はじめに  障害者職業総合センター職業センターにおいては、休職中の高次脳機能障害者を対象とした職場復帰支援プログラム、就職を目指す高次脳機能障害者を対象とした就職支援プログラムの実施を通じ、障害特性に起因する職業的課題への補完行動の獲得による作業遂行力や自己管理能力の向上、および職業的課題に関する自己理解の促進に資する支援技法の開発を進めています。  高次脳機能障害者の就労支援において記憶障害に関わる問題は取り組む必要性が高く、職業センターでは、これまでにもメモリーノートやアシスティブテクノロジーなどの外的な補完手段の活用に係る支援技法の開発に取り組んできました。令和元年度および令和2年度においては、記憶のメカニズムの学習や内的な補完手段の学習を含む包括的な構成が特徴の「記憶障害に対する学習カリキュラム」の開発に新たに取り組み、本報告書にまとめました。  この学習カリキュラムは、オーストラリアで開発された記憶障害に対する学習カリキュラム「Making the Most of Your Memory」とこれに基づく医療機関Epworth Health Careにおける実践をもとに、職業センターがこれまでに開発した教材も活用して国内向けに作成したもので、本報告書ではその内容と試行実施した状況を紹介しています。  本報告書が高次脳機能障害者の就労支援の現場で活用され、職業リハビリテーションサービスの質的向上の一助となれば幸いです。  なお、本支援技法の開発にあたっては、神奈川リハビリテーション病院の青木 重陽先生をはじめとする職員の皆さまから、専門的知見に基づきご助言を賜りました。深く感謝申し上げます。  令和3年3月                    独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構                      障害者職業総合センター職業センター 職業センター長    望月 春樹 はじめに 目次 第1章 記憶障害に対する学習カリキュラムについて   1 取組みの背景と目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1   2 用語の定義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 第2章 国内外の記憶障害に対する学習カリキュラム   1 国内における取組み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6   2 オーストラリアにおける取組み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6   3 記憶障害に対する学習カリキュラムの紹介・・・・・・・・・・・・・・10 第3章 学習カリキュラムの実施概要   1 学習カリキュラムの実施方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12   2 学習カリキュラムの構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13   3 学習カリキュラムの内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15   4 カリキュラム実施上の留意事項・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18   5 各セッションの構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20   第4章 学習カリキュラムの効果と事例   1 効果の測定方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41   2 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45   3 事例紹介・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51 第5章 まとめと今後の課題 1 今回の取組みのまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・62 2 今後の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・62 資料集 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・64 第1章 記憶障害に対する学習カリキュラムについて 1 取組みの背景と目的  障害者職業総合センター職業センター(以下、「職業センター」という。)においては、休職中の高次脳機能障害者を対象とした「職場復帰支援プログラム」(以下、「復帰プログラム」という。)と就職を目指す高次脳機能障害者を対象とした「就職支援プログラム」(以下、「就職プログラム」という。)を実施しています。  職業センターでは、復帰プログラムと就職プログラムの両プログラム(以下、「プログラム」という。)の実施を通じて、高次脳機能障害者の自己認識の促進、補完手段の習得および事業主支援を目的とした技法の開発を行い、地域障害者職業センター(以下、「地域センター」という。)などに対し、その成果の伝達を行っています。  平成20年に東京都で行われた調査1)では、脳損傷を主たる理由として入院した患者のうち、退院後に最も多く見られる高次脳機能障害の症状として記憶障害(47.6%)が挙げられており(図1)、通院中の患者への調査でも記憶障害(42.5%)は行動と感情の障害(44.5%)に次いで多いことが報告されています。また、平成24年に障害者職業総合センター研究部門が地域センター(52所)を対象に実施した調査2)では、地域センターがジョブコーチ支援を実施した高次脳機能障害者(112名)に見られた症状の内訳として記憶障害(74名、66.1%)が最も多く、高次脳機能障害者の作業遂行上の問題点(図2)についても「作業手順の定着」「覚えられない」など記憶機能に関連する項目が上位となっています。さらに、令和元年度に地域センターを対象に行った「支援技法の開発ニーズなどに関するヒアリング調査」においても、高次脳機能障害者の職場での問題点として、「職場のルールが覚えられず、メモを取っても見返すことができないため何度も指摘を受けてしまう」「広い職場で自身のロッカーや席の場所を覚えられない」「打ち合わせの日程を間違えてしまう」「担当する業務の種類や手順が多いと、やり方やスケジュールを間違えてしまう」などの課題が挙げられました。    図1 東京都の退院患者調査における高次脳機能障害の割合 (n=899)  図2 高次脳機能障害者の作業遂行上の問題点 (n=112)  このように高次脳機能障害者の就労支援において記憶障害に対する支援のニーズは高く、職業センターでも平成28年度に実践報告書No.30「記憶障害を有する高次脳機能障害者の補完手段習得のための支援」3)を発行したところです。また、令和元年度に発行した実践報告書No.35「アシスティブテクノロジーを活用した高次脳機能障害者の就労支援」4)においても、スマートフォンを活用したリマインダーやメモの取り方など、外的補助具を活用した記憶の補完手段の紹介を行いました。  一方で、記憶障害のリハビリテーションにおいては、こうした外的補助具の使用に加えて内的ストラテジーの確立も重要であるとされています5)。このため職業センターでは国内外の取組みについて調査を行い、平成29年度の海外研修(オーストラリア)においてメルボルン市内に10ヶ所の施設を有する私立病院であるEpworth Health Careで実施されている記憶障害に対する学習カリキュラムを学んできました。このカリキュラムは内的ストラテジーと外的補助具の使用、生活面の課題の改善といった記憶障害のリハビリテーションを目的とし、知識を付与する講義や、受講者同士で話し合うグループワーク、セッション後の宿題などから構成され、記憶障害に関する対処方法について幅広く包括的に学習できるようパッケージ化されているものです。本報告書では、この海外のカリキュラムを職業センターにおけるこれまでの技法開発の成果を踏まえて国内向けに改変し、試行的に実践した取組みの紹介を行います。 2 用語の定義 (1) 高次脳機能障害  「高次脳機能障害」は、病気や怪我で脳に損傷を受けたことにより生じる認知機能の障害に関する言葉ですが、用いられる文脈により主として「注意障害」「記憶障害」「遂行機能障害」「社会的行動障害」を指す場合(注)と、「失語症」「失行症」「失認症」などを含め広く捉える場合があります。  職業センターで実施するプログラムでは、「高次脳機能障害」を後者の意味として捉えており、本報告書においても同様の意味で使用します。   注:「高次脳機能障害支援モデル事業」における診断基準に準拠する場合。 高次脳機能障害支援モデル事業とは、国が平成13年度から平成17年度にかけて、高次脳機能障害者の支援に積極的に取り組んでいる医療機関を拠点病院に指定し、高次脳機能障害者に対する包括的な支援を目指した事業。 (2) 記憶障害  記憶の定義には多くの説があり、記憶障害についてもいくつかの定義があります。例えば、石合(2012)6)は記憶障害を、「①エピソード記憶の障害(前向性健忘と逆向性健忘)、②短期記憶障害、③意味記憶障害、④作話」、曽我・松本(2011)7)は、「①前向健忘と逆行健忘、②展望記憶の障害、③作話、④ワーキングメモリの障害、⑤メタ記憶の障害」というように分類しています。  上月・正門・吉永(2016)8)は、「一般に記憶障害とよぶときにはエピソード記憶の障害を指し、健忘とよぶ」と述べています。記憶障害は、受障(病気、事故など)した時点を基準として、前向性健忘と逆向性健忘に分類されます。前向性健忘は、受障した時点から後の新しいことを覚えにくい状態をいい、逆向性健忘は受障以前のことを思い出せない状態をいいます。  これらについて、一人の人に全てがあてはまるわけではなく、課題の現れ方には個別性があります。なお、本報告書で扱う学習カリキュラムの対象となる記憶障害とは、日常記憶(everyday memory)、つまり日常生活場面の中での記憶に関する問題を総合的にとらえたものとなります。 (3) 展望記憶  本報告書の学習カリキュラムには、日常生活に関わる展望記憶の課題が含まれています。展望記憶とは、未来の予定や約束についての記憶のことです。武田ら(2018)5)は、「昼食の後に薬局に寄って薬を貰って帰る」という予定についての記憶を例に、展望記憶には「何かすることがあった」という“存在”の想起と「薬局に寄って薬を貰って帰る」という“内容”の想起という2つの要素があり、さらにそれらを「昼食が終わった後」にタイミングよく想起する必要があるため、注意・問題解決・遂行機能といった前頭葉の関与が想定されているとしています。 (4) 内的ストラテジーと外的補助具  本報告書では、視覚イメージの利用など自分自身の能力を活用した記憶の方法について「内的ストラテジー」、手帳やスマートフォンなどの道具を用いて記憶を補う方法について「外的補助具」と呼ぶこととし、これらの用語について武田ら(2018)5)、廣實(2018)9)を参考に表1のとおり整理を行いました。  元々は海外の論文(例えばCiceroneら(2011)10))で用いられている「Internalized strategies」と「Use of external compensations」の日本語訳にあたる言葉であり、国内の論文では、例えば岡崎(2009)11)は「内的方略」と「外的補助具」、武田・長岡(2016)12)は「内的補助手段」と「外的補助手段」、廣實(2018)9)は「内的ストラテジー」と「外的ストラテジー」など、様々な表現が用いられています。  またプログラムの中では、受講者の理解のしやすさという観点から、内的ストラテジーについては「記憶の技」、外的補助具については「記憶の道具」という言葉で表現することとしました。 表1 内的ストラテジーと外的補助具 内的ストラテジー = 「記憶の技」 言語的関連付け、視覚イメージの利用など、情報を覚えやすく、思い出しやすくするための方法。一般に使われている記憶術などもこれにあたる。自分自身の記憶能力を活用する。「内的戦略」「内的方略」「内的対処手段」などと同義。 外的補助具 = 「記憶の道具」 メモリーノート、システム手帳、スマートフォンなどの道具を用いて記憶を補う方法。自分の記憶能力に頼る必要はないが、道具を使うこと自体を思い出す必要がある。「外的補助手段」「外的記憶装置」などと同義。 <参考文献> 1) 東京都高次脳機能障害者実態調査検討委員会「高次脳機能障害者実態調査報告書」 (2008) 2) 障害者職業総合センター『高次脳機能障害者の働き方の現状と今後の支援のあり方に関する研究』,「調査研究報告書No.121」(2014),p.22,p.28 3) 障害者職業総合センター職業センター『記憶障害を有する高次脳機能障害者の補完手段習得のための支援』,「実践報告書No.30」(2017) 4) 障害者職業総合センター職業センター『アシスティブテクノロジーを活用した高次脳機能障害者の就労支援』,「実践報告書No.35」(2020) 5) 武田勝彦、三村將、渡邉修(編)「高次脳機能障害のリハビリテーション」,医歯薬出版株式会社(2018),p.72,p.250 6) 石合純夫「高次脳機能障害学 第2版」,医歯薬出版株式会社(2012),pp.197-203. 7) 曽我亜紀子、松本史織『記憶障害』,「50シーンイラストでわかる高次脳機能障害『解体新書』」,阿部順子・蒲澤秀洋(監修),名古屋市総合リハビリテーションセンター(編著),株式会社メディカ出版(2011),pp.129-138. 8) 上月正博、正門由久、吉永勝訓(編)「リハビリテーションにおける評価Ver.3」,医歯薬出版株式会社(2016),pp.92-93. 9) Rachel Winson, Barbara A. Wilson, Andrew Bateman(編)、廣實真弓監訳「ワークブックで実践する脳損傷リハビリテーション」,医歯薬出版株式会社(2018) 10) Cicerone KD, Langenbahn DM, Braden C, Malec JF, Kalmar K, et al “Evidence-based cognitive rehabilitation: updated review of the literature from 2003 through 2008”Archives of Physical Medicine and Rehabilitation Volume 92(2011), pp.519-530. 11) 岡崎哲也『記憶障害・遂行機能障害への対応は?』,「実地医家に役立つリハビリテーションの知識と技術 在宅でのチーム医療をめざして」,蜂須賀研二、佐伯覚(編),医歯薬出版株式会社(2009),pp.85-87. 12) 武田克彦、長岡正範(編)「高次脳機能障害 その評価とリハビリテーション第2版」,株式会社中外医学社(2016),pp.115-135. 第2章 国内外の記憶障害に対する学習カリキュラム 1 国内における取組み  国内における記憶障害に対する学習カリキュラムについては、中島ら(2001)1)、高塚・山崎(2003)2)、川上・中島(2007)3)などの実践があります。  東京都リハビリテーション病院で行われた中島らの実践は、週1回、50分、全10回からなるカリキュラムで、①病態への意識づけ、②注意力訓練1(無意味図形課題)、③注意力訓練2(抹消課題)、④1週間をふりかえって発表する、⑤お茶会の準備(5回目のみ)、⑥服薬と金銭の管理、からなる内容であり、病態への意識づけが高まるとともに手帳などの代償手段の利用状況の改善が認められたことが報告されています。  横浜市総合リハビリテーションセンターで行われた高塚・山崎の実践は、週1回、1時間、全8回からなるカリキュラムで、①記憶とは何か、②外的補助手段について、③集中力について、④情報を覚えるには、⑤記憶術について、などからなる内容であり、記憶障害に関連した生活上の悩みを参加者間で話し合う時間なども設けています。その結果として、参加者の障害認識を高め、外的補助手段の使用開始の動機づけを与えたこと、また、記憶障害者同士の交流により、ピア・カウンセリング的な機能を有していたことが報告されています。  熊本県の精神科病院で行われた川上・中島の実践は、週1回、1時間30分程度、全10回からなるカリキュラムで、①病態への意識づけ、②注意訓練(抹消課題、無意味図形課題)、③単文記憶訓練、④伝言訓練、⑤1週間の出来事の報告訓練、⑥家族参観(9回目のみ)、⑦家族教室(10回目の訓練終了後)、からなる内容であり、本人の病識が高まり、日常生活において代償手段を使用し、リハビリへの意欲、気づく力、覚える力、思い出す力、回復への意欲などを相互に高めあう効果が見られたことが報告されています。  しかし、こうした記憶障害に対する学習カリキュラムに関する論文は2000年代前半のものが中心であり、近年ではこうした取組みはあまり見られなくなっています。  職業センターでは、高次脳機能障害情報・支援センターをはじめとしていくつかの支援拠点機関に電話での聞き取り調査を行いました。しかし、いずれも認知リハビリテーションに関するプログラムの中で一部記憶について取り扱うことはあるものの、記憶障害に特化した包括的なカリキュラムは実施していないとのことでした。  先行文献では、記憶障害に対する学習カリキュラムは障害認識の向上や外的補助具の使用への動機づけといった効果があったことが示されましたが、その後カリキュラムが医療機関などでの一般的なプログラムとして広く行われるに至っていないのが国内における現状であるようです。 2 オーストラリアにおける取組み  現在、記憶障害に対する学習カリキュラムが主に医療機関で実施されている国のひとつにオーストラリアがあります。本項では、平成29年度の海外研修において学んできた、オーストラリアのEpworth Health Careで行われている記憶障害に対する学習カリキュラムの取組み「Memory Skills Group」(以下、「MSG」という。)について説明します。  なお、海外では高次脳機能障害ではなく、疾病要因により後天的脳損傷(Acquired Brain Injury : ABI)や外傷性脳損傷(Traumatic Brain Injury : TBI)という用語が用いられます。海外研修での訪問時には、両方の用語が用いられていましたが、本章では「脳損傷」と記載します。  なお、本項については、浅井(2018)4)を一部加筆・修正しています。                                                                                                                                                                                                (1) Memory Skills Groupについて  オーストラリアでは2010年にKylie Radfordらにより内的ストラテジーと外的補助具の活用の習得に主眼を置いた記憶障害のリハビリテーションのためのカリキュラム「Making the Most of Your Memory」が発表され5)、これをもとにビクトリア州の公的な医療サービスとして脳損傷者向けの記憶障害に対する学習カリキュラムの導入が可能かどうか、および経済的に持続可能かどうかについての調査が行われました。神経心理学者で当時La Trobe大学心理学公衆衛生学部の上級講師であったDana Wong氏らを中心として、La Trobe大学、Monash大学およびビクトリア州などの協力のもと2016年から2017年にかけて行われたこの調査をMemoRI:Memory Rehabilitation Initiativeと言います。MemoRIの結果についてMonash大学の研究成果として、「2つの異なる医療サービスにおいて、両者ともMemory Skills Groupを取り入れることは可能であり、経済的見通しからも持続可能であることが示された」6)ことがホームページ上に記載されており、その効果についてもビクトリア州の公的機関であるSafer Care Victoriaのホームページに「プログラムを完了した19名のうち95%が彼らの記憶の目標を達成し、42%については期待されていた以上の結果を示した。また、展望記憶の成績がかなり改善された」7)ことが記載されています。  現在、MSGはEpworth Health CareにおいてDana Wong氏(現:Monash大学心理学部上級講師)の下で行われています。 (2) Memory Skills Groupの内容紹介 ア 背景  Dana上級講師は、MSGを行う理由として以下の点をあげています。  ・脳損傷者においては記憶に関する訴えがきわめて多いこと。 ・内的ストラテジーおよび外的補助具の使用、ライフスタイル改善(睡眠、運動など)の有効性を立証するエビデンスがあること。 ・記憶能力の改善によってWork Capacity(労働能力)、ADL(日常生活動作)、QOL(生活の質)に大きな影響を与えることができること。 ・内的ストラテジーおよび外的補助具の使用を効果的に行い、また維持するためには、継続的に誰かに教わり、それぞれに合ったものを身につけることが必要であること。 ・グループで行うことで、同じような問題を抱える他の人たちと経験を共有でき、自らの境遇が自分一人ではないことを実感することで孤立感の打破につながること。   イ 実施方法  実際に行われたMSGの実施方法については下記のとおりです。   【対象者】  地域住民の方で下記に当てはまる方が対象となります。メンバーは基本的に病院からの紹介制ですが、紹介のない方についても下記に当てはまる方についてはできる限りオープンに受け入れるようにしているとのことです。  ・脳損傷者  ・日常生活において記憶の問題を抱えている人  ・より効果的に記憶の問題に対処するための戦略を学びたい人  (※重度の記憶障害者の場合、介助者の同伴を認める) 【人数】  3~8名でグループを構成   【頻度】  週1回2時間、全6週間(6セッション)実施   【内容】  第1回から第5回までの各セッションは、主に教育・ストラテジー・生活習慣の3つの項目で構成されています。「教育」は記憶のメカニズムや脳の各部位の重要性などについての解説、「ストラテジー」は内的ストラテジーや外的補助具の紹介、生活習慣は食事やストレス、睡眠など記憶に影響する生活習慣に関する解説となっています。第6回は、第1回から第5回までの復習のセッションになっています。    図1 セッションの中心となる3つの項目    また、上記に加えてストラテジーを実際に行ってみる「練習」や「宿題」が課されることになっているほか、第1回から第4回までの概要を家族や介護者向けに説明し、協力を求める「家族セッション」も用意されています。  第1回から第5回までの内容は表1のとおりです。   【進行】  経験豊富な神経心理学者1名とprovisional psychologist(注1)2名の計3名がファシリテーターとなって進行します。  各セッションはPowerPointによる所定のスライドに沿ってファシリテーターが説明を行い、その後グループ内でディスカッションを行う形式になっています。   注1:Psychology Board of Australiaの定める、正式にPsychologistとしての資格を得るための前段階の期間にある心理士。Australian Psychology Accreditation Councilが認定する学士号を修了していることなどが条件となる。   表1 MSGのカリキュラム(MSG資料をもとに作成) 教育 ストラテジー① ストラテジー② 生活習慣の課題 第1回 記憶の段階 「繰り返し」と「関連付け」を使って名前を覚える 外的な記憶補助具の紹介 自宅/職場環境を最適化する 第2回 記憶にとって重要な脳の領域 言われたことを覚えるための道具の使い方 道順を覚え、記憶する方法 運動 第3回 脳損傷が記憶に与える影響 今後の予定を覚えておくための道具の使い方 過去の出来事を思い出すための方法や、道具の使い方 栄養 第4回 ストレスや気分が記憶に与える影響 コミュニケーションを向上させる 電子機器(スマホ、iPad)の使い方 ストレスの管理 第5回 記憶における睡眠と休養の重要性 「繰り返し」「関連付け」「精緻化」を使って名前を覚え、思い出す 複雑なタスクの手順を記憶するための方法や、道具の使い方 睡眠を改善し疲労を管理するには   表1 MSGのカリキュラム(MSG資料をもとに作成) 第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 教育 記憶の段階 記憶にとって重要な脳の領域 脳損傷が記憶に与える影響 ストレスや気分が記憶に与える影響 記憶における睡眠と休養の重要性 ストラテジー① 「繰り返し」と「関連付け」を使って名前を覚える 言われたことを覚えるための道具の使い方 今後の予定を覚えておくための道具の使い方 コミュニケーションを向上させる 「繰り返し」「関連付け」「精緻化」を使って名前を覚え、思い出す ストラテジー② 外的な記憶補助具の紹介 道順を覚え、記憶する方法 過去の出来事を思い出すための方法や、道具の使い方 電子機器(スマホ、iPad)の使い方 複雑なタスクの手順を記憶するための方法や、道具の使い方 生活習慣の課題 自宅/職場環境を最適化する 運動 栄養 ストレスの管理 睡眠を改善し疲労を管理するには   ウ 効果  Dana上級講師ら(2019)8)はMSGの効果を測定するために、「MSG実施群」「Lumosity(注2)実施群」「コントロール群」の3つのグループについて、「開始前」「プログラム終了時」「終了後6週間経過後」に調査を行ったところ、以下のような結果があったと述べています。  ①Goal Attainment Scaling(GAS)(注3)の結果(図2)について、MSG実施群のT得点は「プログラム終了時」「終了後6週間経過後」ともに他の2群よりも1%水準で有意に高い結果となっており、MSGの受講者は到達目標よりも高いレベルの結果を達成することができていると言えます。  ②「プログラム終了時」においては、MSG実施群は他の群に比べて展望記憶の改善、日常的なもの忘れの減少といった効果が有意に高い結果でした。一方「終了後6週間経過後」については他の群よりも良い結果とはなっていますが、他の群との差は有意ではなくなっています。ここから、MSGの効果を長期にわたって維持するためには終了者のフォローのためのセッションを行うことが必要になる可能性があります。  ③内的ストラテジーの使用頻度について、MSG実施群は「プログラム終了時」「終了後6週間経過後」ともに他の2群よりも5%水準で有意に高い結果となっており、MSGを受講することで内的ストラテジーの使用が促進されることがうかがわれました。  図2 各群のGASにおけるT得点(Withiel TD, Wong Dら8)より引用) 注2:アメリカの企業Lumosity(ルモシティ)によって考案された、PCやスマートフォンなどで行う脳力トレーニングアプリ。 注3:GASとは、原田(2004)9)によると、個々のクライアントが設定した課題に対し、介入後にクライアントが到達すると予測される結果(到達目標)に対して、実際に介入した後の到達度を測定する評価法。課題に対して介入後にクライアントが到達すると予測される結果を基準値(0)として、それよりも少し高いレベルの結果を(+1)、最も高いレベルの結果を(+2)、予測よりも少し低いレベルの結果を(-1)、最も低いレベルの結果を(-2)とし、介入後の成果を評価する。ゴール達成スケーリング、目標達成スケール、目標実現スケールなどと訳されている。 3 記憶障害に対する学習カリキュラムの紹介  国内外における記憶障害に対する学習カリキュラムについて情報収集を行った結果を踏まえて、本報告書ではMSGのセッションで使用されていた教材と「Making the Most of Your Memory」における教材を国内向けに改変し、試行的に実践した取組みの紹介を行うこととしました。  