実践報告書 No.37 精 神 障 害 者 職 場 再 適 応 支 援 プ ログ ラム ジョブデザイン・サポートプログラムの カリキュラムの再構成 ~ プログラムの具体的内容と支援の実際 ~ 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター職業センター はじめに  障害者職業総合センター職業センターでは、気分障害等の精神疾患により休職中の方々の職場への再適応を支援し、離職の防止と雇用の安定を図るため「精神障害者職場再適応支援プログラム(Job Design Support Program、以下、「JDSP」という。)」を実施し、模擬的な職場環境の中で習得した知識やスキルを総合的に実践活用し実用度を高めるための支援技法(ジョブリハーサル)や、職場復帰後の安定出勤を支える健康的で安定した生活習慣の継続を図るための支援技法(日常生活基礎力形成支援)など多くの技法の開発に取り組んできました。その開発成果については、実践報告書や支援マニュアルに取りまとめ、職業リハビリテーション研究・実践発表会をはじめとしたさまざまな機会を通じて発信しています。  JDSPは、在職精神障害者の職場復帰支援プログラム(リワークプログラム)をさらに発展させることを目的に、平成16(2004)年から開始されました。このたび、JDSPのカリキュラムの再構成をテーマに、開始から15年以上の経過の中でさまざまな支援技法を開発・追加しながら変遷してきたJDSPのカリキュラムの全体像や構成要素をわかりやすく整理するとともに、各プログラムの具体的な内容や支援の実際、実施上の工夫や留意事項を取りまとめ、職業リハビリテーション機関における職場復帰支援の現状と今後の課題、方向性をあらためて提示することとしました。  本実践報告書が、気分障害等の精神疾患による休職者の方々の職場復帰支援において活用され、職業リハビリテーションサービスの質的向上の一助となれば幸いです。    令和3年3月 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構   障害者職業総合センター職業センター     職業センター長    望月 春樹 目次 第1章 JDSPの開発背景と変遷  1 リワークプログラムからJDSPへ ・・・・・・・・・・・・・・・・・1  2 JDSPの開発当初の支援の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 3 JDSPの実践報告書および支援マニュアル ・・・・・・・・・・・・3 第2章 JDSPの再構成の背景と考え方   1 職場復帰支援の現状と課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 第3章 JDSPとは   1 JDSPの全体像 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12  2 JDSPの構成要素 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12  3 JDSPの実際・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17   第4章 支援の実際  1 4つのテーマをもとに課題の整理や再休職予防策の検討を行った事例 ・・46  2 プログラムを連動させ自己理解を深めた事例 ・・・・・・・・・・・・・54 第5章 支援実施におけるポイント  1 職場復帰支援の目標やポイントの明確化 ・・・・・・・・・・・・・・・59  2 多角的な分析をうながす4つのテーマ設定 ・・・・・・・・・・・・・・60  3 ワークシートやグループワークを活用した言語化・視覚化・・・・・・・・61  4 各プログラムを連動させる工夫 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・62 第6章 JDSPの課題と今後の方向性   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・64 付録 参考 JDSP資料集 第1章 JDSPの開発背景と変遷   1 リワークプログラムからJDSPへ  障害者職業総合センター職業センター(以下、「職業センター」という。) では、平成14 (2002)年度と平成15(2003)年度において、気分障害者等を対象とした在職精神障害者の職場復帰支援プログラム(以下、「リワークプログラム」という。) の開発と試行実施に取り組みました。  リワークプログラムは、原職復帰を目的に、①対人技能訓練(SST) 、②グループミーティング、③ストレスコーピングなどの支援を通じて職場環境や職務に対する適応性の向上を図るプログラムとして開発されました。  2年間の試行実施を通じて、①定期的な通所と作業課題の設定による生活リズムの安定、②体調等の自己管理の体得、③アサーショントレーニングによる対人スキルの回復と向上、④職場復帰の不安点などのグループミーティングによる整理、⑤職場実習などによるソフトランディグ、が支援のポイントとして整理され、職業センター実践報告書No.12「リワークプログラムとその支援技法(2004)」としてこれらの取組みを取りまとめ、リワークプログラムの考え方や支援技法の普及を図りました。これらをもとに、平成16(2004)年度に一部の地域障害者職業センター(以下、「地域センター」という。) (6カ所) で職場復帰支援(以下、「リワーク支援」という。)の試行実施が始まり、平成17(2005)年10月からは全国の地域センターに導入され、現在に至ります。  一方で、リワークプログラムにおける個々の職場復帰事例を検証した結果、職場復帰を果たした事例のうち、多くが人事担当、産業保健スタッフおよび支援スタッフとの連携を通じて、①職務の調整、②作業の量および質の調整、③コミュニケーション方法の調整などを行い、職場復帰や継続就労を果たしていることが確認されました。なお、すべての事例において、職場復帰時点で残業制限などの労働時間の調整を行っており、休職前の職務や休職前と同じ条件で復職した事例はありませんでした。この結果をふまえ、職業センターでは、平成16(2004)年度以降、原職復帰を目的としたリワークプログラムのカリキュラムをベースに、職場復帰支援をより質の高い支援にするための技法として、職場環境や職場復帰時の職務内容の調整(職務再設計)や本人のキャリア再構築への支援に着目したJDSPの開発を開始し、現在に至っています。 2 JDSPの開発当初の支援の概要 (1) 全体構成  JDSPでは開発当初、休職前とは異なる職場や職務での職場復帰を想定しており、リワークプログラムで実施していた支援のポイントをベースとしつつも、新しい環境や職務に対する対応力を身につけることが支援の重要な目的とされました。  新しい環境や職務への対応力を身につけるための支援ポイントを大きく「健康・体力面」、「対人・認知面」、「職務面」に分け、「健康・体力面」のプログラムとして運動・ストレスコーピング・自律訓練法を、「対人・認知面」のプログラムとして個別・集団認知療法、アサーショントレーニングを、「職務面」では、受講者のキャリアプランの検討をうながす講習やプレゼンテーションを導入し、また、各種心理検査、グループミーティング、作業課題としてのワークサンプル幕張版を活用することとしました。   (2) カリキュラムの内容  JDSPのカリキュラムの全体構成は図1のとおりで、「健康・体力面」「対人・認知面」「職務面」における各受講者の課題に応じて実施することとされました。  主なカリキュラム内容の一覧は、図2のとおりです。  図1 JDSPのカリキュラム全体構成 (実践報告書No.22「精神障害者の職場再適応支援プログラム~キャリアプラン再構築~」P4を一部改変) 図2 JDSPの主なカリキュラム内容 (実践報告書No.22「精神障害者の職場再適応支援プログラム~キャリアプラン再構築~」P4より引用)    これらのJDSPの開発時の支援概要については、実践報告書No.15「精神障害者の職場再適応支援プログラム実践集~ジョブデザイン・サポートプログラムの開発~」、実践報告書No.20「精神障害者の職場再適応支援プログラム実践集(2) ~気分障害者に対する復職支援の実践~」に取りまとめ、また、JDSPの考え方にもとづいた具体的な支援の実践を行う中で、「キャリアプラン再構築支援」(平成21(2009)年) や「SSTを活用した対人技能訓練」(平成23(2011)年) などの支援技法を新たに加えながら、JDSPの充実を図ってきました。   3 JDSPの実践報告書および支援マニュアル  実践報告書を配布した各機関・施設に対するアンケートおよびヒアリング調査において、「支援者が共通の視点で復職支援を進められるような支援マニュアルがほしい」との要望が多数寄せられたことを受け、平成24(2012)年度からは、支援技法ごとに支援内容や具体的な進め方、留意点などを取りまとめた支援マニュアルを作成しました。職場復帰支援における支援ニーズの変化をふまえながら技法の開発を重ねた結果、多くの実践報告書や支援マニュアル(表1)を作成し、プログラムの充実を図っています。  これまで開発した支援技法は、ストレスの理解や対処方法について学ぶもの(支援マニュアルNo.9)、怒りのメカニズムや対処法について学ぶもの(支援マニュアルNo. 12)、プログラムで習得したスキルの実用性を高めるために模擬的な職場環境でチームのノルマ達成を目ざす体験・実践プログラム(支援マニュアルNo.16)、自分自身のキャリアについての理解を深め、今後の働き方を考えるもの(支援マニュアルNo.17)、職場復帰を円滑に進めるための事業主との調整に関するもの(支援マニュアルNo.19)、安定した職業生活を送るための生活習慣の形成と維持の方法について学ぶもの(支援マニュアルNo.20)など、多岐にわたります。       なお、開発した支援技法は地域センターへの伝達・普及を行っており、各施設のリワーク支援などにおいて実情にあわせた形で活用されているところです。                                表1 JDSPの実践報告書および支援マニュアル一覧 年度 タイトル 新しく開発された技法 および実践 種類 No. 平成15年度 リワークプログラムとその支援技法~在職精神障害者の職場復帰支援プログラムの試行について~ リワークプログラムの実践 実践報告書 No.12 平成16年度 精神障害者の職場再適応支援プログラム実践集~ジョブデザイン・サポートプログラムの開発~ JDSPの1年間の実践 実践報告書 No.15 平成18年度 精神障害者の職場再適応支援プログラム実践集(2) ~気分障害者に対する復職支援の実践~ JDSPの3年間の実践 実践報告書 No.20 平成20年度 精神障害者の職場再適応支援プログラム ~キャリアプラン再構築支援の実際 ~ キャリアプラン再構築の支援の実践 実践報告書 No.22 平成22年度 精神障害者職場再適応支援プログラム ~SSTを活用した支援の実際~ SSTを活用した支援の 実践 実践報告書 No.24 平成24年度 精神障害者職場再適応支援プログラム~気分障害等の精神疾患で休職中の方のためのストレス対処講習~ ストレス対処講習の内容と具体的な進め方、留意点 支援マニュアル No.9 平成25年度 精神障害者職場再適応支援プログラム~リワーク機能を有する医療機関と連携した復職支援~ 医療機関との連携の 実践 実践報告書 No.26 平成26年度 気分障害等の精神疾患で休職中の方のためのアンガーコントロール支援~講習編~ アンガーコントロール支援の内容と具体的な進め方、留意点 支援マニュアル No.12 平成27年度 気分障害等の精神疾患で休職中の方の怒りの対処に関する支援~アンガーコントロール支援の技法開発~ アンガーコントロール支援の改良と実践 実践報告書 No.29 平成28年度 気分障害等の精神疾患で休職中の方のためのジョブリハーサル ジョブリハーサルの内容と具体的な進め方、留意点 支援マニュアル No.16 平成29年度 気分障害等の精神疾患で休職中の方のためのワーク基礎力形成支援 ワーク基礎力形成支援の内容と具体的な進め方、留意点 支援マニュアル No.17 平成30年度 気分障害等の精神疾患で休職中の方の職場復帰支援における事業主との調整 事業主との調整で活用できる支援ツールの紹介と活用方法、留意点 支援マニュアル No.19 令和元年度 気分障害等の精神疾患で休職中の方のための日常生活基礎力形成支援 ~心の健康を保つための生活習慣~ 日常生活基礎力形成支援の内容と具体的な進め方、留意点 支援マニュアル No.20  ※色付きの部分が支援マニュアル 第2章 JDSPの再構成の背景と考え方 1 職場復帰支援の現状と課題  障害者職業総合センター研究部門が職場復帰支援を実施する医療機関や地域センターを対象に行った調査研究結果と、事業場外資源を活用する企業を対象に行った調査研究結果を紹介し、わが国における職場復帰支援の現状と課題の一部について概観します。そのうえで、職業センターにおけるJDSPの現状と課題もふまえ、JDSPの再構成に向けた考え方と今後の方向性を整理します。 (1) 医療機関における職場復帰支援の現状と課題  障害者職業総合センター研究部門では、平成30(2018)年度、一般社団法人日本うつ病リワーク協会に所属している医療機関181機関を対象に、医療機関が実施する職場復帰支援プログラムの実施状況やプログラムの具体的内容についてアンケート調査を行いました(回答が得られた機関:52機関)。  下記に調査結果の一部を紹介します。詳細については、調査研究報告書No.156「職場復帰支援の実態等に関する調査研究」(2021)を参照ください。 図1 職場復帰支援プログラムにおける実施プログラムの分類  この調査研究では、医療機関の職場復帰支援プログラムの具体的な内容や特徴などを明らかにするため、実施している主要プログラムを回答機関に最大3つ挙げてもらい、その詳細に関する自由記述などをもとに研究担当者が分類を行いました(図1)。  図1のとおり、主要プログラムとして最も高い割合で回答されたのは、「心理教育」であり、次いで「認知行動療法(個別、集団)」でした。いずれも回答のあった医療機関のうち70%以上が実施していました。医療機関における職場復帰支援では、疾病や服薬、治療などに関する心理教育と心理社会療法である認知行動療法が重要な構成要素となっていることがうかがえます。  一方、「作業訓練」を主要プログラムとして挙げた医療機関は32.7%であり、また、その「作業訓練」で想定する目的は「集中力」が52.9%と最も多く、次いで「モチベーション」(41.2%)、「自己洞察」(23.5%)、「コミュニケーション」(23.5%)とつづき、業務遂行力の回復・向上を主たる目的とした支援は多くありませんでした。また、「働くこと・キャリア」に関するプログラムを主要プログラム3つ以内に挙げた医療機関は、全体の5.8%でした。  なお、この「働くこと・キャリア」に関するプログラムを実施している医療機関においては、キャリアコンサルタントの有資格者を外部講師として意見交換を行う「キャリアセミナー」、各年代の発達課題とキャリアについて学ぶ「キャリアアンカーのワーク」、働くことについて考え、モチベーションの向上を図る「就労・復職ミーティング」といった、職業に関するテーマに焦点化した積極的な実践が報告されています。  加えて、この調査研究では、職場復帰支援プログラムを実施するうえでの運営面、内容面および制度面それぞれの課題について自由記述により調査し、主な意見を取りまとめています。この中で、プログラムの内容面の課題として挙げられた意見を整理したものが表1です。  