管理能力におけるアセスメントの視点 1実行機能 作業管理は、与えられた課題を制限時間内に仕上げるという課題解決と同様と考えられますが、この課題解決を効率よく行うための機能を、実行機能(executivefunction)と呼びます。なお、日本の神経心理学の分野では遂行機能と訳されますが、発達障害に関する研究分野では実行機能と訳されることが多いことから、本技法開発では実行機能と表記します。 実行機能は研究者によってとらえ方に差があり、広義には「課題解決や目標達成を効率良く行うために、思考・行動・情動を意識的に制御する高次脳機能」と定義1)されますが、森口(2018)2)によれば、「現在の成人の研究では,実行機能という上位概念の下に、複数の下位概念を想定した方が妥当だという考えが広がっている」状況であり、下位概念の構成も研究者によって異なるとされています。そこで、作業場面での行動観察による作業管理能力のアセスメントを想定した本技法開発では、日常の行動を実行機能の観点から包括的に評価する尺度「BRIEF」を中心とした各種文献1~15)を参考に、実行機能の下位概念として、「抑制」「シフト」「情緒のコントロール(感情制御)」「開始」「ワーキングメモリ」「計画・組織化」「道具の整理」「タスクモニタ」「セルフモニタ」の9つを抽出しました。抽出した実行機能の下位概念の定義は表3-1のとおりです。 表3-1 実行機能の下位概念と定義 実行機能の下位概念 定義 抑制 ・当該の状況で優位な(優勢な)行動や思考を抑制する力 ・衝動を制御する力 ・自動的な反応を意図的に抑制する力 シフト ・新しいルールや思考、反応に柔軟に切り替える力 情緒のコントロール ・情緒的な反応を適切に調節すること ・今の自分の感情に気づいたり、興奮を抑えたり、場に応じた適切な感情を表出する力 開始 ・自発的に課題や活動を始める力 ワーキングメモリ ・さまざまな課題の遂行中に一時的に必要となる記憶 計画・組織化 ・計画:ある目標の達成に向けて事前に行動の手順を計画する力 ・組織化:目標を成し遂げるための情報、活動、道具に秩序をもたらす力 道具の整理 ・仕事場、生活空間、道具を整然と保つ力 タスクモニタ ・確実に目標を達成するため、課題遂行中または課題終了後の出来栄えについて評価する力 セルフモニタ ・自分の行動と自分の行動が他者に与える影響を把握する力、個人のセルフモニタリング機能 以下、実行機能の9つの下位概念について、機能がうまく働かない場合に生じる問題、実行機能の観点から支援を考える際に参考となる知見の紹介を含んで説明します。 (1)抑制 抑制とは、「当該の状況で優位な(優勢な)行動や思考を抑制する力」「衝動を制御する力」「自動的な反応を意図的に抑制する力」を意味します3,4,7)。 抑制がうまく働かないと、「妨害刺激につられてしまう」「関係のないことを考え続けてしまう」「衝動的に反応してしまう」などの問題が現れます2,4)。具体例として、「商品の検品中、周囲の話し声に気を取られて検品の精度が下がる」「報告書の構成を考案中に昨日見たドラマについて空想し続ける」「メールを作成後、内容を確認する前に送信ボタンを押してしまう」などが挙げられます。 妨害刺激につられやすい事例では、作業環境内の視覚・聴覚刺激などによって抑制が効きづらくなることがあります。対処の方針としては、抑制力そのものを増強する発想ではなく、抑制しなくても済む刺激の少ない環境を整えることが挙げられます。 具体的には、机の上を整理したりパーテーションを設けるなどの作業環境を調整したり、耳栓などの対処ツールを活用するなど、妨害刺激の軽減を図ることが重要です。特に感覚の過敏さを持ち合わせている場合、妨害刺激にさらされやすくなると考えられるため、慎重なアセスメントが求められます。 目標と関係のない思考が発生しやすい事例では、目標に注意を向けられる時間間隔で作業を進めるなどの対処が有効です。たとえば、10分間だけなら関係のない思考が出てこないという方の場合には、仕事を10分間でできる量で小分けし、10分ごとにこなしていくなどが考えられます。 衝動的に反応してしまう事例では、メール作成後、すぐに送信ボタンを押す代わりに保存ボタンを押すなど、反応前に一工程を追加する対処が考えられます。 (2)シフト シフトとは、「新しいルールや思考、反応に柔軟に切り替える力」を意味します3)。シフティングと呼ばれることもあります。 シフトには行動的シフトと認知的シフトという2つの側面があります。行動的シフトは習慣的行動や課題に対する行動のパターンを状況の要求に沿って柔軟に切り替える力を意味し、認知的シフトは、考え方、発想、問題解決思考などの柔軟な切り替えを意味します4)。シフトがうまく働かないと、「急な変更があったときに優先順位を変えられない」「最後まで終わらないと次の作業に移れない」「効果的ではないという結果がフィードバックされても同一の解決法を選択し続ける」などが問題として現れます3,8)。行動的シフトに関する支援の視点を次の例で説明します。 ある課題のルールが一部変更になったにも関わらず、以前のルールで反応してしまった場合は、作業中新しいルールを忘れていた(記憶の問題)、又は新しいルールになったことは意識しながらも、つい前のルールで反応してしまった(抑制の問題)のいずれかと考えることができます3)。前者であれば、新しいルールを強調する仕掛けを検討し、後者であれば反応する前に一工程設けるなどの対処方法が考えられます。 なお、認知的シフトに係るアプローチについては、本章第2項(1)作業管理を妨げる思考で紹介します。 (3)情緒のコントロール 情緒のコントロールとは、「情緒的な反応を適切に調節すること」「今の自分の感情に気づいたり、興奮を抑えたり、場に応じた適切な感情を表出する力」を意味します4,8)。ここでいう情緒のコントロールには、怒りや不安など一般的にネガティブ感情と言われるもののコントロールだけでなく、動機づけを高めたり維持することが含まれます2)。 情緒のコントロールがうまく働かないと、「怒りを爆発させる」「すぐに動揺する」「落ち込みが長引く」「気分が頻繁に変化する」などの問題が現れます4,9)。また、情緒のコントロールはシフトとも関連が深いとされ、シフトに問題があると、予定通りに事が運ばない時にいら立ちや動揺が生じる、効果的な問題解決ができずに落ち込む、繰り返し否定的に考え込む傾向を断ち切れずに抑うつの維持・悪化につながるなどの可能性が出てきます2,4,8)。情緒のコントロールと関連の深い研究分野に、感情制御(emotionregulation)があります。感情制御は、自らの心的状態を変化させようとする活動の一つと言われ、感情制御の方略にはさまざまな内容が含まれます16)(表3-2)。これらは、ネガティブな感情の コントロールに課題が見られた際の対処方法として参照できる知見と言われています。実際の支援場面では、WSSP受講者の多くが、作業管理課題において緊急性の高いタスクを追加された際に「間に合わないのではないか」と考え動揺を示します。このとき追加されたタスクに必要な時間を見積もり、残された作業時間内に対処可能であることを確認できると落ち着きを取り戻します。これは表3-2における「認知的再評価」という方略を使用した結果と言えます。 表3-2 感情制御の方略と内容 方略 内容 状況を選択する 感情を生じさせるような状況に近づいたり、避けたりする 状況を変容させる 問題を解決することで、状況を直接変える 熟慮する 感情や感情の結果・原因、問題となっていることについて、何度もよく考えたり、考えを集中させたりする 気晴らし コントロールしたい感情とは関係ないことに注意をそらす 認知的再評価 状況に対する自分の認識や考え方、評価を見直す 対話、相談で認識を変える 他人と話し合ったり、相談したりすることで、状況に対する認識や考え方、評価を変化させる 表出抑制 抱いている感情を表に出さないようにする 気分が落ち着く行動を取る 嗜好品を摂る、運動をするなど、気分が落ち着く行動を取る ※小島佳子・古川陽大:感情区別と感情制御との関係、愛知教育大学研究報告.教育科学編、61巻、2012、p130.を元に作成。 (4)開始 開始とは、「自発的に課題や活動を始める力」を意味します。行動の開始が困難な人は、行動そのものはできることであっても、自発性の低さから、自分からはその行動に向かってスタートできないとされます4,17)。 開始の力が弱いと、「課題が進まない」「やるべきことを先延ばしにする(最終的に仕事の質が下がったり、期限内に完了しない)」などの問題が現れます18)。なお、開始には“意図的な反抗”を含まない点に留意が必要です4)。たとえば、「こんな簡単な作業をやらされるなんて自分のプライドが許さない」という思いから課題を拒否する場合がそれに該当します。 また、開始の問題は二次的な結果としてもたらされることがあります4)。一例として、段取り(計画・組織化)が苦手な人は、何から手をつけてよいかが分からず、課題を開始することができないというパターンが挙げられます。他にも開始を阻害する要因として動機づけの不足、抑制の不足、道具の整理が不十分、完璧主義的思考などが想定されます18)(図3-1)。 開始に問題が生じる原因は多岐にわたるため、個々の原因に応じた支援方法を検討することが重要です。 すぐに結果が出ないことには魅力を感じにくい(脳の報酬系の問題) ●やるからには完璧にしなければならない ●上手くできないかもしれない(行動開始のハードルが上がる) 道具の整理がうまくないと、最初に物探しをすることになり、やるべきことができず、やる気も失せる やりたいこと・興味のあることを抑えられない結果、やるべきことが先延ばしになる ●小さな一歩がつくれない ●段取りが組めない、何からやったらいいか分からない 図3-1 開始を阻害し得る要因(要因のうち、道具の整理、抑制、計画・組織化は実行機能) 参考『報酬遅延勾配について』 中島・稲田(2017)19)は、「最新の脳研究の結果によると、ADHD※の人の脳には報酬系の障害が認められており、『報酬遅延勾配』が急であることが知られています」と述べています。報酬遅延の勾配とは、「報酬の得られるタイミングが遅くなればなるほど、その報酬の価値を低く見積もる」という現象です。そして、勾配が急ということは、報酬の遅れに対して報酬の価値を値引く度合いが大きいということです。つまり、すぐに結果が得られることには取り組みやすいが、継続的な努力が必要な課題や即座に結果が出ない課題に対してはモチベーションを持ちにくいと言えます。 WSSP受講者で、スケジュール管理に課題があると自覚しているにもかかわらず、なかなか自分に合ったスケジュール帳を探しに行かない方がいました。これはスケジュール帳を買うだけではスケジュール管理が可能になるわけではない(すぐに報酬が手に入らない)ことが要因と考えられます。そこで、趣味に関する買い物をするついでに近くの文具店でスケジュール帳も見てきてはどうかとうながしたところ、スケジュール帳を探しに行くことができました。これは、すぐに報酬が得られる活動と報酬価値の低い活動をセットにしたことで、行動を開始できた例と考えられます。 ※ADHD:注意欠如多動性障害 (5)ワーキングメモリ ワーキングメモリとは、「さまざまな課題の遂行中に一時的に必要となる記憶」を意味します20)。苧阪(2002)21)は、ワーキングメモリを「脳のメモ帳」と表現し、「ワーキングメモリは私たちがなにかを考え行動しているときに、つねにはたらいている現在進行形の記憶である」と述べています。作業管理においては、文章読解、暗算、メモとり、質疑応答などワーキングメモリが必要となる場面が多々あります。また、実行機能は目標志向的行動を支えるものですが、ワーキングメモリは、そのプロセスにおいて達成すべきゴールの状態を常に意識する、目標の達成に必要なサブゴールやその方略を記憶、保持するという重要な役割を担っています3)。 ワーキングメモリが弱いと、「口頭で言われたことを覚えるのが難しい」「to‐doリストや手順書を一度見ても忘れてしまう」「やろうとしたことを忘れてしまう」「話しながら相手の状況や意図を同時に考えられない」などの問題が現れます4,8)。 ワーキングメモリの弱さを補うために、メモ・ビデオ・ICレコーダーなどの記憶補助ツールが活用されることはよく知られています。また、湯澤ら(2014)20)は、ワーキングメモリの観点から発達障害などの学習の問題を抱える児童・生徒に対する支援方法を「情報の整理」「情報の最適化」「記憶のサポート」「注意のコントロール」の4つに整理しています。各支援方法の一部を紹介したものが表3-3になります。これらの支援は、教育支援だけでなく就労支援においても有用と思われます。 表3-3 ワーキングメモリに関する支援方法 情報の整理 ・活動の目標を明確にする ・作業手順を図式化する(視覚的に提示する) 情報の最適化 ・短い言葉で簡潔に指示する ・指示や質問を繰り返す ・最後に説明内容を振り返り、まとめる 記憶のサポート ・予め話の要点や関連する事例を挙げる ・本人がよく知っている事例や具体物を使って説明する 注意のコントロール ・注目させてから指示を出す ・活動の途中、こまめに声をかける ・全体指示の後、必要に応じて個別に指示をする ・必要な教材以外は机の中に片付ける ・色ペンを効果的に用いる(重要箇所、キーワードに線を引く) ※湯澤正通・湯澤美紀(編著):「ワーキングメモリと教育」、北大路書房、2014、p159.を元に作成。 参考『展望記憶について』 ここまではワーキングメモリについて紹介してきましたが、もう一つ作業管理能力をアセスメントするうえで重要な記憶「展望記憶」について触れたいと思います。展望記憶とは、将来実行しようと意図した行為に関する記憶のことです3)。梅田(2007)22)は、展望記憶の対象となる行為を「意図(計画)してからそれを実行に移すまでの間に、ある程度の時間的幅(遅延時間)があり、その意図(計画)を連続的に意識するのではなく、あとでタイミングよく思い出す必要がある行為」と定義しています。また、意図した行為を実行するためには、存在想起(「何かやらなければいけないことがある」ということをタイミングよく思い出すこと)と内容想起(「実際にやらなければいけないことは何か」を思い出すこと)が必要になると述べています。 携帯電話やパソコンのアラーム機能は存在想起の手がかりになりうるものとしていますが、アラーム機能を使わない場合は、「時刻に対する敏感さ」が存在想起の手がかりになっている(予定を行うべき時刻が近づくと、徐々に精神的緊張が高まり、存在想起をうながすきっかけが得られる)と述べています。内容想起の場合は、手帳やカレンダーなどの記憶補助が効果的であるとしています。後述する作業管理課題では「毎日、特定の時刻からある作業を開始する」というタスクを設定しています。このタスクの実行には、特定の時刻が近づいたらタイミングよく定時作業の存在を想起する必要があり、展望記憶の関与が想定されます。 参考『目標が忘れられた事例』 今回の技法開発過程では、作業管理課題の一つとして「すごろく作成課題」を試作しました。この課題は「決められた期限内に“新入社員の交流を目的とした我が社の日常を知れるすごろく”を作成する」というものです。WSSP受講者のAさんに試行したところユニークなルート設定、デザインを作成しました。そして、すごろくを通した英語の勉強を行うというコンセプトを打ち出し、マスに英単語と和訳をちりばめました。ちりばめられた英単語の多くは受講者が得意とするカードゲームから採用されていました(下図)。この受講者は非常に精力的にすごろく作成課題に取り組みましたが、“我が社の日常を知れる”という目標・目的をすっかり忘れていたのです。 発達障害の有無に関わらず、ワーキングメモリの容量には限界があると言われており、何かに熱中すると大事なことが抜け落ちてしまうことは珍しくありません。そのため短期間で仕上げることができない課題に取り組むときは定期的に目標・目的に沿った内容になっているかをモニタリングすることが重要です(P24、タスクモニタの項を参照)。 (6)計画・組織化 計画とは、「ある目標の達成に向けて事前に行動の手順を計画する能力」を意味し、組織化とは、「目標を成し遂げるための情報、活動、道具に秩序をもたらす力」を意味します4)。 計画・組織化を支える実行機能については下図3-2のとおりに整理しました23)。 