その理由としては、就労支援においても記憶障害の課題は大きいこと、現在では国内で記憶障害に対する学習カリキュラムが広く行われてはいないこと、MSGの構成がエビデンスに基づくものであり、オーストラリアの公的機関によってその効果が実証され、一般に公表されている信頼性の高いものであることなどが挙げられます。  職業センターで試行的に実施したカリキュラムの内容については、次章で詳しく説明します。 <参考文献> 1) 中島恵子、坂本一世、水品朋子、本田哲三『記憶障害患者へのグループ訓練の試み』,「認知リハビリテーション」(2001),pp.58-65. 2) 高塚美貴、山崎文子『記憶障害者を対象としたグループ訓練の試み』,「作業療法22」(2003),pp.243-252. 3) 川上昇八、中島恵子『高次脳機能障害者への認知リハビリテーション―注意と記憶障害のグループ訓練―』,「九州ルーテル学院大学発達心理臨床センター紀要第6号」(2007),pp.65-73. 4) 浅井孝一郎『オーストラリアにおける感情コントロールに課題を抱える高次脳機能障害者への支援』,「第26回職業リハビリテーション研究・実践発表会論文集」(2018) 5) Kylie Radford, Miranda Say, Zoë Thayer and Laurie Miller “Making the Most of Your Memory”ASSBI Resources(2010) 6) the Global Now Project, "Schools, Departments & Facilities, Department of Psychiatry -Monash University, -Centres, Units and Institutes, -Psychology & Mental Health Design, -Memory Rehabilitation Initiative (MemoRI)" https://www.theglobalnowproject.com/files/schools-depts.php?section=mental-health-organisations-associations-and-foundations&cat_id=81 (参照2020-12-04) 7) Safer Care Victoria, "Subacute Stroke Initiative Project Overview 2018, -Feasibility of embedding memory skills group in the community" https://www.bettersafercare.vic.gov.au/sites/default/files/2018-05/Subacute%20Stroke%20Initiative%20-%20project%20summary%20v2.pdf(参照2020-12-04) 8) Withiel TD, Wong D, Ponsford JL, Cadilhac DA, et al “Comparing memory group training and computerized cognitive training for improving memory function following stroke: A phase II randomized controlled trial” Journal of Rehabilitation Medicine(2019), pp.343-351. 9) 原田千佳子『ゴール達成スケーリング(GAS)』,「作業療法ジャーナル38(7)」(2004),pp.591-595. 第3章 学習カリキュラムの実施概要                                                                                                                                          1 学習カリキュラムの実施方法 (1) 対象者  プログラム受講者のうち、記憶障害の診断の有無にかかわらず学習カリキュラムについて関心を示し、参加を希望した受講者を対象としました。 (2) 支援者  カリキュラムを進行する支援者の人数は基本的に、進行役、板書役、個別のフォロー役の3名としました。個別のフォロー役は、グループワークにおける受講者の行動面を観察するとともに、進行役が説明している箇所を受講者が把握できなくなったり、進行役からの質問に窮する場面などで、個別のサポートに入りました。 (3) 人数  職業センターでは、1グループを最大5名として実施しました。なお、オーストラリアで行われたMSG(支援者は3~4名程度)は、1グループ10~12名で実施されています。また、オーストラリアの記憶障害に対する学習カリキュラムのマニュアルである「Making the Most of Your Memory」1)では、推奨されるグループ人数は参加者の能力水準や稼働可能な支援者の人数に応じて3~10名と記載されています。  セッション内に練習や意見交換の時間を設けていることから、受講者の人数によって各セッションに要する時間や進め方も変化します。また、人数が多ければ意見交換の際に様々な意見が出て議論が活発になりやすいですが、一方であまり人数が多すぎると意見が言えない受講者が出てきてしまうなどの問題も生じます。カリキュラムに従事する支援者の人数や受講者の特性、セッションにかけられる時間に応じ、適切な受講人数を検討する必要があります。 (4) 時間・回数  職業センターの試行実施では、プログラムのスケジュール(図1)のグループワークの時間において、週1回、1回120分(休憩含む)、6週間連続で計6セッション実施しました。ただし、毎回必ず同じ曜日に実施するわけではなく、例えば水曜日に通院のために参加できない受講者がいる週は火曜日に実施日を変更するなど、可能な限り全員が受講できることを優先して日程は臨機応変に変更していました。  休憩時間はセッションの中ごろに1回(5~10分程度)設定しており、その他に1~2回ほど緊張をほぐして集中力を維持するために軽いストレッチの時間を設けています。休憩をとる回数やタイミングについてはセッションの構成やその時の受講者の様子などに応じて随時変更していただくと良いでしょう。  個別相談は週1回行い、その中でセッションの振り返りやわかりにくかったことの確認、実際に学んだ補完手段が生活の中で使えるかなどについて相談を行いました。また、受講者からの要望があったり支援者が必要と判断した場合には、適宜個別相談を行いました。 図1 週間スケジュールの例 2 学習カリキュラムの構成  全6回のセッションのうち、第1回~第5回の各セッションは、「講義」「記憶の補完手段」「記憶に良い生活習慣」の3つのテーマを中心に構成しており、第6回は第1回~第5回までの復習となっています。   図2 学習カリキュラムの構成  さらに、第1回~第5回では、紹介した記憶に関する知識、補完手段、生活習慣についての理解を深めるため、受講者同士の「意見交換」や、具体的な場面での対処法を検討する「今後の対策」というコーナーを設けています。また、学んだ知識を行動に反映させるため、そして補完手段や生活習慣の実践的な習得を図るため、各セッションごとに「練習」やプログラム以外の場面で行う「宿題」を課しています。加えて、各セッションには前回のセッションの復習も含まれます。これらの構成要素を図示したものが図2になります。  これらの要素がセッションの各回ごとに原則すべて混在する包括的な構成が、このカリキュラムの特徴です。以下に各構成要素の概要を示します。 <学習カリキュラムの構成要素> (1) 講義  記憶のメカニズムや脳の構造、ストレスが記憶に与える影響など記憶に関わる知識を付与するための講義を行います。自己理解のベースとなる心理教育的な要素となります。各回とも概ね15~20分程度です。 (2) 記憶の補完手段  記憶機能を補うための内的ストラテジー(記憶の技)および外的補助具(記憶の道具)の紹介を行う、カリキュラムの中心的な内容です。カリキュラムを通じて7種の内的ストラテジーと16種の外的補助具を紹介しています。紹介する内的ストラテジーおよびその内容については、表1のとおりです。 表1 紹介する内的ストラテジー(記憶の技)の一覧 名前 内容 繰り返し 聞いたことを口に出したり頭の中で繰り返して覚えやすくする方法。 チャンキング たくさんのものを覚えるときに、似たものどうしでグループ分けをして覚えやすくする方法。 記憶の痕跡をたどる 何かを思い出すときに、そのとき起こったことや状況をふりかえっていく方法。(例:「家に帰ってきた時はスマホが見つからなかった。帰りに寄ったコンビニで使った覚えがあるから、その途中で落としたかも…」など) 再認 何かを思い出すときに、経験したかどうかイエスかノーで答えらえる形にして思い出す方法。(例:「昨日何を食べたか」を直接思い出すのではなく、「昨日カレーを食べたか」「魚を食べたか」と考えながら思い出す、など) 総当たり (しらみつぶし) 何かを思い出すときに、頭文字の「あいうえお順」や「アルファベット順」などの順番に思い出していく方法。 関連付け 新しいことを覚えるときに、何かと関係づけることで覚えやすくする方法。(例:初対面の人を覚える際、「有名人の○○さんと同じ名前だ」と関連付けて覚える、など) 精緻化 新しいことを覚えるときに、情報を深く、細かく知ることで覚えやすくする方法。(例:初対面の人を覚える際に趣味を聞く、など) (3) 記憶に良い生活習慣  質の良い睡眠のための工夫や食生活、運動、ストレスへの対処など、職業生活を送る上で記憶に良い影響を与えたり、悪い影響を防ぐうえで有用な生活習慣について紹介します。  なお、オーストラリアで実施しているMSGでは、これらに加えて、例えば地域で活用できる社会資源の連絡先や、より詳しい情報が得られるサイトの紹介も行っています。今回の実践報告における教材では省略していますが、情報提供すると良いような地域の社会資源などの紹介を必要に応じて加えていけると良いでしょう。 (4) 練習  各セッションの中で学んだ内的ストラテジーを使って記憶に関する課題に取り組んだり、外的補助具を実際に使う場面を設けます。補完手段を日常生活の場面で使えるようにするための重要な構成要素であり、さらに効果を感じられた補完手段については個別相談などを通じてプログラム以外の場面でも使用してみるように繰り返し促すことで汎化につなげていきます。また、この練習は、受講者が受動的になったり、集中力が途切れがちな場合に対するアクセントの意味もあります。 (5) 意見交換  各セッションの中で学んだ内容が自分にはどの程度当てはまるか、使ってみた内的ストラテジーや外的補助具はどのような場面で使えそうか、記憶の補完手段を使った効果はどうか、などについて受講者同士で意見交換を行い、情報交換したり、励ましあうことで理解や実践の促進を図ります。 (6) 今後の対策  各セッションの最後に、質問に受講者が答えるコーナーを設けています。人や物の名前を覚える方法やなくしたものを探す時など、日常生活上で想定される場面を具体的に設定し、必要なことを記憶したり、思い出すためにどのような補完手段が使えるかなどを問いかけ、各セッションで学んだ内容を反映できているかの視点で確認していきます。  なお、このコーナーはオーストラリアで実施しているMSGにはなく、各セッションの振り返りを行い、より理解を強化できるよう今回の試行実施で新たに加えました。 (7) 宿題  各セッションで取り上げた「記憶の補完手段」「記憶に良い生活習慣」に関する宿題を出し、自宅などプログラム以外の場面で次回のセッションまでに行ってもらいます。宿題はその内容だけでなく、何らかの内的ストラテジーや外的補助具を使って宿題を忘れずに記憶しているかどうかという展望記憶の課題ともなっています。また、「生活習慣」についての宿題には、学んだ内容を実際の生活に反映させ、毎日継続的に行うことを維持してもらう意図があります。補完手段の習得や生活習慣の改善は、個々人に応じた実際の日常生活場面に関連させたうえで、かつ、継続的に取り組む必要があり、「宿題」はそのきっかけとして「練習」と並んで重要な要素となります。 3 学習カリキュラムの内容  全6回の内容は表2のとおりです。内容の詳細については次項で説明します。 表2 学習カリキュラムの内容 【練】…練習 【意】…意見交換 第1回 講義 『記憶のステップ』 ・記銘―保持―想起 【意】:最も得意/苦手な記憶のステップ 補完手段 ①『複数の物を覚える』 ・記憶の技 □繰り返し □関連付け □チャンキング 【練】:10個の物を覚える 【練】:人の名前を覚える 【意】:記憶の技を使ってみた効果について ②『記憶の道具』 ・記憶の外的補助具の紹介 生活習慣 『身の回りの環境を整える』 ・環境が記憶に及ぼす影響 対策 ・新しい職場で同僚の名前を覚えるための方法 宿題 ・10個の物を覚えてくる ・身の回りの環境を改善する方法を考え、実行する 第2回 講義 『脳と記憶』 ・記憶に関連する脳の部位 補完手段 ①『メモの使い方』 ・記憶の道具 □メモ ②『道順を記憶する』 ・記憶の道具 □メモ ・メモの練習とマッピングのポイント 【意】:道順を記憶する時に使っている記憶の技や道具 【練】:ミニ・ウォークラリー 【練】:地図を描く 生活習慣 『運動の重要性』 ・運動が脳と記憶に及ぼす効果 対策 ・メモの内容を後から思い出す方法 ・道順を覚えておく方法 宿題 ・スケジュール帳を持ってくる ・過去の写真を持ってくる ・生活に運動を取り入れる 第3回 講義 『記憶のプロセス』 ・どのように記憶されるのか 補完手段 ①『過去のことを思い出す』 ・記憶の技 □再認 □記憶の痕跡をたどる ・記憶の道具 □写真 【練】:10個の物を思い出す 【意】:写真の効果について ②『これからすることを覚えておく』 ・記憶の道具 □スケジュール帳 □ふせん □アラーム □物理的リマインダ 【意】:使っているスケジュール帳 【意】:予定を忘れない方法 【練】:時差再生課題 生活習慣 『食べ物と栄養』 ・食事が健康と記憶に及ぼす効果 【意】:食習慣について 対策 ・手帳を探すために使える方法 宿題 ・事務室に電話する ・脳に良い食品を食べる ・スマートフォンを持ってくる 表2 学習カリキュラムの内容 【練】…練習 【意】…意見交換 第4回 講義 『ストレスと疲労』 ・ストレスと疲労が記憶に与える影響 【意】:ストレスの影響について 補完手段 『電子機器を使う』 ・記憶の道具 スマートフォン  □メモ  □カレンダー  □リマインダー  □アラーム  □カメラ(写真)  □カメラ(動画)  □ボイスメモ 【練】:アラーム、カメラ、連絡先、カレンダーを使ってみる 【意】:使っているスマートフォンの機能について 【意】:現在の困りごと 生活習慣 『ストレスと疲労の管理』 ・リラクゼーションの方法 【練】:呼吸法 【練】:静かな場所をイメージ 【練】:漸進的筋弛緩法 対策 ・入力作業でミスをなくすための方法 宿題 ・スマートフォンなどの電子機器の新しい機能を使う ・ストレスを減らす方法を実行する 第5回 講義 『睡眠の重要性』 ・記憶のための睡眠の役割 補完手段 『名前を記憶するための方法』 ・記憶の技 □繰り返し □関連付け □総当たり(しらみつぶし) □精緻化 【練】:名前を覚える 【練】:名前を思い出す 【意】:記憶の技を使ってみた効果について 生活習慣 『睡眠を改善する方法』 ・良い睡眠を取るための工夫 【意】:睡眠のために行っている工夫 【意】:取り組みたいこと 対策 ・寝つきを良くするための方法 ・人の名前を思い出す方法 宿題 ・担当カウンセラーに電話する ・睡眠日誌をつける 第6回 講義 補完手段 <復習:記憶の技> 【意】:これまで紹介した記憶の技について 【練】:10個の物を覚える 【練】:名前を覚える 【練】:時差再生課題 <復習:記憶の道具> ・予定や約束を記憶する ・日常的なことを記憶する ・情報を記憶する 【意】:記憶の技・道具をどのように使っているか ・記憶の技や道具を使うことを記憶する 生活習慣 <復習:生活習慣> ・記憶に影響を与える食べ物 ・運動と記憶 ・睡眠と記憶 ・ストレスと記憶 ・健康の維持 【意】:これからも続けたい生活習慣 対策 宿題 4 カリキュラム実施上の留意事項 (1) カリキュラム構成のアレンジについて  本カリキュラムは、前述のとおり、1セッションの中に教育的要素や意見交換、練習、宿題などの要素が包括的に含まれる構成であることが特徴です。つまり、知識を学び、セッションの中で練習を行い、自分の生活に関連させ行動に反映させることを目指しています。このカリキュラム内の多面的なアプローチが、個々人の特性や生活環境によって異なる多様な記憶障害に対するリハビリテーションとして有効であるとされています。  ただし、本試行においては、各回とも資料集にあるPowerPointによる教材どおりの順番で進行しましたが、「講義」「記憶の補完手段」「記憶に良い生活習慣」は基本的にそれぞれ単独でも扱えるようモジュール化を行いました。これは、1回120分×6セッションというカリキュラム構成が、受講者や実施する支援者にとって負荷が大きく、全てをこのとおりに進行することが難しい場合があると考え、オーストラリアのカリキュラム構成を分解して整理したものです。よって、各支援機関の実情や支援者の人数、支援者の特性、ニーズなどによりその順番を組み変えたり、1つのモジュールだけを取り出して実施することが可能です。例えば1回120分の時間を確保することが難しければ、半分ずつ12回に分けて実施しても良いですし、「記憶の補完手段」のうち外的補助具に関する内容だけをピックアップして1回60分で4回または5回で実施しても良いかもしれません。あるいは、生活習慣の課題の大きい方であれば「記憶に良い生活習慣」や生活習慣に関係ある「講義」の部分のみを先に行い、後から「記憶の補完手段」の部分を取り扱う方法も一案です。ただし、繰り返しになりますが、オーストラリアの実践では包括的な構成がリハビリテーションとしての効果を生むと考察されています。  また、本カリキュラムでは受講者の興味や集中力を保つために、あまり長く進行役の一方的な話が続くことがないよう随時意見交換などを行うとともに、受講者が主体的に取り組む「練習」が必ず1つ以上含まれています。カリキュラムの順番を変更する場合は、受講者の集中力が維持しやすい構成であることにも留意すると良いでしょう。   (2) カリキュラムにおける教材、資料について  本カリキュラムが「Making the Most of Your Memory」1)から改変した内容の1つに、たとえば「練習」で用いる記憶対象物である物のイラスト、有名人の顔などがあります。これは課題の一部が特定の文化的な背景に応じて開発されており、他の国や地域で適用できるとは限らない(例えば、欧米人にとって誰でも知っている「有名人」でも日本での知名度が高いとは限らない)ためであり、こうした場合には文化や地域に応じて変更して良い旨が同書には記載されています。  同様に、本カリキュラムを実施する際には、課題に用いるイラストや写真などの練習課題は、同じ知識や記憶戦略を反映するものであれば実施される支援機関の地域事情や特徴、あるいは支援のねらいなどに応じて変更していただいて構いませんし、実際にその必要があると思われます。よって、このカリキュラムを実施する際には、写真を用意したり、実施機関の特徴やニーズに応じた課題を考案したりなど、事前の準備が必要となります。   (3) カリキュラムの目的について  本カリキュラムは、記憶の補完手段を身につけることで日常生活場面の中での記憶に関する問題を改善することを目的としています。そのために最適な方法については受講者によって様々であり、例えば外的補助具を使ってスケジュール管理を行う場合、紙媒体のスケジュール帳が最も使いやすいと感じる方もいれば、スマートフォンが最も使いやすいと感じる方もいます。  そのため、本カリキュラムでは第1回から第5回までのセッションの中で複数の補完手段や記憶に良い生活習慣を幅広く紹介しますが、その中から受講者それぞれにとって無理なく長続きできる方法をひとつでも身につけることができればよく、紹介する全ての補完手段や生活習慣などを完全に習得してもらう必要はありません。 (4) その他  各セッションごとに、PowerPointで作成したスライドを上映し、受講者にはスライドを印刷した資料を配付しました。また、今回の試行実施ではセッションごとの配付資料をまとめて綴じるための本カリキュラム専用の紙ファイルを渡し、各自とりまとめた上でセッションごとにこのファイルを忘れずに持参してもらうことにしました。このファイルを忘れずに持参すること、また資料をきちんと整理して管理すること自体が課題でもあり、またセッションの中でファイルの参照を適宜うながすことで繰り返しの復習の機会とし、理解と習得がより進むことをねらいとしています。 5 各セッションの構成  セッションごとに実施内容や方法を紹介します。 (1) 第1回  第1回では、最初に学習カリキュラムの目的および全体の構成について説明を行います。ここでは、練習と家に持ち帰って行う宿題が重要であること、日常生活で繰り返し実践することが重要であることを特に強調します。  講義では記憶のメカニズムのうち記憶のステップについて、補完手段では「繰り返し」「関連付け」「チャンキング」といった内的ストラテジーの説明および外的補助具の紹介、生活習慣では環境が記憶に及ぼす影響について説明します。この回の中心的な内容の1つ目は講義で、記憶のステップである「記銘」「保持」「想起」という言葉は次回以降も繰り返し出てくる内容となります。2つ目が内的ストラテジーで、練習を3回行いながら「繰り返し」「関連付け」「チャンキング」といった記憶の技について理解と習得を図ります。 ア はじめに ~グループワークの目的・構成~  学習カリキュラムは記憶の補完手段を身につけ、生活場面の中での記憶の問題を改善することを目的としていること、そして補完手段には「記憶の技」と「記憶の道具」があることを説明します。  次いで、全6回の構成について説明し、この際に学習カリキュラムの一覧表(図3、巻末の資料集資料①)を渡します。一覧表は、これから学ぶ内容の全体像を伝えるだけでなく、後から見返した際の振り返りに活用したり、身につけたり自分に合っていると感じた記憶の技や道具をチェックできるようになっています。  最後に受講者の自己紹介を行い、名前のほかに自分の記憶の強みや、セッション全体を通して向上したいと考えていることを発表してもらいます。受講者にはカリキュラム受講前に記憶障害に対する自己認識を確認するアンケート(図4、巻末の資料集資料②)の記入を依頼しています。その場で考えて発表することが難しい方もいることから発表内容はアンケートに書いていただいた内容と同一のものとし、スムーズに発表が進行できるようにしています。なお、このアンケートは受講者の記憶障害に関する困り感や目標を記入するものであり、参加への動機づけを高めたり、繰り返し振り返る中で目的意識を明確化したり、カリキュラムの成果を確認するためにも使用します。    図3 学習カリキュラムの一覧表   図4 記憶障害に対する自己認識を確認するアンケート(実施前) イ 講義:「記憶のステップ」  記憶のメカニズムのうち、学習と記憶における「記銘」「保持」「想起」の各ステップについて説明したうえで、どんな要因が記憶のしやすさに影響するのかについて紹介し、記憶機能を高めるためのヒントを学びます。その上で、どの記憶のステップが最も得意で、どのステップが最も苦手かについて、受講者同士で意見交換を行い、理解を深めます。意見交換の中でその記憶のステップが得意/苦手と感じる理由を聞いていくことで、他の受講者の意見から自身の記憶の特徴に改めて気づきが得られることもあります。(例:テストの暗記が嫌いで記銘が苦手だと思っていた受講者が、別の受講者の「応援しているサッカーチームに関することならすぐに覚えられるから、記銘が得意だと思う」という意見を聞いて、「言われてみれば自分も好きなことならすぐ覚えられる」と気づくといった、自らの記憶に関する自己理解を少し見直してみるきっかけになる、など) 図5 記憶のステップ ステップ1 記銘(encoding) ステップ2 保持(storage) ステップ3 想起(retrieval) ウ 補完手段①:「複数の物を覚える」  以下の手順で練習を行いながら「繰り返し」「関連付け」「チャンキング」の3つの内的ストラテジーについての紹介を行います。 ①10個の物の描かれたイラストを1分間提示し、何のストラテジーも使わずに何個覚えられるか試してみます。 ②記銘のための方法として内的ストラテジーである「繰り返し」と「関連付け」の説明を行い、実際にこの内的ストラテジーを使って受講者同士の名前を覚える練習をします。職業センターのプログラムではすでに受講者同士が知り合いの状態であったことから、普段あまり呼ぶことのないような下の「名前」を覚える練習として行いましたが、初対面の方同士のグループであれば苗字を覚える練習とすることができます。あるいは、受講者同士が姓名の開示に抵抗のある場合には、お互いにニックネームを名のり、それを覚える練習としても良いでしょう。  ③「チャンキング」について説明します。 ④先に①で提示したイラストとは別の10個の物が描かれたイラストを1分間提示し、「繰り返し」「関連付け」「チャンキング」を使って何個覚えられるか試してみます。 ⑤補完手段を使ってみて効果をどう感じたかについて意見交換を行います。なお、意見交換の中で例えば「描かれているものを使って物語を作って覚えた」(=イメージ法)などの紹介した3つ以外の内的ストラテジーについて受講者から意見が出ることもあり、その方法についてもグループで共有します。 表3 記憶対象物の分類 シで始まる スで始まる トで始まる 生き物関連 シロクマ スズメ トンボ 食べ物関連 しゃもじ スイカ ドーナツ 生活関連 新聞 スーツ 時計 ドライヤー タで始まる ハで始まる フで始まる 楽器関連 太鼓 バイオリン フルート 食べ物関連 タケノコ ダイコン バナナ 生活関連 タンス はし はしご 風呂 ウで始まる カで始まる タで始まる 生き物関連 ウマ カメ 食べ物関連 缶詰 たまご 生活関連 うちわ 傘 タオル 自然関連 海 川 太陽  最後に、宿題として10個の物が描かれたイラストを渡して来週までに覚えてきてもらいます。  なお、今回巻末の資料集にある教材では、10個の物のイラストについて、関連付けやチャンキングなどの一助になりうることを考慮し、表3のような分類をふまえて選択しています。(もちろん、内的ストラテジーの使い方は人それぞれで、この分類にこだわる必要はありません。)  この練習や宿題の材料は、オーストラリアのカリキュラムのものを改変しています。紹介した補完手段を使う課題であることを原則に、練習や宿題の内容は必要に応じて工夫して変えていくことも可能です。 エ 補完手段②:「記憶の道具」  様々な記憶の外的補助具について紹介し、どのような時に外的補助具が有効か、あるいはどのような場面では外的補助具が使えない、または使いにくいかについて説明します。  今回はあくまで道具の紹介であり、具体的な使い方については次回以降のセッションで詳しく説明していくことになります。 オ 生活習慣:「身の回りの環境を整える」  まずは書類が積みあがって雑然としたデスクの写真を提示し、この環境で新しい仕事を覚えたり、頼まれた仕事を漏れなくできるかどうか、あるいは何をどう変えることが望ましいかなどの身の回りの環境を整える問題について受講者に質問します。改まった意見交換の場面は設けていませんが、受講者から環境改善のための意見がいくつか出た場合には意見交換を行っても良いでしょう。その上で、記憶しやすい環境づくりのための整理整頓のポイントや、音や温度、明るさなどが記憶に与える影響について説明します。  最後に、身の回りの環境を改善するための方法を考え、来週までに受講者それぞれの自宅などにおいて実践することを宿題とします。なお、試行実施の際にはこの宿題を忘れてしまったり、覚えてはいたけれど手が付けられなかったという方の割合が高く、宿題を出した時点で具体的にどのような方法で環境改善を行う予定か確認したり、セッション後の個別相談で宿題について確認するなどのフォローを行うことが望ましいと思われます。 (2) 第2回  第2回の講義では記憶に関連する脳の部位について、補完手段ではメモの使い方や道順の記憶について、生活習慣では運動と記憶の関係について説明します。