これを見ると、医療機関の職場復帰支援プログラムにおいては、治療や再発予防を目的とした支援は多く実施されている一方、実際の職場の負荷や要求水準に対応するプログラムや企業との連携など職業への適応に焦点化した支援については、取組みを行う機関は一部あるものの、十分に取り扱えないという課題意識があるといえるようです。  そのほか、プログラムの内容面については、発達障害の特性がある利用者に適した対応ができない、疾患別のプログラムがあればよいが体制面や経費面で現実的に難しいなど、多様化する利用者像や支援ニーズに苦慮しているといった意見もありました。 表1 職場復帰支援を実施するうえでの課題 (2) 地域センターにおける職場復帰支援(リワーク支援)の現状と課題  障害者職業総合センター研究部門では、全国の地域センター(多摩支所を含む48カ所)を対象にリワーク支援の実施状況に関するアンケート調査を行い、平成27(2015)年度に調査結果を取りまとめました。  下記に調査結果の一部を紹介します。詳細については、調査研究報告書No.128「精神障害者の雇用に係る企業側の課題とその解決方策に関する研究」(2016)を参照ください。  本調査研究では、リワーク支援の内容について、プログラム内容も含めて実施している支援内容という項目で調査しています。調査結果は図2のとおりです。 図2 利用者又は家族に対する支援内容  図2のとおり、「新たな職務に対応するための支援」「キャリアプランの再構築のための支援」以外は、「必ず実施する」「実施することが多い」の割合が8割を超え、多くの地域センターで共通に実施されている支援となります。地域センターにおけるリワーク支援では、体調の自己管理、ストレス対処、コミュニケーションスキルといった復職準備における基本的な対処能力の習得を目ざす支援に加え、作業遂行における集中力・持続力の回復・向上、事業主との連絡調整といった、職業に就き継続することを支援する職業リハビリテーション機関の機能を活かしたプログラムが重要な構成要素となっているといえます。  しかし、「キャリアプランの再構築のための支援」や「新たな職務に対応するための支援」を「必ず実施する」「ほとんど実施する」と答えた地域センターについては、それぞれ73.0%、31.3%と比較的少なく、キャリアや職場適応能力の向上に関する支援については十分に整備されていない状況にあることもうかがえます。  なお、この調査結果が報告された平成27(2015)年以降、職業センターでは、平成28(2016)年度に職場に近い環境設定での体験・実践プログラム「気分障害等の精神疾患で休職中の方のためのジョブリハーサル」を、平成29(2017)年度にはキャリア講習などから構成されるプログラム「気分障害等の精神疾患で休職中の方のためのワーク基礎力形成支援」を開発し、地域センターにおけるリワーク支援への普及・伝達を行っています。  そのほか、この調査研究では、企業が地域センターにおけるリワーク支援に対し求めることは、体力や業務遂行力、職場に対する適応力の高いレベルでの回復・向上であると考察しています。また、医療機関は地域センターにおけるリワーク支援に対し、復職に向けた環境調整の交渉など企業へのアプローチを期待していると指摘しています。今後の課題については、発達障害の特性のある休職者や若年である休職者など多様なニーズを持つ休職者の増加への対応と、復職後のフォローアップを含む企業への支援のあり方の2点を挙げています。 (3) 企業における事業場外資源への期待  障害者職業総合センター研究部門では、令和元(2019)年に調査時点における国内すべての上場企業3,740社に対し、「社員のメンタルヘルス不調と休職・復職に関する調査」を行いました。この中では、医療機関における職場復帰支援プログラム、地域センターにおけるリワーク支援、コンサルタント会社などによる従業員支援プログラム(EAP)などの事業場外資源に係る利用状況の比較を行っています。  下記に調査結果の一部を紹介します。詳細については、調査研究報告書No.156「職場復帰支援の実態等に関する調査研究」(2021)を参照ください。  表2は、企業が事業場外資源に対して期待したことを支援内容別、事業場外資源別に整理したものです。これを見ると、事業場外資源の特性に応じて企業が期待する支援内容は異なることが分かります。事業場外資源ごとに最も選択率が高かった支援内容を見ると、医療機関については「メンタルヘルス不調の回復」、地域センターについては「業務遂行能力の回復」、EAPについては「休職者等や復職者の相談・助言」となっています。さまざまな支援機関が企業のメンタルヘルス対策に対応する支援を展開する中で、企業は事業場外資源の特性に応じて使い分けるようになってきているといえるかもしれません。 表2 事業場外資源に期待した事項別の選択率 支援内容 医療機関 《回答企業数 =53社》 地域センター 《回答企業数 =55社》 EAP 《回答企業数 =26社》 その他 《回答企業数 =16社》 休職者等のメンタルヘルス不調の回復 79.2 (42) 60.0 (33) 42.3 (11) 50.0 (8) 休職者等や復職者の相談・助言 37.7 (20) 52.7 (29) 76.9 (20) 56.3 (9) 休職者等の業務遂行能力の回復 54.7 (29) 69.1 (38) 19.2 (5) 18.8 (3) 不調や休職の原因の解明と企業の対応のヒント 28.3 (15) 50.9 (28) 57.7 (15) 56.3 (9) 休職者等のコミュニケーション能力の向上 43.4 (23) 58.2 (32) 19.2 (5) 25.0 (4) 復職後の再休職の防止に向けた何らかのサービス 37.7 (20) 41.8 (23) 34.6 (9) 31.3 (5) 休職中の体調・病状等の把握と企業への説明 17.0 (9) 41.8 (23) 34.6 (9) 43.8 (7) 社員のメンタルヘルス不調に対応しているスタッフの相談役 7.5 (4) 18.2 (10) 61.5 (16) 37.5 (6) 休職していない社員を含めた、メンタルヘルス不調の予防・改善のための企業への助言、社員への協力等 7.5 (4) 5.5 (3) 53.8 (14) 56.3 (9) 休職者等と職場の意見・人間関係の調整 7.5 (4) 20.0 (11) 15.4 (4) 18.8 (3) その他 5.7 (3) 3.6 (1) 11.5 (3) 12.5 (2)  ※回答企業数:事業場外資源を利用した155企業のうち当該事業場外資源を利用した社員         数が最も多かったと回答した企業の数   ※単位:選択率(%)。( )内は選択した企業数      ※事業場外資源ごとに最も選択率が高かったセルに色 (4) JDSPにおける現状と課題  第1章でもふれたように、JDSPにおいては、開発当初から15年が経過し、精神疾患による休職者の増加や多様化、職場復帰支援の広がり、企業におけるメンタルヘルス対策の推進やニーズの変化などに応じ、さまざまな支援技法の開発を追加し、プログラムを変化させてきました。反面、JDSPの構成要素を示した従来のロジックモデル(図3)を見ると、構成要素が多岐にわたり、復職を目ざす休職者にとっても、支援を行う支援者にとっても、取り組むべき支援課題や到達目標、各プログラムのねらいや効果、またそれら相互の関連付けが複雑でわかりにくいものとなっています。  また、JDSPは、生活リズムの安定や体調管理、対人技能やストレス対処に関する職場復帰のウォーミングアップとしての支援に加え、職場適応能力の向上とキャリア形成を支援する支援技法や事業主の労働環境整備を推進するための支援技法など、職業の適応に焦点化した支援技法の開発を行ってきました。しかし、実践を重ねる中で、わかりやすさや活用のしやすさ、効果の視点であらためて内容の見直しや整理を行ったり、新たな知見や情報を追加するなど、支援技法の改良が必要となっています。また、近年の多様な職場復帰支援の広がりもふまえ、職業への適応に焦点化した支援については、職業リハビリテーション機関が行う職場復帰支援の主要プログラムとして、その位置づけを明確化する必要があると考えています。                                            図3 従来のJDSPの構成要素(ロジックモデル)    これらをふまえ、JDSPのカリキュラムの再構成を検討するにあたり、JDSPの全体像や構成要素をわかりやすく整理し、休職者、事業主、支援者が目的や内容、方向性を把握しやすいようロジックモデルを見直すとともに、JDSPの現在のカリキュラム構成や各プログラムの内容、支援の実際、実施上の工夫や留意事項をあらためて具体的に提示することとしました。また、今後は、ジョブリハーサルやキャリアに係る支援など職業への適応に焦点化したプログラムの充実を図ることとしています。  今年度および今後において、JDSPのカリキュラムの再構成の中で取り組む課題を表3に示します。 表3 JDSPのカリキュラムの再構成における取組み課題 再構成の項目 取組み課題 1 JDSPの全体像と構成要素の整理 * ロジックモデルの改良、カリキュラムの構成要素の作成 * カリキュラムの全体構成と内容の整理 2 実施上の工夫、留意事項の整理 * 各プログラムの具体的な内容と支援の実際の提示 * 各プログラムの実施上の工夫、留意事項などの整理 * 連動した効果を上げるための説明資料や講習教材、ワークシートなど支援ツールの整備 3 ジョブリハーサルの改良 * 地域センターにおけるジョブリハーサルの実施状況の分析 * 新たなタスクワークの作成 * 実施方法や留意事項などの整理 * 新たな支援マニュアルの作成 4 キャリアに係る支援技法の改良 * キャリアプラン再構築支援の改良 * ワーク基礎力形成支援の改良 * 新たな支援マニュアルの作成 第3章 JDSPとは 1 JDSPの全体像  第2章で述べた再構成の背景と考え方をふまえて、JDSPの全体像と構成要素を整理したものが図1の構成図です。 2 JDSPの構成要素 (1) JDSPの目的、利用経路、開始までの手続き  JDSPは、休職者の「スムーズな復職」と「復職後の健康的で安定した職業生活」を目的として、休職者と事業主双方に支援を行うものです。  JDSPの利用経路には、「気分障害等の精神疾患による休職者」、「主治医」、「事業主」があります。最初に休職者へのインテーク(初回相談)を行います。また、主治医の意見書を取得し、可能であれば通院同行を行います。さらに、事業主との連絡調整を行いながら「復職に向けた課題・支援ニーズの確認」を行い、それらをふまえて「支援計画の策定」を行い、休職者・主治医・事業主の「三者同意」を経てJDSP開始となります。 (2) JDSPの目標  職場復帰支援の目的である「スムーズな復職」を目ざすうえで、支援目標は職場復帰の可否を判断する事業主の判断基準をふまえて検討することが必要です。  復職判断基準については、総合的な判断が必要となることを前提として、一般によくある基準例が厚生労働省による事業場向けマニュアル「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」1)に紹介されています。 【判断基準の例】  労働者が十分な意欲を示している。  通勤時間帯に一人で安全に通勤ができる。  決まった勤務日、時間に就労が継続して可能である。  業務に必要な作業ができる。  作業による疲労が翌日までに十分回復する。  適切な睡眠覚醒リズムが整っている、昼間に眠気がない。  業務遂行に必要な注意力・集中力が回復している。 など 「改訂 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」、p 6 図1 ジョブデザイン・サポートプログラム(JDSP)の構成図  また、JDSP開始にあたり休職者や事業主から支援課題としてよくあげられる事項に、「休職経緯を整理できているか」、「再休職予防に向けた対処策を検討できているか」、「働き方を見直す視点を持つことができているか」があります。  これらをふまえ、JDSPでは、JDSPの目標を次の4項目としています。  ただし、個々の職場復帰支援における支援課題や目標は、休職者個人の状況や職場の受入れ体制などの環境要因により個別に総合的に検討されるものとなります。 (3) JDSPの4つのテーマ  職場復帰支援のもう一つの目的である「復職後の健康的で安定した職業生活を維持する」ためには、生活習慣や健康管理のあり方、物事のとらえ方、コミュニケーションやソーシャルサポート活用のあり方、仕事の取組み方や働き方、余暇・リラックスのあり方など、職業生活全般にわたるさまざまな局面においてさまざまな知識やスキルを活用してくこととなります。  JDSPでは、プログラムの中で習得を目ざす知識やスキルを、「①生活習慣」、「②ストレス対処」、「③コミュニケーション」、「④仕事の取組み方・働き方」の4つのテーマに分類しています。この4つの視点をもとに自分自身や自分自身の職業生活を多角的に分析し、休職要因の振返りと再休職予防策の検討を行うよう提案しています。  なお、JDSPのカリキュラムの再構成にあたっては、この4つのテーマに沿った整理がしやすいよう、各プログラムの教材や各種ワークシートなどの見直しを行っています。 図2 JDSPの4つのテーマ (4) JDSPの支援サイクル  受講者がそれぞれの支援課題や支援目標に応じ、学んだ知識やスキルを実際の職業生活の中で具体的な行動レベルで実践していけるよう、JDSPのカリキュラムは、「学ぶ」、「体験・実践する」、「振り返る」の3つのサイクルの繰り返しにより構成されます。 図3 JDSPの支援サイクル ア 「学ぶ」  「学ぶ」は知識付与にあたる要素であり、JDSPでは、【復職セミナー】、【セルフケアプログラム】、【コミュニケーションプログラム】の3種のプログラムで構成されています。  【復職セミナー】は、「日常生活基礎力形成支援」、「ストレス対処講習」、「アンガーコントロール支援」、「キャリア講習(ワーク基礎力形成支援)」といったセミナー形式のプログラムです。  【セルフケアプログラム】は、「運動」、「リフレッシュ体験」、「マインドフルネス」といった体験型のプログラムです。  【コミュニケーションプログラム】は、「アサーション講座とSST(対人技能訓練)」、「グループディスカッション」といったグループワークを中心としたプログラムです。  ここでは、受講者が休職前にはなかった知識やスキルを学び、受講者同士の意見交換により理解を深め、復職に向けた新たな視点を手に入れることがねらいとなります。 イ 「体験・実践する」  「体験・実践する」は、学んだ知識やスキルを実際に試す機会のことであり、JDSPでは、【ジョブリハーサル】と【生活習慣・セルフケア】の2つで構成されます。  【ジョブリハーサル】は、模擬的な職場環境を設定し、その中で自分自身の認知や行動の癖、仕事の取組み方の特徴などについての気づきを得るとともに、体調やストレスのセルフマネジメントや役割行動、チームワークなどにおいて学んだ知識やスキルを実践してみるという体験・実践プログラムです。  【生活習慣・セルフケア】は、「日常生活基礎力形成支援」を通じて設定した行動目標と疲労・ストレスを軽減するセルフケアのモニタリングを行うプログラムです。  ここでは、学んだ知識を具体的な実感として理解したり、ストレス対処スキルやコミュニケーションスキル、セルフケアスキルなど学んだスキルを試すことを通じ、復職後の仕事場面や生活場面での実用性を高めることがねらいとなります。 ウ 「振り返る」  「振り返る」は、プログラムによる気づきを個別に整理するための機会のことであり、【各種ワークシートによる振返り】、【個別面談による振返り】、【グループワークによる振返り】で構成されます。  