タスクの目標や完成形のイメージを常に念頭に置く 作業予定・計画立案と関係のない思考を抑制する タスクの目標を達成するために必要な方法を柔軟に考える 図3-2 計画・組織化を支える実行機能 計画・組織化が弱いと、「作業に必要な道具の準備や情報に抜けがある」「計画が立てられない」「何からやるべきか優先順位がつけられない」「実現不可能な計画を立ててしまう」 「締め切りまでに提出できない」などの問題が現れます8)。 なお、計画・組織化を構成する要素には、タスクの全体把握、優先順位づけ、目標の明確化、工程の明確化、時間見積もり、スケジューリングなどが含まれます4,24)(表3-4)。 表3-4 計画・組織化を構成する要素とその内容 タスクの全体把握 自分が抱えているすべてのタスクを把握すること 優先順位づけ タスク間の優先度を決めること 目標の明確化 タスクの完成形を明確にすること 工程の明確化 目標を達成するうえで効果的な方法や工程を選択すること 時間見積もり 各タスク、各工程に必要な作業時間を予測すること スケジューリング 各タスク、各工程を予定に組み込むこと ア タスクの全体把握 特に複数の作業管理を行う場合、タスクの全体把握が出発点となります。たとえば、指示を受けた10個のタスク中、8個のタスクしか把握していなければ、残りの2個はいつまでも未完のまま残ってしまいます。すべてのタスクを把握していない状態で「完璧な優先順位づけを行った」と思っても、抜け落ちたタスクの優先度の方が高ければ計画は根底から崩れてしまいます。 イ 優先順位づけ 優先順位づけについては、緊急度と重要度の二次元座標上にタスクを配置し、優先度を確定する方法があります。緊急度は締切りが近いかどうかを基準に考えると判断しやすい軸です。一方、重要度は会社の方針や時々の状況によって変わり得るものであり判断が難しい軸と言えます。 作業管理支援では緊急度を軸とした優先順位づけを基本にしています。これは、事業主からのヒアリングで締切りの近いものから計画的に取り組んでほしいという声があり、緊急度を主軸とした優先順位づけでも十分職場での適応力の向上につながると考えたためです。 たとえば、先ほどの緊急度と重要度の二次元から優先度を確定する方法では緊急度【高】×重要度【高】のタスクが最優先タスクとなりますが、現時点で緊急度【低】×重要度【高】のタスクであっても放っておくと緊急度【高】×重要度【高】となります(図3-3)。つまり、締切りの近いタスクから次々と完了させることができれば、結果的にすべてのタスクを完了させられる可能性が高まるというわけです。 図3-3 優先順位づけの考え方 ウ 目標の明確化 目的地が決まらなければ交通手段や経路を考えることはできないように、目標の明確化は工程の明確化に先行します。WSSP受講者の中には目標の明確化を苦手とする方が見受けられます。特に、「作業ミスの内容と防止策に関するレポート作成」などのアウトプットの自由度が高い課題では、体裁や項目立てなど完成形のイメージが持てず作業が止まりがちです。こうした場合、レポートのサンプルを提示したり、項目立てに関する助言を行う支援が有効となりました。 エ 工程の明確化 工程の明確化は、タスクの細分化とも言えます。タスクを細分化することで、「何を、どのように、どの順番で行えばよいか」が見えてきます。図3-4は、「採用面接で使うナビゲーションブックを作成する」というタスクを細分化した例です(細分化の内容はタスクの完成形によって異なります)。 【細分化1】大まかな工程を考える 【細分化2】各工程について詳細な手順を考える 1.得手不得手の洗い出し 職業評価結果などから自分の特徴を洗い出す 重複している特徴をまとめる 特徴を得手不得手に分ける 2.得意なことの絞り込み 希望職種で求められている能力や実績などについてWebで調べる 左記をふまえてPRできることを3つ程度に絞る 3.不得手なことの整理 記載する必要がない不得手を除外する 不得手だが努力・工夫でカバーできることを書き出す 会社に配慮を求めることを書き出す 4.完成物の見直し 全体の印象、分かりやすさ、誤字脱字をチェックする 支援者に読んでもらい助言を得る 加筆・修正を行い完了する 図3-4 「採用面接で使うナビゲーションブックを作成する」タスクの細分化 タスクを細分化することで取り組むべき工程と具体的内容が明らかになります。図にするとごく当然の内容に思えるかもしれませんが、WSSP受講者の多くがここで苦労されています。 一例ですが、「得手不得手を洗い出す際にどの資料を参考にすればよいか分からない」「会社が求める人材像を考慮した自己PRをするという発想がない」「完成したものを見直すという習慣がない」などの理由からタスクの完遂に必要な方法や工程を的確に見いだせない場合があります。 そのため、支援者は適宜細分化の視点について助言を行うことが望まれます。どこまで細分化すべきかという点については、受講者の特徴をふまえて検討する必要があります。たとえば、何事にも取り掛かりに苦労するという方の場合、最初の工程は極力細かくする(例:資料とノート、筆記具を机に出す)ことで取り掛かりの心理的なハードルを低くします。逆に細かすぎると億劫に感じて意欲が出ないという方の場合は、必要最低限の大まかな工程で様子を見ることが適当です。 参考『マルチタスクVSシングルタスク』 仕事で引き受けるタスクには大抵締切りが設定されており、私たちは、決められた作業時間の中で効率よくタスクを処理することが求められます。それでは、複数のタスクを効率的に処理するには同時並行で処理するマルチタスクが良いのでしょうか、それとも1つのタスクに集中して処理した方が良いのでしょうか。 デボラ・ザック(2017)25)は、神経科学者の知見を引用し「マルチタスクは不可能であり、一般にマルチタスクと考えられている行為はタスク・スイッチング(タスクの切り替え)にすぎない」と述べています。さらに、ハーバード大学の研究を紹介し、「タスクからタスクへと注意を向ける先を切り替える頻度の高さは、生産性の低さと相関関係がある」と言います。そして、シングルタスクの有効性を主張しています。 上記をふまえると、タスクの優先順位づけや工程の明確化をしっかり行ったうえで、脇目をふらず目の前の作業だけを集中的に処理していくことが効果的な作業管理といえるかもしれません。 オ 時間見積もり 時間見積もりは、作業時間のデータとそのデータを現状に突き合わせる力があれば正確な予測が可能です。WSSP受講者は、経験したことのある定型作業において自分の作業記録を参照し、指示された分量を処理するのに必要な作業時間を概ね正確に割り出すことが可能でした。一方、未経験の作業については時間を予測することが難しい様子を確認しましたが、進捗状況の確認を確実に行うこと(予測と実態のズレを認識すること)で締切りに間に合わせるためのスピード感を概ねつかむことが可能となっていました。 WSSP受講者の中には時間感覚の弱さを示す方が見受けられます。そのような受講者の特徴として「時計を見たりスケジュール帳を見る習慣がない、もしくはその頻度が低い」ことが挙げられます。その結果、時間指定(毎日11時から〇〇する)や曜日指定(毎週木曜日に〇〇を提出する)のタスクを忘れてしまうことがあります。他にも緊急性の高いタスクが追加された際、取組中の作業を終わらせてからでも締切りに間に合うと「直観的に判断した」結果、想定した時間通りに取組中の作業が終わらず慌てて緊急性の高いタスクに切り替えた事例や「移動時間や動き出しの時間をギリギリに設定する」ため、約束時間に遅れたり、慌ててしまい必要な物を忘れて取りに戻った結果遅刻するなどの事例がありました。 参考『時間処理の障害について』 ADHDの症状を説明する仮説の一つに時間処理の障害を指摘するモデル(三重経路モデル※)があります。中島(2018)26)は、「時間処理の障害(Temporalprocessing)とは、時間の経過を感覚的につかむ能力にかかわる障害であり、これが、目的地までの所要時間に関する見積もりや一定量の仕事に必要な時間の予測のズレに繋がる」と述べています。 Sonuga-Barkeら(2010)27)は、児童を被験者とし、下記の実験を行っています。 ①1.2秒ごとに出る電子音に合わせてボタンを押す(15回繰り返す) ②16回目以降は音に頼らず自分の感覚で最初の15回と同じ感覚でボタンを押す(41回繰り返す) ③41回目を押し終えた時点での実際の時間とのズレを被験者間(ADHD児と非ADHD児)で比較する この実験では、ADHD児は非ADHD児に比べて実際の時間からのズレが大きくなっていたという結果が示されました。 ※三重経路モデルは、時間処理の障害、抑制制御の障害、報酬遅延の障害を想定するモデルです。 カ スケジューリング 的確にスケジューリングするためには、これまで説明してきたタスクの全体把握、優先順位づけ、目標の明確化、工程の明確化、時間見積もりという要素を適切に押さえることが重要です。また、スケジュールが変更された際には当初のスケジュールを確認し、組み直すことが必要です。WSSP受講者の中には、午後のセミナーが午前中に変更された際、スケジュールを確認しなかったため本来午前中に行うべき作業を忘れてしまう事例がありました。 一見するとスケジューリングの課題に見えるものでも、別の点に課題が見られる事例があります。たとえば、レポートの提出予定を締切り直前に設定したため修正指示を受けても修正時間が取れない(工程の明確化)、課題が終わらないかもしれないという不安から1日の予定を詰めすぎる(情緒のコントロール、時間見積もり)などの事例が挙げられます。 参考『文章作成を先送りにしがちな事例』 Bさんは電子工作が非常に得意な方です。そんなBさんですが文章作成には強い苦手意識があり、先延ばしにしやすいという特徴がありました。 Bさんと文章作成について振り返ると、「大学時代、実験レポートだけは毎週締切りに間に合わせることができた」という話がでてきました。そこからBさんにとって実験レポートは「何を書けばよいか、どのように書けばよいかが分かりやすく、他の人の作成例もあったため取り掛かりやすかった」ことが分かりました。これ以降Bさんは、完成形のイメージを持つために、自分から指示者に完成物のサンプルを求めたり、項目立てや記述内容について相談することで、先延ばしする傾向を解消しました。Bさんの事例は、目標の明確化におけるつまずきが行動の開始を妨げていると言えます。 (7)道具の整理 道具の整理とは、「仕事場、生活空間、道具を整然と保つ力」を意味します。整理整頓する力とも言えます4)。 道具の整理を支える実行機能については、下図3-5のとおりに整理しました4,28)。 片づけることを覚えている 片づけるという目標以外の行動が思い浮かんでも片づけが終わるまで反応しない どの場所にどのようなまとめ方で物を置くのか、書類をどのような分類でファイリングするのかなどを考える 図3-5 道具の整理を支える実行機能 この力が弱いと、「必要なものがすぐにそろわない」「カバンや引き出しの中がぐちゃぐちゃになる」「なかなか捨てることができない」などの問題が現れます8)。 WSSP受講者には、物や書類の紛失があまり現れませんでした。これはプログラムの開始時に全受講者へ付与する下記のツールが道具の整理に有効であったためと考えられます (写真3-1~3-3)。 予定、重要事項、作業手順、連絡事項などプログラム受講に必要な情報が一元管理できる 写真3-1 メモリーノート あらかじめ支援者によって書類のカテゴリ化が行われているため管理しやすい 写真3-2 個人ファイル 作業で頻繁に使う道具の置き場が固定されている 写真3-3 道具の置き場所 (8)タスクモニタ タスクモニタは、「目標の達成を確実にするため、課題遂行中または課題終了後の出来栄えについて評価する力」を意味します4)。タスクモニタは、作業上のエラーを検出するだけでなく、計画が予定通りに進んでいるかどうかを評価するという側面も含みます。 タスクモニタを支える実行機能については、下図3-6のとおりに整理しました24,30)。 現状と、あるべき姿を脳内に保持することでエラーの検出が可能となる 自分がおかしやすいミスの傾向を念頭に置くことでエラーの検出がしやすくなる 他のことを考えたり、外的な刺激に反応しないことでワーキングメモリが十分働く状態をつくる 図3-6 タスクモニタを支える実行機能 タスクモニタが弱いと、「ケアレスミスに気づかない」「完成形のイメージからズレたまま作業を完了する」などの問題が現れます4)。 WSSP受講者は、作業管理課題を導入するまでの段階で見直しの習慣を獲得していたり、自分のミスの傾向を自覚していることが多いため、定型作業におけるミスは少ない、ある いは適切に修正できる場合が多くあります。ただし、締切りに対する焦りから普段よりも簡略化した見直しを行ったり、普段行っていない作業は見直しが不十分になったりすることがありました。 (9)セルフモニタ セルフモニタは、「自分の行動と自分の行動が他者に与える影響を把握する力。個人のセルフモニタリング機能」を意味します。タスクモニタとの違いは、モニタリングの対象です。タスクモニタは、課題の出来栄えが対象となり、セルフモニタは、自らの社会的行動とそれが他者に与える影響が対象になります。 セルフモニタを支える実行機能については、下図3-7のとおりに整理しました29,30)。 自分がいる場の社会的状況(例:同僚が激しく言い合っている)、これからしようとしている行動が周囲に与える影響についての予測、自分の行動や相手の反応に関する情報などを一時的に保持する 図3-7 セルフモニタを支える実行機能 セルフモニタが弱いと、「場の空気を読んだ行動が難しくなる」「他人の反応に気づかない」などの問題が現れます8,29)。 宇野(2018)30)は、ADHD児に対するモニタリング支援について「脳内でのエラー信号の検出がうまく働かない状態を考慮して、その情報を脳から外に出す、つまり外在化すれば良い。たとえば、ロールプレイした時の様子をビデオで撮影して、自分の振る舞いを客観的な立場で見て評価できるようにしてみる」と述べています。また、自閉症スペクトラム障害を対象としたセルフモニタリング機能の活性化を目指す看護介入プログラムの有用性を検討した関根ら(2018)31)は、「介入対象者に自分の感情・考え・言動などに関する言語化や記録を促す」「言語化された自分に関する事柄について支援者の意見や感想などをフィードバックする」「対象者の発言を繰り返す」「自分に関する記録の参照を促す」ことがモニタリングの活性化をうながす介入として有用であったと考察しています。 参考『納得できないことを主張するとき、怒っているように見える事例』 Cさんは、WSSPでの作業方法が自分の会社のやり方と違うとき、「WSSPの作業方法は実際の会社の手順と違うから、社会に出たとき他の受講者が困る」と繰り返し強く主張されました。対応していたスタッフが「怒っていますか」と聞いたところCさんは「怒ってないです」と答えました。Cさんによれば「自分はただ親切心として他の人が困るだろうと提案のつもりで話していた」ということでした。これは、特定の思いが強すぎたため自分の行動が他者に与える印象やスタッフの反応の意味を考えることができなかった状態と思われます。 高山(2019)8)は、会話時におけるワーキングメモリの処理スペースが「相手の仕草や表情(視覚情報)」「自分や相手が話している言葉(聴覚情報)」「会話に関連した記憶」「自分の体の様子(体性感覚)」「気持ちなど(内受容感覚)」「その他」の要素で占められており、会話中に別のことを考える必要が出たときは思考に必要な処理スペースが追加され、全体の比率が変化すると述べています。このことから、容量制限のあるワーキングメモリに保持される情報が特定の何か(例:自分が主張したい内容)に偏ってしまうと、自分の行動が他者に与える影響や相手の反応の意味を考えることがむずかしくなると推察されます。 (10)実行機能の働きを阻害する要因 実行機能はいついかなる時でも十分に機能するわけではありません。森口(2019)32)は、強いストレスを感じているとき、不安なとき、睡眠不足のとき、抑うつ気味なときなど精神的に健康ではないときや、実行機能を使った直後には実行機能はうまく働かないと述べています。このことをふまえると、実行機能を十分に働かせ円滑な作業管理を実現するためには、心身の状態を整えることが重要であると言えます。 上記に関連する知見として、以下の不安とワーキングメモリに関する研究が発表されています。 Ashcraft&Kirk33)は、数学不安が高い個人と低い個人が暗算を行う(以下「算数課題」という。)と同時にランダムな文字系列を覚えるという課題(以下「記憶課題」という。)