この回では、補完手段として効果的なメモの使い方を覚えることが重要な内容になります。  なお、「脳と記憶」「メモの使い方」はいずれも短い内容ですが、どちらも説明中心で受講者が能動的に取り組む作業が含まれていないことから、講義の後にストレッチをはさんだり、「メモの使い方」の終了時(開始から概ね30~40分程度)のところで休憩を入れています。 ア 講義:「脳と記憶」  脳の構造についての概略を説明し、大脳の「前頭葉」「頭頂葉」「側頭葉」「後頭葉」それぞれの機能や海馬の働きについて紹介します。これらの部位がどのように機能して記憶が成り立っているのかについて第3回で解説するので、そのための基礎知識のような位置づけの講義になります。やや専門的な内容になるため、内容を覚えるというよりも大まかに「脳には様々な部位がある」といったことを知ってもらい、わからない時に参照する資料として活用できれば十分かもしれません。 イ 補完手段:「メモの使い方」  メモを取る目的や、短い時間で内容を漏れなくメモを取るために必要な工夫について説明します。また、メモを取ることができても後でメモを見ることを忘れてしまったり、どこにメモを取ったか分からなくなってしまうなど、参照が上手くできずにメモを活用しきれないケースも少なくないため、メモを見るための方法についても説明します。  最後に、次回のセッションに今使っているスケジュール帳を持ってきてもらうという宿題を出します。  メモを使う練習は次の「道順を記憶する」の中で行うため、ここでは説明のみとしています。 ウ 補完手段:「道順を記憶する」  メモを取る練習や、道順を覚えるためのポイントについて説明していきます。まずは、道順を覚える時に使っている外的補助具や内的ストラテジーについて受講者同士で意見交換を行います。その上で、道順を覚えるためのメモのポイントやコース周辺の様子を記銘するための方法を紹介し、練習として施設内を利用したミニ・ウォークラリーを行います。ウォークラリーの進め方については次のとおりです。  ①2人一組のチームに分かれます。このチームは、受講者同士でも、受講者と支援者の組み合わせでも構いません。ただし、受講者と支援者の組み合わせの場合、支援者は極力助言は控えるようにします。  ②ウォークラリーのコースについて説明します。  ③コースの中にある4つのチェックポイントに関するクイズを出題し、その問題をメモしてもらいます。(紙のメモだけでなく、スマートフォンのメモアプリや、録音機能などを使っても全く問題ありません。また、受講者の中にメモを取ることを希望しない方がいた場合は、無理強いする必要はありません。)  ④上の③で説明したチェックポイント以外にも隠れチェックポイントがあるため、コースの様子をよく見ておくように伝えます。  ⑤一組ずつ、少しずつ(概ね1分程度)出発時間をずらしてウォークラリーを始めます。  ⑥すべてのグループが戻ってきたら、チェックポイントに関するクイズと、隠れチェックポイントに関するクイズを出題します。  ⑦最後に、練習としてウォークラリーのコースの大まかな地図を書いてもらいます。  なお、オーストラリアで実施されたMSGでは屋外を回るコースを覚える課題となっていましたが、職業センターでは屋外に出るコースの設定が難しかったため、普段使用している支援室とその隣の部屋を一回りするだけのごく短いコースとしました。ただし、短いコースの中であっても周囲の様子に十分注意を向けてもらえるよう、隠れチェックポイントを設定するという元々のカリキュラムにはなかった工夫を行っています。  また、同じく受講者の安全確保の面から全ての受講者に支援者が同行することとしており、3名の支援スタッフでも対応できるよう2人一組のグループ設定としました。  こうした実施の枠組みについては、各支援機関の実情に合わせて変更していただくことになります。コースの決定やそれに伴う写真撮影、写真つきのPowerPoint教材の作成など、事前の準備が必要です。 エ 生活習慣:「運動の重要性」  運動のメリットおよび、運動が記憶に及ぼす効果について説明します。その上で、普段の生活の中に運動を取り入れるための工夫を紹介し、次回のセッションまで1週間、何かしらの運動に毎日取り組んでもらうことを宿題とします。  なお、本項目を国内向けに改変するにあたり、運動習慣を持つための具体的なポイントなどを解説する教材は職業センター発行の支援マニュアルNo.20「気分障害等の精神疾患で休職中の方のための日常生活基礎力形成支援」2)の教材の一部を引用しました。 (3) 第3回  第3回では、最初に講義で記憶のプロセスについて説明します。補完手段としては、過去のことを想起するための内的ストラテジーとして「再認」「記憶の痕跡をたどる」、外的補助具として「写真」を使用する方法、また、展望記憶のための外的補助具として「スケジュール帳」「ふせん」「アラーム」「物理的リマインダ」の使い方を説明します。最後に、生活習慣として食事が健康と記憶に及ぼす効果について説明します。  補完手段の内容が盛りだくさんであり、練習や意見交換に時間がかかった場合には全ての内容を時間以内に終わらせることは難しいかもしれません。その場合には、終わりきらなかった部分や一部の項目を次回のセッションに回しても良いでしょう。(第4回の内容は他の回よりも少なめになっています。) ア 講義:「記憶のプロセス」  「記銘」「保持」「想起」の各段階で、脳の中ではどのようなプロセスで情報処理が進んでいるのかについて説明します。その上で、脳の機能がダメージを受けると記憶にどのような影響が生じるのか、例えば後頭葉にダメージを受けた場合と前頭葉にダメージを受けた場合の例について説明します。前頭葉、後頭葉などの脳の各部位やその働きなどについては、第2回の講義資料を参照してもらいながら進めても良いかもしれません。  第1回、第2回の講義を下敷きにした内容であり、もしこの講義だけを取り出して扱う場合には「記銘」「保持」「想起」や脳の部位などについて第1回、第2回のモジュールを加えた補足的な説明があると良いでしょう。 イ 補完手段:「過去のことを思い出す」  過去のことを思い出すための内的ストラテジー「再認」と「記憶の痕跡をたどる」について説明し、実際にこれらの内的ストラテジーを使う練習として第1回の宿題だったイラストに描かれていた10個の物を思い出して書き出してもらいます。  次に外的補助具を使って過去のことを思い出す方法として、それぞれ宿題として持ってきた写真を見せてもらいます。1人ずつ自分の写真にかかわる思い出について説明し、他の受講者は発表者にその写真に関する質問をします。全員の発表が終わったら、写真を使うと過去のことを思い出すためにどのような効果があるかについて意見交換を行います。  写真を使う際の留意点として、プライベートな状況が共有されやすいという問題があります。講座の中で知った他の受講者の情報は他言しないこと、写真を見せることを希望されない場合は無理に参加しなくてよいことを伝え、写真を見せても良いか事前に個別に確認することが望まれます。  またその他の留意点として、事故や災害に関する写真などは他の受講者が否定的な感情を抱く可能性もあることから、持参する写真については「うれしかったこと、楽しかったこと」に関する写真としています。 ウ 補完手段:「これからすることを覚えておく」  展望記憶を補うための外的補助具「スケジュール帳」「ふせん」「アラーム」「物理的リマインダ(=必ず見るところに必要なものを置くことで、思い出せるようにする方法)」について説明します。こうした外的補助具はほとんどの受講者が使った経験がありますが、その使い方については人それぞれ少しずつ違っていたり、使いこなせていないこともあります。これらの外的補助具を使用するポイントを紹介するとともに、具体的な生活場面を挙げてどのような外的補助具を使えるかについて意見交換を行います。意見交換の中で他の受講者の意見を聞くことで、改めて外的補助具の使い方やその有効性に気づく効果が期待されます。本項の最後に「来週の月曜日に担当カウンセラーあてに電話をかける」ことを宿題とします。試行実施の中では、受講者同士でも宿題を忘れないよう話題に出したり、多くの方が同じような外的補助具(ふせん)を活用するなどの方法で展望記憶を補完する場面が見られました。 <時差再生課題>  本項の途中で、「今日の記憶問題」という、時間経過後に何を質問されるかを記憶しているかどうかを練習する時差再生課題の設問を提示します。「今日の記憶問題」は、後で3枚の写真を見せ、その写真に関する問題に答えてもらうクイズ形式の課題ですが、先に問題だけを出し、しばらくセッションを進めたのちに写真だけを見せてどんな問題だったかを思い出して答えてもらうという方法で行います。  出題のスライドは配付資料には載せず、画面に提示するのみとします。設問については、メモを取ったり、画面の写真を撮るなどの外的補助具を用いても構わないことを伝えます。ただし、外的補助具を使うかどうか、また、使う場合はどの外的補助具を使うかはあくまで受講者の意思に任せ、支援者がメモを取るなどの補完手段を強制しないことが重要です。なお、本カリキュラムではここで時差再生課題を行っていますが、同じタイミングで行う必要はありません。 エ 生活習慣:「食べ物と栄養」  まず、普段の食習慣についての意見交換を行います。その上で、「朝食をしっかりと食べること」「ジャンクフードを避けること」などの脳の機能を向上させるための食習慣について説明します。次いで、魚や果物などの健康や脳の働きに良いと言われている「オメガ3脂肪酸」が豊富な食べ物を紹介し、これらの食べ物を次回のセッションまでに1回は食べてみることを宿題とします。  本項についてはオーストラリアのカリキュラムを一部改変する形で紹介していますが、脳に良いと言われる食べ物や栄養素についての情報は研究が進むにつれて変化していきます。そのため、新しい研究成果が発見された際には必ずしも現在の内容にこだわらず、エビデンスに基づいて内容を更新していく必要があると考えられます。 <時差再生課題>  「食べ物と栄養」の説明が終わった後で、「今日の記憶問題」の写真を3枚提示し、問題を思い出して回答してもらいます。なお、この写真についても配付資料には載せず、画面に提示するのみとします。 (4) 第4回  第4回では、前半は外的補助具として電子機器の使い方の紹介について、主に記憶の補完手段となるスマートフォンの機能やアプリケーション(以下、「アプリ」という。)についての紹介を行います。後半は、まずストレスと疲労が記憶に与える影響についての講義を行い、その上でストレスと疲労を管理するための生活習慣として、リラクゼーション法の紹介を行います。  第3回までよりも説明の分量は少なくなっていますが、その分だけスマートフォンの使い方、リラクゼーション法について練習の時間を十分にとって行う構成になっています。  なお、MSGでは「Making the Most of Your Memory」にはない「コミュニケーションを向上させる」というコミュニケーションスキルに関する講義を加えていますが、本試行では情報量が多くなることから省略しました。 ア 補完手段:「電子機器を使う」  メモやリマインダーなど、主にスマートフォンやタブレットにあるアプリを使った記憶の補完手段について説明します。なお、オーストラリアのカリキュラムが開発された2010年と比べて現在はスマートフォンなどの機能や活用できるアプリの量・質ともに大きく変化していること、また、アクセス可能なアプリが日本とは異なることから、本項目はオーストラリアの教材をベースとしつつ、職業センターが令和元年度に発行した実践報告書No.35「アシスティブテクノロジーを活用した高次脳機能障害者の就労支援」3)において紹介した補完手段となるスマートフォンなどの基本的機能を引用して改変しました。  まず、練習として実際に受講者自身のスマートフォンを使って「5分後にアラームをセットする」「ホワイトボードの写真を撮る」「連絡先に職業センターを登録する(すでに登録してある人は登録してあることを確認する)」「カレンダー(スケジュール)に来週のセッションの予定を入力する」という4つの機能を使った課題を行ってもらいます。やり方が分からない方については個別に対応します。その後で、スマートフォンなどに標準的に搭載されているメモ、リマインダー、カレンダー(スケジュール)といったアプリの使い方を説明します。先に練習で使い方を体験してもらってから説明することで、内容を理解しやすくしています。  次に、下記の2点についての意見交換を行います。  ①自分がよく使っているアプリや使いやすいアプリについて ②自分が日常生活場面で困っていることは何か、それに対してどのようなアプリが使えそうか  意見交換を行うことで、受講者同士で役に立つアプリについてさらに情報交換をしたり、活用に向けた動機づけを高めます。最後に、次回のセッションまでに何か新しいアプリを試してみることを宿題とします。  試行実施では、受講者全員がスマートフォンを所持していたため特に問題なく行うことができましたが、スマートフォンもしくはタブレットを所持していない受講者については、本項目を受講するかどうか事前に相談の上、受講者本人の希望に沿って決めるなどの対応が必要になります。 イ 講義:「ストレスと疲労」  ストレスと疲労が記憶に与える影響について説明します。まずストレスについて、脳のパフォーマンスを高い状態に保つためには高すぎず低すぎない適度なストレスがある状況が望ましいこと、ただし、強いストレスがかかり続ける環境は海馬の活動が悪くなり、記憶機能に影響があるため避ける必要があることなどを説明します。  次に疲労について、疲労の蓄積が注意力や集中力の低下につながり、記銘や想起に悪影響が出ることを説明します。  最後に、受講者自身が実感の伴った理解を深められるよう、ストレスや疲労によって記憶の問題が生じたことがあるか、またストレスや疲労のサインとしてどのようなものがあるかについて意見交換を行います。  なお、オーストラリアのカリキュラムにおいては第4回で「ストレス」、第5回で「睡眠」と「疲労」を扱っていましたが、内容的に必ずしも「睡眠」と「疲労」をワンセットとして扱う必要性がないこと、ストレスへの対処法、疲労の対処法ともにリラクゼーションが挙げられていることから、モジュール化を行うにあたり第4回で「ストレスと疲労」、第5回で「睡眠」を扱うこととしました。  オーストラリアのカリキュラムでは、ここでうつや不安の対処に関わる支援機関のパンフレットを配付することとしています。本報告書では省略していますが、必要に応じて地域の支援機関などの情報提供を加えることも良いかもしれません。   ウ 生活習慣:「ストレスと疲労の管理」  講義に続き、ストレスと疲労を改善するための方法としてリラクゼーション法について紹介し、実際に「呼吸法」や「漸進的筋弛緩法」「視覚イメージ」(風景、自然などのリラックスできる画像の提示)についての練習を行います。  最後に宿題として、生活の中のストレスを減らす方法を1つ見つけて次回のセッションまでの1週間実践してもらうこととします。  呼吸法と漸進的筋弛緩法については、オーストラリアのカリキュラムには練習で行うとされているものの詳細な記述がないことから、その進め方について職業センター発行の実践報告書No.33「感情コントロールに課題を抱える高次脳機能障害者への支援」4)の教材を引用して紹介しています。ただし、必ずしも呼吸法と漸進的筋弛緩法だけにこだわる必要はなく、ここで紹介されているその他の方法(アロマテラピーなど)を用いた練習を行ったり、各支援機関で日常的に実践しているリラクゼーション法があればそちらで代用することも可能です。 (5) 第5回  第5回では、講義で記憶にとっての睡眠の重要性を説明し、生活習慣で睡眠を改善・促進するための方法について紹介します。補完手段としては、「繰り返し」「関連付け」「総当たり(しらみつぶし)」「精緻化」といった内的ストラテジーの説明を行います。  内的ストラテジーの中でも日常的に使う機会の多い「繰り返し」「関連付け」「精緻化」についての説明が第5回の中心であり、第1回の復習も交えた説明や、4度にわたる練習を行いながら内的ストラテジーの理解と習得を図ります。  なお、MSGでは「Making the Most of Your Memory」にはない「複雑なタスクを成し遂げる」というマルチタスクに対する遂行機能に関する講義を加えていますが、本試行では情報量が多くなることから省略しました。 ア 講義:「睡眠の重要性」  「記憶の整理と定着」は「脳の休養」「疲労の回復」「免疫力向上」などと並ぶ重要な睡眠の役割であり、十分な睡眠を取ることが記憶にも良い影響を与えることを説明します。その上で、年齢に応じて必要な睡眠時間や睡眠とホルモンの関係について説明します。  なお、本項目の内容は職業センター発行の支援マニュアルNo.20「気分障害等の精神疾患で休職中の方のための日常生活基礎力形成支援」2)および実践報告書No.33「感情コントロールに課題を抱える高次脳機能障害者への支援」4)の教材から一部引用して作成しました。 イ 生活習慣:「睡眠を改善する方法」  睡眠の改善と促進のために、良い睡眠を取るための工夫を朝、日中、夜、就寝前に分けて紹介します。また、睡眠への悪影響が出やすいものとして「アルコール」「タバコ」「カフェイン」を紹介します。その上で眠れないときの対処方法について紹介し、最後に「自分は1日何時間くらい寝ているか」「睡眠の質を高めるためにしている工夫」「これから取り入れていきたいこと」について意見交換を行います。  最後に、セッションで学んだことを踏まえて自身の睡眠のパターン(昼間の活動が夜の睡眠にどのように影響するか、睡眠を妨げる要因は何か)をモニタリングするため、次回のセッションまでの1週間分の睡眠日誌をつける宿題を出します。睡眠日誌については、「田辺三菱製薬株式会社」と「吉富薬品株式会社」が提供するWEBサイト「スイミンネット」(https://www.suimin.net/)上に公開されていた睡眠日誌を活用させていただきました。  なお、本項目を国内向けに改変するにあたり、睡眠を改善する方法の具体的なポイントなどは職業センター発行の実践報告書No.33「感情コントロールに課題を抱える高次脳機能障害者への支援」4)の教材から引用しています。 ウ 名前を記憶するためのさらなる方法  名前の記憶を題材に、以下の手順で練習を行いながら、想起と記銘のための「繰り返し」「関連付け」「総当たり(しらみつぶし)」「精緻化」の4つの内的ストラテジーについての紹介を行います。 ①まずは内的ストラテジーの説明をする前に練習として、4名の写真と名前の書かれたスライドを20秒ずつ見せます。その後で顔写真だけを見せ、それぞれの名前を思い出しながら書き出してもらいます。この練習は内的ストラテジーを紹介する前と後とで記憶のしやすさに違いがあるか実感してもらうために設定しています。また、写真については著作権フリーの画像を利用し、名前については架空の名前を設定しましたが、これらの名前や画像については実施に当たって変更していただいて構いません。 ②次に、名前を思い出す、想起のための内的ストラテジーとして「関連付け」と「総当たり(しらみつぶし)」について説明します。また、内的ストラテジーではないですが、あらかじめ会う相手が分かっているけれど名前がすぐに思い出せない可能性がある時に準備しておくと良い工夫も併せて伝えます。(例えば取引先を再度訪問する際など、相手の名刺を持っていき、取引先の会社に入る前に確認する、など) ③人や物、場所などの写真またはイラストを提示し、「関連付け」や「総当たり(しらみつぶし)」、またはこれまでに学んだ「再認」などの内的ストラテジーを使ってその名前を思い出す練習をします。     この練習を行うためには、あれこれ記憶の痕跡をたどってもらえるよう、「広く知られているけれど簡単には名前が出てこない人や物」の写真を3~5枚程度用意する必要があります。例えば、上記の写真にある厳島神社(安芸の宮島)は中国地方の方にとっては簡単すぎるかもしれませんので、別の写真に差し替える必要があるでしょう。なお、オーストラリアのカリキュラムでは、「エンターテインメントや政治、スポーツの分野の中から新旧の有名人を何人か」選ぶこととされています。本報告書では歴史上の人物や観光名所などの写真やイラストを選びましたが、受講者の年齢層などに応じた有名人などの写真を題材とすることも良いかもしれません。 ④次に、新しい名前を覚えることを題材に、記銘のための内的ストラテジーとして「繰り返し」「関連付け」「精緻化」について説明します。 ⑤「精緻化」の練習として、①で使用したものとは別の人の写真を提示し、出身地や仕事など、その人のことに関するより詳しい情報を受講者から質問してもらいます。なお、名前やその人に関する情報については支援者が想定してあらかじめ決めておくか、受講者から質問が来た時に臨機応変に提示します。 ⑥先ほどの①と同様に4名の写真と名前の書かれたスライドを20秒ずつ見せ、紹介した内的ストラテジーを使って4名それぞれの名前を覚えてもらいます。その後、顔写真だけを見せ、それぞれの名前を思い出して配付資料の所定の欄に書き出してもらいます。 ⑦先ほどの⑤の練習で様々な情報を伝え精緻化した人の名前を思い出して書き出してもらいます。 ⑧補完手段を使ってみて効果をどう感じたかについて意見交換を行います。  なお、4名の名前を覚えるという課題はオーストラリアのカリキュラムと同一のものですが、日本人の方が苗字と名前を覚える必要がある分だけ難易度が高くなっています。例えば、オーストラリアのカリキュラムでは、覚えるべき名前は「テリーザ」「アニータ」「グレン」などです。そのため、受講者が苗字と名前の両方を覚えることが難しいと思われる場合には、「下の名前だけにする」「4名ではなく3名にする」「提示する時間を長くする」などの難易度の調整を行うことを考慮しても良いと思われます。  (6) 第6回  第6回では、これまでに紹介した内的ストラテジーや外的補助具、記憶に良い生活習慣に関する練習やクイズを通して第1回~第5回の復習を行います。 ア 内的ストラテジー (記憶の技)  まず意見交換を行い、これまでに紹介した内的ストラテジーを思い出してもらいます。その後、改めて7つの内的ストラテジーそれぞれについての説明を行ってから、練習を行います。練習の進め方は下記のとおりです。  ①時差再生課題を行います。設問は第3回と全く同じ内容とし、第3回の際にとったメモを参照する、あるいは内的ストラテジーを使って思い出す練習をします。設問が思い出せなかった受講者がいた場合には問題を伝えます。ここでは、出題だけとします。  ②10個の物が描かれたイラストを1分間提示し、「繰り返し」「関連付け」「チャンキング」を使って覚える練習を行います。  ③4名の写真と名前の書かれたスライドを20秒ずつ提示し、「繰り返し」「関連付け」「精緻化」を使って覚える練習を行います。  ④「今日の記憶問題」の写真を3枚提示し、問題を思い出して回答してもらいます。ここで使用する写真は第3回とは別の写真としました。なお、この写真は配付資料には載せず、画面に提示するのみとします。 イ 外的補助具 (記憶の道具)  外的補助具の使い方や、使う場面についてクイズ形式での復習を行います。質問の概略は以下のとおりです。  ①次回の会議の予定を覚えておくために、どのような方法が使えますか?   展望記憶の補完手段として用いる外的補助具についての質問で、これまでのセッションの中で身につけた、自身に合ったスケジュール管理の方法についての復習です。  ②毎日やること(例:タイムカードを打刻する)を覚えておくために、どのような方法が使えますか?   ①が1回きり、あるいは頻度の高くない予定についての質問であったのに対し、こちらは日常的に行うことを忘れないために用いる外的補助具についての復習です。  ③毎日の持ち物を忘れないようにするために、どのような方法が使えますか?   ②と同じく、日常的に行うことに用いる外的補助具についての復習です。①・②が概ね決まった時間で行うことについての記憶の方法をたずねる質問であったのに対し、こちらは決められた時間までに行う行動についてたずねています。  ④新しい仕事の内容を覚えるために、どのような方法が使えますか?   ある程度量の多い情報を記憶するために用いる外的補助具についての復習です。受講者が今後就職、あるいは復職した際の、自身に合った対応方法について再確認するための質問です。  上記のクイズの終了後、記憶の技や道具をどのように使っているか、このセッション全体を通じて身につけたいと思っていたことは解決できたか、について意見交換を行います。  最後に、記憶の技や道具を使うことを忘れないようにするための方法について質問します。 ウ 記憶に良い生活習慣  記憶に良い生活習慣についてクイズ形式での復習を行います。質問の概略は以下のとおりです。 <第2回「運動の重要性」についての復習>  ・運動は、記憶に対してはどんなメリットがありますか?  ・記憶を補助するのに最適な運動はどのようなものですか? <第3回「食べ物と栄養」についての復習>  ・脳の働きをよくするために、食事面で気をつけるとよいことは何でしょうか? <第4回「ストレスと疲労の管理」についての復習>  ・ストレスはどのように記憶に影響するでしょうか? <第5回「睡眠を改善する方法」についての復習>  ・なぜ睡眠は記憶にとって重要なのでしょうか?  ・専門家が推奨する1晩の平均睡眠時間はどれくらいでしょうか?  上記のクイズの終了後、これからも続けたい「記憶に良い生活習慣」についての意見交換を行います。  最後に、記憶に良い生活習慣を忘れずに続けるための方法について質問します。 エ おわりに  セッションの最後に、記憶障害に対する自己認識を確認するアンケート(図6)および記憶の補完手段の利用に関するアンケート(図7)を実施します。前者は実施前の内容に加えてセッション全体の感想をたずねる内容となっています。後者は実施前に実施したものと同じもので、内的ストラテジーと外的補助具の使いやすさや使用頻度、使った際の効果をたずねる内容となっています。どちらも実施前の結果と比較することで、記憶についての自己認識や補完手段の変化を確認することを目的としています。 図6  記憶障害に対する自己認識を確認するアンケート(実施後) 図7 記憶の補完手段の利用に関するアンケート <参考文献> 1) Kylie Radford, Miranda Say, Zoë Thayer and Laurie Miller “Making the Most of Your Memory”ASSBI Resources(2010) 2) 障害者職業総合センター職業センター『気分障害等の精神疾患で休職中の方のための日常生活基礎力形成支援~心の健康を保つための生活習慣~』,「支援マニュアルNo.20」(2020) 3) 障害者職業総合センター職業センター『アシスティブテクノロジーを活用した高次脳機能障害者の就労支援』,「実践報告書No.35」(2020) 4) 障害者職業総合センター職業センター『感情コントロールに課題を抱える高次脳機能障害者への支援』,「実践報告書No.33」(2019) 第4章 学習カリキュラムの効果と事例  本章では、学習カリキュラム実施の効果と受講者の事例を紹介します。 1 効果の測定方法  第2章でとり上げた先行研究における効果測定の方法は表1のとおりです。測定方法は、客観的指標である各種の神経心理学的検査と主観的指標である質問紙・アンケート等に分けられます。 表1 先行研究における効果測定方法 先行研究 中島ら(2001)1) 高塚・山崎(2003)2) 川上・中島(2007)3) Withielら(2019)4) 測定方法 神経心理学的検査 ・東大脳研式記銘力検査(有関係対語) ・Trail-Making-Test(Part A) ・日本版リバーミード行動記憶検査(前・後) ・WAIS-R(前・後) ・WMS-R(前・後) ・Trail-Making-Test(前・中・後) ・レイ聴覚言語学習課題(RAVLT) ・簡易視空間記憶テスト改訂版(BVMT-R) ・ロイヤルプリンスアルフレッド展望記憶テスト(RPAProMem) ・WMS-Ⅳ(Symbol Span) ・WAIS-Ⅳ(数唱問題の逆唱) 質問紙・アンケート等 ・手帳使用に対する動機づけ ・グループ訓練前後のチェック表 ・手帳活用検査 ・生活健忘チェックリスト(本人・家族)(前・後) ・記述式アンケート(グループ訓練の感想とその理由) ・実生活で使用している外的補助手段の調査 ・訓練前後の自己評価(病識・記憶力) ・訓練前後の代償手段の使用状況アンケート ・グループ訓練アンケート ・グループ訓練参加についての本人と家族の感想 ・家族へのアンケート(本人と家族の意識及び日常生活の変化) ・生活健忘に関するGAS(Goal Attainment Scaling:目標達成尺度) ・日常記憶アンケート改訂版(EMQ-R) ・展望記憶包括アセスメント(CAPM)PartA ・日常生活の中で使用するストラテジーに関するアンケート  本試行においては、これらをふまえて、客観的指標と主観的指標からなる以下の内容で効果を測定しました。    (1) 日本版リバーミード行動記憶検査  日本版リバーミード行動記憶検査(以下、「RBMT」という。)は、日常記憶(everyday memory)の障害を多角的に評価する検査として医療機関などで広く活用されています。「人の名前を覚える」「短い物語を聞いて覚える」「タイマーが鳴ったら決められた質問をする」などの日常生活場面に沿った内容で構成され、即時記憶、遅延再生、展望記憶など、記憶の様々な側面を確認することができます。  結果は標準プロフィール点とスクリーニング点の2つの得点で示され、いずれも得点が低いほど障害が重度と評価されます。標準プロフィール点は重症度の指標とされ、検査項目毎に詳細に結果を評価するために使われます。また、スクリーニング点は記憶障害の有無の指標とされ、いずれの得点においても記憶障害を疑ってよいかどうかの判定の目安となるカットオフ値が年齢群ごとに決められています。  本試行では、本カリキュラムが扱う日常記憶を評価する評価法であること、検査時間がおよそ30分程度で対象者の負担が少ないこと、同質の検査が4種類用意され繰り返し実施できることから、この検査を学習カリキュラム実施の前後で行い、結果を比較することにより、日常記憶に関わる記憶機能の変化を客観的に確かめることにしました。 (2) 生活健忘チェックリスト  生活健忘チェックリストは、RBMTに含まれている質問紙で、日常生活上の記憶障害に関する自己認識の程度を評価するものです。記憶障害のために日常生活で起こりうる13の問題や場面(例えば「つい、その辺りに物を置き、置いた場所を忘れてしまったり、物を失くしたりすることがある」など)が最近1か月のなかでどの程度あったかを、「全くない」から「常にある」の4つの選択肢から受講者自身が選んで回答します。得点は13~52点の範囲で、得点が高いほど記憶障害の自覚が強いことを意味しています。  生活健忘チェックリストは、障害のある人が自分自身のことについて回答するだけでなく、その人のことをよく知る他者(家族など)にも回答を求め、結果を比較することで、自己評価との差を検討することができます。また、定期的にチェックすることで、記憶障害の自己認識の程度がどのように変化したかを評価することができます。  今回の実践においては、生活健忘チェックリストを学習カリキュラムの前後で実施し、記憶障害の自己認識の程度がどのように変化したかを評価することにしました。 (3) Patient Competency Rating Scale  Patient Competency Rating Scale(以下、「PCRS」という。)は、脳外傷患者の自己認識を評価(その人自身が現在の長所や短所を評価)することを目的に、米国ニューヨークのPresbyterian病院のGeorge Prigatano博士らによって開発された質問紙です。  PCRSは、「自己認識の程度を評価する」という点は生活健忘チェックリストと同じですが、認知機能に加え、日常の生活活動、感情機能、身体的な機能に対する評価が含まれており、日常生活全般における障害の自己認識の程度を評価していると言えます。具体的には、「自分の食事を用意する」「身だしなみを整える」といった身辺自立に関する項目や、「昨夜の夕食に何を食べたかを思い出す」「毎日の自分の予定を思い出す」といった記憶に関連する項目などがあり、日常生活に必要な諸能力に関する30項目について、「できない」から「簡単にできる」の5つの選択肢から選んで回答します。得点は30~150点の範囲で、得点が高いほど障害を軽く捉えていることを意味しています。  PCRSは、その人のことをよく知る他者(家族など)にも回答を求め、結果を比較することで、自己評価との差を検討することができます。また、受障からの時間経過に伴った自己認識の変化を量的に測り、自己認識を改善する支援の方向性を評価することにも有効であるとされています。5)6)  今回の実践においては、PCRSを学習カリキュラムの前後で実施し、日常生活全般における自己認識がどのように変化したかを評価することにしました。    (4) 記憶の補完手段の利用状況等についてのアンケート  学習カリキュラムの実施前後に、記憶障害に対する自己認識を確認するアンケート(図1)と記憶の補完手段の利用状況を把握するアンケート(図2)を実施しました。なお、アンケートの作成にあたっては、オーストラリアの学習カリキュラム「Making the Most of Your Memory」7)で実施されていた受講者アンケートの内容を参考にしました。  記憶障害に対する自己認識を確認するアンケートでは、自身の記憶機能に対する自己評価や記憶の特徴に対する理解が向上したかどうかの自己評価などを確認しています。また、学習カリキュラム全体の感想や要望を自由記述で記入してもらいます。  記憶の補完手段の利用状況を確認するアンケートでは、補完手段の使用頻度と、使いやすさと使用した効果に対する認識を確認しています。  そのほか、学習カリキュラムの理解度や紹介した補完手段に対する関心の程度などを確認する感想シートの記入をセッションごとに依頼しています。なお、使用したアンケートや感想シートは巻末の資料集に収録しています。  (5) プログラム中の行動観察  学習カリキュラムを含むプログラム全体を通じて、支援者がチェックリストによる行動観察を行い、記憶障害による問題の有無や補完手段の活用状況を確認しました。このチェックリストは巻末の資料集に収録しています。また、プログラムを通じて観察される記憶障害に関わるエピソードを支援記録に記録しました。  また、補完手段の活用状況については、学習カリキュラムにおける宿題の実施状況によっても確認しました。   図1 記憶障害に対する自己認識を確認するアンケート 図2 記憶の補完手段の利用状況を把握するアンケート  2 結果  本試行は、令和2年6月~10月の間、合計6名の受講者に対して実施しました。受講者の概要は表2のとおりです。Aさん~Eさんの5名は小集団形式、Fさんは個別形式による実施です。  なお、Dさん、Eさん、Fさんは、高次脳機能障害の主な症状は注意障害であり、主治医の意見書に記憶障害との記載はありませんでしたが、日常記憶に関連するエピソードがあり、また、内容に関心を示し参加を希望したため、受講対象に含めました。 表2 受講者の概要 受講者 A B C D E F 性別 男性 男性 男性 男性 男性 男性 年代 50歳代 50歳代 20歳代 40歳代 40歳代 50歳代 受障原因 脳梗塞 くも膜下出血 びまん性脳損傷 多発性脳梗塞 小脳出血 脳出血、脳梗塞 記憶障害の診断と特徴 あり ■短期記憶、記憶力低下 あり ■記銘力障害 あり ■長期記憶の障害 なし なし なし その他の高次脳機能障害の状況 注意障害(配分性、注意機能、注意の切り替え) 言語(舌麻痺あり、発語不明瞭) 注意障害 左半側空間無視 注意の持続 注意障害 注意障害(切り換え、情報処理速度低下) 注意障害 遂行機能障害 日常記憶に関連するエピソード とっさに言われた事柄を忘れる。 手帳に書いたスケジュールを見つけられない。 提出書類の持参を2日続けて忘れる。 金曜日にどこまで作業をしたか、月曜日に忘れている。 同じ話を何度もすることがある。 頼まれた事をし忘れる。 マイボトルを置き忘れる。 書類を何度も催促されて10日遅れで提出する。 (1) RBMT  学習カリキュラムの実施前後に行った、受講者6名のRBMTの結果は図3のとおりです。受講者6名のうち5名(Aさん、Cさん、Dさん、Eさん、Fさん)は実施前、実施後ともに得点がカットオフ値以上を示し、RBMTの結果からは記憶障害はないと判断されました。残りの1名(Bさん)は実施前、実施後ともにカットオフ値を下回り、記憶障害があると判断されました。  実施前後の得点を比較すると、標準プロフィール点では6名中5名に得点の低下が見られ、1名(Bさん)に得点の向上が見られました。また、スクリーニング点では6名中3名(Aさん、Eさん、Fさん)に得点の低下が、2名(Bさん、Dさん)に得点の向上が見られ、1名(Cさん)は横ばいでした。ただ、いずれも1~2点の範囲の変化と顕著な違いはなく、客観的指標において日常記憶に関わる記憶機能の改善は確認できませんでした。ただ、検査結果を個別に詳細にみると、例えばRBMTにおける姓名の記憶問題の回答が実施前後に改善し、学習カリキュラムで扱った名前の記憶については学習効果が見られたというエピソードがありました。  なお、オーストラリアにおける学習カリキュラムの効果を検証した報告4)では、神経心理学的検査による効果測定において、展望記憶の改善は有意に見られたものの、視覚的・言語的な新規学習と記憶の機能については、学習カリキュラム実施前後および比較群(学習カリキュラム実施群、コンピューターによる認知トレーニング群、何も実施していないコントロール群)間の明らかな違いは見られなかったとし、効果測定の方法の検証も含めさらなる再現テストが必要としています。 図3 RBMTの結果 注:EさんとFさんのスクリーニング点が実施前・実施後とも同点だったため、重なって表示されている (2) 生活健忘チェックリスト  学習カリキュラムの実施前後に行った、受講者6名の生活健忘チェックリストの結果は図4のとおりです。  実施前後の得点を比較すると、得点が下がった者(つまり、記憶障害に対する自覚が少なくなった者)が6名中4名(Aさん、Bさん、Cさん、Dさん)、得点が上がった者(つまり、記憶障害に対する自覚が強まった者)が2名(Eさん、Fさん)でした。  個別相談においてチェックリストの各項目の選択理由を詳細に確認したところ、得点が下がった理由として、メモを取ることで頼まれた買い物を簡単に思い出せるようになったなど、補完手段の活用により記憶障害によるエラーが減ったからとする事例がみられました。逆に、得点が上がった理由として、プログラム内で日常記憶のエラーがあることに改めて気づいたからとする事例がみられました。これらの変化は、学習カリキュラムを受講したことによる影響だけでなく、プログラム受講前の在宅生活では気づかれなかった課題が顕在化したことなど、他の影響も考えられます。 図4 生活健忘チェックリストの結果 (3) PCRS  学習カリキュラムの実施前後に行った受講者6名のPCRSの結果は図5のとおりです。  実施前後の得点を比較すると、得点が下がった者(つまり、日常生活上の障害に対する自己認識が強くなった者)が6名中2名(Eさん、Fさん)、得点が上がった者(つまり、日常生活上の障害に対する自己認識が軽くなった者)が4名(Aさん、Bさん、Cさん、Dさん)でした。  個別相談においてチェックリストの各項目の選択理由を詳細に確認したところ、得点が下がった受講者については自身の障害に対する気づきが深まったことがうかがえ、得点が上がった受講者については補完手段の獲得などにより障害を自覚する機会が減少したことがうかがえました。しかし、これらの変化には、学習プログラム以外の様々な取組みが影響する可能性もあることから、PCRSの結果だけで効果を判断することは難しいと考えられます。 図5 PCRSの結果 (4) 記憶の補完手段の利用状況等についてのアンケート  ア 自身の記憶についての理解  記憶障害に対する自己認識を確認するアンケートでは、自身の記憶機能に対する自己評価や学習カリキュラム全体の感想を確認しています。受講者6名の回答結果を表3に、学習カリキュラム全体の感想(自由記述)を表4にまとめました。  表3によると、記憶や記憶力の自己評価(質問1、質問4、質問6、質問7)が向上した受講者は4名、記憶の特徴の理解(質問2、質問3、質問5)が向上した受講者は3名でした。受講者6名全員が1つ以上の質問項目で自己評価や理解度の向上を示しましたが、評価を下げた項目のある受講者も2名(Aさん、Fさん)いました。評価を下げたことについて個別相談の中で確認したところ、「気を抜いたときや強調して伝えられなかったときに記憶が悪くなる」「物を落としても、そのときのことを覚えていないことがある」と話し、記憶機能に対する認識が高まった面もあることがうかがえました。  表4の自由記述を見ると、「スマホを記憶の道具として使用していこうと思った(Aさん)」「記憶の保持にはいろいろな技があることが分かりました。ゆっくりと色々試してみたいと思いました(Bさん)」「睡眠やストレスをうまくとっていかなくてはと思いました(Cさん)」「全体を通して自分に合った方法でリマインダーを活用したいです。名前を覚えるのが苦手なので、関連付けで覚えるようにしたいです(Dさん)」「記憶の種類や方法の分類が学べてよかったですが、グループワークの初期の記憶が弱くなっているのを感じます(Eさん)」「物を落としてしまうことがあったが、対処が分かった(Fさん)」とあり、学習カリキュラムの多くの情報の中から、受講者それぞれが自分に合った効用を感じている様子がうかがえます。  なお、終了後のアンケートにおいて学習カリキュラムに対する満足度を確認しました。「このプログラムは記憶の向上に役立っている」「全体的に私はこのプログラムに満足している」という2つの質問項目に対し、すべての受講者が「そう思う」「ややそう思う」を選択し、受講者の満足度は高いことがわかりました。 表3 自身の記憶についての理解(実施前後) 受講者 1.私の記憶力は、 2.自分の記憶の特徴を理解している 3.どんな時に自分の記憶が良く/悪くなるか分かっている 4.自分の記憶力を信頼している 5.自分がどんな時に物忘れしやすいか分かっている 6.自分の記憶をさらに良くしていけると思っている 7.自分の記憶は良くなっていると思う 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 A 3 3 4 3 4 3 4 4 4 4 3 5 3 3 B 2 4 4 4 4 4 2 4 4 5 4 5 2 2 C 1 2 3 4 4 4 3 2 4 5 2 2 2 2 D 2 2 5 5 2 5 1 2 2 5 5 4 3 4 E 2 2 1 4 1 1 1 1 1 1 5 5 2 2 F 3 4 4 4 2 4 1 3 4 3 5 3 3 3 回答方法(いずれも5つから選ぶ) 問1.  1=とても悪い、2=悪い、3=普通、4=良い、5=とても良い 問2~7.1=全く思わない、2=あまり思わない、3=どちらでもない、4=ややそう思う、5=そう思う ※1~3が4~5に変化した項目を塗りつぶしている。 表4 学習カリキュラム全体の感想(自由記述) 記憶に関する知識 記憶の種類や方法の分類が学べてよかったですが、グループワークの初期の記憶が弱くなっているのを感じます。つまり、保持(長期記憶)が悪くなっていると感じます。(Eさん) 記憶がよくないときがあることがわかった。(Fさん) 記憶の補完手段 スマホを記憶の道具として使用していこうと思った。(Aさん) 記憶の保持にはいろいろな技があることが分かりました。ゆっくりといろいろ試してみたいと思いました。(Bさん) 全体を通して自分に合った方法でリマインダーを活用したいです。名前を覚えるのが苦手なので、関連付けて覚えるようにしたいです。(Dさん) 物を落としてしまうことがあったが、対処がわかった。(Fさん) 記憶に良い生活習慣 睡眠、食事、運動全てのことが記憶に関係していることが分かったので、さらに生活の中に活かしていこうと思った。(Aさん) 睡眠やストレスをうまくとっていかなくてはと思いました。(Cさん)    イ 補完手段の利用状況  記憶の補完手段の利用状況を把握するアンケートでは、補完手段の使用頻度と、使いやすさと使用した効果に対する認識を確認しています。  受講者6名のアンケート結果について、【使用頻度】「毎日」を3点、「週1回」を2点、「たまに」を1点、「使用なし」を0点、【使いやすさ】「簡単」を2点、「普通」を1点、「難しい」と「使用なし」を0点、【効果】「○(あった)」を2点、「△(どちらともいえない)」を1点、「×(なかった)」と「使用なし」を0点と置き換えて、1項目あたりの平均を算出した結果は表5のとおりです。  使用頻度、使いやすさ、効果ともに実施後に向上し、使用頻度が最も向上したのは内的ストラテジー、使いやすさと効果が最も向上したのは外的補助具(電子機器以外)でした。特に大きく変化したのは「物理的リマインダ」で、実施前は1名が「週1回」使っているだけでしたが、実施後は3名が「毎日」、2名が「週1回」使うようになったと回答し、それに伴って、使いやすさ、効果ともに向上しています。  アンケート結果からは、学習カリキュラムを受講することにより、補完手段を活用する頻度が増え、容易に使えるようになり、効果も感じているという傾向がうかがえます。 表5 補完手段の利用状況(実施前後) 実施前 実施後   頻度 使いやすさ 効果 頻度 使いやすさ 効果 内的ストラテジー 1.11 0.81 0.92 1.61 1.00 1.25 外的補助具(電子機器以外) 1.22 0.67 0.35 1.45 1.16 1.37 外的補助具(電子機器) 0.80 0.58 0.73 1.01 0.85 0.89 集計方法 【使用頻度】  毎日:3点、週1回:2点、たまに:1点、使用なし:0点 【使いやすさ】 簡単:2点、普通 :1点、難しい:0点、使用なし:0点 【効果】    ○ :2点、△  :1点、×  :0点、使用なし:0点 回答を上記の数値に置き換え、1項目あたりの平均を算出した。 ※頻度、使いやすさ、効果それぞれで最も変化が大きかった項目を太字ゴシック体で表記した。 (5) プログラム中の行動観察  プログラム全体を通じて行った行動観察では、例えば、身体的な後遺症のために書字に負担感があり、外的補助具(電子機器以外)の使用に難しさを感じていた受講者が、それまで使えていなかったスマートフォンのメモ、リマインダー等のアプリを使ってスケジュール管理を行うようになるといったエピソードが見られました。行動観察の実際については、次項の事例紹介において示します。  宿題の実施状況を見ると、第1回の宿題については、6名のうち5名が2つの宿題のうち1つを忘れていましたが、第2回以降は、カリキュラムで紹介した補完手段を活用するなどにより、全員が宿題を忘れずに実施できるようになりました。宿題を忘れずに行うために活用した補完手段は、手帳やふせんへのメモ、スマートフォンのメモアプリやカレンダーアプリの活用といったものが多かったですが、ふせんに書いてスマートフォンやプログラム時に座る自席の机に貼り付ける(物理的リマインダ)、配付資料の「宿題」をまとめたページをスマートフォンのカメラで撮影してお気に入りに登録する、といったように、学んだことをもとに自分で工夫を凝らして対処する受講者もいました。  3 事例紹介  (1) 事例1(電子機器を外的補助具として活用するようになった事例)  ア 対象者の概要  Aさんは50歳代の男性です。在職中に脳梗塞により高次脳機能障害を受障し、一度は職場復帰したものの脳梗塞が再発し、休職期間が満了したため退職しました。その後、地域センターでの相談を経て就職プログラムを受講しました。学習カリキュラムに参加したのは、1回目の脳梗塞の発症から1年11か月後でした。  プログラム開始にあたり医療機関から提供された情報によると、身体障害として両側麻痺による移動能力の低下、両上肢の巧緻性低下、発語不明瞭が(身体障害者手帳4級)、高次脳機能障害として短期記憶障害と注意力低下がみられ、就労にあたっては、代償手段の獲得と作業内容・就業時間の配慮が必要とされていました。基本的な日常生活とスケジュールは自己管理可能で、就労への意欲は高く、病識については改善傾向と記載されていました。  イ 学習カリキュラム受講前の状況  Aさんは、就職に向けた自身の課題について「体力、運動機能の低下と注意障害、話しにくさ」と話され、医療機関で指摘されている「短期記憶障害」は意識していない様子でした。また、生活健忘チェックリストの結果は21点で、記憶障害の自覚はあまりありませんでした。しかし、生活健忘チェックリストの回答状況を詳細に確認すると(表6)、「机にしまった書類の処理を忘れ溜め込んでしまった」「相談時に約束した事柄(他機関に相談の予約を入れるなど)をし忘れる」といった、記憶障害に関連するエピソードは時々あるようでした。  また、プログラム受講中の様子でも、とっさに言われた事柄を忘れる、手帳に書いたスケジュールをなかなか見つけられないといったエピソードが観察されました。  学習カリキュラムの実施前に行ったRBMTでは、スクリーニング点は10点と年齢群のカットオフ値を上回り、客観的な指標のうえでは記憶障害はないとの結果でしたが、標準プロフィール点は21点とボーダーラインでした。  なお、プログラムでは、注意障害からくる見落としや記入漏れなどの作業ミスと、易疲労による集中力や作業耐性の課題が大きかったため、まずは作業課題プログラムを通じてそれらの課題に重点的に取り組むこととなりました。 表6 生活健忘チェックリストの回答状況(Aさん) 全くない ●昨日あるいは数日前に言われたことを忘れており、再度言われないと思い出せないことがある。 ●前日の出来事の中で、重要と思われることの内容を忘れていることがある。 ●一度、話した話や冗談をまた言うことがある。 ●直前に言ったことを繰り返し話したり、「今、何を話していましたっけ」などと言うことがある。 ●以前、行ったことのある場所への行き方を忘れたり、よく知っている建物の中で迷うことがある。 時々ある ●つい、その辺りに物を置き、置いた場所を忘れてしまったり、物を失くしたりすることがある。 ●物がいつもしまってある場所を忘れて、全く関係のない場所を探したりすることがある。 ●ある出来事が起こったのがいつだったかを忘れていることがある。 ●必要な物を持たずに出かけたり、どこかに置き忘れて帰ってきたりすることがある。 ●自分で「する」と言ったことを、し忘れることがある。 ●以前に会ったことのある人たちの名前を忘れていることがある。 ●誰かが言ったことの細部を忘れたり、混乱して理解していることがある。 ●何かしている最中に注意をそらす出来事があった後、自分が何をしていたか忘れることがある。 ウ 学習カリキュラムの受講状況  Aさんは休むことなく、6セッション全てに参加しました。  実施前のアンケートでは、自分の記憶力を「普通」と評価し、このカリキュラムで身につけたいこととして「道に迷うことが多いのでうまく覚えられたら助かります」と記入しました。補完手段の利用状況等についてのアンケートでは、内的ストラテジー(記憶の技)の使用頻度は低く、外的補助具(記憶の道具)はメモが中心で、スマートフォンなどの電子機器についてはアラームやカメラ、マップアプリをたまに使用する程度とのことでした。 <第1回>  はじめに行う自己紹介において、記憶で改善したいこととして「メモをして忘れないようにすることを大事にしたいなと思います」と話し、記憶の主たる補完手段は手帳・メモであることがわかりました。一方、「書くのが苦手なので、スピードについていけない」とも話し、メモだけではうまくいかないと感じることもある様子でした。また、意見交換の中で若い受講者がスマートフォンを記憶の補完手段として活用していることを聞き、セッション終了後の感想シートには「スマートフォンをうまく使いこなしたい」と記入し、電子機器の活用に関心を示されました。  イラストを見て10個の物を覚える練習では、「チャンキング」の技を使ってうまく記憶していましたが、「(グループ分けから)漏れると覚えきれなかった」と感想を述べ、記憶の技を使う実感は持てたようでした。また、感想シートには「記憶することが苦手なこともあるので挑戦したい」と記入し、記憶障害への理解や記憶の課題に取り組む意欲を示しました。 <第2回>  第1回の宿題のうち「10個の物を覚える」課題は、「チャンキング」の技を使い、「夏のイメージ(海、セミ、金魚、麦わら帽子)」で複数のものを効率よく覚えることができたとのことでした。「身の回りの環境を改善する」宿題については、洋服などを片付けたと報告しました。  第2回の重要な内容である「メモの使い方」について、セッション後の感想シートには、他の受講者が紹介した「大切なところは目立たせる(色や囲みをつける)」ことについて特記し、受講者同士の意見交換がより理解を深めたと思われました。また、Aさんの気づきを強化するため、その後の作業課題プログラムや個別相談において、メモを取る際に重要点を目立たせることや色ペンを持ち歩くことなどについて繰り返し助言しました。  「道順を覚える」の練習(ミニ・ウォークラリー)では、「自分は道を覚えられない」と消極的な発言がありましたが、「練習を自分なりにやってみると勉強になると思った」と感想シートに記入があり、個別相談で確認したところ、セッションで紹介した「下見をして目印を覚えておく」「地図を描く」といった対処は効果がありそうなので今後も実施したいと話しました。そこで、「前の職場までの道のりを説明する」という課題を設定し、道順を覚えるポイントを復習しました。Aさんが描いた地図は、曲がり角が矢印で示され、金融機関や商店、信号機、通りの名称といった一般的な情報だけでなく「赤い看板」といったように目印の特徴も記入されていてわかりやすい地図でしたので、ポイントを押さえていることをフィードバックしました。   <第3回>  第2回の宿題「生活に運動を取り入れる」「過去の写真を持ってくる」「スケジュール帳をもってくる」は、全て忘れず行うことができました。  第3回は、展望記憶を補完する外的補助具を取り上げました。意見交換の中で、Aさんは、スケジュール帳の例として「ポケットに入る大きさの手帳を使っている」と他の受講生に紹介しました。また、薬を飲み忘れないために自身が活用している補完手段として、「薬をテレビの下の台に置くようにしている」と物理的リマインダを挙げました。一方、外的補助具としてスマートフォンのカレンダーアプリを使っている受講者の話を聞いて、「スマートフォンをもっとうまく使いこなせるといいと思いました」と感想シートに記入しました。  第3回の宿題を、Aさんは手帳のカレンダーに記入しましたが、他の受講者がスマートフォンのカレンダーアプリやカメラアプリに入力する様子を見て、スマートフォンに対する関心が一層高まったようでした。 <第4回>  第4回の重要な内容は、スマートフォンをはじめとした電子機器を外的補助具として活用することです。スマートフォンの操作に不慣れなAさんも、支援者が個別にサポートしながら、自分のスマートフォンを使って、アラームやカメラ、カレンダーなどの機能を体験する練習を行いました。  感想シートには、「記憶の道具として電子機器を使ってみたい」、具体的には「カレンダーアプリに日付と内容等を記入する」と記入しました。 <第5回>  第4回に課した宿題「スマートフォン等の電子機器の新しい機能を使う」では、スマートフォンのカレンダーアプリを試しました。宿題の実施報告では、「その日に必要なものを全部入れられる。開いた時にすぐに出てくるから忘れない」と感想を話し、情報が一元管理できる便利さを実感した様子でした。さらに個別相談で確認したところ、「いつも手元にあって、すぐに見たり登録したりできる点が便利だと感じた」とのことで、電子機器活用の利点を体験できました。  内的ストラテジー(記憶の技)を使って人の名前を覚えるモジュールの練習では、3人のうち2人の名前は難なく覚え、残り1人は関連付け(知っている著名人と同じ名前)を用いて覚えました。感想シートでは、今後も使いたい内的ストラテジー(記憶の技)として「関連付け」を挙げました。   <第6回>  第5回の宿題のうち、「翌日に担当カウンセラーあてに電話をかけ、自分の名前と電話した時間、グループワークで一番役立ったことを伝える」という課題は、手帳のスケジュール欄に記入して実施できました。もう一つの「睡眠日誌をつける」課題は、用紙を机の引き出しに入れたまま忘れてしまい、スタッフが前日に声をかけたことで思い出しました。受講前にも「机にしまった書類の処理を忘れ溜め込んでしまったことがある」と話しており、目につかないところに片付けると処理を忘れがちになることが明らかになりました。  