【各種ワークシートによる振返り】では、「受講日誌」、「生活記録表」、「行動ノート」、「ジョブリハーサル日誌」、「休職経緯と対処方法の整理シート」といったさまざまなワークシートへの記入・記録を通じて、気づきを言語化・視覚化し、理解の整理・定着を目ざします。  【個別面談による振返り】では、概ね週1回の担当カウンセラーとの面談を通じて、支援計画や支援目標をふまえた進捗を確認しながら、個別の支援課題について理解を深めていきます。  【グループワークによる振返り】では、1日の全体プログラムの終了時や各プログラムの終了時ごとに行うミーティング(受講者によるグループワーク)を通じて、異なる視点からの気づきを得たり、他者の価値観を知ったり、相互のフィードバックにより自らを客観的に見つめ直し、多角的な理解が進むことを目ざします。  ここでは、受講者が個別の支援課題や支援目標に応じて、自己の理解を整理したり、深めたり、視点を変えて俯瞰することがねらいとなります。 (5) 事業主との調整  事業主との調整はJDSPの重要な構成要素です。職場復帰支援は、休職者の職業生活への再適応とその継続を目ざすものであり、休職者が会社組織の中で主体的に業務遂行できるように支援することが求められます。したがって、復職にあたっては、職場が定める復職手続きをふまえ、休職者が主体的に職場との調整・交渉を行うことは原則となります。JDSPでは、受講者と事業主による主体的な職場復帰への取組みを主軸に据えながら、事業主との連絡調整を行います。  事業主との調整は、支援開始時に行う「基本情報の共有と支援目標の明確化」、JDSPの途中で必要に応じて行う「進捗の共有」、支援終了時に行う「取組み成果の共有」で構成されます。 (6) 復職レポートの作成  復職レポートは、JDSPの終了にあたって受講者自身がJDSPの取組み成果を取りまとめるものです。事業主に対して行う終了報告の際には、体調・健康状態や通院・服薬の現状、JDSPの受講状況、休職要因の分析や再休職予防策の検討結果などの報告が求められるため、これらをレポートの形式で整理します。  JDSPの4つのテーマをふまえた多角的な分析ができているか、体験・実践しながら検討した具体的な行動レベルの対処策を示しているか、事業主の意向や見解をふまえているか、客観的か、現実的か、簡潔か、といった視点で振り返りながら、受講者が主体的にレポートにまとめ上げる作業は、JDSPの集大成とも言えます。   【参考文献・引用文献】 1)厚生労働省:「改訂 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き ~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~」(2020) 3 JDSPの実際 (1) 対象者  JDSPの対象者は、以下の要件を満たす方としています。  ・気分障害等の精神疾患により休職中で、復職を希望されている方。  ・日常生活に支障がない程度に病状が安定しており、週5日の通所が可能な方。  ・受講について休職者、事業主、主治医の三者の同意が得られる方。  なお、同時期に利用する受講者数の上限は5名程度としています。 (2) 支援の流れと支援期間  JDSPの基本的な支援の流れは、図4のとおりです。  JDSPでは、休職者および事業主の状況に応じ、主治医の意見を参考にしながら、12~24週間の間で支援期間を設定します。標準的な支援期間は12~14週間程度です。  通所日数は、週3~4日から開始し、疲労や体調の状況を確認しながらおおよそ1カ月程度で段階的に週5日へと増やします。  支援期間終了段階では、JDSPでの取組みの結果や再休職予防策を事業主と共有する「終了報告会」を実施します。復職後は、フォローアップとして、面談や電話・メール相談を6カ月間実施しています。 図4 J D S Pの支援の流れ (3) カリキュラムと実施例    ア カリキュラムの概要一覧    イ 1週間のスケジュール  ウ 標準支援期間(12週間)のスケジュール例  標準支援期間(12週間)のスケジュール例にあるように、期間前半に、「日常生活基礎力形成支援」の講座、「ストレス対処講習」、「アサーション講座」を通じて、気分や体調のマネジメントに関わる基本的な知識やスキルを習得してもらいます。  後半は、ストレス対処やアサーションの知識を得たうえで受講すると理解が深まりやすい「アンガーコントロール支援」、ほかのプログラムでの気づきをふまえて自らのキャリアについて見つめ直し、今後の働き方を検討する「キャリア講習」を実施します。また、負荷が比較的高い「ジョブリハーサル」は、週5日の通所が可能となってから実施しています。  個別課題では、ワークサンプル幕張版(MWS)を活用した作業課題や業務関連の学習、関連書籍の読書や復職レポートの作成など、受講者各自が活動内容を決めて個別に取り組みます。個別課題で行う取組み内容例は表1のとおりです。  個別面談は、個別課題の時間を使い、受講者とカウンセラーとで週1回の頻度で実施します。ここでは、プログラムを通じて得た知識や体験・実践をふまえながら、復職に向けた課題の整理、休職要因の分析、再休職予防策の検討を行います。  そのほか、外部講師によるセミナー(精神科医師による気分障害などの疾患に関する講座、専門家によるマインドフルネスやキャリアに関する講座、JDSP修了者による講話)を不定期で実施しています。   表1 個別課題の取組み内容例   次に、各プログラムの概要について紹介します。 プログラムの概要 ≪ストレス対処講習≫  ストレス対処講習は、受講者がストレスについて理解し、自らのストレス要因を振り返り、職業生活上で生じるストレスに対し現実的で具体的な対処行動を取ることができるようになることを目的としています。  本講習は認知行動療法を援用したもので、否定的な認知を多面的にとらえ直しバランスの取れた考え方に修正する方法、また、合理的な対処行動や問題解決策を検討し実行する方法について学びます。   受講者が休職要因や再休職予防策の検討を進めるうえで必要となる、ストレスについての基本知識やストレス場面を客観的に分析する視点、具体的な行動レベルの対処策を検討する手法を提供するもので、JDSPを進めるうえでベースとなる講習でもあります。 【実施方法】  少人数(5名程度)のグループワーク形式で実施しています。  グループワークは、教材による講義、ストレスパターン診断テストやリワークノート※といった各種ワークシートによる演習、受講者同士の意見交換で構成されます。 ※ リワークノート…講習で使用するワークシートの総称。「体験整理シート」「コラムシート」「問題解決プランシート」など。 【実施時間・回数】  1回120分程度(休憩含む)の講座を、全9回で実施しています。 【実施内容】  本講習は、ストレスとストレス対処の概要を学ぶ「ストレス理解」、ストレスを感じた場面を整理・把握する方法を学ぶ「アセスメント」、バランスのある物事のとらえ方や合理的な対処行動、問題解決の具体策を探る方法を学ぶ「認知の工夫」「行動の工夫」から構成されます(表2)。 表2 ストレス対処講習の内容  なお、講座の教材として使用するパワーポイント資料や各種ワークシートは、支援マニュアルNo.9「気分障害等の精神疾患で休職中の方のためのストレス対処講習」に添付しているCD-ROMに収録しています。     【実施のポイント】  前述したとおり、ストレス対処講習は、JDSPを進めるうえでのベースとなる講習です。支援スタッフは進行の中で、ほかのプログラムとの連動を意識づける解説を行ったり、学んだ対処スキルを自分自身に合った形で活用できるよう、継続的な実践をうながしていくことが大切です。  例えば、講習の中では、ストレス要因を明確にすることがストレス除去・軽減のポイントとなることを解説しますが、演習として行うワークシート「ストレス理解シート」は休職要因の分析の検討材料にもなることを伝えます。また、セルフケアプログラムで取り組む「運動」「リフレッシュ体験」「マインドフルネス」は、ストレス反応をしずめる手段となることを説明し、対処としての活用をうながします。そのほか、うつ病の予防や回復につながる行動化のアプローチとして、本講習で扱う問題解決技法に加え、SSTで学ぶアサーションや、日常生活基礎力形成支援で学ぶ習慣化、毎日の生活記録表の活用などが選択肢となりうることを説明します。  また、認知や行動の工夫を日常的に実践できるようになるためには練習の積み重ねが必要なため、プログラム中にストレスを感じる体験をしたときには、リワークノートによりストレス場面を整理し、どう対処するかを客観的・合理的に検討してみるよう受講者には繰り返し働きかけます。 図5 講座資料の一部 【受講者の感想・効果】  受講者からは、「リワークノートを書くことで、自分の思考のパターンが認識でき、ストレス要因の分析に役立った」、「セルフトークなど復職後に役立ついろいろなストレス対処の方法を学び、活用できるようになった」、「他者と意見交換をすることで考え方の幅が広がり、解決策を柔軟に考えられるようになった」といった感想が聞かれています。  ストレス対処講習には、ストレス場面を客観的にとらえたり、具体的な対処策を見出したり、幅広い視点で対処策を考えることができる力を身につける効果があると感じられます。   ≪アンガーコントロール支援≫  アンガーコントロール支援は、職業生活の中で生じる怒りの感情に気づき、適切に対処するためのセルフマネジメント力の習得を目的としています。  怒りに対処できず溜め込んだり爆発させてしまうと、心身の健康や人間関係の質にも関わり、また、相手から怒りをぶつけられた経験が休職の要因となる場合もあります。そのため、復職後の職場適応を図るうえで、怒りとの付き合い方を学ぶことは重要です。  本講習は、集団認知行動療法や、怒りの感情に適切に向き合い自己表現するための効果的なコミュニケーションスキルであるアサーションの考え方を組み込んでいます。 【実施方法】  少人数(5名程度)のグループワーク形式で実施しています。 グループワークは、教材による講座、各種ワークシートを用いた演習、受講者同士の意見交換で構成されます。 【実施時間・回数】  1回120分程度(休憩含む)の講座を、全4回で実施しています。 【実施内容】  本講習は全4回の講座(表3)と個別フォローにより構成されています。   表3 講習の内容                       講座では、怒りのメカニズムや瞬間的な怒りをしずめる方法、認知的対処などについての知識付与や演習を行います。また、ワークシート(「怒りとは?文章完成・気分温度計」、「アンガーログ」など)を用いて自らの怒りの感情を客観的に整理し、自らの怒りを生む信念への気づきをうながすとともに、対処策の検討と実行について受講者同士で話し合い理解を深めます。  個別フォローでは、受講者が怒りを感じたり怒りを向けられた場面を振り返り、習得した対処方法を試すことができるかを個別に確認しています。  なお、講座の教材として使用するパワーポイント資料や各種ワークシートは、支援マニュアルNo.12「気分障害等の精神疾患で休職中の方のためのアンガーコントロール支援~講習編~」に添付しているCD-ROMに収録しています。     【実施のポイント】  受講者が怒りについて振り返ることは心理的負荷が高く、復職を目前にした際の不安や焦りなどから、攻撃性や他罰的傾向が表出する場合も考えられます。そのため、事前の相談において、職場や上司・同僚に対する怒りや攻撃性の有無について把握しておくことが大切です。また、怒りの感情を取り扱うことが症状へと影響する可能性もあるため、実施にあたっては事前に主治医の同意を得ます。受講する中で、感情の揺れが大きくなった際には速やかに主治医に相談したり、場合によっては受講を見合わせることも必要です。  なお、怒りの仕組みについて一般的な知識を学ぶ第1回講座はすべての受講者に実施しますが、第2回以降の講座は、自分自身の怒りの課題と向き合い対処方法の検討に取り組むことに対し、目標の設定と受講の意思が確認できた場合に実施します。 図6 講座資料の一部 【受講者の感想・効果】  受講者からは、「怒りを抑え込むことで、自分にストレスを向けていたことに気づいた」、「上司との価値観の違いによって生じた不満感情が、休職に至った不調の背景にあることに気づいた」、「自分が怒りを感じやすい場面のパターンを知ることで、アサーションを意識できるようになった」などの感想が聞かれています。この支援を通じて、自分のストレスや休職の要因に怒りの感情があったことを発見し、怒りを喚起する自分の思考の癖や、価値観が異なる他者とのコミュニケーションの取り方を見直し、再休職予防策の検討が進む受講者もいます。 ≪キャリア講習≫  キャリア講習は、キャリアの視点から自分自身を見つめ直し、復職後の新たな働き方について検討することを目的としています。キャリアに関する自分自身の価値観や強み、周囲から期待されている役割を振り返ったうえで、復職後に何を大切にして働いていくのかや、現実的なキャリアについて、再休職予防の観点もふまえて検討します。  また、キャリア講習は受講者同士のグループディスカッションに重きを置いています。ほかの受講者と意見を交わすことにより自分とは異なる多様な価値観や考えを理解するとともに、キャリアについての新たな気づきを得るための機会としています。 【実施方法】  少人数(5名程度)のグループワーク形式で実施しています。  グループワークは、教材による講義、キャリアに関する各種ワークシートの記入、受講者同士のグループディスカッションで構成されます。 【実施時間・回数】  1回120分程度(休憩含む)の講座を、全5回で実施しています。 【実施内容】  本講習は、「オリエンテーション・導入講座」と4回の「キャリア講座」で構成されます。   表4 キャリア講習の内容     講座の第1回では、生き方や職業生活の拠り所となる自分の価値観やキャリア・アンカーを振り返るとともに、グループワークにより多様な価値観があることを理解します。第2回では、成功体験の振返りを通じて復職後に活用できる自分の強みを確認し、自信の回復をはかります。第3回では、ワークシート「役割ネットワーク」「役割の棚卸しリスト」にもとづき、周囲から寄せられている期待を整理し、自分が大切にしたい価値観と周囲からの期待との折り合いを検討します。第4回では、第3回までの内容をもとにこれまでの職業生活や休職経緯をあらためて振り返ったうえで、今後の自分が目ざす働き方とその実現に向けた具体的な行動計画を検討します。  なお、講座の教材として使用するパワーポイント資料や各種ワークシートは、支援マニュアルNo.17「気分障害等の精神疾患で休職中の方のためのワーク基礎力形成支援」に添付しているCD-ROMに収録しています。 図7 講座資料の一部( 支援マニュアルの内容を改変して実施) 【実施のポイント】  キャリアを振り返る中では、「復職後も以前と同じように働くべき」「休職した自分は何も期待されていない」といった偏った認知の癖により思考の幅が狭くなる場合があります。このような場合には、ストレス対処講習で学んだ考え方や方法にもとづいて認知の癖への気づきをうながし、バランスの取れた冷静な視点で自らのキャリアについて考察できるよう働きかけます。  そのほか、例えばジョブリハーサルにおける役割行動の中で、キャリアに関する価値観が気分・体調の揺れに与える影響を実感する場合もあります。支援スタッフはJDSP全体を通じてキャリアについて考えてみるよう受講者に働きかけます。  また、受講者が安心して自らのことを語り、そのうえで他者の多様な考え方に触れられるよう、グループワークの運営においては肯定的な雰囲気づくりが大切となります。 