を作成し、算数課題は繰上げ・繰下げのあるなし、記憶課題は覚えておく文字数で負荷を操作しました。その結果、数学不安が低い個人に比べ、数学不安が高い個人は、算数課題と記憶課題両方によるワーキングメモリへの負荷が高いとき、間違いが過度に増加しました。これは、情動反応が本来算数の遂行に用いられるはずのワーキングメモリ資源を奪ってしまったことによると解釈されています。 また、Beilockら33)は、ハイプレッシャー条件とコントロール条件で算数課題の成績が異なるかを比較しています。ハイプレッシャー条件とは、自分の課題成績次第でパートナーに報酬が入るか否かが決まる条件で、自分が課題に取り組む時点でパートナーは報酬を得るための基準をすでに達成していると告げられます。実験の結果、ワーキングメモリに高い負荷のかかる算数課題においてハイプレッシャー条件群の成績の低下が確認されました。これらの結果は、ワーキングメモリに負荷が大きくかかる場合、その働きが不安や緊 張によって阻害されることを示唆するものです。また、激しい不安、情動反応ではない漠然とした不安であってもワーキングメモリに関する課題成績を阻害することを示す研究知見もあります33)。 2その他の視点 (1)作業管理を妨げる思考 作業管理を妨げる思考とは、作業管理上必要な行動の発現を妨げる思考のことを意味します。実行機能の働きに問題がなくても、特定の思考によって作業管理上必要となる行動がとれないことがあります。作業管理課題を実施した受講者について作業管理を妨げる思考と行動への影響を確認しています(表3-5)。 表3-5 作業管理を妨げる思考と行動への影響 作業管理を妨げる思考の具体例 行動への影響 1 めんどうくさい 書き出したタスクを予定表に落とし込むこと(同じ内容をもう一度書くこと)に消極 的になる 2 工程表はA4、1枚で納めるものだ 情報量が多すぎて見間違いが生じかねない工程表を使う 3 過去に付箋がはがれてなくなった経験から付箋を使った予定管理はしたくない 作業管理に付箋を使わない 4 頭の中で覚えておくことができる メモをとらない 5 予定を立てても計画通りにいくことはないので計画することは無意味だ 予定表を作成しない、計画を立てない 7 5分前行動とは5分前から準備をすることだ 作業開始時刻に遅れる 8 過去に学校の先生から「1回しか言わないからな」と言われた 「もしかして聞いていたかもしれない」と思うと質問できなくなる 9 誰に指示されたか覚えていないので、報告はしなくて良いことにした 報告を行わなかった 10 早めに対処するのは良いことだ 指定された時間帯よりも早い時間に報告した 11 こんなことも分からないのか、と思われたくない 積極的に質問や相談することができない 作業管理を妨げる思考自体を変えることは容易ではありませんが、WSSPでは次の4点をポイントとしてアプローチを行いました。 ア 受講者にとって馴染みのある表現、文脈を使ってアプローチする <事例紹介> 「5分前行動とは5分前から準備をすることだ」と認識していた受講者は、昼休みが終わる5分前から午後の作業準備をするため、数分遅刻することがありました。この受講者は、カードゲームが好きな方だったので、“真の5分前行動”を表したカード(図3-8)を渡し、 「5分前行動とは開始時刻の5分前にはいつでも予定の行動に取り掛かれる状態にすることです。これを“真の5分前行動”と呼びましょう」と伝えました。その結果、受講者自ら“真の5分前行動”という用語をしばしば口にするようになり遅刻がほとんどなくなりました。 【真の5分前行動】 時間に遅れることがない、余裕をもってスタンバイできる 図3-8 「真の5分前行動」カード イ 最初から理想的な作業管理スキルを強要するのではなく、受講者が許容できる質や量の取組から始める <事例紹介> 「細かく予定を立てても計画通りにいくことはないので計画することは無意味だ」と考えてしまう受講者は、スケジュール帳でタスクを管理することに消極的でした。そこで、A4、1枚に1週間分のスケジュールを大まかに組むためのツールを紹介したところ(写真3-4)、ツールを使ってスケジューリングを行うことができ、段取りを視覚化することの有効性について実感できたとの感想がありました。 写真3-4 簡易スケジュール表 ウ 取組そのものや取組の結果に対するフィードバックを意識的に行う これまでの自分の考えとは違う行動をとることは労力を要します(例:今まで頭の中で段取りを考えていた人が手帳を使ったスケジューリングをする)。しかし、せっかく頑張って新たな行動をしたのに周囲から何のフィードバックもなければ動機づけが得にくいもの です。そのため支援者は、新しい取組を試みたこと自体に肯定的なフィードバックを行うことが重要です。また、過去の経験・学習によって作り出された強固なルールや信念には結果のフィードバックが有効です。たとえば、付箋がはがれてなくなり困ったという経験から付箋は一切使いたくないという場合、付箋を使った結果どのような良い結果が生じたかをフィードバックすることで「付箋を使う(行動)→紛失して困る(結果)」という認識から「付箋を使う(行動)→忘れ物を防止できる(結果)」という認識に変えていきます。もし、実験的に付箋を使うことにさえ抵抗感を示す場合は、受講者が許容できるツールで試してもらいます。なお、WSSP受講者には、全面ノリの付箋がはがれる心配が少ないと好評でした。 エ 他の受講者の取組や考えを聞ける場を設定する 支援者の助言に加えて他の受講者の助言が効果を与えることが多々あります。また、受講者間の関係性が深まっていればその効果はより大きくなります。 <事例紹介> ある受講者は、何度も見直しをしているにも関わらずミスが出る作業について「障害特性上苦手なことだから、この作業はもうやらなくて良い」と考えるに至りました。問題解決技能トレーニングでその考えを発表したところ、他の受講者から「具体的な見直しの手段を使い、その効果を検証しましたか?」とのコメントを受けて考えが変わりました。その後、問題解決技能トレーニングの解決策案をもとに幾つかの見直し方法を検証し、自分に合った方法を見出すことができました。 (2)コミュニケーションに関する知識・スキルの不足 通常、作業管理は単独でタスクを完了させるだけではありません。指示に対する質問や確認、完成形のイメージに関する相談や共有、進捗状況の報告など他者とのコミュニケーションを含むことが一般的です。 WSSP受講者のなかには、コミュニケーション上の課題が確認される方がいます。その課題の背景にはコミュニケーションに関する知識・スキルの不足という要因が存在することがあります。ただし、受講者によっては、実行機能の弱さ、コミュニケーションを妨げる思考という要因が認められる場合もあります。たとえば、タスクモニタの弱さによって進捗状況が明確に把握できておらず結果として進捗報告があいまいになる、計画・組織化の弱さによって報告が簡潔にまとめられない、筋道を立てて話せない、報告のタイミングが分からないなどの事例が挙げられます。また、「指示は1回で覚えなければならない」という思考によって質問しづらくなったり、「報告相手が話している場合、自分が待つ分には何ら困らない」という思考から他者が話しているところに割り込むスキルがあっても相手の話が終わるまで待ち続けるなどの事例がありました。 これらのことから、作業管理においてコミュニケーション上の課題が確認された場合、その背景には、「実行機能の弱さ」「コミュニケーションに関する知識・スキルの不足」「コミュニケーションを妨げる思考」という要因が存在し得ることを念頭においた分析が必要です(図3-9参照)。なお、コミュニケーションを妨げる思考は前項「作業管理を妨げる思考」の一部と整理でき、実行機能については既出の視点であることから、本項における 視点はコミュニケーションに関する知識・スキルの不足となります。 確認されたコミュニケーション上の困難さ 報告があいまいになる 困難さの原因(例) 進捗状況を正確に把握していない 報告のフレームを知らない 詳しく報告するとダメ出しされるかもしれない アセスメントの視点 実行機能(タスクモニタ)の問題 コミュニケーションに関する知識・スキルの問題 思考の問題 図3-9 コミュニケーション上の困難さに関するアセスメントの視点 以上、実行機能9項目にその他「作業管理を妨げる思考」「コミュニケーションに関する知識・スキルの不足」の2つを加えた11項目を作業管理能力におけるアセスメントの視点としています。 <引用・参考文献> 1)池田吉史.知的障害の子どもの自己制御の支援.森口佑介(編著):「シリーズ支援のための発達心理学自己制御の発達と支援」、金子書房、2018、p66-77. 2)森口佑介.自己制御研究の現在.森口佑介(編著):「シリーズ支援のための発達心理学自己制御の発達と支援」、金子書房、2018、p2-15. 3)橋本創一(編者):「知的障害・発達障害児における実行機能に関する脳科学的研究―プランニング・注意の抑制機能・シフティング・ワーキングメモリ・展望記憶」、福村出版、2020、p20-30、343. 4)RobertM.Roth、PeterK.Isquith、GerardA.Gioia:「BRIEF-A(BehaviorRatingInventoryofExecutiveFunction-AdultVersion)PROFESSIONALMANUAL」、PAR、2005、p19-22. 5)桃田茉子、浅野良輔、永谷文代、宮川広実、中西真理子、安田由華、柴田真理子、橋本亮太、毛利育子、谷池雅子:中学生対象日本語版BRIEF構成概念妥当性の検証と標準化「心理学研究第88巻第4号」、2017、p348–357. 6)玉木宗久・海津亜希子:翻訳版BRIEFによる自閉症スぺクトラム児の実行機能の測定の試み-子どもの実行機能の測定ツールの開発に向けて-「国立特別支援教育総合研究所研究紀要第39巻」、2012、p45-54. 7)服部陽介:自己と他者に関する思考・感情の意図的抑制と実行機能「心理学評論Vol.58、No.1」、2015、p115-134. 8)高山恵子(著):「やる気スイッチをON!実行機能をアップする37のワーク」、合同出版、2019、p8-11、p114-122. 9)浮穴寿香、橋本創一、出口利定:日本語版BRIEF-Pの開発-発達障害児支援への活用をめざして-「発達障害支援システム学研究第7巻第2号」、2008、p59-64. 10)大村一史:発達障害児に対する実行機能の認知トレーニング「山形大学紀要(教育科学)第16巻第2号」、2015、p93-108. 11)関口理久子・山田尚子:実行機能質問紙(ExecutiveFunctionsQuestionnaire)の開発「関西大学心理学研究第8号」、2017、p31-48. 12)葉石光一・池田吉史・八島猛・大庭重治:知的障害者の実行機能と支援実践の課題「上越教育大学特別支援教育実践研究センター紀要第21巻」、2015、p39-42. 13)前田明日香:行動調整機能における研究動向とその課題─Luriaの脳機能モデルへの発達論的アプローチの可能性─「立命館産業社会論集第43巻第3号」、2007、p79-98. 14)宮下知子・北村博幸・加藤順也:実行機能に着目した作業学習のアセスメントに関する課題「北海道教育大学紀要(教育科学編)第65巻第2号」、2015、p389-401. 15)森口佑介:実行機能の初期発達,脳内機構およびその支援「心理学評論Vol.58No.1」、2015、p77-88. 16)小島佳子・古川陽大:感情区別と感情制御との関係「愛知教育大学研究報告教育科学編61巻」、2012、p127-135. 17)阿部順子・蒲澤秀洋(監修)、名古屋市総合リハビリテーションセンター(編著):「50シーンイラストでわかる高次脳機能障害「解体新書」―こんなときどうしよう!?家庭で,職場で,学校での“困った”を解決!」、メディカ出版、2013、p150-151. 18)司馬理栄子(監修):「ADHDの人の「やる気」マネジメント」、講談社、2020、p16-19、30-31、38-39. 19)中島美鈴(著)・稲田尚子(著):「ADHDタイプの大人のための時間管理ワークブック」、星和書店、2017、p148-149. 20)湯澤正通・湯澤美紀(編著):「ワーキングメモリと教育」、北大路書房、2014、p3、159. 21)苧阪満理子(著):「脳のメモ帳ワーキングメモリ」、新曜社、2002、pⅰ. 22)梅田聡(著):「岩波科学ライブラリー133「あっ、忘れてた」はなぜ起こる―心理学と脳科学からせまる」、岩波書店、2007、p21-22、45-55. 23)國分充(研究代表者):平成25年度広域科学教科教育学研究経費研究報告書知的障害児のプランニングと抑制機能の支援に関する基礎的・実践的研究、2014、p3. 24)メアリー・V・ソラント(編著)、中島美鈴(訳)、佐藤美奈子(訳):「成人ADHDの認知行動療法―実行機能障害の治療のために―」、星和書店、2015、p10、183. 25)デボラ・ザック(著)、栗木さつき(訳):「SINGLETASK一点集中術―「シングルタスクの原則」で全ての成果が最大になる」、ダイヤモンド社、2017、p28-29、40-41. 26)中島美鈴:「もしかして、私、大人のADHD?認知行動療法で「生きづらさを」を解決する」、光文社、2018、p60-86. 27)Sonuga-Barke,E.Bitsakou,P.,Thompson.M.(2010).Beyondthedualpathwaymodel:evidenceforthedissociationoftiming,inhibitory,anddelay-relatedimpairmentsinattention-deficit/hyperactivitydisorder.JournaloftheAmericanAcademyofChild&AdolescentPsychiatry,49(4),p345-355. 28)司馬理栄子:「ADHDタイプの【部屋】【時間】【仕事】整理術「片づけられない!」「間に合わない!」がなくなる本」、大和出版、2014、p41. 29)高山恵子(編著)、NPO法人えじそんクラブ(著):「ADHDのサバイバルストーリー【本人の想い編】おっちょこちょいにつけるクスリ②」、ぶどう社、2012、p106. 30)宇野宏幸.注意欠如多動症のある子どもの自己制御の支援.森口佑介(編著):「シリーズ支援のための発達心理学自己制御の発達と支援」、金子書房、2018、p97-108. 31)関根正・森千鶴:自閉スペクトラム症を持つ人の自己モニタリング機能の活性化を促す看護介入プログラムの効果「児童青年精神医学とその近接領域59(1)」、2018、p70-85. 32)森口佑介:「自分をコントロールする力非認知スキルの心理学」、講談社現代新書、2019、p202-203. 33)T.P.アロウェイ(編著)、R.G.アロウェイ(編著)、湯澤正通(監訳)、湯澤美紀(監訳):「認知心理学のフロンティアワーキングメモリと日常―人生を切り拓く新しい知性―」、北大路書房、2015、p192-235. 第4章 作業管理課題の内容 1 作業管理課題の目的と項目 目的 作業管理課題の実施を通じて作業管理上の課題の傾向を主に実行機能の側面から把握すること、そして受講者個々の特徴に応じた対処方法の検討に資することを目的としています。 項目 作業管理課題では、タスクA~Gの7つのグループに分けた課題を設定しています。課題項目は9種類のMWS訓練版、3種類のレポート作成課題、進捗報告の全13種類(表4-1)です。 表4-1 作業管理課題の各タスクの課題項目 課題の項目 課題の内容 タスクA 数値チェック社内郵便仕分 検索修正 納品書にそって、請求書の誤りをチェックし、訂正する作業 仕分けのルールにそって、社内に届いた郵便物を仕分ける作業 指示書にしたがって、PC内のデータを検索し、内容を修正する作業 タスクB 文書入力 数値入力 PC画面に表示された文章を、枠内に入力する作業 PC画面に表示された数値を、表計算ワークシートに入力する作業 タスクC MWSのミスの内容と防止策に関するレポート作成 「タスク管理方法について」というアンケート調査とレポート作成 MWS訓練版について自らのミスの内容と防止策をまとめる作業 アンケート結果をレポートにまとめる作業 タスクD 作業日報集計 物品請求書作成 作業日報から作業時間、量、不良数、不良率を集計する作業 品名カードで指示された物品を事務用品カタログで調べ、物品請求書を作成する作業 タスクE 社内報原稿作成 自分が興味関心のある事柄について、社内報用原稿を作成する作業 タスクF 進捗報告 作業の進捗を上司に報告する タスクG ラベル作成 ピッキング ラベル見本と課題カードを見ながらテプラを使ってラベルを作成する作業 指示された条件にそって、品物をそろえる作業 2 作業管理課題の流れ 作業管理課題の流れは次のとおりです。 