第6回では、クイズ形式で第1回から第5回の内容を復習しました。今後、どのような記憶の技や道具を使いたいかたずねると、「スマートフォンをもっと使いこなせたら便利だと思いました」と話し、習得のためにどうしたいかたずねると、他の人の意見に同調する形で「1日1回、無理やりでも使ってみたら覚えられるかなあ」と意欲を示しました。また、記憶に良い生活習慣を維持していくことについては「難しいですね」と苦笑いしていました。 <結果>  学習カリキュラム実施前と実施後の記憶の補完手段の利用状況等についてのアンケートの結果は、表7のとおりです。  内的ストラテジーについては、実施後に使用頻度が高まり、それに伴って難易度も「難しい」から「普通」に変化し、学習カリキュラムを受講した結果、内的ストラテジーを意識して使用するようになったことがうかがえます。  外的補助具については、実施前は電子機器以外に偏っていましたが、実施後は、電子機器の活用が進みました。電子機器で活用している機能は限られていますが、プログラムの中でメモアプリやカレンダーアプリを毎日使用し、簡単に操作できるようになった様子が観察されました。また、電子機器以外の項目についても、難易度や効果に対する認識の向上が明確になっています。  客観的指標であるRBMT(標準プロフィール点)は、実施前21点、実施後20点とほぼ横ばいでした。また、主観的指標のうち、生活健忘チェックリストは実施前21点、実施後17点とやや改善、PCRSは実施前116点、実施後118点とほぼ横ばいで、数値的な変化はあまり見られませんでした。ただ、記憶の理解に関するアンケートでは、「自分の記憶をさらに良くしていけると思っている」という質問で、「あまり思わない」と答えていたのが「そう思う」と変化しました。スマートフォンという新たな記憶の道具を得て、記憶の課題を改善できることに期待を持ったものと考えられます。 表7 記憶の補完手段の利用状況を把握するアンケート(Aさん) エ 就職プログラム終了後の様子  Aさんは就職プログラム終了後に、ある事業所で職場実習を行うことになりました。職場実習の打合せの日程をお伝えしたところ、スマートフォンを取り出してスケジュールアプリを起動し、入力しはじめました。Aさんはタイトルや場所といった文字情報は難なく入力できましたが、開始時刻と終了時刻の入力でつまずいていました。支援者が操作方法を伝えながら時刻を設定し、スケジュールを登録したあと、追加情報として、場所をタップすると地図アプリと連動して経路や所要時間を表示できること、また、あらかじめ設定しておけば予定を知らせてくれることなど、さらに便利な機能を説明しました。  最終日に書いたプログラム全体の感想文には、「グループワークで教わった記憶に関する技を使用しながら、仕事や生活にも使用していこうと思いました」と記載し、学習カリキュラムの受講を通じて、補完手段の活用に対する意識が高まったことがうかがえました。  Aさんは3週間の職場実習を行いました。職場実習期間中、就業時間や職務範囲を段階的に設定する配慮を得て、再就職することができました。現在は、地域センターのジョブコーチ支援事業を活用しながら、就業時間や職務範囲を順次拡大することとしています。  オ 考察  Aさんは、学習カリキュラムの受講前では、記憶の補完手段として主に手帳などの紙媒体の外的補助具を活用し、電子機器はほとんど活用していませんでした。電話の着信音が鳴らないように設定するのに苦労するほどスマートフォンの操作に不慣れであり、手帳などの活用により宿題の多くを実施できていたことから、支援者としても当初は電子機器の使用を積極的に勧める予定はあまりありませんでした。  ところが、学習カリキュラムを通じて、外的補助具としてのスマートフォンの活用を前向きにとらえ、Aさんは意欲的に取り組んでいきました。これは、意見交換で他の受講者から活用効果について話を聞いたことや、練習や宿題を通じてスマートフォンの使用を体験したことが影響したと考えられます。  しかし、Aさんが学習カリキュラムに参加したのは就職プログラムの終盤であったため、新たな外的補助具を活用しはじめたところで支援期間が終わってしまいました。補完手段の活用が定着するには個別支援をあわせて行うことが重要であり、学習カリキュラムをプログラムの早期に実施することや、プログラム後の支援を担う地域センターに支援を適切に引き継ぐことなど、個別支援への移行を含めた計画的な支援を行う必要があると考えられました。 (2) 事例2(補完手段への意識づけが高まった事例) ア 対象者の概要  Bさんは50歳代の男性で、大学卒業後に現在の会社に就職し、経理業務を担当していました。センターを利用する1年3ヶ月前にくも膜下出血(合併症として脳梗塞、水頭症を発症)のために高次脳機能障害を受障し、休職に入りました。  復帰プログラム開始にあたり、医療機関から提供された情報によると、Bさんは身体機能には問題がなく、高次脳機能障害として、記憶障害、注意障害による同時課題遂行困難、左半側空間無視があり、これらについて、「上記について障害理解はあるが、自己修正は困難」と記載がありました。また、高次脳機能障害により精神障害者保健福祉手帳3級を取得していました。  人当たりが良く真面目な性格で、上司からは受障前の仕事ぶりを「ミスはめったになく、ほとんど完璧」と評されていました。受障前と比べて真面目、温和といった性格に変化はありませんが、記憶障害、注意障害のために物忘れやケアレスミスが多発するようになっていました。特に記憶障害の影響は大きく、日常生活場面では食べたばかりの食事メニューを思い出せない、リハビリの予定が変更になったことを忘れて日程を間違える、といった課題がありました。そのため、Bさん、事業主、支援者の三者で復職に向けた相談を行う中で、職業センターを利用してこれらの課題についての対処方法を検討していくこととなりました。 イ 学習カリキュラム受講前の状況  Bさんは自身に記憶障害があることは理解しており、対処方法として常にメモを持ち歩いて記録する習慣を身につけていました。ただし、メモをどこに書いたか分からなくなったり、メモを見忘れたりすることがあり、例えば職業センターに提出する書類について、メモを取っていても持参することを2日続けて忘れることがありました。  カリキュラムの開始前に行ったRBMTの結果では、標準プロフィール点は14点、スクリーニング点は5点であり、40~59歳のカットオフ値を下回り、中等度記憶障害に相当する結果でした。 ウ 学習カリキュラムの受講状況  Bさんのカリキュラムの受講状況、個別相談の内容や記憶障害とその補完手段に関係するエピソードについて概要を述べます。 <第1回>  Bさんは、カリキュラムによる到達目標について「記憶の悪くなっていることを自覚し、どうすれば忘れないようになるか、思い出せるか学びたい」と述べています。実施前アンケートでも、自身の記憶力を5段階評価で2と低く評価していました。一方で、「自分の記憶の特徴を理解している」「自分がどんな時に物忘れをしやすいか分かっている」という項目は5段階評価で4と評価し、記憶障害に対する自己認識は進んでいる様子も見られました。  内的ストラテジーを使って「10個の物を覚える」練習では、1回目は10個中5個、2回目は10個中4個と苦戦する様子が見られました。なお、他の受講者は概ね1回目で10個中7~9個、2回目は全員1回目を上回る結果となっています。練習後に結果を共有することはしませんが、Bさんは周囲の反応やその後の受講者同士の会話から、自身の記憶の苦手さを改めて自覚するとともに、外的補助具を使って記憶を補う必要性を感じたようでした。この回の感想シートの中で、「記憶には限界があるので、何か道具を活用したい」と振り返っています。 <第2回>  第1回の宿題のうち、「10個の物を覚える」課題については、「10個の物が描かれたプリントをスマホで写真に撮り、行き帰りの電車の中で見て覚えるようにした」とのことでした。結果は10個中5個と、第1回の練習とあまり変わりませんでしたが、宿題そのものは覚えていました。一方、「身の回りの環境を改善する課題は忘れていた」とのことでした。  第2回の主な内容であるメモについては普段からある程度使えており、練習のミニ・ウォークラリーの中でも言われた問題を確実にメモしてチェックポイントをクリアできていました。一方で、隠れチェックポイント「作業室Aの床はどの色だった?」といった、事前の指示事項がなくメモが取れない、注意機能を必要とするような記憶課題への対応は苦手としていました。ただし、この時にペアになった方がコースの中の場面を写真で記録していたことでこの問題に答えることができ、外的補助具として写真を使う有効性を実感されました。  第2回の感想シートには、「携帯のカメラを使っていきたい」「なかなか覚えているということが難しいので、写真を撮ることを覚えていきたい」と記入されていました。   <第3回>  第2回の宿題であった「生活に運動を取り入れる」「過去の写真を持ってくる」「スケジュール帳をもってくる」は全て行うことができており、今回は宿題を忘れることはありませんでした。  第3回では、時差再生課題を行った際、出された問題を配付資料にメモしましたが、後からどこにメモを取ったのか分からなくなってしまい、上手く参照できなかったことがありました。この時は提示された写真を見て「確かこのような問題だった」と思い出すことができ、問題に正解することができました。ただし、この課題を通してメモをどこに取るか決めておかないと分からなくなってしまうことを認識し、この回の感想シートには「いろいろな道具を使うとどこに書いたかわからなくなってしまうので、これに記入すると1つに決めておくこと。ただ、手で書くということは続けておきたい」と記入されています。 <第4回>  第3回の宿題のうち、「脳に良い食品を食べる」「月曜日に担当のカウンセラーに電話をかける」はどちらもできていました。なお、宿題を覚えておくための補完手段は「自分のスマートフォンにふせんを貼っておく」という物理的リマインダを活用する方法でした。  第4回はスマートフォンのアプリの紹介が中心であり、Bさんとしてはある程度は使っているものの若い方のように使いこなしているという感覚がなく、戸惑いもあるようでした。この回の感想にも、「スマホ利用は有効と思っているが、どのように使うべきか、今一つしっくりきていないので、使うことに抵抗感がある」と記載されていました。これまでの仕事の中でも手書きのメモやスケジュール帳に慣れていたこともあり、個別相談の中では自分の使いやすい道具を使って予定管理ができればよいことを伝えましたが、Bさん自身がスマートフォンの有効性に関心があったことから、スマートフォンのカレンダーアプリを使った予定管理を試してみることとなりました。 <第5回>  第4回の宿題「次回のグループワークまでに何か新しいアプリを試してみる」については、先述のとおりスマートフォンのカレンダーアプリを試してみました。予定を漏れなくアプリに記入することができており、またスケジュールごとに色分けなどもなされているなどの工夫もあり、本人としても使いやすいと感じられたようです。  第5回の人の名前を覚える練習では、Bさんは第1回での物の名前を覚える練習で苦戦していたこともあり、覚える人数を3人に減らし、覚えるのは下の名前のみ、と難易度を下げて実施しました。結果として3人全員の名前を覚えることができており、感想シートでは今後使っていきたい内的ストラテジーとして「関連付け」を挙げていました。 <第6回>  第5回の宿題について、「睡眠日誌をつける」という課題については忘れていました。もう一つの「翌日に担当カウンセラーあてに電話をかけ、自分の名前と電話した時間、グループワークで一番役立ったことを伝える」という課題については、前回の電話の課題と同様に「自分のスマートフォンにふせんを貼っておく」という外的補助具の活用で正確に行うことができていました。睡眠日誌の課題についてはふせんやメモ等に書くことを忘れてしまったということで、外的補助具を使って記憶を代償しないと忘れてしまうことを再認識することとなりました。 <カリキュラム結果>  実施前と実施後の記憶の補完手段の利用状況等についてのアンケートの結果は、表8のとおりです。   表8 記憶の補完手段の利用状況を把握するアンケート(Bさん)  実施前と実施後を比較すると、実施前には全体的に簡単で効果があると思っていた内的ストラテジーが、実施後は使用頻度が低下し、また効果もあまり感じられないという認識に変化しています。逆に、実施前はあまり効果を感じていなかった外的補助具については、簡単に使うことができるようになり、効果も感じられるようになっています。これは、セッションの中での練習などを通して自分自身の記憶力が低下していることを実感するとともに、記憶を補うために外的補助具が必要であることを改めて理解したためと思われます。  外的補助具に関しては、メモやチェックリストの使用頻度は下がっていますが、これは第3回の感想にあったように、記入する道具をできる限り一本化することで間違いなく参照できるようにするためです。スマートフォンのアプリについては、セッション中にいくつかのアプリを体験してみたことで使いやすさや効果を整理することができました。 エ 学習カリキュラム終了後の様子  カリキュラム終了後もBさんに「復職に向けた事業主との打ち合わせ会議のための資料を月曜日までに作ってくる」などの宿題を何度か出しましたが、いずれもスケジュール帳やスケジュールアプリを活用して忘れずに行うことができました。  復職に向けた打ち合わせ会議で事業主に提出した自身の障害の特性をまとめた資料の中では、「記憶が継続しない症状があり、メモやふせんなどを活用して記憶を代償する方法が有効である」ことを伝えました。また事業主にお願いしたい配慮事項として、「メモを取りやすいようにゆっくり話してもらうこと」、「可能な範囲で指示書やメール等の文字に残る形で指示を出してもらうこと」をお願いしました。こうした対処方法や配慮事項はBさん自身で考えたものであり、Bさんの障害の自己理解や補完手段の習得が進んだことがうかがわれました。  プログラム終了後Bさんは復職しましたが、復職後は新型コロナウイルス感染症対策のために所属部署全体が在宅勤務中心に切り替えられ、原則業務指示は部署全体にメールで来ることとなったため、やるべきことを忘れることなく業務を遂行できているということでした。    オ 考察  Bさんはカリキュラムの開始時には、自身に記憶障害があり、メモなどの補完手段が必要なことを理解していました。また、第2回の感想で「なかなか覚えているということが難しいので、写真を撮ることを覚えていきたい」と述べているように、補完手段の活用が重要であるという認識を持っていました。  そのため、カリキュラムの中で練習や宿題を通して様々な補完手段を試すことに前向きであり、また、当初は抵抗感を持っていたスマートフォンの活用についても、実際に試してみて効果があると感じると積極的に取り入れることができていました。また、写真やスマートフォンの活用については、他の受講者が使っている場面を見てその効果を実感した経過があり、他の受講者との意見交換や観察学習ができる小集団形式のカリキュラムであったことが、Bさんの補完手段の習得に有効だったと考えられます。   <参考文献> 1) 中島恵子、坂本一世、水品朋子、本田哲三『記憶障害患者へのグループ訓練の試み』,「認知リハビリテーション」(2001),pp.58-65. 2) 高塚美貴、山崎文子『記憶障害者を対象としたグループ訓練の試み』,「作業療法22」(2003),pp.243-252. 3) 川上昇八、中島恵子『高次脳機能障害者への認知リハビリテーション―注意と記憶障害のグループ訓練―』,「九州ルーテル学院大学発達心理臨床センター紀要第6号」(2007),pp.65-73. 4) Withiel TD, Wong D, Ponsford JL, Cadilhac DA, et al “Comparing memory group training and computerized cognitive training for improving memory function following stroke: A phase II randomized controlled trial” Journal of Rehabilitation Medicine (2019), pp.343-351. 5) 障害者職業総合センター職業センター『高次脳機能障害者のための「職業リハビリテーション導入プログラム」の試行実施状況について~3年間の取組を通して~』,「実践報告書No.28」(2015) 6) 障害者職業総合センター職業センター『高次脳機能障害者に対する支援プログラム~家族支援の視点から~』,「実践報告書No.21」(2008) 7) Kylie Radford, Miranda Say, Zoë Thayer and Laurie Miller “Making the Most of Your Memory”ASSBI Resources (2010) 第5章 まとめと今後の課題 1 今回の取組みのまとめ  退院後の高次脳機能障害者に最も多く見られる症状は記憶障害であり、地域センターがジョブコーチ支援を実施した高次脳機能障害者の調査においても、記憶障害は6割以上の方に見られました。作業遂行上の問題点についても、作業手順の定着など記憶に関連する項目は上位であり、高次脳機能障害者の就労支援において記憶障害に関わる課題は大きいと言えます。  この度、職業センターでは、2010年にオーストラリアで開発された記憶障害に対する学習カリキュラム「Making the Most of Your Memory」とこれに基づく医療機関Epworth Health Careにおける実践をもとに、職業センターがこれまでに技法開発した教材も活用し、1回120分×6セッションからなる記憶障害に対する学習カリキュラムを作成し、試行実施を行いました。  この学習カリキュラムは、記憶のメカニズムなどの知識付与を行う「講義」、内的および外的補完手段を紹介する「記憶の補完手段」、記憶に良い生活習慣を紹介する「記憶に良い生活習慣」の3つのテーマと、セッション内に行う「練習」と「意見交換」、プログラム場面以外で行う「宿題」を含む包括的な構成が特徴です。  本試行のアンケート結果や事例検討からは、2つの効果が確認されました。1つは、スマートフォンを補完手段として活用しはじめたAさんのように、補完手段の活用が促進されたこと、もう1つは、復職に向けた打ち合わせ会議で記憶障害に対する具体的な配慮事項を自ら考えて述べたBさんのように、記憶障害に対する自己認識が促進されたことです。  その要因として、①「講義」だけでなく「練習」や「宿題」といった体験を通じて補完手段の有効性を認識できたこと、②プログラム以外の場面で記憶の補完手段を使う機会を設け、目的に合わせて自分が行いやすい補完手段を選ぶよう促したことが挙げられます。また、小集団形式で実施したことにより、他の受講者が補完手段を活用している場面を見るといった観察学習が進んだことや、他の受講者との意見交換の中で新しい情報を得て動機づけが高まったことも学習を促進した要因と考えられます。  ただし、客観的な指標である神経心理学的検査において実施前後で明確な変化はなく、また、試行事例はまだ小規模です。確認された2つの効果が長期にわたって維持されるかどうかも含め、今後のさらなる検証が必要です。    2 今後の課題  (1) カリキュラム構成とモジュール化について  本カリキュラムの課題としては、2時間のセッションが6回にわたり、情報量も多く、受講者や支援者にとって実施の負荷が比較的高いことが挙げられます。脳卒中治療ガイドライン2015には、記憶障害に対し、軽度の例では内的ストラテジーと外的補助具の活用訓練が勧められ、重度の例では生活に直接つながる外的補助具の使用が勧められるという記述があります。1)本カリキュラムは記憶に関わる情報を包括的に含むことが特徴であるため、重度の記憶障害の方に対しては、負担の軽減について考慮する必要があります。  そのため本試行では、カリキュラムの構成要素のモジュール化を行い、対象者の状況や支援機関の状況、活用目的等により適宜アレンジできるようにしました。ただし、オーストラリアの実践では包括的な構成がリハビリテーションとしての効果を生むとの考察があることから、カリキュラム構成やモジュール化については、さらに実践を積み重ね検討する必要があります。    (2) 個別形式での実施の試み  高次脳機能障害者の支援をグループワークなどの小集団形式で実施することの効果は、第2章で紹介した国内外の取組みのほかにも様々な報告があります。2)しかし、高次脳機能障害者の利用が少ない支援機関では、障害種を限定した小集団を形成することが難しいかもしれません。本試行では、1事例に対し個別形式での実施を試みました。  個別形式での実施にあたっては、受講者の個別の課題に応じた内容の変更を行いました。例えば、第4回の「電子機器を使う」では本人の個別課題の解決に役立つアプリを紹介しました。また、「ストレスが何だかよくわからない」との発言があったため、第4回の「ストレスと疲労」のモジュールの前に、職業センター発行の支援マニュアルNo.9「気分障害等の精神疾患で休職中の方のためのストレス対処講習」3)の教材を用いて、ストレスについて解説を加えました。その結果、受講者からは「教えてくれた○○(アプリ名)が役立っている」「ストレスについてよく理解できた」などの感想が聞かれ、その後、紹介したアプリを作業場面で活用する効果がみられました。  一方で、個別形式では、同じ立場の方の意見を聞く機会や同じ立場の方が補完手段を活用する場面を見る機会がなく、小集団形式がもたらす効果が得られず学習効果が下がると思われました。そこで本試行では、小集団形式による効果が少しでも保たれるよう、支援者が以前の受講者の事例や意見を紹介しながらカリキュラムを実施しました。  個別形式による実施は1事例に留まっており、今後も事例を蓄積し、工夫を重ねながら、より効果を高めるための方法を検討する必要があります。 <参考文献> 1) 日本脳卒中学会脳卒中ガイドライン委員会(編)「脳卒中治療ガイドライン2015」,株式会社協和企画(2015),pp.309-310. 2) 障害者職業総合センター『精神障害者等を中心とする職業リハビリテーション技法に関する総合的研究(最終報告書)』,「調査研究報告書No.57」(2004),p.189 3) 障害者職業総合センター職業センター『気分障害等の精神疾患で休職中の方のためのストレス対処講習』,「支援マニュアルNo.9」(2013) 参考 資料集 ① 学習カリキュラムの一覧表 ② 記憶の補完手段の利用状況等についてのアンケート(実施前・実施後) ③ 学習カリキュラム資料(第1回~第6回) ④ 感想シート(第1回~第5回) ⑤ 記憶の技・道具の活用チェックリスト ※ 巻末の記録メディアに電子データを収めています。あわせてご覧ください。 グループワーク -記憶障害に対処する-  内容一覧 第1回 講義 『記憶のステップ』 ・記銘―保持―想起 補完手段 ①『複数の物を覚える』 ・記憶の技 □繰り返し □関連付け □チャンキング ②『記憶の道具』 ・記憶の外的補助具の紹介 生活習慣 『身の回りの環境を変える』 ・環境が記憶に及ぼす影響 第2回 講義 『脳と記憶』 ・記憶に関連する脳の部位 補完手段 ①『メモの使い方』 ・記憶の道具 □メモ ②『道順を記憶する』 ・記憶の道具 □メモ ・メモの練習とマッピングのポイント 生活習慣 『運動の重要性』 ・運動が脳と記憶に及ぼす効果 第3回 講義 『記憶のプロセス』 ・どのように記憶されるのか 補完手段 ①『過去のことを思い出す』 ・記憶の技 □再認 □記憶の痕跡をたどる ・記憶の道具 □写真 ②『これからすることを覚えておく』 ・記憶の道具 □スケジュール帳 □ふせん □アラーム □物理的リマインダ 生活習慣 『食べ物と栄養』 ・食事が健康と記憶に及ぼす効果 第4回 講義 『ストレスと疲労』 ・ストレスと疲労が記憶に与える影響 補完手段 『電子機器を使う』 ・記憶の道具 スマートフォン  □メモ  □カレンダー  □リマインダー  □アラーム  □カメラ(写真)  □カメラ(動画)  □ ボイスメモ 生活習慣 『ストレスと疲労の管理』 ・リラクゼーションの方法 第5回 講義 『睡眠の重要性』 ・記憶のための睡眠の役割 補完手段 『名前を記憶するための方法』 ・記憶の技 □繰り返し □関連付け □総当たり(しらみつぶし) □精緻化 生活習慣 『睡眠を改善する方法』 ・良い睡眠を取るための工夫 第6回 第1回~第5回の復習 グループワークアンケート(実施前)         氏名:             1.私の記憶力は、 1 2 3 4 5 とても悪い 普通 とても良い 全く思わない あまり思わない どちらでもない ややそう思う そう思う 2.自分の記憶の特徴を理解している 3.どんな時に自分の記憶が良く/悪くなるか分かっている 4.自分の記憶力を信頼している 5.自分がどんな時に物忘れをしやすいか分かっている 6.自分の記憶をさらに良くしていけると思っている 7.自分の記憶は良くなっていると思う 8.記憶や記憶の補完手段に関して、グループワークを通して身につけたいと思っていることについて教えてください。(自由記述) グループワークアンケート(実施後)         氏名:             1.私の記憶力は、 1 2 3 4 5 とても悪い 普通 とても良い 全く思わない あまり思わない どちらでもない ややそう思う そう思う 2.自分の記憶の特徴を理解している 3.どんな時に自分の記憶が良く/悪くなるか分かっている 4.自分の記憶力を信頼している 5.自分がどんな時に物忘れをしやすいか分かっている 6.自分の記憶をさらに良くしていけると思っている 7.自分の記憶は良くなっていると思う 8.このプログラムは記憶の向上に役立っている 9.全体的に、私はこのプログラムに満足している 10.グループワークの感想について教えてください。(自由記述) グループワークアンケート(実施前・実施後)     氏名:              1.何か記憶を補助するための方法を使っていますか?        はい  ・  いいえ      2.記憶のための工夫(記憶術など)を何かしていますか?   解説を読み、使っている場合は頻度と使いやすさ、効果を記入してください。 名前 使用頻度 使いやすさ 効果(○△×) 毎日 週1回 たまに 簡単 普通 難しい 繰り返し チャンキング 記憶の痕跡をたどる 再認 関連付け 精緻化 <解説> 名前 内容 繰り返し 聞いたことを口に出したり頭の中で繰り返して覚えやすくする方法。 チャンキング たくさんのものを覚えるときに、似たものどうしでグループ分けをして覚えやすくする方法。 記憶の痕跡をたどる 何かを思い出すときに、そのとき起こったことや状況をふりかえっていく方法。(例:「家に帰ってきた時はスマホが見つからなかった。帰りに寄ったコンビニで使った覚えがあるから、その途中で落としたかも…」など) 再認 何かを思い出すときに、経験したかどうかイエスかノーで答えらえる形にして思い出す方法。(例:「昨日何を食べたか」を直接思い出すのではなく、「昨日カレーを食べたか」「魚を食べたか」と考えながら昨日食べたものを思い出す、など) 関連付け 新しいことを覚えるときに、何かと関係づけることで覚えやすくする方法。(例:初対面の人を覚える際、「有名人の○○さんと同じ名前だ」と関連付けて覚える、など) 精緻化 新しいことを覚えるときに、情報を深く、細かく知ることで覚えやすくする方法。(例:初対面の人を覚える際に趣味を聞く、など) その他に、何かご自身で使っている方法があったら教えてください。 3.記憶を補助するための道具を何か使っていますか?   使っている場合は頻度と使いやすさ、効果を記入してください。 (1)紙媒体など、電子機器以外のもの 名前 使用頻度 使いやすさ 効果(○△×) 毎日 週1回 たまに 簡単 普通 難しい メモ スケジュール帳 チェックリスト ふせん メモリーノート 物理的リマインダ 時計・アラーム (2)スマートフォン等の電子機器 名前 使用頻度 使いやすさ 効果(○△×) 毎日 週1回 たまに 簡単 普通 難しい メモ カレンダー リマインダ アラーム カメラ(写真) カメラ(動画) マップ 音声入力 ボイスメモ その他に、何かご自身で使っているものがあったら教えてください。 グループワーク 記憶障害に対処する 第1回