【受講者の感想・効果】  受講者からは、「自分がどのように働いていきたいのかを整理でき、今後の職業人生を考えるうえでの基盤になった」、「成功体験から自分の強みに気づくことができ、再度自信を持つことができた」、「周囲から期待されている役割を明確にできた」などの感想が聞かれています。  キャリア講習は、働くうえで自分自身の軸となる価値観や強みを確認する、周囲や他者の視点で自分の役割を見直す、多様な価値観に触れながらそれらの折り合いを探る、といったプロセスを通じ、復職後の新たな仕事の取組み方や働き方を検討するきっかけとなっています。 ≪日常生活基礎力形成支援≫  日常生活基礎力形成支援は、JDSPの目的である復職後の健康的で安定した職業生活の基礎となる適切な生活習慣(睡眠、食事、運動、セルフケアなど)の確立と維持を目ざす支援です。心の健康を保つための生活習慣と習慣化に関する学習をはじめ、ワークシートによる行動記録、グループワークによる受講者同士の支え合いなどを活用し、受講者が主体的に目標に取り組み、自己管理のもと適切な行動を継続できるよう支援します。  なお、新たな行動の習慣化には時間を要することから、プログラム開始時から継続的に支援を実施します。 【実施方法】  生活習慣の改善に関する学習を行う「講座」、受講者自身が取り組む行動目標を決め、その実施結果や効果を記録する「セルフモニタリング」、行動を継続するための動機づけや必要な軌道修正を行う「習慣化のフォローアップ(習慣化ミーティングと個別面談)」で構成されます。  「講座」と「習慣化ミーティング」は、グループワークとして実施します。「個別面談」は、目標行動の継続が滞っている場合や、JDSPが終了した復職後も行動を継続させるための工夫や仕組みを検討する際に実施します。 【実施時間・回数】   全2回の「講座」を導入として連続して実施します(1回120分、休憩含む)。 「セルフモニタリング」では、JDSPの早い段階から受講者が「行動ノート」に目標行動の実施結果を毎日記録し、また、1週間の最後に得られた効果や次週に向けた改善点を記録します。「習慣化ミーティング」は、毎週1回、30~40分程度で実施します。 【実施内容】  実施内容は表5のとおりです。また、講座で使用する教材例を図8に示します。  「講座」では、生活習慣と心の健康の関連についての基礎知識を付与したうえで、現在の生活習慣を振り返ってもらい、生活習慣改善への関心を引き出します。  次に、行動を習慣化するためのコツを学んでもらい、継続可能な適切な行動目標と、実行に向けた具体的な行動計画を立て、グループの中で宣言してもらうことにより、取り組む意欲を喚起します。行動目標には受講者各自で取り組みますが、「行動ノート」への記録により達成感の醸成を図り、さらに、受講者同士で情報交換したり、ねぎらいあい励ましあう「習慣化ミーティング」により行動の持続とモチベーションの維持を支援します。本支援は、実行と継続が難しい行動変容に向けた取組みを段階的にうながす構成となっています。  なお、講座の教材として使用するパワーポイント資料や各種ワークシートは、支援マニュアルNo.20「日常生活基礎力形成支援~心の健康を保つための生活習慣~」に添付しているCD-ROMに収録しています。   表5 日常生活基礎力形成支援の内容 【実施のポイント】  生活習慣の改善に向けた取組みを継続するためには、受講者自身から動機を引き出すことが大切です。「習慣化ミーティング」を運営する際には、取組みについてのねぎらいや共感を示し、また、現状を変えようとする変化の意思を示す言動やできていることに焦点を当てたフィードバックを行い、受講者の自信やモチベーションを強化することを心がけます。  なお、受講者はともすると難易度が高い目標を設定したり、複数の行動に一度に取り組もうとしますが、達成できない経験が重なると失敗感情を強め、自尊心が低下する恐れもあります。計画した行動の着実な継続こそが、小さなことであっても自己効力感につながることを繰り返し伝え、無理なく続けられる目標を設定し、成功体験を積み重ねられるよううながします。また、気力や体力が低下した場合の目標を別に設けておくことや、取り組めなかったときの気持ちの切替え方をあらかじめ検討しておくこともポイントです。 図8 講座資料の一部 【受講者の感想・効果】  受講者からは「目標行動を続けたことで身体や気分へのよい変化を実感できた」、「生活習慣が気分や体調の安定にいかに重要かわかった」、「行動ノートや習慣化ミーティングが、継続のモチベーションとなった」といった感想が聞かれており、知識付与と行動を継続するための取組みをあわせて行うことで、多くの受講者が生活習慣の改善の効果を感じています。本支援は、行動を続けることによる達成感や自己効力感が得られることで、受講者の自信を回復させる効果が大きいことも特徴です。 ≪運動≫  運動は、受講者の体力・活動性の回復や気分転換、ストレス対処を目的としたプログラムです。仲間と楽しみながら無理なく身体を動かす体験を通じて、受講者が運動の効果について理解・実感し、日常生活での心身の健康維持に活かすことを目ざします。   【実施方法・実施内容】  受講者に対しては、JDSP開始時のオリエンテーションで、「運動プログラムのご案内」(図9、資料6参照)をもとに運動に取り組む目的や注意事項についてあらかじめ説明をします。ここでは、運動をセルフケアへと活かす意識づけを行うとともに、自らの身体の状態に合わせて無理せず安全に取り組むことを確認します。  運動の内容は「運動プログラムリスト」(図10、資料7参照)の中から、受講者同士で相談のうえ決定しています。  体操やストレッチ、ヨガなどについては、市販のDVD教材を用いて実施します。  支援スタッフ1~2名が一緒に参加し、受講者の体調の確認や休憩を適宜うながし、安全に配慮しながら運営します。 図9 運動プログラムのご案内 図1 0 運動プログラムリスト 【実施時間・回数】  毎週月曜日(第4月曜を除く)の午後、1回120分で2種類の運動を実施します。 【実施のポイント】  プログラムでの取組みを日常生活に活かすためには、体験するだけでなく、その効果を受講者自身が実感できることが大切です。JDSPでは、「運動プログラム振返りシート」(図11、資料8参照)を活用し、運動前後の体調と気分の変化について検証します。気分と体調の状態を数値化し、実施前は〇印、実施後は☆印で記入し、運動による変化を視覚的に確認してもらいます。さらに、受講者自身が効果的だと感じたことや今後の生活で取り入れられそうなことを記入してもらい、体調管理やストレス対処として生活の中で役立てていくよううながします。 図1 1 運動プログラム振返りシート(記入例)   【受講者の感想・効果】  休職中は、身体を動かす機会が減っている受講者も多いため、定期的に運動に取り組むことでストレスの発散や自らの体力の回復度合いの確認に有効だったとの感想が聞かれています。これまで運動の習慣がなかった受講者も、体験を通じて身体の心地よさやリフレッシュ効果を実感し、日常生活の中で継続する様子も見られています。       ≪リフレッシュ体験≫  リフレッシュ体験は、創作活動や複数人で楽しむゲームなど、さまざまな趣味活動の体験を通じて、気分転換やリラックスに有効なセルフケアの選択肢を増やすことをねらいとしたプログラムです。 【実施方法・実施内容】  受講者に対しては、JDSP開始時のオリエンテーションで「リフレッシュ体験のご案内」(図12、資料9参照)にもとづき、リフレッシュ体験の目的をあらかじめ説明し、自らのストレス対処の選択肢として加えられる活動がないかといった視点での参加をうながします。  活動内容は、受講者が主体となって運営する「リフレッシュ体験ミーティング」(資料10参照)において決定します。受講者同士で話し合い、リフレッシュ体験リストなどを参考にしながら一つのメニューを決めるため、これまで経験したことがない活動や自分一人では選ばないような活動に取り組む機会にもなり、新しいストレス対処法を発見するきっかけとなります。 図1 2 リフレッシュ体験のご案内 【実施時間・回数】  毎月第4月曜日の午後、1回120分(休憩含む)で実施しています。   【実施のポイント】  運動プログラムと同様、「リフレッシュ体験振返りシート」(図13、資料11参照)により、取組みによる効果を確認し、ストレス対処に役立つと感じた活動が見つかった場合は、日常生活上の活用につながるよう意識づけます。  創作活動など、受講者によっては苦手意識を持つ活動に取り組む場合は、支援スタッフからうまく取り組むことではなく体験することが目的のプログラムであることを伝え、受講者が楽な気持ちで体験できるよう留意します。 図1 3 リフレッシュ体験振返りシート(記入例) 【受講者の感想・効果】  受講者からは、「昔好きだった絵を描くことに久しぶりに取り組み、気持ちが落ち着いた。これからも時々描いてみたい」、「これまで読書や音楽鑑賞が息抜きの方法だったが、茶話会を体験し、人と話すことがリフレッシュになるという新しい発見があった」といった感想が聞かれています。  また、「一人で黙々と取り組むものは、集中しすぎるためかえって疲れることに気づいた」など、体験するからこその気づきが得られた受講者もおり、自分自身に合ったセルフケアの方法を考える一助となっています。     ≪マインドフルネス≫  マインドフルネスは、近年注目されている新たなストレスケアの方法です。マインドフルネスとは、「自分が生きている今、この瞬間に注意を向け、自分の中に浮かんでくる考え、感情、身体感覚などを、判断や評価を加えずにそのまま受け止める」ことを指し、「今」に注意を集中することで心の平穏を得るものです。  JDSPでは、「日常生活基礎力形成支援」の講座においてマインドフルネスをセルフケアの一つとして紹介し、プログラム開始時に受講者全員で取り組んでいます。    【実施方法・内容】  受講者には、初日のオリエンテーションにおいて、資料(図14)をもとにマインドフルネスの概要や基本的な考え方についての説明を行い、マインドフルネスに取り組む目的について理解したうえで参加できるようにしています。  マインドフルネスは日々の実践の積み重ねが大切と言われています。JDSPでは、どこでも誰でも取り組むことができる、マインドフルネス瞑想の基本とされる「マインドフルネス呼吸法」を毎日実施しています。支援スタッフの進行のもと、受講者と支援スタッフ全員が参加します。呼吸法に適した姿勢の整え方のアナウンスやBGMは、市販の書籍やCD教材を使用しています。  また、マインドフルネスを習得するためには、自らの身体や思考についての気づきを表現することが重要とされていることから、実施後は体験による気づきを一人ずつ発表してもらい全員で共有します。 図1 4 マインドフルネス オリエンテーション資料( 抜粋) 【実施時間・回数】  毎日、朝のミーティング時に10分間程度で実施しています。 【実施のポイント】  JDSPにおいてマインドフルネスに取り組む目的は、受講者がマインドフルネスというセルフケアの方法があることを学び、継続的に体験する機会を持つことにあります。体験を通じて有効だと感じられる場合には、ストレス対処として活用することをうながしますが、効果が得られないことで受講者が焦りやストレスを感じることがないよう、効果の感じ方には個人差があることや、習得までには時間を要することを伝えます。また、効果を得ることを目標にするのではなく、気長に取り組み、自分に合った方法なのかを観察する心持ちで取り組むよう勧めます。  なお、プログラムではマインドフルネス呼吸法を実施していますが、受講者が自分に合った方法を見つけられるよう、そのほかにもいろいろな方法があることを情報提供しています(図15)。 図1 5 「日常生活基礎力形成支援」講座資料の一部 【受講者の感想・効果】  受講者からは、「自分の身体に意識を向けることで気分や体調の変化に気づきやすくなり、不調に早めに対処ができるようになった」、「不安や怒りなどのマイナスの感情に巻き込まれにくくなった」、「気分の落ち込みからいったん離れられるようになった」といった感想が聞かれています。  毎朝の呼吸法以外にも効果を実感した活動については、プログラム中でのストレス場面への対処や生活上のルーチンとして取り入れる受講者も多く、復職後においてもマインドフルネスを日常的なセルフケアの一環として継続している受講者も一定数います。   【引用・参考文献】 長谷川洋介、貝谷明日香:『知識ゼロからのマインドフルネス 心のトレーニング』幻冬舎(2015)      ≪SST・アサーション講座≫  JDSPでは、対人場面における適応力とストレス対処力を向上させることを目的に、SST(Social Skills Training:対人技能訓練)を実施しています。また、アサーション(自分も相手も尊重したコミュニケーション)の考え方を積極的に取り入れたロールプレイを行うことにより、実際の職場で活かすことができる適応的なコミュニケーションスキルの習得を目ざします。  休職者の中には、対人場面における認知や行動の癖がストレス要因となっている方もいます。コミュニケーションスキルに関する知識付与と受講者同士のロールプレイを通じて、対人・認知面における自己の課題に気づき、実際の場面を想定しながら効果的な対処法が検討できるよううながします。  【実施方法】  受講者には最初にSSTの目的や流れを説明し、セッションの見学をしてもらうことでSSTのイメージをつかんでもらいます。次に、JDSP開始時のオリエンテーションにおいて、アサーションの基礎知識や「Iメッセージ」、「DESC法」といったスキルを学ぶアサーション講座を実施します。そのうえで、受講者はSSTに参加します。  SSTのセッションは受講者、支援スタッフ合わせて5~8名程度のグループで実施し、支援スタッフがリーダーとコリーダーを担当し進行します。ロールプレイで練習するテーマは、基本的に受講者から希望を募り設定します。1セッション1テーマとし、受講者全員のテーマが取り上げられるよう順番に実施していきます。  具体的なSST実施の流れは、図17のとおりです。   図1 7 S S T 実施の流れ           なお、SSTを実施する際のポイントやセッションの具体例については、実践報告書Nо.24「精神障害者職場再適応支援プログラム SSTを活用した支援の実際」に取りまとめています。 【実施時間・回数】  1回120分(休憩含む)のセッションを、毎週木曜日(第2木曜を除く)の午後に実施しています。 【実施内容】  対人場面において休職前に職場で困ったことや、復職後に予想される対応で不安を感じていることなど、具体的な場面を想定したテーマを設定し、それに沿ってロールプレイを行います。テーマ例は図18のとおりです。 図1 8 S S T のテーマ(例) 【実施のポイント】  SSTは、緊張やプレッシャー、また、休職前のストレスフルな対人場面を想起、再現することによる心理的負荷を感じやすいプログラムでもあります。そのため支援スタッフは、受講者が前向きな気持ちで安心して参加できるよう、受講者のよいところを引き出しながら、共感的・受容的な場作りに努めます。また、ロールプレイの前後で気分の変化があったか(ストレスの軽減につながったか)といった質問を投げかけ、アサーティブな考え方や伝え方を取り入れることによるストレス対処としての効果をモニタリングするようにうながすことも大切です。そのほか、自分の認知や行動の癖に気づいた場合はストレス対処講習で学んだリワークノートの活用をうながしたり、練習したスキルを実践する機会をジョブリハーサルで設定するなど、ほかのプログラムとの連動も意識して支援を行います。   【受講者の感想・効果】  受講者からは「ロールプレイができたことで、アサーティブに伝える自信につながった」、「周囲からのフィードバックによって相手の感じ方や自分の伝え方が与える印象を確認でき、気負わず楽に会話に臨めるようになった」、「上司役を演じたことで、上司の気持ちや上司から見た自分がわかった気がした」といった感想が聞かれています。