事前準備 支援者 ・プログラムのスケジュールを考慮し、5日間の作業管理課題期間中に指示するタスクの項目、難易度を検討する。 ・「タスクる」(支援者用課題設定補助ツール)を用いて、5日間の課題の選択と作業量を検討する。 ・「タスクる」を用いて、第1回、第2回の教示文などを作成する。 作業管理課題(5日間を2回実施) 初日、2日目 支援者(役割:WSSP社総務部上司) 初日:受講者に対して教示文「基本作業の教示」を読み上げて指示を出す。 2日目:受講者に対して教示文「追加作業の教示」を読み上げて指示を出す。 受講者の行動の様子を「行動観察シート」に記入する。 受講者(役割:WSSP社総務部社員) 指示に応じて5日間の作業スケジュールを自ら立て、締切りまでに作業を完了させる。 プログラムで使用する日報に、その日の気づきと感想を記入する。 3~5日目 支援者 受講者からの質問には応じるが、作業指示は出さない。記録は初日、2日目と同様。 受講者 自主的に作業を行う。気づきと感想の記入は初日、2日目と同様。 個別相談(振返り) 第1回終了後 支援者 作業管理上の課題を明確にし、対処方法について助言する。 受講者 ふりかえりシートを作成し、対処方法を検討する。 第2回終了後 支援者 職場で対処方法を実践するための助言を行う。 受講者 ふりかえりシートを作成し、対処方法の実践に向けたカスタマイズを検討する。 3 作業管理課題期間中のスケジュール 作業管理課題は連続する5日(月~金)で実施することを基本設定としていますが、週の途中から開始してもかまいません。 5日間のスケジュール例は図4-1のとおりです。 図4-1 スケジュール例 4 各タスクの実施方法と関係する実行機能 各タスクの実施方法と関係する実行機能は次のとおりです。なお、関係する実行機能についてはカッコ内に記載しています。 【タスクA:数値チェック・社内郵便仕分・検索修正】 タスクの特徴 毎日定時(11:00または14:00)に行う。 実施方法 指示を出す日 初日 締切り 11:00開始の場合は12:00まで 14:00開始の場合は15:00まで 数値チェック、社内郵便仕分を選択した場合、作業に使用する道具は支援者が事前に準備する。 課題の正誤チェックは支援者が当日中に行う。正誤を確認後、受講者に結果を伝えるが、修正は求めない。 関係する実行機能 他の作業を行っていてもタスクAに関する指示を覚えておく力(ワーキングメモリ)、タスクAを開始するために実施中の作業から切り替える力(シフト)、使っていた道具を整理する力(道具の整理)、指定された時間に作業を開始する力(開始)が求められる。 【タスクB:文書入力・数値入力】 タスクの特徴 手順は簡易だが課題量が多い。 実施方法 指示を出す日 初日 締切り 5日目15:00まで 作業に必要な道具の準備は受講者自らが行う。 受講者は完了した課題をプリントアウトする。ミスがある場合は手書きで修正後、締切日までに提出する。 支援者は受講者の力量に合わせて完了が見込まれる作業量を提示する。 関係する 実行機能 課題量から「間に合わないのではないか?」と考え、不安や焦りが生じた場合、気持ちをコントロールする力(情緒のコントロール)が求められる。 【タスクC:レポート作成】 タスクの特徴 完成形のイメージと完成までの手順を自ら見出すレポート作成課題。 課題の内容 指示を出す日 初日 締切り 5日目15:00まで 用紙サイズ、枚数は受講者が決定する。 支援者は受講者からの図表の作成方法など、パソコン操作に関する質問には応じるが、受講者のパソコン操作スキルを大幅に越えるレポートを作成させる必要はない。 【第1回】プログラム受講全体を通じて実施したMWS訓練版について、自らのミスの内容と防止策をレポートにまとめる。 【第2回】支援者および他の受講者を対象とした「タスク管理方法に関するアンケート(図4-2)」を実施する。受講者はアンケートの協力依頼、回収、そして結果 のまとめまでを担当する。 関係する実行機能 完成形のイメージを指示者に確認しながら、指示内容と一致した成果物を作り上げる力(目標の明確化)が必要になる。 完成までにかける時間や段取りを自分で調整することが可能であるため、他の作業の進捗状況を参照する力(タスクモニタ)が必要になる。 上記の他にも完成形までの工程の明確化、時間見積もりなど計画・組織化の力が求められる。 作業管理課題第2回用 タスク管理方法に関するアンケート 出かける予定だったのに、ほかのことをしていたら時間が過ぎてしまい遅刻した! 上司から指示されていた作業中に、別の人からの業務指示を受け、上司からの指示を中途半端にしていたら、報告を求められて困った! 訪問アポイントをとったことをメモする時間がなく、後回しにした結果、その日、その時間に別のアポイントを入れてしまった!という経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか? このような経験から、ご自分なりに取り組んだ対処方法や、役立ったグッズがあれば、ぜひ教えてください。 Q1-(1)複数のタスクを管理するために、試してみた対処方法はありますか?試してみた対処方法ある・ない (2)どんな方法ですか?具体的に教えてください。 (例)とにかく手帳にタスクを書き出した。 Q2-(1)複数のタスクを管理するために役立ったグッズはありますか?役立ったグッズある・ない (2)どのようなグッズですか?名称や使い方など具体的に教えてください。 (例)スマートウォッチのアラーム機能を使って時間の管理をした。 図4-2 第2回作業管理課題のタスクCのアンケート 【タスクD:作業日報集計・物品請求書作成】 タスクの特徴 作業工程が多く指示が複雑。かつ作業途中のルール変更があるため、混乱が生じやすい。先送りしたくなることを意図している。 実施方法と課題の内容 指示を出す日 初日 締切り 4日目15:00まで 正誤の確認は課題が提出された4日目に支援者が行う。結果は5日目に受講者に知らせ、ミスがある場合には修正を求め、5日目までに再提出させる。 複雑な指示の内容 第1回では指示に誤情報を加える。第2回では分かりづらい表現で教示する。 【第1回】誤った日にちと正しい曜日を伝える。誤情報は教示文に赤字で表示される。誤情報に気づかない場合の対応はP49を参照。 受講者に指示する誤情報:5日目の日付+4日目の曜日を口頭指示 【第2回】「●ブロックから●ブロック分実施してください」と伝える。分かりづらい表現の部分は、教示文に赤字で表示される。 (例)受講者への指示:3ブロックから5ブロック分(実施ブロック3、4、5、6、7) ■ルール変更の内容 【物品請求書作成】【作業日報集計】 レベル(または前後半)により異なるレベル(または前後半)により異なる計算 消費税率での計算を求める。ルールでの記入を求める。 (例)レベル4…8%(例)レベル4…少数点第2位を切り上げ レベル5…10%レベル5…少数点第2位を四捨五入 関係する実行機能 複雑な指示に対して冷静に確認を行う力が求められる。確認を行わずミスにつながった場合、感情的に相手の非を責めない力(情緒のコントロール)が必要。 指示に応じて従うべきルールに切り替える力(シフト)が求められる。 ※「ブロック」および「レベル」についてはMWS訓練版で用いている表現 【タスクE:社内報原稿作成】 タスクの特徴 自らの興味関心が高い内容をテーマとして設定しているため、優先的に取り組みたくなることを意図しているが、優先度が最も低いタスク。書くことが苦手な人にとっては、先送りしたくなるタスクでもある。(図4-3) 実施方法 指示を出す日 初日 締切り 5日目をめど。 むずかしい場合、5日目の翌週同日午前中まで延長可。 A4サイズ、1ページの用紙に原稿を作成する。 関係する実行機能 他の課題の進捗状況を把握し(タスクモニタ)、優先順位を下げることができる。他に優先度の高い課題がある場合は本課題に取り掛からない力(抑制)が必要になる。 時間に余裕がある場合は自主的に作業を始める力(開始)、その他目標の明確化(完成形の明確化)や時間見積もりなど計画・組織化の力が幅広く求められる。 作業管理課題第1回用 (メールにてスタッフあて依頼) 【依頼】社内報の原稿作成のお願い ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ お世話になっております。 広報課の〇〇です。 社内報の「今月のおすすめ」ページに、貴課より原稿提出をお願いいたします。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1.提出締切日時 11月19日金曜日15時00分 2.寄稿テーマ 「私が燃える?萌える?最近の趣味~ぜひ、あなたにも勧めたい~」 3.原稿レイアウトなど (1)サイズ A4縦1枚に収めること (2)文字数行数 40字×36行を基本設定とする (3)フォント MSP明朝10.5ポイントを基本設定とする (4)余白 標準設定のまま変更しないこと (5)イラスト、画像 PCのCドライブ内に保存されている画像および手書きイラストのみ使用可 (6)その他 ①レイアウトの工夫のためにテキストボックスを使用して構わない ②タイトル部分の文字サイズを大きくすること、フォントを一部変更することは構わない 図4-3 第1回作業管理課題のタスクEの指示書 【タスクF:進捗報告】 タスクの特徴 報告のタイミングが2パターンあり、それぞれの対応を求められる。 実施方法 指示を出す日 初日 締切り 日時指定はなく週の後半に報告を求める。 日時指定あり。報告を求める時間は支援者が任意に設定する。 関係する実行機能 報告を課題として認識し、事前に報告内容・順番・タイミングなどを計画する力(計画・組織化)が求められる。また、報告のタイミングを覚えておき(ワーキングメモリ)、時間が近づいたら、報告することに意識を切り替える力(シフト)が必要になる。正確な報告を行うためには、進捗を把握する力(タスクモニタ)が求められる。 【タスクG:ラベル作成・ピッキング】 タスクの特徴 「急ぎ」と指示される量の多い追加作業。準備や片付けに時間を要し段取りに手間がかかる。 実施方法 指示を出す日 2日目朝会後 締切り 3日目10:30まで 作業に必要な道具は受講者自らが準備する。 課題の正誤チェックは支援者が行う。正誤を確認後、受講者に結果を伝えるが、修正は求めない。 関係する実行機能 作業量が多く、締切りが近いため、計画を見直す力(計画・組織化:スケジューリング)が必要になる。また予定の変更に伴う動揺などをコントロールする力(情緒のコントロール)、進行中の作業から追加作業に切り替える力(シフト)が求められる。 5 「タスクる」(支援者用課題設定補助ツール)の活用 「タスクる」とは、受講者に指示する作業管理課題の項目、量、難易度の検討をサポートし、課題設定にかかる負荷を軽減させる支援者のために開発した補助ツールです(図4-4)。「タスクる」で課題設定をするためには、支援者は事前に受講者の次の4点について情報を整理しておく必要があります。 ①MWS訓練版の到達レベル ②MWS訓練版の所要時間(作業標準時間との比率) ③道具の準備や片付けに要する時間 ④休憩時間 (1)入力のステップ 入力は次の7つのステップで行います。 ①作業管理課題実施日、曜日の入力 ②午前、午後の作業開始 時間、作業終了時間の入力 ③実施内容の選択 ④MWS以外の課題について 【第1回】【第2回】の選択 ⑤内容とレベルの選択 ⑥想定する作業能率の選択 ⑦毎日行うタスクAの開始時間の設定 図4-4 「タスクる」(支援者用課題設定補助ツール) (2)各ステップの入力方法 ステップ①作業管理課題実施日、曜日の入力 ステップ②午前、午後の作業開始時間、作業終了時間の入力 操作方法と入力内容 ①初日~5日目の日付を手入力、曜日をドロップダウンリストから選択します。 ②午前・午後の作業開始時間と終了時間を手入力します。 ステップ③実施内容の選択 付属CDに保存しているデータの初期設定は図4-5のとおりです。実施内容は受講者のスケジュールに合わせて内容を変更することができます。 朝会 午前 午後 夕会 作業開始時間 10:30 作業開始時間 13:00 作業終了時間 12:00 作業終了時間 15:00 ↓ ↓ 90分 120分 実施内容の選択 所要時間(分) 実施内容の選択 所要時間(分) 初日 作業指示(5分) 5 就労セミナー(80分) 80 11月8日 計画立案(当初:25分) 25 作業 作業 選択なし 選択なし 選択なし 月曜日 作業可能時間 60 作業可能時間 40 2日目 追加指示(5分) 5 個別相談(60分) 60 11月9日 計画立案(追加後:15分) 15 作業 選択なし 休憩(5分) 5 選択なし 作業 火曜日 作業可能時間 70 作業可能時間 55 3日目 作業準備、片付(10分) 10 作業準備、片付(10分) 10 11月10日 作業 作業 休憩(5分) 5 休憩(5分) 5 作業 作業 水曜日 作業可能時間 75 作業可能時間 105 4日目 作業準備、片付(10分) 10 就労セミナー(80分) 80 11月11日 作業 作業 休憩(5分) 5 選択なし 作業 選択なし 木曜日 作業可能時間 75 作業可能時間 40 5日目 作業準備、片付(10分) 10 個別相談(60分) 60 11月12日 作業 作業準備、片付(10分) 10 休憩(5分) 5 作業 作業 休憩(5分) 5 金曜日 作業可能時間 75 作業可能時間 45 図4-5 CDに保存している初期設定 操作方法と入力内容 ③ドロップダウンリストから選択します。 実施内容を選択すると、各日の午前、午後の作業可能時間が自動計算されます。 【初日】 ・午前の「作業指示」「計画立案」は初期設定のまま使用します。 ・その他の設定は、受講者の予定に合わせて変更します。 【2日目】 ・午前の「追加指示」「計画立案」は初期設定のまま使用します。 ・その他の設定は、受講者の予定に合わせて変更します。 【3日目~5日目】 ・受講者の予定に合わせて変更します。 作業指示(5分) 5 計画立案(当初25分) 25 作業 選択なし 作業可能時間 60 初期設定のまま変更可 変更可 初日 作業指示(5分) 5 就労セミナー(80分) 80 11月8日 計画立案(当初25分) 25 作業 作業 選択なし 選択なし 選択なし 月曜日 作業可能時間 60 作業可能時間 40 2日目 追加指示(5分) 5 個別相談(60分) 60 11月9日 計画立案(追加後15分) 15 作業 選択なし 休憩(5分) 5 選択なし 作業 火曜日 作業可能時間 70 作業可能時間 55 3日目 作業準備、片付(10分) 10 作業準備、片付(10分) 10 11月10日 作業 作業 休憩(5分) 5 休憩(5分) 5 作業 作業 水曜日 作業可能時間 75 作業可能時間 105 4日目 作業準備、片付(10分) 10 就労セミナー(80分) 80 11月11日 作業 作業 休憩(5分) 5 選択なし 作業 選択なし 木曜日 作業可能時間 75 作業可能時間 40 5日目 作業準備、片付(10分) 10 個別相談(60分) 60 11月12日 作業 作業準備、片付(10分) 10 休憩(5分) 5 作業 作業 休憩(5分) 5 金曜日 作業可能時間 75 作業可能時間 45 課題設定ツールの「実施内容の選択」のセルは、ドロップダウンリストから選択します。選択できる実施内容は次のとおりです。 表4-2 ドロップダウンリストで選択できる実施内容 選択項目 表示される作業時間 各項目の内容 作業指示 5分 支援者が作業管理課題の指示(教示文の読み上げ)に要する時間 追加指示 5分 タスクGの指示(教示文の読み上げ)に要する時間 計画立案:当初 25分 作業管理課題の指示後、受講者自らが計画立案を行う時間 計画立案:追加後 15分 タスクGの指示後、受講者自らが計画の再立案を行う時間 休憩 5分 受講者の申し出により、休憩する時間 就労セミナー(60分) 60分 受講者が60分程度の就労セミナー(講習)を受講する時間 就労セミナー(80分) 80分 受講者が80分程度の就労セミナー(講習)を受講する時間 個別相談(60分) 60分 受講者が60分程度、支援者と相談を行う時間 個別相談(80分) 80分 受講者が80分程度、支援者と相談を行う時間 バックアップ時間 30分 作業管理課題を余裕あるスケジュールとするために設定する余白時間。