 グループワークの目的 記憶について知る 記憶の補完手段の習得 生活に役立てる


 (参考)高次脳機能障害者の職業上の課題点 高次脳機能障害の働き方の現状と今後のあり方に関する研究, 「記憶の補完手段」について 内的ストラテジー =「記憶の技」 ・語呂合わせなどの言語的関連付け、視覚イメージの利用など、情報を覚え、思い出しやすくするための記憶術 外的補助具の使用 =「記憶の道具」 ・メモリーノート、システム手帳、スマートフォンなどの、道具を使って記憶を補う方法。

 ※武田克彦編 高次脳機能障害のリハビリテーション 廣實真弓監訳 ワークブックで実践する脳損傷リハビリテーションを参考に作成
 ・国内外の研究から、記憶障害のリハビリテーションに効果が あるといわれています。 グループワークの構成 ・1回2時間×6回(6週間) ・「講義」「記憶の補完手段」「記憶に良い生活習慣」の3つのセクションから構成されています。 ・学んだ補完手段や生活習慣を、練習や宿題を通して身につけられるようにします。
 グループワークの構成 効果的に受講するために ・積極的、自主的に参加する ・他の人の発言は最後まで聞く ・人の良いところをほめる ・メモを取る習慣をつける ・宿題を忘れないように工夫する ・資料を繰り返し熟読する ・学んだことを日常生活で繰り返し実践する 自己紹介 ・私は・・・  私の名前は幕張太郎です。 ・私の記憶の強みは・・・  私の記憶の強みは、人の顔を忘れないことです。 ・私は・・・を向上したい  私は人の名前を覚える力を向上したいです。 本日の内容 1.記憶のステップ        【講義】 2.複数の物を覚える 【補完手段】 3.記憶の道具     【補完手段】 4.身の回りの環境を整える  【生活習慣】 講義① 講義 記憶のステップ 記銘-保持-想起 記憶のステップ ステップ1 記銘(encoding) ステップ2 保持(storage) ステップ3 想起(retrieval) 記憶のステップ ステップ1 記銘 ・情報を新しく覚えること ステップ2 保持 ・覚えた情報を持ち続けること ステップ3 想起 ・情報を正確に思い出すこと 記憶に影響するもの① ・記憶のしやすさは、次のような条件によって変わってきます。 ▶︎注意を払い続ける持続力  …注意が向いていないと覚えられない ▶︎覚醒レベル(エネルギー/疲労)  …疲れているとき、眠いときよりも、体調が良いとき、目がさえているときの方がよく覚えられる 記憶に影響するもの② ▶︎モチベーション  …好きなもの、興味があるものの方が覚えやすい ▶︎感情  …楽しかったこと、悲しかったこと、など   は記憶に残りやすい ▶︎感覚能力(視覚、聴覚) ▶︎脳の機能 意見交換 記銘(encoding) 保持(storage) 想起(retrieval) 1.最も得意なのはどの段階ですか? 2.最も苦手なのはどの段階ですか? 立ち上がってストレッチ! 補完手段①-1 補完手段 複数の物を覚える 記憶の技 「繰り返し」「関連付け」「チャンキング」 練習:複数の物を覚える① ・これから、10個の物のイラストを1分間お見せします。メモは取らずに覚えましょう。 ・1分経ったら、イラストに何があったか思い出して書き出してください。 記憶の技:「繰り返し」 「繰り返す」ことで記憶に残りやすくする方法 ▶︎聞いたことや見たことを頭の中で繰り返す ▶︎覚えたいことを口に出して繰り返す ▶︎話している人に同じ説明を繰り返すよう頼む ▶︎資料を繰り返し読む など 記憶の技:「関連付け」 その人/モノの情報を、知っている別のものと関連付けていく方法 ▶︎語呂合わせ ▶︎似たような名前で、特徴が似ている有名人 ▶︎同じ名前の知人 ▶︎名前から受ける印象 ▶︎関連するイメージ(音、におい、思い出、触感…) など 練習:「繰り返し」と「関連付け」
を使って人の名前を覚える ・最初の人は自分の名前を言い、同じ文字で始まる何か「好きなもの」を一つ挙げます。 ▶︎ 例:私の名前は「太郎」です。「たこ焼き」が好きです! ・次の人は、前の人が言った内容を繰り返した後で、自分の名前と「好きなもの」を言います。以降、同じように続けていきます。 ▶︎例:「たこ焼き」が好きな「太郎」さん。     私の名前は「花子」です。「ハイビスカス」が好きです! 記憶の技:「チャンキング」(グループ分け) ・情報をまとまりごとにグループ分けして、分かりやすくする方法 ▶︎同じ文字から始まることば ▶︎同じような色のもの ▶︎共通点のあるもの(食べ物、食器…) など 練習:複数の物を覚える② ・これから、10個の物のイラストを1分間お見せします。そのイラストにあるものをメモは取らずに覚えましょう。 ・イラストにあるものを、「記憶の技」を使って覚えてみましょう。 ・1分たったら、イラストに何があったか思い出して書き出してください。 意見交換 ◎「繰り返し」、「関連付け」、「チャンキング(グループ分け)」 ▶︎これらの補完手段を使ってみて効果はどうでしたか? 宿題:複数の物を覚える ・10個の物のイラストをお渡しします。繰り返しや関連付け、チャンキングなどの方法を使って覚えてきてください。 ・次回、何があったかを確認するテストを行います。 休憩 補完手段①-2 補完手段 記憶の道具 記憶の道具の紹介 誤解していませんか? ・脳を鍛えれば、物忘れはなくせる    ⇒そんなことはありません! ・メモや道具に頼ると記憶力が低下する    ⇒そんなことはありません! 「記憶の道具」の具体例 メモリーノート ホワイトボード 付箋(リマインダーとして) スマートフォン・タブレット