SSTは、効果的なコミュニケーションの方法についてのヒントや確証を得るだけでなく、他者の視点で自分を見つめ直し、柔軟な物事のとらえ方を知るきっかけにもなります。 ≪グループディスカッション≫  グループディスカッションは、JDSPの目的である「復職後の健康的で安定した職業生活」に関連するさまざまなテーマについて、受講者同士で意見交換や情報交換を行うプログラムです。テーマについての現状や悩みを共有し、お互いに意見を出し合いながら、復職に向けた不安の軽減と解決策の整理を図ります。  グループディスカッションは受講者主体で進行します。受講者自らがプログラム運営をになうことで、コミュニケーションや時間管理・プロセス管理、役割行動といった仕事の取組み方・働き方に関する新たな気づきを得ることもねらいとしています。 【実施方法】  少人数(5名程度)のグループで実施します。プログラムの最初に支援スタッフからその日のテーマを伝えます。   グループディスカッションは、役割決め(司会・書記・発表者)から進行、発表までを全て受講者主体で行います。受講者は、進め方の流れ(図19、資料12参照)に沿って、各自の役割をにないながら協力して話し合いを進めます。話し合いの内容は書記が記録用紙(図20、資料13参照)にまとめ、発表者が発表します。支援スタッフは、発表に対して拍手を送り、質問や感想を伝えます。  ディスカッション終了後は、振返りシート(図21、資料14参照)によりテーマに関する気づきを整理し、また、その日の運営やコミュニケーションについての振返りを行います。     図1 9 ディスカッションの進め方の流れ 図2 0 グループディスカッション記録用紙  図2 1 グループディスカッション振返りシート        【実施時間・回数】  1回60分(発表時間含む)のプログラムを、毎月第2木曜日の午後に実施しています。 【実施内容】  ディスカッションのテーマは、健康管理や復職後の職業生活に関するものの中から参加する受講者の課題などをふまえて設定します。現在実施しているテーマ一覧は、表6のとおりです。 表6 グループディスカッションテーマ一覧 【実施のポイント】  JDSPのグループディスカッションでは、受講者の主体性を尊重することをポイントとしています。休職中という同じ立場である受講者同士が率直に話し合うことで、悩みや不安に共感しあい、相互に参考となる情報の交換や解決策の検討が可能となります。  また、グループディスカッションは、復職後の職場や職務への適応に必要となるコミュニケーションや仕事の取組み方・働き方に関わるさまざまなスキルの練習の場でもあることを受講者に伝え、これらのスキルの向上に向けた意識的な取組みを行うよううながします。 【受講者の感想・効果】  受講者からは、「決められた時間内で役割をにないながら意見をまとめていくことは、複数のことに意識を向ける力が求められ、復職準備として役に立った」、「自分の伝え方について見直すきっかけになった」といった感想が聞かれています。  また、ほかの受講者とのディスカッションの結果、テーマに関する解決策についてのよい点や参考にしたい点を見つけ、自分自身の考え方や行動に取り入れようとする様子も見られています。 ≪ジョブリハーサル≫  ジョブリハーサルとは、学んだ知識・スキルを実際の職場に近い環境で検証し、その実用性を高めようとする体験・実践的なプログラムです。ここでは精神的・身体的に負荷を感じる程度の質・量の作業課題を設定し、受講者は1つのチームの社員として協力し合いながら、設定された作業課題を遂行するよう求められます。  実際の労働環境では、ノルマや納期、予定の変更、交渉・調整といった負荷があり、時間管理や優先順位の判断、報連相やアサーション、役割行動やチームワーク、体調やストレスのセルフマネジメントといった対処が必要となります。模擬的職場という場面設定の中で、受講者はこれらに関する自身の行動の特徴や思考の癖を振り返り、学んだ知識・スキルを総合的に当てはめながら、復職後に実用できる考え方や対処法を検討します。 【実施方法】  ジョブリハーサルの実施の流れは図22のとおりです。  支援スタッフは、当日課す複数の作業課題(タスクワーク)を事前に準備します。受講者は課されたタスクワークを、プログラム時間中に、上司、リーダーおよびメンバーからなるチームで遂行します。JDSPでは、上司役は支援スタッフが、リーダーおよびメンバーは受講者が担当します。上司役の支援スタッフからタスクワークの指示を受けたリーダーの先導のもと、チーム内でコミュニケーションをはかりながら優先順位や段取り、役割分担などを検討し、受講者主導でノルマ達成を目ざします。  なお、初めてジョブリハーサルに参加する前にはオリエンテーションを行い、ジョブリハーサルのねらいや実施方法、求められる能力について説明し、目的意識を持って参加できるよううながします。また、実施後には、ワークシートや終了ミーティング、個別面談による振返りを通じて、ジョブリハーサルから見えてくる支援課題について自己理解が深まるよううながします。 図2 2 ジョブリハーサルの実施の流れ 【実施時間・回数】  週1回、1日のプログラム時間帯(10:30~15:00)で実施しています。なお、ジョブリハーサルへの参加は、週5日の安定通所が可能になった以降の週から開始します。 【実施内容】  タスクワークの例を表7に示します。タスクワークの内容に特に決まりはなく、ОA作業や事務作業、実務作業といった各種の作業課題を備えたワークサンプル幕張版(MWS)を中心に、さまざまな内容を創意工夫します。また、タスクワークの内容や組合せ、ボリュームは毎回異なり、負荷の程度は受講者の状況に応じて調整します。なお、タスクワークの例やジョブリハーサルで使用するオリエンテーション資料、各種ワークシートは、支援マニュアルNо.16「気分障害等の精神疾患で休職中の方のためのジョブリハーサル」に取りまとめています。 表7 タスクワークの例 【実施のポイント】  ジョブリハーサルでは、実際の職場における負荷になるべく近い場面設定を行います。その中で、受講者は周囲の状況や自分自身の心身の状態を客観的に観察し、自分の行動の特徴や思考の癖が出るような場面はないか、これまで職場で似たような状況が発生することがなかったかなど、自分の支援課題や目的意識を常に念頭に置きながら参加できることが重要になります。  ストレス対処や仕事の取組み方など、JDSPの4つのテーマに沿って振り返るジョブリハーサル日誌(資料15参照)などを活用しながら、ジョブリハーサルは学んだ知識・スキルを実践する場であること、また、職場に戻ったときを想定した実践により知識・スキルの実用性を高める場であることを繰り返し確認することが大切です。   【受講者の感想・効果】  受講者からは、「リーダーシップや交渉、プレゼンテーションなど、業務に戻った際に必要となるスキルの訓練ができて役立った」、「ジョブリハーサルの疲労が翌日まで残る経験をしたことで、疲労の度合いに応じた対処が必要だと理解した」、「ストレスを感じた場面で、ストレス対処講習で学んだセルフトークを実践し効果を感じた」といった感想が聞かれています。ジョブリハーサルは、体調管理からコミュニケーション、問題解決能力を含む総合的なスキルの確認や習得に有効なプログラムであるといえます。 ≪職場復帰支援における事業主との調整≫  職場復帰を円滑に進めるうえで、休職者、事業主、支援者間の情報共有や共通認識は重要となります。JDSPでは、電話や訪問などにより事業主との連絡調整を行うとともに、情報を確認、整理し、共有するための支援ツールを活用しています。 【実施時期・方法】  インテークを開始した時点で、休職者に支援ツール「情報共有シート」の記入を依頼し、休職制度や復職手続きなどの基本情報を整理します。原則、休職者自身が事業主に情報の確認を行いますが、休職者や事業主の意向を確認したうえで、支援者も電話や訪問などにより事業主から情報収集を行います。それらをふまえて支援計画を策定し、休職者、事業主、支援者の三者面談により支援計画の確認を行います。また、方法や時期を確認のうえ、必要に応じJDSPの途中で事業主に対する進捗報告を行います。 【実施内容】  復職に関する基本情報を共有するための「情報共有シート」の様式は図23(資料2参照)のとおりです。勤務先事業所の休職制度や復職支援制度、職場復帰可否の判断基準、休職者・事業主の復職にあたっての意向や見解など、復職に向けた検討に必要な情報を正確に整理しながら、復職時に目ざす状態像、支援目標、必要な手続き、時間的な見通しなどについて具体的な共通認識が持てるようにします。  また、復職に向けて休職者が取り組むべき目標を明確化し、関係者の認識をすり合わせる際には「職場復帰に向けての目標チェックリスト」(図24)を活用します。リストをもとに、復職に向けた目標を具体的な行動レベルに落とし込むとともに、達成度の進捗をチェックすることで、復職に向けてより重点的に取り組む必要がある項目を休職者自身が再認識し、プログラムでの意識的な取組みにつなげることをねらいとしています。  そのほかのツールとして、産業医面談や人事面談、主治医の診断書の取得など、復職にあたって必要となる手続きを時系列で視覚的に整理するための「行程整理シート」があります。行程整理シートは、休職者がスケジュールを自己管理しながら、復職に向けた準備を適切なタイミングで計画的に進めるための助けとなります。  これらの支援ツールや活用時の留意点、実際の活用事例については、支援マニュアルNо.19「職場復帰支援における事業主との調整」に取りまとめています。 図2 3 情報共有シート 【実施のポイント】  休職・復職制度や職場復帰可否の判断基準はケースごとに異なり、個別性が高いため、具体的に確認することが必要です。事業主が考える職場復帰の判断基準をふまえた適切な目標設定ができるよう、早い段階で休職者、事業主、支援者とが共通認識を持つことが重要です。  また、ここで紹介した「情報共有シート」をはじめとする復職調整のための支援ツールは、休職者自身が記入することを基本としています。シートの活用を通じて自ら情報の整理や確認を行うことで、職場復帰に向けた取組みや事業主とのコミュニケーションを主体的に進める意識を喚起することも目的の一つです。  なお、復職に対する休職者・事業主の意向など、支援期間中に変化する可能性がある情報もあるため、シートは一度記入したら終わりではなく、必要に応じて見直し更新していくことが必要です。 図2 4 職場復帰に向けての目標チェックリスト ≪復職レポート≫  復職レポートは、JDSPの終了にあたって受講者自身がJDSPの取組み成果を取りまとめるものです。  事業主に対して行う終了報告の際には、体調・健康状態や通院・服薬の現状、JDSPの受講状況、休職要因の分析や再休職予防策の検討結果などの報告が求められるため、これらをレポートの形式で整理します。  JDSPで学んだ知識や気づきを振り返り、休職前の課題をふまえながらレポートにまとめあげる作業は、JDSPの集大成と言えます。また、事業主にとって、復職レポートを通じて把握されたJDSPの取組み成果は、復職に向けた方針の検討や職場復帰支援プランの作成のための重要な材料の一つとなります。 【取組み時期・方法】  復職レポートの作成にあたっては、図25のとおり、事前に2つのワークシートを作成し、課題の整理や休職要因の分析、再休職予防策の検討などを行います。  まず、見学・体験時に、「復職に向けた取組み整理シート」(図26、資料3参照)を通じて、職場復帰と再休職予防策を考えるうえでの課題を整理します。また、支援開始前の事業主との打ち合わせで事業主側の見解を確認し、支援期間を通じて随時見直します。  支援期間前半から中盤にかけて「休職の経緯と対処方法の整理シート」(図27、資料4参照)を作成し、休職の経緯の振返り、休職要因の分析を行ったうえで、各種プログラムで得た学びや「ジョブリハーサル」、「生活習慣・セルフケア」での体験・実践で得た気づきをもとに、再休職を予防するための対処方法について検討します。  それらをもとに、支援期間後半からJDSPの取組み成果を「復職レポート」として取りまとめます。  JDSPでは、終了報告において事業主から確認が求められる代表的な項目を受講者に紹介し、受講者はそれを参考にしながらパワーポイントやワード文書などでレポートを作成しています。受講者が作成した内容については、個別面談でカウンセラーと振り返り、内容を深めます。取りまとめた復職レポートは、終了報告会で受講者・事業主・支援者の三者で共有します。   図2 5 復職レポート作成までの流れ 図2 6 復職に向けた取り組み整理シート 図2 7 休職の経緯と対処方法の整理シート(抜粋) 【復職レポートの内容】  受講者が作成する「復職レポート」の様式例を図28(資料5参照)に示します。  項目には、JDSPの受講状況や体調などの現状のほか、休職に至った要因分析や再休職予防策、今後の働き方、復職にあたっての希望などが含まれます。 【実施のポイント】  復職レポートの作成は、受講者が主体的にまとめることを基本としていますが、定期的なカウンセラーとの個別面談を通じて、JDSPの4つのテーマをふまえた多角的な分析ができているか、体験・実践しながら検討した具体的な行動レベルの対処策を示しているか、事業主の意向や見解をふまえているか、現実的か、簡潔か、といった視点で振り返り、客観的な視点を持った自己分析をうながします。  また、必要に応じてSSTの場面において事業主に復職レポートの内容を報告するシミュレーションを行い、内容や話し方を確認したり、受講者同士で助言しあいます。 図2 8 復職レポート(様式例)   【受講者と事業主の感想・効果】  受講者からは、「再休職予防策や今後の働き方を整理でき、復職への自信が持てた」、「復職後も再休職予防策や自分の目指す働き方を忘れないように、復職レポートを定期的に読み返したい」といった感想が聞かれています。  また、終了報告会で事業主からは、「休職の要因がしっかり分析されていて安心した」、「再休職予防策が具体的に整理されていてよく分かった」、「今後、復帰先の部署と復職レポートの内容を共有して受け入れ体制を整えたい」などの感想が聞かれています。  受講者は、復職レポートの作成を通じて休職要因や再休職予防策の分析をふまえた復職後の働き方の指針を明確にすることができます。また、復職レポートを通じて受講者が復職に関する意思や希望、現状を整理して伝えることで、事業主は復職判断や復職後の配置や条件、受け入れ体制、フォローアップの視点などの検討を具体的に進めることができます。 第4章 支援の実際  1 4つのテーマをもとに課題の整理や再休職予防策の検討を行った事例 (1) 事例の概要 【基本情報】 Aさん、30代男性、SE(システム開発)、うつ病 【経過】  中途採用者としてB事業所に入社。「即戦力として働くプレッシャー」を感じたことや一人暮らしを始めたことなどによる負担から徐々に心身ともに疲弊し、入社から1年後に「不安障害」と診断されて、半年間休職した。  職場復帰後は安定した勤務が続いたが、チームリーダーを任されたことへのプレッシャーやクレーム対応の負担などから、本人の希望により配置転換となった。しかし、配置転換先で特定の上司との関係に悩むようになったことから再び体調不良となり、「気分障害」と診断され、復帰から7年後に再休職となった。事業所の人事担当者からの紹介で、JDSPの利用に至る。 (2) 支援の実際 【ステップ① カリキュラムの全体像の提示】  インテークの際に、オリエンテーション資料 (資料1参照) をもとに、JDSPの目標や4つのテーマ(「生活習慣」「ストレス対処」「コミュニケーション」「仕事の取組み方・働き方」)と、JDSPの支援サイクルについて説明し、今後、職場復帰を目ざして何にどのように取り組むのかイメージが持てるようにしました。 