作業の正誤確認(見直し)に時間を要する、障害特性に関連した一定の行動パターンがあり、そのパターンの変更ができにくい場合などに活用することを想定している。 作業準備、片付け 10分 作業準備や片付けに時間を要する受講者のために設定したもの。毎日設定する必要はない。 作業 表示なし 作業を行う時間。作業を選択すると、作業可能時間欄にその日の午前、あるいは午後に作業を行うことのできる合計時間が自動計算され表示される。 選択なし 表示なし 作業実施内容の選択欄に空白があるとエラーが表示され計算できないため、自動計算をする上で必要な選択肢。いずれの内容にも該当しない場合は、「選択なし」を選択する。 ※「タスクる」の「手入力」「リストから選択」以外のセルは保護(パスワード設定なし)しています。また、計算式は73~155行に記載し、非表示にしています。各施設の状況に合わせて変更することが可能です。 ステップ④MWS以外の課題【第1回】【第2回】の選択 操作方法と入力内容 ④MWS以外の課題を【第1回】【第2回】から選択します。 選択に応じてMWS以外の課題の所要時間を計算します。 【第1回】【第2回】を同時に選択することはできません。 MWS以外の課題を選択すると、「■課題とブロック数の設定」欄が右のとおり表示されます。 【第1回】を選択した場合 ■MWS以外の課題の設定 MWS以外の課題を実施する時間合計 160 タスクC タスクE 第1回 MWSレポート 社内報原稿 第2回 なし アンケートとレポート作成 ※タスクC、タスクEは各80分で実施することを想定しています。 【第2回】を選択した場合 ■MWS以外の課題の設定 MWS以外の課題を実施する時間合計 100 タスクC タスクE 第1回 MWSレポート 社内報原稿 第2回 なし アンケートとレポート作成 ※第2回はタスクCの課題はありません。タスクEは100分で実施することを想定しています。 【第1回】の表示 ■課題とブロック数の設定 MWSを実施する時間合計(分) タスクの内容とレベル(Lv) 想定する作業能率 ブロック数 期日 タスクA ※ タスクA開始時間 締切時間 タスクB 11月12日 15時00分 タスクC MWSレポート 11月12日 15時00分 タスクD 11月11日 15時00分 タスクE 社内報原稿 11月12日 15時00分 タスクF タスクG タスクG指示出日 締切日 11月9日 11月10日 ※タスクAのみ1日当たりのブロック数 ステップ⑤ 内容とレベルの選択 第1回作業管理課題では、タスクBは文書入力と数値入力から、タスクDは作業日報集計と物品請求書作成から、タスクGはラベル作成とピッキングから、どちらか一方を選択します。第2回作業管理課題では、第1回に選択しなかった課題を選択します。 操作方法と入力内容 ⑤ドロップダウンリストからMWS訓練版とレベルを選択します。 右はタスクBに文書入力を選択した例です。タスクB、D、Gは異なる2つのレベルを選択できます。異なる2つのレベルを選択することで、教示が複雑になり難易度があがります。 レベルの選択を1つにすることも可能です。その場合は、下のセルに「選択なし」を設定します。 ステップ⑥ 想定する作業能率の選択 操作内容と入力内容 ⑥受講者の作業能率をドロップダウンリストから選択します。 受講者がこれまで実施したMWS訓練版の結果記録を参照します。1ブロックに要した受講者の作業時間と標準値と比べ、同程度の場合は1.00を選択します。 標準値は「タスクる」の同一シート、右側「■タスク、レベル、能率の一覧表」に掲載しています。 想定する作業能率を選択すると、作業管理課題で実施するMWS訓練版のブロック数(課題量)が表示されます。 ブロック数の計算式には、見直しや正誤確認、道具の準備と片付けの時間は含まれていません。 「1.00」は標準値と同程度。 「0.5」「0.75」は標準値と比較して能率が高い(作業が早い)場合に選択。 「1.25」~「2.0」は標準値と比較して能率が低い(作業がゆっくり)場合に選択。 タスクの内容とレベル(Lv) 想定する作業能率 ブロック数 タスクA 郵便仕分けLv3 1 3※ タスクB 文書入力Lv2 1 8 文書入力Lv3 1 6 タスクC MWSレポート タスクD 作業日報集計Lv3 1.25 11 作業日報集計Lv4 1.25 4 タスクE 社内報原稿 タスクF 進捗報告(日時指定あり) タスクG ピッキングLv2 1 20 ピッキングLv3 1 16 ※タスクAのみ1日当たりのブロック数 ステップ⑦ タスクAの開始時間の設定 入力内容 ⑦毎日、定時に実施するタスクの開始時間を選択します。 開始時間を選択すると締切時間が自動表示されます。 「タスクる」で設定した内容は、作業管理課題の教示を行う際に使用する「第1回教示文」「第2回教示文」と「第1回社内報依頼メール(タスクC)」に反映されます。 「タスクる」と連動して作成される教示文とタスクC 第1回教示文 第1回社内報依頼メール 作業管理課題第1回用 (メールにてスタッフあて依頼) 【依頼】社内報の原稿作成のお願い お世話になっておリます。 広報課の00てす。 社内報の「今月のおすすめ」ページに、貴課よリ原稿提出をお願いいたします。 .提出締切日時 11月19日 金曜日 15時00分 2.寄稿テーマ 「私が燃える?萌える?最近の趣味~ぜひ、あなたにも勧めたい~」 3.原稿レイアウトなど (1)サイズ A4縦枚に収めること (2)文字数行数 40字X36行を基本設定とする (3)フォント MSP明朝05ポイントを基本設定とする (4)余白 標準設定のまま変更しないこと (5)イラスト、画像 PCのCドライブ内に保存されている画像および手書きイラストのみ使用可 (6)その他 ①レイアウトの工夫のためにテキストボックスを使用して構わない ②タイトル部分の文字サイズを大きくすること、フォントを一部変更することは構わない 第2回教示文 「第1回教示文」についてはP48、「第2回教示文」についてはP50で説明しています。 6 作業の教示 作業管理課題では、受講者に対して「作業管理課題教示文」を読み上げて指示を出します。【基本作業の教示】は初日に、【追加作業の教示】は2日目に読み上げます。 (1)第1回作業管理課題 ア 教示文 第1回作業管理課題の教示文は次のとおりです。 赤字は意図的に指示ミスをする設定をしているため、読み飛ばしに注意します。 イ 教示の際に受講者からのよくある質問と回答例 受講者 支援者 ■今からお願いしたい課題を伝えます。 メモ帳を取りに行かせてください! はい、どうぞ。 ■タスクA説明後、タスクB、Cの説明に移るタイミングで ちょっと待ってください!タスクAの指示を復唱してもいいですか? はい、どうぞ。 ■タスクDの指示中に あれ?曜日を間違っていませんか? そうですね。すみません。 →正確な情報(4日目の日付と4日目の曜日)を伝えます。 →日にちのみを復唱した場合は「木曜日なので日付が違いますよ?」と伝えます。 ※復唱がない場合は、指示者から確認はしません。ただし、4日目の朝、「そういえば、タスクDは今日が締切日ですね。進捗はどうですか?」と受講者に声をかけます。 タスクDはどこから(何ブロック目から)始めたらよいですか? これまでの続きから始めてください。 →WSSPでは、各自“作業進行表”(詳細はP77を参照)に自らのMWS訓練版の進行状況を記録しているため、受講者は自分の作業進行表を見て作業を開始します。 ■タスクEの指示の時 結局、締切日はいつですか? とりあえずは(5日目の日付)がめどです。 ■タスクG(追加タスク)を指示した直後に 間に合いそうにありません。他の作業の締切日を延ばしてもらえませんか? 締切日の延長は、後日考えましょう。○○さんのこれまでの作業の様子から、きっと終わると思う作業量を設定しているので、まずは取り組んでみてください。 ■タスクCの進捗がはかどらない場合 苦手です。できそうにありません。 できるところまで取り組みましょう。 (2)第2回作業管理課題 ア 教示文 第2回作業管理課題の教示文は次のとおりです。第2回作業管理課題は、対処方法の活用と定着に向けた声かけを意識して行います。 赤字は意図的に分かりにくい表現にしているため、読み飛ばしに注意します。 イ 教示の際に受講者からのよくある質問と回答例 受講者 支援者 ■今からお願いしたいタスクを伝えます。 メモ帳を取りに行かせてください! とてもいいですね!今回は、正確に情報を記録できるように、まずはメモリーノートのto-doのページをひらきましょう。 スケジュールを立てるのがむずかしいです! 今回は一緒にスケジュールを立ててみましょう。また、進捗状況を見える化する方法をあわせてお伝えしますね。 →バーチカルタイプのスケジュール帳の活用練習、to-doリストの活用、付箋紙を使ったタスク管理など、その方に有効と思われる対処方法を伝えます(詳細はP67~参照) ■タスクDの指示のタイミングで あれ?●ブロック分?どいうことですか? 疑問を感じたタイミングで質問できるのはよいことです。○○さんはいまの指示をどのように理解しましたか? →「●ブロック分」の意図に気づかない場合は、締切日の午前中に「タスクDの進捗はいかがですか?」と質問し、「●ブロック分」の意図を伝えます。可能であれば、締め切り時間まで未実施だった課題を行うようにうながします。 ■タスクEの指示のタイミングで いつ渡せばいいですか? 疑問を感じたタイミングで質問できるのはよいことです。質問してもらえると、完成イメージを共有しやすくなりますね。 →いつ渡すのか、という質問に対しては「どのような方法が考えられますか?」など受講者の検討している方法をまず聞き取ります。その方法が作業管理上、妥当と考えられる場合は、受講者の考えにそって進めます。次は、WSSP受講者が検討した実施例です。 ■アンケート用紙に締切日を記入する欄を入れて配布したいです。 ■今日の夕会の時にアンケートを説明、配布する時間をください(一斉配布)。 アンケート結果は誰に配布するのですか? 疑問を感じたタイミングで質問できるのはよいことです。質問してもらえると、完成イメージを共有しやすくなりますね。 →配布先は誰を想定してかまいません。WSSPでは、「マルチタスクの管理が苦手で困っている発達障害のある方です」と回答しました。 第5章 行動観察シートとふりかえりシートの活用 作業管理課題では、「行動観察シート」と「ふりかえりシート」の2種類のシートを使用します。各シートの作成者と作成する目的、タイミングは表5-1のとおりです。 表5-1 各シートの作成者と作成する目的、タイミング 作成者 目的 作成のタイミング 行動観察シート 支援者 実行機能に着目したアセスメント 作業管理課題期間中は毎日 ふりかえりシート 受講者 課題の取組の振返り 作業管理課題終了日または翌日 1 行動観察シート 支援者は1枚の行動観察シートに、1日分の観察事項を記入します。WSSPでは、作業管理課題実施期間中は、行動観察シートを日々の支援記録(日誌)の代わりとして活用しました。 記入する時は、課題となる行動だけではなく、できている行動もあわせて記入します。自らの障害に関する特性の一つとして「マルチタスクが苦手」と表現する発達障害者は少なくありません。しかし、実行機能に着目し、できている行動を分析すると、「マルチタスク」のすべてが苦手なわけではないと気付くことができます。 なお、行動観察シートは必要な項目のみ記入し、毎日すべての評価欄を記入する必要はありません。 2 ふりかえりシート ふりかえりシートの項目内容は行動観察シートと同じです。 ふりかえりシートは受講者が作業管理課題中のできごとについて、作業工程の流れにそって見つめなおし、自らの取組を振り返るために利用します。 WSSPでは、ふりかえりシートの記入を求めるとき、受講者に次のとおり伝えました。 来週、作業管理課題で感じたことについて、個別相談で一緒に振り返りたいと思います。〇日までに、ふりかえりシートを記入して、提出してください。実は、作業管理課題には○○さんの作業管理力を確認するために、幾つかの「しかけ」を設定しました。日付と曜日が違っていたこと、レベルごとに消費税率が違っていたり、あいまいに報告を求めたりしたのも作業管理課題の「しかけ」でした。ふりかえりシートには、作業管理課題中に気付いたこと、工夫したこと、上手くいかなかったことなどを思い出して書いてください。 まずは受講者に単独でふりかえりシートを記入することを求めます。むずかしい場合は、個別相談(振返り)の場で、支援者とともに評価欄を記入します。 3 個別相談(振返り)での活用方法 行動観察シートとふりかえりシートは、個別相談(振返り)で活用します。WSSPでは、受講者と支援者で個別相談(振返り)行いました。その際、大切にしたのは、受講者が特に意識して取り組んだ取組と上手く対処できなかった取組(課題と考えられる行動)、受講者と支援者の評価(+/-/±)が異なる取組をていねいに振り返ることです。 (1)フェイズ2の個別相談(振返り) 評価項目に-また±がつけられた行動に対する対処方法を具体的に検討します。 作業管理支援【ふりかえりシート】 作業管理課題 令和●年●月●日(●)記録者【□□】 +:できていた、-:できなかった、±:できたりできなかったりした、レ:場面がなかった 作業工程 作業工程ごとに必要な行動 振返りのポイント 自己評価 振返りメモ ①指示受け ・指示を聞く態勢をとる ・直前の行動や思考から離れて指示を聞くことに注意を向ける + ・自分の手帳を用意し、指示を聞きながらメモを取った。 ・進捗報告の指示の「週の後半」という「週の」という点が聞けていなかった。 ・日付を間違えずに記憶することに集中し、曜日は聞き流していたため、曜日が誤りだと気づかなかった。 ・指示受けに必要な道具を準備する ・素早くメモ、筆記具等を取り出す + ・指示内容についてメモを取る ・指示を正確に記憶する ± ・指示を聞きながらメモを取る ± ・不明点を質問する ・適切な台詞、声の大きさ、態度で質問する + ・自信がない点について確認する ・適切な台詞、声の大きさ、態度で確認する + ・誤りに対して冷静に事実確認を行う ・冷静さを維持し、相手のミスを責めることなく事実の確認を行う レ ②作業予定 ・計画立案 ★各タスクを指定された納期までに完了させるための計画を立てる ・自分が抱えている全てのタスクを把握する + ・バーチカル式の手帳に予定を書き込んで計画を立てた。 ・レポートの作成に考えていた以上に時間がかかった。しめきりギリギリに完成したので、イメージのすり合わせのための相談ができなかった。 ・タスク間の優先度を決める + ・目標を達成するうえで効果的な方法や工程を選択する ± ・各タスク、各工程に必要な作業時間を予測する ± ・各タスク、各工程に予定を組み込む + ・レポート、社内報原稿:完成形を明確にし(目標の明確化)、指示者と共有する ・完成形の明確化※完成形のイメージでもよい。 + ・独力で完成形の明確化が難しい場合、指示者に相談する レ ・完成形について共有する + ③作業実施 ・整理整頓をする ・机上など作業環境を整理された状態に保つ + ・追加作業の指示は少しおどろいたが、締切りまでに完了した。 ・物品請求書作成課題は、品番と品名の転記ミスをした。ラベル作成では設定ミスに気づき、修正した。 ・ミスに気づいてからは、見直しに時間をかけたので、正しく修正できた。 ・文書入力で、誤変換に気づかず作業を完了したため、ミスの修正までできなかった。 ・定例作業に対応する ・定例作業があることを覚えている + ・進行中の作業から定例作業に切り替える + ・計画通りに作業を進める ・苦手な作業を後回しにせず、適切なタイミングで作業を開始する + ・計画外の行動を抑制する(例:計画を無視して自分のやりたいタスクを優先する) + ・急ぎのタスクとして指示される「追加作業」に対応する ・動揺や焦りをコントロールする + ・スケジュールを組みなおす(作業予定・計画立案★の項を参照) + ・進行中の作業から差し込み作業に切り替える + ・各タスクをミスなく完了させる ・作業中の見直しによるミスの発見と修正 ± ・ネガティブな結果を予想したり、ネガティブな状況に直面しても冷静さを保つ ・締め切りに間に合わないかもしれないと考えたり、ミスをしたり、計画通りに進まなかった場合に生じる動揺、いら立ち、落ち込みなどをコントロールし、平静を保つ レ ・作業方法、ルールの変更に対応する※ ・新しいルールで対応する(対応困難な場合は、下記①②を検証) + ①新しいルールを覚えている ②古いルールに基づく反応を抑制する ④結果確認 ・作業の見直しをする ・作業終了後、見直しを行い、ミスを発見したら修正する + ・パソコン作業の結果を出力し、出力内容を確認した際にミスが発見でき、修正した。 ・進捗状況の確認をする ・スケジュールと作業遂行状況を照らし合わせ、計画通りに進んでいるかを確認する + ⑤報告・相談 ・指定された期間中または日時に進捗報告を行う ・報告する情報を体系的に整理する(例:完了/未完了とにタスクを分類、未完了のタスクは今後の見通しをまとめる) + ・進捗報告は忘れずにできた。 ・報告のタイミングを覚えている + ・進行中の作業から報告へ行動を切り替える + ・正確に報告を行う + ※作業方法、ルールの変更に対応する 【ストップウォッチの計測(旧:あり、新:なし)】【レベルを進めるルール(旧:3連続正答、新:ミスの修正)】 【物品請求書作成の消費税率(前半:8%、後半:10%)】【作業日報集計(前半:少数点第2位を切り上げ、後半:少数点第2位を四捨五入)】 ■その他■ 作業管理課題の実施を妨げる思考があったか 強いストレス、不安、抑うつ、睡眠不足、疲労などがあったか ・計画的に作業を進めるため、不明点が解決できず予定していた作業ができなかった経験を活かし、不明点についてすぐに質問した。 感覚特性が作業管理課題に影響を与えることがあったか ■実施した感想■ ・進捗報告はできていたが、「何が」が思い出せず、相手に伝わりづらい報告になったと思う。 ・周囲が求める内容や態度で報告できていたかについて知りたい。 図5-1 第1回作業管理課題ふりかえりシート例 (2)フェイズ3の個別相談(振返り) フェイズ3の個別相談(振返り)では、第2回作業管理課題で実践した対処方法について、いかに復職後に使用するか、そのカスタマイズ方法について検討します。 また、フェイズ2とフェイズ3のふりかえりシートを見くらべながら振り返ることで、受講者は自らの変化に気づくきっかけとなります。自らの変化に気づくと「対処方法が習得できた」と自信がもて、復職後の対処方法の実践へのモチベーションを上げることにつながります。 【第1回ふりかえりシート】 【第2回ふりかえりシート】 第1回 第2回 ・指示内容についてメモを取る ± + ・メモした内容を復唱することで、指示内容の正確な理解につながることが確認できたため、自己評価があがった。 第1回 第2回 ★各タスクを指定された納期までに完了させるための計画を立てる ± + ・タスクを書き出すこと、各作業に必要な時間の把握を一覧化することで、計画立案しやすくなると確認できたため自己評価があがった。 図5-2 第2回作業管理課題ふりかえりシートの活用例 第6章 事例紹介 【事例1】急ぎの指示に対する衝動のコントロールに取り組んだ事例(Dさん/40代/ASD、ADHD) 1支援目標 ①指示を正確に理解し、ヌケモレのない作業を行うための確認方法を習得する。 ②作業の段取りや進捗管理に必要な取組を習得する。 ③自ら報連相を行い、指示者と進捗状況を確認しながら作業することを習慣化する。 2 事例の背景と支援の概要 (1)事例の背景 総務部総務課に在籍。定型業務はグループ会社に外注しており、社内での定型業務はほぼないため、臨機応変な対応力が求められています。次々と指示されるタスクを処理できず、そのため叱責される機会が増え心身に不調を生じ、精神科へ通院し抑うつ状態の治療を行っていた過程で発達障害の診断を受けました。事業主が主治医に発達障害に関する配慮を尋ねるなど情報収集するなかで支援機関を知り、WSSPの受講に至りました。 (2)事業主とDさんの希望 事業主の希望は、受講者が支援目標①~③を達成することでした。Dさんの希望も同様でした。そして、次に挙げる課題については自覚していることのことでした。 ・メモが取れない、またメモした用紙をなくしやすいことで、作業のヌケモレが生じる。 ・指示とアウトプットがずれる。作業ミスが多い。 ・「急ぎ」の追加指示にあわてて取り掛かる。進行中の別作業は上司から指摘を受けるまで放置し忘れていることが多い。 3 作業管理支援の実施 (1)フェイズ1の状況 いずれの作業にも懸命に取り組みました。懸命であるがゆえに、作業ミスの指摘を受けると精神的落ち込みが大きく、1日に複数回抗不安薬を服薬することがありました。そのため、フェイズ1ではリラクゼーション技能トレーニング1)の受講時期を早めに設定し、呼吸法や思考や感情と距離をとるトレーニングを毎日の夕会で実践しました。 (2)フェイズ2の状況 第1回作業管理課題では、手元の用紙にメモした作業指示をパソコンで打ち直すといった不要な手続きに時間を要したり、「急ぎ」と指示された追加作業にいち早く取り掛かり、実施中のタスクを放置するなど、職場でのエピソードと同じ状況が確認されました。第1回作業管理課題の様子と個別相談(振返り)でDさんと共有した課題、第2回作業 管理課題に向けて検討した対処方法やDさんの気づきは表6-1のとおりです。 表6-1 Dさんの第1回作業管理課題での状況と課題、対処方法の検討 作業工程 第1回の様子 個別相談(振返り)で共有した課題 対処方法など 指示受け指示内容を復唱後、メモとり。 復唱→メモでは、メモをミスした場合、最後までミスに気付かない。 指示受け手順の固定化 ①指示受け→②メモ→③復唱 メモを半日かけてパソコンで打ち直す。 メモの体裁にこだわると、本来必要な時間を消費する。パソコン上のメモは、見直しに手間をかけるため実用的ではない。 タスクカード(P73参照)を活用する。 作業予定・計画立案 締切日が早く、取り掛かりやすい作業から開始する。 職場で締切日を示されない業務は、取り掛からないことが多かった。 緊急性に加えて他者への影響の有無を優先順位づけの指標として追加する。 「急ぎ」と言われた追加作業にすぐ取り掛かる。 「急ぎ」の言葉から過去のいやな記憶が想起され焦りと不安が生じる。 「焦った時は深呼吸」と言ったのちに深呼吸する。 作業実施 メモ帳とタスクカードが書類に埋もれいつも探している。 タスクカードの整理にファイルを利用したが、大きなタスクファイルを机上に広げると作業スペースが狭くなる。 書見台にタスクファイルを立てる。作業場所の確保に加え常にタスクが目に入る環境を作る利点に気づく。 追加作業完了後、元の作業をすぐに再開できない。 作業途中の課題を整理せず、進捗の記録を取らない。 「急ぎの仕事」の指示を受ける手順を固定する。 結果確認 タスクAはいつも焦ってしまいミスをする。 「○時までに完了させねばならない」との考えが焦りにつながりミスの原因になっている。 「焦った時は深呼吸」と口に出したのちに深呼吸する。 報告・相談 要点をとらえて報告できる。 作業管理課題では課題となる状況はない。 職場では内容をまとめず報告していた。職場でもWSSPと同様の取組が有効。 (3)フェイズ2~対処方法習得の支援~ フェイズ3に進む前に対処方法に関する実施手順の検討を行いました。この検討に際して支援者は、実行機能の働きに着目し、実行機能を上手く働かせるためにどのようなアプローチが必要かを考えました。 「急ぎ」の作業指示を受ける時の段取りで実施したアプローチは次のとおりです。 ア 「急ぎ」の作業指示を受けた後のDさんの様子と関連が予想される実行機能 「急ぎ」の作業指示を受けた後のDさんの様子 「急ぎ」の指示! •「急ぎ」に反応し、進行中の作業を中止する。たまたま手元にあった裏紙に指示内容をメモする。 •「是が非でも急ぎ対応せねば!」との考えを抑えられず焦る。同時に「急ぎ」の言葉から過去の体験を想起しイライラし、大きなため息が出る。•進行中だった作業の進捗状況をメモせず、あとで思い出せない。 •使用中の書類をざっと机の端に寄せる、中身を確認しないままクリアファイルにはさみ、整理をしない。 •段取りを検討しないまま「急ぎ」の作業を開始する。 •「早くしないとまずいだろ」「あー違う」など独り言を言いながら作業に取り掛かる。焦りからイライラが高まっている。 •でき上がり次第、確認せず提出する。 •指示者からミスの指摘をうけて落ち込む。 関連が予想される実行機能 【シフト】 【抑制】 【情緒のコントロール】 【ワーキングメモリ】 【道具の整理】 【計画•組織化】 【セルフモニタ】 【タスクモニタ】 実行機能【抑制】【情緒のコントロール】【ワーキングメモリ】【道具の整理】【計画•組織化】【セルフモニタ】【タスクモニタ】 阻害 不安•焦り イ 作業指示を受ける際の対処方法に関連する実行機能と支援の工夫 Dさんは「急ぎ」のフレーズを聞くことで過去の体験を想起し、不安と焦りを生じるとのことでした。支援者は、不安と焦りが作業管理を進める上で必要な実行機能の働きを阻害すると分析しました。そのため不安と焦りを鎮める対処方法と不安から生じる行動を抑えることが、作業管理上の課題解決につながると考えました。 Dさんが取り組んだ対処方法習得までの支援の流れは次のとおりです。 (ア)指示受け時、「手元の作業を片付けますので少し時間を下さい」と相手に断る。 抑制 支援者は「時間を作るために断りを入れる」工程をはさむことで、すぐに急ぎの仕事に取り掛かりたいという衝動的な反応を抑制できると考えました。また、Aさんの断り方は丁寧なので、片付ける時間を割いても、相手の印象を損ねることはないことを助言し「時間を作るために断りを入れる」行動を取りやすくしました。 (イ)手元の作業をいったん中止して手元の作業の進捗をタスクカードに記録する。 ワーキングメモリ Aさんは急ぎの仕事に飛びつくと、手元作業の進行状況を把握できていなかったり、忘れたりすることがあるため、支援者はワーキングメモリの補完手段としてタスクカードに「どこまで進んだか」記録するという方法を考えました。その際、Aさんに対して「情報を頭の中から取り出しタスクカードに記録すると、頭の中にはその分の“白紙のページ”ができます。“白紙のページ”ができることで、次の指示を頭の中に記憶し、正確で効率的な仕事の段取りを組むことに役立ちます」と説明しました。 情緒のコントロール Aさんからは「書く工程をはさむと、焦りの気持ちが時間とともに落ち着くことを実感できた」との感想がありました。タスクカードへの記載が、動揺をしずめる効果を持っていることがわかりました。 (ウ)カードを名刺用ファイル(名刺ケース)に収納し、机上を整理する。 道具の整理 タスクカードの散乱を防ぐための収納方法を助言しました。 抑制 机上を常に整理された状態にすることで集中を阻害する刺激が減り、急ぎの仕事に集中し、その仕事の完成度を向上させることに効果があると考えました。 (エ)新たなタスクカードを持ち指示者の元へ向かう。 情緒のコントロール 深呼吸をしてから新たなタスクカードを準備することで、不要な刺激(焦りや進捗管理の不安感)を取りのぞくことができると考えました。 ワーキングメモリ 支援者はワーキングメモリを補完する新しいタスクカードを準備することで、動揺が多少残っていても的確に指示を受け入れることにつながると考えました。 (4)フェイズ3の状況 第2回作業管理課題の2日目に行われるタスクG追加作業では、習得した対処方法を実践しました。その他の場面でも、「アンケートの提出ですね。少しお待ち下さい」と相手に断り段取りを整えるなど、慌てることなく対応することができました。2回目の振返り相談でのDさんの感想は次のとおりです。 今までは、目の前の納期にいつも追われていました。しかし、このステップを経ることで「すぐ取り掛かる」のではなく、「段取りを整えて臨む」ことの重要性に気づきました。すぐに取り掛からず、段取りをふめば一つずつ仕事は終わっていく安心感も得ることができました。作業管理課題で対処方法を実践して効果を実感できたので、職場でも続けていきたいと思います。 4復職後のDさんの状況 (1)Dさんの感想 DさんはWSSP終了後、受講前と同一部署に復職しました。復職後2か月経過したDさんに、作業管理の状況についてうかがいました。 復職後は名刺ケースが有効に働き、タスクのヌケモレが皆無と言ってもよいレベルまでなくなりました。さらに、急ぎの仕事は左にカードを配置することで、どの仕事から取りかかるべきかが分かりやすくなりました。 タスクフォルダはいつも机の書見台に立てかけています。上司や同僚も、タスクフォルダをのぞいて私が行っている業務を確認できるようになったため、以前のように無理な業務オーダーがなくなったように感じています。 スケジュール組みのトレーニングを行ったことで、優先順位付けが容易になりました。それに比例して、スケジュールの策定・進捗管理も容易になりました。タスクの見える化の方法が決まったため、指示された作業を忘れることはなくなりました。 (2)事業所の感想 Dさんの復職後、地域センターの担当カウンセラーが週1回職場を訪問し、WSSPでの取組を継続するための支援を行いました。復職2か月後の事業所担当者の感想は次のとおりです。 これまではメモが分散して、どこに何をメモしたかが分からなくなり、業務のヌケモレが目立ちましたが、復帰後は目立つヌケモレが無くなりました。 <参考文献> 1)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター:「実践報告書No.36発達障害者のワークシステム・サポートプログラムリラクゼーション技能トレーニングの改良」、2021. 【事例2】しごとノートを見返すことが安定した作業管理に効果を得た事例(Eさん/20代/ADHD) 1 支援目標 段取り、道具の整理、ミスの確認に関する作業管理上の課題を把握し、不安なく作業を行うための作業管理スキルを習得する。 2 事例の背景と支援の概要 (1)事例の背景 販売管理システムの保守および部品管理業務を担当。仕事上のトラブル対応が引き金となりうつ状態になり休職。休職中にADHDの診断を受けました。気分障害者等を対象とした職場復帰支援の利用を検討するなかで、ADHDの特性を理解し対処できるようになりたいと考えWSSPの受講に至りました。復職に際して事務職に職種変換することが予定されており、新たな職場ではADHDの特性理解と配慮を企業に求めたいと考えていました。 (2)Eさんの希望 復職を目指すにあたり、「ミスがないかといつも神経をはりつめている状態を解消したい」「復帰後はなくし物を探し歩く状況をなくしたい」と希望が挙げられました。Eさんは支援開始時点で次の点について課題と感じていました。 物をなくす。たとえば倉庫整理中に使用していたハサミを置いたまま、次の荷受け作業に移動してしまうといったことを繰り返してきた。 先輩の調子に合わせて楽しくふるまうことが得意。しかし、盛り上げることに意識が向きすぎ、途中で相手のトーンが一気に下がるなど、場の空気を読めないことがある。自分本位のコミュニケーションになりがちと自覚している。 仕事でミスをすることが怖い。 3 作業管理支援の実施 (1)フェイズ1の状況 Eさんはこれまで「手帳はなくすし、メモすることは習慣化しなかった」とのことで、スケジュール管理はスマートフォンで行っていました。WSSPでメモリーノートを活用してからは、「書くと考えがまとまりやすくなる」と感じるようになりました。この体験から、WSSPの作業記録や取組内容を自ら持参したB5版のノート(以下「しごとノート」という。)に、毎日記録することに取り組みました。 (2)フェイズ2の状況 第1回作業管理課題の様子と個別相談(振返り)でEさんと共有した課題、第2回に向けて検討した対処方法やEさんの気づきは表6-2のとおりです。 表6-2 Eさんの第1回作業管理課題の状況と課題、対処方法の検討 作業工程 第1回の様子 個別相談(振返り)で共有した課題 対処方法など 指示受け しごとノートに指示内容を的確にメモできる。 バーチカル式の手帳活用は「枠や線が多いと思考を制限される気がする」と感じる。 しごとノートの活用を続ける。 指示受け時に道具が手元にそろわない。 しごとノートを取りに行った後、ペンがないことに気づくなど、道具をそろえることに時間を要する。道具の一元管理が必要。 クリアポーチを活用した道具の一元管理(P69参照)。 作業予定・計画立案メモ用紙を使って「作業結果記録表」に記入した実績を元に所要時間を算出。5日間の作業計画を立案。 破棄することになるメモ用紙でなく、しごとノートに計算根拠を残すことで、あとから振り返りやすく他者への説明に役立つ。 