 記憶の道具が役に立つとき □少し先の予定を覚えるとき □記憶の技だけでは不安なとき □情報が多すぎるとき □自力で覚えるだけの時間が取れないとき □一度に複数のことをするとき
 記憶の道具がそれほど役に立たないとき… □道具を使う準備ができていなかったとき □道具に集中すると目の前のことがおろそかになってしまうとき □運転中など、道具の使用が適さないとき □職場に道具の持ち込みが禁止されているとき
 生活習慣① 生活習慣 身の回りの環境を整える 環境が記憶に及ぼす影響 こんな状況で大切なことを覚えられますか?
 覚えやすい環境づくりのポイント 
 ポイント 具体的な対策 過剰な刺激を避ける ・不要なものを机の上に置かない。 ・メモは見やすい場所に貼る。 雑音を減らす ・静かなスペースを確保する。 ・必要のないときはテレビやラジオを消す。 ・声を低くし、一度に一人ずつ話す。 整理整頓する ・棚、ボックス、引き出しなど、片付ける場所を決めておく。 適切な温度・湿度を保つ ・換気をする。 ・エアコン等で温度管理をする。 (環境省によれば、室温の目安は夏は28度、冬は20度  ※エアコンの設定温度ではなく、室温) 適切な明るさを保つ ・明るすぎる/暗すぎる環境は記憶には向かない。 宿題 ・身の回りの環境を改善するための方法を何か一つ考え、来週までに行ってみてください。 ・来週のグループワークでその内容を発表してもらいます。 第1回のまとめ ・記憶のメカニズムには3つの段階がある。 記銘(encoding) 保持(storage) 想起(retrieval) ・新しいことを覚えるために、「繰り返し」「関連付け」「チャンキング」などの記憶の技が使える。 ・記憶を補助するさまざまな道具がある ・自宅や職場の環境を整えることは記憶にも効果がある。 今後の対策 新しい職場で同僚の名前を覚えるとき、どのような方法が使えるでしょう? □繰り返し □グループ分けする –○○部の人たち、○○課の人たちのようにグループで覚える □名前について質問する(例:由来、ニックネームなど) □親しくなる –名前を忘れてしまっても、それ以外の細かいことを覚えているかもしれない
 第1回 宿題のまとめ 1.10個の物を覚える。 2.身の回りの環境を整える。 3.資料を読んで復習する。 次回持ってくるもの: □ファイル □筆記用具 次回の内容 ・脳と記憶 ・メモの使い方 ・道順を記憶する ・運動の重要性 次回  月  日  時~   グループワーク −記憶障害に対処する− 第2回 効果的に受講するために ・積極的、自主的に参加する ・他の人の発言は最後まで聞く ・人の良いところをほめる ・メモを取る習慣をつける ・宿題を忘れないように工夫する ・資料を繰り返し熟読する ・学んだことを日常生活で繰り返し実践する 前回の内容 1.記憶のステップ        【講義】 2.複数の物を覚える  【補完手段】 3.記憶の道具     【補完手段】 4.身の回りの環境を整える  【生活習慣】 宿題の報告 1.10個の物を覚える 2.身の回りの環境を整える 3.資料を読んで復習する 本日の内容 1.脳と記憶           【講義】 2.メモの使い方   【補完手段】 3.道順を記憶する   【補完手段】 4.運動の重要性       【生活習慣】 講義② 講義 脳と記憶 記憶に関連する脳の部位 脳の構造 脳の機能 記憶に関係する脳の部位① 記憶に関係する脳の部位② 立ち上がってストレッチ! 補完手段②-1 補完手段 メモの使い方 伝えられた情報を記憶する方法 記憶の道具:メモ メモを取る目的 ・仕事の進め方を覚える ・電話で聞いた内容を覚える ・会議や打合せの内容を覚える ・思いついたことを書き留める  …など 「聞いたことや考えたことを覚えておく」ため。  ⇒メモを取れる時間は短いことも多い メモを取るときの工夫 短い時間で書くために 単語や、短い文章で書く。漢字はひらがなにする。 記号や略語を使う(例:2月10日→2/10) 後で見やすいように 図や絵、表を使う。 大切なところは、囲み、下線などで目立たせる。 メモの例 メモを活用するための工夫 あれ? どこにメモしたかしら… せっかくメモを取っても、  「どこにメモしたか忘れてしまった」  「メモを見忘れてしまった」 とならないような工夫が大切です。 参考:「職業訓練実践マニュアル 高次脳機能障害者編Ⅰ~施設内訓練~独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 2017 メモを忘れないために ①メモを繰り返し見る習慣を身につける 「『朝礼前』と『休憩時間』にはメモを見る」など、決まった時間にメモを見る習慣をつける。 ②常にメモを携帯する。 右の写真のように、常にメモを見えるところに置いて作業することも有効。 宿題:スケジュール帳を持ってくる ・次回のグループワークの時に、今使っているスケジュール帳を持ってきてください。 ・普段メモリーノートを使っている方は、メモリーノートを持ってきていただければ大丈夫です。 休憩 補完手段②-2 補完手段 道順を記憶する メモの練習とマッピングのポイント 意見交換 ・道順を記憶するときに、どんな記憶の技や道具を使っていますか? 記憶の道具:メモ 道順を覚えるためのメモのポイント 記銘(encoding) 保持(storage) 想起(retrieval) ▶︎建物、駅、公園など目印になるもの ▶︎交差点や通りの名前 ▶︎○個目の信号を曲がる、などの数 を意識してメモを取ると良い。 練習:道順を覚える(ミニ・ウォークラリー) 【進め方】 1.チームに分かれます(2人1組)。 2.説明を聞き、メモを取ります。 3.指示されたコースを歩き、4つのチェックポイントを確認します。 4.クイズに答えます。 …隠れチェックポイントがあります! 練習:道順を覚える(ミニ・ウォークラリー) コース周辺の様子を「記銘」するための方法 ・注意深く周囲を見る ・目印になるものを探す ・五感をすべて使う ・言葉に出して繰り返す ・メモを取る ・地図を描く ・時々振り返って後ろを見る ・写真を撮る チェックポイント① 15:35発のバスは幕張本郷駅に何時に着くか チェックポイント② C-2の棚から「ナフ200Y」をとってくる チェックポイント③ 作業室Aの小部屋の数 チェックポイント④ ロッカーにかけてある袋の数 隠れチェックポイント① コース周辺のどこにあった? 隠れチェックポイント② 作業室Aにあった椅子はどっち? 隠れチェックポイント③ 作業室Aの床はどっち? 練習:地図を描く ・道順のおおまかなスケッチを描く ・入口、出口、曲がり角などの特徴のあるものを書き込む ・最後に、できる限り多くの要素を書き込む 道順を覚える まとめ ・道順全体を記憶しようとしない ・もう一度見たときに記憶を呼び起こすような特徴をピックアップする ・珍しいもの、カラフルなもの、変わったものを探す ・時々振り返って後ろを見ると、帰り道で迷いにくくなる 立ち上がってストレッチ! 生活習慣② 生活習慣 運動の重要性 運動が脳と記憶に及ぼす効果 運動のメリット 生活習慣病の予防 ●循環器疾患、糖尿病、メタボリックシンドローム、がん等の予防 メンタル不調の一次予防 ●気分転換 ●ストレス解消 免疫力の向上 ●風邪をひきにくくなる ※激しすぎる運動は逆効果なので、あくまで適度に。 自己効力感アップ ●健康的な体型を維持 出典:厚生労働省:「健康づくりのための身体活動基準2013 」(2013)、髙橋章郎、早坂智成「精神科作業療法 運動プログラム実践ガイドブック」メジカルビュー社(2017) 運動が記憶に及ぼす効果 直接的な効果 運動する 呼吸と心拍数が増える 脳の血流量が増える 脳に運ばれる酸素や栄養が増える 脳が活性化し、記憶しやすくなる ※このときに、脳に血液を送る血管の成長や、新しい脳細胞の成長を促す効果もある。 運動が記憶に及ぼす効果 間接的な効果 強いストレスや慢性的なストレスが続くと、コルチゾールというホルモンの分泌が増える。 ⇒コルチゾールの量が多すぎると、海馬にダメージを与えてしまう。 運動やリラクゼーションでストレスを軽減することで、海馬へのダメージを減らすことができる。 記憶に良い運動 激しい運動をすると、筋肉で酸素や栄養が消費されてしまうため、脳にあまり行かない。 ウォーキング、水泳などの激しすぎない有酸素運動が脳に多くの酸素と栄養を送るために効果的。 【Point1】運動習慣を持つ 運動習慣を定着させる5つのコツ (1)まずは、軽めの1日5分のウォーキングからスタート! ・1~2週間ごとに5分ずつ増やせば無理なく30分~40分まで増やせる! (2)いつも決まった時間に運動する ・「この時間は運動の時間」と体内時計が覚えてくれる (3)雨が降った時の対策を決めておく ・雨用の服を用意する/屋内運動に切り替える (4)記録をつける ・記録をつけると達成感アップ。歩数計の無料アプリもおすすめ (5)仲間をつくる・サークルに入る・レッスンを受ける ・仲間と励まし合って、楽しく頑張る気持ちになれる ・何か楽しめるスポーツのレッスンを受けることも定着のコツ 出典:功刀浩:『心の病を治す 食事・運動・睡眠の整え方』翔泳社(2019)p99 【Point2】生活の中で活動量を上げる ~やってみようプラス10 《国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所による研究結果》 ●今より10分多く体を動かすと、死亡リスク、生活習慣病発症、がん発症リスクを約3~4%低下させることが可能! ●プラス10を1年間継続すると、1.5~2.0kgの減量効果が期待できる 《安全のために》 □体を動かす時間は少しずつ増やしていく □体調が悪い時は無理しない □病気や痛みがある場合は、医師等に相談 出典:厚生労働省:「アクティブガイド-健康づくりのための身体活動指針」(2013) :厚生労働省ホームページ:「e-ヘルスネット-アクティブガイド-」   https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-01-002.html.html    【Point2】生活の中で活動量を上げる ~やってみよう立位生活 《厚生労働省:「e-ヘルスネット-身体活動とエネルギー代謝-」より 》 ●座位を減らして、立位または歩行運動などの日常生活活動を積極的に行うことも活動量を上げ、肥満予防につながるポイント! 出典:厚生労働省ホームページ:「e-ヘルスネット-身体活動とエネルギー代謝-」 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-02-003.html   宿題:生活に運動を取り入れる ・次回のグループワークまでの1週間、何かの運動を行ってみてください。 ・行った運動について、来週のグループワークで発表していただきます。 ・簡単な運動で構いません(数分~10分程度) 第2回のまとめ ・記憶には脳の多くの部分が関わっている ・ポイントを押さえたメモのとり方が重要 ・新しい道順を記憶しようとするときには、メモを取り、周囲のものに注意を払う ・運動は、脳の機能を向上させ、記憶の向上にも効果がある 今後の対策① メモの内容を後から忘れずに思い出すために、どのような方法が使えるでしょう? 毎日、決まった時間にメモを見る習慣をつける どこに何を書くかを決めておく 机の上に常にメモを開いておく 今後の対策② 新しい取引先に初めて訪問することになりました。道順を覚えておくために、どのような方法が使えますか? 目印になる建物などを聞く 地図を描く アプリを使う 道を尋ねる 宿題:写真を持ってくる ・「うれしかったこと、楽しかったこと」というテーマで、写真を見せながら話していただきます ・そのときの写真を1枚持ってきてください ・例:誕生日会、旅行、結婚式、など 第2回 宿題のまとめ 1.スケジュール帳を持ってくる 2.生活に運動を取り入れる 3.「うれしかったこと、楽しかったこと」の写真を1枚持ってくる 4.資料を読んで復習する 次回持ってくるもの ファイル 筆記用具 写真 スケジュール帳 次回の内容 ・記憶のプロセス ・過去のことを思い出す ・これからすることを覚えておく ・食べ物と栄養 次回  月  日  時~   グループワーク 記憶障害に対処する 第3回


 効果的に受講するために ・積極的、自主的に参加する ・他の人の発言は最後まで聞く ・人の良いところをほめる ・メモを取る習慣をつける ・宿題を忘れないように工夫する ・資料を繰り返し熟読する ・学んだことを日常生活で繰り返し実践する 前回の内容 1.脳と記憶           【講義】 2.メモの使い方   【補完手段 3.道順を記憶する   【補完手段】 4.運動の重要性       【生活習慣】 宿題の報告 1.スケジュール帳を持ってくる 2.生活に運動を取り入れる 3.「うれしかったこと、楽しかったこ   と」の写真を1枚持ってくる 4.資料を読んで復習する 本日の内容 1.記憶のプロセス          【講義】 2.過去のことを思い出す 【補完手段】 3.これからすることを覚えておく【補完手段】 4.食べ物と栄養        【生活習慣】 講義③ 講義 記憶のプロセス どのように記憶されるのか どのように記憶のステップが進むのか? 記銘(encoding) 保持(storage) 想起(retrieval) 「アサガオを見たとき」を例に考えてみます。 記銘(encoding) 目でみた情報は、まず後頭葉に送られます。

 記銘(encoding)
 ・後頭葉から脳のさまざまな場所に情報が送られ、「どこにあったか?」「それは何か?」などの情報が処理されます。 ・処理された情報が海馬に送られます。 記銘(encoding) 保持(storage) ・海馬は、新しい情報を、他の情報にリンクしていきます。


 保持(storage) ・様々な情報がリンクして保持されていきます。 ・最終的に、情報は皮質と呼ばれる脳の外側の部分に保存されます。

 想起(retrieval) ・その後、アサガオを見たり、名前を聞いたりすると、前頭葉がアサガオについての知識や経験したこと、感情などの情報を検索します。

 想起(retrieval) ・前頭葉から情報を受け取った脳の様々な部位が、アサガオに関連する記憶を思い出します。

 脳の機能がダメージを受けたときの例① 脳の後側の視覚皮質に損傷を受けた場合、似たものの見分けができなくなってしまう可能性があります。 脳の機能がダメージを受けたときの例② 前頭葉に損傷を受けた場合、情報の検索がうまくいかずにいろいろなことが思い出せなくなってしまうことがあります。
 立ち上がってストレッチ! 補完手段③-1 補完手段 過去のことを思い出す 「再認」「記憶の痕跡をたどる」「写真をつかう」 記憶の技:「再認」 例:昨日何を食べた? YESかNOで答えられる質問を自分にしていくことで思い出しやすくなる。 記憶の技:「記憶の痕跡をたどる」 例:携帯電話が見当たらないとき 同じ状況に立ち戻れるとより思い出しやすい ~最後に携帯電話を使った場所から順番に同じ行動をしていく、等 練習:複数の物を思い出す 「再認」や「記憶の痕跡をたどる」といった記憶の技を使って、第1回の宿題だった10個の物の名前を思い出して、書き出してみましょう。 記憶の道具:写真 ・宿題で持ってきた写真を用意します。 ・一人ずつ順番に写真を見せ、簡単な説明をします。 ・他の人は話している人に対して、そのときのことを思い出すヒントとなるような質問をします。 意見交換 ・写真をつかうことで、思い出しやすくなる効果はありましたか? 休憩 補完手段③-2 補完手段 これからすることを覚えておく 「スケジュール帳」「ふせん」「アラーム」「物理的リマインダ」 これからすることを覚えておく 様々な道具の紹介 これからすることを覚えておくために使える、様々な道具を紹介していきます。 ・スケジュール帳 ・ふせん ・アラーム ・物理的リマインダ 記憶の道具:スケジュール帳 スケジュール帳の使い方のヒント ・自分に合ったスケジュール帳を用意する。(大きさ、形、〇月はじまり、〇曜日はじまり…) ・1冊のスケジュール帳に情報を集約する。 ・手帳のどこに何を書くか決めておく 例:メモリーノート 【基本構成】
①スケジュール To-doリスト ③重要メモ

 スケジュール帳の記入例
 スケジュール帳を書くときのポイント ・メモ帳とペンを常に持ち歩く。 ・すぐ書く!

 意見交換 ・どんなスケジュール帳を使っていますか? ・どんなスケジュール帳が自分に合っていますか? 記憶の道具:ふせん ・ふせんの長所 ▶︎目立つ場所に貼ることができる ▶︎スケジュール帳などに貼れる ▶︎短いメモに適している ▶︎終わった後ではがせる ・ふせんの短所 ▶︎はがれてなくなってしまう ▶︎長いメモには適していない

 記憶の道具:アラーム ・アラームにも様々な種類がある。 ▶︎時計(腕時計、置き時計) ▶︎携帯電話 ▶︎キッチンタイマー ▶︎洗濯機などのアラーム など ・役に立つとき ▶︎朝起きる ▶︎出かける/帰りの時間を知る ▶︎休憩のタイミングを知る  など   

 記憶の道具:物理的リマインダ
 ・必ず見るところに必要なものを置くことで、思い出せるようにすること。 ▶︎冷蔵庫に注意書きをする ▶︎携帯電話にふせんを貼る ▶︎手に書いておく など。 意見交換 次の作業を忘れないため使える記憶の道具はどのようなものがあるでしょう?  1 毎日薬を飲むこと  2 毎月の公共料金の支払  3 メールの返信 練習:今日の記憶問題 後で、3枚の写真を見せます ・Aの写真: 写真に写っている人数は? ・Bの写真: 写真に写っている動物は? ・Cの写真: 何をしている場面でしょう? この問題を忘れずに覚えておいてください! 宿題:忘れずに電話する ・来週の月曜日、担当のカウンセラーあてに電話をかける ・電話番号 0XX-XXX-XXXX □自分の名前、電話することを忘れないようにするため使った補完手段を伝える 立ち上がってストレッチ! 生活習慣③ 生活習慣 食べ物と栄養 食事が健康と記憶に及ぼす効果 意見交換 いくつあてはまりますか? 1 今朝朝食を食べなかった 2 昨日の夕食に野菜を食べなかった 3 今日コーヒーかお茶を3杯以上飲んだ 4 毎日おやつに甘いお菓子を食べる(ドーナツ、チョコレート、クッキーなど) 5 コーヒーや紅茶に砂糖を10g(スプーン1杯)以上いれる 6 先週全く魚を食べなかった 7 昨夜就寝前1時間以内に夕食を食べた 脳は大食漢 脳の機能を向上させる大切な食習慣 ・朝食をしっかり食べる ・コレステロール値を下げる ・ジャンクフードを避け ・多種多様なものを、適量食べる ・水分の適切な摂取 脳に良いといわれる食べ物 ・緑黄色野菜や果物(ビタミンA、C、E) ・卵 (アセチルコリン) ・パン、シリアル、ナッツ、野菜 (チアミン、葉酸、ビタミンB群) 脳に良いといわれる食べ物 オメガ3脂肪酸が豊富な食品
 宿題 次回のグループワークまでに、魚、クルミ、亜麻仁油、チアシード、ベリー、カボチャのどれかを食べること 今日の記憶問題:A 今日の記憶問題:B 今日の記憶問題:C
 今日の記憶問題の解答 A: B: C: 第3回のまとめ ・これからすることを覚えておくには、「スケジュール帳」「ふせん」「アラーム」「物理的リマインダ」などを使うことが有効 ・過去のことを思い出すには、記憶の技「再認」「記憶の痕跡をたどる」や、「写真」を見ることが有効 ・脳がうまく働くためには、ビタミンA、C、Eやオメガ3脂肪酸を含んだ食事が大切 今後の対策① 手帳をなくしてしまったことに気が付きました。手帳を探すために、どんな記憶の技や方法が使えるでしょう? □記憶の痕跡をたどる-最後に手帳を使ったのはいつか?何を書いていたか?使った後どうしたか? □再認-机の上、電話の近く、など、手帳を持って行った可能性のある場所をいくつも思い浮かべてみる。 □最後に手帳を使った場所から、歩いた場所を順番にたどってみる。 □手帳を見なかったか近くの人に聞いてみる。 第3回 宿題のまとめ 1.月曜日に事務室に電話し(0XX-XXX-XXXX)   自分の名前と、電話をかけることを忘れないようにするため使った方法(補完手段)を伝える。 2.脳によい食品(魚、クルミ、ベリー類、かぼちゃなど)を食べる。 3.資料を読んで復習する。 次回持ってくるもの □ファイル □筆記用具 □スマートフォン等 次回の内容 ・電子機器を使う ・ストレスと疲労 ・ストレスと疲労の管理 次回  月  日  時~   グループワーク 記憶障害に対処する 第4回


 効果的に受講するために ・積極的、自主的に参加する ・他の人の発言は最後まで聞く ・人の良いところをほめる ・メモを取る習慣をつける ・宿題を忘れないように工夫する ・資料を繰り返し熟読する ・学んだことを日常生活で繰り返し実践する 前回の内容 1.記憶のプロセス          【講義】 2.過去のことを思い出す 【補完手段】 3.これからすることを覚えておく【補完手段】 4.食べ物と栄養        【生活習慣】 宿題の報告 1.月曜日に事務室に電話し(0XX-XXX-XXXX)   自分の名前と、電話をかけることを忘れないようにするため使った方法(補完手段)を伝える。 2.脳によい食品(魚、クルミ、ベリー類、かぼちゃなど)を食べる。 3.資料を読んで復習する。 本日の内容 1.電子機器を使う    【補完手段】 2.ストレスと疲労      【講義】 3.ストレスと疲労の管理 【生活習慣】 補完手段④ 補完手段 電子機器を使う アシスティブテクノロジーの活用 電子機器の例 ・スマートフォン ・パソコン ・タブレット型端末(iPadなど) ・ボイスレコーダー ・ナビゲーションシステム ・カメラ/ビデオ ・タイマー 記憶の道具:スマートフォン メリット □手軽に携帯できる □広く普及している □便利な機能がたくさんある デメリット □使いこなすのは難しい □操作方法を覚えないといけない □電池や電波に左右されることも 練習:便利な機能を使ってみる 1.アラーム:5分後にアラームをセットする 2.カメラ:ホワイトボードの写真を撮る 3.連絡先:職業センター(0XX-XXX-XXXX)を登録する(登録してあることを確認する) 4.カレンダー(スケジュール):来週のグループワークを入力する 便利なアプリの紹介 探し物を見つける 「iPhoneを探す」 ・iPhoneの位置を特定するアプリ ・iPhoneがある場所を地図上に表示できる ・端末を「紛失モード」にすると、画面にメッセージを表示させることができる ・位置情報サービスがオフになっていたり、バッテリーが切れていたりすると、現在位置を割り出せない ・用途: 位置のモニタリング ・デバイス: Apple iPhone ※通信会社による同種のサービスもある 探し物を見つける 紛失防止デバイス 「Tile(タイル)」、「MAMORIO(まもりお)」など ・なくしたくないもの(鍵やスマートフォン、財布等)にタグを取りつける ・スマートフォンにアプリを導入する ・なくしたときの位置検索ができる メモを取る iOSの標準アプリ 「メモ」、「カメラ」、「ボイスメモ」 ・いろいろな媒体でメモを取ることができる ・様々なアプリが開発されているので、好みのものを探すのもよい リマインダー(タスク管理) iOSの標準アプリ 「リマインダー」 ・日々のタスクを管理することができる ・登録しておくと、時間や場所で表示させることができる ・様々なアプリが開発されているので、好みのものを探すのもよい カレンダー(スケジュール) iOSの標準アプリ 「カレンダー(スケジュール)」 ・今日の日付や登録した予定を確認できる ・通知を設定しておくと、時間が近づいたときに知らせてくれる ・様々なアプリが開発されているので、好みのものを探すのもよい 意見交換:スマートフォンの機能 ・スマートフォンの知っている機能、使っている機能を確認しましょう 意見交換:困っていることはどんなこと ・以下のようなことで困っていませんか? ・Windowsやタブレット・スマートフォンの機能が使えそうですか? ・ 宿題:新しい機能を試す ・Windowsやスマートフォン・タブレットの新しい機能を試しに使い、感想を報告してください !CHECK!  ・どの機能を試しますか?  ・いつ試しますか?  ・使ってみてどうでしたか? 休憩 講義④ 講義 ストレスと疲労 ストレスと疲労が記憶に与える影響 ストレス反応
【危機を感じた時に身体に起こる反応】 心拍数、血圧、呼吸数 ・血液と酸素 ・筋肉の緊張 ・感覚と注意力 ・皮膚、消化管、腎臓、肝臓などの血液