図1 オリエンテーション資料(抜粋)    Aさんは、インテーク時には「すぐに復職を希望したが叶わず、JDSPを紹介されたものの、何をしたらよいのか不安」と漠然とした不安を述べていましたが、支援の目標や全体像の説明を受け、職場復帰に向けた今後の見通しや取り組むべきことが明確になったことで、受講の意思を固めました。 【ステップ② 4つのテーマに沿った支援課題や支援目標の設定】 <事前相談・体験利用 (2週間) >  4つのテーマにもとづき、下記の取組みを行いました。 4つのテーマ 取組み 生活習慣 ◆JDSP体験利用において心身の負荷を確認 (1週目は週3日、2週目は週4日通所) ◆幕張ストレス・疲労アセスメントシート第3版1)と生活記録表にもとづいた生活習慣の確認 ストレス対処 ◆課題図書「こころが晴れるノート 大野裕著」2)の読書と要約 ◆ストレス対処講習の見学 コミュニケーション ◆課題図書「改訂版 アサーション・トレーニング 平木典子著」3)の  読書及び要約 ◆SSTの見学 仕事への取組み方・働き方 ◆OSI(職業ストレス検査)の実施とまとめ ◆幕張ストレス・疲労アセスメントシート第3版による休職経過の確認  Aさんは、当初「厳しい上司と合わなかった」ことを休職の直接的な要因と考えていました。しかし、上記の取組みを行い、休職に至った背景には、生活習慣の乱れや「上司の指示を完璧にこなさなければならない」ととらえる考え方の癖(完璧思考)、自分の意見を率直に伝えられないコミュニケーションの癖などの要素があったことを理解し、さまざまな対処策を検討していく必要性に気づきました。  事前相談・体験利用のまとめとして、「復職に向けた取組み整理シート(資料2参照」の作成を行い、4つのテーマに沿った自らの課題を整理しました。                                 図2 4つのテーマに沿ったAさんの課題 (「復職に向けた取組み整理シート」より抜粋) <プログラム実施に向けた調整 >  通院同行により主治医から助言を得るとともに、Aさん・事業所の人事担当者・職業センターのカウンセラーとの三者による打ち合わせを実施し、上記の「復職に向けた取組み整理シート」を共有しながら、復職に向けた課題の検討を行いました。    主治医からは、ストレスに気づきにくく、身体症状に出やすいため、予防や早めの対処が大切、との助言がありました。  事業所の人事担当者からは、休職前に月曜日の欠勤が目立っていたことから復職には安定勤務が求められること、会社では苦手な相手との人間関係は避けられないので自分なりの対処策を検討すること、またAさんは正職員であり、今後リーダーの役割を求められたときにどのように対応していくのか考えてほしい、との要望がありました。  これらをふまえ、下記の4つの目標を確認し、それらをJDSPの支援計画に盛り込み、Aさん、事業主、主治医の同意を得ました。 《Aさんの目標》 ① 体調の変化やサインに気づいて早めに対処し、出勤を安定させる方策の検討 (生活習慣)        ② 自分の思考の癖に気づき見直すこと  (ストレス対処)   ③ 苦手な人との付き合い方の検討     (コミュニケーション)  ④ 役割に関する捉え方、対応の整理 (仕事の取組み方・働き方) 【ステップ③ 4つのテーマを「学ぶ」】 <生活習慣>  このテーマでは、「日常生活基礎力形成支援」「運動」「リフレッシュ体験」「マインドフルネス」を通じて、よい生活習慣やセルフケアについての知識を得るとともに、復職のために必要な毎日の生活習慣の改善に取り組みます。  Aさんは、就寝時間の遅さや生活リズムの乱れが課題であったため、日常生活基礎力形成支援の行動目標として、「就寝時間と起床時間を土日も含めて一定にすること」、帰宅後の気分の切り替えやリフレッシュが苦手だったため、「寝る前のストレッチ (リフレッシュ習慣) 」に取り組みました。 <ストレス対処>  このテーマでは、「ストレス対処講習」「アンガーコントロール支援」を通じて、ストレスや怒りの仕組み、自分の考え方の癖に気づき、認知行動療法の考え方にもとづいたストレス対処方法を検討します。  Aさんは、自分のストレスに「完璧思考」が影響していることに気づき、コラムシートの活用や問題解決プランシートが効果的だと実感しました。  また、「中途採用だから即戦力にならなければ」「リーダーだからチームをまとめなければ」「新しい部署だから仕事を早く、完璧に覚えなければ」 といった高い目標志向性が自分を追い込んでいたことに気づき、「〇〇に越したことはないが、できないことだってある。」「一つひとつゆっくり取り組もう。」と現実的でバランスのよいセルフトーク(心の口癖)を唱えることが、不安の緩和に有効であると気づきました。  また、自分が今できることを具体的なステップに分けて一つひとつ着実に実行することが問題解決につながることにも気づきました。 <コミュニケーション>  このテーマでは、アサーション講座とSST、グループディスカッションを通じて、自分と相手を大切にしたアサーティブなコミュニケーション方法について学びます。  Aさんは、休職のきっかけとなった「厳しい上司」に、「アサーティブに必要な提案を行う」というテーマでSSTを行いました。  SSTでは、アサーション講座で学んだDESC法を用いて上司への相談・提案を行うことで、自分の状況や考えを整理し、率直に伝えられることを実感しました。また、上司との人間関係がストレスとなった背景には、上司が厳しいと感じると言うべきことを言えず、自分自身への情けなさや葛藤が生じていたことに気づき、「相手の反応は変えられなくても、相手に対する自分自身の態度は変えられる」といった別の考え方が生まれました。  また、「苦手な相手との付き合い方」というテーマのグループディスカッションを行い、受講者同士で対処方法を検討する中で、苦手な相手に話しかける前に呼吸を整えてリラックスする、「自分の意見を率直に伝えればそれでよい」とセルフトークする、緊張場面の中でもユーモラスな面を見出す、相手との共通点を探す、など対処方法の具体的な引き出しを増やすことができました。 <仕事の取組み方・働き方>   このテーマでは、「キャリア講習」を通じて、「価値観」、「強み」、「役割」、「今後の働き方」などについての理解を深めます。    Aさんは、第1回目の価値観をテーマとした講座で、「努力」「信念を持つべき」いう価値観を強く持っていること、キャリア・アンカー4)が「専門・職能別能力」、「奉仕・社会貢献」であることを確認しました。  今まで、技術職(SE)として誰にも負けない技術を身につけるために努力を重ねてきたこと、また「技術で世の中をよくする」という信念をもって仕事に打ち込んできたことを振り返る中で、キャリア・アンカーへのこだわりの強さから職場で求められている以上に目標を高くしすぎ、周囲に仕事を依頼できずに抱えていたことに気づきました。  また、キャリア・アンカーの中で「経営管理能力」が最も低く、自分が「組織としての成果」や「組織内のチームで働くこと」への意識が薄かったことにも気づきました。  ほかの受講生とのディスカッションを通じて多様な価値観に触れ、自分の価値観を客観視したことにより、職場の目標を現実的にふまえながら、周囲と協力して問題を解決していくことが今後の自分の働き方に求められているのではないかと考えました。  また、第3回目の役割をテーマとした講座では、リーダー業務を任されたとき、自分の技術やスキルを向上させる以外に部下の仕事の管理などに時間が多く取られることへの葛藤や不安があったことや、「人に仕事を任せるよりも自分でやった方が早い」ととらえて部下に仕事を依頼できずにいたことを理解しました。キャリア講習を通じて「自分の技術や成果」だけでなく、「組織としての成果」にも目を向け、「職場の目標を達成するために必要な役割を果たす」ことを新たな働き方の目標にしたいと考えるようになりました。 【ステップ④ 4つのテーマを「実践する」】  学んだ内容を、「ジョブリハーサル」や「生活習慣・セルフケア」を通じて実践します。    Aさんは、「ジョブリハーサル」で初めてリーダー役を行った際、他のメンバーに作業を依頼することができず、仕事を一人で抱え込む働き方の癖にあらためて気づきました。そこで、「セルフトーク」や「アサーティブにメンバーに仕事を依頼する」を実践することとしました。  次にリーダー役を行ったとき、上司から急な仕事を任された際、「自分が早くなんとかしなければ」という考えが浮かびましたが、「一つひとつゆっくり取り組もう」「チームの目標を達成するためにリーダーの役割を果たそう」とセルフトークをすることで、冷静になることができました。そして、DESC法を活用してメンバーに状況を説明したうえで協力を依頼し、メンバーと協力しながら仕事を達成することができ、新たな働き方への自信を得ました。  「生活習慣・セルフケア」では、土日も生活リズムを一定にすることで、月曜日の朝のおっくう感が減ることに気づきました。また、寝る前5分間、呼吸を整えてストレッチする習慣を取り入れることで、心身のリフレッシュと気持ちの切り替えができ、スムーズに入眠できることを実感しました。 【ステップ⑤ 4つのテーマを「振り返る」】  「学び」や「体験・実践」で気づいたことについては、個別面談で振り返りながら「休職経緯と対処方法の整理シート」(資料3参照)をもとに、4つのテーマにもとづいた対処方法を整理します。    Aさんは、休職の経緯を振り返る中で、「上司との人間関係」がストレスとなった背景には、①仕事のストレスを家で考え続けて気持ちの切り替えができなかった「生活習慣」、②「上司から求められる仕事を早く完璧にこなさなければ」と自分を追い込む「完璧思考」、③相手の反応を恐れて自分の意見を伝えることができない非主張的な「コミュニケーション」、④自分の価値観にこだわり、一人で問題を抱え込む「仕事への取組み方・働き方」が複合的に影響しており、それぞれに応じた対処方法を実施することが大切であることを実感し、図3のとおり対処方法を整理しました。                                                     図3 4つのテーマに沿ったAさんの対処方法 (「休職の経緯と対処方法の整理シート」より抜粋) 【ステップ⑥ 「復職レポート」の作成と終了報告会の実施】  「休職の経緯と対処方法の整理シート」をもとに「復職レポート」を作成し、「終了報告会」にて事業所の人事担当者にJDSPの取組み成果を説明しました。また、翌週には産業医面談が実施されました。  Aさんは、終了報告会で休職要因、再休職予防策、今後の働き方について、4つのテーマにもとづいて説明しました。  事業所の人事担当者からは、休職の要因の分析と対処について具体的に考えられていること、特に苦手な相手に対する自分自身の態度を振り返ることができたこと、また、リーダーの役割について考え方の整理ができていることを高く評価されました。一方で、「検討した対処方法を職場で活用できるかどうかが大切なので、職場復帰後もこの点を確認していきたい」との話がありました。 Aさんは、人事担当者から厳しい質問があったときにも落ち着いて自分の意見を率直に伝えることができました。  産業医からは、JDSPの通所を休まずに継続できたことが評価されました。また、「生活記録表の継続や土日を含めた生活リズムの安定はとても重要であり、今後も継続するように」と助言され、今後の産業医面談においても生活記録表を提出するよう指示がありました。  上記により、Aさんの職場復帰が認められました。 (3) 支援の結果  職場復帰後、Aさんは、生活記録表を活用しながら土日を含めた規則正しい生活リズムを維持するとともに、就寝前のストレッチにより継続して気持ちの切り替えやリフレッシュを図っています。  仕事では、「DESC法」を用いて相談することで、自分が抱えている問題や状況を客観的に説明し、考えうる選択肢を提示しながら相談ができるようになったとのことです。  当センターではフォローアップで月1回の相談を実施していますが、その際に受講中と同様の4つのテーマに沿って対処方法を実践できているかを確認し、再休職予防策をバランスよく実施するよう意識づけを行っています。 (4) 考察   休職に至る要因や背景にはさまざまな要素が影響しており、対処方法も一つではなく多角的に考えていくことが大切になります。  本事例でも、Aさんは当初休職の要因を「厳しい上司との人間関係」と認識し、ほかの要因については考慮していませんでしたが、JDSPを通じ、生活習慣、物事の捉え方、コミュニケーション、キャリアなどさまざまな角度から休職要因や対処策について幅広く検討することができるようになりました。  JDSPでは支援開始前から復職に向けた4つのテーマの説明・提示を行い、常に4つのテーマに立ち返りながら、「学ぶ」「体験・実践する」「振り返る」のサイクルを通じて、気づきとスキルの習得をうながすこととしています。また、この4つのテーマの視点をフォローアップにおける確認項目として活用することで、復職後の環境変化の中でもJDSPで検討した新たな考え方や働き方を実践していけるよう、相談を重ねていくことができます。 2 プログラムを連動させ自己理解を深めた事例 (1) 事例の概要 【基本情報】  Cさん、20代女性、事務職、抑うつ状態 【経過】  専門学校卒業後、新卒採用でD事業所に入社。前任者の退職に伴い、入社後わずか1カ月のうちに一人で複数の担当を受け持つことになる。不安を抱えたまま責任のある業務や繁忙期に対応しなければならないプレッシャーや、連日の残業、責任感の強さによる仕事の抱え込みなどから、帰宅後や休日も仕事のことが頭から離れず、徐々に精神的に不調となり、不眠や落涙、職場での動悸などの症状が出現した。「抑うつ状態」と診断され、入社後4か月で休職となった。入社後3年以内にメンタル不調で休職した社員には事業場外の職場復帰支援の利用を経ての復職を勧める、という事業所の方針のもと、事業所の産業保健スタッフから紹介を受け、JDSPの利用に至る。 (2) 復職に向けた目標  JDSPでは、休職者と事業主とが復職に向けた情報や目標を正確に共有するために、「情報共有シート」(資料2参照)を活用した支援を行っています。    Cさんにも、「情報共有シート」を記入してもらい、支援開始にあたっての事業所とのケース会議で、「職場復帰可否の判断基準」などの内容について確認を行いました。  事業所からCさんに提示された職場復帰可否の判断基準は図4の4点でしたが、就職後間もなく休職に至ったことから、特に「復職後の職業生活における目標の明確化」というキャリアについての自己分析が重点目標とされました。事業所の産業保健スタッフからは、「今後の職業生活での困難場面を乗り越えていくためには、働くうえでの拠り所を持つことが必要」との見解が伝えられました。  後日、Cさんと担当カウンセラーとで面談を行い、事業所から提示された目標についてのCさんの認識を確認しました。Cさんの返答は、「就職して間もなく調子を崩し休職となってしまったこともあり、仕事のやりがいやモチベーション、働くうえで大切にしたいことについては考えたことがなく、自分でもまだよくわからない」というものでした。  そこで、JDSPでは、Cさんが今後目ざす働き方を明確にできるよう、大切にしたい価値観をキャリア講習で確認したうえで、その実現のための方法をジョブリハーサルで検討、試行することとしました。 図4 C さんの情報共有シートの抜粋 (3) 支援の実際(「キャリア講習」と「ジョブリハーサル」の連動) 【ステップ① 「キャリア講習」における自己理解 】  「価値観」をテーマとした第1回のキャリア講習で、ワークシートやディスカッションを通じ、自分の価値観やキャリア・アンカーを振り返るとともに、今後大切にしたい価値観についての整理を行いました。    