WSSPの取組に関連する内容は、すべてしごとノートに記録する。 作業実施作業終了まで残り20分といった「新たな作業を開始するには短いが、終了には早すぎる」微妙な時間に「時間調整のための休憩」を取る。 すき間時間が苦手。以前は外回り業務を担当していたので時間を調整できたが、事務職で内勤になるとどう過ごせばよいか分からない。 すき間時間にしごとノートを見返し作業予定の再検討やto-do確認などを行うことで、段取りの確認とヌケモレの防止対策を継続する。 結果確認いずれの作業も何かしらミスが発生。 ミスをしない方法ではなく、ミスがあってもリカバリーできる方法の検討が必要。 真剣で落ち着いた口調で指示者に「確認をお願いします」と申し出ることを練習する。 報告・相談ミスの報告の際、相手を和ませようと「またやっちゃいました」と表現する。 いつも相手を和ませる必要はない。状況に応じた会話のトーンで伝えることが重要。 真剣で落ち着いた口調で報告することを練習する。 (3)対処方法習得の支援 フェイズ3に進む前に、しごとノートの効果について確認しました。しごとノートに取り組み内容を記入することや行動を振り返ることは、思いつきで行動し失敗してきたEさんに“結果を振り返り、改善策を考えた上で行動する”といった課題改善の手続きの実践 に効果がありました。しごとノートの継続的な活用は復職に際して、重要な対処方法のひとつになると支援者は考えました。 しかし、Eさんからは「周りからヒマつぶしにノートを見ていると思われたらどうしよう。自分としてもヒマつぶしと言われたら言い返すことができる根拠がなく不安だ」との考えが聞かれました。 そこで、すき間時間が苦手と感じる背景として予想されること(表6-3)、すき間時間にしごとノートを活用することがEさんの毎日の仕事にどのような効果を与えるのか(表6-4)、そしてすき間時間に行うしごとノートの活用が、実行機能とどのように関連するか(図6-1)について共有しました。Eさんは、「効果が分かれば自信をもって、行動をルーティン化できます。効果が分からないと、よい行動も習慣化できないし、そもそもすぐに忘れてしまいます」と自らのADHDの特徴と関連付けて考え、フェイズ3に進むことになりました。 表6-3 すき間時間が苦手な背景と関連が予想される実行機能 すき間時間が苦手な背景 関連が予想される実行機能 ・自分がすべきto-doを思い出せず、何をすべきか分からない。 【ワーキングメモリ】 ・頭の中で段取りを立てられず、計画的に行動できない。 【計画・組織化】 ・思いついたこと、見聞きしたことに飛びつき、次の予定に遅れた失敗経験があり、すき間時間が不安と感じる。 【抑制】 表6-4 しごとノートを使うことで得られる効果と関連が予想される実行機能 しごとノートを使うことで得られる効果 関連が予想される実行機能 ・記憶にたよらずともto-do全体を把握することができ、これから取り掛かるべき作業の段取りの検討ができる。 【ワーキングメモリ】【計画・組織化】 ・すべきこと(目標)が明確になり、妨害刺激に対して「いまはそれを考える時ではない!」と抑制し、次の予定に進むことができる。 【タスクモニタ】【抑制】 抑制 タスクモニタ 計画・組織化 ワーキングメモリ 図6-1 しごとノートの活用により補完される実行機能と実行機能間のかかわり (4)フェイズ3の状況 第2回作業管理課題では、しごとノートの活用に重点的に取り組みました。Eさんの考えたしごとノートのルール、活用方法は次のとおりです。 しごとノートのルール ・毎日新しいページを使う 使い方 ①作業指示をメモ ②作業にかかった時間を記録 ③スケジュールやイメージ案を検討し記録する。考えた経過も残す ④作業中、疑問や不安に感じたことは、その時すぐにメモする 図6-2はEさんのある日のしごとノートです。「朝会前」「午前・午後の作業開始前」「午前・午後の作業終了後」「夕会前」などのすき間時間に見直すなど、活用しました。 記入した内容と効果 (朝会前)本日実施予定の作業内容を記入 (朝会前)to-doを記入しながら頭に思い浮かんだ過去の記憶や感情を書き出す。 思い浮かんだことを書き出す工程を加えたことは、衝動的な発言や行動を抑えるとともに、行動を切りかえることにも役立ちました。 (作業開始前)これから実施するMWS訓練版に関する注意点を思い起こして記入。 (午前中の作業の終了後)作業の経過を記録 考えた経過を残すことはスケジュールの再調整に役立ちました。さらにスタッフと完成形について共有する場面では、自らの考えた過程を説明しながら、相手の意見と折り合いをつけることに役立ちました。 図6-2 しごとノート 図6-3はEさんのふりかえりシートです。しごとノートの活用が、作業を段取りよく進めることにつながりました。また、これまでは障害特性だからどうにもならないと考えていた“忘れやすさ”について「たとえ指示内容の詳細を忘れたとしても、しごとノートを見返せば思い出せる」と、自らの対処行動が課題解決につながることを実感できました。さらに、「ミスをしても早めの報告でリカバリーできる」との経験が、復職に対する不安感の軽減につながりました。 +:できていた、-:できなかった、±:できたりできなかったりした、レ:場面がなかった 作業工程 作業工程ごとに必要な行動 振返りのポイント 自己評価 振返りメモ ①指示受け ・指示を聞く態勢をとる ・直前の行動や思考から離れて指示を聞くことに注意を向ける + ノートを書いて、ふりかえりをする習慣ができたので、メモをしっかり取ろうと思えるようになった。ノートに記録があると思うと、確認もできるし、さらに困った時には「こうメモをしているが、具体的な内容をもう一度教えて欲しい」と質問が具体的にできるようになった。 ・メモの準備をする ・素早くメモと筆記具を取り出す + ・指示内容についてメモを取る ・指示を正確に記憶する + ・指示を聞きながらメモを取る + ・不明点を質問する ・適切な台詞、声の大きさ、態度で質問する + ・自信がない点について確認する ・適切な台詞、声の大きさ、態度で確認する + ・誤りに対して冷静に事実確認を行う ・冷静さを維持し、相手のミスを責めることなく事実の確認を行う + ②作業予定・計画立案 ・各タスクを指定された納期までに完了できるよう、計画を立てる ・タスクの全体把握※報告もタスクとして認識しているか + ノートを使った計画の見直し、指示受け、報告ができるようになって、作業が自己完結できるようになった。 やりたくないな、と思う作業もあったが、後回しにせず、早め早めに取り組むと、計画よりも早く作業がすすみ、前向きに取り組めた。 ・優先順位の判断 + ・工程の明確化 + ・時間の見積もり + ・スケジューリング + ・レポート、社内報原稿:完成形を明確にし(目標の明確化)、指示者と共有する ・完成形の明確化※完成形のイメージでもよい。 + ・独力で完成形の明確化が難しい場合、指示者に相談する レ ・完成形について共有する + ③作業実施 ・整理整頓をする ・机など作業環境を整理された状態に保つ ± クリアケースを使った道具の整理は負担もないし、続けていきたいと思う。 毎日同じ時間に同じ作業をすることは問題なかった。復職した後のことを想像し、週1回だけの作業と言われると思い出せないかもしれないと思った。時計に付箋を貼って注意喚起したいと思う。 作業ミスはなくならない。特に、自分の書いたレポートの「てにをは」は何度読んでも気づけなかった。 ・定例作業に対応する ・定例作業があることを覚えている ± ・進行中の作業から定例作業に切り替える ± ・計画通りに作業を進める 苦手な作業を後回しにせず、適切なタイミングで作業を開始する + ・計画外の行動を抑制する(例:計画を無視して自分のやりたいタスクを優先する) + ・急ぎのタスクとして指示される「差し込み作業」に対応する ・動揺や焦りをコントロールする + ・スケジュールを組みなおす(作業予定・計画立案★の項を参照) + ・進行中の作業から差し込み作業に切り替える + ・各タスクをミスなく完了させる ・作業中の見直しによるミスの発見と修正 - ・ネガティブな結果に直面しても冷静さを保つ ・ミスをしたり計画通りに進まなかった場合に生じる動揺、いら立ち、落ち込みなどをコントロールし、平静を保つ + ・作業方法、ルールの変更に対応する※ ・新しいルールで対応する(対応困難な場合は、下記①②を検証) + ①新しいルールを覚えている + ②古いルールに基づく反応を抑制する + ④結果確認 ・作業の見直しをする ・作業終了後、見直しを行い、ミスを発見したら修正する - 作業管理はできると自信を持てたが、作業そのもののミスは発生する。自分の苦手なことだと思うが、早め早めの報告でリカバリーできると思えたので、報告は続けたいと思う。 ・進捗状況の確認をする ・スケジュールと作業遂行状況を照らし合わせ、計画通りに進んでいるかを確認する + ⑤報告・相談 ・指定された期間中または日時に進捗報告を行う ・報告する情報を体系的に整理する(例:完了/未完了とにタスクを分類、未完了のタスクは今後の見通しをまとめる) + 細かく報告することは負担感はなかったし、確実にできると思えた。ノートがあれば、迷いなく報告できるし問題ない。 ・報告のタイミングを覚えている + ・進行中の作業から報告へ行動を切り替える + ・正確に報告を行う + 図6-3 Eさんのふりかえりシート 4復職後のEさんの状況 Eさんは復職後、これまで経験のない事務作業を担当することになりました。復職に際し、上司に対して「ノートの活用を継続したい」「仕事には慎重に取り組むが、どうしてもミスはなくならないと思う。しかし、早めに報告・相談するので応じて欲しい」と配慮を依頼しました。 復職後2か月経過したEさんの感想です。 作成を担当した書類を上司に提出する前の見直しがより慎重になりました。また、WSSPで学んだ会話術を使い円滑にチームになじむことが出来ました。先輩から「スケジューリングがいい」とほめられました。クリアポーチも引き続き使うことができ、会社で物をなくすなどのことは起きていません。ノートを使って確認する対処方法を使い続けることができています。 第7章まとめ 本技法開発では、作業管理支援をテーマに「作業管理能力におけるアセスメントの視点の整理」、「作業管理課題の作成」に力点を置いて開発を行いました。 作業管理能力におけるアセスメントの視点の整理では、オッカムの剃刀と呼ばれる「現象を説明するための仮説は少なくすべき」を意識し、BRIEFと先行研究を参考にしながら11の視点に絞り込みました。これにより、作業管理において確認される発達障害者の多様な課題の本質や全体像がつかみやすくなりました。 作業管理課題については、アセスメントの視点と連動した作業課題を作成することで受講者に見られる作業管理上の課題とその背景にある能力や要因がとらえやすくなり、効果的な対処方法の検討が可能となりました。 受講者からよせられた「(対処方法の)効果が分かれば自信をもって、行動をルーティン化できます。効果が分からないと、よい行動も習慣化できないし、そもそもすぐに忘れてしまいます」という感想は、支援者が対処方法の有効性についてアセスメントの視点に基づき理論的に説明することが可能になると、受講者の納得感を引き出し、対処方法の継続的な活用につなげられることを示唆していると考えられます。 作業管理課題は作業管理支援における中核的な要素です。しかしながら、作業管理課題は5日間で最大7種の課題の完了を目指す構成であるため、支援者には受講者の作業能率などを考慮した複雑な課題設定と精度の高いアセスメントの継続が求められます。今回作業管理課題にあわせて開発した「タスクる(支援者用課題設定補助ツール)」は各課題に必要な作業量の計算や教示文の作成を自動的に行う機能があり、作業管理課題の実施に付随する負担を大きく軽減しています。 また、「行動観察シート」を活用することで5日間にわたる受講者の作業管理状況を統一されたアセスメントの視点から細やかに観察・記録することが可能となります。さらに行動観察シートと同じ構成の「ふりかえりシート」を受講者が活用することで、共通の視点から作業管理課題の実施結果を振り返ることができ、支援者、受講者間における課題の共有が図りやすくなっています。 今回、上述した開発物で構成される作業管理支援は、発達障害者自身の作業管理能力の向上に有用であることを確認することができました。 最後に、作業管理支援における鍵概念とした実行機能は、目標志向的行動にあふれた職業生活を円滑に送る上で重要な存在です。また、神経心理学、認知心理学、臨床心理学など幅広い分野で活発な研究が行われている概念でもあります。今後、多分野も含めて蓄積される研究知見は、作業管理支援における有益なリソースになるものと期待します。 本報告書が多くの支援者のみなさまによって活用され、発達障害者の作業管理能力の向上に役立つことを期待しています。 作業管理課題において活用した課題への対処方法 ~ヒント集~ 【目的】 このヒント集は、WSSP受講者が作業管理課題において課題への対処方法として活用したものを、「行動観察シート」の作業工程にそってまとめたものです。 対処方法の提案や検討におけるヒントとして参考にしてください。 【掲載項目】 作業工程 作業工程ごとに発生する行動 1指示受け •指示内容についてメモを取る •指示受けに必要な道具を準備する •指示者の発言や指示内容の誤りに対して冷静に事実確認を行う 2作業予定•計画立案 •各タスクを指定された締切りまでに完了するための計画を立てる ①自分が抱えている全てのタスクを把握する ②タスク間の優先度を決める ③目標を達成するうえで効果的な方法や工程を選択する ④各タスク、各工程に必要な作業時間を予測する ⑤タスクの開始日時、終了日時を予定する 3作業実施 •計画通りに作業を進める ①感覚特性へ対処する ②計画や進捗を常に意識する •「急ぎ」と指示される追加作業に対応する ①動揺や焦りをコントロールする ②スケジュールを組みなおす •各タスクをミスなく完了する •ネガティブな結果を予測したり、ネガティブな結果に直面しても冷静さを保つ •作業方法、ルールの変更に対応する 4結果確認 •作業の見直しをする •進捗状況の確認をする ①現在時刻の確認や作業時間を見積もる ②時間の経過を把握する ③計画を確認する 5報告•相談 •指定された期間中または日時に進捗報告を行う ①進捗報告の忘れを防ぐ ②完了したタスク、未完了のタスクを整理し、簡潔に報告する なお、ツールの名称の横に★がついている様式は、付属のCDにデータを収録しています。 