 ストレスと頭の働き 【復習】ストレスが記憶に与える影響 強いストレスや慢性的なストレスが続くと、コルチゾールというホルモンの分泌が増える。 コルチゾールの量が多すぎると、海馬にダメージを与えてしまう。 疲労の分類 疲労の記憶への影響 注意力、集中力の低下 記銘と想起に悪影響(特に記銘) 高次脳機能障害の方は、脳に疲労を感じやすい傾向(易疲労性)があるので注意が必要。 意見交換:ストレスと疲労 ・ストレスや疲労により記憶が影響を受けたこと(普段できていることを間違える/分からなくなる、など)はありますか? ・ストレスや疲労のサインに気付くことはありますか? 生活習慣④ 生活習慣 ストレスと疲労の管理 リラクゼーションの方法 リラクセーション法の実践 疲労や気分の落ち込みといった身体や気持ちの状態を改善する方法の一つが、リラクセーション法です。 (例) 音楽を聴く お風呂に入る アロマテラピー 呼吸法 漸進的筋弛緩法 ・「自分にあったやり方」が一番 ・自分にとって「気持ちがよいもの」「落ち着けるもの」をみつけましょう ・リラクセーション法を上手に実践するためには練習が必要です 練習:呼吸法 呼吸法とは、「息を口から吐き、鼻から吸う」という動作を腹式呼吸で意図的にゆっくりと行うことで、心拍を安定させたり、気持ちを落ち着かせる方法です。 《手順》 1.鼻から息を吸う 2.口からゆっくりと息を吐く 3.息を止めて4つ数える ★1~3を10~15回繰り返す 特に息を吐くこと、ゆっくりと行うことを意識する 呼吸法が苦手な人には ・呼吸レッスン(iPhoneアプリ) リラックスを目的とした呼吸法のトレーニングアプリ。音楽や動画などに合わせて呼吸を整える訓練をしていく中で、自分に合ったペースの呼吸を探ることを目指す。 https://itunes.apple.com/jp/app/hu-xiressun/id971237067?mt=8 練習:静かな場所をイメージする 練習:漸進的筋弛緩法① 漸進的筋弛緩法とは、骨格筋を緊張させ(筋肉に力を入れ)、その直後に弛緩(脱力)させることによって、その部位の力が抜けリラックスしている感じを味わう方法です。 身体の各部位の緊張と弛緩を繰り返しながら、身体全体のリラクセーションを得ていくことを狙いとしています。 《手順》 1.首をまわす  優しく広く円を描くように回す(3~5回)  反対の向きで、同様に行う 2.肩をすくめる  肩を耳につけるように、数秒間肩を持ち上げる  力を抜いて肩を落とす  ★3~5回繰り返す 漸進的筋弛緩法② 3.腕を伸ばす  両腕を天井に向けてまっすぐ上げ、両手の指をかごを作るように組む。  両腕を上に伸ばしたまま、手のひらを天井に向けて回転させる。  天井に向けて数秒間腕を伸ばして、腕を下ろす。10秒間ほど脱力する。  ★ 3~5回繰り返す。 4.膝たて  両手を下に伸ばして右膝をつかみ、胸のほうに膝を引き上げる。  数秒間膝を抱えて、足を床に下ろす。10秒間ほど脱力する。  左膝も同様に行う。  3~5回繰り返す。 漸進的筋弛緩法③ 5.足と足首をまわす  足を持ち上げ、脚を伸ばし、足首を回す。  一方向に3~5回、反対方向に3~5回行う。 【注意事項】 ・力を入れる際は、60~70%の力を入れるくらいで行いましょう。 ・力を抜くときは一気に抜き、「じわ~」とした余韻を感じましょう。 ・ケガをしていたり、痛みがある場合は、力を加える度合いを加減したり、実施を控えましょう。 宿題:ストレスを管理する 1.生活の中のストレスを減らす方法を1つ見つける 2.1週間続け、感想を報告する 第4回のまとめ ・電子機器には記憶を補助するための様々な機能がある。 ・ストレスをコントロールし、適度に保つことで記憶の向上にもつながる。 ・ストレスと疲労の軽減のために、リラクゼーションが有効。 今後の対策
  文章の入力作業で、目視で見直しをしてもなかなかミスがなくなりません。  ミスをなくすためにどのような方法が使えるでしょう? □ソフトウェアの校閲機能を使う □ルーラーを使う □PCの読み上げ機能で確認する □声に出して読む □他の人にダブルチェックしてもらう 第4回 宿題のまとめ 1.Windowsやスマートフォン・タブレットの新しい機能を使う 2.生活の中のストレスを減らす方法を1つ見つけ、1週間続ける 3.資料を読んで復習する 次回持ってくるもの:
 □ファイル □筆記用具 次回の内容
 ・睡眠の重要性 ・睡眠を改善する方法 ・名前を記憶するためのさらなる戦略 次回  月  日  時~   グループワーク ―記憶障害に対処する― 第5回 効果的に受講するために ・積極的、自主的に参加する ・他の人の発言は最後まで聞く ・人の良いところをほめる ・メモを取る習慣をつける ・宿題を忘れないように工夫する ・資料を繰り返し熟読する ・学んだことを日常生活で繰り返し実践する 前回の内容 1.電子機器を使う    【補完手段】 2.ストレスと疲労      【講義】 3.ストレスと疲労の管理 【生活習慣】 宿題の報告 1.Windowsやスマートフォン・タブレットの新しい機能を使う 2.生活の中でストレスを減らす方法を1つ見つけ、1週間続ける 3.資料を読んで復習する 本日の内容 1.睡眠の重要性         【講義】 2.睡眠を改善する方法   【生活習慣】 3.名前を記憶するためのさらなる方法                                    【補完手段】 宿題:電話をかける 明日、担当カウンセラーに電話をかけて、 ・自分の名前 ・電話した時間 ・グループワークで一番役立ったこと を伝えてください。 講義⑤ 講義 睡眠の重要性 記憶のための睡眠の役割 睡眠の役割 脳の休養 ●思考力、集中力の保持 ●精神機能の疲労を回復 記憶力の保持 ●記憶を整理する ●記憶を定着させる 疲労の回復 ●成長ホルモンの分泌による組織の損傷の修復 ●身体を回復させるホルモンを増加させる 免疫力の向上 ●免疫物質の分泌促進 参考:睡眠障害の診断・治療ガイドライン研究会 内山真 編:『睡眠障害の対応と治療ガイドライン第3版』じほう(2019)p21-26 新百合ヶ丘総合病院HP 睡眠は記憶の整理と定着を行う大切な時間。 「一般的に」必要とされる睡眠時間 1:年齢による睡眠時間(夜間)の変化【論文データ(3,577人)のメタ解析研究より】   10歳まで     25歳      45歳      60歳   8~9時間    約7時間    約6.5時間     約6時間 2:睡眠で休養が十分に取れていない人の割合(世代別)  《「厚生労働省:国民健康・栄養調査(平成29年)より」》 働き世代の3~4人に1人は、睡眠で休養が十分に取れていない!  睡眠不足の解消は切実な問題!! 出典:睡眠障害の診断・治療ガイドライン研究会 内山真 編:『睡眠障害の対応と治療ガイドライン第3版』じほう(2019) )p3   睡眠時間と死亡リスクの関係 ・長時間眠っても、睡眠の質が悪ければ、疲労を回復させることはできない。 ・疲労を回復させるには、多くの睡眠時間ではなく、質の良い睡眠を取ることが重要。 睡眠とホルモンの関係 ・朝日を浴びる → メラトニン(眠気を誘うホルモン)が減る → すっきり目覚める ・「メラトニン」は、光を感知してから14~16時間後に再び分泌される。 ・「メラトニン」の量が増えるにつれて眠気が強くなる。 http://www.goodsleepfactory.com/knowledge/mechanism/ 出典:坪田聡:あなたを変える睡眠力,p10-11    井上雄一:ササッとわかる「睡眠障害」解消法,p88-89 脳損傷者と健常者のメラトニン分泌の違い ・脳にダメージを受けることで睡眠に影響が出る可能性が高くなる。 ・疲労の回復、体内時計の調節を行うためにも睡眠対策は重要。 立ち上がってストレッチ! 生活習慣⑤ 生活習慣 睡眠を改善する方法 良い睡眠を取るための工夫 良い睡眠を取るための工夫【朝】 □朝日を浴びて体内時計をリセットする。 □毎日決まった時間に起きる。 □朝食を食べる。 良い睡眠を取るための工夫【日中~夕方】 □適度な運動をする。 □基本的に日中の昼寝は取らない。取る場合も、20分以内にする。 良い睡眠を取るための工夫【夜】 □寝る2~3時間前には食事を済ませる。 □ぬるめのお風呂で体を温める。 良い睡眠を取るための工夫【寝る前】 □寝る1~2時間前くらいに、リラックスタイムを作る。 □快適な環境を整える。(例:布団・まくら、照明、室温など) □就寝前は、テレビやスマートフォンなどブルーライトを発する画面を見ない。 睡眠への悪影響が出やすいもの(1) 【アルコール】 □アルコールを飲んで眠れたとしても、睡眠の質が下がる。 アルコールは、体内に入って2~3時間で分解される/利尿作用があるため、眠りが浅くなる、夜中に目が覚めることにつながりやすい。 睡眠への悪影響が出やすいもの(2) 【タバコ】 ニコチンの覚醒作用が、寝つきを悪くする。 ※日中の喫煙本数が多いほど、浅い眠りが多く、深い眠りが少ないという研究報告もある。 睡眠への悪影響が出やすいもの(3) 【カフェイン】 コーヒー、栄養ドリンクなど □カフェインの覚醒作用は摂取して30分頃から効きはじめ、3~4時間持続する。 ⇒夕方以降の摂取に注意 眠れない時の対処方法 □寝る時以外はベッドに寝そべらない □眠気を感じるまでベッドに入らない □眠れない時はベッドから出る 意見交換:睡眠について ・1日何時間くらい寝ていますか? ・睡眠の質を高めるためにしている工夫はありますか? ・講座の内容で、これから取り入れていきたいと感じたことはありますか? 宿題:睡眠記録表をつける ・これから1週間、お配りした睡眠記録表をつけて、次回のグループワークで持ってきてください。 休憩 補完手段⑤ 補完手段 名前を記憶するための方法 記憶の技「繰り返し」「関連付け」「精緻化」 練習:名前を覚える ・これから、4人の方の写真と名前を20秒ずつお見せします。メモは取らずに覚えましょう。 (※写真はフリーサイトに掲載されているもので、名前はこちらで考えた架空の名前です。) ・その後、4人の方の写真だけをお見せしますので、名前を記入してください。 私の名前は 新田 ゆりか 私の名前は 松沢 敏雄 私の名前は 堀内 昭夫 私の名前は 朝日 恵美子 私の名前は 私の名前は 私の名前は 私の名前は 堀内 昭夫 新田 ゆりか 朝日 恵美子 松沢 敏雄 名前を思い出すための記憶の技 すでに面識のある人の名前を忘れてしまった。 記憶の「想起」の問題 記銘(encoding) 保持(storage) 想起(retrieval) 記憶の技:「関連付け」 ・出会った時の状況や、同じ仲間に属する別の人の名前を考えて思い出す。  例)  ・〇〇課で働いていたときに一緒だった人で…  ・あの時のメンバーは○○部長と○○係長と…  ・社員旅行で○○に行ったなあ など 記憶の技:「総当たり」  (しらみつぶし) ・「あ」から始まる名前、「い」から始まる名前、というように、頭から順番に考えていく。 ※思いつくものを手当たり次第に思い出してみる「再認」と異なり、「あいうえお順」や「アルファベット順」などの順番に思い出していく方法。 ・前もってその人に会うことが分かっているのであれば、会う前にメモや名刺でその人の名前を確認する、事前準備も有効。  例) ・取引先との2回目の打ち合わせの前に、前回交換した名刺で相手の名前を再確認してから打ち合わせに入る。 ・産業医の名前を書いたメモを持っておき、面談の直前にメモを確認してから相談室に入る。 など 練習:私は誰でしょう? ・これから、いくつか人や物の写真やイラストをお見せします。皆さんで意見を出し合いながら、その人や物の名前を思い出して下さい。 ・すぐに思い出せた人は、その回の意見交換には加わらず、その人や物の名前は言わずにいてください。 練習:私は誰でしょう? 練習:ここはどこでしょう? 練習:ここはどこでしょう? 初対面の人の名前を覚えるための記憶の技 初対面の人の名前を覚える 記憶の「記銘」の問題 記銘(encoding) 保持(storage) 想起(retrieval) 記憶の技:「繰り返し」 ・頭の中で名前を繰り返す ・実際に会話の中で名前を繰り返す 例) 「○○さんはじめまして。○○さんのことは××さんから伺っております」  ※あえて名前を口にして繰り返した方が記憶に残りやすい 【参考】第1回の資料も復習してみましょう。 記憶の技:「関連付け」 ・その人の情報を知っているものと関連付けていく。 様々な感覚を使って関連付けすることができる。 ・視覚 – 顔立ち、服装 など ・嗅覚 – 洗剤、香水 など ・聴覚 – 声 など これらは誰か知っている人や有名な人、モノに似ていないか? 【参考】第1回の資料も復習してみましょう。 記憶の技:「精緻化」 ・質問することでその人についての深い情報を得る。 例) 名前そのものについての質問 ―名前の由来や漢字表記について その人に関する質問 ―出身地、趣味など 練習:私の名前は武田 博章です ・この人(※架空の人物です)の名前を後で思い出すために、どのような情報を加えると良いでしょう? ・この人に関して、記憶しやすくするために知りたいことがあれば質問してください! 練習:名前を覚える ・これから、4人の方の写真と名前を20秒ずつお見せします。記憶の技を使って覚えてみましょう。 (※写真はフリーサイトに掲載されているもので、名前はこちらで考えた架空の名前です。) ・その後、4人の方の写真だけをお見せしますので、名前を記入してください。 私の名前は 門田 純一郎 私の名前は 岩瀬 千咲 私の名前は 大江 雅美 私の名前は 村山 元気 私の名前は 私の名前は 私の名前は 私の名前は 村山 元気 岩瀬 千咲 大江 雅美 門田 純一郎 私の名前は 意見交換 ◎「繰り返し」、「関連付け」、「精緻化」 ▶︎これらの補完手段を使ってみて効果はどうでしたか? 立ち上がってストレッチ! 第5回のまとめ ・不眠が続くと記憶だけでなく、心身の不調も。早めに休憩を取ることが大切。 ・名前を思い出すために、「関連付け」などの記憶の技が使える。 ・名前を記憶するために、「繰り返し」「精緻化」「関連付け」などの記憶の技が使える。 今後の対策①  睡眠のリズムを維持して夜の寝つきをよくするために、どのような工夫ができるでしょう? □カフェイン、アルコール、ニコチン等の接収量を控える。 □寝る前にお腹いっぱい食べない。 □意識して日中に運動するようにする。 □寝る前にスマートフォン等を見ないようにする。 今後の対策② 久しぶりに会った人の名前が思い出せないとき、どのような記憶の技が使えるでしょう? □その人に関連する情報を思い浮かべて思い出す。(「関連付け」を使う) □頭の中で思いつく名前を次々に挙げて思い出す。(「総当たり」または「再認」を使う) 第5回 宿題のまとめ 1.明日、担当カウンセラーあてに電話をかけて、自分の名前と電話した時間、グループワークで一番役立ったことを伝える。 2.睡眠記録表をつける 3.資料を読んで復習する 次回持ってくるもの □ファイル □筆記用具 □睡眠記録表 次回の内容 記憶の技        【復習】 記憶の道具       【復習】 記憶に良い生活習慣   【復習】 次回  月  日  時~   グループワーク ―記憶障害に対処する― 第6回 効果的に受講するために ・積極的、自主的に参加する ・他の人の発言は最後まで聞く ・人の良いところをほめる ・メモを取る習慣をつける ・宿題を忘れないように工夫する ・資料を繰り返し熟読する ・学んだことを日常生活で繰り返し実践する 前回の内容 1.睡眠の重要性         【講義】 2.睡眠を改善する方法   【生活習慣】 3.名前を記憶するためのさらなる方法                                    【補完手段】 宿題の報告 1.明日、担当カウンセラーあてに電話をかけて、自分の名前と電話した時間、グループワークで一番役立ったことを伝える。 2.睡眠記録表をつける 3.資料を読んで復習する 本日の内容 1.記憶の技       【復習】 2.記憶の道具      【復習】 3.記憶に良い生活習慣  【復習】 記憶の技 意見交換:記憶の技 ・これまでに紹介した「記憶の技」をできるだけたくさんあげてみましょう 記憶の技:「繰り返し」 ・「繰り返す」ことで記憶に残りやすくする方法 ▶︎聞いたことや見たことを頭の中で繰り返す ▶︎覚えたいことを口に出して繰り返す ▶︎話している人に同じ説明を繰り返すよう頼む ▶︎資料を繰り返し読む など 記憶の技:「関連付け」 ・その人/モノの情報を、知っている別のものと関連付けていく方法 ▶︎語呂合わせ ▶︎似たような名前で、特徴が似ている有名人 ▶︎同じ名前の知人 ▶︎名前から受ける印象 ▶︎関連するイメージ(音、におい、思い出、触感…) など 記憶の技:「チャンキング」 (グループ分け) ・情報をまとまりごとにグループ分けして、分かりやすくする方法 ▶︎同じ文字から始まることば ▶︎同じような色のもの ▶︎共通点のあるもの(食べ物、食器…)  など 記憶の技:「再認」 例:昨日何を食べた? YESかNOで答えられる質問を自分にしていくことで思い出しやすくなる。 記憶の技:「記憶の痕跡をたどる」 例:携帯電話が見当たらないとき 同じ状況に立ち戻れるとより思い出しやすい  ~最後に携帯電話を使った場所から順番に同じ行動をしていく、等 記憶の技:「総当たり」 (しらみつぶし) ・「あ」から始まる名前、「い」から始まる名前、というように、頭から順番に考えていく。 ※思いつくものを手当たり次第に思い出してみる「再認」と異なり、「あいうえお順」や「アルファベット順」などの順番に思い出していく方法。 記憶の技:「精緻化」 ・質問することでその人についての深い情報を得る。  例)  名前そのものについての質問  ―名前の由来や漢字表記について  その人に関する質問  ―出身地、趣味など 練習:今日の記憶問題 これから、3枚の写真を見せます Aの写真: Bの写真: Cの写真: 問題の内容は以前出題したものと全く同じです! メモを見たり、記憶の技を使って思い出してみましょう。 練習:複数の物を覚える① ・これから、10個の物のイラストを1分間お見せします。メモは取らずに覚えましょう。 ・1分経ったら、イラストに何があったか思い出して書き出してください。 練習:名前を覚える ・これから、4人の方の写真と名前を20秒ずつお見せします。メモは取らずに覚えましょう。 (※写真はフリーサイトに掲載されているもので、 名前はこちらで考えた架空の名前です。) ・その後、4人の方の写真だけをお見せしますので、名前を記入してください。 私の名前は 小林 和枝 私の名前は 青山 翔 私の名前は 高野 俊介 私の名前は 小池 広美 私の名前は 私の名前は 私の名前は 私の名前は 青山 翔 小池 広美 小林 和枝 高野 俊介 今日の記憶問題:A 今日の記憶問題:B 今日の記憶問題:C 今日の記憶問題の解答 A: B: C: 記憶の道具 「記憶の道具」の具体例 予定や約束を記憶する 1.次回の会議の予定を覚えておくために、どのような方法が使えますか? □付せん(ポストイット)に書いて見えるところに貼る □カレンダー/ホワイトボードにメモを書く/写真を貼る □スケジュール表に書く □携帯電話/電子機器のアラームを使う □会議の開催通知をデスクマットに挟んでおく 日常的なことを記憶する 2.毎日やること(例:タイムカードを打刻する)を覚えておくために、どのような方法が使えますか? □始業5分前にスマートフォンのアラームをセットする □手に書いておく □名札に付せんを貼る □「毎日やることリスト」を作り、毎朝出勤前に見る 日常的なことを記憶する 3.毎日の持ち物を忘れないようにするために、どのような方法が使えるでしょうか? □持ち物のリストを書く □スマートフォンのアプリを使う □前の日の晩にリストを見て確認する □置き場所を決めておく 情報を記憶する 4.新しい仕事の内容を覚えるために、どのような方法が使えるでしょうか? □ノートやメモを取る □写真を取る/動画を取る □資料をもらう 意見交換:記憶の技・道具 ・記憶の技・道具をどのようにつかっていますか? ・グループワークを通して身につけたいと思っていたことは解決できましたか? 記憶の技や道具を使うことを記憶する 5. 記憶の技や道具を使うことを忘れないようにするためにはどのような方法があるでしょう? □習慣化する □周囲にヒントとなるものを置いておく □自己管理 □アプリで通知してもらう □他の人たちと話す 休憩 記憶に良い生活習慣 食べ物と栄養 1.脳の働きをよくするために、食事面で気をつけるとよいことは何でしょうか? -朝食をしっかり食べる -ジャンクフードを避ける -特に脳に良いもの(魚、ヨーグルト、クルミなど)を意識して食べる 運動 2.運動にはいろいろなメリットがあります。 記憶に対しては、どんなメリットがありますか? -有酸素運動をすると、心拍数があがり、血流が増える。脳に多くの血液が行くと、脳細胞の成長が促される。 -運動をするとストレスが減り、それにより海馬のダメージが減り、記憶が向上する 運動 3.記憶を補助するのに最適な運動の種類は? 具体的にはどのようなものがあるでしょう? -有酸素運動(ウォーキング、水泳、ジョギング、サイクリングなど) 睡眠 4.専門家が推奨する1晩の平均睡眠時間はどれくらいでしょうか? -平均8時間(6~9時間の間) -目覚めたときにすっきりしたと感じる時間 睡眠 5.なぜ睡眠は記憶にとって重要なのでしょう? -十分に休息が取れていれば、注意力を維持し、情報を楽に取り込めるようになる -睡眠中、私たちの脳は前の日に覚えた情報を確定させる -十分休息できていると気分がよくなり、いらいらが減ることで記憶も向上する 記憶とストレス 6.ストレスはどのように記憶に影響するでしょう?   良い影響と悪い影響をそれぞれあげてください。 -少量のストレスは人を覚醒させ、パフォーマンスを上げることができる -ストレスが多すぎると、記憶力や注意力などの認知領域を阻害する傾向がある -長期的ストレスは脳のコルチゾール量を増やし、脳の組織(海馬)にダメージを与える 意見交換:記憶に良い生活習慣 ・紹介した「記憶に良い生活習慣」のうち、 これからも続けたいものはありますか? 健康を保つ 7.健康的な行動を維持するためにはどうしたらいいでしょうか? □習慣化する □誰かと一緒に行う □自己管理(例:日誌をつける、進歩や達成度を記録する方法を探すなど) □具体的で、達成可能で、徐々に高くなっていく目標を定める(現実的目標設定) □早めに人の助けを借りる 最後に… グループワークにご参加いただき、 ありがとうございました! 月  日(   ) グループワーク-記憶障害に対処する- 第1回 感想シート 氏名                1.記憶の3つのステップについて理解できましたか? □ 理解できた □ まあ理解できた 自分が得意なところ、苦手なところはどこだと思いましたか □ あまり理解できなかった □ 全く理解できなかった 特にわからないと感じたのはどの点ですか 2.記憶の技(「繰り返し」「関連付け」「チャンキング」)の練習をしてみてどうでしたか? 今後も使ってみようと思いますか? □ 使ってみたい □ すでに使っている 使ってみたい(すでに使っている)場面を教えてください □ 使いたくない □ 使う必要がない □ わからない 理由があれば教えてください 3.記憶の道具(手帳やスマートフォンなど)を使ってみようと思いますか?   □ 使ってみたい □ すでに使っている 使ってみたい(すでに使っている)道具が具体的にあれば、教えてください □ 使いたくない □ 使う必要がない □ わからない 理由があれば教えてください 4.そのほか、全体の感想や要望があれば記入してください ご協力ありがとうございました。記入したらスタッフに提出してください。 月  日(   ) グループワーク-記憶障害に対処する- 第2回 感想シート 氏名                1.脳のなかで記憶に関わっているのはどこか、理解できましたか? □ 理解できた □ まあ理解できた さらに知りたいことはありますか □ あまり理解できなかった □ 全く理解できなかった 特に難しかったのはどの点ですか 2.記憶の道具「メモ」の練習をしてみてどうでしたか? □ うまくできた □ まあうまくできた どんなことを意識(工夫)しましたか □ あまりうまくできなかった □ 使う必要がない □ わからない 難しかったのはどのような点ですか 3.道順を記憶するときの記憶の技や道具を使ってみようと思いますか? □ 使ってみたい □ すでに使っている どんな技や道具を使ってみたいですか(使っていますか) □ 使いたくない □ 使う必要がない □ わからない 理由があれば教えてください 4.そのほか、全体の感想や要望があれば記入してください ご協力ありがとうございました。記入したらスタッフに提出してください。 月  日(   ) グループワーク-記憶障害に対処する- 第3回 感想シート 氏名                1.記憶のプロセスについて、理解できましたか? □ 理解できた □ まあ理解できた さらに知りたいことはありますか □ あまり理解できなかった □ 全く理解できなかった 特に難しかったのはどの点ですか 2.過去のことを思い出すときに、今日紹介した記憶の技や道具を使いますか? □ 使ってみたい □ すでに使っている どんな技や道具を使ってみたいですか(使っていますか) □ 使いたくない □ 使う必要がない □ わからない 理由があれば教えてください 3.これからすることを覚えておくために、今日紹介した記憶の技や道具を使いますか? □ 使ってみたい □ すでに使っている どんな技や道具を使ってみたいですか(使っていますか) □ 使いたくない □ 使う必要がない □ わからない 理由があれば教えてください 4.そのほか、全体の感想や要望があれば記入してください ご協力ありがとうございました。記入したらスタッフに提出してください。 月  日(   ) グループワーク-記憶障害に対処する- 第4回 感想シート 氏名                1.記憶の道具として、電子機器を使っていますか? 今後、使ってみたいですか? □ 使ってみたい □ すでに使っている どんなことに使ってみたいですか(使っていますか) さらに使ってみたいことはありますか □ 使いたくない □ 使う必要がない □ わからない 理由があれば教えてください 2.ストレスによる記憶の影響について、理解できましたか? □ 理解できた □ まあ理解できた さらに知りたいことはありますか □ あまり理解できなかった □ 全く理解できなかった 特に難しかったのはどの点ですか 3.今日練習した「リラクセーション法」を使ってみますか? □ 使ってみたい □ すでに使っている どの「リラクセーション法」を使いますか(使っていますか) □ 使いたくない □ 使う必要がない □ わからない 理由があれば教えてください 4.そのほか、全体をつうじて、感想や要望があれば記入してください ご協力ありがとうございました。記入したらスタッフに提出してください。 月  日(   ) グループワーク-記憶障害に対処する- 第5回 感想シート 氏名                1.睡眠の重要性について、理解できましたか? □ 理解できた □ まあ理解できた さらに知りたいことはありますか □ あまり理解できなかった □ 全く理解できなかった 特に難しかったのはどの点ですか 2-1.睡眠のことで困っていることや、改善したいことはありますか? □ ある 具体的に教えてください □ ない 2-2.よい睡眠を取るために工夫していることや、さらに取り入れたいことはありますか? □ ある 具体的に教えてください □ ない 3.名前を記憶するために、今日紹介した技を使いますか? □ 使ってみたい □ すでに使っている どんな技を使ってみたいですか(使っていますか) □ 使いたくない □ 使う必要がない □ わからない 理由があれば教えてください 4.そのほか、全体をつうじて、感想や要望があれば記入してください ご協力ありがとうございました。記入したらスタッフに提出してください。 記憶の技・道具の活用チェックリスト  (  月  日~  月  日) 記憶の技 月 火 水 木 金 備考 繰り返し チャンキング 記憶の痕跡をたどる 再認 関連付け 精緻化 記憶の道具(電子機器以外) 月 火 水 木 金 備考 メモ スケジュール帳 チェックリスト ふせん メモリーノート 物理的リマインダ 時計・アラーム 記憶の道具(電子機器) 月 火 水 木 金 備考 メモ カレンダー リマインダ アラーム カメラ(写真) カメラ(動画) マップ 音声入力 ボイスメモ 【記入例】○:自発的に活用した △:声かけにより活用した  ▽:使い方について介入した      ×:活用しなかった  -:活用する場面がなかった 障害者職業総合センター職業センター実践報告書No.38 記憶障害に対する学習カリキュラムの紹介 発行日    令和3年3月 編集・発行 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター職業センター <所在地>〒261-0014 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-3 <電話> 043-297-9043(代表)  https://www.nivr.jeed.go.jp/ 印刷・製本 情報印刷株式会社  - 111 - 月  日(   )