Cさんは、「完璧」「競争」という価値観を強く持っていることや、自分の キャリア・アンカーが「純粋な挑戦」であることを確認しました。ここには学生 時代の部活動で培われた「気持ちで負けない」「まだやれる」という考え方の 影響が強く出ていると自己分析しました。仕事でも、目標に挑戦してやり遂 げることは達成感につながる一方で、自分と競争し追い込むことがストレス になっていたことも振り返りました。  キャリア・アンカーの自己診断では「生活様式」が2番目に高く、自分の中 に本当は「仕事ばかりではなく生活も大切にしたい」という価値観があるこ と、しかしそれが休職前は実現できていなかったことにも気がつきました。 【ステップ② 「ジョブリハーサル」での体験を通じたキャリアに関する気づき】  キャリア講習で確認した価値観が反映されている言動や仕事への取組み方がないか、また、それによって生じるストレスがないかを、Cさんと支援スタッフがともに観察しながら、ジョブリハーサルに取り組みました。観察による気づきをCさんはジョブリハーサル日誌の「キャリアに関する気づき」欄で振り返り、支援スタッフからは終了ミーティングでフィードバックを行い、キャリアと疲労・ストレスの関係について自己理解が深まるよううながしました。    Cさんはジョブリハーサルに取り組む中で、価値観やキャリア・アンカーを 反映した下記の傾向に気づきました。 目標に挑戦し達成することは、満足感や、肯定的な自己評価、モチベーションにつながる。 挑戦の価値観は自分の強みでもある。 「まだできる」と自分を追い込み、休憩も取らずに作業に取り組むと、焦りや動悸を感じた。 自分と戦う働き方のクセが、疲労やストレスの要因になっている。 競争の価値観は、行き過ぎると自分を苦しくさせてしまう。バランスが大事。 【 支援スタッフからのフィードバック 】 「作業を必ず終わらせる」という目標に向けて熱心に取り組む姿勢は素晴 らしいが、根を詰めすぎているように見えた。1日限りのジョブリハーサルで あれば乗り切れるかもしれないが、今後長く続く職業生活においては、適度 に息を抜きながらストレスや疲労に対処することも必要ではないか。 【ステップ③ 「個別面談」での今後目ざす働き方の整理】  後日、担当カウンセラーとの個別面談の中で、ステップ①、②についてあらためて振り返り、今後生活も大切にしながら、再休職せず働くために必要な対処策について、下記のとおり具体的に検討しました。 ◆ 自分を仕事に追い込むばかりではなく、意識的に休息を取りながら、 疲労やストレスへ対処する。 ◆ 自分と競うことを止め、「80%の力」で仕事に取り組む。   「適度に適当に」 というセルフトークを自分のお守りにする。  ◆「挑戦」の価値観は、仕事に慣れ気持ちにゆとりが感じられるように   なってから活かす。(価値観との付き合い方の見直し) 【ステップ④ 「ジョブリハーサル」での対処策の実践と効果の検証】  Cさんは、検討した対処策をその後のジョブリハーサルの中で実践し、ジョブリハーサル日誌や個別面談でその効果について振り返りました。その結果、下記の取組みを実践することで、気持ちにゆとりを持ち、落ち着いて仕事に取り組めることを実感することができました。  ◆ 作業を終わらせようと戦いモードに入り気持ちに焦りを感じたときこそ、 意識的に一息つく、一度手を止め深呼吸、マインドフルネス。  ◆「80%の力で」と自分に言い聞かせながら取り組む。  ◆ 作業が終わらなさそうなときは、自分を追い込むのではなく周囲に相談する。 【ステップ⑤ 復職レポートにまとめ、復職後の働き方に反映する】  Cさんは、①~④の取組みの中での気づきや効果があると感じた対処策をもとに、休職要因の分析や再休職予防策の検討を行い、JDSPでの成果として復職レポートにまとめました。終了報告会では、復職レポート(図5)をもとに、「今後の働き方の目標」を事業所にも伝えることができました。 図5 C さんの復職レポート( 抜粋) (3) 支援の結果  Cさんは、キャリア講習で確認した自分の価値観や仕事への向き合い方と、ジョブリハーサルでの言動やストレス場面を関連させて振り返ることで、自分を追い込む価値観が強く出るとストレスにつながることへの理解が深まり、具体的な対処策の検討をスムーズに進めることができました。  また、キャリアについて考える中で、仕事のモチベーションについても見つめ直し、「仕事を通じて専門知識を身につけ、むずかしい内容の仕事を解決すること」が、自分自身の中にあるやりがいであることにも気づくことができました。  Cさんは、JDSP終了時の面談において、「働くうえでの自分自身の軸が見つかったことで、自分が納得できる働き方がどのようなものなのかがわかり安心した」との感想を述べています。  なおCさんは復職後も、当面は生活と健康を大切にした働き方を実現するという目標を常に頭に置き、職場では対処策を実践し、休日はJDSP受講期間に見つけた趣味の活動も楽しみながら、安定した勤務を継続できていることを、フォローアップ面談で確認しています。 図6 C さんの復職レポート( 抜粋) (4) 考察  JDSPでは「学ぶ」「体験・実践する」「振り返る」のサイクルでカリキュラムを実施することで、受講者が各プログラムでの気づきを結びつけ、自己分析を進められるよう支援をしています。座学でのプログラムでは漠然としていた気づきが、実際的な体験と関連づけて振り返ることで、より実感を伴ったものとして理解できることが多くあります。  本事例でも、キャリア講習とジョブリハーサルを連動させるジョブリハーサル日誌やフィードバック、面談を組み込むことで、受講者のキャリアと疲労・ストレスとの関連についての自己理解を深めることができました。  またCさんは、就業経験が浅いこともあり、支援当初は自分の目ざす働き方が不明確な状態でした。「自分の考えるあるべき姿=新人であっても周りを頼らず完璧に業務をこなすこと」が周囲からも期待されており、評価されることだと考え、「完璧」や「競争」の価値観も相まって、自分を追い込む働き方となっていました。しかし、キャリア講習で他者の多様な価値観に触れたり、ジョブリハーサルで上司役スタッフやメンバーからのフィードバックを受ける中で、職場で実際に求められている働き方についての理解が進み、復職後は、自分と戦わないことや、一人で抱え込まず周囲を頼ることも必要であると再認識することができました。さらに、他者からの評価ではなく、自分が本当に大切にしたいことを見つめ直すことで、今後何を軸として働いていくのか、周囲に左右されない自分自身の価値観を確認することができました。  本事例からは、就業経験の浅い若年の休職者にとって、価値観や役割といったキャリアについて学ぶことや、キャリアに関する他者との意見交換を通じて自分とは異なる価値観や立場を理解することが、職場復帰支援の中で有効であることがうかがえました。   【参考文献・引用文献】 1)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター:「幕張ストレス・疲労アセスメントシート MSFASの活用のために」 (2010) 2)大野裕:『こころが晴れるノート うつと不安の認知療法自習帳』創元社 (2003) 3)平木典子:『改訂版アサーション・トレーニング さわやかな〈自己表現〉のために』 金子書房 (2009) 4)エドガー・H・シャイン、木村琢磨監訳『パーティシパント・ワークブック キャリア・マネジメント 変わり続ける仕事とキャリア』白桃書房 (2015) 第5章 支援実施におけるポイント  JDSPのカリキュラムの再構成にあたって、JDSPの現在のカリキュラム構成や各プログラムの内容、支援の実際、効果的に支援を展開するための実施上の工夫や留意事項をあらためて具体的に提示することとしています。  以下に、JDSPの実施上の特徴や工夫を整理します。 1 職場復帰支援の目標やポイントの明確化  休職者が限られた支援期間の中でスムーズな復職を目ざすためには、復職に向けた具体的で一貫した目的意識が必要となります。一方、休職者の中には「復職に向けて何をどうしたらよいのかわからない」、「職場復帰支援の目的がよくわからず、これが復職にどうつながるのかイメージできない」という方も少なくありません。支援者は、復職にあたりどのようなことが課題となり、何に取り組む必要があるのかを明確にし、休職者自身が復職という目的に向けて主体的に取り組めるよう支援することが必要です。  JDSPでは、支援開始段階に「情報共有シート」(資料2参照)や「職場復帰に向けての目標チェックリスト」を活用し、事業主の視点もふまえた支援課題を確認したうえで、休職者、事業主、支援者の三者による支援目標の共有を行っています。  また、構成図により、JDSPの目標やカリキュラムの全体像、各プログラムの目的と関連性などを提示し、職場復帰支援におけるポイントを具体的にわかりやすく伝えることとしています。  特に、受講者に対しては、支援開始時のオリエンテーションにおいて、構成図にもとづく「JDSPオリエンテーション資料」(資料1参照)を用いて詳しく解説し、目的意識や見通しを持った受講につながるようにしています。 2 多角的な分析をうながす4つのテーマ設定  休職者が休職に至る要因は一つとは限らず、生活習慣、ストレス耐性、コミュニケーションスキル、仕事への取組み方など、複数の要因が折り重なっていることが少なくありません。第4章の事例1のように、当初は特定の問題のみを休職要因と認識していた受講者も、複数の視点から休職に至った経緯や自分自身を見つめ直すことで、実際にはさまざまな要因が重なっていたこと、それに応じて対処法は複合的に必要であることに気づく場合は多くあります。職場復帰支援では、休職要因を総合的に分析し、再発・再休職を予防するための複数の手立てを多角的に講じられるよう働きかけていく必要があります。  このためJDSPでは、カリキュラム構成を4つのテーマに分け、支援開始時点から受講者にそのことを明示しています。また、振り返りのための各種ワークシートの工夫を通じて、受講者と支援者が話し合いを進めながら、特定の課題に偏ることなく、各プログラムから得られるさまざまな情報をバランスよく整理できるようにしており、これらが支援のポイントとなっています。  例えば、事例1でも紹介したように、休職要因をさまざまな角度から分析し、バランスよく再休職予防策を検討するための仕掛けとして、支援の初期と中期にそれぞれ「復職に向けた取組み整理シート」(資料3参照)と「休職の経緯と対処方法の整理シート」(資料4参照)の2種類のワークシートを導入しています。これらは、カリキュラムの4つのテーマに沿って支援課題や休職要因、再休職予防策を整理する構成となっています。  また、支援期間を通じて整理した各種ワークシートの内容をふまえることで、受講者はあらゆる角度から検討した休職要因や再休職予防策、復職後の新たな働き方を復職レポートにまとめていくことができます。 3 ワークシートやグループワークを活用した言語化・視覚化  JDSPのカリキュラムは、「学ぶ」「体験・実践する」「振り返る」の3つのサイクルを統合させながら進められます。特に、「振り返る」プロセスは、各種ワークシートによる振返り、個別面談による振返り、グループワークによる振返りといったさまざまな機会を通じて繰り返し行います。その中では、各種ワークシートへの記入や受講者同士の意見交換により、受講者が学びや気づきを言語化・視覚化し、取組みの成果をできるだけ構造的に整理できるようにしており、これらが支援のポイントとなっています。  例えば、第3章で紹介した「運動」や「リフレッシュ体験」の振返りシート(資料8、11参照)は、プログラム前後での気分や体調の変化を数値化しグラフで視覚的に確認できる様式にしています。また、ジョブリハーサル日誌(図1、資料15参照)では、ストレス対処講習の内容をふまえ、ジョブリハーサルにおけるストレス場面やそれに対する反応、対処法を記入することによって頭の中を整理し、周囲の状況や自分の考え・行動を客観的に眺められるようにしています。  また、プログラムごとに設定しているグループワークによる振返りでは、受講者が自分の思いや考えを言語化し、肯定的で共感的な雰囲気の中でほかの受講者からのフィードバックを受けます。また、自分とは異なる意見を聞き、話し合いの中で思考を整理します。  これらの振返りによる言語化・視覚化は、受講者が自分の視点を離れて自分や周囲の状況を第三者のように客観視する練習にもなり、また、自分にとって効果のある対処法を具体化し、新たに発見する手立てにもなります。なお、蓄積した記録は、復職レポートを作成するうえでも有用な資料となります。                               図1 ジョブリハーサル日誌 4 各プログラムを連動させる工夫  JDSPでは、受講者が多数のプログラムを相互に関連づけながら理解し、自分にあった実用的な対処方法を生み出すことができるように、プログラム同士を連動させる工夫をしています。  例えば、図2にあるキャリア講習やジョブリハーサルのオリエンテーション資料、ストレス対処講習の講座資料などは、ほかのプログラムとの関連づけがわかるように作成し、それらを用いて「プログラム同士が連動していること」を受講者に繰り返し解説しています。  また、アサーション講座やSSTで学んだコミュニケーションスキルを実践する機会として、グループディスカッションのプログラムや、ジョブリハーサルの終了ミーティングでワークシート(資料16参照)を活用した受講者同士のフィードバックを実施しています。このワークシートは、メンバーのよかった所や自分も取り入れたいと思った所について、Iメッセージを活用して記入し伝えあう形式としており、アサーションにおけるスキルを練習することをねらいとしています。                     図2 プログラムの連動を意識づける資料(抜粋)  そのほか、各プログラムで実施する振返りのためのワークシートなどに、ほかのプログラムとの関連づけがわかる記入項目を追加し、各プログラムを通じて得た気づきを、複数の視点で自己分析できるようにしています。  例えば、第4章の事例2では、ジョブリハーサルでの模擬的な職場体験の中で、キャリア講習で扱うキャリアにおける価値観などが、疲労・ストレスの感じ方や仕事の進め方に影響することを実感する場面があります。そこでJDSPでは、ジョブリハーサル日誌に、キャリアに関連する気づきを記入する項目を加え、連動を意識した整理ができるようにしています(図3)。            図3 ジョブリハーサル日誌記入例(一部抜粋)  また、各プログラムの連動を意識づけるためには、支援スタッフの受講者への日々のかかわり方も重要です。支援スタッフは、受講者がJDSPで学んだ知識やスキルを実生活でのストレス対処やコミュニケーションに役立てられるよう、ジョブリハーサルなどのプログラムでの実践をうながす声かけを意識的に行っています。  また、ストレス対処講習やキャリア講習で明確化した思考の癖や価値観が反映された言動が観察された場合には、受講者の気づきをうながすフィードバックを行います。その際は、できるだけプログラム中に紹介した内容やキーワードを使用し、受講者が客観的かつ分析的な視点で自分自身をとらえ、取り組むべき課題が焦点化されるよう工夫しています。逆に、実践ができている場合にも、学んだ内容と関連づけたフィードバックを行い、意識的な定着につながるようにしています。   上司に作業の時間延長を相談する際、 DESC法を使い状況や気持ち、提案を しっかりと伝えられていた点がよかった です。 具体的な作業の見通しも伝えてもらえ たので、上司としても、安心して指示を 出すことができました。 第6章 JDSPの課題と今後の方向性    第2章で示したとおり、JDSPは開発当初からさまざまなニーズに合わせてプログラムを変化させてきた反面、構成要素が多岐にわたり、支援目標や各プログラムのねらい、またそれら相互の関連づけが複雑になっていたことが課題となっていました。