1指示受け 指示内容についてメモを取る ◆メモ帳 ■準備物 •メモ帳やノート、ペン ■使い方 ①指示された日付、②指示者、③仕事内容と締切り、④進捗を書く ■効果 •指示内容を後から参照できる ■留意点 手のひらサイズのメモ帳を使う場合は、1ページに付き用件1件までにする •大きなノートにメモする場合は、作業依頼日ごとにページを分ける 指示受けに必要な道具を準備する ◆クリアポーチ ■準備物 •中身の見えるポーチ、メモ帳、ペン、ふせん紙 ■使い方 •ポーチにメモ帳、ペンをセットにして入れる ■効果 •なにが入っているか一目で確認できる •道具の整理とともに忘れ物防止ができる ■留意点 •ひとつのポーチに道具をつめこまない •ひとつの作業で使うポーチが複数できた場合はリングでまとめる ◆色付きファイル ■準備物 •色付きポケットファイル、スケジュール表、作業指示書 ■使い方 •ポケットファイルの色ごとに書類を分類する ■効果 •指示受けに必要なスケジュール表や作業指示書を見つけやすい ◆ふせん紙 ■準備物 •クリアファイル、書類、ふせん紙 ■使い方 •クリアファイル内の書類にふせん紙の見出しをつける ■効果 •書類が見つけやすくなる 指示者の発言や指示内容の誤りに対して冷静に事実確認を行う ◆ストレスボール ■準備物 •ストレスボール ■使い方 •緊張感や不安感が生じたときにストレスボールを握る ■効果 •ストレス軽減に役立つ場合がある ■留意点 •リラックス効果を得られやすくするため、自分にとって心地よい感触のものを活用する 2作業予定•計画立案 各タスクを指定された締切りまでに完了するための計画を立てる ①自分が抱えている全てのタスクを把握する ◆タスクとスケジュールの一覧表★ ① ② 作業開始前に「タスクの確認」をしたらチェックを入れる 作業終了後に「タスクとスケジュールのふりかえり」をしたらチェックを入れる ■準備物 •タスクとスケジュールの一覧表、ペン、指示受け時のメモ ■使い方 ①自分が抱えている全てのタスクごとの見込時間、締切りを書き込む ②書き出したタスクを作業日ごとの午前、午後に書き込む ■効果 •自分が抱えているタスクを一目で確認できる ◆ふせん紙を使うタスク一覧表★ ■準備物 •タスク一覧表、ふせん紙、ペン ■使い方 •ふせん紙に抱えているタスクを書き込み、タスク一覧表へ貼る ■効果 •自分が抱えているタスクを一目で確認できる •ふせん紙を移動することで簡単に予定を組みなおせる ◆to-doリスト★ 【タスクカードへの記入例】 ■準備物 •to-doリスト、ペン ■使い方 •抱えているタスクを書き出す ■効果 •期限が早いものから記載すると優先度を判断しやすい •完了したタスクのチェック欄にチェックを入れると、未完了のタスクが一目でわかる ◆タスクカード(名刺サイズのカード)と名刺ケース ■準備物 •タスクカード(名刺サイズのカード)、名刺ケース、ファイル、ペン ■使い方 •タスクカード(名刺サイズのカード)にタスクを書き込み、名刺ケースで管理する ■効果 •締切り日ごとにタスクカードを入れ替えることが簡単にできる ■タスクカードへの記入例 ①指示受け日 ②指示者 ③指示内容(締切り) ④進捗(赤字) ②タスク間の優先度を決める ◆優先順位の付け方の図★ ■準備物 •優先順位の付け方の図、ペン ■使い方 •自分が抱えているタスクを図のなかの「他者への影響」「締切り」の度合いに応じて書き込む ■効果 優先順位が一番高いタスクは「①」、一番低いタスクは「④」と判断できる ■留意点 •優先順位が一番低い 「④」は、先延ばししやすく忘れやすいため、意識して取り組むことが必要なタスクとする ◆ふせん紙 ◆ロールタイプのふせん紙 ■準備物 •ふせん紙、ペン ■使い方 •タスクの優先順位ごとにふせん紙の色を変えてタスクを書き込む ■効果 •ふせん紙の色で優先順位を一目で確認できる ■留意点 •ふせん紙がノートなどからはがれ落ちることが心配な場合は、粘着面が全面のふせん紙や粘着力が強いふせん紙を使う •ふせん紙に必要な項目の全てが書き込めるか不安な場合は、ふせん紙の長さを調整できるロールタイプのふせん紙を使う ③目標を達成するうえで効果的な方法や工程を選択する ◆ガントチャート★ ■準備物 •ガントチャート ■使い方 •タスクの工程を書き込む •各工程の開始日時と終了予定日時を書き込む ■効果 •工程とスケジュールが明確になる 【使用例】 【使用例について】 •ナポリタンの作り方を例題にして作成したもの ④各タスク、各工程に必要な作業時間を予測する ◆作業結果記録表★ ■準備物 •作業結果記録表、ペン、ストップウォッチ ■使い方 •作業にかかる時間を計測し、作業時間に書き込む ■効果 •記録を時間見積もりの参考にできる ◆卓上時計 ■準備物 •卓上時計 ■使い方 •作業する机上など視野に入りやすいところに時計を置く ■効果 •作業の残り時間の把握や時間の逆算を行いながら作業を進めるという意識が高まる •カレンダー機能は日付や曜日の確認に役立ち、アラーム機能は定例作業のリマインダーとして活用できる ◆ストップウォッチ ■準備物 •ストップウォッチ ■使い方 •ストップウォッチに搭載されているラップ機能を使う ■効果 •タスク全体と各行程に要した時間を把握できる ⑤タスクの開始日時、終了日時を予定する ◆作業進行表★ ■準備物 •作業進行表、ペン ■使い方 作業の進捗を作業の種類、レベルごとに書き込む ■効果 •次に同じ作業に取り組む際、再開するレベルが一目で分かり、予定が立てやすい ◆ふせん紙 ■準備物 •一週間の予定が書き込めるふせん紙、ペン ■使い方 •ふせん紙に予定を書き込み、ノートやメモ帳、よく見る場所(パソコンの画面など)に貼りつける ■効果 •計画通りの進行を意識できる ◆to-doリスト •ふせん紙を移動したスケジュール表 ■準備物 •to-doリスト、ふせん紙、スケジュール表、ペン ■使い方 ①ふせん紙にタスクを記入し、to-doリストへ貼りつける ②to-doリストをコピーする ③優先順位を検討し、スケジュール表にふせん紙を移す ■効果 •同じ事項を別々のシートに書き込むことを二度手間になると嫌がる場合、コピーをとることで二種類のシートを簡単につくることができる ◆バーチカル式の手帳 ■準備物 •バーチカル式の手帳、ペン ■使い方 •一日ごとの時間軸に合わせて予定を書き込む ■効果 •一週間単位で作業を管理できる •一日の時間軸と一週間の時間軸を一目で見ることができる 【作成例】 【作成例について】 ■使い方 •作業予定を青枠で、変更できない予定を緑枠で書き込む •余白をto-doリストにする ■効果 •書き方のルールを決めると、見返すときに、書いた内容が把握しやすい 3作業実施 計画通りに作業を進める ①感覚特性へ対処する <視覚に関するツール> ◆パーテーション ■準備物 •パーテーション ■使い方 •机上や作業スペース周辺にパーテーションを設置する ■効果 •周囲の人の動きなどが視界に入ることを防ぎ、刺激を制限できる ◆サングラス ■準備物 •サングラス ■使い方 •まぶしさを感じるときに着用する ■効果 •照明などの光のまぶしさを軽減できる ◆黒い厚紙 ■準備物 •黒い厚紙 ■使い方 •作業する机上に黒い厚紙を敷く ■効果 •天井の照明の反射を軽減できる <嗅覚に関するツール> ◆マスク ■準備物 •マスク ■使い方 •気になるにおいがあるときに着用する ■効果 •気になるにおいが軽減され、集中できる <聴覚に関するツール> ◆耳栓 ◆イヤーマフ(耳全体を覆う防音保護具) ■準備物 ・耳栓もしくはイヤーマフ ■使い方 ・周囲の音が気になるときに着用する ■効果 ・周囲の音が軽減され、集中できる ■留意点 ・耳栓やイヤーマフごとに遮音の程度や重さなどが異なるため、使い心地がよいものを活用する <触覚に関するツール> ◆重いひざかけ ■準備物 •重いひざかけ ■使い方 •ひざに重いひざかけをかける ■効果 •重いひざかけで得られる圧力のかかる感触はリラックスにつながり、作業に集中しやすくなる <疲れにくい姿勢の保持に役立つツール> ◆バランスボールや椅子型のバランスボール ■準備物 •バランスボール、もしくは、椅子型のバランスボール ■使い方 •バランスボールや椅子型のバランスボールに座って作業する ■効果 •座ったときに体の片側に力が入った状態であると安定しないため、自然と背筋が伸び、腹筋に力を入れて座るようになり、背筋を伸ばした姿勢を維持しやすくなる •同じ作業をくり返すなかで眠気を感じるときに使用し、眠気を軽減して作業に集中するツールとして活用できる ◆足置き台 ■準備物 •足置き台 ■使い方 •椅子に座ったときの足の下に設置し、足置き台の上に足をのせる ■効果 •足の着地点が固定されることで安定した座り姿勢を維持できる ②計画や進捗を常に意識する ◆書見台 ■準備物 •書見台、スケジュール表、to-doリスト ■使い方 •作業する机上に書見台を使ってスケジュール表やto-doリストを掲示する ■効果 •常に目につく場所に掲示することで計画や進捗を意識できる ◆ふせん紙 ■準備物 •ふせん紙、ペン ■使い方 •ふせん紙にタスクの内容を書き込み、作業が終了したら印をつけていく ■効果 •完了と未完了のタスクを一目で確認できる ◆スケジュール帳 ■準備物 •スケジュール帳 ■使い方 •予定やタスクを記入したページを見開きにして作業する机上に設置する ■効果 •予定に注目しやすくなり、計画や進捗を意識できる ◆卓上ホワイトボード ■準備物 •卓上ホワイトボード、ホワイトボードマーカー、ホワイトボードイレーザー ■使い方 •一日の予定やto-doを卓上ホワイトボードに書き込み、作業する机上へ設置する ■効果 •常にタスクと予定が確認できる 「急ぎ」と指示される追加作業に対応する ①動揺や焦りをコントロールする ◆ストレスボール ・P71を参照してください。 ◆ストレッチポール ヨガマット→ ■準備物 •ストレッチポール、ヨガマット ■使い方 •ストレッチポールに背骨を合わせて仰向けに寝て胸を開く ■効果 •ストレッチによるリラックス効果を得られる ■留意点 •けがを防止するため、ストレッチポールの下にヨガマットを敷いて活用する ◆オイルタイマー ■準備物 •オイルタイマー ■使い方 •オイルタイマーを作業する机上に置いて、小休憩の合間に眺める ■効果 •気持ちの切り替えやリフレッシュに活用できる ②スケジュールを組みなおす ◆タスクとスケジュールの一覧表★ ・P72を参照してください。 ◆ふせん紙を使うタスク一覧表★ ・P72を参照してください。 ◆to-doリスト★ ・P73を参照してください。 ◆タスクカード(名刺サイズのカード)と名刺ケース ・P73を参照してください。 各タスクをミスなく完了する ◆ガイドライン付きルーペ ◆厚紙 ◆ガイド付き書見台 ■準備物 ・「ガイドライン付きルーペ」「厚紙」「ガイド付き書見台」 ■使い方 ・作業に使用する資料の注目したい箇所に準備したツールを置く ■効果 ・注目したい点を強調でき、読み飛ばしや段ずれといったミスを防ぐことができる ◆ふせん紙 ■準備物 ・ふせん紙、作業指示書など作業に使用する資料 ■使い方 ・作業に使用する資料の注目したい箇所にふせん紙を貼る ■効果 ・注目したい箇所を強調し、注目したい文章以外がふせん紙で隠れることで、目に入る情報を少なくできるため、読み飛ばしや段ずれといったミスを防ぐことができる ◆マーカー ・注目したい箇所に線を引く方法 ■準備物 ・マーカー、作業指示書など作業に使用する資料 ■使い方 ・注目したい箇所にマーカーで線を引く ■効果 ・視線のずれを防ぐことができる ・見直した文字をチェックする方法 ■準備物 ・マーカー(色ちがい2本)、作業指示書など作業に使用する資料 ■使い方 ・一回目の見直しは「紫色のマーカーで丸印」で書き込み、二回目の見直しは「赤色のマーカーでレ点」で書き込む ■効果 ・書き込み方を変えると、「何回目までの見直しをしたか」確認しやすくなる ネガティブな結果を予測したり、ネガティブな結果に直面しても冷静さを保つ ◆ストレスボール ・P71を参照してください。 ◆ストレッチポール ・P85を参照してください。 ◆オイルタイマー ・P85を参照してください。 ・ツールを使用しない対処方法 ①ウォーキング ■取り入れ方と効果 ・休憩時間に歩くことで気持ちの切り替えや眠気の発散ができる ②ストレッチ ■取り入れ方と効果 ・作業場所や休憩場所などさまざまな場所で行うことで気持ちの切り替えができる ③呼吸法 ■取り入れ方と効果 ・作業場所や休憩場所などさまざまな場所で行うことでリフレッシュや気持ちの切り替えができる 作業方法、ルールの変更に対応する ◆スケジュール帳 【作成例】 ■準備物 •スケジュール帳、ペン ■使い方 •作業中、常に注目できるスケジュール帳などに変更点や指示内容を書き込んでおく ■効果 •常に注目できるツールに作業方法やルールの変更を記入することで、変更を意識することができ、対応しやすくなる ◆ふせん紙とパーテーション ■準備物 •ふせん紙、パーテーション ■使い方 •作業上の注意点を書き込んだふせん紙を作業する机上の正面にあるパーテーションに貼る ■効果 •注意点を書き込んだふせん紙が常に視界に入るため注意点を忘れることなく作業に取り組める ■留意点 •罫線入りのふせん紙を使うと、書き込んだ内容を読みやすくなる •パーテーションがない場合は、書見台やパソコン画面など常に注目できるツールを使う 4結果確認 作業の見直しをする ◆ガイドライン付きルーペ ・P86を参照してください。 ◆厚紙 ・P86を参照してください。 ◆ガイド付き書見台 ・P86を参照してください。 ◆ふせん紙 ・P87を参照してください。 ◆マーカー ・P87を参照してください。 進捗状況の確認をする ①現在時刻の確認や作業時間を見積もる ◆卓上時計 ・P76を参照してください。 ②時間の経過を把握する ◆バイブレーション機能付きタイマー ■準備物 ・バイブレーション機能付きタイマー、ネックストラップ ■使い方 ・タイマーに把握したい時間を入力し、首から下げておく ■効果 ・タイマーの振動により時間経過を把握できる ■留意点 ・首から下げると作業の邪魔にならず、振動に気づきやすくなる ◆光が点滅するタイマー ■準備物 ・光が点滅するタイマー ■使い方 ・タイマーに把握したい時間を入力し作業する机上に置く ■効果 ・光刺激により時間の経過を確認しやすくなる ③計画を確認する ◆卓上ホワイトボード(折りたたみ式) ■準備物 ・卓上ホワイトボード、ホワイトボードマーカー、ホワイトボードイレーザー ■使い方 ・スケジュールやto-doを書いた卓上ホワイトボードを作業する机上へ置く ・作業場所の移動に合わせて持ち運ぶ ■効果 ・指示者など周囲の人とホワイトボードを一緒に見ることで、タスクや予定確認に取り組みやすくなる ◆タスクとスケジュールの一覧表★ ・P72を参照してください。 ◆ふせん紙を使うタスク一覧表★ ・P72を参照してください。 ◆to-doリスト★ ・P73、78を参照してください。 ◆タスクカード(名刺サイズのカード)と名刺ケース ・P73を参照してください。 ◆バーチカル式の手帳 ・P79を参照してください。 ◆書見台 ・P83を参照してください。 ◆ふせん紙 ・P74、77、84を参照してください。 ◆ふりかえりシート(リラクゼーション技能トレーニング用) ■準備物 ・ふりかえりシート、ペン ■使い方 ・一日の活動内容(体調、タスク内容など)を書き込む ■効果 ・一日ごとにタスクの内容を書き込むことで作業の進捗が確認できる ① ■使い方 ・作業に取り組むなかで気を付けたいことを書き込む ■効果 同じ作業のミスや手順の抜けを防ぐ ② ■使い方 ・午前と午後に取り組んだタスクの内容や「できたこと」に完了したタスクを書き込む ■効果 ・作業の進捗を管理できる ③ ■使い方 ・作業終了後に作業前に書き込んだ目標に対する結果を書き込む ■効果 ・一日の終わりにタスクの進捗について振り返ることができる ※リラクゼーション技能トレーニング用に開発されたシートですが、作業管理課題における作業計画の確認に活用できます。 ※「ふりかえりシート(リラクゼーション技能トレーニング用)」および「休憩のとり方チェックシート」の詳しい内容については、実践報告書No.36「発達障害者のワークシステム・サポートプログラムリラクゼーション技能トレーニングの改良」を参照してください。 ◆休憩のとり方チェックシート ■準備物 ・休憩のとり方チェックシート、ペン ■使い方 ・「疲れている」ことに気づいたタイミングと休憩方法を記録する ■効果 ・自らの状態に意識を向けることができ、仕事をするための状態に整えることができる ・仕事をするための状態を整えやすくなると、正確で効率のよい仕事の継続へつながる ① ■使い方 ・疲労のサインや対処方法の実践の有無などを書き込む ■効果 自分に合う疲労への対処方法や対処方法を実践するタイミングを整理できる ② ■使い方 ・今日気づいた「自分の特徴」、周囲の方が伝えてくれた「自分の特徴(ミスの傾向やミスへの対処方法など)」を書き込む ■効果 ・作業前に過去の記録を見返すことで、作業で気をつけるポイントを参照できる 5報告•相談 指定された期間中または日時に進捗報告を行う ①進捗報告の忘れを防ぐ ◆スケジュール帳 ① ② ■準備物 •バーチカル式のスケジュール帳、ペン ■使い方 ①タイムスケジュールに進捗報告を記入する ②手帳内のto-do欄に「当日中に達成が必要なタスク」として進捗報告を記入する ■効果 •進捗報告をタスクとして把握することで抜けを防ぐことができる ②完了したタスク、未完了のタスクを整理し、簡潔に報告する ◆ふせん紙を使うタスク一覧表★ ■準備物 •ふせん紙を使うタスク一覧表、ふせん紙、ペン ■使い方 •完了したタスクが書かれたふせん紙を「終わったタスク」へ移す ■効果 •現在進行形のタスクと完了したタスクが一目で確認できるため、簡潔に報告できる 障害者職業総合センター職業センター実践報告書No.39 発達障害者のワークシステム・サポートプログラム 在職中又は休職中の発達障害者に対する作業管理支援 発行日 令和4年3月 編集・発行 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター職業センター 所在地:〒261-0014千葉県千葉市美浜区若葉3-1-3 電話:043-297-9043(代表) URL:https://www.nivr.jeed.go.jp/ 印刷・製本 勝美印刷株式会社