JDSPのカリキュラムの再構成にあたって、今年度については、JDSPの全体像や構成要素をわかりやすく整理し、休職者、事業主、支援者が支援の目的や内容、方向性を把握しやすいようロジックモデルをあらためて見直したところです。  また、近年の多様な職場復帰支援の広がりや職場復帰支援を利用する事業主からの要請をふまえると、職業への適応に焦点化したプログラムの充実は取り組むべき課題です。さらに、これまでに開発した各種支援技法の中には、開発以降の時間経過を経て、わかりやすさや活用のしやすさ、効果の視点などから、新たな知見をふまえた見直しや改良が必要なものもあります。職業センターでは、疾病管理やストレス対処などを中心とした既存の職場復帰支援を発展させ、職場適応能力の向上とキャリア形成を支援する支援技法の開発に特に取り組んできました。今後は、従来の支援技法の見直しや改良、JDSP全体のカリキュラムや支援の進め方の再構成、職業への適応に焦点化した新たな支援技法の開発に引き続き取り組みながら、職業リハビリテーション機関としての特徴を明確化した、より効果的な職場復帰支援の技法の確立を目ざすことが求められると考えています。  なお、次年度においては、平成28(2016)年度に開発したジョブリハーサルの改良を計画しています。休職者が復帰する職場では、体調やストレスのセルフマネジメント力から対人コミュニケーション能力、合理的・論理的思考力を含むあらゆる対処能力が求められます。ジョブリハーサルは、JDSPで学んだ知識やスキルを実際の職場に近い環境で検証し、その実用性を高めようとする体験・実践プログラムであり、復職後に企業が期待する総合的な業務遂行能力の回復に関わる支援技法です。  このジョブリハーサルの改良では、地域センターのリワーク支援における実践事例や支援ニーズを調査し、職場での役職や役割、職業経験などをふまえた新たなタスクワークの開発を行います。また、支援の実施方法や留意事項をあらためて取りまとめ、新たな支援マニュアルを作成することとしています。そのほか、職業への適応に焦点化したプログラムの充実に向け、キャリアに係る支援技法(キャリアプラン再構築支援、ワーク基礎力形成支援)についても、あわせて改良の検討を行います。  そのほか、職場復帰支援においては、就業経験が少ない若年の休職者や発達障害、双極性障害、パーソナリティ障害などのさまざまな特性がある休職者の増加が見られ、支援ニーズの多様化に対応した支援のあり方が課題とされています。JDSPでは、職場復帰支援のテーマを4つにわけて設定し、受講者が多面的に自己を理解し、総合的な対処策を検討できることを目指していますが、認知特性や疾病特性、心理学的要因、家族要因、生育要因といったざまざまな専門分野にわたる支援課題については、十分に取り扱えない現状もあります。医療機関などのほかの専門機関との連携や役割分担も含め、多様な支援ニーズに対応する職場復帰支援のあり方についてはさらなる研究が必要です。また、限られた支援期間の中での効果的なプログラム構成や効率的な運営方法の検討、復職後のフォローアップを含む事業主への支援のあり方なども今後の課題としてあげられます。  職業センターでは、JDSPの運営を通じて、また、支援の現状や支援ニーズに関する情報収集や分析を行いながら、職場復帰支援に係る効果的な支援技法の開発に努めるとともに、職業リハビリテーション機関における職場復帰支援のあり方について検証を続けてまいります。 参考 JDSP資料集 項 目 区 分 資 料 名 相談で使用 する資料 事前相談 資料1 オリエンテーション資料『JDSPカリキュラムのごあんない』 資料2 情報共有シート 資料3 復職に向けた取組み整理シート 個別面談 資料4 休職の経緯と対処方法の整理シート 資料5 復職レポート(様式例) プログラムで使用する資料 運動 資料6 運動プログラムのご案内 資料7 運動プログラムリスト 資料8 運動プログラム振返りシート リフレッシュ体験 資料9 リフレッシュ体験のご案内 資料10 リフレッシュ体験ミーティング 資料11 リフレッシュ体験振返りシート グループディスカッション 資料12 グループディスカッションについて 資料13 グループディスカッション記録用紙 資料14 グループディスカッション振返りシート ジョブ リハーサル 資料15 ジョブリハーサル日誌 資料16 「チームのコミュニケーション」や「役割」に関する振返りシート 資料1 資料2 情報共有シート 資料3 ◇◆ 復職に向けた取組み整理シート ◆◇ 資料4 ◇◆ 休職の経緯と対処方法の整理シート ◆◇ 資料5 復職レポート(様式例) 1:JDSP受講状況について (1) 受講期間:○年○月○日~○月○日 (2) 出席状況:○年○月〇日現在、全○日中、○日出席 ※欠席〇日(理由: ) 、遅刻〇日(理由: ) 、早退〇日(理由: ) 2:体調管理について (1) 生活リズム、体調、気分の状況 (2) 集中力・作業耐性の現状 (3) 通院・服薬状況 (4) 主治医の意見(主治医の復職に関する見解、復職後の仕事上・生活上の注意事項など) 3:JDSPで学んだこと、気づきや感想 (1) JDSPでの取組み内容 ※主な活動を列挙するなど (2) 休職経緯と要因分析 ア 休職に至った経緯の客観的な振返り イ 休職に至った要因 ※「生活習慣」、「ストレス対処」、「コミュニケーション」、「仕事の取組み方・働き方」 の4つのテーマから要因を検討する。 (3) 再休職予防策と今後の働き方 ※復職後、再休職しないためにどうすればいいか、4つのテーマに沿って具体的な行動で示す。 (例) × 働き過ぎて疲労を溜めないよう気をつけます。 ○ 疲労のサインは「○○」「○○」です。これらのサインが出たら、○○をして、ストレス・ 疲労を解消します。業務面では、上司に報告して、○○するようにします。 × 自分で抱え込む傾向があるので、早めに相談します。 ○ 毎日、上司に担当業務について報告します。仕事がたまっている場合は、納期調整につい て相談します。上司が不在の際には、○○する用意をします。 4:復職にあたっての希望(必要に応じて) (1) スケジュール (2) 勤務条件(勤務時間など) (3) 配属、職務 (4) 職場環境面で配慮をお願いしたいことなど 資料6 運動プログラムのご案内 【運動プログラムの目的】 運動を含めて身体活動を増やすことは、体 力の回復や維持、生活習慣病の予防のほかに も気分転換やストレス解消などのさまざま な効果があるといわれています。 JDSPの運動プログラムへの参加を通 じて、さまざまな運動を体験し、自分にとっ て効果を感じられるものや生活に取り入れ られそうなものを探してみましょう。 【運動に関する注意事項】 ・ご自身の体調をふまえ、無理のない範囲で取り組んでください。 ・トレーニングウエア、運動靴など、運動に支障のない動きやすい服装で参加してください。 ・参加にあたっては、スタッフの指示と参加のルールを守ってください。 ・体調不良時の参加はご遠慮ください。体調の異変や強い疲労を感じた際には、すみやかに スタッフにお申し出ください。また、休憩や水分補給など、ご自身の状況に合わせた対応 に努めてください。 ・運動に支障があると判断された場合は、参加をご遠慮いただくことがあります。 【運動プログラムの紹介】 ※詳細はリストをご参照ください。 資料7 運動プログラムリスト 運動プログラムで実際に体験できるリストです。さまざまな体験をしながら、ご自身にとって心地 よいもの、効果を感じるものを探してみましょう!! 1:健康スポーツ 健康の回復や維持、体力アップを目的としています。個人の体力に応じて行うことができ、有 酸素運動で心肺持久力の向上や脂肪燃焼に効果があります。 2:ゲームスポーツ だれにでもできるチームスポーツを通じて、勝敗やプレーを楽しむことを目的としています。 集団的、対人的かかわりの中でプレーに集中できることが特徴です。 3:心身のリラックス 身体をリラックスさせることで、心の緊張をほぐします。 出典:髙橋章郎・早坂友成:『精神科作業療法運動プログラム実践ガイドブック』メジカルビュー社(2017) 資料8 運動プログラム 振返りシート 資料9 リフレッシュ体験のご案内 JDSP では、毎月第4月曜日午後に「リフレッシュ体験」を行っています。 リフレッシュ体験とは、ストレス対処につながりそうな活動を体験するプログラムです。 いろいろな活動を通じて、ご自分に合ったストレス対処方法をできるだけ多く見つけていただくこと を目的としています。 自分に合ったストレス対処方法が見つけられると、このような効果があるといわれています。 自分に合ったストレス対処法を復職後に活用することが、 健康的で安定した職業生活にもつながります。 リフレッシュ体験リスト 資料10 リフレッシュ体験ミーティング 次月のリフレッシュ体験で何を行うか、メニューを決めるミーティングです。 このミーティングは受講者・見学者の皆さんが主体となって進めていだたく ものです。 ♬ 受講者が進行役を担い、受講者・見学者を問わずその場にいる皆さん全員で意見を出し合います。 ♬ 思いつかない場合は、「リフレッシュ体験リスト」の活動内容を参考にしてみてください。 ♬ 「リフレッシュ体験リスト」に記載されているメニューについては、材料・物品の用意が あります。 ♬ やってみたいことやおススメのものがある方は、遠慮せずご提案ください。 ♬ 新しく提案するメニューについては、必要な材料や物品が、身近にあるもので準備できるものを選 んでください。 ♬ 進行役の方は、出された意見をホワイトボードに書いていきます。意見が出し尽くされたら、 多数決をとって次月行うメニューを決定します。 ♬ ミーティングの内容は記録として残すため、ホワイトボードの板書を印刷します。 (個人名は記載しないでください。) 資料11 リフレッシュ体験 振返りシート 資料12  グループディスカッションについて 1:グループディスカッションの目的 グループディスカッションは、健康管理や復職後の安定した職業生活に関連するさまざまなテー マについて、受講者同士で意見交換・情報交換を行うことを通じて、テーマに関する理解を深める ことを目的としています。 また、ディスカッションを通じて、アサーションなどの対人スキルを実践するとともに、ほかの 受講者のよい点などを学び合い、コミュニケーションに関する新たな気づきを得ることもねらいと しています。 2:グループディスカッションの流れ (1) 役割決め ・グループで司会、書記、発表者を決めます。 ※毎回同じ役割に偏ることがないよう、順番に各役割をになうようにしてください。 ●司会 :ディスカッションの進行、時間管理を担当します。なるべく、参加者全員が話しやすい ように意識して進めましょう。 ●書記 :記録用紙もしくはホワイトボードに、出た意見を記録します。(ポイントのみでOK) 発表の際には、発表者に記録用紙を渡します。(ホワイトボードの場合は不要) ●発表者:グループでどのような話し合いがなされたのか発表します。 参加していない相手にも伝わりやすいような表現を心がけましょう。 ※有意義なディスカッションができるよう、参加者全員で積極的に協力し合いながら進めましょう。 (発言者に視線を向ける、表情、相づちなどの言葉以外の態度も議論を活発にします) (2) ディスカッション ・指定された「テーマ」に従って、意見交換・情報交換を行います。 ・進め方の流れは、配布資料を参考にしてください。 (3) 発表 ・グループディスカッションの最後に、グループでどのような話し合いがなされたのか発表者に3 分程度で発表していただきます。 3:参加のルール ◼ プライバシー保護を意識し、ディスカッション中に知り得た情報を外部に漏らさないでくだ さい。 ◼ 他者が発言している間は、それを妨げることなく傾聴を心がけましょう。 ◼ 他者の発言を否定せず、「有意義な時間を一緒につくる」意識をもって発言しましょう。 ◼ 自分が話せる範囲で発言しましょう。 ◼ 意見交換を積極的に行い、他者の「解決策」なども参考にしましょう。 資料13 ◇◆ グループディスカッション記録用紙 ◆◇ 月 日 ( ) <氏名: > 1:参加者の確認・役割を決める 2:テーマ 3:そのテーマに関する「現状」について意見交換する(各自で考える時間をとった後に意見交換でも可) 4:3に対する「解決案」(現在工夫していること、プログラムで学んだこと、主治医からの助言など)を出す ※まずはなるべくたくさん案を出しましょう (各自で考える時間をとった後に意見交換でも可) 5:4をふまえて今後自分自身がどうしていきたいかについて意見交換する 6:簡単なまとめ・振り返り (目安:5~10 分) 7:発表 (1 グループ3 分) 資料14 ◇◆ グループディスカッション 振返りシート ◆◇ 年 月 日 氏名 1:今日のテーマ 2:テーマに関連して自分が今後取り組んでいきたいこと、活かしたいこと 3:ディスカッションにおけるコミュニケーションについて ※意識できたと思う場合は✓を入れましょう。 (1) リーダーシップ ★担当した役割とは関係なく、議論が進むように自分から働きかけられたか。 □ 討議の開始や話が途切れた場合等に口火を切る。 □ 必要に応じて意見をまとめる。 □ 時間管理を意識して、時間内に議論が深まるように働きかける。 (2) コミュニケーション ★発信力、傾聴力、柔軟性など □ 自分の意見を相手に簡潔にわかりやすく伝える。 (⇔反対の行動例:結論を先に述べずにダラダラと説明する。) □ 人が話している時、アイコンタクトや表情など、言葉以外のリアクションをする。 (⇔反対の行動例:話している人を無視して、資料に目を落としている。) □ 自分と違う意見であっても、よく聞いて理解しようと努める。 (⇔反対の行動例:他のメンバーに対して批判的な態度を取る。) 4:今後のディスカッションでの目標/意識して取り組みたいこと 資料15 ジョブリハーサル 日 誌 資料16 「チームのコミュニケーション」や「役割」に関する振返りシート 年 月 日 氏名 ※ 部分は帰りのミーティングで発表 1. 今日のチームのコミュニケーションはどうでしたか? 不十分 1 2 3 4 5 十分 それはどのような点でそう感じましたか。今後どうしていきたいと思いましたか。 2.リーダーやメンバーに一言(ねぎらい、よかった所、自分も取り入れたいと思った所など) (※自分自身に対しても記入) リーダー( さん)に「 」 メンバー( さん)に「 」 メンバー( さん)に「 」 メンバー( さん)に「 」 I メッセージで、アサーティブに伝える練習をしましょう! 3. 今日のジョブリハーサルの中で、チームやあなたに影響を与えたリーダーやメンバーの言動はあり ましたか? 【 ①誰の ②どのような発言や言動が ③どのような影響を与えたか ④そこから感じたこと 】 ① ② ③ ④ 4. 「役割」についての気づきや、感じたことを記入しましょう。 ★今後の目標★ (リーダーだったら) (メンバーだったら) 出典:星野欣生:「職場の人間関係づくりトレーニング」金子書房(2007)をもとに作成 障害者職業総合センター職業センター実践報告書No.37 精神障害者職場再適応支援プログラム ジョブデザイン・サポートプログラムのカリキュラムの再構成 ~ プログラムの具体的内容と支援の実際 ~ 発行日 令和3年3月 編集・発行 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター職業センター <所在地> 〒261-0014 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-3 <電話> 043-297-9043(代表) http://www.nivr.jeed.go.jp/ 印刷・製本 情報印刷株式会社